説明

レーザ溶接装置

【課題】被溶接材の溶接部にレーザ光を照射し、レーザ光の照射部に溶接ワイヤを供給しながら開先部を積層溶接するレーザ溶接方法において、特に溶接品質が安定し、連続的な積層溶接が可能なレーザ溶接装置を提供する。
【解決手段】レーザ光を集光し被溶接材に照射する加工ヘッド8と、レーザ光の照射部に溶接ワイヤを給送する給送手段16と、レーザ光の照射により形成された溶融プールおよびその近傍を保護するシールドガス供給手段6と、加工ヘッドあるいは被溶接材を移動させる手段と、溶融部から生ずる溶接生成物から加工ヘッドの光学部品を保護する加工ヘッド保護手段と、溶接において生じたヒュームを吸引する吸引手段19と、レーザ光の反射光及び溶接部からの輻射熱から該加工ヘッドを保護する保護手段18と、積層溶接された溶接金属の表面に堆積した溶接生成物を除去するクリーニング手段20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶接材の溶接部にレーザ光を照射し、レーザ光の照射部に溶接ワイヤを供給しながら開先部を積層溶接するレーザ溶接において、特に溶接品質が高くかつ安定し、しかも連続的な積層溶接が可能なレーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接は、熱源のレーザビームのエネルギー密度が高いため、通常のアーク溶接に比べて深い溶込みが得られる。さらに、低歪みで高精度の溶接部が高速度で得られることから、各方面で使用されている。一方、レーザ溶接では、レーザビームの集光スポットサイズが小さいため、溶接部のギャップに対する裕度が低いという難点を有する。従って、突合せ溶接において溶接のギャップが避けられない場合には、溶接ワイヤを供給しながらレーザ溶接が行われている。
【0003】
さらに、レーザ溶接は高エネルギー密度を有するが、厚板の鋼板を貫通溶接で接合することは容易ではない。世間一般で広く使用されている最大出力数kWから十数kWのレーザにおいても、厚さ25mmを超える厚板の溶接を行うためには、突合せ溶接の際に開先を設けて、レーザと溶接ワイヤとを併用することにより多層溶接が行われている。
【0004】
特許文献1には、被溶接部をより狭い開先幅に設定し、溶接ワイヤを供給しつつレーザビームを溶接ワイヤに照射する積層溶接方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、溶接ワイヤを添加する開先レーザ溶接方法において、溶接ワイヤを予熱して溶接ワイヤを溶融させるのに必要なエネルギーと溶接時間を低減し、溶接部形状が約2以上のアスペクトを有するレーザ溶接方法が開示されている。
【0006】
特許文献3には、突合せ部に狭開先を設けることと共に、開先の底部に曲率およびルート面を設け、かつ、溶接金属の溶け込み幅に対する溶け込み深さの比は、1以上1.4以下であるレーザ溶接方法が開示されている。
【0007】
特許文献4には、加工ヘッドの保護ガラスに溶融部から発生する煙およびスパッタの付着を防止するために、保護ガラスの下部にエア流出手段と、流出されるエアをフィルターを通して吸引する吸引装置を備えたレーザ溶接装置が開示されている。
【0008】
特許文献5には、連続波またはパルス波の熱加工レーザとパルス波の表面処理用レーザ光を射出する発振器を備えたレーザ加工装置が開示されている。
【0009】
非特許文献1には、COレーザを用いた開先レーザ溶接方法において、レーザ照射部の溶接進行方向の前方に内径1mmのプラズマ除去サイドノズルを配置し、ガスを吹付けると共に、レーザ照射部に溶接ワイヤを供給しながら溶接するレーザ溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−201687号公報
【特許文献2】特表2005−515895号公報
【特許文献3】特開2007−190586号公報
【特許文献4】特開昭59−16692号公報
【特許文献5】特開2008−254006号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Yoshiaki Arata、 Hiroshi Maruo、 Isamu Miyamoto、 Ryoji Nishio. High Power CO2 Laser Welding of Thick Plate. Transactions of JWRI、 15(2)、 1986、 27-34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
原子力発電プラント用炉心シュラウド等のような円筒形の厚板の大型構造物の溶接において、溶接開先を形成して積層溶接を行う場合、多層溶接は多くの時間を必要とするため連続的に溶接することが望ましい。しかし出力が数kW以上の大出力のレーザ溶接では、溶接部から発生するヒューム(金属蒸気が凝固することによって発生する金属の微粒子及び金属化合物微粒子)やスパッタ(溶融金属飛散物)等の溶接生成物、および溶融部からの輻射熱及び反射光が多く生じ、長時間の連続溶接が実現されていない。
【0013】
レーザの多層溶接は図7に示すように被溶接材1a、1bを突合せ、突合せ部に開先2を形成し、開先2に溶接ワイヤ3を給送しながらレーザ光4を照射し、溶接金属5を積層して溶接を行う。レーザ溶接においては、被溶接材側への溶込みを確保し溶接ワイヤ3を安定的に溶融させるために、レーザ光4は焦点位置をずらしてディフォーカス条件で照射することが行われている。また、開先2を埋める溶接金属量を増加するために、高出力の条件が用いられている。6はシールドガスノズル、7は光学系保護筒、8はレーザ光を集光する光学系を有する加工ヘッド、9はヒューム、10はレーザ光の反射光、11は光ファイバである。
【0014】
レーザ溶接はエネルギー密度が高いので、レーザ照射により被溶接材表面で金属蒸発や溶融金属の飛散が生じ、多量のヒュームやスパッタが発生する。このヒュームやスパッタは、レーザ出力が高い場合やディフォーカス条件では発生量がさらに増加する傾向にある。
【0015】
特にヒュームについて説明すると、ヒュームは溶融凝固した溶接金属の表面や開先壁に付着する。ヒュームが付着した状態で次層の積層を行うと、融合不良やポロシティ等の溶接欠陥が発生する。ヒュームの溶接金属表面への付着を防止するため、溶接部を空気から遮断し溶接金属の酸化を防止するため、シールド用ガスを溶接部に供給している。
【0016】
しかし、開先が深い場合にはヒュームの完全な付着防止が困難である。そこで、溶接後にブラシ等で溶接金属及び開先壁に付着したヒュームの溶接生成物を物理的に除去した後で、次層の溶接を行っている。このため、円筒物の周溶接のような場合には、1パス溶接ごとに、溶接金属表面及び開先壁の清掃作業が必要となるため、連続溶接が行えず溶接能率が悪い。また、ヒュームは金属蒸気が凝固することによって発生する金属の微粒子及び金属化合物微粒子であり、吸湿等により一層除去しにくくなるという問題がある。
【0017】
また、ヒュームやスパッタが加工ヘッドのレーザ光の集光光学系またはその保護ガラス、フィルタ等に付着すると、レーザ出力、ビーム形状等が変化するので安定した溶接が出来ない。そのため、従来は特許文献4のように、保護ガラスの下部にエアを噴出させ、光学系へのヒューム及びスパッタの付着を防止する対策が行われている。しかし、集光光学系を有する加工ヘッドは、溶融金属部からのレーザ光の反射や溶融部ならの輻射熱の影響も受けるため、連続溶接等の長時間溶接においては加工ヘッド並びにヘッド駆動系の温度上昇、反射光による損傷等を生じやすいという課題がある。
【0018】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、連続的に積層溶接を行っても、安定して高品質な溶接部が得られるレーザ溶接装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するための本発明のレーザ溶接装置は、レーザ光集光のための光学系を有しレーザ光を被溶接材に照射する加工ヘッドと、前記被溶接材のレーザ光照射部に溶接ワイヤを給送するワイヤ給送手段と、レーザ光の照射により前記被溶接材に形成された溶融部及びその近傍をシールドするシールドガス供給手段と、前記加工ヘッド及び被溶接材を相対的に移動させる移動手段とを有し、被溶接材の接合部に形成された開先にレーザ光を照射し溶接ワイヤを給送しつつ前記被溶接材および溶接ワイヤを溶融させ、前記開先を積層溶接するレーザ溶接装置において、前記レーザ溶接装置は、溶接により生じた溶接生成物を吸引する吸引手段と、前記レーザ光の反射光及び溶接部の輻射熱から前記加工ヘッドを保護する加工ヘッド保護手段と、積層溶接された溶接金属の表面に堆積した溶接生成物を除去するクリーニング手段を有することを特徴とする。
【0020】
また、レーザ溶接装置において、前記溶融部から生ずる溶接生成物から前記加工ヘッドの光学系を保護する光学系保護手段を有することを特徴とする。
【0021】
また、レーザ溶接装置において、前記溶接生成物はヒューム及びスパッタの少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0022】
また、レーザ溶接装置において、前記レーザ光を照射する加工ヘッドと前記溶接生成物の吸引手段の間に、溶接金属を大気から保護し前記溶接生成物の吸引手段による吸引を案内するトレーラ部材を有することを特徴とする。
【0023】
また、レーザ溶接装置において、前記加工ヘッド保護手段は、前記加工ヘッドと被溶接材の間に設置され、前記加工ヘッド及びその付属装置をレーザ反射光及び溶接部輻射熱から保護する板状部材からなることを特徴とする。
【0024】
また、レーザ溶接装置において、前記加工ヘッド保護手段は、凹面状の湾曲面を有することを特徴とする。
【0025】
また、レーザ溶接装置において、前記加工ヘッド保護手段はシールドガス供給手段と水冷構造を有することを特徴とするレーザ溶接装置。
【0026】
さらに、レーザ溶接装置において、前記積層溶接された溶接金属の表面に堆積した溶接生成物を除去するクリーニング手段は、パルスレーザ照射手段を備えたことを特徴とする。
【0027】
さらに、レーザ溶接装置において、前記積層溶接された溶接金属の表面に堆積した溶接生成物を除去するクリーニング手段は、機械的除去手段を備えたことを特徴とする。
【0028】
さらに、レーザ溶接装置において、前記クリーニング手段の機械的除去手段は、溶接金属の表面に堆積した溶接生成物を除去する回転ブラシと、ガス吹付手段と、除去した溶接生成物を吸引する吸引手段を有することを特徴とする。
【0029】
さらに、レーザ溶接装置において、前記積層溶接された溶接金属の表面に堆積した溶接生成物を除去するクリーニング手段は、パルスレーザ照射手段と機械的除去手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、被溶接材の接合部に形成された開先にレーザ光を照射し溶接ワイヤを給送しつつ前記被溶接材および溶接ワイヤを溶融させ、開先を積層溶接するレーザ溶接装置において、レーザ溶接装置は、溶接により生じた溶接生成物を吸引する吸引手段と、前記レーザ光の反射光及び溶接部の輻射熱から前記加工ヘッドを保護する加工ヘッド保護手段と、積層溶接された溶接金属の表面に堆積した溶接生成物を除去するクリーニング手段を有することにより、溶接の進行とともに、溶接金属表面及び開先壁面に付着したヒュームやスパッタ等の溶接生成物を除去できるので、高品質のレーザ溶接が可能となる。
【0031】
また、溶融金属部からのレーザ光の反射、溶融部ならの輻射熱の影響による加工ヘッド並びにその駆動系への影響を排除できるので、長時間の連続溶接が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例1のレーザ溶接装置を示す斜視図
【図2】本発明実施例1の溶接構造物を示す模式図
【図3】本発明実施例1の溶接構造物の溶接開先の模式図
【図4】本発明実施例1の溶接ビード断面の模式図
【図5】本発明実施例1のレーザ溶接装置の溶接ヘッド周りの斜視図
【図6】本発明の実施例2を示す模式図
【図7】従来例のレーザ多層溶接装置の溶接ヘッド周りの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明のレーザ溶接装置の実施形態を図を用いて説明する。
【実施例1】
【0034】
図1に本発の実施例1の溶接装置の斜視図を示す。レーザ発振器12から発振されたレーザ光4は光ファイバー11により伝送され加工ヘッド8に送られる。加工ヘッド8で図示しない集光光学系により集光されたレーザ光4は、被溶接材1aと1bにより形成された開先2内に照射され、被溶接材1aと1b及び溶接ワイヤ3が溶融して溶融プール13を形成しながら溶接を行い、溶接ビード5が形成される。
【0035】
溶接ワイヤ3はワイヤ給送制御装置17により制御されるワイヤ給送装置16によって、溶接進行方向の前方から溶融プール13内に給送される。溶融プール13及びその近傍は、シールドガスノズル6から噴出されたシールドガスにより大気からシールドされる。シールドガスはガスボンベ14からガス流量制御装置15を通してシールドガスノズル6に供給される。
【0036】
レーザ光4の被溶接材1aと1bへの照射により被溶接材が溶融されるが、その際ヒューム9、及びレーザ光4の反射光10や溶融部分からの輻射熱が生ずる。加工ヘッド8の集光光学系へのヒューム9付着を防止するために、加工ヘッド8の図示しない集光光学系の集光レンズと保護ガラスの下部に、レーザ光4に対しほぼ直交する方向にエアノズル36によりエアを流す。さらに加工ヘッド8の集光光学系には、ヒューム9の光学系への付着を防止する光学系保護筒7が取り付けられている。
【0037】
また、光学系保護筒7の先端にはレーザ光の反射光及び溶接部からの輻射熱から加工ヘッド8を保護する保護板18が取り付けられている。保護板18はほぼ皿状の凹面形状をしており、かつ全体が図示しない冷却装置で水冷されている。保護板18は溶融部から生ずる輻射熱及び溶融プールから反射されたレーザ光の反射光をブロックし、加工ヘッド8及びその周辺の駆動部等を保護する機能を有している。保護板18は平板状その他任意の形状を持つことができ、その大きさは加工ヘッド8及びその付属設備を十分に保護できる大きさとする。
【0038】
また、レーザ溶接ではヒュームが発生するが、長時間溶接では特にヒュームの発生量が多量となるので、保護板18はヒュームの拡散を抑え、かつヒュームの吸引を補助する役目も有している。シールドガスノズル6は保護板18よりレーザ照射部に近いところに取り付けられ反射光及び輻射熱の影響を受けるので、水冷構造を有している。
【0039】
開先内及び溶接部近傍のヒューム9はヒューム吸引ノズル19により吸引される。ヒューム吸引ノズル19の後部には積層された溶接金属表面及び開先壁面をクリーニングするレーザクリーニングヘッド20が取り付けられている。レーザクリーニングヘッド20は高さ方向と前後左右方向への動作が可能な可動関節構造を有し、ヒュームが付着した開先表面を十分に清掃できるように構成する。レーザクリーニングヘッド20はファイバーを介してパルスレーザ発振器23に接続されており、レーザクリーニングヘッド20からパルス状レーザを開先内に照射し、積層された溶接金属及びその周囲の開先壁面に付着しているヒューム9による溶接生成物を除去する。
【0040】
ヒューム吸引ノズル19によるヒュームの吸引とレーザクリーニングヘッド20からのパルスレーザの照射クリーニングを組み合わせることにより、積層された溶接金属及びその周囲の開先壁面に付着しているヒュームによる溶接生成物をほぼ完全に除去することが出来る。ヒュームの吸引あるいはパルスレーザ照射によるクリーニングのいずれか一方のみでも、ほとんどの溶接生成物は除去可能であるが、融合不良及びポロシティ等の溶接欠陥の無い溶接部を得るには、両者を組み合わせて用いることが最も有効である。
【0041】
レーザ発振器12、ワイヤ給送制御装置17、ガス流量制御装置15及び被溶接材1aと1bを回転制御するポジショナー21、パルスレーザ発振器23、ヒューム吸引装置35は溶接制御装置22に接続されており、レーザ出力、溶接速度及びワイヤ給送速度等の溶接条件並びに動作タイミング等が制御され溶接が行われる。
【0042】
実施例1の溶接装置により、図2に示す円筒形の被溶接材1aと1bを突き合せ溶接を行った。円筒被溶接材1a、1bは直径約6m、板厚50mmのオーステナイト系ステンレス鋼SUS316L材である。この円筒物は図示しない溶接ポジショナーに載置されて回転しながら円周溶接が出来るように構成されている。溶接は横向き姿勢で両側から溶接を実施した。
【0043】
図4に突き合せ部24に形成した溶接開先の断面形状を示す。溶接開先は被溶接材1aと1bを突き合せて形成される。溶接開先の中央部には、お互いの被溶接材表面を合わせたルートフェース25が形成されており、その両側に開先溝部26が形成されている。ルートフェース25の長さLは、15mmとした。これは、実施例1で用いたレーザ出力でルートフェース25の突き合せ面が両面から溶接して完全に溶融できる長さである。ルートフェース25部分以外の開先溝部26は、開先底幅Wが3mm、開先角度θが4°の狭開先である。開先の底幅Wは開先両側面の延長線と開先底部の延長線との交点間の距離である。なお、開先底面の端部は曲率を有している。
【0044】
図1では、溶接装置は1組しか図示されていないが、同様な構成の設備が円筒物の反対側の面にも設置されており、レーザ発振器12から出力されたレーザ光を切替えて、表面方向及び裏面方向から交互に溶接をおこなった。実施例1の被溶接材は円筒物なので、図4上方が円筒物外側、図4下方が内側となる。
【0045】
レーザ発振器は、波長1030nmのレーザ光を発振させるディスクレーザ装置を用いた。レーザはCO2レーザのように発振波長の長いレーザの場合、溶接装置が大型となると共に、プラズマが発生しやすいため溶接部に欠陥を生じやすいので、設備の小型化が可能で、高品質の溶接部が得られ易いYAGレーザ、半導体レーザ、ファイバーレーザ、ディスクレーザ等のファイバー伝送が可能な波長が1μm程度のレーザを用いるのが好ましい。
【0046】
また、溶接ワイヤ給送装置16には抵抗発熱等により加熱手段を付加し、加熱された溶接ワイヤを給送する設備を用いても良い。
【0047】
溶接は、図3の形状に開先組み立てを行った後、外側から開先溝部26の底部の中心に集光されたレーザ光4を照射し、図4に示すような細く長い形状の溶込み27を形成し、ルートフェース25の接合された面の約60%から70%を溶融接合させ、次に反対側の内側から同様な方法でルートフェース25にルートフェース長さLの60%から70%長さの細く長い形状の溶込み27を形成させ、外側から形成した溶け込みビードと内側から形成した溶込みビードをルートフェース25の中央付近でラップさせるようにして、ルートフェース25の突き合せ部を完全溶融接合させる。ルートフェース25を溶接後、狭開先内に溶接ワイヤ3を給送し、レーザ光4でワイヤを溶融させて積層溶接金属28で開先を埋めることにより被溶接材同士を溶融接合させる。
【0048】
この開先溝部の溶接は、溶接ワイヤ3及び被溶接材の溶融により形成された積層溶接金属28の積層を繰り返すことにより行い、最終的に図4のような溶接部が形成される。この積層は、外側の開先溝部と内側の開先溝部の積層溶接を交互に繰り返して溶接を行っても、どちらか片方の開先溝部の積層を終了した後に、もう一方の開先溝部の積層溶接を行っても良いが、好ましくは溶接変形の点から、内側と外側の積層溶接を交互に行うのが望ましい。
【0049】
ルートフェース25及び開先溝部26の溶接とも、溶融部及びその近傍を保護するシールドガスは窒素ガスを用いた。本実施例の溶接設備を用いて連続的に積層溶接を行った結果、溶接欠陥の無い良好な溶接部を得ることができた。
【0050】
実施例1のレーザ溶接装置を用いれば、溶接時に発生する輻射熱及び反射光による加工ヘッド及び駆動部等の損傷がなく、溶接進行に併せての溶接金属および開先面へ付着した溶接生成物の除去を行うことが出来、長時間の連続溶接が可能で、高品質な溶接部が得られるレーザ溶接装置を得ることが出来る。
【0051】
さらに図5のように、加工ヘッド8のレーザ照射部とヒューム吸引ノズル19の間に、高温部の溶接金属の酸化抑制のために、加工ヘッドの移動に追従してシールドガスを供給するトレーラー部材29を設置してもよい。トレーラー部材29は溶接金属の酸化の抑制のみならず、ヒュームの吸引促進にも有効なので、溶接金属表面及び開先壁面に付着する溶接生成物を低減させることが出来る。トレーラー部材29は、レーザ光の反射光及び溶接部からの輻射熱の影響を受けるので、水冷構造とすることが好ましい。また、トレーラー部材29はシールドガスの供給を行わない単純な板状のガイド部材でも良い。この場合でもトレーラー部材29はヒュームの吸引通路を形成するガイド部材として作用することができる。
【実施例2】
【0052】
図6は本発明の実施例2を示す。図1に示す実施例1では、ヒュームを除去するヒューム吸引ノズル19の直後に溶接金属表面および開先壁面に付着した溶接生成物除去手段としてレーザクリーニングヘッド20を構成した。一方、実施例2では、溶接する加工ヘッド8、シールドガスノズル6及びヒューム吸引ノズル19等から構成される溶接ヘッド部から離して、溶接金属表面および開先壁面に付着した溶接生成物を除去する溶接生成物除去手段を設けている。
【0053】
実施例2では溶接生成物除去手段を、加工ヘッド8の後方で円筒被溶接物中心に対し約90度の位置に配置した。加工ヘッド8と溶接生成物除去手段を離すことにより、溶接生成物除去手段は溶接部からの輻射熱及び反射光の影響を受けにくくする効果がある。実施例2では、溶接金属表面および開先壁面に付着した溶接生成物は回転ブラシを用いた機械的物理的方法により除去する。
【0054】
溶接生成物除去手段において、回転ブラシ30はブラシ押付装置31に取り付けられ、回転しながら溶接金属表面及び開先壁面に押付られ、溶接生成物が除去される。回転ブラシ30の前面にはガス吹付ノズル32からガスが噴射される、回転ブラシ30により剥離された溶接生成物は、ガス吹付ノズル32から噴射されたガスにより運ばれ、回転ブラシ30の後部に設置された吸引ノズル33に吸引され除去される。
【0055】
吸引ノズル33には、溶接生成物の吸引を補助するために開先内に挿入される吸引補助板34が取り付けられている。
【0056】
回転ブラシ30は、スリットを有する樹脂フィルムを複数枚束ねたものを使用する。実施例2では、溶接金属表面および開先壁面に付着した溶接生成物除去手段を1台有する構成であるが、これを複数台設けても良い。本構成の装置を用いて板厚30mm、直径600mmのオーステナイト系ステンレス鋼SUS304配管材の円周の連続積層溶接を行った結果、溶接装置が損傷されること無く、安定した溶接が行われ、高品質の溶接部が得られた。
【0057】
このように、本発明のレーザ溶接装置を用いることにより、開先を有する大型構造物の溶接部の積層溶接において、長時間の連続的な積層溶接が可能となる。また溶接品質の安定した溶接部を得ることが出来る。
【0058】
本発明の実施例では、オーステナイト系ステンレス鋼の円筒物に適用して結果について説明したが、本発明の溶接装置はこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0059】
1…被溶接材、 2…開先、 3…溶接ワイヤ、 4…レーザ光、 7…光学系保護筒、8…加工ヘッド、9…ヒューム、10…反射光、11…光ファイバ、12…レーザ発振器、13…溶融プール、18…保護板、19…ヒューム吸引ノズル、20…レーザクリーニングヘッド、22…溶接制御装置、23…パルスレーザ発振器、29…トレーラー部材、30…回転ブラシ、31…ブラシ押付装置、32…ガス吹付ノズル、33…吸引ノズル、34…吸引補助板、35…ヒューム吸引装置、36…エアノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光集光のための光学系を有しレーザ光を被溶接材に照射する加工ヘッドと、前記被溶接材のレーザ光照射部に溶接ワイヤを給送するワイヤ給送手段と、レーザ光の照射により前記被溶接材に形成された溶融部及びその近傍をシールドするシールドガス供給手段と、前記加工ヘッド及び被溶接材を相対的に移動させる移動手段とを有し、被溶接材の接合部に形成された開先にレーザ光を照射し溶接ワイヤを給送しつつ前記被溶接材および溶接ワイヤを溶融させ、前記開先を積層溶接するレーザ溶接装置において、
前記レーザ溶接装置は、溶接により生じた溶接生成物を吸引する吸引手段と、前記レーザ光の反射光及び溶接部の輻射熱から前記加工ヘッドを保護する加工ヘッド保護手段と、積層溶接された溶接金属の表面に堆積した溶接生成物を除去するクリーニング手段を有することを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接装置において、前記溶融部から生ずる溶接生成物から前記加工ヘッドの光学系を保護する光学系保護手段を有することを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレーザ溶接装置において、前記溶接生成物はヒューム及びスパッタの少なくとも一つを含むことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のレーザ溶接装置において、前記レーザ光を照射する加工ヘッドと前記溶接生成物の吸引手段の間に、溶接金属を大気から保護し前記溶接生成物の吸引手段による吸引を案内するトレーラ部材を有することを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のレーザ溶接装置において、前記加工ヘッド保護手段は、前記加工ヘッドと被溶接材の間に設置され、前記加工ヘッド及びその付属装置をレーザ反射光及び溶接部輻射熱から保護する板状部材からなることを特徴とする請求項1及び2記載のレーザ溶接装置。
【請求項6】
請求項5に記載のレーザ溶接装置において、前記加工ヘッド保護手段は、凹面状の湾曲面を有することを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載のレーザ溶接装置において、前記加工ヘッド保護手段はシールドガス供給手段と水冷構造を有することを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の少なくとも1項に記載のレーザ溶接装置において、前記積層溶接された溶接金属の表面に堆積した溶接生成物を除去するクリーニング手段は、パルスレーザ照射手段を備えたことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項9】
請求項1乃至7の少なくとも1項に記載のレーザ溶接装置において、前記積層溶接された溶接金属の表面に堆積した溶接生成物を除去するクリーニング手段は、機械的除去手段を備えたことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項10】
請求項9に記載のレーザ溶接装置において、前記クリーニング手段の機械的除去手段は、溶接金属の表面に堆積した溶接生成物を除去する回転ブラシと、ガス吹付手段と、除去した溶接生成物を吸引する吸引手段を有することを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項11】
請求項1乃至7の少なくとも1項に記載のレーザ溶接装置において、前記積層溶接された溶接金属の表面に堆積した溶接生成物を除去するクリーニング手段は、パルスレーザ照射手段と機械的除去手段を備えたことを特徴とするレーザ溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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