説明

レーザ照射装置およびレーザ加工装置

【課題】ファイバを備えたレーザ照射装置において、出力の低下を抑制しつつ高品質のビームを得ることを可能にする。
【解決手段】光ファイバ(11B,12)は、レーザ光源からのレーザ光を伝送する。光ファイバ(11B,12)は、動きの自由な状態にある自由部位(11B)を有している。さらに光ファイバ12の出射端の近傍において、光ファイバ12はリング状に曲げられている(リング部12A)。光ファイバの出射端近傍において光ファイバが所定の曲率で曲げられていることによって、高次モードの光を除去しなくともレーザ光のビーム形状を良好にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ照射装置およびレーザ加工装置に関し、特に光ファイバを用いたレーザ照射装置およびその照射装置を含む加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工装置には様々な形態があるが、たとえば光ファイバを用いたレーザ加工装置が提案されている。レーザ加工装置の用途、ニーズの多様化に伴い、高出力化、高安定性、高ビーム品質、および小型化などがレーザ加工装置に望まれている。
【0003】
光ファイバを用いたレーザ加工装置を高出力化するためには、ガラスの破壊限界によるファイバ自身の損傷、非線形光学効果によって発生する誘導散乱光によるファイバの破損といった課題がある。これらの問題を回避するために、ファイバのコア径を拡大することによって、コア内でのエネルギー密度を低下させる方法が考えられる。しかしながら、コア径を拡大させた場合には、伝搬されるレーザ光に高次モードの光が含まれることになる。その結果、ファイバの僅かな振動等によりレーザビームの空間強度分布が変動し、レーザビームの安定性を確保することが難しくなる。
【0004】
非特許文献1(Jeffrey P. Koplow, Dahv A. V Kliner, Lew Goldberg, "Single-mode operation of a coiled multimode fiber amplifier", OPTICS LETTERS, Vol.25, No.7, April 1, 2000)では、高次モードのレーザ光を除去する手段を開示する。具体的には、ファイバの曲げによる損失が高次モードのレーザ光で大きいということを利用して、増幅ファイバに極小の巻き部が設けられる。
【0005】
非特許文献2(J. A. Alvarez-Chavez, A. B. Grudinin, J. Nilsson, P. W. Turner and W. A. Clarkson "Mode selection in high power cladding pumped fibre lasers with tapered section", CLEO/QLES '99 Baltimore (23-28 May, 1999) CWE7)も、高次モードのレーザ光を除去する手段を開示する。具体的には、テーパファイバによって、コア径が小さい部分を設ける。
【0006】
また、特許文献1(特開2007−103751号公報)は、曲率の異なるリング部が設けられた光増幅ファイバを開示する。曲率の小さいリング部において高次モードのレーザ光が予め除去され、曲率の大きいリング部においてレーザ光が増幅される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−103751号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jeffrey P. Koplow, Dahv A. V Kliner, Lew Goldberg, "Single-mode operation of a coiled multimode fiber amplifier", OPTICS LETTERS, Vol.25, No.7, April 1, 2000
【非特許文献2】J. A. Alvarez-Chavez, A. B. Grudinin, J. Nilsson, P.W. Turner and W. A. Clarkson "Mode selection in high power cladding pumped fibre lasers with tapered section", CLEO/QLES '99 Baltimore (23-28 May, 1999) CWE7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に開示の手法によれば、レーザ装置のモードを安定化させることは可能である。しかし増幅光の一部が除去されるために、増幅ファイバからの出力が低下するだけでなく、光ファイバが発熱することが懸念される。さらに、極小の巻き部を光ファイバに設けるためには、光ファイバを安定して固定する必要がある。このため装置の製造コストが上昇する。さらに、極小の巻き部を設けることで光ファイバへの負担が大きくなるので、長期間の使用のうちに信頼性が低下することも懸念される。
【0010】
非特許文献2に開示の手法によれば、光の散逸が多くなることによってファイバの出力が低下することが懸念される。さらに、テーパを形成するための加工費が必要になるという課題もある。
【0011】
特許文献1に開示の構成では、実際の使用環境において、リング部の形状の変化、あるいは振動が生じることによって、光増幅ファイバから出射されたレーザ光の空間強度分布が変動し、ビーム径が不安定となる。ビーム径が不安定な場合、レーザ光によって形成された加工痕も一様にならないという課題がある。
【0012】
本発明の目的は、光ファイバを備えたレーザ照射装置において、出力の低下を抑制しつつ高品質のビームを得ることを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のある局面に係るレーザ照射装置は、レーザ光を出射するための出射端を有する光ファイバと、光ファイバを伝搬するレーザ光を発生させるためのレーザ光源とを備える。光ファイバは、動きの自由な状態にある自由部位を有し、かつ出射端の近傍においてリングまたは円弧状に曲げられている。
【0014】
好ましくは、レーザ照射装置は、レーザ光源を含む本体部と、光ファイバの出射端から出射されたレーザ光を対象物に照射するための光学部品を含むヘッド部とを備える。出射端は、ヘッド部の内部に位置する。自由部位は、本体部からヘッド部にレーザ光を伝搬するための部位である。
【0015】
好ましくは、リングまたは円弧の直径は、60mm以上かつ150mm以下である。
好ましくは、直径は、60mm以上かつ120mm以下である。
【0016】
好ましくは、直径は、60mm以上かつ90mm以下である。
好ましくは、レーザ照射装置は、ベース部材と、ファイバガイドとをさらに備える。ファイバガイドは、遮光部材によって作製され、円弧状の外表面を有し、光ファイバを固定するための固定部材が取り付け可能に形成される。光ファイバは、ファイバガイドの外表面に沿って曲げられるとともに、固定部材によって前記ファイバガイドに固定される。外表面と反対側に位置するファイバガイドの内表面側には、ファイバガイドをネジによってベース部材に取り付けるための取付部が設けられる。
【0017】
好ましくは、光ファイバは、出射端の近傍に加え、出射端の近傍と異なる箇所においてリング状または円弧状に曲げられている。
【0018】
好ましくは、光ファイバは、マルチモードファイバである。
好ましくは、光ファイバは、光増幅ファイバを含む。光増幅ファイバは、出射端から出射されるレーザ光を生成するために、信号用レーザ光を励起用レーザ光によって増幅する。レーザ光源は、信号用レーザ光を発生させる第1の光源と、励起用レーザ光を発生させる第2の光源とを含む。
【0019】
好ましくは、レーザ光源は、増幅媒体を含む共振器と、増幅媒体を励起するための励起光を供給する励起光源とを含む。
【0020】
好ましくは、増幅媒体は、光増幅ファイバを含む。
好ましくは、増幅媒体は、固体媒質、液体媒質、および気体媒質のいずれかである。
【0021】
本発明の他の局面に係るレーザ加工装置は、上記のいずれかのレーザ照射装置を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、光ファイバを備えたレーザ加工装置において、出力の低下を抑制しつつ高品質のビームを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1に示すレーザ加工装置のうちのレーザ制御部の構成をより詳細に示す構成図である。
【図3】図2に示した光ファイバ11A,11Bの構造、および、光ファイバ11A,11Bを伝播する光を説明する図である。
【図4】図1に示すレーザ加工装置のうちのレーザヘッド部の構成例を示した図である。
【図5】レーザ光のビーム形状(空間強度分布)を説明するための図である。
【図6】レーザ光の従来の制御手法と本発明の実施の形態による制御手法とを比較するためのフローチャートである。
【図7】光ファイバから出力されるレーザ光のパワーをファイバリングの有無によって比較した図である。
【図8】スポット形状の安定性についての実験結果を示した図である。
【図9】光ファイバのリング部の直径に対する、光ファイバから出射されるレーザ光のパワーおよびビーム径の安定性の関係についての実験結果を示した図である。
【図10】実施の形態2に係るレーザ加工装置が備えるレーザヘッド部の構成をより詳細に示す構成図である。
【図11】実施の形態2に係るレーザヘッド部の曲げ部に関する部分の具体的な構成の例を示した斜視図である。
【図12】図11のA方向から見たレーザヘッド部の一部の斜視図である。
【図13】図11のB方向から見たレーザヘッド部の一部の上面図である。
【図14】ファイバガイドの斜視図である。
【図15】光ファイバ収納ボックスの内部と光ファイバボックスの外部との境界付近における光ファイバの部分を説明するための模式図である。
【図16】実施の形態3に係るレーザ加工装置が備えるレーザ光源の構成をより詳細に示す構成図である。
【図17】実施の形態3に係るレーザ加工装置が備えるレーザ光源の別の構成の一例を示す構成図である。
【図18】実施の形態3に係るレーザ加工装置が備えるレーザ光源のさらに別の構成の一例を示す構成図である。
【図19】実施の形態4に係るレーザ加工装置が備えるレーザ伝送部の構成をより詳細に示す構成図である。
【図20】実施の形態4に係るレーザ加工装置が備えるレーザ伝送部の別の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置の全体構成を示す概略図である。図1を参照して、レーザ加工装置100は、本体部に対応するレーザ制御部110と、レーザヘッド部120と、レーザ制御部110からレーザヘッド部120にレーザ光を伝送するためのレーザ伝送部130とを備える。
【0026】
レーザ制御部110は、レーザ光を発生させるともにそのレーザ光を出射する。レーザ制御部110は、レーザ光源150と、制御基板20と、ドライバ32と、ドライバ用電源30とを含む。レーザ光源150は、ドライバ32により駆動されてレーザ発振を行なう。これによりレーザ光がレーザ光源150から出力される。レーザ発振の条件、レーザ光の出力および出力停止は制御基板20によって制御される。
【0027】
ドライバ用電源30は、ドライバ32に電力を供給することによってドライバ32を動作させる。これによりドライバ32はレーザ光源150を駆動する。
【0028】
制御基板20は、レーザ光源150によるレーザ光の出力および出力停止を制御する。なお、制御基板20は、ドライバ32に対して、ドライバ32の動作および停止を制御してもよい。
【0029】
レーザヘッド部120は、レーザ光Lを被加工物50に向けて照射する。レーザ伝送部130は、レーザ制御部110からのレーザ光をレーザヘッド部120に伝送する。
【0030】
本発明の実施の形態では、レーザ照射装置からの光は物体の加工に用いられる。すなわち本実施の形態では、レーザ照射装置はレーザ加工装置として使用される。したがって本実施の形態に係るレーザ加工装置100はレーザ照射装置を含む。
【0031】
レーザ加工装置100の用途は特に限定されず、たとえばレーザマーキング、ドリリング、溶接、切断、熱処理、形状加工、トリミング等に用いることも可能である。
【0032】
レーザ加工装置を工場の製造ライン等に導入する場合には、レーザ加工装置が小型化であることが特に重要となる。図1に示されるように、本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置は、レーザ発振装置を含むレーザ制御部と、レーザ光の走査機構を含むレーザヘッド部とが分離された構成を有している。このような構成によって、比較的小型なレーザヘッド部120を製造ラインに設置することができる。
【0033】
次に、本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置の具体的な構成について説明する。
[実施の形態1]
図2は、図1に示すレーザ加工装置のうちのレーザ制御部の構成をより詳細に示す構成図である。図2を参照して、レーザ制御部110は、レーザ光源150と、制御基板20と、ドライバ32と、ドライバ用電源30とを含む。レーザ光源150は、光ファイバ1と、半導体レーザ2,3,9A〜9Dと、アイソレータ4,6と、光結合器5,10と、バンドパスフィルタ7とを備える。
【0034】
光ファイバ1は光増幅ファイバである。具体的には、光ファイバ1は希土類添加ファイバであり、光増幅成分である希土類元素が添加されたコアを有する。希土類元素の種類は特に限定されず、たとえばEr(エルビウム)、Yb(イッテルビウム)、Nd(ネオジム)などがある。本発明の実施の形態では、コアに添加された希土類元素はYb(イッテルビウム)である。
【0035】
半導体レーザ2は種光を発する種光源である。種光の波長はたとえば1064±2nmである。半導体レーザ2は、ドライバ32により駆動されて、パルス状の種光を発する。
【0036】
アイソレータ4は一方向の光のみを透過し、その光と逆方向に入射する光を遮断する。具体的には、アイソレータ4は、半導体レーザ2から発せられる種光を通過させるとともに、光ファイバ1からの戻り光を遮断する。これによって半導体レーザ2の損傷を防ぐことができる。
【0037】
半導体レーザ3は、光ファイバ1のコアに添加された希土類元素を励起するための励起光を発する励起光源である。励起光の波長は、光ファイバのコアに添加される希土類元素の種類に基づいて定められる。希土類元素がYbである場合、励起光の波長はたとえば915±10nmである。
【0038】
光結合器5は、半導体レーザ2からの種光および半導体レーザ3からの励起光を結合させて、光ファイバ1に入射させる。光結合器5は、たとえばWDM(Wavelength Division Multiplexing)結合器を適用できる。
【0039】
半導体レーザ3から光結合器5を介して光ファイバ1に入射した励起光は、光ファイバ1のコアに含まれる希土類元素に吸収される。これにより希土類元素が励起され(基底準位から上位準位に遷移され)、反転分布状態が得られる。この状態において、半導体レーザ2からの種光が光ファイバ1のコアに入射すると、誘導放出が生じる。この誘導放出によって種光(パルス光)が増幅される。すなわち光ファイバ1は、種光を励起光によって増幅する。
【0040】
アイソレータ6は、光ファイバ1から出力されたパルス光を通過させるとともに光ファイバ1に戻る光を遮断する。
【0041】
バンドパスフィルタ7は、所定の波長帯の光を通過させるよう構成される。「所定の波長帯」とは、具体的には、光ファイバ1から出力されるパルス光のピーク波長を含む波長帯である。光ファイバ1から自然放出光が放出された場合、その自然放出光はバンドパスフィルタ7により除去される。
【0042】
バンドパスフィルタ7を通過したレーザ光は、光結合器10を介してレーザ伝送部130に入射する。半導体レーザ9A〜9Dは、バンドパスフィルタ7を通過したレーザ光をレーザ伝送部130において増幅するために、励起光を発する。実施の形態1では4個の励起光源が設けられているが、励起光源としての半導体レーザの個数は4個に限定されるものではない。レーザ加工装置100から出力されるレーザ光のパワー、レーザ伝送部130におけるパルス光の増幅率等に基づいて、励起光のパワーおよび励起光源の個数を定めることができる。
【0043】
光結合器10は、バンドパスフィルタ7を通過したパルス光と、半導体レーザ9A〜9Dからの光とを結合してレーザ伝送部130に入射させる。
【0044】
制御基板20は、制御部21と、パルス発生部22とを含む。制御部21は、パルス発生部22およびドライバ32を制御することによって、レーザ制御部110の全体の動作を制御する。パルス発生部22は、所定の繰り返し周波数、および、所定のパルス幅を有する電気信号を発生させる。パルス発生部22は、制御部21の制御により、電気信号を出力したり、電気信号の出力を停止したりする。パルス発生部22からの電気信号は半導体レーザ2に供給される。
【0045】
ドライバ用電源30は、ドライバ32に電力を供給する。これによりドライバ32は半導体レーザ2,3,9A〜9Dに駆動電流を供給する。半導体レーザ2,3,9A〜9Dの各々は駆動電流が供給されることによってレーザ発振する。半導体レーザ2に供給される駆動電流は、パルス発生部22からの電気信号により変調される。これにより半導体レーザ2はパルス発振して、所定の繰り返し周波数および所定のパルス幅を有するパルス光を種光として出力する。一方、半導体レーザ3,9A〜9Dの各々にはドライバ32により連続的な駆動電流が供給される。これにより半導体レーザ3,9A〜9Dの各々は連続発振して、連続光を励起光として出力する。
【0046】
図2には示していないが、半導体レーザの温度を制御するための温度コントローラが各半導体レーザに対応して設けられていてもよい。温度コントローラを用いて半導体レーザの温度を安定させることにより半導体レーザの出力を安定させることができる。さらに、バンドパスフィルタ7および/またはアイソレータ6に対応して温度コントローラが設けられていてもよい。
【0047】
この実施の形態では、光ファイバ11A,11Bの各々に、コアの周囲にクラッドが二重に設けられたダブルクラッドファイバが適用される。
【0048】
図3は、図2に示した光ファイバ11A,11Bの構造、および、光ファイバ11A,11Bを伝播する光を説明する図である。図3を参照して、光ファイバ11Aは、コア41Aと、コア41Aの周囲に設けられ、かつコア41Aよりも屈折率が低い第1クラッド42Aと、第1クラッド42Aの周囲に設けられ、かつ第1クラッド42Aよりも屈折率が低い第2クラッド43Aと、被覆44Aとを含む。
【0049】
光ファイバ11Bは、光ファイバ11Aと同様の構成を有する。具体的に説明すると、光ファイバ11Bは、コア41Bと、コア41Bの周囲に設けられ、かつコア41Bよりも屈折率が低い第1クラッド42Bと、第1クラッド42Bの周囲に設けられ、かつ第1クラッド42Bよりも屈折率が低い第2クラッド43Bと、被覆44Bとを含む。
【0050】
光ファイバ11Aの端面と光ファイバ11Bの端面とは融着されている。バンドパスフィルタ7を通過したパルス光Aは光結合器10を介して光ファイバ11Aのコア41Aに入射する。光ファイバ11Aのコア41Aに入射したパルス光Aは、コア41Aおよび、光ファイバ11Bのコア41Bを伝播して、レーザヘッド部120へ出射される。
【0051】
半導体レーザ9A〜9Dからの励起光Bは、光結合器10を介して光ファイバ11Aの第1クラッド42Aに入射する。励起光Bは、第1クラッド42Aと第2クラッド43Aとの境界で反射しながら光ファイバ11Aを伝播する。光ファイバ11Aを伝播した励起光Bは、光ファイバ11Bの第1クラッド42Bに入射して、第1クラッド42Bと第2クラッド43Bとの境界で反射しながら光ファイバ11Bを伝播する。
【0052】
光ファイバ11Aのコア41Aには希土類元素(具体的にはYb)が実質的に添加されていないため、励起光Bがコア41Aを通過してもコア41Aによる励起光Bの吸収は実質的に生じない。このため、光ファイバ11Aではパルス光Aは実質的に増幅されない。
【0053】
これに対し、光ファイバ11Bのコア41Bには希土類元素(具体的にはYb)が添加されているため、励起光Bがコア41Bを通過した場合、励起光Bの一部がコア41Bに含まれる希土類元素に吸収される。これにより希土類元素が励起されるため、パルス光Aがコア41Bに入射すると、希土類元素の誘導放出によってパルス光Aが増幅される。
【0054】
なお、バンドパスフィルタ7が設けられていなくてもよいが、その場合、光ファイバ1から放出される自然放出光が光ファイバ11A,11Bに入射する。その自然放出光が光ファイバ11Bにより増幅された場合、パルス光Aの増幅率が低下する。光ファイバ1から放出される自然放出光をバンドパスフィルタ7により除去することによって、光ファイバ11Bにおいて高効率の光増幅が可能になる。
【0055】
図4は、図1に示すレーザ加工装置のうちのレーザヘッド部の構成例を示した図である。図4を参照して、レーザヘッド部120は、光ファイバ12と、エンドキャップ13と、コリメートレンズ14と、ダイクロイックミラー15A,15Bと、アイソレータ16と、拡大器17と、ガルバノスキャナ18と、集光レンズ19とを備える。
【0056】
光ファイバ12の入射端は光ファイバ11Bの出射端に光学的に結合される。光ファイバ12の出射端にはエンドキャップ13が設けられる。光ファイバ12は、リング状に巻かれたリング部12Aを有する。なお、本発明の実施の形態では「リング状」とは、光ファイバが円形に1周以上巻かれた状態であり、「円弧状」とは、円周の一部となるように光ファイバが曲げられた状態である。
【0057】
エンドキャップ13は、ピークパワーの高い光パルスが光ファイバ12から大気中に出射される際に、光ファイバ12の端面と大気との境界面で生じるダメージを防止するために設けられる。
【0058】
コリメートレンズ14は、光ファイバ12から出射されたパルス光のビーム径を調整するためのものである。コリメートレンズ14を通過したパルス光は、ダイクロイックミラー15Aによって反射されて、アイソレータ16に入射する。
【0059】
アイソレータ16はダイクロイックミラー15Aからアイソレータ16に入射したパルス光を通過させる一方で、アイソレータ16に戻る光を遮断する。アイソレータ16を通過したパルス光は、アイソレータ16に付随する拡大器17から大気中に出力されてガルバノスキャナ18に入射する。
【0060】
ガルバノスキャナ18はX軸、およびX軸と直交するY軸方向の少なくとも一方の方向にレーザ光を走査する。集光レンズ19は、たとえばfθレンズであり、ガルバノスキャナ18により走査されたレーザ光Lを集光する。被加工物50には、集光レンズ19によって集光されたレーザ光Lが照射される。
【0061】
光ファイバ1および光ファイバ11Bで増幅されたレーザ光を集光レンズ19によって集光することで、被加工物50の表面では、たとえばアブレーションが起こる。ポリマー、セラミックス、ガラス、金属材料等の物体の表面に高いエネルギー密度でレーザ光を照射すると,材料を構成している分子・原子間の結合が瞬時に切れることによる分解、気化、蒸散を経て材料表面が爆発的に除去され、周囲に熱ダメージを与えない極めてシャープな除去が起こる。これがアブレーションと呼ばれる現象である。アブレーションを利用することによって、様々な加工が可能となる。
【0062】
なお、この実施の形態で用いられる光ファイバ1,11A,11Bおよび12は、いずれもマルチモードファイバである。マルチモードファイバは、コア径がシングルモードファイバよりも大きい。コア径が大きいことによって、コア内でのエネルギーを高めることが可能となるので、高パワーのレーザ光をレーザ加工装置で発生させることができる。しかしコア径を大きくすることによって、高次モードのレーザ光もコアを伝播可能になる。モードの数が増えることでレーザ光のビーム形状(空間強度分布)を良好にすることが難しくなる。
【0063】
逆にコア径が小さいほどコアを伝搬するレーザ光のモードが制限される。モードが制限されることによってレーザ光のビーム形状を良好にすることができる。しかしながらコア径が小さいためにレーザ光のパワーを高めることができない。
【0064】
このように従来の考え方では、光ファイバから出射されるレーザ光の高パワー化と、そのレーザ光のビーム形状の安定化とはトレードオフの関係にあるため両立させることはできなかった。
【0065】
さらにレーザ加工装置100は、本体部とヘッド部とがレーザ伝送部130(光ファイバ11A,11B)によって接続された構成を有している。レーザ伝送部130は動きの自由な状態にある部位である。レーザ伝送部130は固定されていないため、レーザ加工装置100からレーザ光が出射されている際に、レーザ伝送部130が動く場合がある。レーザ伝送部130が振動することによって、レーザ伝送部130(光ファイバ)内での光路が変化する。これによって高次モードのレーザ光が発生するため、レーザ加工装置100から最終的に出射されるレーザ光の空間強度分布が変動する可能性が考えられる。
【0066】
図5は、レーザ光のビーム形状(空間強度分布)を説明するための図である。図5(a)は、レーザ光の理想的な空間強度分布およびその強度分布に対応するスポット形状を示した図である。図5(b)は、レーザ光の空間強度分布に揺らぎが生じた場合のスポット形状を示した図である。
【0067】
図5を参照して、レーザ光の空間強度分布は、理想的にはガウス曲線に従って表わされる。したがって空間強度分布が理想的な分布に近い場合、レーザ光が照射された平面においてレーザ光の強度は同心円状に分布する(図5(a))。しかしながらレーザ光の空間強度分布に揺らぎが生じた場合、平面上でのレーザ光の強度は偏った分布となる(図5(b))。このようにレーザ光の強度分布が変動すると、加工品質がばらつく可能性がある。
【0068】
実施の形態1では、レーザ光源150からのレーザ光を伝送する光ファイバ(11A,11B,12)の出射端近傍において、光ファイバは所定の曲率で曲げられている。具体的には、光ファイバ12は、所定の曲率でリング状に曲げられたリング部12Aを有している。光ファイバの出射端近傍において光ファイバが所定の曲率で曲げられていることによって、高次モードの光を除去しなくともレーザ光のビーム形状を良好にすることができる。したがって出力の低下を抑制しつつ高品質のビームを得ることが可能になる。なお、「所定の曲率」とは、光ファイバの曲げ損失が発生しない程度の曲率であり、用いられる光ファイバによって適切に定めることができる。
【0069】
さらに実施の形態1によれば、レーザ伝送部130のように光ファイバの一部が動きの自由な状態にある場合でも、光ファイバから出射されるレーザ光のビーム形状を良好にすることができる。
【0070】
図6は、レーザ光の従来の制御手法と本発明の実施の形態による制御手法とを比較するためのフローチャートである。図6を参照して、ステップS1において、レーザ伝送部が動くことにより光ファイバからの出射ビームの形状が変動するという課題が存在する。コア径を小さくしてVナンバーを2.405以下にするかどうかが検討される(ステップS2)。
【0071】
Vナンバーは下記の式(1)に従って表わされる。
V=2π/λ×NA×a ・・・(1)
λはコアを伝播する光の波長であり、NAは、コアの開口数であり、aは、コア径を示す。Vナンバーが2.405以下であれば、コアを伝搬する光のモードは単一のモードとなる。
【0072】
しかしコア径を小さくする(Vナンバーを2.405以下にする)ことを選択した場合(ステップS2においてYes)、エネルギー密度の高い光がコアを伝搬することが困難となるため高出力化が困難となる(ステップS3)。
【0073】
一方、コア径を小さくしないことを選択した場合(ステップS2においてNo)、コアNAを小さくすることで、Vナンバーを2.405以下にするかどうかが検討される(ステップS4)。式(1)によれば、コアのNAを小さくすることでVナンバーを2.405以下にすることができる。この場合、コア径を小さくすることなくシングルモードの伝搬が可能となるため、高出力化を図りつつビーム形状を安定化することができると考えられる。
【0074】
しかし、コアのNAを小さくすることを選択した場合(ステップS4においてYes)、ダブルクラッドファイバ等の屈折率の制御として、コアの屈折率の制御だけでなく、2層のクラッドの屈折率の制御も必要となる。このため光ファイバの価格が高くなるとともに制御が複雑化することが起こりうる(ステップS5)。
【0075】
コアのNAを小さくしないことを選択した場合(ステップS4においてNo)、マイクロベンディングで高次モードを除去するかどうかが検討される(ステップS6)。マイクロベンディングとは、光ファイバの側面に圧力が加わることにより、光ファイバの軸がコア径に比べて小さい曲率半径で曲がることを指す。マイクロベンディングによって、高次モードの光を除去可能である(たとえば非特許文献1を参照)。しかしながら、マイクロベンディングで高次モードを除去することを選択した場合(ステップS6においてYes)、光ファイバの損失が発生するので、光ファイバの出力が低下する。
【0076】
一方、本発明による制御手法ではコア径を小さくすること、コアNAを小さくすること、マイクロベンディングによる高次モードの除去のいずれも行なうことなく、ビーム形状を安定化できる。したがって高出力化を図りつつビーム形状を安定化することができる。
【0077】
図7は、光ファイバから出力されるレーザ光のパワーをファイバリングの有無によって比較した図である。図7を参照して、グラフの横軸は、励起用LDに供給される駆動電流を示し、グラフの縦軸は光ファイバから出射されるレーザ光の平均出力を示す。図7に示されるようにリング部を光ファイバに設けても出力の低下はほとんど見られない。
【0078】
図8は、スポット形状の安定性についての実験結果を示した図である。この実験では、光ファイバにコア径が15μm、コアNAが0.13であるダブルクラッドファイバを使用した。また、信号光の波長を1064nmとし、レーザ伝送部の光ファイバに約30Wの励起光を入射した。
【0079】
図8を参照して、ビームスポット径は、ビーム強度がそのピーク強度の1/e(eは自然対数の底)以上となる範囲と定義される。また、ビームスポット径の安定性は、ビームスポット径の変動率として定義される。すなわちビームスポット径の安定性を示す数値が低いほど、ビームスポット径の変動が少ない。
【0080】
例1〜例3に示されるように、コアNAによらず、光ファイバの出射端近傍にリング部を設けることで、直線状のファイバに比べてビームスポット径が安定する。また、光ファイバの出射端近傍を所定の曲率で曲げた場合にも、直線状のファイバに比べてビームスポット径が安定する。
【0081】
また、例1〜例3を互いに比較すると、Vナンバーを大きくするほど、光ファイバにリング部あるいは曲げ部を設けることによる、スポット径の安定性の効果が高くなることが分かる。Vナンバーが大きくなることで、光ファイバを伝搬するモードの数を増やすことができるので、光ファイバを伝搬するレーザ光のパワーを高めることができる。
【0082】
図9は、光ファイバのリング部の直径に対する、光ファイバから出射されるレーザ光のパワーおよびビーム径の安定性の関係についての実験結果を示した図である。この実験は、図8に示した結果を得たときの条件を用いて行なった。図9を参照して、光ファイバから出射されるレーザ光のパワーは、リングなしの場合、リング部の直径が150mm、120mm、90mm、60mmの各場合で殆ど変化しない。これに対して、ビーム径の安定性(Stability)を示す数値は、リングなしの場合またはリング部の直径が150mmには、約1.2%であるのに対し、リング部の直径が120mm以下では1.0%以下となる。特に、リング部の直径が90mm以下では、ビーム径の安定性を示す数値は約0.8%となる。
【0083】
図9から、リング部の直径は、60mm以上かつ150mm以下であることが好ましい。リング部の直径を150mmより大きくすると、ビーム径の安定性は、リング部が無い場合とほとんど変わらなくなる。一方、リング部の直径を60mm以下にすると、光ファイバを曲げることが難しくなる。より好ましくは、リング部の直径は、60mm以上かつ120mm以下である。リング部の直径をこの範囲内に設定することで、ビーム径の安定性をより高めることができる。さらに好ましくは、リング部の直径は、60mm以上かつ90mm以下である。リング部の直径をこの範囲内に設定することで、ビーム径の安定性をさらに高めることができる。
【0084】
このように実施の形態1では、光ファイバの出射端近傍において光ファイバが曲げられる。より具体的には、光ファイバは、その出射端近傍においてリング状に曲げられる。これにより、レーザ加工装置の高出力化とビーム品質の向上とを図ることができる。
【0085】
[実施の形態2]
実施の形態2に係るレーザ加工装置は、レーザヘッド部の構成の点で実施の形態1に係るレーザ加工装置と異なっている。
【0086】
図10は、実施の形態2に係るレーザ加工装置が備えるレーザヘッド部の構成をより詳細に示す構成図である。図10および図4を参照して、実施の形態2に係るレーザヘッド部120Aは、円弧状に曲げられた曲げ部12Bが光ファイバ12に設けられる点で実施の形態1に係るレーザヘッド部120と異なる。曲げ部12Bの曲率半径の2倍を曲げ部12Bの直径と定義する。曲げ部12Bの直径の範囲は、実施の形態1に係るリング部12Aの直径の範囲と同じである。すなわち曲げ部12Bの直径は、60mm以上かつ150mm以下であり、より好ましくは60mm以上かつ120mm以下であり、さらに好ましくは、60mm以上かつ90mm以下である。
【0087】
図11は、実施の形態2に係るレーザヘッド部の曲げ部に関する部分の具体的な構成の例を示した斜視図である。図12は、図11のA方向から見たレーザヘッド部の一部の斜視図である。図13は、図11のB方向から見たレーザヘッド部の一部の上面図である。
【0088】
図11〜図13を参照して、レーザヘッド部120Aは、底面ベース60と、ファイバ収納ボックス61と、ファイバガイド62と、側面ベース68とを備える。ファイバガイド62は底面ベース60に取り付けられる。ファイバ収納ボックス61は、側面ベース68に取り付けられる。
【0089】
ファイバ収納ボックス61の中には光ファイバ12が収納されている。ファイバ収納ボックス61から引き出された光ファイバ12は樹脂製のチューブ63の中に挿入されている。ファイバ収納ボックス61において光ファイバ12が引き出される部分には、樹脂製のブッシング67が設けられる。ブッシング67には貫通孔が形成され、その貫通孔からチューブ63に通された光ファイバ12が引き出される。
【0090】
ファイバ収納ボックス61から引き出された光ファイバ12はファイバガイド62の外表面に沿って曲げられ、結束バンド64によってファイバガイド62の外表面に固定される。ファイバガイド62の外表面は円弧状に曲げられている。したがって、上記の範囲内の直径を有する曲げ部12が形成される。結束バンド64は、光ファイバ12をファイバガイド62に固定するための固定部材として機能する。なお、結束バンド64は、固定部材の1つの実施形態として図11〜図13に示されているが、光ファイバ12をファイバガイド62に固定することが可能な部材であれば固定部材として適用可能である。
【0091】
ファイバガイド62は、遮光部材により形成される。曲げ部12で漏れ光が発生した場合にも、ファイバガイド62によって、その漏れ光がレーザヘッドの内部に進入することを防ぐことができる。なお、ファイバガイド62の材質は特に限定されず、たとえば金属(一例としてアルミニウム)、あるいは難燃性の樹脂などによって作成することができる。
【0092】
チューブ63は、ファイバ収納ボックス61からアイソレータ13までの間の光ファイバ12の部分を隙間なく覆っている。チューブ63は光ファイバ12が損傷することを防ぐためのものである。たとえば結束バンド64が光ファイバ12に直接接触した場合、あるいは光学調整時に調整用の工具が光ファイバ12に直接接触した場合には、光ファイバ12が損傷する可能性がある。チューブ63が光ファイバ12を覆うことによって、そのような光ファイバ12の損傷を防ぐことができる。
【0093】
図14は、ファイバガイドの斜視図である。図13および図14を参照して、結束バンド64を通すための1対の孔65がファイバガイド62の3カ所に設けられる。なお、1対の孔65の位置および個数は図13、図14に示すように限定されるものではない。
【0094】
ファイバガイド62の内側には、ネジ(図11〜図14には示さず)を通すための貫通孔が形成された取付部66が形成される。取付部66に形成された貫通孔にネジを通し、そのネジを底面ベース60に形成されたネジ穴と螺合することでファイバガイド62が底面ベース60に固定される。
【0095】
上記のように、ファイバガイド62の外表面に光ファイバ12が取り付けられる。ファイバ62の内側に取付部66を設けることによって、光ファイバ12に工具が接触することを避けつつファイバガイド62を底面ベース60に着脱することができるので、光学調整時などにおいて作業性を高めることができる。
【0096】
図15は、光ファイバ収納ボックスの内部と光ファイバ収納ボックスの外部との境界付近における光ファイバの部分を説明するための模式図である。図15を参照して、光ファイバ12が入ったチューブ63は、ブッシング67に形成された貫通孔に通される。チューブ63は、ブッシング67に固定されておらず、ブッシング67に形成された貫通孔内で自由に回転可能となっている。チューブ63が、ブッシング67で完全に固定されている(回転可能でない)場合には、組み立て時にチューブ63にねじれが発生する可能性がある。ブッシング67に形成された貫通孔内で自由に回転可能であるため、このような問題を防ぐことができる。さらにブッシング67がダンパとして機能するので、光ファイバ12に過度の衝撃が加わることによる光ファイバ12の損傷を防ぐこともできる。
【0097】
なお、ファイバガイド62を筒状に形成し、その外表面に沿って光ファイバ12を巻いてもよい。これにより、リング状の曲げ部を形成することもできる。
【0098】
実施の形態2に係るレーザヘッド部120Aの他の部分の構成は、図4に示したレーザヘッド部120の対応する部分の構成と同様であるので以後の説明は繰り返さない。
【0099】
図8に示されるように、光ファイバに曲げ部を設けた場合にも、直線状の光ファイバに比較してビームスポットの径が安定する効果が高くなる。Vナンバーが大きいほど、ファイバに曲げ部を設けることで、ビームスポット径の安定性が高くなる。
【0100】
すなわち実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に、光ファイバの出射端近傍に曲げ部を設けることで、光ファイバから出射されるレーザ光のパワーを高めつつ、レーザビームの品質を安定させることができる。
【0101】
[実施の形態3]
実施の形態3に係るレーザ加工装置は、レーザ光源の構成の点で実施の形態1に係るレーザ加工装置と異なっている。
【0102】
図16は、実施の形態3に係るレーザ加工装置が備えるレーザ光源の構成をより詳細に示す構成図である。図16および図2を参照して、レーザ光源150Aは、光ファイバ1と、半導体レーザ2,3と、アイソレータ4,6と、光結合器5と、バンドパスフィルタ7とが省略されている点においてレーザ光源150と異なる。すなわちレーザ光源150Cは、半導体レーザ9A〜9Dと光結合器10とを備える。なお、レーザヘッド部120の構成は図4に示した構成と同様である。
【0103】
レーザ伝送部130Aは、ファイバブラッググレーティング8A,8Bが光ファイバ11Bの両端に設けられている点においてレーザ伝送部130と異なる。ファイバブラッググレーティング8A,8Bおよび光ファイバ11Bはファイバ共振器を構成する。この構成では、半導体レーザ9A〜9Dおよびファイバ共振器によって、本発明に係るレーザ照射装置の「レーザ光源」が実現され、光ファイバ11Bに光学的に結合された光ファイバ12(図4参照)が、レーザ光源からのレーザ光を伝送する。
【0104】
ファイバブラッググレーティング8Aは、半導体レーザ9A〜9Dからの励起光を透過させる。この励起光によって光ファイバ11Bが励起され、光ファイバ11Bの内部で誘導放出光が発生する。ファイバブラッググレーティング8Aは、光ファイバ11Bにおいて発生した誘導放出光を反射させる。ファイバブラッググレーティング8Bは、光ファイバ11Bにおいて発生した誘導放出光の一部を透過させる。
【0105】
このように、本発明の実施の形態では、ファイバ共振器を備えるレーザ光源をレーザ加工装置に用いることができる。なお、レーザ光源の構成は、上記の構成に限定されるものではない。以下に、本発明の実施の形態に適用可能なレーザ光源の一例を示す。
【0106】
図17は、実施の形態3に係るレーザ加工装置が備えるレーザ光源の別の構成の一例を示す構成図である。図17を参照して、レーザ光源150Bは、Qスイッチを用いたレーザ発振器である。図17および図2を比較すると、レーザ光源150Bは、半導体レーザ2、アイソレータ4およびバンドパスフィルタ7が省略されている点においてレーザ光源150と異なる。さらに、レーザ光源150Bは、Qスイッチ8Cおよび、ファイバブラッググレーティング8D,8Eを備える点においてレーザ光源150と異なる。
【0107】
半導体レーザ3は、光ファイバ1(希土類添加ファイバ)のコアに添加された希土類元素を励起するための励起光を出力する。励起光は、光結合器5およびファイバブラッググレーティング8D、Qスイッチ8Cを介して光ファイバ1に入射する。ファイバブラッググレーティング8Dは、その励起光を透過させるとともに、光ファイバ1から出力される誘導放出光を反射させる。一方、ファイバブラッググレーティング8Eは、光ファイバ1から出力される誘導放出光の一部を透過させる。
【0108】
Qスイッチ8Cは、制御部21によりオンオフ制御される。Qスイッチ8Cには、たとえば高速でオンオフの動作が可能な電気光学素子(E/O素子)や音響光学素子(A/O素子)が用いられる。光ファイバ1の励起によって光ファイバ1にエネルギーが蓄積された状態において、Qスイッチ8Cがオンされる。これにより光ファイバ1の誘導放出が生じてパルス光が出射される。このように図17に示された構成は、ファイバ共振器がレーザ制御部内に設けられている点で図16に示された構成と異なっている。
【0109】
さらに、共振器の構成は図16および図17に示した構成に限定されるものではない。図18は、実施の形態3に係るレーザ加工装置が備えるレーザ光源のさらに別の構成の一例を示す構成図である。図18を参照して、レーザ光源150Cは、固体レーザ共振器200を有する。固体レーザ共振器200は、レーザ媒質201と、励起光源202,203と、反射ミラー204と、出射ミラー205と、Qスイッチ206と、集光レンズ207とを含む。
【0110】
レーザ媒質201は、固体媒質であり、たとえばNd:YAG結晶である。励起光源202,203は、レーザ媒質201を励起するための励起光をレーザ媒質201に照射する。Qスイッチ206は制御部21によって周期的にオンオフされる。これにより固体レーザ共振器200から種光としてパルス光が繰り返して出射される。
【0111】
出射ミラー205から出射した種光(パルス光)は、集光レンズ207により集光されるとともに光ファイバ1に入射する。種光は光結合器10によって、半導体レーザ9A〜9Dから出射された励起光と結合されてレーザ伝送部130(光ファイバ11A)に入射する。
【0112】
なお、固体レーザに代えて、色素レーザあるいは気体レーザを用いてもよい。色素レーザの場合、レーザ媒質として、色素を有機溶媒に溶かした液体媒質が用いられる。気体レーザの場合、レーザ媒質としてたとえばCOガス、Arガスなどの気体媒質が用いられる。
【0113】
図10〜図18の各々に示されたレーザヘッド部120の構成は図4に示した構成と同様である。ただし実施の形態3に係るレーザ加工装置は、レーザヘッド部120に代えて図10に示したレーザヘッド部120Aを備えてもよい。さらにレーザヘッド部120Aの具体的構成としては図11〜図15に示した構成を適用できる。すなわち、実施の形態3においても、光ファイバの出射端近傍において、光ファイバが所定の曲率でリング状あるいは円弧状に曲げられている。実施の形態3によれば、レーザ光源の種類を限定することなく、ファイバを備えるレーザ加工装置の高出力化とビーム品質の向上とを図ることができる。
【0114】
[実施の形態4]
実施の形態4に係るレーザ加工装置は、レーザ伝送部の構成の点で実施の形態1に係るレーザ加工装置と異なっている。
【0115】
図19は、実施の形態4に係るレーザ加工装置が備えるレーザ伝送部の構成をより詳細に示す構成図である。図19および図2を参照して、実施の形態4に係るレーザ加工装置はレーザ伝送部130Bを有する。レーザ伝送部130Bの光ファイバ11Bに、リング部11Cが設けられる。この点においてレーザ伝送部130Bはレーザ伝送部130と異なる。
【0116】
実施の形態4に係るレーザ加工装置の他の部分の構成は、図2に示したレーザ加工装置の対応する部分の構成と同様である。すなわち、実施の形態4に係るレーザ加工装置においても、光ファイバの出射端近傍において光ファイバがリング状に曲げられている。実施の形態4では、光ファイバは、その出射端の近傍だけでなく、他の部分(光ファイバの途中の部分、すなわち光ファイバ11B)でも曲げられている。このように光ファイバが曲げられた箇所は1つに限定されるものではなく、光ファイバの出射端近傍を含む複数の箇所であってもよい。また、各箇所において、光ファイバはリング状に曲げられてもよいし、円弧状に曲げられてもよい。
【0117】
実施の形態4によれば、実施の形態1と同様に、光ファイバの出射端近傍において光ファイバが曲げられているので、レーザ加工装置の高出力化とビーム品質の向上とを図ることができる。
【0118】
たとえばレーザ加工装置の配置場所によっては、レーザ制御部と、レーザ本体部との距離を近づけなければならない場合が起こりうる。この場合、たとえばレーザ伝送部である光ファイバが曲げられる。このような場合であっても、光ファイバの出射端近傍において光ファイバが曲げられているので、レーザ加工装置の高出力化とビーム品質の向上とを図ることができる。すなわち、レーザ加工装置の配置場所によらず、レーザビームの品質を安定させることができる。
【0119】
図20は、実施の形態4に係るレーザ加工装置が備えるレーザ伝送部の別の構成を示す構成図である。図20を参照して、光ファイバ11B(すなわち光増幅ファイバ)の出射端はレーザヘッド部120Bの内部に導入され、エンドキャップ13が光ファイバ11Bの出射端に接続される。さらに光ファイバ11Bの出射端はリング状に曲げられている(リング部11C)。すなわち、光ファイバ12がレーザヘッド部内に設けられていない点で、レーザヘッド部120Bの構成は、図3に示したレーザヘッド部120の構成と異なる。このような構成であっても、光ファイバの出射端近傍において光ファイバが曲げられているので、レーザ加工装置の高出力化とビーム品質の向上とを図ることができる。
【0120】
なお、実施の形態4に係るレーザ加工装置が備えるレーザ光源として、実施の形態3に係る各種のレーザ光源を適用することもできる。
【0121】
さらに、本発明は、レーザ光源、レーザ光源からのレーザ光を伝送する光ファイバおよび被加工物に対して光ファイバから出射されたレーザ光を照射するための光学系が一体化された装置にも適用できる。このような装置でも、光ファイバの一部が固定されていないことがある。たとえば装置内部を冷却するために冷却風が装置内部に導入された場合、その固定されていない部分が振動する可能性がある。光ファイバが振動した場合、上記のようにビームのスポット径が変動するという問題が生じ得る。したがって上記の構成を有する装置にも本発明を適用することができる。
【0122】
また、本発明の実施の形態では、マルチモードファイバが用いられる。ただし本発明に適用可能な光ファイバはマルチモードファイバに限定されるものではなく、シングルモードファイバであってもよい。
【0123】
また、本発明の実施の形態では、光ファイバとしてダブルクラッドファイバが用いられる。ただし本発明に適用可能な光ファイバはダブルクラッドファイバに限定されるものではなく、シングルクラッドファイバであってもよい。また、ダブルクラッドファイバとシングルクラッドファイバとの両方を用いてもよい。
【0124】
また、本発明の実施の形態では、レーザヘッド部から照射されるレーザ光は被加工物の加工に用いられる。しかし、本発明に係るレーザ照射装置を加工以外の目的で使用することも可能である。たとえばセンサ、光ピンセット、レーザ加速器、レーザ顕微鏡、あるいはレーザ医療装置、核融合装置等に本発明に係るレーザ照射装置を用いることもできる。したがって本発明に係るレーザ照射装置はレーザ加工装置に限定されず、様々な分野への適用が可能である。
【0125】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0126】
1,11A,11B,12 光ファイバ、2,3,9A〜9D 半導体レーザ、4,6,16 アイソレータ、5,10 光結合器、7 バンドパスフィルタ、8A,8B,8D,8E ファイバブラッググレーティング、8C,206 Qスイッチ、11C,12A リング部、12B 曲げ部、13 エンドキャップ、14 コリメートレンズ、15A,15B ダイクロイックミラー、17 拡大器、18 ガルバノスキャナ、19,207 集光レンズ、20 制御基板、21 制御部、22 パルス発生部、30 ドライバ用電源、32 ドライバ、41A,41B コア、42A,42B 第1クラッド、43A,43B 第2クラッド、44A,44B 被覆、50 加工物、60 底面ベース、61 ファイバ収納ボックス、62 ファイバガイド、63 チューブ、64 結束バンド、65 孔、66 取付部、67 ブッシング、68 側面ベース、100 レーザ加工装置、110 レーザ制御部、120,120A,120B レーザヘッド部、130,130A,130B レーザ伝送部、150,150A,150B,150C レーザ光源、200 固体レーザ共振器、201 レーザ媒質、202,203 励起光源、204 反射ミラー、205 出射ミラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出射するための出射端を有する光ファイバと、
前記光ファイバを伝搬する前記レーザ光を発生させるためのレーザ光源とを備え、
前記光ファイバは、動きの自由な状態にある自由部位を有し、かつ前記出射端の近傍においてリングまたは円弧状に曲げられている、レーザ照射装置。
【請求項2】
前記レーザ照射装置は、
前記レーザ光源を含む本体部と、
前記光ファイバの前記出射端から出射されたレーザ光を対象物に照射するための光学部品を含むヘッド部とを備え、
前記出射端は、前記ヘッド部の内部に位置し、
前記自由部位は、前記本体部から前記ヘッド部にレーザ光を伝搬するための部位である、請求項1に記載のレーザ照射装置。
【請求項3】
前記リングまたは円弧の直径は、60mm以上かつ150mm以下である、請求項1または2に記載のレーザ照射装置。
【請求項4】
前記直径は、60mm以上かつ120mm以下である、請求項3に記載のレーザ照射装置。
【請求項5】
前記直径は、60mm以上かつ90mm以下である、請求項4に記載のレーザ照射装置。
【請求項6】
前記レーザ照射装置は、
ベース部材と、
遮光部材によって作製され、円弧状の外表面を有し、前記光ファイバを固定するための固定部材が取り付け可能に形成されたファイバガイドとをさらに備え、
前記光ファイバは、前記ファイバガイドの前記外表面に沿って曲げられるとともに、前記固定部材によって前記ファイバガイドに固定され、
前記外表面と反対側に位置する前記ファイバガイドの内表面側には、前記ファイバガイドをネジによって前記ベース部材に取り付けるための取付部が設けられる、請求項1に記載のレーザ照射装置。
【請求項7】
前記光ファイバは、前記出射端の近傍に加え、前記出射端の近傍と異なる箇所においてリング状または円弧状に曲げられている、請求項1から6のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項8】
前記光ファイバは、マルチモードファイバである、請求項1から7のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項9】
前記光ファイバは、
前記出射端から出射されるレーザ光を生成するために、信号用レーザ光を励起用レーザ光によって増幅する光増幅ファイバを含み、
前記レーザ光源は、
前記信号用レーザ光を発生させる第1の光源と、
前記励起用レーザ光を発生させる第2の光源とを含む、請求項1から8のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項10】
前記レーザ光源は、
増幅媒体を含む共振器と、
前記増幅媒体を励起するための励起光を供給する励起光源とを含む、請求項1から8のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項11】
前記増幅媒体は、光増幅ファイバを含む、請求項10に記載のレーザ照射装置。
【請求項12】
前記増幅媒体は、固体媒質、液体媒質、および気体媒質のいずれかである、請求項10に記載のレーザ照射装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載のレーザ照射装置を備える、レーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−234978(P2012−234978A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102797(P2011−102797)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】