説明

レーザ加工装置

【課題】液柱内を導光されたレーザビームの照射によって発生するデブリが被加工物上に付着することを防止可能なレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】被加工物にカバー液を供給して被加工物の上面を該カバー液で覆うカバー液供給手段を具備し、加工ヘッドは、レーザビーム発生手段から発生されたレーザビームを集光する集光レンズと、被加工物に液体を噴射して、該集光レンズで集光されたレーザビームが導光される液柱を形成する液体噴射手段と、該レーザビームが照射される被加工物の加工点への該カバー液の流入を制御するために該液柱を包囲するように配設された外壁と、該液柱と該外壁との間に配設された吸引口と、該吸引口に接続された吸引源とを含む吸引手段とを備え、該カバー液で覆われた被加工物に該レーザビームを照射することで発生する加工屑を、該カバー液とともに該吸引手段で吸引して被加工物上から吸引除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハ等の被加工物にレーザビームを照射するレーザビーム照射手段を備えたレーザ加工装置に関し、特に、液体噴射手段から噴射されて形成された液柱に導光されたレーザビームによってレーザ加工を施すレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスにおいては、略円板形状である半導体ウエーハの表面に格子状に形成されたストリートと呼ばれる分割予定ラインによって複数の領域が区画され、この区画された領域にIC、LSI等のデバイスを形成する。そして、半導体ウエーハをストリートに沿ってダイシングすることにより、個々の半導体デバイスを製造している。
【0003】
近年半導体ウエーハ等の板状の被加工物を分割する方法として、被加工物に形成されたストリートに沿ってパルスレーザビームを照射することにより被加工物にレーザ加工溝を形成し、このレーザ加工溝に沿って機械的ブレーキング装置によって被加工物を割断する方法が提案されている(例えば、特開平10−305421号公報参照)。
【0004】
レーザ加工装置を用いて半導体ウエーハのストリートに沿ってパルスレーザビームを照射することによりウエーハにレーザ加工溝を形成すると、ウエーハへのレーザビームの照射によりデブリが発生し、このデブリがデバイスの表面に付着してデバイスの品質を低下させるという問題がある。
【0005】
ところが、半導体ウエーハにレーザビームを照射するとデバイスが加熱されるため、デバイスの品質を低下させるという問題がある。そこで、レーザビームを照射することにより被加工物が加熱されることを防ぐレーザ加工方法として、被加工物に高圧の液体を噴射して液柱を形成するとともに、この液柱内を透過(導光)させたレーザビームを被加工物に照射して、所望の加工を施すレーザ加工装置が提案されている(例えば、特公平2−1621号公報、特開2001―321977号公報、特開2006−255769号公報参照)。
【0006】
これらのレーザ加工装置では、集光されたレーザビームを糸状の液柱を介して被加工物まで導くので、集光レンズの焦点位置に関係なくレーザ加工をすることができる。更に、レーザ加工時に発生する熱が液体で冷却されるため、熱による被加工物の品質低下を防止できるというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−305421号公報
【特許文献2】特公平2−1621号公報
【特許文献3】特開2001―321977号公報
【特許文献4】特開2006−255769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、被加工物にレーザビームを照射すると、照射された領域に熱エネルギーが集中してデブリと呼ばれる加工屑が発生する。発生したデブリの一部は液柱を形成した液体に取り込まれるが液体に取り込まれなかったデブリは被加工物上に固着する。また、デブリを含んだ液体が被加工物上に滞留した後、乾燥することでデブリは被加工物に固着し、加工後に被加工物を洗浄してもデブリを除去できないという問題がある。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、液柱内を導光されたレーザビームの照射によって発生するデブリが被加工物上に付着することを防止可能なレーザ加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、被加工物を保持する保持手段と、該保持手段で保持された被加工物にレーザビームを照射するレーザビーム照射手段とを備えたレーザ加工装置であって、被加工物にカバー液を供給して被加工物の上面を該カバー液で覆うカバー液供給手段を具備し、該レーザビーム照射手段は、レーザビーム発生手段と、加工ヘッドとを含み、該加工ヘッドは、該レーザビーム発生手段から発生されたレーザビームを集光する集光レンズと、被加工物に液体を噴射して、該集光レンズで集光されたレーザビームが導光される液柱を形成する液体噴射手段と、該レーザビームが照射される被加工物の加工点への該カバー液の流入を制御するために該液柱を包囲するように配設された外壁と、該液柱と該外壁との間に配設された吸引口と、該吸引口に接続された吸引源とを含む吸引手段とを備え、該カバー液で覆われた被加工物に該レーザビームを照射することで発生する加工屑を、該カバー液とともに該吸引手段で吸引して被加工物上から吸引除去することを特徴とするレーザ加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のレーザ加工装置によると、液柱及びレーザビームが被加工物に衝突する加工点に隣接して吸引手段の吸引口が形成されているため、レーザビームの照射によって発生したデブリは即座に吸引除去される。
【0012】
更に、本発明のレーザ加工装置はカバー液供給手段を備えているため、加工中の被加工物上面をカバー液で覆うことができる。従って、吸引手段によって発生とともに除去されなかったデブリをカバー液で捉えて、カバー液とともに吸引手段で被加工物上から排出することができる。よって、被加工物にデブリが付着することが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成図である。
【図2】加工ヘッド部分の縦断面図である。
【図3】レーザビーム発生ユニットのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明実施形態に係るレーザ加工装置2の概略構成図を示している。レーザ加工装置2の前面側には、オペレータが加工条件等の装置に対する指示を入力するための操作手段4が設けられている。装置上部には、オペレータに対する案内画面や後述する撮像手段によって撮像された画像が表示されるCRT等の表示手段6が設けられている。
【0015】
被加工物であるウエーハ11は粘着シートであるダイシングテープTに貼着され、ダイシングテープTの外周縁部は環状フレームFに貼着されている。これにより、ウエーハ11はダイシングテープTを介してフレームFに支持された状態となり、図1に示したウエーハカセット8中にウエーハが複数枚(例えば25枚)収容される。ウエーハカセット8は上下動可能なカセットエレベータ9上に載置される。
【0016】
ウエーハカセット8の後方には、ウエーハカセット8から加工前のウエーハ11を搬出するとともに、加工後のウエーハをウエーハカセット8に搬入する搬出入手段10が配設されている。ウエーハカセット8と搬出入手段10との間には、搬出入対象のウエーハが一時的に載置される領域である仮置き領域12が設けられており、仮置き領域12には、ウエーハ11を一定の位置に位置合わせする位置合わせ手段14が配設されている。
【0017】
仮置き領域12の近傍には、ウエーハ11と一体となったフレームFを吸着して搬送する旋回アームを有する搬送手段16が配設されており、仮置き領域12に搬出されたウエーハ11は、搬送手段16により吸着されてチャックテーブル18上に搬送され、このチャックテーブル18に吸引されるとともに、複数のクランプ19によりフレームFが固定されることでチャックテーブル18上に保持される。
【0018】
チャックテーブル18は、回転可能且つX軸方向に往復動可能に構成されており、チャックテーブル18のX軸方向の移動経路の上方には、ウエーハ11のレーザ加工すべきストリートを検出するアライメント手段20が配設されている。
【0019】
アライメント手段20は、ウエーハ11の表面を撮像する撮像手段22を備えており、撮像により取得した画像に基づき、パターンマッチング等の処理によってレーザ加工すべきストリートを検出することができる。撮像手段22によって取得された画像は、表示手段6に表示される。
【0020】
アライメント手段20の左側には、チャックテーブル18に保持されたウエーハ11に対してレーザビームを照射するレーザビーム照射手段24が配設されている。レーザビーム照射手段24は、ケーシング26中に収容された図3に示すレーザビーム発生ユニット25と、加工ヘッド28とから構成される。
【0021】
レーザビーム照射手段24はアライメント手段20と一体的に構成されており、両者が連動してY軸方向及びZ軸方向に移動する。ケーシング26にはカバー液供給源34に接続されたカバー液供給手段32が配設されている。
【0022】
32はレーザ加工の終了したウエーハ11をスピンナ洗浄装置30まで搬送する搬送手段であり、スピンナ洗浄装置30では、加工後のウエーハ11を洗浄するとともにエアノズルからエアを噴出させてウエーハ11を乾燥する。
【0023】
図2を参照すると、加工ヘッド28の縦断面図が示されている。上述したように、レーザ加工装置のレーザビーム照射手段24は、レーザビーム発生ユニット25と、加工ヘッド28とから構成される。
【0024】
レーザビーム発生ユニット25は、図3に示すように、YAGレーザ又はYVO4レーザを発振するレーザ発振器36と、繰り返し周波数設定手段38と、パルス幅調整手段40と、パワー調整手段42とを含んでいる。
【0025】
レーザビーム発生ユニット25のパワー調整手段42により所定パワーに調整されたパルスレーザビーム27は、加工ヘッド28のハウジング44に形成されたビーム導入口46から加工ヘッド28内に導入される。
【0026】
ハウジング44内には、レーザビーム27を反射するミラー48と、レーザビーム27を集光する集光レンズ50が配設されている。ハウジング44と一体的に液体噴射手段52の液体室56を画成する液体室ハウジング58が形成されている。液体室ハウジング58は、円筒状側壁60と、該側壁60の上面及び下面をそれぞれ閉塞する上壁62及び下壁64とから構成されている。
【0027】
液体室ハウジング58を構成する上壁62には透明窓68が配設されている。液体室ハウジング56を構成する下壁64の中心部には、噴射ノズル70が形成されている。尚、噴射ノズル70の下端である噴射口70aに、集光レンズ50によって集光されるレーザビーム27の集光点が位置づけられる。
【0028】
円筒状側壁60には液体室56に連通する液体導入口66が形成されており、液体導入口66は高圧液供給源54に接続されている。高圧液供給源54から純水等の高圧液体が液体導入口66を介して液体室56内に供給されると、この高圧液体は噴射ノズル70の噴射口70aから噴射されて液柱72を形成する。
【0029】
液体室ハウジング58の下端部には、環状の吸引口80及び吸引路82を画成する吸引ブロック74が装着されている。吸引ブロック74の中心部には貫通穴75が形成されており、この貫通穴75中にパイプ76が圧入されている。パイプ76と噴射ノズル70は整列しており、噴射ノズル70から噴射されて形成された液柱72がパイプ76を通過するように位置づけられている。
【0030】
吸引ブロック74の下端部外周には環状の外壁78が形成されている。吸引口80はウエーハ11の加工点11aに衝突する液柱72を囲繞するように環状に形成されており、環状の吸引路82及び排出口84を介して吸引源86に接続されている。吸引口80、吸引路82及び吸引源86で吸引手段を構成する。
【0031】
加工ヘッド28に隣接して、図1に示すカバー液供給源34に接続されたカバー液供給手段32が配設されている。カバー液としては例えば純水が使用される。カバー液供給手段32から供給されたカバー液33はウエーハ11の上面を覆うが、加工ヘッド28の下端部にウエーハ11の上面と僅かな隙間を有する環状の外壁78が取り付けられているので、加工点11aへのカバー液の流入を環状の外壁78で適度な量に、即ち加工点11a近傍が微量のカバー液で僅かに覆われる程度に制御することができる。
【0032】
以下、このように構成されたレーザ加工装置の作用について説明する。レーザビーム発生ユニット25のパワー調整手段42で所定パワーに調整されたレーザビーム27は、加工ヘッド28のビーム導入口46から加工ヘッド28内に導入され、ミラー48で反射されて集光レンズ50で液体噴射手段52の液体室ハウジング58に形成された噴射ノズル70の噴射口70aに集光される。
【0033】
一方、高圧液供給源54から供給された純水等の高圧液体が、液体噴射手段52の液体室ハウジング58に形成された液体導入口66から液体室56内に導入され、液体室ハウジング58の下壁64に形成された噴射ノズル70から噴射されて液柱72を形成し、液柱72がレーザビーム27を導光する。
【0034】
この液柱72は、吸引ブロック74の貫通穴75に圧入されたパイプ76内を通過してウエーハ11の加工点11aに衝突して飛散する。集光レンズ50で集光されたレーザビーム27はパイプ76内を通過する液柱72に導光(案内)されて、そのビーム径が広がらずに加工点11aに照射されてウエーハ11にレーザ加工溝を形成する。
【0035】
レーザ加工に伴いデブリ(加工屑)が発生するが、発生したデブリの一部は液柱を形成し、加工点11aに衝突して飛散した液体に取り込まれ、吸引源86を作動することにより、吸引口80からすぐさま吸引されてウエーハ11上面から除去される。
【0036】
また、液体に取り込まれなかった残りのデブリは加工点11a近傍に微量に供給されたカバー液中に取り込まれ、デブリを含んだカバー液は加工点11a周りに環状に形成された吸引口80から吸引されて、吸引路82及び排出口84を介して吸引源86に吸引され、ウエーハ11の上面から除去される。
【実施例1】
【0037】
ウエーハ11としてシリコンウエーハを用い、以下の加工条件で実験を行った。
【0038】
光源 :LD励起Qスイッチ Nd:YVO4レーザ
波長 :532nm
平均出力 :6.6W
繰り返し周波数 :40kHz
ノズル直径 :φ50μm
液圧 :20MPa
パイプ出口とウエーハとの距離 :0.4mm
パイプ内径 :0.5mm
吸引流量 :25L/分
【0039】
カバー液供給手段32からカバー液を供給しながら、上記の加工条件で加工を行ったところ、レーザ加工溝の深さや幅、深さの安定性はカバー液を供給しない構成と同様な良好なレーザ加工を行うことができた。
【0040】
カバー液を供給し環状の外壁78でカバー液の加工点11aへの流入を制御する構成では、デブリを含むカバー液は吸引手段により吸引除去されるので、ウエーハ11上にデブリを含むカバー液が広がることがなく、ウエーハ11の汚れを最小に保つことができる。
【0041】
また、ウエーハ11はカバー液33で覆われているので乾くことがなく、僅かに残ったデブリもウエーハ11に固着することがないので、スピンナ洗浄装置30で効率良く洗い流すことができた。
【符号の説明】
【0042】
2 レーザ加工装置
11 半導体ウエーハ
18 チャックテーブル
24 レーザビーム照射手段
25 レーザビーム発生ユニット
28 加工ヘッド
32 カバー液供給手段
52 液体噴射手段
54 高圧液供給源
70 噴射ノズル
72 液柱
74 吸引ブロック
76 パイプ
78 環状の外壁
80 吸引口
86 吸引源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持手段と、該保持手段で保持された被加工物にレーザビームを照射するレーザビーム照射手段とを備えたレーザ加工装置であって、
被加工物にカバー液を供給して被加工物の上面を該カバー液で覆うカバー液供給手段を具備し、
該レーザビーム照射手段は、レーザビーム発生手段と、加工ヘッドとを含み、
該加工ヘッドは、該レーザビーム発生手段から発生されたレーザビームを集光する集光レンズと、
被加工物に液体を噴射して、該集光レンズで集光されたレーザビームが導光される液柱を形成する液体噴射手段と、
該レーザビームが照射される被加工物の加工点への該カバー液の流入を制御するために該液柱を包囲するように配設された外壁と、
該液柱と該外壁との間に配設された吸引口と、該吸引口に接続された吸引源とを含む吸引手段とを備え、
該カバー液で覆われた被加工物に該レーザビームを照射することで発生する加工屑を、該カバー液とともに該吸引手段で吸引して被加工物上から吸引除去することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記吸引口は、前記液柱を囲繞するように環状に配設されている請求項1記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−125871(P2011−125871A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283982(P2009−283982)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】