説明

レーザ溶接鋼管の製造方法

【課題】アンダーカットやアンダーフィルが発生し易いというレーザ溶接の問題点を克服し、溶接部の品質が良好なレーザ溶接鋼管を歩留り良く安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】鋼板を成形ロールで円筒状のオープンパイプに成形し、オープンパイプのエッジ部2をスクイズロールで加圧しながらオープンパイプの外面側からレーザビームを照射してエッジ部をレーザ溶接するレーザ溶接鋼管の製造方法において、それぞれ異なるファイバーを用いて伝送したジャストフォーカスでのスポット径が直径0.3mmを超える2本以上のレーザビーム3−1,3−2,3−3,3−4を先行レーザビームと後行レーザビームとに分類し、先行レーザビームを後行レーザビームよりも溶接線方向に先行させ、かつ先行レーザビームと後行レーザビームの鋼板内における中心線間隔を1mm以上として溶接線方向に配列してレーザ溶接を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザビームを用いてオープンパイプの長手方向のエッジ部を溶接する鋼管(以下、レーザ溶接鋼管という)の製造方法に関し、特に油井管あるいはラインパイプ等の石油,天然ガスの採掘や輸送に好適なレーザ溶接鋼管の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油井管あるいはラインパイプとして用いられる鋼管は、溶接鋼管(たとえば電縫鋼管,UOE鋼管等)とシームレス鋼管に大別される。これらの鋼管のうち、電縫鋼管は、熱間圧延した帯状の鋼板(いわゆるホットコイル)を素材として使用し、安価に製造できるので経済的に有利である。
しかし一般に電縫鋼管は、成形ロールを用いて鋼板を円筒状に成形してオープンパイプ(ここでオープンパイプとは、多段の成形ロールにより成形された端部が接合されていないパイプ状の鋼帯を言う。以下、オープンパイプと称す。)とし、そのオープンパイプのエッジ部(すなわち円筒状に成形した鋼帯の両側端部)をスクイズロールで加圧しながら電気抵抗溶接(高周波抵抗溶接とも呼ぶ)して製造するので、溶接による継ぎ目(いわゆるシーム)が必然的に存在し、そのシームの低温靭性が劣化するという問題がある。そのため電縫鋼管の油井管やラインパイプは、寒冷地での使用には課題がある。シームの低温靭性が劣化する理由は、エッジ部を溶接する際に高温の溶融メタルが大気中の酸素と反応して酸化物を生成し、その酸化物がシームに残留し易いからである。
【0003】
また電縫鋼管は、エッジ部を溶接する際に溶融メタル中で合金元素が偏析し易いので、シームの耐食性が劣化し易いという問題がある。そのため電縫鋼管の油井管やラインパイプは、厳しい腐食環境(たとえばサワー環境)での使用には課題がある。
一方でシームの低温靭性や耐食性を劣化させない溶接法として、レーザビームによる溶接(以下、レーザ溶接という)が注目されている。レーザ溶接は、熱源の寸法を小さくし、かつ熱エネルギーを高密度で集中できるので、溶融メタルにおける酸化物の生成や合金元素の偏析を防止できる。そのため、溶接鋼管の製造にレーザ溶接を適用すると、シームの低温靭性や耐食性の劣化を防止することが可能である。
【0004】
そこで溶接鋼管の製造過程にて、オープンパイプのエッジ部にレーザビームを照射して溶接することによって鋼管(すなわちレーザ溶接鋼管)を製造する技術が実用化されている。
ところがレーザ溶接では、高密度エネルギー光線であるレーザビームを光学部品により集光して溶接部に照射することによって溶接を行うので、溶接の際に急激な金属の溶融を伴う。そのため、形成された溶融池から溶融メタルがスパッタとして飛散する。飛散したスパッタは、レーザ溶接鋼管に付着して鋼管の品質を低下させるとともに、溶接装置,光学部品および造管機にも付着して溶接の施工が不安定になる。また、レーザ溶接では熱エネルギーを高密度で集中して溶接を行なうので、スパッタが多量に発生し、アンダーカットやアンダーフィル(すなわち窪み)等の溶接欠陥が発生する。アンダーカットやアンダーフィルが発生すると、溶接部の強度が低下する。
【0005】
そこで、レーザ溶接にてスパッタの付着を防止する技術やスパッタの発生を防止する技術が種々検討されている。たとえば、レーザ出力を低減することによってスパッタの発生を防止する技術、あるいは焦点位置を大きくずらす(いわゆるデフォーカス)ことによってスパッタの発生を防止する技術が実用化されている。しかし、レーザ出力低減やデフォーカスは、溶接速度の減少(すなわち溶接効率の低下)を招くばかりでなく、溶込み不良が発生し易くなるという問題がある。
【0006】
特許文献1には、レーザビームを分光して複数個のスポットを生成させてスパッタの発生を防止する技術が開示されている。しかし、複数個のスポットに分散させてレーザ溶接を行う技術は、レーザ出力を低減してレーザ溶接を行う技術と同等であり、溶接効率の低下を招くばかりでなく、溶込み不良が発生し易くなるという問題がある。しかも、レーザビームを分光する光学部品が高価であるから、溶接の施工コストが上昇するのは避けられない。
【0007】
特許文献2では、レーザ溶接を行なう際にフィラーワイヤを用いてアンダーフィルを防止する技術が開示されている。しかし、この技術ではフィラーワイヤの成分によって溶接金属の組成が変化する。そのため、オープンパイプの成分に応じてフィラーワイヤを選択しなければならず、フィラーワイヤの在庫管理やレーザ溶接の作業管理の負荷が増大する。
【0008】
特許文献3では、レーザ溶接とアーク溶接を複合して用いることによって、溶接欠陥を防止する技術が開示されている。しかし、この技術では溶接装置の構造が複雑になりメンテナンスの負荷が増大するばかりでなく、溶接の作業管理の負荷が増大する。
特許文献4では、2つの円形のビームスポットを用いる方法が開示されている。しかしながら、この技術では溶接部に応力が働く条件でのレーザ溶接において溶接欠陥は抑制されず、特に鋼板の裏面のスパッタ発生量が増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許2902550号公報
【特許文献2】特開2004-330299号公報
【特許文献3】特許4120408号公報
【特許文献4】特開2009-178768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、レーザ溶接鋼管を製造するにあたって、レーザビームの照射角度,スポット径を適正に保ち、かつ2本以上のレーザビームを適正に配列するとともに、レーザ溶接の条件を制御することによって、溶接部のアンダーカトやアンダーフィルを抑制し、かつ溶接効率を低下させることなく良好な品質の溶接部を得るとともに、レーザ溶接鋼管を歩留り良く安定して製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、オープンパイプのエッジ部にレーザ溶接を施してレーザ溶接鋼管を製造するにあたって、溶接欠陥のない溶接部を形成するためのレーザ溶接技術について調査検討した。
図1は、レーザ溶接鋼管を製造する際に、レーザビームを1本用いてオープンパイプ1のエッジ部2の接合点をレーザ溶接する例を模式的に示す斜視図である。図1中の矢印Aは、オープンパイプの進行方向を示す。なお、レーザビーム3の照射によって発生する深い空洞(以下、キーホールという)4と、その周辺に形成される溶融メタル5は透視図として示す。
【0012】
レーザビーム3を照射すると、図1に示すように、高密度で集中する熱エネルギーによってエッジ部2が溶融するとともに、その溶融メタル5が蒸発して発生する蒸発圧と蒸発反力によって、溶融メタル5にキーホール4が発生する。キーホール4の内部には、レーザビーム3が侵入し、金属蒸気がレーザビーム3のエネルギーによって電離されて生じた高温のプラズマが充満していると考えられる。
【0013】
このキーホール4は、レーザビーム3の熱エネルギーが最も収斂する位置を示すものである。エッジ部の接合点をキーホール4内に配置することによってレーザ溶接鋼管を安定して製造できる。ただし、エッジ部2の接合点とキーホール4とを一致させるためには、高精度の開先加工技術が必要である。エッジ部2の加工状態および突合せ状態が不安定であると、溶融メタル5が不安定になる。その結果、スパッタが多発し、アンダーカットやアンダーフィル等の溶接欠陥が発生し易くなる。
【0014】
また、スパッタを抑制するために、レーザ溶接や鋼管製造の設定条件を変更しても、鋼板の裏面からのスパッタを同時に抑制することはできず、スパッタ発生量の増大を招くこともある。
さらに、溶接部に加えられるアップセットによって溶融池に応力が働くような状況では、キーホールを維持するために、照射するレーザビームのエネルギーをより一層増大させる必要がある。その結果、スパッタが増加するとともに、開先が十分に溶融せず、アンダーカットやアンダーフィル等の溶接欠陥が発生する。
【0015】
そこで発明者らは、エッジ部2の接合点に2本以上のレーザビームを照射する技術に着目した。その結果、レーザビームの照射位置を適正に配列するとともに、それぞれのレーザビームの照射角度やスポット径等を制御することによって、スパッタの発生を抑制できることが分かった。そして、溶接部のアンダーカットやアンダーフィルを抑制し、かつ溶接効率を低下させることなく良好な品質の溶接部を得るとともに、レーザ溶接鋼管を歩留り良く安定して製造できることが判明した。
【0016】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、鋼板を成形ロールで円筒状のオープンパイプに成形し、オープンパイプのエッジ部をスクイズロールで加圧しながらオープンパイプの外面側からレーザビームを照射してエッジ部をレーザ溶接するレーザ溶接鋼管の製造方法において、それぞれ異なるファイバーを用いて伝送したジャストフォーカスでのスポット径が直径0.3mmを超える2本以上のレーザビームを先行レーザビームと後行レーザビームとに分類し、先行レーザビームを後行レーザビームよりも溶接線方向に先行させ、かつ先行レーザビームと後行レーザビームの鋼板内における中心線間隔を1mm以上として溶接線方向に配列してレーザ溶接を行なうレーザ溶接鋼管の製造方法である。
【0017】
本発明のレーザ溶接鋼管の製造方法においては、先行レーザビームの鋼板の表面におけるスポット径またはスポット長さを、後行レーザビームより大きくしてレーザ溶接を行なうことが好ましい。また、先行レーザビームの鋼板の表面におけるエネルギー密度を、後行レーザビームより小さくしてレーザ溶接を行なうことが好ましい。また、先行レーザビームと後行レーザビームが鋼板内で交差しないように配置してレーザ溶接を行なうことが好ましい。また、先行レーザビームの前進角を5〜50°とし、かつ後行レーザビームの後退角を0〜50°として貫通溶接を行なうことが好ましい。
【0018】
さらに本発明のレーザ溶接鋼管の製造方法においては、レーザ溶接する際に、溶接部に0.2〜1.0mmのアップセットを加えることが好ましい。また、2本以上のレーザビームのレーザ出力が合計16kWを超え、かつ7m/分を超える溶接速度でレーザ溶接を行なうことが好ましい。また、レーザ溶接に先立って鋼板の予熱を行ない、かつレーザ溶接の後で切削または研削を施して溶接ビードを加工することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、レーザ溶接鋼管を製造するにあたって、溶接部のアンダーカットやアンダーフィルを抑制し、かつ溶接効率を低下させることなく良好な品質の溶接部を得ることができる。その結果、レーザ溶接鋼管を歩留り良く安定して製造できる。得られたレーザ溶接鋼管は、シームの低温靭性や耐食性が優れており、寒冷地や腐食環境で使用する油井管やラインパイプに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】1本のレーザビームでオープンパイプのエッジ部の接合点を溶接する例を模式的に示す斜視図である。なお、キーホールとその周囲に形成される溶融メタルを示した透視図として示す。
【図2】本発明を適用して2本以上のレーザビームの照射位置の例を示す平面図である。
【図3】図2(a)に示す先行レーザビームと後行レーザビームの配置の例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明では、2本以上のレーザビームを、それぞれ異なるファイバーを用いて伝送し、オープンパイプの外側から先行レーザビームおよび後行レーザビームをエッジ部に照射する。2本以上のレーザビームを単一のファイバーで伝送すると、後述するスポット径,スポット長さ,エネルギー密度,照射角度等を個別に設定することはできない。そのため、2本以上のレーザビームを、それぞれ異なるファイバーを用いて伝送する必要がある。
【0022】
使用するレーザ発振器は1台でも良いし、あるいは複数台でも良い。レーザ発振器が1台で、2本以上のレーザビームを伝送する場合は、各ファイバーにレーザ光を分割すれば良い。
2本以上のレーザビームのジャストフォーカスでのスポット径は、いずれも直径0.3mmを超える必要がある。ここで、ジャストフォーカスでのスポット径は、レーザビームを光学的に集光させ、レーザビームの焦点平行部のビーム径を指す。つまりジャストフォーカスの位置では、レーザビームを光学的に集束させているので、レーザビームのエネルギー密度が最も高くなる。
【0023】
レーザビームのジャストフォーカスでのスポット径が0.3mm以下では、溶接時の溶接ビードの幅が狭くなり、開先の溶け残りが発生する。また、鋼板の溶融量を増加するためにはレーザ出力を大きくする必要があるので、0.3mm超えとする。一方、スポット径が1mmを超えると、キーホールが安定し難くなる。そのため、レーザビームのジャストフォーカスでのスポット径は1mm以下が好ましい。
【0024】
レーザビームのスポット形状は円形が好ましいが、楕円形であっても良い。スポット形状が楕円形の場合は、短径が0.3mmを超える必要がある。また上記した円形の場合と同様の理由で、短径は1mm以下が好ましい。
溶接線に対してほぼ同一の垂直方向に2本以上のレーザビームを照射する場合は、レーザビームが通過する鋼板内の領域(以下、鋼板内という)の各スポット形状の一部が重複する、もしくは重複しないように照射し、かつ各レーザビームの鋼板表面でのスポット長さ(溶接線に対して垂直方向)を0.4mm以上とすることによって、接合点を溶融池内に配置することが比較的容易に可能となる。ここで、鋼板内は鋼板表面を含むものとする。なお、スポット長さは、レーザビームの一部が重複して連結されたスポット形状の溶接線の垂直方向で最も広幅の部位の長さを指し、レーザビームが重複しない場合は、溶接線の垂直方向で各スポット形状の最も幅の広幅の長さの合計を指す。
【0025】
そして、鋼板内におけるレーザビームの中心線間隔を溶接線方向に1mm以上とする。つまり、先行レーザビームと後行レーザビームとに分類して溶接線方向に配列した各レーザビームの中心線(すなわち照射する光軸方向の中心線)を、溶接線方向に1mm以上の間隔を設けて配列することによって、溶接線方向に伸びた1個の溶融池でのレーザ溶接が可能となる。
【0026】
先行レーザビームに複数本、もしくは、かつ後行レーザビームに複数本のレーザビームを用いる場合、先行レーザビームのうち後行レーザビームに最も近いものの中心線と後行レーザビームのうち先行レーザビームに最も近いものの中心線との溶接線方向の間隔を1mm以上とする。
また、2本以上のレーザビームは、図2(a)〜図2(d)に示すような照射位置の配列が考えられる。図2(a)〜図2(d)は、2本以上のレーザビームの照射位置の例を示す平面図である。図2中の矢印Aはオープンパイプの進行方向を示す。図2(a)は、2本のレーザビームの照射位置の配列を示したもので、溶接方向に先行する先行レーザビーム3-1および後行する後行レーザビーム3-2を溶接線上に配置した例である。図2(b)は、3本のレーザビームの照射位置の配列を示したもので、先行レーザビーム3-1を溶接線上に配置し、後行レーザビーム3-2,3-3を溶接線の両側に配置した例である。図2(c)は、3本のレーザビームの照射位置の配列を示したもので、先行レーザビーム3-1,3-2を溶接線の両側に配置し、後行レーザビーム3-3を溶接線上に配置した例である。図2(d)は、4本のレーザビームの照射位置の配列を示したもので、先行レーザビーム3-1,3-2および後行レーザビーム3-3,3-4を溶接線の両側にそれぞれ配置した例である。
【0027】
なお、2本以上のレーザビームの配列は、図2(a)〜図2(d)に限るものではなく、目的に応じて適宜配列を設定できる。また、本発明に用いるレーザビームの本数は、2本〜4本が好ましい。5本以上のレーザビームは、設備コスト,製造コストやレーザビームの位置制御が複雑になることから好ましくない。
2本以上のレーザビームを、図2(a)〜図2(d)に示すような位置に照射しつつ、所定の位置にエッジ部の接合点を配置するためには高精度の制御技術が必要である。そこで上記の2本以上のレーザビームが形成する溶融メタル内に、エッジ部の接合点を配置するように制御しながらレーザ溶接を行なっても良い。溶融メタルはレーザビームのスポット長さに比べて、パイプの周方向(溶接線に対して垂直方向)の長さが大きいので、比較的容易な技術によって制御できる。
【0028】
図2(a)に示すように、溶接線上に先行レーザビームと後行レーザビームを1本ずつ配置する場合は、先行レーザビーム3-1のスポット径を、後行レーザビーム3-2のスポット径より大きくしてレーザ溶接を行なうことが好ましい。図2(b)に示すように、先行レーザビーム(1本)を溶接線上に配置し、後行レーザビーム(2本)を溶接線の両側に配置する場合は、先行レーザビーム3-1のスポット径を、後行レーザビーム3-2,3-3のスポット長さより大きくしてレーザ溶接を行なうことが好ましい。図2(c)に示すように、先行レーザビーム(2本)を溶接線の両側に配置し、後行レーザビーム(1本)を溶接線上に配置する場合は、先行レーザビーム3-1,3-2のスポット長さを、後行レーザビーム3-3のスポット径より大きくしてレーザ溶接を行なうことが好ましい。図2(d)に示すように、先行レーザビーム(2本)を溶接線の両側に配置し、後行レーザビーム(2本)を溶接線の両側に配置する場合は、先行レーザビーム3-1,3-2のスポット長さを、後行レーザビーム3-3,3-4のスポット長さより大きくしてレーザ溶接を行なうことが好ましい。つまり、先行レーザビームによって溶融池を形成し、その溶融池内に後行レーザビームを照射するために、先行レーザビームのスポット径またはスポット長さを、後行レーザビームのスポット径またはスポット長さより大きくする。
【0029】
先行レーザビームとして溶接線に対してほぼ同一の垂直線上に3本以上のレーザビームを照射し、かつ後行レーザビームとして溶接線に対してほぼ同一の垂直線上に3本以上のレーザビームを照射する場合は、鋼板の表面における溶接線に対して垂直方向の先行レーザビームのスポット長さを、後行レーザビームより大きくしてレーザ溶接を行なうことが好ましい。つまり、先行レーザビームによって溶融池を形成し、その溶融池内に後行レーザビームを照射するために、先行レーザビームのスポット長さを、後行レーザビームより大きくする。
【0030】
図2(c)(d)に示すように、先行レーザビーム(2本)を溶接線の両側に配置する場合は、鋼板の表面における先行レーザビームのスポット長さは0.4mm超えとすることが好ましい。先行レーザビームのスポット長さが0.4mm以下では、後行レーザビームを溶融池内に照射することが困難であり、スパッタが多発し、アンダーカットやアンダーフィル等の溶接欠陥が発生する。
【0031】
また図2(b)(d)に示すように、後行レーザビーム(2本)を溶接線の両側に配置する場合は、鋼板の表面における後行レーザビームのスポット長さは0.3mm超えとすることが好ましい。スポット長さが0.3mm以下では、溶接時の溶接ビードの幅が狭くなり、開先の溶け残りが発生する。
先行および後行のレーザビームにそれぞれ3本以上のレーザビームを用いる場合は、鋼板の表面における各レーザビームの溶接線に対して垂直方向のスポット長さを、先行レーザビームは0.4mm超えとし、後行レーザビームは0.3mm超えとする。このようにして接合点を溶融池内に比較的容易に配置することができる。先行および後行にそれぞれ2本以上のレーザビームを用いる場合、単一のファイバーで転送されたレーザビームを光学系部品で分割して用いても良い。
【0032】
また本発明では、先行レーザビームの鋼板の表面におけるエネルギー密度(2本以上照射する場合はその合計レーザ出力をレーザ照射面積の合計で除したもの)を、後行レーザビームの鋼板表面におけるエネルギー密度(2本以上照射する場合はその合計レーザ出力をレーザ照射面積の合計で除したもの)より小さくしてレーザ溶接を行なうことが好ましい。つまり、先行レーザビームによって溶融池を形成し、その溶融池内に後行レーザビームを照射するにあたって、先行レーザビームによって形成される溶融池からのスパッタの発生を抑制するために、先行レーザビームのエネルギー密度を小さくする。先行レーザビームのエネルギー密度を大きくすると、溶融池からのスパッタが増大し、かつ溶融池の揺動が大きくなる。その結果、後行レーザビームによってスパッタがさらに増大するとともに、アンダーカットやアンダーフィル等の溶接欠陥が多量に発生する。
【0033】
なお、レーザビームのエネルギー密度は、レーザ出力の制御および光学系によるスポット径の制御によって調整することが可能である。
さらに本発明では、先行レーザビームと後行レーザビームが鋼板内(すなわちレーザビームが通過する鋼板内の領域)で交差しないように配置してレーザ溶接を行なうことが好ましい。その理由は、先行レーザビームと後行レーザビームが鋼板内で交差すると、その部位のエネルギー密度が上昇し、鋼板の裏面でのスパッタの発生量が増加し、裏面側にアンダーカットやアンダーフィル等の溶接欠陥が発生するからである。
【0034】
2本以上のレーザビームには、それぞれ照射角度を設けることが好ましい。図3に示すように、溶接の進行方向の前方に照射されるレーザビームと鋼板表面の垂直線とのなす照射角度を前進角θaとし、溶接の進行方向の後方に照射されるレーザビームと鋼板表面の垂直線とのなす照射角度を後退角θbとする。図3中の矢印Bは溶接の進行方向を示すものであり、図2中の矢印Aの逆方向である。
【0035】
たとえば、先行レーザビーム3aと後行レーザビーム3bをそれぞれ1本ずつ照射する場合(図2(a)参照)は、図3に示すように、先行レーザビーム3aを溶接の進行方向の前方に傾斜させて前進角θaで照射し、後行レーザビーム3bを溶接の進行方向の後方に傾斜させて後退角θbで照射することが好ましい。
先行レーザビーム3aの前進角θaは5〜50°とすることが好ましい。先行レーザビームに前進角5°以上を付与することによって、鋼板表面からのスパッタ発生量が減少する。しかし、前進角が50°を超えると、その効果は得られない。
【0036】
先行レーザビームが2本以上の場合(図2(c)(d)参照)は、各先行レーザビームの前進角θaをそれぞれ5〜50°とすることが好ましい。そして、各先行レーザビームの前進角を5〜50°の範囲内の所定の角度に揃えて、各先行レーザビームを平行にすることが一層好ましい。
後行レーザビーム3bの後退角θbは0〜50°とすることが好ましい。後行レーザビームに後退角0°以上を付与することによって、鋼板裏面からのスパッタ発生量が減少する。しかし、後退角が50°を超えると、その効果は得られない。
【0037】
後行レーザビームが2本以上の場合(図2(b)(d)参照)は、各後行レーザビームの後退角θbをそれぞれ0〜50°とすることが好ましい。そして、各後行レーザビームの後退角を0〜50°の範囲内の所定の角度に揃えて、各後行レーザビームを平行にすることが一層好ましい。
レーザ溶接を行なう際には、溶接部に0.2〜1.0mmのアップセットを加えることが好ましい。アップセット量が0.2mm未満では、レーザ溶接によって生じたブローホールを消滅させることができない。一方、1.0mmを超えると、レーザ溶接が不安定になり、スパッタの発生量が増加する。
【0038】
このようなレーザ溶接部に応力が働くような状況において、レーザ溶接時のキーホールを安定させるためには、2本以上のレーザビームを用いて、たとえば図2に示すように配列することが好ましい。
一般にレーザ溶接時に発生するスパッタは、レーザ出力が低いほど、溶接速度が遅いほど少なくなる。しかしながらスパッタの発生を抑えるために、レーザ出力と溶接速度を低下させることは、レーザ溶接鋼管の生産性を低下させることを意味する。そこで本発明では、2本以上のレーザビームのレーザ出力が合計16kWを超え、かつ7m/分を超える溶接速度でレーザ溶接を行なうことが好ましい。レーザ出力が合計16kW以下では、溶接速度が7m/分以下となってしまうので、レーザ溶接鋼管の生産性低下を招く。
【0039】
図1は、1本のレーザビームでオープンパイプのエッジ部の接合点を溶接する例を模式的に示す斜視図であるが、本発明のように2本以上のレーザビームを照射する場合も、オープンパイプ1のエッジ部2をスクイズロール(図示せず)で加圧しながら、オープンパイプ1の外面側からレーザビームを照射する。オープンパイプ1のエッジ部2の接合点は、エッジ部2の板厚方向の平均間隔Gが、スクイズロールにより狭まり、0.5mm以下になった箇所であればどこでも良い。
【0040】
本発明では、厚肉材(たとえば厚さ4mm以上)のオープンパイプであっても、エッジ部の高周波加熱等で予熱することなく、レーザ溶接を行なうことが可能である。ただし、エッジ部を高周波加熱等で予熱すれば、レーザ溶接鋼管の生産性が向上する等の効果が得られる。高周波加熱による予熱を行なえば溶接部に余盛が形成されるが、レーザ溶接の後でその余盛を切削もしくは研削によって除去すれば、溶接部の表面性状が一層良好に仕上がる。
【0041】
本発明で使用するレーザビームの発振機は、様々な形態の発振器が使用でき、気体(たとえばCO2,ヘリウム−ネオン,アルゴン,窒素,ヨウ素等)を媒質として用いる気体レーザ,固体(たとえば希土類元素をドープしたYAG等)を媒質として用いる固体レーザ,レーザ媒質としてバルクの代わりにファイバーを利用するファイバーレーザ等が好適である。あるいは,半導体レーザを使用しても良い。
【0042】
オープンパイプの外面側から補助熱源によって加熱しても良い。その補助熱源は、オープンパイプの外面を加熱し溶融できるものであれば、その構成は特に限定しない。たとえば、バーナ溶解法,プラズマ溶解法,TIG溶解法,電子ビーム溶解法,レーザ溶解法等を利用した手段が好適である。
なお、補助熱源はレーザビームの発振機と一体的に配置することが好ましい。その理由は、補助熱源とレーザを一体的に配置しないと、補助熱源の効果を得るためには大きな熱量が必要となり、また溶接欠陥(たとえばアンダーカットやアンダーフィル等)の抑制が非常に困難になるからである。さらに、補助熱源をレーザビームの発振機より先行させて配置することが一層好ましい。その理由は、エッジ部の水分,油分を除去できるからである。
【0043】
さらに好ましい補助熱源として、アークの使用が好ましい。アークの発生源は、溶融メタルの溶落ちを抑制する方向に電磁力(すなわち溶接電流の磁界から発生する電磁力)を付加できるものを使用する。たとえば、TIG溶接法,プラズマアーク溶接法等の従来から知られている技術が使用できる。なお、アークの発生源はレーザビームと一体的に配置することが好ましい。その理由は、上述したように、アークを発生させる溶接電流の周辺に生じる磁界の影響を、レーザビームで生じた溶融メタルに効果的に与えるためである。さらに、アークの発生源をレーザビームより先行させて配置することが一層好ましい。その理由は、エッジ部の水分,油分を除去できるからである。
【0044】
さらに本発明と、ガスシールド溶接や溶加材添加等の従来から知られている技術とを組み合わせても効果は得られる。このような複合溶接の技術は、溶接鋼管の製造のみならず厚鋼板の溶接にも適用できる。
以上に説明した通り、本発明によれば、レーザ溶接鋼管を製造するにあたってスポット径,スポット長さを適正に保ち、かつ2本以上のレーザビームを適正に配列するとともに、レーザビームの照射角度等のレーザ溶接の条件を制御することによって、溶接部のアンダーカットやアンダーフィルを抑制し、かつ溶接効率を低下させることなく良好な品質の溶接部を得ることができ、レーザ溶接鋼管を歩留り良く安定して製造できる。得られたレーザ溶接鋼管は、レーザ溶接の利点を活かしてシームの低温靭性や耐食性が優れており、寒冷地や腐食環境で使用する油井管やラインパイプに好適である。
【実施例】
【0045】
帯状の鋼板を成形ロールで円筒状のオープンパイプに成形し、そのオープンパイプのエッジ部をスクイズロールで加圧しながら、レーザビームを外面側から照射してレーザ溶接鋼管を製造した。鋼板の成分は表1に示す通りである。
【0046】
【表1】

【0047】
レーザ溶接では、10kWのファバーレーザ発振器を2台使用し、溶接条件は表2に示す通りである。
【0048】
【表2】

【0049】
表2中の溶接鋼管No.1〜4,7〜10は図2(a)のようにレーザビームを配置した例、溶接鋼管No.5,11は図2(b)のようにレーザビームを配置した例、溶接鋼管No.6,12は図2(c)のようにレーザビームを配置した例である。
表2に示す発明例(溶接鋼管No.1〜6)は、レーザビームのジャストフォーカスでのスポット径および中心線間隔が本発明の範囲を満足する例である。比較例の溶接鋼管No.7,8,11,12は、レーザビームの中心線間隔が本発明の範囲を外れる例であり、比較例の溶接鋼管No.9,10は、レーザビームのジャストフォーカスでのスポット径が本発明の範囲を外れる例である。
【0050】
得られたレーザ溶接鋼管を、超音波探傷試験および磁粉探傷に供し、JIS規格G0582およびJIS規格G0565に準拠してシームを20mにわたって探傷した。その探傷結果を表3に示す。なお表3において超音波探傷は、基準となるN5内外面ノッチの人工欠陥に対して、ピーク指示高さが、10%以下のものを優(◎),10%超え25%以下のものを良(○),25%超え50%以下のものを可(△),50%超えのものを不可(×)として評価した。
【0051】
また磁粉探傷は、レーザ溶接鋼管の内面の溶接欠陥を検査し、溶接欠陥が認められないものを優(◎),点状の溶接欠陥が認められたものを可(△),線状の溶接欠陥が認められたものを不可(×)として評価した。その結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3から明らかなように、発明例(溶接鋼管No.1〜6)では、超音波探傷は優(◎)または良(○)であった。また、スパッタの発生に起因するアンダーカットやアンダーフィル等の溶接欠陥も認められなかった。
一方、比較例(溶接鋼管No.7〜12)では、超音波探傷は可(△)または不可(×)であり、磁粉探傷も可(△)または不可(×)であった。また、スパッタの発生に起因するアンダーカットやアンダーフィル等の溶接欠陥も認められた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
レーザ溶接鋼管を製造するにあたって、レーザ溶接鋼管を歩留り良く、安定して製造できるので、産業上格段の効果を奏する。
【符号の説明】
【0055】
1 オープンパイプ
2 エッジ部
3 レーザビーム
3a 先行レーザビーム
3b 後行レーザビーム
4 キーホール(空洞)
5 溶融メタル
6 シーム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を成形ロールで円筒状のオープンパイプに成形し、前記オープンパイプのエッジ部をスクイズロールで加圧しながら前記オープンパイプの外面側からレーザビームを照射して前記エッジ部をレーザ溶接するレーザ溶接鋼管の製造方法において、それぞれ異なるファイバーを用いて伝送したジャストフォーカスでのスポット径が直径0.3mmを超える2本以上のレーザビームを先行レーザビームと後行レーザビームとに分類し、前記先行レーザビームを前記後行レーザビームよりも溶接線方向に先行させ、かつ前記先行レーザビームと前記後行レーザビームの前記鋼板内における中心線間隔を1mm以上として前記レーザ溶接を行なうことを特徴とするレーザ溶接鋼管の製造方法。
【請求項2】
前記先行レーザビームの前記鋼板の表面におけるスポット径またはスポット長さを、前記後行レーザビームより大きくして前記レーザ溶接を行なうことを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接鋼管の製造方法。
【請求項3】
前記先行レーザビームの前記鋼板の表面におけるエネルギー密度を、前記後行レーザビームより小さくして前記レーザ溶接を行なうことを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ溶接鋼管の製造方法。
【請求項4】
前記先行レーザビームと前記後行レーザビームが前記鋼板内で交差しないように配置して前記レーザ溶接を行なうことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ溶接鋼管の製造方法。
【請求項5】
前記先行レーザビームの前進角を5〜50°とし、かつ前記後行レーザビームの後退角を0〜50°として前記レーザ溶接を行なうことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ溶接鋼管の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ溶接を行なう際に、溶接部に0.2〜1.0mmのアップセットを加えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザ溶接鋼管の製造方法。
【請求項7】
前記2本以上のレーザビームのレーザ出力が合計16kWを超え、かつ7m/分を超える溶接速度で前記レーザ溶接を行なうことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のレーザ溶接鋼管の製造方法。
【請求項8】
前記レーザ溶接に先立って前記鋼板の予熱を行ない、かつ前記レーザ溶接の後で切削または研削を施して溶接ビードを加工することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のレーザ溶接鋼管の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−224655(P2011−224655A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76274(P2011−76274)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】