説明

レーザ加工装置

【課題】 マスクパターンを被加工物上に精度良く投影することができ、加工精度に優れるレーザ加工装置を提供すること。
【解決手段】 被加工物320表面に形成されたアライメントマークを観察するテレビカメラ351を内蔵し投影レンズ310の焦点距離を測定することができるオートフォーカスユニット340を設け、被加工物320の主走査方向の設計値に対する伸縮量Exおよび副走査方向の設計値に対する伸縮量Eyを求め、伸縮量Exに関しては投影レンズ310の結像倍率Mを補正することにより、伸縮量Eyに関しては投影レンズの結像倍率Mを考慮してマスク330または/および被加工物320の移動速度を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクパターンを透過したレーザ光を被加工物上に照射して被加工物表面を加工するレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータや薄型テレビ、携帯電話等の電子機器の高性能化・小型化に伴い、これらの機器を構成しているプリント配線板においては配線パターンの微細化と高密度化が進展している。特に、大規模な半導体チップを実装する用途で用いられるプリント配線板(以下、「パッケージ基板」という。)についてこの傾向が著しく、近年では配線パターンの最小線幅が10〜20マイクロメートル(μm)程度まで微細化してきた。パッケージ基板に関しては、今後も半導体集積回路の高密度化・高速化のトレンドに対応し、配線パターンの更なる微細化・高密度化と共に、高周波伝送線路としての信号伝送特性を考慮した機能等が要求されていくものと考えられる。
【0003】
プリント配線板の主な製造手法には、貼り合わせ工法とビルドアップ工法があり、双方の手法共広く普及している。貼り合わせ工法は、ガラス繊維入りのエポキシ樹脂を基材とした銅張積層板にフォト・リソグラフ技術によって配線パターンを形成し、この配線層と絶縁基材とを交互に重ね合わせ接着(加熱プレス)することで配線層を多層化していく工法である。貼り合わせ工法は、マザーボードや汎用用途のプリント配線板の製法として最も普及している低価格工法である。一方、ビルドアップ工法は絶縁基板上に配線層と絶縁層を交互に形成・積層して多層配線基板とするもので、貼り合わせ工法に比べて複雑な製造技術が必要となるが、層間パターンの位置合わせ(積層時の重ね合わせ)精度を向上することができ、結果的に配線パターンの微細化・高密度化を達成するのに適した工法である。
【0004】
パッケージ基板は、ウエハレベルの寸法で製造された半導体集積回路をマザーボードに実装(はんだ接続)する際に用いる中継基板であり、通常のプリント配線板よりも高い寸法精度が要求されることから、ビルドアップ工法を用いて製造されている。しかし、現状のビルドアップ工法は、フォト・リソグラフ工程を併用しためっきプロセスが主流となっており、例えば500mm×600mm程度の大面積基板に塗布したフォトレジストの全面を露光するために、高精度な露光装置を用いている。またフォト・リソグラフ工程は、レジスト塗布・露光・現像・剥離工程を繰り返す必要があり、この工程の間に様々な欠陥を作りこんでしまう場合があり、配線パターンの微細化が進展すればその欠陥発生の確率が高くなる。さらに、配線パターンの微細化に対応したレジスト露光装置は高額となり、パッケージ基板の性能向上を進めていく上で、その製造コスト低減が困難となる可能性が考えられる。
【0005】
この様な状況の中で、従来のビルドアップ工法からフォト・リソグラフ工程を削除した新たな工法(以下、「レーザパターニング法」という。)が提唱されている。
図5はレーザパターニング法の説明図である。また、図6はレーザパターニング法で製造されたパッケージ基板の配線パターンの平面図であり、A−A断面が図5(e)に対応している。以下、図5及び図6を用いてレーザパターニング法によるパッケージ基板の製造方法を説明する。
【0006】
図5(a)に示すように、層間絶縁材料であるエポキシ樹脂101と下層配線パターンである導体パターン102及び103で構成される下層配線層100の上部に、エポキシ樹脂104を塗布して硬化させた後、炭酸ガスレーザや紫外線レーザを光源に用いた汎用的なレーザビア加工装置によりビアホール105及び106を形成する。ビアホール105及び106の開口寸法は、底面で直径40μm、上部では直径50μm、深さは40μm程度である。次に、図5(b)に示すように、絶縁層(エポキシ樹脂104)表面に溝パターン108〜110を形成する。これらの溝パターンの幅は5〜20μm、深さは5〜20μmであり、エキシマレーザ等の紫外線レーザを用いたアブレーション加工によって形成される。そして、図5(c)に示すように、溝パターンが形成された基板は、表面に付着した加工残渣除去を兼ねた表面処理工程を経て、エポキシ樹脂104表面全体に無電解めっき111が施された後、図5(d)に示すように、電解めっき処理によりエポキシ樹脂104表面全体にめっき層が形成される。そして、研磨工程において不要なめっきが除去され、図5(e)に示すように、溝パターン108〜110に配線113〜115が形成される。以下、上記図5(a)〜(e)の工程を繰り返すことで、フォト・リソグラフ工程を用いずに配線層を多層化していく。
【0007】
レーザパターニング法の課題の一つとして、図5(b)に示した溝パターン加工プロセスの確立が挙げられる。すなわち、図6に示したように、プリント配線板の配線パターン113〜115にはビアホール105〜107との接続のためのランド部分が設けられる場合が多い。プリント配線板のパターン実装密度を向上させるためには、ランドの直径Dをできるだけ小径にすると共に、下層配線層あるいはビアホール105〜107との間の位置ずれが小さい配線パターン113〜115を形成する必要がある。パッケージ基板のパターン配線幅Wについても今後更なる微細化が進展していくと考えられ、レーザ溝パターン108〜110の形成時には、加工パターンの位置や寸法を高精度に管理できる手段を採用する必要がある。
【0008】
エポキシ樹脂等の高分子材料表面を精密加工するため、マスク上に形成したパターンを投影レンズで被加工物表面に結像し、開口絞りで整形したエキシマレーザ光をマスク上で走査することによって、大面積基板表面に均一且つ効率よくマスクパターンを投影加工する方法がある(特許文献1)。
【0009】
また、エキシマレーザ光を用いたリソグラフィー装置の光学系構成は、マスクと被加工物(ウエハ)とが投影レンズを介して共役関係に維持されており、特定の形状に整形されたエキシマレーザ光をマスク上に照射し、マスクと被加工物とを同時に移動させることによって、投影レンズのフィールドよりも広い領域、またはレーザ照射領域よりも広い領域に対して均一な露光を可能としているので、高精度レーザ加工光学系として応用が可能である(特許文献2、3)。
そして、上記特許文献1〜3の技術に依れば、基板表面に入射させる光エネルギ密度を一定とすることができる。
【特許文献1】特許第3285214号公報
【特許文献2】特許第2960083号公報
【特許文献3】特開平6−232030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、図5及び図6に示した製造工法においては、めっきやエポキシ樹脂の焼成等による加熱プロセスを数多く繰り返しながら配線層を積層していく。したがって、その製造工程中に被加工物が熱変形してしまい、被加工物上に形成した配線パターンの位置が変化したり、伸縮したりする。一方で、例えば50mm四方の大きさの被加工物(パッケージ基板)上におけるレーザ加工パターンの位置決め精度は、被加工物上のアライメントマーク或いは下層に設けられたアライメントマークに対して、±5μm以下にする必要がある。
【0011】
また、加工速度の向上を図るためには、できるだけ大きな出力の光エネルギを加工光学系に導入し、被加工物を高速に移動させる方法をとるが一般的である。例えば、図5(b)に示したパターン形成プロセスにおいては、平均出力が100W以上のXeClエキシマレーザが用いられる。平均出力が100W以上の光エネルギを加工光学系に導入した際には、熱影響による光学定数の変化が無視できなくなる。すなわち、大きな光出力を用いて加工を繰り返していると徐々に投影レンズの焦点距離が変化し、結果的にマスクパターンの結像倍率が変化するため、被加工物上に投影(加工)するパターンの寸法が経時変化して加工精度が低下する。
【0012】
しかし、上記特許文献1〜3には、被加工物上に形成した配線パターン位置の変化や伸縮、あるいは投影レンズの熱影響による結像倍率の変化に関して考慮されていないため、パッケージ基板の製造に適用した場合、必要なパターン寸法精度を得ることはできない。
【0013】
本発明の目的は、上記課題を解決し、マスクパターンを被加工物上に精度良く投影することができ、加工精度に優れるレーザ加工装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、固定の投影レンズを挟みマスクと被加工物とを共役関係に配置し、前記マスクと被加工物とを同時に移動させることにより前記マスクに形成されたパターンを前記被加工物に投影加工するレーザ加工装置において、前記被加工物表面に形成されたアライメントマークを観察する手段を設け、前記被加工物の主走査方向の設計値に対する伸縮量Exおよび副走査方向の設計値に対する伸縮量Eyを求め、伸縮量Exに関しては前記投影レンズの結像倍率Mを補正することにより、伸縮量Eyに関しては前記投影レンズの結像倍率Mを考慮して前記マスクまたは/および前記被加工物の移動速度を補正することを特徴とする。
【0015】
この場合、前記被加工物を保持して移動する被加工物ステージを回転させる回転ステージまたは前記マスクの保持手段を回転させる回転ステージを設け、前記被加工物と前記マスクとが回転方向にずれている場合は、前記回転ステージにより前記ずれを補正することができる。
【0016】
また、前記投影レンズの焦点距離を測定する焦点距離測定手段と、前記投影レンズ、前記マスクの移動手段、前記被加工物の移動手段のうちの2つをそれぞれ前記投影レンズの光軸方向に移動させる2つの移動手段設け、前記焦点距離が予め定める値から変化した場合は、前記2つの移動手段を動作させて前記結像倍率Mを一定に保つことができる。
【0017】
この場合、前記焦点距離測定手段を、投影レンズを利用した共焦点光学系にすることができる。
【0018】
また、投影レンズを利用して被加工物表面を観察する手段を設けることができる。
【発明の効果】
【0019】
マスクパターンを被加工物上に精度良く投影することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について説明する。
【0021】
図1は本発明に係るレーザ加工装置の構成図である。
図示を省略するXeClエキシマレーザ発振器(発振波長308nm)から出射したレーザ光束301は、アッテネータ302で所望の光強度に減衰され、コリメータ303によって平行光束となりビーム成型器304に入射する。ビーム成型器304は入射したレーザ光束301の縦横寸法比を変更し、空間強度分布がほぼ一様(±3%程度)なレーザ光束307として出射させる。なお、この実施例におけるレーザ光束307の寸法は、5mm×130mm(X方向×Y方向)である。レーザ光束307は反射鏡305で光路を偏向されてマスク330に入射する。
【0022】
マスク330は図示を省略するマスクステージに位置決め固定されており、マスクステージはX軸・Y軸・Z軸・θ軸の移動機構を備えている。なお、θ軸はXY平面内の回転軸である。マスク330の材質は石英ガラスであり、有効開口領域は125mm×125である。マスク330の裏面(レーザ光束307の入射面の反対側)には、Cr材料で形成された回路配線パターンが形成されている。マスク330を透過したレーザ光束307はダイクロイックミラー308及び309により光路を直角に偏向されて投影レンズ310に入射する。
【0023】
投影レンズ310はレーザ発振波長(308nm)と特定の可視光(例えば波長550nm前後)とで色あわせされており、焦点距離fは150mmである。マスク330のパターン面と被加工物320表面は、投影レンズ310を介して共役の関係となっており、マスク330の回路配線パターンは投影レンズ310によって5分の1に縮小されて被加工物320上に投影される。被加工物320上のレーザ照射領域311の最大寸法は、1mm×25mm(X方向×Y方向)である。
【0024】
被加工物320は被加工物ホルダ312上に真空吸着によって位置決めされている。被加工物ステージ312は、XYZステージ318とθステージ319に搭載されている。なお、θ軸はXY平面内の回転軸である。被加工物ステージ312上には、光学ガラスにアルミ等の金属膜を蒸着した10mm□の反射ミラー360が設けられている。
【0025】
図2は本発明で使用するマスク330の平面図(Crパターン面視)である。本実施例のマスク330は表裏と固定方向の取り違いを防ぐための面取り331が設けられている。マスク330の外形寸法は200mm□で、その内側に一点鎖線で示す125mm□の有効開口領域334が存在する。有効開口領域334の内側には、パッケージ基板の回路配線パターンが形成されており、有効開口領域334の外側には、マスク330の固定位置を認識するための基準マーク332及び333が配置されている。回路配線パターンと基準マーク332及び333はフォト・リソグラフプロセスによって一括で形成されたCrパターンである。
【0026】
図3は本発明に係るオートフォーカスユニットの説明図である。
半導体レーザ341から出射するレーザ光342を投影レンズ310を介して被加工物320に照射し、その表面からの反射光をハーフミラー343で反射して集光レンズ346で集光し、フォトセンサ349で受光する構成となっており、一般的な共焦点光学系の原理を使用している。そして、半導体レーザ341から出射するレーザ光342の平行度を調節することにより、集光レンズ346で集光される戻り光345の集光位置348を制御可能であり、被加工物320の表面変位に応じ、集光位置348に配置したピンホール347を通過する光量が変化するため、被加工物320の表面変位を1μm程度の精度で測定することができる。
【0027】
また、オートフォーカスユニット340は、ハーフミラー344と投影レンズ310を介して被加工物320の表面を観察するためのテレビカメラ351を内蔵している。315は被加工物320の表面を観察するための照明光源であって、本実施例ではメタルハライドランプを使用している。なお、テレビカメラ351の観察像を鮮明にするために、緑色のバンドパスフィルタ350を使用し、投影レンズ310の色収差の影響を排除している。
【0028】
次に、上記構成のレーザ加工装置の動作を説明する。
レーザ加工の開始に先立ち、先ず、マスク330を図示を省略するマスクステージに固定する。マスク330が固定されると、テレビカメラと照明光源を内蔵したマスクアライメントユニット313及び314はマスク330上の基準マーク332及び333をそれぞれ画像認識し、設計上の基準位置に対するマスク330のθ方向の回転量とXY方向の位置ずれ量をそれぞれ算出し、マスクステージのθXY軸を調節してマスク330の回転方向θ並びにXY方向の位置ずれを除去する。以上の動作でマスク330の初期位置が確定する。この時、マスク330上におけるレーザ照射位置307は、図2に点線で示すように、マスク330の有効開口領域334の外側の予め定められた位置に配置される。
【0029】
次に、被加工物ステージ312上の所定の位置に被加工物320を搭載してから、レーザ加工装置に加工開始を指示する。図示を省略する装置制御部は、プリント配線板の設計情報を管理するホストコンピュータからの情報に基づいて被加工物ホルダ312をXY方向に移動させ、投影レンズ310の中心軸(視野中央)を被加工物320の設計上のアライメントマークの中心に位置決めする。また、オートフォーカスユニット340で被加工物320の表面にフォーカスを合わせる。
【0030】
図4は被加工物320の仕様を示す図である。
被加工物320は25mm□のパッケージ基板Pの多面取り基板であり、被加工物320上には同一のパターンがm列×n行で整列している。被加工物320全体の寸法は400mm×300mm(X方向×Y方向)であり、m列×n行の整列したパターン群は2箇所に分けられて配置されている。アライメントマーク321〜328はメカニカルドリルにより被加工物320の絶縁基材(エポキシ樹脂)に貫通穴として形成されている。
【0031】
次に、XYZステージ318によりアライメントマーク321〜328を順次テレビカメラ351の視野内に移動させ、オートフォーカスユニット340でフォーカス位置(Z軸方向位置)を調節してから画像認識により、アライメントマーク321〜328の座標を装置制御部に記憶する。装置制御部は、記憶したアライメントマーク321〜328の各座標情報に基づいてXYZステージ318を駆動し、1箇所目のパターンP(1,1)が投影レンズ310の直下となるように位置決めする。そして更にパターンP(1,1)のローカルアライメントマーク335〜338(例えば回路配線パターンと共に既に被加工物320上に形成されている)を順次テレビカメラ351で観察し、各ローカルアライメントマークの重心座標(XY座標)を計測することによって、既に形成されたパターンP(1,1)のXY平面内における正確な位置及び被加工物320の熱履歴による伸縮状態を算出する。
【0032】
また、例えば、アライメントマーク335と357の相対的な位置関係からパターンP(1,1)の回転成分θe(角度)を算出することができる。ここで、回転成分θeは、XYZステージ318のY軸とアライメントマーク335と337を最短距離で結んだ直線とが成す角度のことで、θeが正の方向(時計回りの方向)に生じていることがわかれば、θステージ319を同じ角度だけ負の方向(反時計回りの方向)に回転させることにより回転成分θeをキャンセル(θe=0)する。なお、パターンP(1,1)の回転成分θeの算出方法としては、アライメントマーク336と338を用いても良いし、アライメントマーク335と336を用いても良いし、それらの算出結果の平均値としても良い。
【0033】
また、アライメントマーク335と357の相対的な位置関係からパターンP(1,1)のY軸方向の伸縮率Eyを算出することができる。ここで、伸縮率Eyは、アライメントマーク335と357を結ぶ直線距離の設計値に対する計測値の割合である。ここで、伸縮率Eyが1より大きい場合は被加工物320上のパターンP(1,1)がY軸方向に伸展しており、1より小さい場合は逆に収縮している状態になっている。なお、伸縮率Eyの算出方法としては、アライメントマーク336と338を用いても良いし、アライメントマーク335と357による算出結果を考慮し、それらの平均値としても良い。
【0034】
上記と同様にして、アライメントマーク335と356の相対的な位置関係からパターンP(1,1)のX軸方向の伸縮率Exを算出することができる。なお、X軸方向の伸縮率Exの算出には、アライメントマーク337と338を用いても良いし、アライメントマーク335と356による算出結果を考慮し、それらの平均値としても良い。
【0035】
ところで、仮にパターン伸縮率Eyが0.02%とごく僅かであっても、25mm□の加工パターンの対角に換算すると7μmの誤差となってしまうため、本発明で対象としているパッケージ基板の製法においては、致命的な寸法の誤差要因となりうる。そこで、この実施例では、パターンP(1,1)のY軸方向の伸縮率Eyが設計値と相違している場合、加工パターンの結像倍率Mを補正する。
【0036】
次に、この実施例における結像倍率Mの補正方法を説明する。
いま、物点(マスク面)から投影レンズの主点までの距離をa、像面(被加工物面)から投影レンズの主点までの距離をb、投影レンズの焦点距離をf、投影レンズの結像倍率をMとするとき、一般的な結像光学系では、下記の式1及び式2が成立する。
1/a+1/b=1/f ・・・(式1)
M=b/a ・・・(式2)
式1及び式2に、f=150mm、M=0.2倍の初期条件を当てはめると、a=900mm、b=180mmであり、レーザ加工装置が稼動している間はこの設計値(正規の光学定数)が常に維持され、一定の結像倍率でマスク330のパターンを被加工物320上に投影加工するのが理想である。
【0037】
投影レンズ310の結像倍率Mを補正するためには、式2から距離aと距離bの比率を変更すれば良いことがわかる。ただし、距離aと距離bは式1及び式2を同時に満足する必要がある。一方、レーザ加工装置を長時間稼動させると、装置の稼働率や設置環境温度の変化等の影響によって、投影レンズ310の焦点距離fが経時変化してしまう。したがって、所望の結像倍率Moを得るためには、投影レンズ310の焦点距離fを把握する必要がある。ここで、反射ミラー360を投影レンズ310の視野内に配置し、オートフォーカスユニット340を用いて反射ミラー360の表面位置を測定することにより、投影レンズ310の合焦位置の変化をXYZステージ318のZ軸変位の変化として高精度に検出することができる。
【0038】
次に、結像倍率Moの補正方法を説明する。
例えば、aが一定の条件下において、投影レンズ310の合焦位置が初期値(b=180mmに相当する位置)よりも0.144mmだけ−Z方向に移動した(b=180.144mmとなった)場合、経時変化後の焦点距離fsは式1から、150.1mmとして求めることができる。
【0039】
ここで、伸縮率Eyを仮に1.0004(0.04%の伸展)とすると、Y軸方向の所望の結像倍率Myは、1.0004×0.2(正規のパターン結像倍率)=0.20008倍として求められる。投影レンズ310の焦点距離fsが判明しているため、式1及び式2からa=900.3mm、b=180.132mmが得られる。そこで、マスク330を搭載したマスクステージのZ変位を0.3mmだけ移動し、aの距離を長くする。その後、反射ミラー360上でオートフォーカスユニット340を用いて合焦位置を検出すれば、bの距離が初期値(180mm)よりも0.132mmだけ長くなった状態で検知される。すなわち、投影レンズ310の位置を固定した状態で、マスク330と被加工物ステージ312のZ軸方向の位置を変更することにより、aとbの距離(光路長)を修正し、結像倍率Moを所望の値(0.20008倍)に調節することができる。
【0040】
以上説明したように、本発明の装置によれば、加工対象のパターンP(1,1)のθ方向(回転方向)の位置ずれ量θeとパターン結像倍率My(Y軸方向のパターン収縮率Eyに基づく)を補正した後、パターンP(1,1)をレーザ照射領域311に位置決めする。なおレーザ照射領域311でのレーザ光束の寸法は1mm×25mm(X方向×Y方向)である。
【0041】
レーザ加工開始前の全ての準備が整った時点で、XeClエキシマレーザ発振器は100Hzのパルス繰返し周波数で発振を開始する。その後マスク330と被加工物ホルダ312がそれぞれ矢印316、矢印317の方向に一定速度で移動する。ここで、レーザ発振周波数をF[Hz]、被加工物320上でのX軸方向のレーザ照射寸法をw、被加工物ホルダ312の走査速度をVs[mm/s]とすると、被加工物320表面におけるレーザパルスの重ね回数nは、式3によって決定される。
n=F×w/Vs ・・・(式3)
すなわち、例えば被加工物ホルダ312が5mm/sで移動した場合、nは20[回]となる。
【0042】
ところで、X軸方向のパターン伸縮率Exを仮に1.0002(0.02%の伸展)とすると、X軸方向の所望の結像倍率Mxは、1.0002×0.2(正規のパターン結像倍率)=0.20004倍とする必要がある。しかし、結像レンズ310の結像倍率はY軸方向のパターン収縮率Eyに基づいてMyに変更されているので、マスクステージの移動速度Vm[mm/s]を、被加工物ホルダ312の走査速度VsとX軸方向のパターン収縮率ExおよびY軸方向のパターン収縮率Eyを用いて式4によって定まる値にする。
Vm=Vs/(Ex/Ey×0.2) ・・・(式4)
上記したように、投影レンズ310の結像倍率Myを0.20008倍に設定したので、マスク330から出射するレーザ光束のX軸方向の寸法5mmは、被加工物320上で1.0004mmになる。したがって、被加工物320表面におけるレーザパルスの重ね回数nを一定(20回)とする場合、被加工物ホルダ312の走査速度Vsは式3を変形して5.002mm/sと求めることができる。
すなわち、例えば、Ex=1.0002、Ey=1.0004の条件下において、被加工物ホルダ312を5.002mm/sで走査する場合、マスクステージの走査速度Vmは、式4から25.015mm/sと求めることができる。
【0043】
この実施例の場合、被加工物320表面におけるレーザ照射エネルギ密度は、1パルス当たり約1J/cmであり、パルス重ね回数nを20回して加工を行うと、エポキシ樹脂の加工深さは15μmとなり、マスク330パターンを均一な深さで被加工物320表面に転写(投影加工)することができる。
【0044】
ここで、結像倍率を変更することによるレーザ照射エネルギ密度について説明を補足する。
投影レンズ310の結増倍率Myを0.20008倍にした場合、被加工物320上におけるレーザ照射エネルギ密度は1/Eyとなる。そして、Ey=1.0004とすると、上記1J/cmは、0.9992J/cmとなり、ほぼ同一と見なすことができる。
なお、必要に応じてエキシマレーザ発振器からのレーザ出力を増減させて、被加工物320上におけるレーザ照射エネルギ密度を調節してもよい。
【0045】
被加工物320上のパターンP(1,1)に対する加工が終了すると、マスク330は加工前の初期位置に戻り、マスクアライメントユニット313及び314によってその位置が確認され、位置ずれが生じている場合は図示しないマスクステージによってマスク330の初期位置を調節し直す。また、被加工物320上の次の加工対象パターンP(1,2)に対してθ方向(回転方向)の位置ずれ量を検出し、以降上述した手順で加工を繰り返していく。
【0046】
なお、θ方向の位置ずれの補正は、必要に応じて任意に定めた単位の個数のパターン群毎に行っても良い。
【0047】
また、投影レンズ310の焦点距離の測定についても、加工パターン毎に測定し直すことに代えて、例えば被加工物320単位、あるいは1時間に1回程度の頻度で行うようにしても良い。このようにすると、レーザ加工装置の加工スループットの向上を図ることができる。
【0048】
以上説明したように、本発明によれば、加工対象のパターン毎に、あるいはパターン群毎にパターンの位置ずれ量と、X軸方向(レーザ照射の主走査方向)の伸縮量Exと、Y軸方向(レーザ照射の副走査方向)の伸縮量Eyを検出し、XYZステージ318の位置と投影レンズ310の結増倍率及びマスク330と被加工物ステージ312の相対的な走査速度を補正し加工を行うので、高性能なパッケージ基板を製造することができる。
【0049】
なお、上記の実施例では、θステージ319を回転させることによって加工対象パターンの回転方向の位置ずれを補正したが、マスク330を保持するマスクステージのθ軸によって補正することもできる。
【0050】
また、投影レンズ310の結像倍率を補正するために、マスク330と被加工物ステージ312のZ軸方向の位置を調節したが、被加工物ステージ312の位置を固定してマスク330と投影レンズ310のZ軸方向の位置を調節しても良いし、マスク330の位置を固定して投影レンズ310と被加工物ステージ312のZ軸方向位置を調節する方法でも良い。いずれの方法においても、マスク330、投影レンズ310、被加工物ステージ312の内、少なくとも2つのZ軸方向の位置を調節することによって、投影レンズ310の結像倍率を修正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係るレーザ加工装置の構成図である。
【図2】本発明で使用するマスクの平面図(Crパターン面視)である。
【図3】本発明に係るオートフォーカスユニットの説明図である。
【図4】被加工物の仕様を示す図である。
【図5】レーザパターニング法の説明図である。
【図6】レーザパターニング法で製造されたパッケージ基板の配線パターンの平面図である。
【符号の説明】
【0052】
310 投影レンズ
320 被加工物
330 マスク
340 オートフォーカスユニット
351 テレビカメラ
Ex 伸縮量(主走査方向の伸縮量)
Ey 伸縮量(副走査方向の伸縮量)
M 投影レンズ310の結像倍率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定の投影レンズを挟みマスクと被加工物とを共役関係に配置し、前記マスクと被加工物とを同時に移動させることにより前記マスクに形成されたパターンを前記被加工物に投影加工するレーザ加工装置において、
前記被加工物表面に形成されたアライメントマークを観察する手段を設け、
前記被加工物の主走査方向の設計値に対する伸縮量Exおよび副走査方向の設計値に対する伸縮量Eyを求め、
伸縮量Exに関しては前記投影レンズの結像倍率Mを補正することにより、
伸縮量Eyに関しては前記投影レンズの結像倍率Mを考慮して前記マスクまたは/および前記被加工物の移動速度を補正する
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記被加工物を保持して移動する被加工物ステージを回転させる回転ステージまたは前記マスクの保持手段を回転させる回転ステージを設け、前記被加工物と前記マスクとが回転方向にずれている場合は、前記回転ステージにより前記ずれを補正する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記投影レンズの焦点距離を測定する焦点距離測定手段と、
前記投影レンズ、前記マスクの移動手段、前記被加工物の移動手段のうちの2つをそれぞれ前記投影レンズの光軸方向に移動させる2つの移動手段設け、
前記焦点距離が予め定める値から変化した場合は、
前記2つの移動手段を動作させて前記結像倍率Mを一定に保つ
ことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記焦点距離測定手段は、投影レンズを利用した共焦点光学系である
ことを特徴とする請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
投影レンズを利用して被加工物表面を観察する手段を備えた
ことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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