説明

レーザ溶接装置

【課題】ガス供給ノズルから噴射されるアシストガスが目標位置からズレてしまった場合の自動補正を可能にし、溶接部の安定した品質を維持し易くする。
【解決手段】板材Wにレーザを照射するレーザヘッド2と、レーザヘッド2に取り付けられ、レーザLの照射によって生じる溶融池Mに向けて斜めからアシストガスGを噴射するガス供給ノズル3と、ガス供給ノズル3を可動させるノズルアクチュエータ9と、溶融池Mを撮像するCCDカメラ7と、CCDカメラ7によって撮像された画像情報に基づいて、溶融池Mの中心位置CPを検出する検出部14bと、検出部14bによって検出された中心位置CPとガス供給ノズル3の管軸線NSとの距離偏差d1を演算し、距離偏差d1が少なくなるようにガス供給ノズル3を可動させる制御信号をノズルアクチュエータ9に対して出力するノズル制御部14cとを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザとアシストガスとの協働により被溶接体の溶接を行うレーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーザの照射部に向けてアシストガスを噴射するレーザ溶接装置が知られている。そして、この種のレーザ溶接装置として、ガス供給ノズルの先端からレーザの照射部に向けてアシストガスを噴射するとともに、ガス供給ノズルの基端に固定したカメラによって照射部を撮像し、その撮像画像をディスプレイ装置に写し出し、アシストガスの吹き付け位置を照射部の適当な位置に手動で合わせるという装置がある(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第2624033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のレーザ溶接装置では、ディスプレイ装置に写し出された撮像画像を確認した作業者が、手動によってアシストガスの吹き付け位置を調整しており、レーザ走査中にアシストガスの吹き付け位置が目標からズレてしまった場合の正確な補正が困難であった。その結果として、溶接部の品質が不安定になり易かった。
【0005】
本発明は、ガス供給ノズルから噴射されるアシストガスが目標位置からズレてしまった場合の自動補正を可能にし、溶接部の安定した品質を維持し易くするレーザ溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るレーザ溶接装置は、被溶接体にレーザを照射するレーザヘッドと、レーザヘッドに取り付けられ、レーザの照射によって生じる溶融池に向けて斜めからアシストガスを噴射するガス供給ノズルと、ガス供給ノズルを可動させるノズルアクチュエータと、溶融池を撮像するカメラと、カメラによって撮像された画像情報に基づいて、溶融池中心位置を検出する検出部と、検出部によって検出された溶融池中心位置とガス供給ノズルの管軸線との距離偏差を演算し、距離偏差が少なくなるようにガス供給ノズルを可動させる制御信号をノズルアクチュエータに対して出力するノズル制御部とを有することを特徴とする。
【0007】
このレーザ溶接装置は、カメラで撮像された溶融池の画像情報に基づいて、検出部が溶融池中心位置を検出し、ノズル制御部は、この溶融池中心位置とガス供給ノズルの管軸線との距離偏差を演算し、距離偏差が少なくようにガス供給ノズルを可動させる制御信号をノズルアクチュエータに出力する。ノズルアクチュエータは、入力された制御信号に基づいて、ガス供給ノズルを可動させる。その結果として、ガス供給ノズルから噴射されるアシストガスの吹き付け位置が溶融池中心位置からズレ難くなり、溶接部の安定した品質が維持し易くなる。
【0008】
さらに、検出部は、カメラによって撮像された溶融池の輝度分布画像情報に基づいて、溶融池中心位置を検出すると好適である。溶融池の輝度分布と溶融池の溶融状態(例えば溶融池の温度)とは密接に関係し、輝度分布画像情報によって溶融池の溶融状態を認識できるため、輝度分布画像情報を用いて溶融池中心位置を検出することにより、溶融池の溶融状態に応じた、最適な位置にアシストガスを吹き付けることができ、溶接部の品質が向上する。
【0009】
さらに、溶融池中心位置は、前記溶融池の輝度が最も高い位置であると好適である。溶融池の輝度が最も高い位置は、溶融池の温度が最も高い位置である。そして、溶融池の輝度が最も高い位置を溶融池中心位置としてアシストガスを吹き付けることにより、溶融池の酸化を効果的に防止するというシールド効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガス供給ノズルから噴射されるアシストガスが目標位置からズレてしまった場合の自動補正を可能にし、溶接部の安定した品質を維持し易くする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明に係るレーザ溶接装置の好適な実施の形態について詳細に説明をする。
【0012】
(レーザ溶接装置)
図1及び図2に示すように、レーザ溶接装置1は、溶接用熱源としてYAGレーザを用いる溶接装置である。レーザ溶接装置1は、被溶接体としてのステンレス製の板材Wに向けてレーザLを照射するレーザヘッド2と、レーザLによって板材Wの表面に生じる溶融池Mに向けて斜めからアシストガス(通称「シールドガス」、「加工ガス」ともいう)Gを噴射するガス供給ノズル3とを備える。レーザヘッド2及びガス供給ノズル3は、二枚の板材Wが重なる箇所における直線状の接合予定線SSに沿って移動する。
【0013】
レーザヘッド2は、ケース2a内にレーザ発振部2bを備える。YAGレーザは、光励起形の個体レーザであり、レーザ発振部2bは、発振波長が1.06μmのレーザLを出射する。レーザLの光軸LS上には、光学ガラス製の集光レンズ2cが配置され、集光レンズ2cを透過したレーザLは、極めて小さな点に集光される。
【0014】
なお、以下の説明において、レーザLの光軸LSに直交し、且つレーザヘッド2の移動方向に沿った方向をX軸方向、X軸及びレーザLの光軸LSに直交する方向をY軸方向、レーザLの光軸LSに沿った方向をZ軸方向として説明する
【0015】
レーザヘッド2のケース2aには、レーザヘッド2の進行方向に対して後方側に突き出したブラケット2dが設けられており、ブラケット2dには、第1リニアアクチュエータ4が取り付けられている。第1リニアアクチュエータ4は、サーボモータとサーボモータの出力軸に形成されたボールねじとを有し、ボールねじの回転により、ブラケット2dに対してY軸方向に直線移動する。第1リニアアクチュエータ4には、第2リニアアクチュエータ5が取り付けられている。第2リニアアクチュエータ5も第1リニアアクチュエータ4と同様のサーボモータ及びボールねじを有し、ボールねじの回転により、第1リニアアクチュエータ4に対してX軸方向に直線移動する。第2リニアアクチュエータ5の端部5aには、Z軸方向(下方)に突き出したロッド5bが設けられている。 第1及び第2リニアアクチュエータ4,5によってノズルアクチュエータ9が構成される。
【0016】
ロッド5bの先端には、U字状のノズルブラケット5cが設けられている。ノズルブラケット5cには、ガス供給ノズル3を挟むようにして左右一対の側壁5d,5eが設けられ、各側壁5d,5eにはスリットSLが形成されている。一対のスリットSL内には、ガス供給ノズル3から水平方向に突き出ている一対のねじ部3a,3bが挿し込まれている。ねじ部3a,3bは、ガス供給ノズル3の後端3eの近傍に設けられると共に、ガス供給ノズル3の管軸線NSに対して直交して延在する。ねじ部3a,3bの先端部分には、各側壁5d,5eから突出した状態でナット3c,3dが螺合する。ガス供給ノズル3は、ナット3c,3dの締め付けにより、光軸LSに対して管軸線NSが傾いた状態でノズルブラケット5cに固定されている。
【0017】
ガス供給ノズル3の後端3e近傍の周壁には、アシストガスGを供給するためのホース3hが管継ぎ手部3gを介して固定されている。このアシストガスGは不活性ガスとしてのアルゴンを含有する。圧縮されたアシストガスGは、ホース3hを介してガス供給ノズル3内に供給され、ガス供給ノズル3の先端3fから、溶融池Mに向けて噴射される。
【0018】
ガス供給ノズル3の後端3eには、CCDカメラ7が固定されている。CCDカメラ7は、光量に応じて蓄積された電荷を、時系列に沿って順番に出力する電子結合素子を備えたカメラである。CCDカメラ7の視野は、ガス供給ノズル3の内部を通して認識される範囲であり、CCDカメラ7の光軸Lとガス供給ノズル3の管軸線NSとは一致している。CCDカメラ7は、1サンプリング周期ごとの2次元画像データをデジタル信号として出力する。この2次元画像データは、輝度が所定数の階調からなる複数行、複数列の出力画素数によって決定される。さらに、CCDカメラ7のレンズには、NDフィルタ(図示省略)が取り付けられている。NDフィルタを取り付けることによって、高温になっている溶融池Mからの入射光量が抑えられ、CCDカメラ7は、溶融池Mの輝度に関する情報を正確に撮像できる。
【0019】
図1及び図3に示すように、レーザヘッド2の上端部には、支柱部2eを介してマニピュレータ12の可動アーム部12aが固定されている。マニピュレータ12は、可動アーム部12aを移動させることで、レーザヘッド2をX軸方向に移動させる。板材Wを載せる溶接台13上には、二枚の板材Wが重ね合わせられた状態で載せられる。レーザヘッド2は、二枚の板材Wが重なる箇所における直線状の接合予定線SSに向けてレーザLを照射し、マニピュレータ12の作動によって溶接台13上で直線的に移動する。このレーザヘッド2の移動に伴い、レーザLは、接合予定線SSに沿って走査される。レーザLの照射によって溶融池Mが生じ、レーザLが通過した後には、溶融池Mが固化してレーザ溶接部LJが形成される。
【0020】
図3に示すように、レーザ溶接装置1は、バスを介して接続されたCPU14、ROM16及びRAM17等によって構成される主制御処理部18を有する。CPU14は、マニピュレータ12、レーザ発振部2b、第1及び第2リニアアクチュエータ4,5の各サーボモータ及びCCDカメラ7に有線もしくは無線によって信号送受信可能に接続されている。CPU14は、レーザ溶接装置1全体の動作制御を行い、特に、レーザLの照射強度及びレーザ走査速度を制御するレーザ走査制御部14aと、CCDカメラ7によって撮像された溶融池Mの2次元画像情報(輝度分布画像情報)IM(図6及び図7参照)に基づいて溶融池Mの中心位置(溶融池中心位置)CP(図6〜図8参照)を検出する検出部14bと、ガス供給ノズル3の可動を制御するノズル制御部14cとを有する。
【0021】
レーザ走査制御部14aは、レーザ発振部2bに対してレーザLの照射強度を設定する照射強度設定信号及びレーザLの照射開始と停止に関するON/OFF信号を出力し、さらに、マニピュレータ12に対してレーザ走査速度を設定する速度設定信号、レーザ走査開始信号及びレーザ走査停止信号を出力する。また、検出部14bは、CCDカメラ7によって撮像された溶融池Mの2次元画像情報IMから輝度の最も高い位置を解析し、その位置を溶融池Mの中心位置CP(図6〜図8参照)として検出する。また、ノズル制御部14cは、CCDカメラ7によって撮像された溶融池Mの2次元画像情報IMに基づいて、溶融池Mの中心位置CPからガス供給ノズル3の管軸線NSに引いた垂線の長さである偏差距離d1(図7及び図8参照)を演算し、偏差距離d1を減少させるようにガス供給ノズル3を水平方向に可動させる補正制御信号をノズルアクチュエータ9に出力する。なお、CPU14は、ガス供給ノズル3に供給されるアシストガスGの流路を開閉する制御弁(図示省略)にも信号送受信可能に接続されており、制御弁に対する開閉信号をも出力する。
【0022】
CPU14には、操作部としてのタッチパネル19が信号送受信可能に接続されている。タッチパネル19の液晶画面上には、レーザ溶接の初期条件やレーザ溶接の開始を指示するためタッチ部が表示されている。タッチパネル19は、液晶画面上における作業者の指が触れた位置を検出し、その位置情報に基づく初期設定信号を出力する。CPU14には、タッチパネル19から出力された初期設定信号が入力され、CPU14は、初期設定信号に応じた制御を実行するために、レーザヘッド2、マニピュレータ12、ノズルアクチュエータ9に対して各種信号を出力する。
【0023】
(レーザ溶接方法)
レーザ溶接装置1を用いたレーザ溶接方法について説明する。レーザ溶接を行う場合には、レーザヘッド2から照射されるレーザLの焦点を板材Wの接合予定線SSに合わせ(図4参照)、レーザLを、接合予定線SSに沿って所定の速度で移動させながらレーザ走査を行う(図1参照)。また、レーザ走査と同時に、ガス供給ノズル3からアシストガスGを噴射させ、溶融池Mの周囲に酸化防止雰囲気を形成する。酸化防止雰囲気が形成されることにより、溶融池Mが固化した後の溶接ビード形状が安定し、焼け焦げも防止される。特に、レーザ溶接装置1Aでは、溶融池Mの輝度が最も高い中心位置CPに向けてアシストガスGを噴射させている。溶融池Mの輝度が最も高い中心位置CPは、最も高温であり、この中心位置CPに向けてアシストガスGを噴射することで、溶融池Mの酸化を効果的に防止してシールド効果を高めることができる。
【0024】
レーザ走査中における溶融池Mの中心位置CPは、図9(b)に示すように、レーザLの光軸LSよりも、レーザヘッド2の進行方向における後方側に僅かにズレていると共に、図9(b)に示すように、レーザヘッド2の進行方向に直交する左右方向の略中央に位置する。レーザ溶接装置1では、レーザ走査中、溶融池Mの中心位置CPを検出し続けるので、正確なズレ量を検出することができる。なお、図9は、溶融池Mの輝度分布を示す図であり、図9(a)は、溶融池Mを上から見たときの輝度分布を示す図である。また、図9(b)は、図9(a)のb−b線に沿った輝度分布を示すグラフであり、b−b線に沿った前端P1から後端P2までの距離を横軸で示し、輝度を縦軸で示している。また、図9(c)は、図9(a)のc−c線に沿った輝度分布を示すグラフであり、c−c線に沿った一方端P3から他方端P4までの距離を縦軸で示し、輝度を横軸で示している。
【0025】
続いて、図5を参照してレーザ溶接の開始から終了までの手順を説明する。作業者は、タッチパネル19を用いて、レーザ溶接を開始する操作を行う。すると、タッチパネル19から溶接条件を設定する初期設定信号が出力され、初期設定信号がCPU14に入力される(S1)。CPU14は、ノズルアクチュエータ9に初期設定信号に基づく制御信号を出力する(S2)。すると、ノズルアクチュエータ9が作動し、初期設定位置までガス供給ノズル3を可動させ(図4参照)、初期設定位置でガス供給ノズル3を保持する(S3)。なお、レーザ走査中における溶融池Mの中心位置CPは、レーザLの光軸LSよりも、レーザヘッド2の進行方向における後方側に僅かにズレ、そのズレ幅はレーザ走査速度から概算値として割り出される。CPU14は、初期設定信号に基づくレーザ走査速度からズレ幅の概算値を割り出した後、概算値に基づいて、ズレ幅に対応した位置に向けてアシストガスGを噴射させるような初期設定を行い、初期設定に基づいて第2リニアアクチュエータ5を動作させ、ガス供給ノズル3を所定位置まで可動させる。
【0026】
その後、CPU14のレーザ走査制御部14aは、タッチパネル19から出力された初期設定信号に基づいて、レーザ発振部2bに対して、レーザLの照射強度を設定する照射強度設定信号及びレーザLの照射を開始させるON信号を出力し、マニピュレータ12に対してレーザ走査速度を設定する速度設定信号及びレーザ走査開始信号を出力する。さらに、CPU14は、ガス供給ノズル3からアシストガスGを噴射させるために、制御弁(図示省略)に開信号を出力する(S4)。レーザヘッド2のレーザ発振部2bは、照射強度設定信号及びON信号が入力されると、照射強度設定信号に応じた照射強度でレーザLの照射を行う(図1参照)。さらに、マニピュレータ12は、速度設定信号及びレーザ走査開始信号が入力されると、速度設定信号に基づく定速度で、レーザ走査を開始する。さらに、制御弁は、開信号が入力されるとアシストガスの流路を開放し、ガス供給ノズル3からアシストガスGを噴射させる。
【0027】
レーザ走査の開始後、CPU14は、板材Wの接合予定線SSの終点に達したか否かによって、溶接終了条件の成否を判定する(S5)。溶接終了条件が不成立の場合、CPU14の検出部14bは、CCDカメラ7からの出力に基づいて、溶融池Mの2次元画像情報IM(図6及び図7参照)を取得し(S6)、取得した2次元画像情報IMから溶融池Mの輝度分布を解析し、輝度が最も高い位置を溶融池Mの中心位置CPとして検出する(S7)。その後、CPU14のノズル制御部14cは、ガス供給ノズル3の管軸線NSに対応する2次元画像情報IMの中心から、溶融池Mの中心位置CPまでの距離偏差d1(図7及び図8参照)を演算する(S8)。なお、図7及び図8には、ガス供給ノズルの管軸線NSを基準にした場合に、溶融池Mの中心位置CPが、レーザヘッド2の進行方向の後方側にズレている場合を示している。
【0028】
その後、CPU14のノズル制御部16cは、ステップ8で演算した距離偏差d1が所定の範囲に含まれるか否かを判定し、所定の範囲外であれば距離偏差d1有りと判定し、所定の範囲内であれば距離偏差d1無しと判定する(S9)。図6に示すように、距離偏差d1無しと判定する場合には、CPU14は、ステップ5に戻り、再度、溶接終了条件の成否を判定する(S5)。一方、図7及び図8に示すように、距離偏差d1有りと判定する場合、CPU14のノズル制御部14cは、距離偏差d1が“0”に近づくように、ガス供給ノズル3を可動させるための補正制御信号を第2リニアアクチュエータ5に対して出力する(S10)。第2リニアアクチュエータ5は、補正制御信号に基づいて駆動し、ガス供給ノズル3を可動させる(S11)。なお、図7及び図8に示すように、溶融池Mの中心位置CPが、ガス供給ノズルの管軸線NSよりも、レーザヘッド2の進行方向の後側にズレている場合には、第2リニアアクチュエータ5は、ガス供給ノズル3をレーザヘッド2の進行方向の後方側に平行移動させる。なお、溶融池Mの中心位置CPが、ガス供給ノズルの管軸線NSよりも、レーザヘッド2の進行方向の前側にズレている場合には、第2リニアアクチュエータ5は、ガス供給ノズル3をレーザヘッド2の進行方向の前方側に平行移動させる。
【0029】
レーザ溶接装置1は、レーザ走査中において、ステップ5〜ステップ11までの各処理を繰り返し実行し、ガス供給ノズル3の管軸線NSが溶融池Mの中心位置CPからズレている場合には、CPU14が第2リニアアクチュエータ5に対して補正制御信号を出力し、ガス供給ノズル3を可動させて自動的に補正する。そして、レーザLが板材Wの接合予定線SSの終端まで達すると、CPU14は、溶接終了条件が成立すると判定し(S5)、レーザ発振部2bに対して、レーザLの照射を停止させるOFF信号を出力し、マニピュレータ12に対してレーザ走査停止信号を出力する。さらに、アシストガスGの噴射を停止するために、制御弁(図示省略)に閉信号を出力する。レーザ発振部2bは、OFF信号が入力されると、レーザLの照射を停止し、マニピュレータ12は、レーザ走査停止信号が入力されるとレーザヘッド2の移動を停止させてレーザ走査を停止する。さらに、制御弁は、閉信号が入力されると、アシストガスGの流路を閉鎖してアシストガスGの噴射を停止させる(S12)。レーザLの照射停止、レーザ走査停止及びアシストガスGの噴射停止によってレーザ溶接は終了する。
【0030】
レーザ溶接装置1によれば、CCDカメラ7で撮像された溶融池Mの2次元画像情報IMに基づいて、検出部14bが溶融池Mの中心位置CPを検出し、ノズル制御部14cは、この溶融池Mの中心位置CPとガス供給ノズルの管軸線NSとの距離偏差d1を演算し、距離偏差d1が少なくようにガス供給ノズル3を可動させる補正制御信号をノズルアクチュエータ9に出力する。第2リニアアクチュエータ5は、入力された補正制御信号に基づいて、ガス供給ノズル3を水平方向に可動させる。このように、アシストガスGの吹き付け位置が溶融池Mの中心位置CPからズレてしまった場合の自動補正が行われ、ガス供給ノズル3から噴射されたアシストガスGの吹き付け中心位置が常に溶融池Mの中心位置CP上に来るように制御されることで、レーザ溶接部の安定した品質が維持し易くなる。
【0031】
特に、検出部14bは、溶融池Mの2次元画像情報IMに基づいて、溶融池Mの輝度分布を解析し、その輝度分布から溶融池Mの中心位置CPを検出している。溶融池Mの輝度分布と溶融池Mの溶融状態(例えば、溶融池Mの温度)とは密接に関係し、2次元画像情報IMによって溶融池Mの溶融状態を認識できる。そして、溶融池Mの2次元画像情報IMを用いて溶融池Mの中心位置CPを検出することにより、溶融池Mの溶融状態に応じた、最適な位置にアシストガスGを吹き付けることができ、レーザ溶接部LJの品質が向上する。
【0032】
さらに、溶融池Mの中心位置CPは、溶融池Mの輝度が最も高い位置であり、溶融池Mの輝度が最も高い位置は、溶融池Mの温度が最も高い位置である。そして、溶融池Mの輝度が最も高い位置を溶融池Mの中心位置CPとしてアシストガスGを吹き付けることにより、溶融池Mの酸化を効果的に防止するというシールド効果を高めることができる。
【0033】
本発明は、上記の各実施形態に限定されず、例えば、溶接用熱源として半導体レーザ、COレーザ等を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るレーザ溶接装置の第1実施形態を示す斜視図であり、レーザ走査中の状態を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】レーザ溶接装置のブロック図である。
【図4】レーザ走査開始前におけるレーザを接合予定線に合わせ、且つアシストガスの吹き付け位置を接合予定線に合わせている状態を示すレーザ溶接装置の斜視図である。
【図5】レーザ溶接の手順を示すフローチャートである。
【図6】CCDカメラで撮像された溶融池の2次元画像情報であり、距離偏差を有しない場合を示す図である。
【図7】CCDカメラで撮像された溶融池の2次元画像情報であり、距離偏差を有する場合を示す図である。
【図8】ガス供給ノズルの先端及び溶融池の拡大断面図である。
【図9】溶融池の輝度分布を示す図であり、(a)図は、溶融池を上から見たときの輝度分布を示す図であり、(b)図は、(a)図のb−b線に沿った輝度分布を示すグラフであり、(c)図は、(a)図のc−c線に沿った輝度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
1…レーザ溶接装置、2…レーザヘッド、3…ガス供給ノズル、7…CCDカメラ、9…ノズルアクチュエータ、14b…検出部、14c…ノズル制御部、W…板材(被溶接体)、L…レーザ、M…溶融池、G…アシストガス、CP…中心位置(溶融池中心位置)、NS…管軸線、d1…距離偏差、IM…2次元画像情報(輝度分布画像情報)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接体にレーザを照射するレーザヘッドと、
前記レーザヘッドに取り付けられ、前記レーザの照射によって生じる溶融池に向けて斜めからアシストガスを噴射するガス供給ノズルと、
前記ガス供給ノズルを可動させるノズルアクチュエータと、
前記溶融池を撮像するカメラと、
前記カメラによって撮像された画像情報に基づいて、溶融池中心位置を検出する検出部と、
前記検出部によって検出された前記溶融池中心位置と前記ガス供給ノズルの管軸線との距離偏差を演算し、前記距離偏差が少なくなるように前記ガス供給ノズルを可動させる制御信号を前記ノズルアクチュエータに対して出力するノズル制御部とを有することを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記カメラによって撮像された前記溶融池の輝度分布画像情報に基づいて、前記溶融池中心位置を検出することを特徴とする請求項1記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記溶融池中心位置は、前記溶融池の輝度が最も高い位置であることを特徴とする請求項2記載のレーザ溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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