説明

レーザ溶接方法及びレーザ溶接装置

【課題】低沸点金属めっきが施された金属板を含む複数の金属板を高品質を保ちながら効率よくレーザ溶接する。
【解決手段】母材の融点よりも低い沸点を有する亜鉛(低沸点金属)のめっきが施された上側鋼板W1及び下側鋼板W2を重ね、これら上側鋼板W1及び下側鋼板W2の重ね合わせ部Oにレーザ光を照射して上側鋼板W1及び下側鋼板W2を溶接する。前進工程において、亜鉛めっき(低沸点金属めっき)のみが蒸発する低密度エネルギーのレーザ光LA1を照射しながら進み、後退工程において、前進工程における前進距離よりも短い距離だけ後退しながら上側鋼板W1及び下側鋼板W2を溶融接合する高密度エネルギーのレーザ光LA2を照射する。前進工程と後退工程とを繰り返し、レーザ光を溶接進行方向に対して前後に往復振動させながら溶接進行方向に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の重ね合わせ部にレーザ光を照射して複数の金属板を溶接するレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置に関し、特にその溶接品質の安定した良好な溶接を効率よく行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接は、高密度の熱源を鋼板に照射して溶融させる溶接法である。従来より車体接合に多用されているスポット溶接と比較すると、レーザ溶接は非接触溶接であるため、ワークを保持するワーク治具との干渉を回避する干渉回避時間がなく、高能率な生産ラインが構築できる可能性がある。
【0003】
しかし、レーザ溶接によって、亜鉛めっき鋼板の重ね合わせ部を溶接するときに、鋼板間の隙間がないと、亜鉛の沸点(930℃)が母材の鋼板の融点(1535℃)に比べて低く、鋼板溶融直前又は溶融中に鋼板の間で亜鉛が蒸気となり、溶融部に取り残されて気泡(ブローホールやピット)となり、溶接強度の低下を引き起こす要因となる。このため、溶接前の鋼板にレーザ溶接やプレス加工によって前加工を施して適度な隙間を形成し、レーザ溶接を行っている。このような溶接方法では、前加工の工程が必要となり、生産性が悪い。
【0004】
一方、鋼板間の隙間が大きい場合も、溶け落ちが発生して鋼板同士が十分に接合されず、溶接強度が低下する。このため安定して良好な連続ビードを得ることが困難となっている。
【0005】
そこで、スキャナ加工ヘッドの光学的集光手段により、レーザ発振器から導入したレーザ光を、エネルギー密度の低い第1の集光レーザと、エネルギー密度の高い第2の集光レーザとに分離し、第1の集光レーザにより亜鉛めっきを蒸発離散させ、第2の集光レーザにより鋼板の溶接接合を実施するものが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平4−231190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のレーザ溶接装置では、2種類の集光レーザを生成するために、種々のスキャナ加工ヘッドの光学処理機構の例が開示されているが、いずれも構成が複雑である上、亜鉛めっき鋼板を溶接するために設計された設備となっているため、通常の一種類のレーザ光のみを照射することができず、めっきの施されていない鋼板の溶接を行う際には、レーザ溶接の高効率なメリットを低減してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低沸点金属めっきが施された金属板を含む複数の金属板を高品質を保ちながら効率よくレーザ溶接することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、低密度エネルギーのレーザ光を照射する前進工程と、高密度エネルギーのレーザ光を照射する後退工程とを交互に行いながら溶接するようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明では、母材の融点よりも低い沸点を有する低沸点金属のめっきが施された金属板を含む複数の金属板を重ね、該金属板の重ね合わせ部にレーザ光を照射して複数の金属板を溶接するレーザ溶接方法を前提とする。
【0010】
そして、上記レーザ溶接方法は、
上記低沸点金属めっきのみが蒸発する低密度エネルギーのレーザ光を照射しながら進む前進工程と、
上記前進工程の後、該前進工程における前進距離よりも短い距離だけ後退しながら上記金属板を溶融接合する高密度エネルギーのレーザ光を照射する後退工程とを備え、
上記前進工程と上記後退工程とを繰り返し、レーザ光を溶接進行方向に対して前後に往復振動させながら溶接進行方向に移動する構成とする。
【0011】
上記の構成によると、前進工程において、低密度エネルギーのレーザ光を金属板の重ね合わせ部に照射し、金属板を溶かすことなく低沸点金属めっきを蒸発、離散させ、後退工程において、前進工程で進んだ距離よりも短い範囲で高密度エネルギーのレーザ光を照射しながら金属板を溶かす。次いで、前進工程で再び低密度エネルギーのレーザ光を照射することで、溶融部を再加熱して溶融部の凝固を遅延させるので、気泡が確実に除去される。また、低沸点金属めっきを含まない金属板を溶接する場合には、高密度エネルギーのレーザ光のみを照射してレーザ溶接を行えばよいので、効率が低下することはない。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において、
上記レーザ光のエネルギー密度の強弱調整は、レーザ発振器の出力制御によって行うものとする。
【0013】
上記の構成によると、レーザ発振器が、前進工程においては低密度エネルギーのレーザ光を発振し、後進工程においては高密度エネルギーのレーザ光を発振することで、被加工部の温度調節を調節して、亜鉛めっきのみを蒸発させたり、金属板を溶融させたりすることが可能となる。焦点距離は変える必要はないので、低沸点金属めっきを離散させる領域は最小限に保たれる。
【0014】
第3の発明では、第1の発明において、
上記レーザ光のエネルギー密度の強弱調整は、レーザ光の焦点制御によって行うものとする。
【0015】
上記の構成によると、スキャナ加工ヘッドの内部のミラーやレンズ等によってレーザ光の焦点を制御することにより、前進工程においては、低密度エネルギーのレーザ光が被加工部に照射され、後進工程においては、高密度エネルギーのレーザ光が被加工部に照射されるので、被加工部の温度調節を調節して、亜鉛めっきのみを蒸発させたり、金属板を溶融させたりすることが可能となる。前進工程では、焦点がずれることにより、加熱される範囲が広がり、広範囲において低沸点金属のめっきが蒸発し離散する。
【0016】
第4の発明では、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、
上記低沸点金属めっきが施された金属板は、亜鉛めっきを施した鋼板とする。
【0017】
上記の構成によると、防錆効果の高い亜鉛めっき鋼板を含む金属板が品質よく溶接される。
【0018】
第5の発明では、母材の融点よりも低い沸点を有する低沸点金属のめっきが施された金属板を含む複数の金属板の重ね合わせ部にレーザ光を照射して溶接するレーザ溶接装置を前提とする。
【0019】
そして、上記レーザ溶接装置は、
レーザ光を発振させるレーザ発振器と、
上記レーザ発振器から伝送されたレーザ光を焦点を調整しながら、上記重ね合わせ部に照射させるスキャナ加工ヘッドと、
上記レーザ発振器及びスキャナ加工ヘッドを制御して、上記レーザ光の前進時には、上記低沸点金属めっきのみが蒸発する低密度エネルギーのレーザ光を照射し、レーザ光の後退時には、前進時における前進距離よりも短い距離だけ後退しながら上記金属板を溶融接合する高密度エネルギーのレーザ光を照射し、溶接進行方向に対して前後に往復振動させながら溶接進行方向に移動させる制御手段とを備えている。
【0020】
上記の構成によると、制御手段により、レーザ発振器がレーザ光の出力調整を行い、その出力調整されたレーザ光がスキャナ加工ヘッドに伝送され、焦点を調整しながら重ね合わせ部に照射される。このとき、スキャナ加工ヘッドから低密度エネルギーのレーザ光を金属板の重ね合わせ部に照射しながら前進させ、金属板を溶かすことなく低沸点金属めっきを蒸発、離散させ、その後、レーザ光を前進させた距離よりも短い距離後退させながら高密度エネルギーのレーザ光を照射しながら金属板を溶かす。次いで、再び低密度エネルギーのレーザ光を照射しながら前進することで、溶融部を再加熱して溶融部の凝固を遅延させ、気泡が確実に除去される。また、低沸点金属めっきを含まない金属板を溶接する場合には、高密度エネルギーのレーザ光のみを照射してレーザ溶接を行えばよく、効率が低下することはない。
【0021】
第6の発明では、第5の発明において、
上記制御手段によるレーザ発振器の出力制御によって上記レーザ光のエネルギー密度の強弱調整が行われるように構成されている。
【0022】
上記の構成によると、制御手段がレーザ発振器を制御し、前進時に低密度エネルギーのレーザ光を発振し、後進時に高密度エネルギーのレーザ光を発振することで、被加工部の温度調節を調節して、亜鉛めっきのみを蒸発させたり、金属板を溶融させたりすることが可能となる。焦点距離は変える必要はないので、低沸点金属めっきを離散させる領域は最小限に保たれる。
【0023】
第7の発明では、第5の発明において、
上記制御手段によるスキャナ加工ヘッドの焦点制御によって上記レーザ光のエネルギー密度の強弱調整が行われるように構成されている。
【0024】
上記の構成によると、制御手段がスキャナ加工ヘッドを制御してレーザ光の焦点を調整することにより、前進時に低密度エネルギーのレーザ光を被加工部に照射し、後進時に高密度エネルギーのレーザ光を被加工部に照射することにより、被加工部の温度調節を調節して、亜鉛めっきのみを蒸発させたり、金属板を溶融させたりすることが可能となる。前進工程では、焦点がずれることにより、加熱される範囲が広がり、広範囲において低沸点金属のめっきが蒸発し離散する。
【0025】
第8の発明では、第5乃至第7のいずれか1つの発明において、
上記低沸点金属めっきが施された金属板は、亜鉛めっきを施した鋼板とする。
【0026】
上記の構成によると、防錆効果の高い亜鉛めっき鋼板を含む金属板が品質よく溶接される。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、上記第1の発明によれば、前進工程において低密度エネルギーのレーザ光を金属板の重ね合わせ部に照射して低沸点金属めっきを蒸発させ、後退工程において高密度エネルギーのレーザ光を照射しながら金属板を溶かし、再び低密度エネルギーのレーザ光を照射して溶融部を再加熱して溶融部の凝固を遅延させ、気泡を確実に除去するようにしたことにより、低沸点金属めっきが施された金属板を含む複数の金属板を高品質を保ちながら効率よくレーザ溶接することができる。
【0028】
上記第2の発明によれば、レーザ発振器の出力制御によってレーザ光のエネルギー密度の強弱調整を行って前進時に亜鉛めっきのみを蒸発させ、後退時に金属板を溶融させるようにしたことにより、必要以上に溶接範囲を広げて防錆効果を低減させることなく、低沸点金属めっきが施された金属板を含む複数の金属板を高品質を保ちながら効率よくレーザ溶接することができる。
【0029】
上記第3の発明によれば、レーザ光の焦点制御によってレーザ光のエネルギー密度の強弱調整を行って前進時に亜鉛めっきのみを蒸発させ、後退時に金属板を溶融させるようにしたことにより、広範囲の低沸点金属のめっきを蒸発させて確実に溶接不良を防いで、低沸点金属めっきが施された金属板を含む複数の金属板を高品質を保ちながら効率よくレーザ溶接することができる。
【0030】
上記第4の発明によれば、亜鉛めっきを施した鋼板を含む複数の金属板をレーザ溶接するようにしたことにより、品質よく溶接された防錆効果の高い亜鉛めっき鋼板を含む金属板の製品が得られる。
【0031】
上記第5の発明によれば、スキャナ加工ヘッドによって低密度エネルギーのレーザ光を金属板の重ね合わせ部に照射しながら前進させて低沸点金属めっきのみを蒸発させた後、レーザ光を後退させながら高密度エネルギーのレーザ光を照射しながら金属板を溶かし、再び低密度エネルギーのレーザ光を照射しながら前進させて溶融部を再加熱して溶融部の凝固を遅延させ、気泡が確実に除去されるようにしたことにより、低沸点金属めっきが施された金属板を含む複数の金属板を高品質を保ちながら効率よくレーザ溶接することができる。
【0032】
上記第6の発明によれば、レーザ発振器の出力制御によってレーザ光のエネルギー密度の強弱調整を行って前進時に亜鉛めっきのみを蒸発させ、後退時に金属板を溶融させるようにしたことにより、必要以上に溶接範囲を広げて防錆効果を低減させることなく、低沸点金属めっきが施された金属板を含む複数の金属板を高品質を保ちながら効率よくレーザ溶接することができる。
【0033】
上記第7の発明によれば、レーザ光の焦点制御によってレーザ光のエネルギー密度の強弱調整を行って前進時に亜鉛めっきのみを蒸発させ、後退時に金属板を溶融させるようにしたことにより、広範囲の低沸点金属のめっきを蒸発させて確実に溶接不良を防いで、低沸点金属めっきが施された金属板を含む複数の金属板を高品質を保ちながら効率よくレーザ溶接することができる。
【0034】
上記第8の発明によれば、亜鉛めっきを施した鋼板を含む複数の金属板をレーザ溶接するようにしたことにより、品質よく溶接された防錆効果の高い亜鉛めっき鋼板を含む金属板の製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0036】
図2は本発明の実施形態のレーザ溶接装置1を示し、このレーザ溶接装置1は、レーザ発振器2と、スキャナ加工ヘッド3と、これらを制御する制御手段としてのコントローラ4とを備えている。
【0037】
レーザ発振器2は、コントローラ4が指示した強度のレーザ光を発振させ、このレーザ光が伝送ファイバ6を通してスキャナ加工ヘッド3に伝送される。このとき、スキャナ加工ヘッド3にはレーザ発振器2及び伝送ファイバ6に依存した広がり角を持ったレーザ光が伝送される。
【0038】
図1に示すように、スキャナ加工ヘッド3は、レーザ発振器2から伝送されたレーザ光をコントローラ4の指示により、焦点を調整しながら、被加工部Rに照射させる。スキャナ加工ヘッド3のケーシング7内には、可動式のコリメートレンズ8、固定ミラー9、可動ミラー10、集光レンズ11及びカバースライド12が配設されている。コリメートレンズ8は、集光レンズ11によりレーザ光を集光させるためにレーザ光を平行光にするレンズであり、図示しないアクチュエータにより、ケーシング7内を上下方向(Z軸方向)に移動可能となっている。可動ミラー10は、X軸モータ13及びY軸モータ14によって、X軸及びY軸回りに傾動可能に設けられている。X軸モータ13及びY軸モータ14は、サーボモータ等で構成すればよい。このような構成により、コリメートレンズ8に伝送されたレーザ光は、固定ミラー9によって反射され、X軸モータ13及びY軸モータ14によって傾動された可動ミラー10に反射され、集光レンズ11で集光されることにより、レーザ光LAが高速で移動しながら被加工部Rに照射される。図3に模式的に示すように、集光レンズ11からレーザ光が最も集光する位置までの距離であるZ軸方向の焦点距離FLは、コリメートレンズ8及び集光レンズ11によって調整される。その最も外径の小さいレーザスポット径Dが最も高密度エネルギーの部分となり、そこから離れるにつれてレーザ光の密度は低くなる。スキャナ加工ヘッド3は、必要に応じ図示しないロボットアームに取り付けて使用することが可能である。
【0039】
本実施形態では、例えば、図4に示すように、鋼板等の母材の融点よりも低い沸点を有する低沸点金属としての亜鉛のめっきが施された上側鋼板W1と、下側鋼板W2との重ね合わせ部Oにレーザ光を照射して溶接する場合を考える。防錆効果の高い亜鉛めっき鋼板は、自動車の外板などに幅広く使用されている。なお、亜鉛の融点は、419.5℃で沸点は、930℃であり、鉄の融点は、1535℃で沸点は2750℃である。
【0040】
そして、本発明の特徴として、図5及び図6に示すように、コントローラ4は、レーザ発振器2に出力制御命令を送り、また、スキャナ加工ヘッド3に位置制御命令を送り、レーザ光の前進時には、亜鉛めっきのみが蒸発する低密度エネルギーのレーザ光LA1を照射し、レーザ光の後退時には、前進時における前進距離S1よりも短い距離S2(S1>S2)だけ後退しながら上側鋼板W1及び下側鋼板W2を溶融接合する高密度エネルギーのレーザ光LA2を照射し、溶接進行方向(図4及び図5において白矢印で示す)に対して前後に往復振動させながら溶接進行方向に移動させるようになっている。なお、図5では、簡略化のためにレーザ光の軌跡をずらして記載しているが、溶接方向に対して重なるものとする。
【0041】
コントローラ4によるレーザ発振器2の出力制御は、スキャナ加工ヘッド3に位置制御命令と同期させてレーザ光のエネルギー密度の強弱調整が行われるように構成されている。すなわち、低密度エネルギーのレーザ光LA1と高密度エネルギーのレーザ光LA2との切換は、コントローラ4からレーザ発振器2に対して図6に示すようなパルス信号が送信されることにより行われる。図5及び図6では、前後の高密度エネルギーのレーザ光LA2の溶融範囲がちょうど連続するように記載している(S1:S2=2:1)。低密度エネルギーのレーザ光LA1を照射するときと、高密度エネルギーのレーザ光LA2照射するときのレーザ光の移動スピードは等しいものとする。
【0042】
このように、コントローラ4がレーザ発振器2を制御し、前進時に低密度エネルギーのレーザ光LA1を発振し、後進時に高密度エネルギーのレーザ光LA2を発振することで、被加工部Rの温度調節を調節して、亜鉛めっきのみを蒸発させたり、上側鋼板W1及び下側鋼板W2を溶融させたりすることが可能となる。
【0043】
−レーザ溶接方法−
次に、本実施形態にかかるレーザ溶接方法について説明する。
【0044】
まず、亜鉛めっきが施された上側鋼板W1及び下側鋼板W2を重ねたものを図示しないロボットでハンドリングし、レーザ溶接装置1の照射範囲A(図1に示す)に配置する。例えば、照射範囲Aは、直径300mmとし、レーザスポット外径Dは、0.6mmとする。スキャナ加工ヘッド3自体の位置は固定しておく。
【0045】
次いで、上側鋼板W1及び下側鋼板W2の重ね合わせ部にレーザ光を照射する。図6に示すように、レーザ発振器2からは、低出力及び高出力のパルス波よりなるレーザ光が発振される。パルス幅は、例えば、低出力:高出力=2:1とする。
【0046】
まず、前進工程において、レーザ発振器2から亜鉛めっきのみが蒸発する低出力の低密度エネルギーのレーザ光LA1が伝送され、コントローラ4がスキャナ加工ヘッド3を制御して、低密度エネルギーのレーザ光LA1を照射しながら距離S1だけ進む。このとき、上側鋼板W1及び下側鋼板W2の重ね合わせ部Oが亜鉛の沸点(419.5℃)以上、鉄の融点(1535℃)未満に加熱される。このため、上側鋼板W1及び下側鋼板W2を溶かすことなく亜鉛めっきが蒸発、離散する。
【0047】
次いで、後退工程において、前進距離S1よりも短い距離S2だけ後退しながら高出力の高密度エネルギーのレーザ光LA2を照射する。このことで、上側鋼板W1及び下側鋼板W2が鉄の融点以上加熱され、溶融接合される。このとき、前進工程と後退工程とでレーザ光の移動スピードは等しいものとする。
【0048】
次いで、前進工程で再び低密度エネルギーのレーザ光LA1を照射する。このことで、溶融部が再加熱されて溶融部の凝固が遅延させられる。このため、亜鉛めっきの蒸発により溶融部に残っていた気泡等が確実に除去される。
【0049】
次いで、再び後進工程が行われる。
【0050】
このように、前進工程と後退工程とを繰り返し、レーザ光を溶接進行方向に対して前後に往復振動させながら溶接進行方向に移動し、溶接が完了する。レーザ発振器2が、前進工程においては低密度エネルギーのレーザ光LA1を発振し、後進工程においては高密度エネルギーのレーザ光LA2を発振することで、被加工部Rの温度調節を調節して、亜鉛めっきのみを蒸発させたり、上側鋼板W1及び下側鋼板W2を溶融させたりすることが可能となる。焦点距離FLは変える必要はないので、亜鉛めっきを離散させる領域は最小限に保たれる。
【0051】
一方、図示しないが、亜鉛めっきなどの低沸点金属めっきを含まない上側鋼板W1及び下側鋼板W2を溶接する場合には、高密度エネルギーのレーザ光LA2のみを照射してレーザ溶接を行う。このようにすれば、同じレーザ溶接装置1を用いても、レーザ溶接の効率が低下することはない。
【0052】
−実施形態の効果−
したがって、本実施形態にかかるレーザ溶接方法によると、前進工程において低密度エネルギーのレーザ光LA1を上側鋼板W1及び下側鋼板W2の重ね合わせ部Oに照射して亜鉛めっきを蒸発させ、後退工程において高密度エネルギーのレーザ光LA2を照射しながら上側鋼板W1及び下側鋼板W2を溶かし、再び低密度エネルギーのレーザ光LA1を照射して溶融部を再加熱して溶融部の凝固を遅延させ、気泡を確実に除去するようにしたことにより、亜鉛めっきが施された上側鋼板W1及び下側鋼板W2を高品質を保ちながら効率よくレーザ溶接することができる。
【0053】
上記実施形態によれば、レーザ発振器2の出力制御によってレーザ光のエネルギー密度の強弱調整を行って前進時に亜鉛めっきのみを蒸発させ、後退時に上側鋼板W1及び下側鋼板W2を溶融させるようにしたことにより、必要以上に溶接範囲を広げて防錆効果を低減させることなく、亜鉛めっきが施された上側鋼板W1及び下側鋼板W2を含む複数の上側鋼板W1及び下側鋼板W2を高品質を保ちながら効率よくレーザ溶接することができる。
【0054】
上記実施形態によれば、亜鉛めっきを施した上側鋼板W1及び下側鋼板W2をレーザ溶接するようにしたことにより、品質よく溶接された防錆効果の高い製品が得られる。
【0055】
−実施形態の変形例−
上記実施形態では、レーザ光のエネルギー密度の強弱調整をコントローラ4によるレーザ発振器2の出力制御によって行ったが、このような出力制御は行わずに、コントローラ4によるスキャナ加工ヘッド3の焦点制御によって行うようにしてもよい。
【0056】
すなわち、コントローラ4がスキャナ加工ヘッド3の内部の可動ミラー10やコリメートレンズ8等によってレーザ光の焦点を制御することにより、レーザ光の焦点を調整する。
【0057】
つまり、前進工程において、レーザスポット径Dの部分を被加工部Rの上方又は下方にずらし、低密度エネルギーのレーザ光LA1を被加工部Rに照射する。前進工程では、焦点がずれることにより、広い範囲が加熱されるので、広範囲において低沸点金属のめっきが蒸発し離散する。
【0058】
また、後進工程においては、焦点を被加工部Rに合わせて高密度エネルギーのレーザ光LA2を被加工部Rに照射する。
【0059】
このように焦点を調整することにより、被加工部Rの温度調節を調節して、亜鉛めっきのみを蒸発させたり、上側鋼板W1及び下側鋼板W2を溶融させたりすることが可能となる。
【0060】
したがって、本変形例によると、レーザ光の焦点制御によってレーザ光のエネルギー密度の強弱調整を行って前進時に亜鉛めっきのみを蒸発させ、後退時に上側鋼板W1及び下側鋼板W2を溶融させるようにしたことにより、広範囲の低沸点金属のめっきを蒸発させて確実に溶接不良を防いで、亜鉛めっきが施された上側鋼板W1及び下側鋼板W2を高品質を保ちながら効率よくレーザ溶接することができる。
【0061】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0062】
すなわち、上記実施形態では、亜鉛のめっきが施された上側鋼板W1と、下側鋼板W2とをレーザ溶接したが、亜鉛のめっきが施されていない上側鋼板W1と、亜鉛のめっきが施された下側鋼板W2とをレーザ溶接してもよい。また、下側鋼板W2は、複数枚であってもよく、それらはめっきを施されたものでも、施されていないものでもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、レーザ光の出力制御において、前進工程と後退工程とでレーザ光の移動スピードを等しくし、照射時間を2:1としているが、図7に示すように、照射時間を1:1とし、前進工程と後退工程とでレーザ光の移動スピードを2:1としてもよい。
【0064】
上記実施形態では、前後の高密度エネルギーのレーザ光LA2の溶融範囲がちょうど連続するようにしたが(S1:S2=2:1)、例えば、S1:S2=4:1として、スポット的に溶接するようにしてもよい。
【0065】
上記実施形態では、低沸点金属のめっきは、亜鉛めっきとしたが、亜鉛合金めっき、沸点1090℃のマグネシウムのめっき、マグネシウム合金めっき、アルミニウム合金めっき等でもよい。要は、母材の融点よりも低い沸点を有する低沸点金属のめっきであれば、本発明の適用が可能である。
【0066】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明は、母材の融点よりも低い沸点を有する低沸点金属のめっきが施された金属板を含む複数の金属板を重ね、該金属板の重ね合わせ部にレーザ光を照射して複数の金属板を溶接するレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】加工ヘッドの概要を示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるレーザ溶接装置を示すシステム概要図である。
【図3】レーザ溶接の概要を示す説明図である。
【図4】被溶接部を拡大して示す斜視図である。
【図5】レーザ光の軌跡を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態にかかるレーザ溶接方法を示す説明図である。
【図7】レーザ発振器の出力制御の他の例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
1 レーザ溶接装置
2 レーザ発振器
3 加工ヘッド
4 コントローラ(制御手段)
W1 上側鋼板(金属板)
W2 下側鋼板(金属板)
S1 前進距離
S2 後進距離
LA1 低密度レーザ光
LA2 高密度レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の融点よりも低い沸点を有する低沸点金属のめっきが施された金属板を含む複数の金属板を重ね、該金属板の重ね合わせ部にレーザ光を照射して複数の金属板を溶接するレーザ溶接方法において、
上記低沸点金属めっきのみが蒸発する低密度エネルギーのレーザ光を照射しながら進む前進工程と、
上記前進工程の後、該前進工程における前進距離よりも短い距離だけ後退しながら上記金属板を溶融接合する高密度エネルギーのレーザ光を照射する後退工程とを備え、
上記前進工程と上記後退工程とを繰り返し、レーザ光を溶接進行方向に対して前後に往復振動させながら溶接進行方向に移動する
ことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接方法において、
上記レーザ光のエネルギー密度の強弱調整は、レーザ発振器の出力制御によって行う
ことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項3】
請求項1に記載のレーザ溶接方法において、
上記レーザ光のエネルギー密度の強弱調整は、レーザ光の焦点制御によって行う
ことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載のレーザ溶接方法において、
上記低沸点金属めっきが施された金属板は、亜鉛めっきを施した鋼板である
ことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項5】
母材の融点よりも低い沸点を有する低沸点金属のめっきが施された金属板を含む複数の金属板の重ね合わせ部にレーザ光を照射して溶接するレーザ溶接装置において、
レーザ光を発振させるレーザ発振器と、
上記レーザ発振器から伝送されたレーザ光を焦点を調整しながら、上記重ね合わせ部に照射させるスキャナ加工ヘッドと、
上記レーザ発振器及びスキャナ加工ヘッドを制御して、上記レーザ光の前進時には、上記低沸点金属めっきのみが蒸発する低密度エネルギーのレーザ光を照射し、レーザ光の後退時には、前進時における前進距離よりも短い距離だけ後退しながら上記金属板を溶融接合する高密度エネルギーのレーザ光を照射し、溶接進行方向に対して前後に往復振動させながら溶接進行方向に移動させる制御手段とを備えている
ことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項6】
請求項5に記載のレーザ溶接装置において、
上記制御手段によるレーザ発振器の出力制御によって上記レーザ光のエネルギー密度の強弱調整が行われるように構成されている
ことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項7】
請求項5に記載のレーザ溶接装置において、
上記制御手段によるスキャナ加工ヘッドの焦点制御によって上記レーザ光のエネルギー密度の強弱調整が行われるように構成されている
ことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1つに記載のレーザ溶接装置において、
上記低沸点金属めっきが施された金属板は、亜鉛めっきを施した鋼板である
ことを特徴とするレーザ溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−50894(P2009−50894A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220188(P2007−220188)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】