説明

レーザ装置

【課題】ターゲットに照射される光ビームの焦点位置を精度良く検出でき、光ビームの焦点位置を制御できるレーザ装置を提供する。
【解決手段】レーザ装置は、レーザ光源1から供給される光ビームをターゲット36に集光するための集光光学素子11と、光ビームの光路の途中に設けられ、光ビームの波面曲率を変更するための可変曲率ミラー12と、光ビームの光路の途中に設けられ、回折ビーム33を発生するための回折格子と、回折ビーム33を受光して、ターゲット36に照射される光ビーム32の焦点位置を検出するための焦点位置検出装置41などを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工の際にレーザビームの焦点位置を検出する機能を備えたレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1において、被加工物を常に最良の状態で加工するために、加工ビームの光軸や出力強度を検出できるレーザビーム監視装置が提案されている。レーザ発振器から発振されたレーザビームをベンダーミラーで反射させて集光レンズで集光し、ノズルから被加工物に照射してこれを加工するレーザ加工機において、上記ベンダーミラーは、レーザビームのほとんどを加工ビームとして集光レンズ側に反射するとともにレーザビームの一部を回折現象によって集光レンズ以外の部分にモニタ光として回折される回折格子ベンダーミラーとされ、上記モニタ光の進路には、該モニタ光を受けて上記加工ビームの光軸や出力強度及び出力強度分布を検出する検出装置が配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−251277号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のレーザビーム監視装置では、加工ビームの光軸や出力強度及び出力強度分布を検出することは可能であるが、加工ビームの焦点位置を検知する機能を備えていない。そのため、レーザ加工中に光学素子の熱レンズ効果などに起因して加工ビームの焦点位置が変化した場合でも、レーザ加工がそのまま続行されてしまい、その結果、多くの不良加工品が生じてしまう。
【0005】
本発明の目的は、ターゲットに照射される光ビームの焦点位置を精度良く検出でき、光ビームの焦点位置を制御できるレーザ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るレーザ装置は、
レーザ光源から供給される光ビームをターゲットに集光するための集光光学素子と、
光ビームの光路の途中に設けられ、光ビームの波面曲率を変更するための可変曲率ミラーと、
光ビームの光路の途中に設けられ、回折ビームを発生するための回折格子と、
回折ビームを受光して、ターゲットに照射される光ビームの焦点位置を検出するための焦点位置検出装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光ビームの光路の途中に回折格子を設けて、回折格子からの回折ビームを監視することによって、ターゲットに照射される光ビームの焦点位置を精度良く検出することができる。また、光ビームの光路の途中に可変曲率ミラーを設けることによって、光ビームの焦点位置を制御することができる。その結果、レーザ加工中に加工ビームの焦点位置が変化した場合でも、レーザ加工の中断やレーザ加工条件の修正が可能となり、不良加工品の発生を防止でき、製品歩留まりを改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態2を示す構成図である。
【図3】本発明の実施の形態3を示す構成図である。
【図4】図4(a)は平凸レンズの平面側に形成された回折格子の一例を示す斜視図であり、図4(b)はその部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1を示す構成図である。レーザ装置は、レーザ光源1と、光軸調節装置51と、集光光学素子11と、焦点位置検出装置41と、ビームプロファイラ42などで構成される。
【0010】
レーザ光源1は、CO等のガスレーザ、液体レーザ、固体レーザなどのレーザ発振器、またはレーザ発振器とレーザ増幅器の組合せで構成され、CWまたはパルスの光ビームを発生する。光ビームの出力は、出力制御装置2によって制御される。
【0011】
光軸調節装置51は、光ビームを反射する複数のミラー52,53と、各ミラー52,53を所定の3次元角度に調節可能なように支持するための支持機構などを備える。ミラー52,53の角度調節機構として、例えば、傾斜ステージと回転ステージの組合せなどが利用できる。ミラー52,53の角度調節によって、光軸調節装置51から出射される光ビーム31の方向が調整され、最終的にターゲット36を照射する光ビーム32の位置および照射角度が設定される。
【0012】
本実施形態において、集光光学素子11は、可変曲率ミラー12と、形状制御装置13などを備える。可変曲率ミラー12は、可撓性の光反射面と、この光反射面を支持するハウジングなどで構成される。可撓性の光反射面は、光ビームの波面曲率を変更する機能を有し、例えば、曲率半径50cmを中心とした凹状の球面または放物面の形状を有する。
【0013】
形状制御装置13は、光反射面の形状(主に曲率)を変化させるための機構と、光反射面の3次元角度を調節するための機構を備える。光反射面の曲率可変機構として、例えば、光反射面およびハウジングで囲まれる内部空間に流体を封入して、流体の圧力制御によって光反射面の曲率を変更する機構などが利用できる。また、光反射面の角度調節機構として、例えば、傾斜ステージと回転ステージの組合せなどが利用できる。
【0014】
さらに、可変曲率ミラー12の光反射面には、回折格子が一体的に形成されている。可変曲率ミラー12に入射する光ビーム31の大部分は正反射して、ターゲット36を照射するための光ビーム32となる。回折格子は、入射する光ビーム31の一部を回折して2つのモニタビーム33,34を発生する。
【0015】
焦点位置検出装置41は、例えば、回転ワイヤ方式のフォーカスモニタなどで構成され、モニタビーム33を受光することによって、ターゲット36に照射される光ビーム32の焦点位置を検出する。
【0016】
ビームプロファイラ42は、例えば、高感度焦電式カメラやCCD(電荷結合素子)などで構成され、モニタビーム34を受光することによって、ターゲット36に照射される光ビーム32の出力、モードまたは光軸位置を検出する。なお、レーザ出力の検出のみを目的とする場合、サーモパイルも使用できる。
【0017】
ターゲット36は、切断、穿孔、マーキング等のレーザ加工が施される被加工物体、あるいは光ビーム32を別の電磁波や熱に変換するための物質である。
【0018】
制御回路10は、例えば、マイクロプロセッサなどで構成され、焦点位置検出装置41およびビームプロファイラ42からの各出力信号に基づいて、出力制御装置2、光軸調節装置51および形状制御装置13の各動作をそれぞれ制御する。
【0019】
次に動作について説明する。集光光学素子11に入射する光ビーム31が、例えば、約30kWの出力を有する場合、回折格子は、そのうち数100mWから数Wの出力を有するモニタビーム33,34を回折する。そして、損失分を除いた残りの出力を有する光ビーム32がターゲット36に照射される。
【0020】
光ビーム32およびモニタビーム33,34は、集光光学素子11によって集光される。光ビーム32は、ターゲット36付近(例えば、ターゲットの表面近傍で約1cm以内)でビーム直径0.1mm〜0.2mmにまで集光される。モニタビーム33,34も光ビーム32とほぼ同じビームプロファイル(ビームウェストの位置および直径、広がり角)を有する。即ち、レーザ光源1や集光光学素子11の歪みなどによって、光ビーム32の光軸がずれると、それに対応する量だけモニタビーム33もずれる。同じように照射ビーム32のモードが変化すると、それに対応してモニタビーム33,34のモードも変化する。また、集光光学素子11の熱歪みなどによって、光ビーム32の焦点位置が変化すると、それに対応してモニタビーム33,34の焦点位置も変化する。
【0021】
焦点位置検出装置41は、モニタビーム33の焦点位置を検出する。光ビーム32の焦点位置から回折格子の反射面までの距離とモニタビーム33の焦点位置から回折格子の反射面までの距離は等しいので、焦点位置検出装置41が検出したモニタビーム33の焦点位置によって、光ビーム32の焦点位置を簡便に推定できる。この場合、回折格子から焦点位置検出装置41の受光面までの光路長は、回折格子からターゲット36までの光路長と等しいことが好ましい。
【0022】
こうして検出された焦点位置に関する信号は、制御回路10に供給される。制御回路10は、この検出信号に基づいて形状制御装置13の動作を制御する。形状制御装置13は、検出された焦点位置と予め定められた焦点位置との差が小さくなるように、好ましくは両者が一致するように、可変曲率ミラー12の曲率を制御する。
【0023】
ビームプロファイラ42は、モニタビーム34の出力、モードまたは光軸位置を検出する。光ビーム32の出力とモニタビーム34の出力の比は、光ビーム31の出力によらず一定であるので、ビームプロファイラ42が検出したモニタビーム34の出力によって、光ビーム32の出力を簡便に推定できる。また、光ビーム32のモードとモニタビーム34のモードは同じであるので、ビームプロファイラ42が検出したモニタビーム34のモードによって、光ビーム32のモードを簡便に推定できる。また、光ビーム32のターゲット36付近における位置ずれは、モニタビーム34のビームプロファイラ42における位置ずれと等しいので、ビームプロファイラ42が検出したモニタビーム34の位置ずれによって、光ビーム32のターゲット36付近における位置ずれを簡便に推定できる。
【0024】
こうして検出された出力に関する信号、モードに関する信号または光軸位置に関する信号は、制御回路10に供給される。制御回路10は、この検出信号に基づいて出力制御装置2、光軸調節装置51および形状制御装置13の各動作を制御する。出力制御装置2は、検出された出力と予め定められた出力との差が小さくなるように、好ましくは両者が一致するように、レーザ光源1のレーザ出力を制御する。形状制御装置13は、検出されたモードと予め定められたモードとの差が小さくなるように、好ましくは両者が一致するように、可変曲率ミラー12の形状を制御する。
【0025】
光軸位置に関しては、光軸調節装置51および形状制御装置13の一方または両方が関与することが可能であり、検出された光軸位置と予め定められた光軸位置との差が小さくなるように、好ましくは両者が一致するように、ミラー52,53の角度調節及び/又は可変曲率ミラー12の角度調節によって光ビーム32の照射方向を制御する。
【0026】
なお、回折格子のパターン、ピッチおよび深さの設定によって、モニタビーム発生数は任意に設定できる。複数のモニタビームに対して、複数の焦点位置検出装置またはビームプロファイラを配置してもよく、あるいは、複数のモニタビームに対して必要な数の焦点位置検出装置またはビームプロファイラを配置し、不要なモニタビームはダンパを設けて遮断してもよい。また、モニタビームを実質1つのみ発生させて、該モニタビームを1つの焦点位置検出装置を用いて検出してもよい。
【0027】
以上、本実施形態の構成によれば、集光光学素子11の反射面に回折格子を設けて回折ビームを発生させ、モニタビーム33の焦点位置を検出することによって、ターゲット36を照射する光ビーム32の焦点位置を監視できる。このため、何らかの要因で光ビーム32の焦点位置にずれが生じた場合でも、光ビーム32の焦点位置をリアルタイムに補正し制御することができる。
【0028】
近年、ターゲットのレーザ処理に関して、必要なレーザ光の出力が大きくなるとともに、焦点位置の精度が高まってきており、数10kWレベルの大きな出力を有するレーザビームの焦点位置を誤差100μmオーダーで制御する必要も生じてきている。このような大出力レーザを扱うレーザ処理においては、集光光学系そのものの熱歪みによる焦点位置の誤差が無視できない。
【0029】
特許文献1においては、ビームのモニタリングを集光前のビームを対象としているため、焦点位置をリアルタイムに検出できない。即ち、集光レンズの熱歪みの影響によって照射ビームの焦点位置がずれても、それをリアルタイムに検出する手段がない。
【0030】
一方、本実施形態においては、集光光学素子11がビームを集光する役割とモニタビームを取り出す役割の両方を果たしているため、光学素子の個数削減が図られ、正確に照射ビームの焦点位置を検知できる効果を奏する。
【0031】
さらに、上記の検知結果を用いて、形状制御装置13が可変曲率ミラー12の反射面の曲率を制御しているため、照射される光ビーム32の焦点位置が所定の位置からシフトしても、リアルタイムに修正可能になり、正確に光ビーム32の焦点位置を制御できる効果を奏する。
【0032】
また、照射される光ビーム32と同じプロファイルを有するモニタビーム33,34をビームプロファイラで検出することによって、照射ビームの出力、モードまたは光軸位置を高い信頼性で検知することができる。
【0033】
さらに、上記の出力、モードまたは光軸位置の検知結果を用いて、レーザ光源1の出力、光ビーム31,32の光軸方向、または光ビーム32のターゲット付近におけるモードを制御できるため、照射される光ビーム32の出力、光軸位置、モードが所定の状態からシフトしても、リアルタイムに修正可能になり、高い信頼性で光ビーム32の出力、モード、光軸位置を制御することができる。
【0034】
こうして制御された光ビーム32をターゲット36に照射した場合、処理不良の発生を抑制でき、常に最適な状態でターゲット36を処理することが可能になる。
【0035】
実施の形態2.
図2は、本発明の実施の形態2を示す構成図である。レーザ装置は、レーザ光源1と、光軸調節装置51と、可変曲率ミラー12と、集光光学素子11と、焦点位置検出装置41と、ビームプロファイラ42などで構成される。本実施形態では、集光光学素子11として曲率半径が固定された凹面ミラーを使用し、さらに可変曲率ミラー12を集光光学素子11とは別に設置している。
【0036】
レーザ光源1は、実施の形態1と同様な構成を有し、CWまたはパルスの光ビームを発生する。光ビームの出力は、出力制御装置2によって制御される。
【0037】
光軸調節装置51は、実施の形態1と同様に、光ビームを反射する複数のミラーと、各ミラーを所定の3次元角度に調節可能なように支持するための支持機構などを備える。ミラーの角度調節によって、光軸調節装置51から出射される光ビームの方向が調整され、最終的にターゲット36を照射する光ビーム32の位置および照射角度が設定される。
【0038】
可変曲率ミラー12は、可撓性の光反射面と、この光反射面を支持するハウジングなどで構成される。可撓性の光反射面は、光ビームの波面曲率を変更する機能を有し、例えば、平面を中心として凹面10mから凸面10mまでの範囲で曲率半径が変更可能な球面または放物面の形状を有する。
【0039】
形状制御装置13は、実施の形態1と同様な構成を有し、可変曲率ミラー12の光反射面の形状(主に曲率)を変化させるための機構と、光反射面の3次元角度を調節するための機構を備える。
【0040】
集光光学素子11は、一定の曲率半径を有する凹面ミラーであり、その光反射面には回折格子が一体的に形成されている。集光光学素子11に入射する光ビーム31の大部分は正反射して、ターゲット36を照射するための光ビーム32となる。回折格子は、入射する光ビーム31の一部を回折して2つのモニタビーム33,34を発生する。
【0041】
焦点位置検出装置41は、実施の形態1と同様な構成を有し、モニタビーム33を受光することによって、ターゲット36に照射される光ビーム32の焦点位置を検出する。
【0042】
ビームプロファイラ42は、実施の形態1と同様な構成を有し、モニタビーム34を受光することによって、ターゲット36に照射される光ビーム32の出力、モードまたは光軸位置を検出する。
【0043】
ターゲット36は、切断、穿孔、マーキング等のレーザ加工が施される被加工物体、あるいは光ビーム32を別の電磁波や熱に変換するための物質である。
【0044】
制御回路10は、例えば、マイクロプロセッサなどで構成され、焦点位置検出装置41およびビームプロファイラ42からの各出力信号に基づいて、出力制御装置2、光軸調節装置51および形状制御装置13の各動作をそれぞれ制御する。
【0045】
次に動作について説明する。集光光学素子11に入射する光ビーム31が、例えば、約30kWの出力を有する場合、回折格子は、そのうち数100mWから数Wの出力を有するモニタビーム33,34を回折する。そして、損失分を除いた残りの出力を有する光ビーム32がターゲット36に照射される。
【0046】
光ビーム32およびモニタビーム33,34は、集光光学素子11によって集光される。光ビーム32は、ターゲット36付近(例えば、ターゲットの表面近傍で約1cm以内)でビーム直径0.1mm〜0.2mmにまで集光される。モニタビーム33,34も光ビーム32とほぼ同じビームプロファイル(ビームウェストの位置および直径、広がり角)を有する。即ち、レーザ光源1や集光光学素子11の歪みなどによって、光ビーム32の光軸がずれると、それに対応する量だけモニタビーム33もずれる。同じように照射ビーム32のモードが変化すると、それに対応してモニタビーム33,34のモードも変化する。また、集光光学素子11の熱歪みなどによって、光ビーム32の焦点位置が変化すると、それに対応してモニタビーム33,34の焦点位置も変化する。
【0047】
焦点位置検出装置41は、モニタビーム33の焦点位置を検出する。光ビーム32の焦点位置から回折格子の反射面までの距離とモニタビーム33の焦点位置から回折格子の反射面までの距離は等しいので、焦点位置検出装置41が検出したモニタビーム33の焦点位置によって、光ビーム32の焦点位置を簡便に推定できる。この場合、回折格子から焦点位置検出装置41の受光面までの光路長は、回折格子からターゲット36までの光路長と等しいことが好ましい。
【0048】
こうして検出された焦点位置に関する信号は、制御回路10に供給される。制御回路10は、この検出信号に基づいて形状制御装置13の動作を制御する。形状制御装置13は、検出された焦点位置と予め定められた焦点位置との差が小さくなるように、好ましくは両者が一致するように、可変曲率ミラー12の曲率を制御する。
【0049】
ビームプロファイラ42は、モニタビーム34の出力、モードまたは光軸位置を検出する。光ビーム32の出力とモニタビーム34の出力の比は、光ビーム31の出力によらず一定であるので、ビームプロファイラ42が検出したモニタビーム34の出力によって、光ビーム32の出力を簡便に推定できる。また、光ビーム32のモードとモニタビーム34のモードは同じであるので、ビームプロファイラ42が検出したモニタビーム34のモードによって、光ビーム32のモードを簡便に推定できる。また、光ビーム32のターゲット36付近における位置ずれは、モニタビーム34のビームプロファイラ42における位置ずれと等しいので、ビームプロファイラ42が検出したモニタビーム34の位置ずれによって、光ビーム32のターゲット36付近における位置ずれを簡便に推定できる。
【0050】
こうして検出された出力に関する信号、モードに関する信号または光軸位置に関する信号は、制御回路10に供給される。制御回路10は、この検出信号に基づいて出力制御装置2、光軸調節装置51および形状制御装置13の各動作を制御する。出力制御装置2は、検出された出力と予め定められた出力との差が小さくなるように、好ましくは両者が一致するように、レーザ光源1のレーザ出力を制御する。形状制御装置13は、検出されたモードと予め定められたモードとの差が小さくなるように、好ましくは両者が一致するように、可変曲率ミラー12の形状を制御する。
【0051】
光軸位置に関しては、光軸調節装置51および形状制御装置13の一方または両方が関与することが可能であり、検出された光軸位置と予め定められた光軸位置との差が小さくなるように、好ましくは両者が一致するように、光軸調節装置51内のミラー角度調節及び/又は可変曲率ミラー12の角度調節によって光ビーム32の照射方向を制御する。
【0052】
なお、回折格子のパターン、ピッチおよび深さの設定によって、モニタビーム発生数は任意に設定できる。複数のモニタビームに対して、複数の焦点位置検出装置またはビームプロファイラを配置してもよく、あるいは、複数のモニタビームに対して必要な数の焦点位置検出装置またはビームプロファイラを配置し、不要なモニタビームはダンパを設けて遮断してもよい。また、モニタビームを実質1つのみ発生させて、該モニタビームを1つの焦点位置検出装置を用いて検出してもよい。
【0053】
以上、本実施形態の構成によれば、集光光学素子11の反射面に回折格子を設けて回折ビームを発生させ、モニタビーム33の焦点位置を検出することによって、ターゲット36を照射する光ビーム32の焦点位置を監視できる。このため、何らかの要因で光ビーム32の焦点位置にずれが生じた場合でも、光ビーム32の焦点位置をリアルタイムに補正し制御することができる。
【0054】
さらに、上記の検知結果を用いて、形状制御装置13が可変曲率ミラー12の反射面の曲率を制御しているため、照射される光ビーム32の焦点位置が所定の位置からシフトしても、リアルタイムに修正可能になり、正確に光ビーム32の焦点位置を制御できる効果を奏する。
【0055】
また、照射される光ビーム32と同じプロファイルを有するモニタビーム33,34をビームプロファイラで検出することによって、照射ビームの出力、モードまたは光軸位置を高い信頼性で検知することができる。
【0056】
さらに、上記の出力、モードまたは光軸位置の検知結果を用いて、レーザ光源1の出力、光ビーム31,32の光軸方向、または光ビーム32のターゲット付近におけるモードを制御できるため、照射される光ビーム32の出力、光軸位置、モードが所定の状態からシフトしても、リアルタイムに修正可能になり、高い信頼性で光ビーム32の出力、モード、光軸位置を制御することができる。
【0057】
こうして制御された光ビーム32をターゲット36に照射した場合、処理不良の発生を抑制でき、常に最適な状態でターゲット36を処理することが可能になる。
【0058】
特に、本実施形態では、集光光学素子11の反射面に回折格子を設け、可変曲率ミラー12の反射面には回折格子を設けていないため、汎用の可変曲率ミラーが使用でき、レーザ装置のコスト削減が図られる。
【0059】
実施の形態3.
図3は、本発明の実施の形態3を示す構成図である。レーザ装置は、レーザ光源1と、光軸調節装置51と、可変曲率ミラー12と、集光光学素子11と、焦点位置検出装置41と、ビームプロファイラ42などで構成される。本実施形態では、集光光学素子11として集光レンズを使用し、さらに可変曲率ミラー12を集光光学素子11とは別に設置している。
【0060】
レーザ光源1は、実施の形態1と同様な構成を有し、CWまたはパルスの光ビームを発生する。光ビームの出力は、出力制御装置2によって制御される。
【0061】
光軸調節装置51は、実施の形態1と同様に、光ビームを反射する複数のミラーと、各ミラーを所定の3次元角度に調節可能なように支持するための支持機構などを備える。ミラーの角度調節によって、光軸調節装置51から出射される光ビームの方向が調整され、最終的にターゲット36を照射する光ビーム32の位置および照射角度が設定される。
【0062】
可変曲率ミラー12は、可撓性の光反射面と、この光反射面を支持するハウジングなどで構成される。可撓性の光反射面は、光ビームの波面曲率を変更する機能を有し、例えば、平面を中心として凹面10mから凸面10mまでの範囲で曲率半径が変更可能な球面または放物面の形状を有する。
【0063】
形状制御装置13は、実施の形態1と同様な構成を有し、可変曲率ミラー12の光反射面の形状(主に曲率)を変化させるための機構と、光反射面の3次元角度を調節するための機構を備える。
【0064】
集光光学素子11は、集光性の凸レンズであり、筐体21のウィンドウ部材としても機能する。筐体21の内部空間は、例えば、0.01Torr程度の真空に保持されており、内部に位置決めされたターゲット36がレーザ加工によって酸化するのを防止している。この凸レンズは、例えば、人造ダイヤモンドで形成され、両面にはARコーティングが施される。また、凸レンズの光源側の表面は凸で、ターゲット側の表面は平面で、焦点距離が約200mmの平凸レンズとして構成してもよい。
【0065】
凸レンズのターゲット側の表面には、回折格子が一体的に形成されている。集光光学素子11に入射する光ビーム31は集光され、その大部分はターゲット36を照射するための光ビーム32となる。回折格子は、入射する光ビーム31の一部を回折して2つのモニタビーム33,34を発生する。
【0066】
図4(a)は、平凸レンズの平面側に形成された回折格子の一例を示す斜視図であり、図4(b)は、その部分断面図である。回折格子は、多数の溝が互いに平行に平凸レンズの片面全体に渡って形成され、例えば、レンズ母材に矩形断面の溝を彫って形成されている。本実施形態では、溝の周期Λを約5μmとしている。
【0067】
ここで、回折格子の溝の周期Λに関して、レンズ媒質の屈折率をn、レンズ媒質中における光ビームの波長をλa(=λ/n)、真空中における光ビームの波長λとして、λa<Λ<λの関係を満たすことが好ましく、これにより筐体21の内側には回折光が存在しなくなる(原理については、文献:D. Delbeke, R. Baets, and P. Muys, Appl. Opt. Vol. 43, No. 33, p. 6159 (2006)を参照)。その結果、光ビーム32以外のビームがターゲット36に照射されることを防止できる。
【0068】
焦点位置検出装置41は、実施の形態1と同様な構成を有し、モニタビーム33を受光することによって、ターゲット36に照射される光ビーム32の焦点位置を検出する。
【0069】
ビームプロファイラ42は、実施の形態1と同様な構成を有し、モニタビーム34を受光することによって、ターゲット36に照射される光ビーム32の出力、モードまたは光軸位置を検出する。
【0070】
ターゲット36は、切断、穿孔、マーキング等のレーザ加工が施される被加工物体、あるいは光ビーム32を別の電磁波や熱に変換するための物質である。
【0071】
制御回路10は、例えば、マイクロプロセッサなどで構成され、焦点位置検出装置41およびビームプロファイラ42からの各出力信号に基づいて、出力制御装置2、光軸調節装置51および形状制御装置13の各動作をそれぞれ制御する。
【0072】
次に動作について説明する。集光光学素子11に入射する光ビーム31が、例えば、約30kWの出力を有する場合、回折格子は、そのうち数100mWから数Wの出力を有するモニタビーム33,34を回折する。そして、損失分を除いた残りの出力を有する光ビーム32がターゲット36に照射される。
【0073】
光ビーム32およびモニタビーム33,34は、集光光学素子11によって集光される。光ビーム32は、ターゲット36付近(例えば、ターゲットの表面近傍で約1cm以内)でビーム直径0.1mm〜0.2mmにまで集光される。モニタビーム33,34も光ビーム32とほぼ同じビームプロファイル(ビームウェストの位置および直径、広がり角)を有する。
【0074】
このようなレーザ装置においては、ウィンドウの中心部がレーザビームで加熱されて生ずる熱レンズ効果が問題になる。レーザビームの照射開始直後は、ウィンドウの温度分布は均一であり、設計どおりの光学パワーである。しかし、レーザビームの照射を数秒続けると、ウィンドウ中心部が周辺部よりも高温となる温度分布が形成され、母材のダイヤモンドの屈折率の温度依存性により、中心が周辺部よりも高屈折率となる屈折率分布が形成される。この屈折率分布により、ウィンドウには凸レンズの効果が増強され、設計よりも光学パワーが増加して焦点距離が短くなり、ターゲット36におけるビーム強度分布が変化してしまう。
【0075】
本実施形態では、集光光学素子11に入射する光ビーム31は、波面の曲率半径が100m以上であるほぼ平面波である。この光ビーム31が集光光学素子11を通過し、ターゲット側の表面にある回折格子によって回折すると、モニタビーム33,34となって再び集光光学素子11を通過する。従って、モニタビーム33,34は集光光学素子11を2回通過することに相当し、回折格子からモニタビーム33,34の焦点位置までの距離は、回折格子から光ビーム32の焦点位置までの距離の約半分となる。この関係を用いて、焦点位置検出装置41で検出した焦点位置に基づいて、光ビーム32の焦点位置を推算できる。
【0076】
焦点位置検出装置41は、モニタビーム33の焦点位置を検出する。上述した光ビーム32の焦点位置とモニタビーム33の焦点位置との関係から、焦点位置検出装置41が検出したモニタビーム33の焦点位置によって、光ビーム32の焦点位置を簡便に推定できる。
【0077】
こうして検出された焦点位置に関する信号は、制御回路10に供給される。制御回路10は、この検出信号に基づいて形状制御装置13の動作を制御する。形状制御装置13は、検出された焦点位置と予め定められた焦点位置との差が小さくなるように、好ましくは両者が一致するように、可変曲率ミラー12の曲率を制御する。
【0078】
ビームプロファイラ42は、モニタビーム34の出力、モードまたは光軸位置を検出する。光ビーム32の出力とモニタビーム34の出力の比は、光ビーム31の出力によらず一定であるので、ビームプロファイラ42が検出したモニタビーム34の出力によって、光ビーム32の出力を簡便に推定できる。また、光ビーム32のモードとモニタビーム34のモードは所定の関係にあるので、ビームプロファイラ42が検出したモニタビーム34のモードによって、光ビーム32のモードを簡便に推定できる。また、光ビーム32のターゲット36付近における位置ずれは、モニタビーム34のビームプロファイラ42における位置ずれと比例関係にあるので、ビームプロファイラ42が検出したモニタビーム34の位置ずれによって、光ビーム32のターゲット36付近における位置ずれを簡便に推定できる。
【0079】
こうして検出された出力に関する信号、モードに関する信号または光軸位置に関する信号は、制御回路10に供給される。制御回路10は、この検出信号に基づいて出力制御装置2、光軸調節装置51および形状制御装置13の各動作を制御する。出力制御装置2は、検出された出力と予め定められた出力との差が小さくなるように、好ましくは両者が一致するように、レーザ光源1のレーザ出力を制御する。形状制御装置13は、検出されたモードと予め定められたモードとの差が小さくなるように、好ましくは両者が一致するように、可変曲率ミラー12の形状を制御する。
【0080】
光軸位置に関しては、光軸調節装置51および形状制御装置13の一方または両方が関与することが可能であり、検出された光軸位置と予め定められた光軸位置との差が小さくなるように、好ましくは両者が一致するように、光軸調節装置51内のミラー角度調節及び/又は可変曲率ミラー12の角度調節によって光ビーム32の照射方向を制御する。
【0081】
なお、回折格子のパターン、ピッチおよび深さの設定によって、モニタビーム発生数は任意に設定できる。複数のモニタビームに対して、複数の焦点位置検出装置またはビームプロファイラを配置してもよく、あるいは、複数のモニタビームに対して必要な数の焦点位置検出装置またはビームプロファイラを配置し、不要なモニタビームはダンパを設けて遮断してもよい。また、モニタビームを実質1つのみ発生させて、該モニタビームを1つの焦点位置検出装置を用いて検出してもよい。
【0082】
以上、本実施形態の構成によれば、ウィンドウ部材として機能する集光光学素子11の表面に回折格子を設けて回折ビームを発生させ、モニタビーム33の焦点位置を検出することによって、ターゲット36を照射する光ビーム32の焦点位置を監視できる。このため、何らかの要因で光ビーム32の焦点位置にずれが生じた場合でも、光ビーム32の焦点位置をリアルタイムに補正し制御することができる。
【0083】
さらに、上記の検知結果を用いて、形状制御装置13が可変曲率ミラー12の反射面の曲率を制御しているため、照射される光ビーム32の焦点位置が所定の位置からシフトしても、リアルタイムに修正可能になり、正確に光ビーム32の焦点位置を制御する効果を奏する。
【0084】
特に本実施形態では、集光レンズの母材として熱伝導率の高いダイヤモンドを用いているため、一般的な中赤外レーザ用のウィンドウ母材であるセレン化亜鉛を用いた場合と比べて、熱レンズ効果を10倍以上小さく抑制できる。そのため、照射ビームの焦点位置の補正や制御がより簡便になる。
【0085】
また、照射される光ビーム32と所定の関係にあるプロファイルを有するモニタビーム33,34をビームプロファイラで検出することによって、照射ビームの出力、モードまたは光軸位置を高い信頼性で検知することができる。
【0086】
さらに、上記の出力、モードまたは光軸位置の検知結果を用いて、レーザ光源1の出力、光ビーム31,32の光軸方向、または光ビーム32のターゲット付近におけるモードを制御できるため、照射される光ビーム32の出力、光軸位置、モードが所定の状態からシフトしても、リアルタイムに修正可能になり、高い信頼性で光ビーム32の出力、モード、光軸位置を制御することができる。
【0087】
こうして制御された光ビーム32をターゲット36に照射した場合、処理不良の発生を抑制でき、常に最適な状態でターゲット36を処理することが可能になる。
【0088】
特に、本実施形態では、回折格子の溝の周期Λが、λa<Λ<λの関係を満たすことにより、光ビーム32以外のビームがターゲット36に照射されることを防止できる。その結果、筐体21内に余分なビームが発生しなくなり、レーザ光の利用効率が向上する。
【符号の説明】
【0089】
1 レーザ光源、 2 出力制御装置、 10 制御回路、 11 集光光学素子、
12 可変曲率ミラー、 13 形状制御装置、 21 筐体、
31,32 光ビーム、 33,34 モニタビーム、 36 ターゲット、
41 焦点位置検出装置、 42 ビームプロファイラ、 51 光軸調節装置、
52,53 ミラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源から供給される光ビームをターゲットに集光するための集光光学素子と、
光ビームの光路の途中に設けられ、光ビームの波面曲率を変更するための可変曲率ミラーと、
光ビームの光路の途中に設けられ、回折ビームを発生するための回折格子と、
回折ビームを受光して、ターゲットに照射される光ビームの焦点位置を検出するための焦点位置検出装置とを備えることを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
集光光学素子は、前記可変曲率ミラーの凹状反射面として構成され、
回折格子は、凹状反射面の表面に形成されていることを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。
【請求項3】
集光光学素子は、凹面ミラーとして構成され、
回折格子は、凹面ミラーの表面に形成されていることを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。
【請求項4】
集光光学素子は、集光レンズとして構成され、
回折格子は、集光レンズのターゲット側の表面に形成されていることを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。
【請求項5】
回折格子の周期をΛ、集光レンズの媒質中における光ビームの波長をλa、真空中における光ビームの波長をλとして、λa<Λ<λの関係を満たすことを特徴とする請求項4記載のレーザ装置。
【請求項6】
回折格子から焦点位置検出装置の受光面までの光路長が、回折格子からターゲットまでの光路長と等しいことを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。
【請求項7】
回折ビームの出力、モードおよび光軸位置の少なくとも1つを測定するためのビーム分布測定装置をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。
【請求項8】
焦点位置検出装置の出力信号に基づいて、可変曲率ミラーの反射面の曲率を制御するための制御回路をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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