説明

レーザ装置及びレーザ光の調整方法

【課題】キーホールの形成を抑えつつワークを溶融加工することができるレーザ装置及びレーザ光の調整方法を提供する。
【解決手段】レーザ光出力部12から出力された第1〜第3ファイバレーザ光FB1、FB2、FB3のそれぞれを集光レンズ62の中心Nから外れた別の位置に入射する。この時、第1〜第3ファイバレーザ光FB1、FB2、FB3は、周方向に120°ずつ離間した状態で集光レンズ62に入射されるように設定されている。また、集光レンズ62にて集光された第1〜第3ファイバレーザ光FB1、FB2、FB3は、合成ファイバ54のコア72の入射端面61の垂線Lに対して交叉した状態で合成ファイバ54のコア72の中心に入射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを用いるレーザ装置及びレーザ光の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザ光の高出力化を行う方法として、例えば複数の発振器を連結させる方法が知られている。複数の発振器から出射されたレーザ光を結合するには、複数本の光ファイバを接着剤等によって束ねるバンドルファイバを利用する方法や、複数本の光ファイバを束ねた後に融着して1本の光ファイバにする方法等が広汎に知られている。しかし、前記バンドルファイバを利用する場合、光ファイバ内を伝搬するレーザ光が発する熱で前記接着剤が焼損してレーザ光のビーム品質が劣化することがある。また、複数本の光ファイバを融着する場合、例えば、直径100μm以下の光ファイバを束ねることが困難であった。
【0003】
上記問題点を解消しつつ高出力のレーザ光を得るものとして、3本のレーザ光を1枚の光ファイバ入射レンズにて1点に集光するとともに光ファイバに入射し、前記光ファイバを伝搬して合成されたレーザ光を加工光学系で集光してワークを加工する方法(特許文献1参照)や、4本のレーザ光を凸レンズにてクラッド励起レーザーファイバの端面に集光して前記クラッド励起レーザーファイバのコアにドープされた希土類元素を励起して高出力のレーザ光を出射するレーザ装置(特許文献2参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−231175号公報
【特許文献2】特開2003−309309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、光ファイバ入射レンズに対する3本のレーザ光の入射位置が明確に記載されていない。そのため、特許文献1において、3本のレーザ光のいずれか1本を前記光ファイバ入射レンズの中心に入射した場合、前記光ファイバから出射されるレーザ光が断面円形状となるので、ワークの加工点におけるレーザ光のビームプロファイルがガウス分布になる。このようなガウス分布のビームプロファイルを有するレーザ光を用いて、例えば、アルミニウム等の熱伝導率の高い材料で構成されたワークを加工する場合、加工点において、レーザ光の中心部分の強度が高いために該ワークの一部にキーホールが形成されることがある。このようにキーホールが形成される加工では、レーザ加工中にスプラッシュ(飛び散り)が発生する。このスプラッシュによって飛び散った材料が加工点やその付近に再度付着する等といった問題が発生するおそれがある。なお、特許文献2の装置を用いて該ワークを溶融加工する場合にも、加工点におけるビームプロファイルがガウス分布になるので、キーホールの形成が起こり得る。
【0006】
そこで、本発明は、キーホールの形成を抑えつつワークを溶融加工することができるレーザ装置及びレーザ光の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の本発明に係るレーザ装置は、レーザ光を出力するレーザ光出力部と、前記レーザ光出力部から出力されたレーザ光を集光する集光レンズと、該集光レンズによって集光されたレーザ光が入射するコアを有する光ファイバと、を備え、前記レーザ光出力部から出力されたレーザ光が前記集光レンズの中心から外れた位置に入射され、かつ前記集光レンズによって集光されたレーザ光が前記コアの端面の垂線に対して交叉した状態で入射されるように前記レーザ光出力部、前記集光レンズ及び前記光ファイバが設定されていることを特徴とする。
【0008】
アルミニウム等の熱伝導率の高い材料で構成されたワークをレーザ光で溶融加工する場合、レーザ光をコリメートレンズにて平行化した状態で加工用集光レンズにてワークに集光するのが通例である。
【0009】
第1の本発明に係るレーザ装置によれば、レーザ光出力部から出力されたレーザ光を集光レンズの中心から外れた位置に入射し、前記集光レンズによって集光されたレーザ光を光ファイバの端面の垂線に対して交叉した状態で前記光ファイバの前記コアに入射しているので、前記光ファイバの前記コアに入射されたレーザ光が該コア内を多数回反射しながら伝搬する。そのため、光ファイバから出射されたレーザ光は、前記コリメートレンズにて平行化された状態で断面ドーナツ形状となる。従って、断面ドーナツ形状のレーザ光が前記加工用集光レンズにてワークに集光されることになるので、加工点において、レーザ光のビームプロファイルがトップハット形状となる。つまり、加工点におけるレーザ光は、中心部分の強度が抑えられた径方向に幅広いプロファイルとなる。これにより、キーホールの形成を抑えつつワークを溶融加工することができる。よって、レーザ加工中にスプラッシュが発生することを防止できる。
【0010】
第2の本発明に係るレーザ装置は、3本のレーザ光を出力するレーザ光出力部と、前記レーザ光出力部から出力された3本のレーザ光を集光する集光レンズと、前記集光レンズによって集光されたレーザ光が入射するコアを有する光ファイバと、前記レーザ光出力部と前記集光レンズとの間の光路に設けられ、前記レーザ光出力部から出力された3本のレーザ光のそれぞれが前記集光レンズの中心から外れた別の位置に入射されるようにレーザ光の光路を調整する光路調整手段と、を備え、前記集光レンズによって集光されたレーザ光が前記コアの端面の垂線に対して交叉した状態で入射されるように前記集光レンズ及び前記光ファイバが設定されていることを特徴とする。
【0011】
第2の本発明に係るレーザ装置によれば、レーザ光出力部から出力された3本のレーザ光のそれぞれを集光レンズの中心から外れた別の位置に入射するので、高出力のレーザ光を容易に生成しつつ、上述した第1の本発明に係るレーザ装置の効果と同様の効果を奏する。
【0012】
第1の本発明に係るレーザ装置の一形態において、前記レーザ光出力部は、複数本のレーザ光が出力されるように構成されており、前記レーザ光出力部と前記集光レンズとの間の光路に設けられ、かつ前記レーザ光出力部から出力された複数本のレーザ光のそれぞれが前記集光レンズの中心から外れた別の位置に入射されるようにレーザ光の光路を調整する光路調整手段をさらに備えてもよい。
【0013】
この形態によれば、複数本のレーザ光を用いることで高出力のレーザ光を容易に生成することができる。
【0014】
第2の本発明に係るレーザ装置の一形態において、前記光路調整手段は、前記レーザ光出力部から出力された3本のレーザ光が周方向に等角度離間した状態で前記集光レンズに入射されるようにレーザ光の光路を調整してもよい。
【0015】
この形態によれば、3本のレーザ光が周方向に等角度離間した状態で集光レンズに入射されるので、3本のレーザ光が周方向に等角度離間していない状態で集光レンズに入射される場合と比較して、コリメートレンズにて平行化された断面ドーナツ形状のレーザ光の強度分布を一層均一にすることができる。これにより、ワークへのキーホールの形成を効果的に抑えることができる。
【0016】
本発明に係るレーザ光の調整方法は、レーザ光出力部から出力された3本のレーザ光を集光レンズにて光ファイバのコアに集光するレーザ光の調整方法であって、前記レーザ光出力部から出力された3本のレーザ光のそれぞれを前記集光レンズの中心から外れた別の位置に入射し、前記集光レンズによって集光されたレーザ光を前記コアの端面の垂線に対して交叉した状態で入射することを特徴とする。
【0017】
本発明に係るレーザ光の調整方法によれば、上述した第2の本発明に係るレーザ装置の効果と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、レーザ光出力部から出力されたレーザ光を集光レンズの中心から外れた位置に入射し、前記集光レンズによって集光されたレーザ光を光ファイバのコアの端面の垂線に対して交叉した状態で前記光ファイバの前記コアに入射しているので、光ファイバから出射されたレーザ光は、前記コリメートレンズにて平行化された状態で断面ドーナツ形状となる。従って、加工点において、レーザ光のビームプロファイルがトップハット形状となるので、キーホールの形成を抑えつつワークを溶融加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザ装置の要部を示したブロック図である。
【図2】図1に示す調整機構の内部構造を示すブロック図である。
【図3】図2に示す調整機構を図2の矢印Y方向から見たブロック図である。
【図4】前記調整機構に設けられる集光レンズの正面説明図である。
【図5】図2及び図3に示す合成ファイバの概略断面説明図である。
【図6】コリメートレンズにて平行化された出射光の概略断面説明図である。
【図7】加工用集光レンズの温度分布を示す特性曲線図である。
【図8】加工用集光レンズの出射光の透過方向に沿った概略断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るレーザ装置の一実施形態について図1〜図8を参照しながら説明する。
【0021】
本実施形態に係るレーザ装置は、複数のレーザ光を光ファイバにて合成することで高出力のレーザ光を出射する装置であり、ワークの加工、溶接又は切断等に用いられる。なお、ワークとしては、熱伝導率が高い金属材料、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等を用いることができる。
【0022】
図1に示すように、レーザ装置10は、3本のレーザ光を出力するレーザ光出力部12と、3本のレーザ光を伝送する伝送部14と、伝送部14にて伝送された3本のレーザ光を1本のレーザ光に合成する合成部16と、合成されたレーザ光をワーク18の加工対象部位に集光するための出射部20と、制御部22とを備えている。
【0023】
レーザ光出力部12は、第1ファイバレーザ光FB1を出力する第1ユニット24aと、第2ファイバレーザ光FB2を出力する第2ユニット24bと、第3ファイバレーザ光FB3を出力する第3ユニット24cと、LD電源30とを有する。
【0024】
第1ユニット24aには、励起光MBを出力するレーザダイオード(LD)32aと、励起光MBに基づいて第1ファイバレーザ光FB1を出力するファイバレーザ光出力部34aとが設けられている。ファイバレーザ光出力部34aは、励起光MBが伝搬することにより第1ファイバレーザ光FB1を出力する光ファイバ(アクティブファイバ)36aと、アクティブファイバ36aから出力された第1ファイバレーザ光FB1を平行化するコリメートレンズ38aと、伝送部14で反射した反射光のLD32への照射を阻止するアイソレータ40aと、アイソレータ40aを透過した第1ファイバレーザ光FB1を集光する集光レンズ42aとを有する。
【0025】
第2ユニット24bは、第1ユニット24aと同一の構成であり、LD32bと、第2ファイバレーザ光FB2を出力するファイバレーザ光出力部34bとを有し、ファイバレーザ光出力部34bには、アクティブファイバ36b、アイソレータ40b、及び集光レンズ42bが設けられている。
【0026】
第3ユニット24cは、第1ユニット24aと同一の構成であり、LD32cと、第3ファイバレーザ光FB3を出力するファイバレーザ光出力部34cとを有し、ファイバレーザ光出力部34cには、アクティブファイバ36c、アイソレータ40c、及び集光レンズ42cが設けられている。
【0027】
アクティブファイバ36a、36b、36cは、例えばイッテルビウム(Yb)等の希土類元素イオンがドープされた不図示のコアを含んでおり、励起光MBによって前記希土類元素イオンを励起することにより第1ファイバレーザ光FB1を出力する。LD電源30は、第1〜第3ユニット24a、24b、24cの各LD32a、32b、32cに励起電流を供給する。
【0028】
伝送部14は、第1ファイバレーザ光FB1を合成部16に伝送する第1伝送ファイバ46aと、第2ファイバレーザ光FB2を合成部16に伝送する第2伝送ファイバ46bと、第3ファイバレーザ光FB3を合成部16に伝送する第3伝送ファイバ46cとを有する。以下、第1〜第3ファイバレーザ光FB1、FB2、FB3をまとめてファイバレーザ光FBと称することがある。
【0029】
合成部16は、第1〜第3伝送ファイバ46a、46b、46cにて伝送されたファイバレーザ光FBの光路を光学的に調整する調整機構52と、調整機構52にて光路調整されたファイバレーザ光FBを合成する光ファイバ(合成ファイバ)54とを有する。
【0030】
図2、図3及び図5に示すように、調整機構52は、第1〜第3伝送ファイバ46a、46b、46c及び合成ファイバ54を支持するための筐体56と、第1〜第3伝送ファイバ46a、46b、46cから出射されたファイバレーザ光FBを合成ファイバ54のコア72に導くための光学部材60とを有する。なお、調整機構52は、図示していないが、第1〜第3伝送ファイバ46a、46b、46c、合成ファイバ54及び光学部材60が冷却可能なように構成されている。調整機構52の冷却は、例えば、水冷により行われる。これにより、ファイバレーザ光FBの反射・散乱に起因する熱によって光学部材60等に不具合が生じてファイバレーザ光FBの光路がずれることを抑制することができる。
【0031】
また、図2に示すように、第1〜第3伝送ファイバ46a、46b、46cの出射端面及び合成ファイバ54の入射端面61は、筐体56内に臨んでおり、第1〜第3伝送ファイバ46a、46b、46cの出射端面、合成ファイバ54の入射端面61及び光学部材60には、反射防止処理が施されている。この反射防止処理としては、例えばARコート等が用いられる。これにより、ファイバレーザ光FBが第1〜第3伝送ファイバ46a、46b、46cの出射端面及び合成ファイバ54の入射端面61で反射して筐体56内に熱が生じることを抑えることができる。
【0032】
筐体56は、図2に示すように、第1ファイバレーザ光FB1がX方向に、第2及び第3ファイバレーザ光FB2、FB3がY方向にそれぞれ出射され、かつ図3に示すように、Z方向において、第1及び第3ファイバレーザ光FB1、FB3の位置が一致して第2ファイバレーザ光FB2が第1及び第3ファイバレーザ光FB1、FB3よりも上方に位置するように第1〜第3伝送ファイバ46a、46b、46cを支持する。また、図2及び図3に示すように、筐体56は、X方向において、第1伝送ファイバ46aの出射端面と合成ファイバ54の入射端面61とが対向するように合成ファイバ54を支持する。
【0033】
図2及び図5に示すように、光学部材60は、ファイバレーザ光FBを合成ファイバ54のコア72に集光する集光レンズ62と、第1〜第3伝送ファイバ46a、46b、46cから出射されたファイバレーザ光FBを集光レンズ62に導くための光路調整手段としての光路調整部64とを有する。図2及び図3に示すように、集光レンズ62は、合成ファイバ54と所定間隔離間した状態で合成ファイバ54の入射端面61と対向している。
【0034】
図2及び図3に示すように、光路調整部64は、ファイバレーザ光FBの各光路上に設けられるコリメートレンズ66a、66b、66cと、第2ファイバレーザ光FB2の光路を調整するためのミラー68と、第3ファイバレーザ光FB3の光路を調整するためのミラー70とを有する。
【0035】
図2に示すように、ミラー68、70は、Y方向において、ファイバレーザ光FBが等間隔にオフセットした状態で集光レンズ62に入射されるように設定されている。これにより、図4に示すように、ファイバレーザ光FBのそれぞれが集光レンズ62の中心Nから外れた別の位置に入射される。具体的には、ファイバレーザ光FBが周方向に等間隔離間した状態で集光レンズ62に入射され、線分A1及び線分A2のなす角θ12、線分A1及び線分A3のなす角θ13、線分A2及び線分A3のなす角θ23がそれぞれ120°(つまり、等角度)に設定される。なお、角θ12、角θ13、角θ23は、正確に等角度に設定せずに、数度の違いを持って略等角度に設定することもできる。
【0036】
また、線分A1は集光レンズ62の第1ファイバレーザ光FB1の入射位置と集光レンズ62の中心Nを結んだ線分であり、線分A2は集光レンズ62の第2ファイバレーザ光FB2の入射位置と集光レンズ62の中心Nを結んだ線分であり、線分A3は集光レンズ62の第3ファイバレーザ光FB3の入射位置と集光レンズ62の中心Nを結んだ線分である。また、集光レンズ62の中心Nと集光レンズ62の各ファイバレーザ光FBの入射位置との間は等距離に設定されている。
【0037】
図2、図3及び図5に示すように、合成ファイバ54及び集光レンズ62は、集光レンズ62を透過したファイバレーザ光FBが合成ファイバ54の入射端面61の垂線Lに対して交叉した状態で合成ファイバ54のコア72の中心に集光されるように設定されている。なお、合成ファイバ54及び集光レンズ62は、第1ファイバレーザ光FB1と入射端面61の垂線Lとのなす角度と、第2ファイバレーザ光FB2と入射端面61の垂線Lとのなす角度と、第3ファイバレーザ光FB3と入射端面61の垂線Lとのなす角度とが同一角度になるように設定されている。これらの各ファイバレーザ光FBと垂線Lとがなす角度をαとする。但し、角度αは、任意に設定してよい。
【0038】
図5に示すように、合成ファイバ54は、合成ファイバ54の中心軸上に延びたコア72と、コア72と同軸に設けられてコア72を取り囲むクラッド74と、クラッド74を覆う被覆76とを有する。
【0039】
図1に示すように、出射部20は、合成ファイバ54から出射されたレーザ光(出射光)PBを平行化するコリメートレンズ78と、コリメートレンズ78を透過した出射光PBをワーク18の加工対象部位に集光する加工用集光レンズ80とを有する。
【0040】
制御部22は、出射光PBの要求エネルギに応じて第1〜第3ユニット24a、24b、24cの各LD32a、32b、32cに供給される励起電流が調整されるようにLD電源30を制御する。
【0041】
次に、レーザ装置10の基本的な動作について説明する。先ず、制御部22の作用下にLD電源30から各LD32a、32b、32cに励起電流が供給されると、LD32a、32b、32cから励起光MBが出力され、出力された励起光MBがアクティブファイバ36a、36b、36c内を伝搬することでアクティブファイバ36a、36b、36cからファイバレーザ光FB1、FB2、FB3が出力される。アクティブファイバ36a、36b、36cから出力されたファイバレーザ光FB1、FB2、FB3は、コリメートレンズ38a、38b、38c、アイソレータ40a、40b、40c及び集光レンズ42a、42b、42cを介して第1〜第3伝送ファイバ46a、46b、46cにて調整機構52に伝送され、光路調整部64にて集光レンズ62に入射される。この時、ファイバレーザ光FB1、FB2、FB3のそれぞれは、集光レンズ62の中心Nから外れた別の位置に入射される。
【0042】
そして、集光レンズ62に入射されたファイバレーザ光FBは、合成ファイバ54の入射端面61の垂線Lに対して交叉した状態で合成ファイバ54のコア72に集光され、合成ファイバ54内をコア72とクラッド74との境界面を多数回反射しながら伝搬して合成ファイバ54から出射される。合成ファイバ54から出射された出射光PBは、コリメートレンズ78にて平行化される。この時、平行化された出射光PBは、断面ドーナツ形状となる(図6参照)。なお、合成ファイバ54とコリメートレンズ78との間の位置においても、出射光PBは、断面ドーナツ形状である。そして、平行化された断面ドーナツ形状の出射光PBは、加工用集光レンズ80にてワーク18の加工対象部位に集光される。これにより、ワーク18の加工が行われる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ装置10によれば、断面ドーナツ形状の出射光PBを加工用集光レンズ80にてワーク18の加工対象部位に集光しているので、加工点において、出射光PBのビームプロファイルがトップハット形状となる。つまり、加工点における出射光PBは、中心部分の強度が抑えられた径方向に幅広いプロファイルとなる。これにより、キーホールの形成を抑えつつワーク18を溶融加工することができる。よって、レーザ中にスプラッシュが発生することを防止できる。
【0044】
また、本実施形態では、3本のファイバレーザ光FBが出力されるようにレーザ光出力部12を構成しているので、高出力の出射光PBを容易に生成することができる。
【0045】
さらに、本実施形態において、ファイバレーザ光FBを周方向に120°ずつ離間した状態で集光レンズ62に入射しているので、ファイバレーザ光FBを周方向に等間隔離間していない状態で集光レンズ62に入射させる場合と比較してコリメートレンズ78にて平行化された断面ドーナツ形状の出射光PBの強度分布を一層均一にすることができる。これにより、ワーク18のキーホールの形成を効果的に抑えることができる。
【0046】
ところで、複数のファイバレーザ光を集光レンズの中心に入射した場合、コリメートレンズにて平行化された出射光は、断面円形状となる。この断面円形状の出射光を加工用集光レンズにてワークに集光すると、前記加工用集光レンズは、出射光が該加工用集光レンズを透過する際に多大な熱を受ける。この時、前記加工用集光レンズの出射光から受けた熱は、該加工用集光レンズの光軸を中心として放射状に拡散するので、該加工用集光レンズの光軸(加工用集光レンズの中央部)で最も温度が高くなる。
【0047】
これにより、前記加工用集光レンズが出射光から熱を受けないと仮定した時の該加工用集光レンズの中央を透過する出射光の屈折率と比較して、出射光から熱を受けた時の該加工用集光レンズの中央部を透過する出射光の屈折率が大きくなるので、該加工用集光レンズを透過した出射光の焦点位置がずれることがある(以下、この現象を熱レンズ効果と称することがある。)。
【0048】
また、前記加工用集光レンズにて断面円形状の出射光をワークに集光すると、ワークに照射された出射光の一部が光軸に沿って反射するので、該加工用集光レンズの熱レンズ効果が一層大きくなり、加工精度が悪化することがある。
【0049】
このような加工用集光レンズの熱レンズ効果を抑制する本実施形態に係るレーザ装置10の加工用集光レンズ80の温度分布について図7及び図8を参照しながら説明する。図7において、横軸は加工用集光レンズ80の光軸X0を基準とした光軸X0と直交する方向の距離を(図8参照)、縦軸は加工用集光レンズ80の温度をそれぞれ示している。なお、断面ドーナツ形状の出射光PBの中心は加工用集光レンズ80の光軸X0上に位置しており、図6に示すように、2X1は断面ドーナツ形状の出射光PBの内径を、2X2は断面ドーナツ形状の出射光PBの外径を、図8に示すように、2X3は加工用集光レンズ80の直径をそれぞれ示している。
【0050】
また、図7において、実線L1は断面ドーナツ形状の出射光PBが加工用集光レンズ80を透過した時の加工用集光レンズ80の温度分布を、破線L2は断面円形状の出射光が本実施形態の加工用集光レンズ80を透過した時の加工用集光レンズ80の温度分布をそれぞれ示している。なお、断面円形状の出射光としては、3本のレーザ光を光ファイバの中心に入射することで該光ファイバから出射される出射光が用いられる。
【0051】
図7からも諒解されるように、断面円形状の出射光が加工用集光レンズ80を透過した場合、加工用集光レンズ80の光軸(加工用集光レンズの中央部)X0で温度T0となり最も温度が高くなる。これは、加工用集光レンズ80の断面円形状の出射光から受けた熱が光軸X0を中心として放射状に広がるからである。
【0052】
一方、断面ドーナツ形状の出射光PBが加工用集光レンズ80を透過した場合、加工用集光レンズ80の光軸X0で温度が低くなり、光軸から1/2(X1+X2)だけ離れた位置で温度T1となり最も温度が高くなる。これは、加工用集光レンズ80がドーナツ形状に熱を受け、その熱が加工用集光レンズ80の光軸X0から離れる方向及び光軸X0に向かう方向に拡散するからである。
【0053】
つまり、断面円形状の出射光が加工用集光レンズ80を透過した時には、加工用集光レンズ80の光軸X0上の1点に熱が集中するのに対して、断面ドーナツ形状の出射光PBが加工用集光レンズ80を透過した時には、加工用集光レンズ80の受ける熱が円周状に分散される。そのため、温度T1が温度T0よりも低くなる。よって、加工用集光レンズ80の熱レンズ効果を小さくすることができるので、出射光PBの焦点位置のずれを抑制することができる。
【0054】
本実施形態によれば、出射光PBが加工用集光レンズ80の光軸X0を透過することがないので、ワーク18から加工用集光レンズ80の光軸X0に向かう反射光が低減する。これにより、加工用集光レンズ80が前記反射光によって熱を受けてワーク18の加工精度が悪化することを抑えることができる。
【0055】
本発明は、上記の実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。例えば、線分A1及び線分A2のなす角θ12、線分A1及び線分A3のなす角θ13、線分A2及び線分A3のなす角θ23を任意に設定してもよい。レーザ光出力部は、ファイバレーザ光を出力する構成に限らない。例えば、Nd:YAGレーザ光等を出力する固体レーザで構成してもよい。
【0056】
本発明のレーザ装置は、第1〜第3ファイバレーザ光を集光レンズに入射する構成に限らない。例えば、第3ファイバレーザ光を用いず、第1及び第2ファイバレーザ光のみを集光レンズに入射する構成にしてもよい。この場合、線分A1及び線分A2のなす角θ12を180°に設定するとよい。
【0057】
また、第2及び第3ファイバレーザ光を用いず、第1ファイバレーザ光のみを集光レンズの中心から外れた位置に入射する構成にしてもよい。この場合、上記実施形態の光路調整部を省略してレーザ光出力部から出力されるファイバレーザ光を集光レンズに直接入射するように構成してもよい。これにより、1本のファイバレーザ光だけでも加工用集光レンズに熱レンズ効果が生じるような場合にも対応することができる。さらに、4本又はそれ以上のファイバレーザ光を合成ファイバの入射端面に入射する構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10…レーザ装置 12…レーザ光出力部
14…伝送部 16…合成部
18…ワーク 20…出射部
22…制御部 54…合成ファイバ
61…入射端面 62…集光レンズ
64…光路調整部(光路調整手段) 72…コア
80…加工用集光レンズ L…垂線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力するレーザ光出力部と、
前記レーザ光出力部から出力されたレーザ光を集光する集光レンズと、
該集光レンズによって集光された前記レーザ光が入射するコアを有する光ファイバと、を備え、
前記レーザ光出力部から出力されたレーザ光が前記集光レンズの中心から外れた位置に入射され、かつ前記集光レンズによって集光されたレーザ光が前記コアの端面の垂線に対して交叉した状態で入射されるように前記レーザ光出力部、前記集光レンズ及び前記光ファイバが設定されていることを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
3本のレーザ光を出力するレーザ光出力部と、
前記レーザ光出力部から出力された3本のレーザ光を集光する集光レンズと、
前記集光レンズによって集光されたレーザ光が入射するコアを有する光ファイバと、
前記レーザ光出力部と前記集光レンズとの間の光路に設けられ、前記レーザ光出力部から出力された3本のレーザ光のそれぞれが前記集光レンズの中心から外れた別の位置に入射されるようにレーザ光の光路を調整する光路調整手段と、を備え、
前記集光レンズによって集光されたレーザ光が前記コアの端面の垂線に対して交叉した状態で入射されるように前記集光レンズ及び前記光ファイバが設定されていることを特徴とするレーザ装置。
【請求項3】
請求項1記載のレーザ装置において、
前記レーザ光出力部は、複数本のレーザ光が出力されるように構成されており、
前記レーザ光出力部と、前記集光レンズとの間の光路に設けられ、かつ前記レーザ光出力部から出力された複数本のレーザ光のそれぞれが前記集光レンズの中心から外れた別の位置に入射されるようにレーザ光の光路を調整する光路調整手段をさらに備えることを特徴とするレーザ装置。
【請求項4】
請求項2記載のレーザ装置において、
前記光路調整手段は、前記レーザ光出力部から出力された3本のレーザ光が周方向に等角度離間した状態で前記集光レンズに入射されるようにレーザ光の光路を調整することを特徴とするレーザ装置。
【請求項5】
レーザ光出力部から出力された3本のレーザ光を集光レンズにて光ファイバのコアに集光するレーザ光の調整方法であって、
前記レーザ光出力部から出力された3本のレーザ光のそれぞれを前記集光レンズの中心から外れた別の位置に入射し、前記集光レンズによって集光されたレーザ光を前記コアの端面の垂線に対して交叉した状態で入射することを特徴とするレーザ光の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−23408(P2011−23408A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164842(P2009−164842)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000161367)ミヤチテクノス株式会社 (103)
【Fターム(参考)】