説明

レーザ走査光学装置

【課題】光学部材をホルダに対して3軸方向に位置決めし、且つ、1方向には光学部材の位置を調整可能なレーザ走査光学装置を提供する。
【解決手段】光学部材を第1、第2および第3の軸方向にそれぞれ位置決めする第1、第2および第3の座と、第1、第2および第3の座に対して光学部材をそれぞれ押圧する第1、第2および第3の弾性部材とを備える光学ホルダにおいて、第1の座は、自身が位置決めする軸方向に移動可能であって、第1、第2および第3の弾性部材の押圧力をFu,Fv,Fwとし、第1、第2および第3の座と光学部材のとの間の摩擦係数をμau,μav,μawとし、第1、第2および第3の弾性部材と光学部材のとの間の摩擦係数をμbu,μbv,μbwとしたとき、Fu>μav・Fv+μbv・Fv+μaw・Fw+μbw・Fwが成り立つようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ走査光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ走査光学装置において、レンズやミラーのようなレーザ光線を整形または導光(反射含む)する光学部材を、他の要素との相対関係が適切になるように位置決めする必要がある。
【0003】
特許文献1には、ミラーを基準面に押圧することにより、ミラーの反射面を基準面に対して所定の角度に保持し、且つ、基準面の延長線上に設けたリブの当接面にミラーの角を押圧することで、ミラーの位置を定める位置決め固定方法が記載されている。実際のレーザ走査光学装置では、基準面を有するホルダや光学部材等の形状の誤差等を吸収するために、光学部材の位置を微調整できることが望ましい。
【0004】
光学部材を位置決めする座を、ねじ等で構成し、調整可能とすることが考えられるが、通常、光学部材は、XYZの3軸方向にそれぞれ位置決めする必要があり、ある方向に光学部材を微調整しようとしても、他の方向の座やばねと光学部材との間の摩擦力によって、位置を微調整した座に光学部材を当接させられない場合がある。
【0005】
特許文献2には、長尺レンズユニットをハウジングに押圧固定する光学走査装置において、ハウジングに固定された支持台および昇降ねじによって光軸方向の位置決めがされており、ハウジングに設けられた固定部および昇降ねじによって光軸と垂直な2方向のうちの1方向について位置決めを行い、昇降ねじの突出量を調整することによって長尺レンズユニットの取り付け位置を調整できるようにした発明が記載されている。
【0006】
しかしながら、昇降ねじによって長尺レンズユニットを光路方向へ位置決めすると、昇降ねじが光路方向に傾きを持っていた場合に、昇降ねじの繰り出し量によって光路方向における長尺レンズユニットの位置がずれてしまうという問題が生じる。また、特許文献2に記載の発明では、光路方向及び昇降ねじの繰り出し方向の両方に垂直な方向に関しては的確な位置決めがなされておらず、昇降ねじを移動させた際には長尺レンズが想定外の方向へずれを生じてしまう可能性がある
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−208958号公報
【特許文献2】特開2007−25014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記問題点に鑑みて、本発明は、光学部材をホルダに対して3軸方向に位置決めし、且つ、1方向には光学部材の位置を調整可能なレーザ走査光学装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明によるレーザ走査光学装置の第1の態様は、レーザ光線を整形若しくは導光するための光学部材を保持し、前記光学部材を第1、第2および第3の軸方向にそれぞれ位置決めする第1、第2および第3の座と、自身の弾性力によって、前記第1、第2および第3の座に対して前記光学部材をそれぞれ押圧する第1、第2および第3の弾性部材とを備える光学ホルダを有し、前記第1の座は、自身が位置決めする軸方向に移動可能であって、前記第1の弾性部材の押圧力が、前記第2および第3の弾性部材の押圧力より大きいものとする。
【0010】
この構成によれば、第1の座を第1の弾性部材の押圧方向に後退させたとき、第1の弾性部材が光学部材を押して第1の座に追従させられる。
【0011】
また、本発明によるレーザ走査光学装置の第2の態様は、レーザ光線を整形若しくは導光するための光学部材を保持し、前記光学部材を第1、第2および第3の軸方向にそれぞれ位置決めする第1、第2および第3の座と、自身の弾性力によって、前記第1、第2および第3の座に対して前記光学部材をそれぞれ押圧する第1、第2および第3の弾性部材とを備える光学ホルダを有し、前記第1の座は、自身が位置決めする軸方向に移動可能であって、前記第1、第2および第3の弾性部材の押圧力を、それぞれ、Fu,Fv,Fwとし、前記第2および第3の座と前記光学部材のとの間の摩擦係数を、それぞれ、μav,μawとし、前記第2および第3の弾性部材と前記光学部材のとの間の摩擦係数を、それぞれ、μbv,μbwとすると、Fu>μav・Fv+μbv・Fv+μaw・Fw+μbw・Fwが成り立つものとする。
【0012】
この構成によれば、第1の座を第1の弾性部材の押圧方向に後退させたとき、光学部材と第2、第3の弾性部材および第2、第3の座との間の摩擦力に抗して、第1の弾性部材が光学部材を押して第1の座に追従させられる。
【0013】
また、本発明のレーザ走査光学装置において、前記第1、第2および第3の弾性部材の押圧力を、それぞれ、Fu,Fv,Fwとし、前記第1の弾性部材と前記光学部材のとの間の摩擦係数をμbvとすると、Fv>μbu・Fu、および、Fw>μbu・Fuが成り立つようにするとよい。
【0014】
この構成によれば、第1の弾性部材の光学部材に当接する部分の弾性変形による移動方向が第1の軸方向とずれていても、第1の弾性部材の光学部材に当接する部分が光学部材に対して滑り変位可能であるため、光学部材が第2、第3の座から浮き上がらない。
【0015】
また、本発明のレーザ走査光学装置において、前記第1、第2および第3の弾性部材の押圧力を、それぞれ、Fu,Fv,Fwとし、前記第1の弾性部材と前記光学部材のとの間の摩擦係数をμbuとし、前記第1の弾性部材の押圧点から、前記第2および第3の座の前記第1の弾性部材の押圧点から最も遠い部分までの前記第1の軸方向の距離をDlv,Dlwとし、前記第2および第3の弾性部材の押圧力の作用中心から、前記第2および第3の座の前記第1の弾性部材の押圧点から最も遠い部分までの前記第1の軸方向の距離をDsv,Dswとすると、Fv>Dlv/Dsv・μbu・Fu、および、Fw>Dlw/Dsw・μbu・Fuが成り立つようにするとよい。
【0016】
この構成によれば、記第2および第3の座の前記第1の弾性部材の押圧点から最も遠い点を支点とする、第2および第3の弾性部材の押圧力の作用中心を力点とし、第1の弾性部材の押圧点を力点としたてこの作用として、第1の弾性部材の光学部材に当接する部分を光学部材に対して滑り変位させられるため、光学部材が第2、第3の座から浮き上がることがない。
【0017】
また、本発明のレーザ走査光学装置において、前記第2および第3の弾性部材の押圧力を、それぞれ、Fv,Fwとし、前記第2および第3の座と前記光学部材のとの間の摩擦係数を、それぞれ、μav,μawとし、前記第2および第3の弾性部材と前記光学部材のとの間の摩擦係数を、それぞれ、μbv,μbwとし、前記第1の弾性部材のばね定数をK、前記第1の座をその移動範囲の中央に位置決めしたときの前記第1の弾性部材のたわみ量をLs、前記第1の座の前記移動可範囲の中央から前記移動可能範囲の端部までの距離をLdとすると、K・(Ls−Ld)>μav・Fv+μbv・Fv+μaw・Fw+μbw・Fwが成り立つようにするとよい。
【0018】
この構成によれば、弾性部材の変形量が最も小さくなる場合にも、光学部材と第2、第3の弾性部材および第2、第3の座との間の摩擦力に抗して、第1の弾性部材が光学部材を押して第1の座に追従させられる。
【0019】
また、本発明のレーザ走査光学装置において、前記第1、第2および第3の弾性部材の押圧力を、それぞれ、Fu,Fv,Fwとし、前記第2および第3の座と前記光学部材のとの間の摩擦係数を、それぞれ、μav,μawとし、前記第2および第3の弾性部材と前記光学部材のとの間の摩擦係数を、それぞれ、μbv,μbwとし、前記第1の弾性部材の押圧力の作用方向と、前記第1の軸方向とがなす角度をθとすると、cosθ・Fu>μav・Fv+μbv・Fv+μaw・Fw+μbw・Fwが成り立つようにするとよい。
【0020】
この構成によれば、第1の弾性部材の押圧力の第1の軸方向の成分が、光学部材と第2、第3の弾性部材および第2、第3の座との間の摩擦力の合力より大きくなり、第1の弾性部材が光学部材を押して第1の座に追従させられる。
【0021】
また、本発明のレーザ走査光学装置において、前記光学部材は、金属製の補強部材によって補強されていてもよい。
【0022】
この構成によれば、光学部材の変形による押圧力の逃げや摩擦の変化を防止できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、3軸方向の押圧力の関係を規定することで、第1の軸方向に位置を調整可能であり、且つ、3軸方向の3つの座に光学部材をそれぞれ当接させて正確に位置決めできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態のレーザ走査光学系の概略斜視図である。
【図2】図1のレーザ走査光学系の光学ホルダの斜視図である。
【図3】図2の光学ホルダから光学部材および弾性部材を取り除いた斜視図である。
【図4】図2の光学ホルダの平面図である。
【図5】図2の光学ホルダからZ軸方向の弾性部材を取り除いた平面図である。
【図6】図4の光学ホルダのA−A断面図である。
【図7】図2の光学ホルダのY軸方向の弾性部材の拡大側面図である。
【図8】図2の光学ホルダの光学部材の力学モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明の第1実施形態の露光器(レーザ走査光学装置)1の概要を示す。
【0026】
レーザ走査光学装置1は、レーザ光を射出するレーザダイオード2と、レーザダイオード2が射出したレーザ光を平行光線に整形するコリメータレンズ3と、レーザ光線を集光させる集光レンズ4と、レーザ光を反射して主走査方向に走査するように偏向させる回転体である偏向器5と、レーザ光を合焦させる第1走査レンズ(光学部材)6、第2走査レンズ(光学部材)7および第3走査レンズ(光学部材)8と、レーザ光を折り返す反射鏡9とからなり、帯電した感光体10にレーザ光を照射して、感光体10上に静電潜像を形成する。
【0027】
第1走査レンズ6、第2走査レンズ7および第3走査レンズ8は、図2に示すように、1つの光学ホルダ11に保持されている。尚、本実施形態においては、図示するように、第1走査レンズ6、第2走査レンズ7および第3走査レンズ8の光学中心の方向をX軸方向、レーザ光線の走査方向をY軸方向、X軸およびY軸に直交する方向をZ軸方向と称する。
【0028】
光学ホルダ11は、図3に示すように、第1走査レンズ6をX軸方向に受け止める円柱状に突接された2つの第1レンズX軸固定座12と、第1走査レンズ6をY軸方向に受け止める壁面からなる第1レンズY軸固定座13と、第1走査レンズ6をZ軸方向に受け止める球体からなる3つの第1レンズZ軸固定座14とを有する。
【0029】
第1レンズX軸固定座12は、第1走査レンズ6の反対側に、第2走査レンズ7もX軸方向に受け止める。分かりやすいように、以後、第1レンズX軸固定座12は、第2走査レンズ7の保持構造について述べるときは、第2レンズX軸固定座12と呼称する。さらに、光学ホルダ11は、第2走査レンズ7をY軸方向に受け止める第2レンズY軸調整座15と、第2走査レンズ7をZ軸方向に受け止める球体からなる3つの第2レンズZ軸固定座16とを有する。第2レンズY軸調整座15は、光学ホルダ11に咬合するY軸調整ねじ17の先端部に形成されており、Y軸方向に位置を調整可能である。
【0030】
さらに、光学ホルダ11は、第3走査レンズ8をX軸方向に受け止める円柱状に突接された2つの第3レンズX軸固定座18と、第3走査レンズ8をY軸方向に受け止める円柱状の第3レンズY軸座固定19と、第3走査レンズ8をZ軸方向に受け止める球体からなる2つの第3レンズZ軸固定座20と、第3レンズZ軸調整座21とを有する。第3レンズZ軸調整座21は、光学ホルダ11に咬合するZ軸調整ねじ22の先端部に形成されており、Z軸方向に位置を調整可能である。
【0031】
図4に示すように、第1走査レンズ6は、光学ホルダ11に取り付けられる板ばねからなる一対の第1Z軸弾性部材23の弾性力によって、第1レンズZ軸固定座14に押圧される。また、第2走査レンズ7は、光学ホルダ11に取り付けられる板ばねからなる一対の第2Z軸弾性部材24によって、第2レンズZ軸固定座16に押圧される。また、第3走査レンズ8は、光学ホルダ11に取り付けられる板ばねからなる一対の第3Z軸弾性部材25によって、第3レンズZ軸固定座20および第3レンズZ軸調整座21に押圧される。
【0032】
また、図5の図4から第1Z軸弾性部材23、第2Z軸弾性部材24および第3Z軸弾性部材25を取り除いた図、並びに、図6の図4におけるA−A断面矢視図に示されるように、第1走査レンズ6は、光学ホルダ11に取り付けられる板ばねからなる第1X軸弾性部材27によって、第1レンズX軸固定座12に押圧され、第2走査レンズ7は、光学ホルダ11に取り付けられる板ばねからなる第1X軸弾性部材27によって、第2レンズX軸固定座12(第1レンズX軸固定座12の反対側)に押圧され、第3走査レンズ8は、光学ホルダ11に取り付けられる板ばねからなる第3X軸弾性部材28によって、第3レンズX軸固定座18に押圧される。
【0033】
さらに、第1走査レンズ6は、光学ホルダ11に取り付けられる板ばねからなる第1Y軸弾性部材29によって、第1レンズY軸固定座13に押圧され、第2走査レンズ7は、光学ホルダ11に取り付けられる板ばねからなる第2Y軸弾性部材30によって、第2レンズY軸調整座15に押圧され、第3走査レンズ8は、光学ホルダ11に取り付けられる板ばねからなる第3Y軸弾性部材31によって、第1レンズY軸固定座19に押圧される。
【0034】
本実施形態において、第1X軸弾性部材26の押圧力の合力、第2X軸弾性部材27の押圧力の合力および第3X軸弾性部材27の押圧力の合力を、それぞれ、F1x、F2xおよびF3xとし、第1Y軸弾性部材29の押圧力、第2Y軸弾性部材30の押圧力および第3Y軸弾性部材31の押圧力を、それぞれ、F1y、F2yおよびF3yとし、第1Z軸弾性部材23の押圧力の合力、第2Z軸弾性部材24の押圧力の合力および第3Z軸弾性部材25の押圧力の合力を、それぞれ、F1z、F2zおよびF3zとする。
【0035】
また、第1走査レンズ6と第1レンズX軸固定座12、第1レンズY軸固定座13および第1レンズZ軸固定座14との間のそれぞれの摩擦係数をμ1ax、μ1ayおよびμ1azとし、第2走査レンズ7と第2レンズX軸固定座12、第2レンズY軸調整座15および第2レンズZ軸固定座16との間のそれぞれの摩擦係数をμ2ax、μ2ayおよびμ2azとし、第3走査レンズ8と第3レンズX軸固定座18、第3レンズY軸固定座19および第3レンズZ軸固定座20、第3レンズZ軸調整座21との間のそれぞれの摩擦係数をμ3ax、μ3ayおよびμ3azとする。
【0036】
さらに、第1走査レンズ6と第1X軸弾性部材26、第1Y軸弾性部材29および第1Z軸弾性部材23との間のそれぞれの摩擦係数をμ1bx、μ1byおよびμ1bzとし、第2走査レンズ7と第2X軸弾性部材27、第2Y軸弾性部材30および第2Z軸弾性部材24との間のそれぞれの摩擦係数をμ2bx、μ2byおよびμ2bzとし、第3走査レンズ8と第3X軸弾性部材28、第3Y軸弾性部材31および第3Z軸弾性部材25との間のそれぞれの摩擦係数をμ3bx、μ3byおよびμ3bzとする。
【0037】
ここからは、第2走査レンズ7の保持構造について詳細に説明する。本実施形態において、光学ホルダ11に第2走査レンズ7を保持させる手順は、光学ホルダ11上に第2走査レンズ7載置し、先ず、第2X軸弾性部材27および第2Z軸弾性部材24によって、第2走査レンズ7を第2X軸固定座12および第2Z軸固定座16にそれぞれ押圧する。続いて、第3Y軸弾性部材を光学ホルダ11と第2走査レンズ7の端面7aとの間に挿入することによって、第2走査レンズ7を第2レンズY軸調整座15に押圧する。最後に、Y軸調整ねじ17を回して第2レンズY軸調整座15のY軸方向の位置を調整し、第2走査レンズ7の光学中心を第1走査レンズ6の光学中心に対して芯合わせする。
【0038】
第2走査レンズ7の保持構造においては、調整可能な第2レンズY軸調整座15に対して第2走査レンズ7を押圧する第2Y軸弾性部材30の押圧力(弾性力)F2yが、他の方向の押圧力、つまり、第2X軸弾性部材27の押圧力F2xおよび第2Z軸弾性部材24の押圧力F2zよりも大きくなるように設計されている。このた、え、2レンズY軸調整座15を第2Y軸弾性部材30と反対側に後退させたときも、第2走査レンズ7は、第2Y軸弾性部材30の押圧力F2yによって、第2レンズY軸調整座15に追従し、第2走査レンズ7のスムーズな調整を可能にする。
【0039】
より詳しくは、押圧力F2yは、第2走査レンズ7と、第2レンズX軸固定座12、第2X軸弾性部材27、第2レンズZ軸固定座16および第2Z軸弾性部材24との間のそれぞれの摩擦力の合計よりも大きな力である必要がある。つまり、本実施形態では、次の数式1を満たす。
【0040】
【数1】

【0041】
第2レンズY軸調整座15がその調整範囲の中心(規準位置)にあるときの第2Y軸弾性部材30のたわみ量をLs、第2レンズY軸調整座15の調整可能量(規準位置からの最大変位)をLd、第2Y軸弾性部材30のばね定数をKとすると、第2Y軸弾性部材30の弾性力が最小になっているときの第2Y軸弾性部材30のたわみ量は、(Ls−Ld)と表されるため、そのときの押圧力は、F2y=K・(Ls−Ld)となる。従って、上記数式1は、次の数式2に書き直すことができる。
【0042】
【数2】

【0043】
本実施形態は、この数式2を満たすことによって、第2レンズY軸調整座15を調整域のどの位置に配置したとしても、第2Y軸弾性部材30の弾性力F2yが、常に、第2走査レンズ7と、第2レンズX軸固定座12、第2X軸弾性部材27、第2レンズZ軸固定座16および第2Z軸弾性部材24との間の摩擦力の合計よりも大きくなり、第2走査レンズ7のスムーズな調整を可能としている。
【0044】
また、図7に示すように、U字型の板ばねからなる第2Y軸弾性部材30は、その弾性変形によって、押圧力F2yの作用方向が変化し得る。第2Y軸弾性部材30の押圧力の作用方向とY軸方向との角度をθとすると、第2Y軸弾性部材30の押圧力のY軸方向の成分は、cosθ・F2yである。第2走査レンズ7のスムーズな調整のスムーズな移動のためには、この第2Y軸弾性部材30の押圧力のY軸方向の成分が、X軸方向およびZ軸方向の圧接による摩擦力の合力よりも大きくなる必要がある。このため、本実施形態では、上記数式1に、さらに、第2Y軸弾性部材30の押圧力の作用方向を加味した次の数式3を満たすようにしている。
【0045】
【数3】

【0046】
また、実際に第2走査レンズ7をY軸方向に調整するときには、第2Y軸弾性部材30は、たわみ量が変化するとともに、押圧力の作用方向も変化する。このため、第2Y軸弾性部材30のたわみ量の変化と押圧力の作用方向の変化との両方を考慮すると、第2レンズY軸調整座12の調整によって、第2Y軸弾性部材30の弾性力が最小になっているとき、つまり、第2Y軸弾性部材30のたわみ量が(Ls−Ld)となっているときの第2弾性部材30の押圧力の作用方向とY軸方向との角度をθdとして、次の数式4を満たすことで、第2走査レンズ7のスムーズな調整をより確実にできる
【0047】
【数4】

【0048】
また、U字型の板ばねからなる第2Y軸弾性部材30は、第2レンズY軸調整座15の調整の際に、第2走査レンズ7に対して当接する部分がZ軸方向に移動する。また、組み立て際に、第2Y軸弾性部材30を光学ホルダ11と第2走査レンズ7との間に押し込むときにも、第2走査レンズ7に対して当接する部分がX軸方向およびY軸方向に滑り移動する必要がある。このため、第2X軸弾性部材27および第2Z軸弾性部材24の押圧力F2xおよびF2zは、第2Y軸弾性部材30との間の摩擦力に打ち勝って、第2走査レンズ7を第2レンズX軸固定座および第2レンズZ軸固定座に押圧できるものでなくてはならない。従って、次の数式5,6を満たす必要がある。
【0049】
【数5】

【0050】
【数6】

【0051】
また、図8に示すように、第2X軸弾性部材27の押圧力F2xは、第2Y軸弾性部材30から最も遠い第2レンズX軸固定座12を支点としたてこの作用により、第2走査レンズ7と第2Y軸弾性部材30との間のX軸方向の滑りを生じさせると考えることもできる。このため、第2Y軸弾性部材30の押圧点(第2走査レンズ7の端面7a)から、第2Y軸弾性部材30から最も遠い第2レンズX軸固定座12の当接位置までのY軸方向の距離をDlx、第2X軸弾性部材27の押圧力F2xの作用中心から、第2Y軸弾性部材30から最も遠い第2レンズX軸固定座12の当接位置までのY軸方向の距離をDsxとすると、Dsx・F2x>Dlx・μbu・Fyでなければならず、次の数式7を満たす必要がある。
【0052】
【数7】

【0053】
また、Z軸方向についても同様のことが言えるため、第2Y軸弾性部材30の押圧点(第2走査レンズ7の端面7a)から、第2Y軸弾性部材30から最も遠い第2レンズZ軸固定座16の当接位置までのY軸方向の距離をDlz、第2Z軸弾性部材24の押圧力F2zの作用中心から、第2Y軸弾性部材30から最も遠い第2レンズZ軸固定座16の当接位置までのY軸方向の距離をDszとすると、次の数式8を満たすことが必要である。
【0054】
【数8】

【0055】
本実施形態では、第2レンズX軸固定座12および第2レンズZ軸固定座16は、第2走査レンズ7の両端近傍を支持するので、Dlx/Dsx≒2、Dlz/Dsz≒2である。よって、数式7,8,に替えて、次の数式9,10を用いてもよい。
【0056】
【数9】

【0057】
【数10】

【0058】
数式1に数式9,10を代入し、μ2ax=μ2bx=μ2ay=μ2by=μ2az=μ2bz=μとすると、F2y>8×μ・F2yとなる。これより、次の数式11が導かれる。
【0059】
【数11】

【0060】
この数式9は、摩擦係数μが0.35より低いときだけ数式1,9,10の条件を同時に満たし得ることを示している。
【0061】
また、μ=√(1/8)とすれば、数式1は、F2y>2×√(1/8)×(F2x+F2z)となり、さらに、F2y=F2x=F2zとすると、F2y>√2×F2x=1.4×F2z≒1.4×F2xとなる。つまり、第2Y軸弾性部材30の押圧力F2yの初期値は、第2X軸弾性部材27の押圧力F2xおよび第2Z軸弾性部材24の押圧力F2zの1.4倍程度が好ましい。
【0062】
以上では、第2レンズY軸調整座15がY軸方向に調整可能な第2走査レンズ7の保持構造について説明したが、Z軸方向に調整可能な第3走査レンズ8の保持構造やX軸方向に光学部材を調整可能する構造にも、上述の数式の軸(xyz)を入れ替えるだけで適用できる。つまり、その軸方向に位座を移動できるものをu軸、座が固定されているもをv軸、w軸とすることで、以上の説明を一般化できる。
【0063】
また、以上の実施形態において、第1走査レンズ6、第2走査レンズ7および第3走査レンズ8は、局所的に変形しないように、光学ホルダ11に保持される部分が金属製の補強部材で補強されていることが好ましい。
【符号の説明】
【0064】
1…レーザ走査光学装置
7…第2走査レンズ(光学部材)
8…第2走査レンズ(光学部材)
11…光学ホルダ
12…第2レンズX軸固定座(第2の座)
15…第2レンズY軸調整座(第1の座)
16…第2レンズZ軸固定座(第3の座)
17…Y軸調整ねじ
18…第3レンズX軸固定座(第2の座)
19…第3レンズX軸固定座(第3の座)
20…第3レンズZ軸固定座(第1の座)
21…第3レンズZ軸調整座
22…Z軸調整ねじ
24…第2Z軸弾性部材(第3の弾性部材)
27…第2X軸弾性部材(第2の弾性部材)
30…第2Y軸弾性部材(第1の弾性部材)
25…第3Z軸弾性部材(第3の弾性部材)
28…第3X軸弾性部材(第2の弾性部材)
31…第3Y軸弾性部材(第1の弾性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光線を整形若しくは導光するための光学部材を保持し、前記光学部材を第1、第2および第3の軸方向にそれぞれ位置決めする第1、第2および第3の座と、自身の弾性力によって、前記第1、第2および第3の座に対して前記光学部材をそれぞれ押圧する第1、第2および第3の弾性部材とを備える光学ホルダを有し、
前記第1の座は、自身が位置決めする軸方向に移動可能であって、
前記第1の弾性部材の押圧力が、前記第2および第3の弾性部材の押圧力より大きいことを特徴とするレーザ走査光学装置。
【請求項2】
レーザ光線を整形若しくは導光するための光学部材を保持し、前記光学部材を第1、第2および第3の軸方向にそれぞれ位置決めする第1、第2および第3の座と、自身の弾性力によって、前記第1、第2および第3の座に対して前記光学部材をそれぞれ押圧する第1、第2および第3の弾性部材とを備える光学ホルダを有し、
前記第1の座は、自身が位置決めする軸方向に移動可能であって、
前記第1、第2および第3の弾性部材の押圧力を、それぞれ、Fu,Fv,Fwとし、
前記第2および第3の座と前記光学部材のとの間の摩擦係数を、それぞれ、μav,μawとし、
前記第2および第3の弾性部材と前記光学部材のとの間の摩擦係数を、それぞれ、μbv,μbwとすると、
Fu>μav・Fv+μbv・Fv+μaw・Fw+μbw・Fw
が成り立つことを特徴とするレーザ走査光学装置。
【請求項3】
前記第1、第2および第3の弾性部材の押圧力を、それぞれ、Fu,Fv,Fwとし、
前記第1の弾性部材と前記光学部材のとの間の摩擦係数をμbvとすると、
Fv>μbu・Fu
Fw>μbu・Fu
が成り立つことを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ走査光学装置。
【請求項4】
前記第1、第2および第3の弾性部材の押圧力を、それぞれ、Fu,Fv,Fwとし、
前記第1の弾性部材と前記光学部材のとの間の摩擦係数をμbuとし、
前記第1の弾性部材の押圧点から、前記第2および第3の座の前記第1の弾性部材の押圧点から最も遠い部分までの前記第1の軸方向の距離をDlv,Dlwとし、
前記第2および第3の弾性部材の押圧力の作用中心から、前記第2および第3の座の前記第1の弾性部材の押圧点から最も遠い部分までの前記第1の軸方向の距離をDsv,Dswとすると、
Fv>Dlv/Dsv・μbu・Fu
Fw>Dlw/Dsw・μbu・Fu
が成り立つことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のレーザ走査光学装置。
【請求項5】
前記第2および第3の弾性部材の押圧力を、それぞれ、Fv,Fwとし、
前記第2および第3の座と前記光学部材のとの間の摩擦係数を、それぞれ、μav,μawとし、
前記第2および第3の弾性部材と前記光学部材のとの間の摩擦係数を、それぞれ、μbv,μbwとし、
前記第1の弾性部材のばね定数をK、前記第1の座をその移動範囲の中央に位置決めしたときの前記第1の弾性部材のたわみ量をLs、前記第1の座の前記移動可範囲の中央から前記移動可能範囲の端部までの距離をLdとすると、
K・(Ls−Ld)>μav・Fv+μbv・Fv+μaw・Fw+μbw・Fw
が成り立つことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のレーザ走査光学装置。
【請求項6】
前記第1、第2および第3の弾性部材の押圧力を、それぞれ、Fu,Fv,Fwとし、
前記第2および第3の座と前記光学部材のとの間の摩擦係数を、それぞれ、μav,μawとし、
前記第2および第3の弾性部材と前記光学部材のとの間の摩擦係数を、それぞれ、μbv,μbwとし、
前記第1の弾性部材の押圧力の作用方向と、前記第1の軸方向とがなす角度をθとすると、
cosθ・Fu>μav・Fv+μbv・Fv+μaw・Fw+μbw・Fw
が成り立つことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のレーザ走査光学装置。
【請求項7】
前記光学部材は、金属製の補強部材によって補強されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のレーザ走査光学装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−107322(P2011−107322A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260965(P2009−260965)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】