説明

レーザ超音波探傷装置

【課題】小型・軽量で取り廻しが良く、しかもレーザの出力やパルス幅の制御範囲が広いレーザ超音波探傷装置を提供する。
【解決手段】レーザ光源11から発振された1種類の波長λを有するレーザ光が、波長シフタ12で少なくとも2種類の波長λ,λを含むレーザ光に変換され、さらに分波器13で、第1の波長λを有するレーザ光と、第2の波長λを有するレーザ光とに分波される。第1の波長λを有するレーザ光の出力とパルス幅は、被検査物100に損傷を与えずに超音波振動を生成させるのに適した大きさとなるよう、第1の制御器14で調整される。第2の波長λを有するレーザ光の出力とパルス幅は、上記超音波振動を検出するのに適した大きさとなるよう、第2の制御器15で調整される。これらを合波器16で一のレーザ光にして、被検査物100の表面に照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非破壊で被検査物内部の欠陥などを探査するために用いられるレーザ超音波探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、航空宇宙や自動車等の産業において、製品の軽量化を図る等の目的で、複合材料が多用されるようになってきている。このような複合材料等の構造的完全性を非破壊で評価する手法として、レーザ超音波探傷装置が用いられている。
【0003】
このレーザ超音波探傷装置の原理を簡単に説明する。まず、被検査物の表面に第1のレーザ光を照射すると、熱弾性効果により超音波振動が発生する。すなわち、第1のレーザ光により被検査物の表面が加熱されて温度が上昇し、この温度上昇に伴って被検査物に体積膨張が生じて応力が発生し、この応力により超音波振動が発生する。
【0004】
この超音波振動は、被検査物の表面から内部へ伝搬し、被検査物内部に欠陥があった場合には、この欠陥部位にて超音波振動が反射して被検査物の表面を再び振動させる。この振動する被検査物の表面に第2のレーザ光を照射すると、この第2のレーザ光が被検査物の表面で反射し、その反射光には、被検査物内部の欠陥部位にて反射した超音波振動が重畳されることになる。したがって、第2のレーザ光の反射光をレーザ干渉計等に導いて超音波振動を抽出することにより、被検査物内部の欠陥を探査することができる。この際、第1のレーザ光の反射光をレーザ干渉計に導かずに、第2のレーザ光の反射光のみをレーザ干渉計に導くため、第1のレーザ光の波長と第2のレーザ光の波長を異ならしめ、波長フィルタにて第1のレーザ光の反射光のみを除去するようにする。(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0291963号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0016965号明細書
【特許文献3】特表2003−508771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このようなレーザ超音波探傷装置は、次の課題を有していた。
被検査物にアブレーション等の損傷を与えることなく適度な超音波振動を発生させるためには、被検査物の材質や寸法等に応じて、第1のレーザ光の出力やパルス幅を適切な大きさに調整する必要がある。また、第1のレーザ光によって被検査物に発生する超音波振動が、第2のレーザ光によって影響を受けないようにするためには、第2のレーザ光の出力やパルス幅も適切な大きさに調整する必要がある。この第1のレーザ光、第2のレーザ光の出力やパルス幅の制御は、これら第1のレーザ光、第2のレーザ光を発振するレーザ光源を直接調整することにより行われていた。このため、レーザ光の出力やパルス幅の制御範囲が狭い範囲に限定されてしまい、被検査物の種類に応じてレーザ光の出力やパルス幅を適切な大きさに調整することが十分に行えない場合があった。
【0007】
また、超音波振動を発生させるための第1のレーザ光の反射光をレーザ干渉計に導かずに、超音波振動を検出するための第2のレーザ光の反射光のみをレーザ干渉計に導くため、上記のように、第1のレーザ光の波長と第2のレーザ光の波長を異ならしめ、波長フィルタにて第1のレーザ光の反射光のみを除去するようにしている。この第1のレーザ光と第2のレーザ光とを発生させるためには、2種類のレーザ光源が必要となり、このことが、レーザ超音波探傷装置が大型化する原因となっていた。
【0008】
さらに、レーザ超音波探傷装置内では、レンズやミラー等のバルク型光学素子によってレーザ光が導光されていた。したがって、レーザ超音波探傷装置内でレーザ光が通過する各構成要素について、アライメント精度を確保するための固定治具が必要となり、レーザ超音波探傷装置内におけるこれら各構成要素の配置の自由度が制約されていた。この結果、レーザ超音波探傷装置が大型化し、可搬性が乏しいものとなっていた。このため、被検査物の各部位について探傷検査を実施する際に、この各部位をレーザ超音波探傷装置にあてがうようにして被検査物を移動させる必要が生じ、特に重量や寸法が大きい被検査物の探傷検査を実施することが困難であった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、装置の構成を簡素化することにより、小型・軽量で取り廻しが良く、しかもレーザ光の出力やパルス幅の制御範囲が広いレーザ超音波探傷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明に係るレーザ超音波探傷装置は、第1のレーザ光を被検査物の表面に照射し、第2のレーザ光を前記被検査物の表面に照射して該被検査物の表面で反射した反射波を検知することによって、前記第1のレーザ光によって生成された超音波により励起された前記被検査物の表面の振動変位を取得し、この振動変位に反映された前記被検査物内部の欠陥の有無を検出するレーザ超音波探傷装置であって、1種類の波長を有するレーザ光を発振するレーザ光源と、前記レーザ光源から発振されたレーザ光を、少なくとも2種類の波長を含むレーザ光に変換する波長シフタと、前記波長シフタによって変換されたレーザ光を、第1の波長を有するレーザ光と、前記第1の波長とは異なる第2の波長を有するレーザ光とに分波して出力する分波器と、前記分波器から出力された前記第1の波長を有するレーザ光の出力とパルス幅を調整する第1の制御器と、前記分波器から出力された前記第2の波長を有するレーザ光の出力とパルス幅を調整する第2の制御器と、前記第1の制御器によって調整された前記第1の波長を有するレーザ光と、前記第2の制御器によって調整された前記第2の波長を有するレーザ光とを合波して、これら第1の波長を有するレーザ光と第2の波長を有するレーザ光とを含む一のレーザ光を出力する合波器と、前記合波器によって得られた一のレーザ光を前記被検査物の表面に投光する投光系とを備え、前記第1の波長を有するレーザ光が前記第1のレーザ光として、前記第2の波長を有するレーザ光が前記第2のレーザ光として用いられることを特徴とする。
【0011】
このレーザ超音波探傷装置によれば、被検査物に超音波を生成させるための第1のレーザ光と、被検査物に生成された超音波振動を検出するための第2のレーザ光とが、同一のレーザ光源から発振されるので、第1のレーザ光を発振するレーザ光源と第2のレーザ光を発振するレーザ光源を別々に用意する場合に比べて、レーザ超音波探傷装置の構成を簡素化できる。
【0012】
ここで、被検査物の表面には、第1のレーザ光と第2のレーザ光とが、この両者を含む一のレーザ光として照射されるが、被検査物に生成された超音波振動を取得するためには、第1のレーザ光を検知せずに第2のレーザ光のみを検知する必要がある。そこで、第1のレーザ光と第2のレーザ光とを含む一のレーザ光を被検査物の表面に照射し、該被検査物の表面で反射した反射波を、第1の波長を有する光は遮蔽するが第2の波長を有する光を透過させる波長フィルタに通すことによって、第1のレーザ光のみを除去し、波長フィルタを通過した第2のレーザ光のみを検知することができる。
【0013】
さらに、レーザ超音波探傷装置には、第1の波長を有するレーザ光、すなわち第1のレーザ光の出力とパルス幅を調整する第1の制御器と、第2の波長を有するレーザ光、すなわち第2のレーザ光の出力とパルス幅を調整する第2の制御器とが備えられている。したがって、レーザ光の出力とパルス幅とをレーザ光源内で調整する場合に比較して、レーザ光の出力とパルス幅の制御範囲を大幅に広げることができる。また、第1のレーザ光の出力・パルス幅の調整と、第2のレーザ光の出力・パルス幅の調整とを、互いから独立して実施することができる。これにより、被検査物の種類や寸法に応じて、第1のレーザ光の出力・パルス幅を、被検査物にダメージを生じさせることなく適度な超音波振動を生成させるような大きさとするとともに、第2のレーザ光の出力・パルス幅を、被検査物に生成された超音波振動を検知するのに適した大きさとすることが、簡単にできる。
【0014】
本発明のレーザ超音波探傷装置においては、前記レーザ光源、前記波長シフタ、前記分波器、前記第1の制御器、前記第2の制御器、前記合波器、前記導光系のうち少なくとも2つの間を伝わる前記レーザ光は、光ファイバによって導かれることが好ましい。
【0015】
本構成によれば、レーザ光源、波長シフタ、分波器、第1の制御器、第2の制御器、合波器、導光系など、レーザ超音波探傷装置の各構成要素の間を伝わるレーザ光が、レンズやミラーなどのバルク型光学素子によって導かれる場合に比較して、レーザ超音波探傷装置内における各構成要素の配置の自由度が高められるとともに、各構成要素のアライメントの精度を確保するための固定治具等も不要となる。したがって、レーザ超音波探傷装置の構造を簡素化し、レーザ超音波探傷装置を小型化することができる。
【0016】
また、本発明のレーザ超音波探傷装置においては、前記レーザ光源、前記波長シフタ、前記分波器、前記第1の制御器、前記第2の制御器及び前記合波器は、レーザ超音波探傷装置本体に収められ、前記導光系は、前記レーザ超音波探傷装置本体に対して動作可能な探傷ヘッドに収められ、前記レーザ超音波探傷装置本体と前記探傷ヘッドとの間を伝わる前記レーザ光は、光ファイバによって導かれることが好ましい。
【0017】
本構成によれば、レーザ光を被検査物の表面に導く導光系が収められた探傷ヘッドが、レーザ超音波探傷装置の他の構成要素を格納するレーザ超音波探傷装置本体に対して動作可能とされている。ここで、探傷ヘッドには導光系のみが収められているので、探傷ヘッドの重量・寸法は、レーザ超音波探傷装置全体の重量・寸法に比べて非常に小さい。よって、探傷ヘッドをレーザ超音波探傷装置本体に対して動作させることによって、レーザ光の照射位置を、所望の位置に変更・調整することが簡単にできる。
すなわち、レーザ光の照射位置を変更・調整する際には、被検査物をレーザ超音波探傷装置に対して移動させる必要は無く、被検査物を静止させたままの状態で、レーザ超音波探傷装置の探傷ヘッドのみを被検査物の検査対象箇所に移動させればよい。特に、被検査物の重量や寸法が大きい場合にも、被検査物を動かさずに被検査物の所望の箇所にレーザ光を照射し、被検査物の各箇所の探傷検査を実施することができる。
【0018】
また、本発明のレーザ超音波探傷装置においては、前記波長シフタは、非線形誘起ファイバを有していることが好ましい。
【0019】
あるいは、本発明のレーザ超音波探傷装置においては、前記波長シフタは、サイドバンドスペクトラム光変調器を有していることが好ましい。
【0020】
また、本発明のレーザ超音波探傷装置は、前記投光部によって前記被検査物の表面に投光され、該被検査物の表面で反射した前記一のレーザ光の反射波を受光する受光部と、前記受光部によって受光された前記一のレーザ光のうち、前記第1の波長を有するレーザ光を遮蔽して前記第2の波長を有するレーザ光を通過させる波長フィルタと、前記波長フィルタを通過した前記第2の波長を有するレーザ光を検知するレーザ干渉計とをさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のレーザ超音波探傷装置によれば、装置の構成が簡素化されているとともに、装置が小型化されているので、被検査物に対するレーザ光の照射位置を変更・調整する際、装置の取り廻しがしやすい。しかも、本発明のレーザ超音波探傷装置によれば、レーザ光の出力とパルス幅の制御範囲が広いので、被検査物の種類や寸法に応じて、レーザ光の出力やパルス幅を最適な大きさとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るレーザ超音波探傷装置の全体構成及びその使用状況を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るレーザ超音波探傷装置のレーザ光投光系部分を示す模式図である。
【図3】本発明に係るレーザ超音波探傷装置のレーザ光受光系部分を示す模式図である。
【図4】波長シフタにおけるレーザ光の波長変換方法を示す模式図である。
【図5】波長シフタにおけるレーザ光の波長変換方法の他の例を示す模式図である。
【図6】第1の制御器及び第2の制御器の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係るレーザ超音波探傷装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るレーザ超音波探傷装置は、第1のレーザ光を被検査物の表面に照射する。また、レーザ超音波探傷装置は、第1のレーザ光とは異なる第2のレーザ光を被検査物の表面に照射する。これによって、被検査物の表面で反射した第2のレーザ光の反射波には、第1のレーザ光によって生成された超音波により励起された被検査物の表面の振動変位が重畳される。レーザ超音波探傷装置は、この第2のレーザ光の反射波を検知することによって、第1のレーザ光によって生成された超音波により励起された被検査物の表面の振動変位を取得し、この振動変位に反映された被検査物内部の欠陥の有無を検出するように構成されている。
【0024】
図1に、本実施形態に係るレーザ超音波探傷装置1の全体構成及びその使用状況を示す。
図1に示すように、レーザ超音波探傷装置1は、レーザ超音波探傷装置本体10と、レーザ超音波探傷装置本体10に対して動作可能な探傷ヘッド20と、レーザ超音波探傷装置本体10と探傷ヘッド20との間でレーザ光を導くように、レーザ超音波探傷装置本体10と探傷ヘッド20とを接続する光ファイバ31、32とを含んで構成されている。
【0025】
レーザ超音波探傷装置1の内部構成を、図2及び図3に示す。
レーザ超音波探傷装置1は、第1のレーザ光及び第2のレーザ光を発振して被検査物100に照射するレーザ光投光系部分(図2参照)と、被検査物100の表面からの反射波を受光して検出するレーザ光受光系部分(図3参照)とに大別される。
【0026】
図2及び図3に示すように、レーザ超音波探傷装置本体10は、レーザ光源11と、波長シフタ12と、分波器13と、第1の制御器14と、第2の制御器15と、合波器16と、波長フィルタ17と、レーザ干渉計18と、光ファイバ41〜48とを含んで構成されている。
また、図2及び図3に示すように、探傷ヘッド20は、投光部21と、受光部25とを含んで構成されている。
【0027】
レーザ光源11は、1種類の波長λを有するレーザ光を発振する。レーザ光源11で発振されたレーザ光は、光ファイバ41を通じて波長シフタ12に導かれる。波長シフタ12は、レーザ光源11で発振された1種類の波長λを有するレーザ光を、2種類の波長λ,λを含むレーザ光に変換する。
【0028】
図4、図5を参照して、波長シフタ12におけるレーザ光の波長変換方法を具体的に説明する。
図4に示す例では、波長シフタ12は、非線形誘起ファイバ12Aを有している。
非線形誘起ファイバ12Aは、1種類の波長λを有するレーザ光の入力を受けると、ラマン効果やブリルアン効果によって、2種類の波長λ,λを含むレーザ光を出力する。ここで、λ、λのいずれかはλに等しくてもよい。
【0029】
図5に示す例では、波長シフタ12は、サイドバンドスペクトラム光変調器12Bを有している。サイドバンドスペクトラム光変調器12Bは、1種類の波長λを有するレーザ光の入力を受けると、λより短い波長λと、λより長い波長λを含むレーザ光を出力する。
【0030】
波長シフタ12によって1種類の波長λを有するレーザ光を波長変換して得られた、2種類の波長λ,λを含むレーザ光は、図2に示すように、光ファイバ42を通じて分波器13に導かれる。分波器13は、この2種類の波長λ,λを含むレーザ光を、第1の波長λを有するレーザ光と、第2の波長λを有するレーザ光とに分波して出力する。
【0031】
分波器13で分波され出力された、第1の波長λを有するレーザ光は、光ファイバ43を通じて第1の制御器14に導かれる。第1の制御器14は、この第1の波長λを有するレーザ光の出力とパルス幅を調整する。同様に、分波器13で分波され出力された、第2の波長λを有するレーザ光は、光ファイバ44を通じて第2の制御器15に導かれる。第2の制御器15は、この第2の波長λを有するレーザ光の出力とパルス幅を調整する。
【0032】
図6に、第1の制御器14及び第2の制御器15における、第1の波長λを有するレーザ光と第2の波長λを有するレーザ光の出力及びパルス幅の調整状況を示す。
第1の制御器14は、光変調器141と光増幅器142とを有している。光変調器14は、第1の波長λを有するレーザ光のパルス幅を調整する(主として短くする)。そして、光増幅器142によって、第1の波長λを有するレーザ光の出力が高められる。
これにより、第1の制御器14は、被検査物100の材質や寸法等に応じて、第1の波長λを有するレーザ光の出力とパルス幅を調整する。具体的には、第1の波長λを有するレーザ光の出力は、この第1の波長λを有するレーザ光が被検査物100にアブレーション等の損傷を与えることなく被検査物100の所望の深さに容易に吸収され熱弾性膨張を起こすことのできるような大きさに設定される。第1の波長λを有するレーザ光のパルス幅は、被検査物100に超音波振動を誘起するのに充分な大きさに設定される。
【0033】
第2の制御器15は、光変調器151と光減衰器152とを有している。光変調器151は、第2の波長をλを有するレーザ光のパルス幅を広げるチャープ素子である。そして、光減衰器152によって、第2の波長λを有するレーザ光の出力が低められる。
このようにして、第2の制御器15は、第1の波長λを有するレーザ光によって被検査物100に生成される超音波振動を検出するのに適した出力とパルス幅を有するように、第2の波長λを有するレーザ光の出力とパルス幅を調整する。第2の波長をλを有するレーザ光の出力及びパルス幅は、被検査物100の超音波振動を誘起することのない大きさに調整される。
【0034】
図2に示すように、第1の制御器14によって出力とパルス幅が調整された第1の波長λを有するレーザ光は、光ファイバ45を通じて合波器16に導かれる。同様に、第2の制御器15によって出力とパルス幅が調整された第2の波長λを有するレーザ光は、光ファイバ46を通じて合波器16に導かれる。そして、合波器16は、第1の制御器14によって調整された第1の波長λを有するレーザ光と、第2の制御器15によって調整された第2の波長λを有するレーザ光とを合波して、これら第1の波長λを有するレーザ光と第2の波長λを有するレーザ光とを含む一のレーザ光を出力する。
【0035】
この一のレーザ光が、レーザ超音波探傷装置10本体から出力されて、光ファイバ31を通じて探傷ヘッド20の投光部21に導かれる。
投光部21は、レンズ22,23およびスキャンミラー24を有している。これらレンズ22,23およびスキャンミラー24によって、第1の波長λを有するレーザ光と第2の波長λを有するレーザ光とを含む一のレーザ光が、被検査物100の表面に導かれる。
【0036】
被検査物100の表面に照射された、第1の波長λを有するレーザ光と第2の波長λを有するレーザ光とを含む一のレーザ光のうち、第1のレーザ光を被検査物100が吸収するときの熱弾性膨張により、被検査物100に超音波振動が発生する。被検査物100に発生した超音波振動は、被検査物100内を伝播する。そして、被検査物100の界面あるいは内部に欠陥があると、そこで反射し被検査物100表面に戻り、この反射超音波が被検査物100表面を振動させる。上記の通り、第2の波長λを有するレーザ光は、被検査物100における超音波振動の生成には関与しない。
【0037】
被検査物100の表面に照射された、第1の波長λを有するレーザ光と第2の波長λを有するレーザ光とを含む一のレーザ光は、被検査物100の表面で反射した後、再び探傷ヘッド20に戻る。
ここで、一のレーザ光のうち、被検査物100における超音波振動の生成には関与しない第2の波長λを有するレーザ光が被検査物100の表面で反射する際には、被検査物100には超音波振動が発生している。したがって、第2の波長λを有するレーザ光の反射波には、被検査物100内の欠陥で反射して被検査物100の表面に戻った超音波振動が重畳される。この結果、第2の波長λを有するレーザ光の反射波を検知することで、被検査物100内の傷の有無を検査することができる。
【0038】
図3に示すように、被検査物100の表面で反射した、第1の波長λを有するレーザ光と第2の波長λを有するレーザ光とを含む一のレーザ光は、探傷ヘッド20内に格納された受光部22の受光レンズ26とファイバ集光レンズ27で集光され、光ファイバ32を通じてレーザ超音波探傷装置本体10に送られる。
【0039】
レーザ超音波探傷装置本体10に送られたレーザ光は、光ファイバ47を通じて波長フィルタ17に入力される。波長フィルタ17は、第1の波長λを有する光は遮蔽するが第2の波長λを有する光を透過させるように構成されている。したがって、波長フィルタ17からは、被検査物100の表面で反射した一のレーザ光のうち、第2の波長λを有するレーザ光のみが出力される。そして、この第2の波長λを有するレーザ光が、レーザ干渉計18に入力される。上記のように、第2の波長λを有するレーザ光の反射波には、被検査物100内の欠陥で反射して被検査物100の表面に戻った超音波振動が重畳されているので、レーザ干渉計18に入力された第2の波長λを有するレーザ光中の超音波振動を抽出することで、被検査物100内部の欠陥の有無が検出される。
【0040】
このレーザ超音波探傷装置1によれば、被検査物100に超音波を生成させるための第1のレーザ光と、被検査物に生成された超音波振動を検出するための第2のレーザ光とが、同一のレーザ光源11から発振されるので、第1のレーザ光を発振するレーザ光源と第2のレーザ光を発振するレーザ光源を別々に用意する場合に比べて、レーザ超音波探傷装置1の構成を簡素化できる。
【0041】
ここで、被検査物の表面には、第1のレーザ光と第2のレーザ光とが、この両者を含む一のレーザ光として照射される。
【0042】
被検査物100に生成された超音波振動を取得するためには、第1のレーザ光を検知せずに第2のレーザ光のみを検知する必要がある。そこで、第1のレーザ光と第2のレーザ光とを含む一のレーザ光を被検査物の表面に照射し、該被検査物の表面で反射した反射波を、第1の波長λを有する光は遮蔽するが第2の波長λを有する光を透過させる波長フィルタ17に通すことによって、第1のレーザ光のみを除去し、波長フィルタ17を通過した第2のレーザ光のみをレーザ干渉計18で検知することができる。
【0043】
さらに、レーザ超音波探傷装置1には、第1の波長λを有するレーザ光、すなわち第1のレーザ光の出力とパルス幅を調整する第1の制御器14と、第2の波長λを有するレーザ光、すなわち第2のレーザ光の出力とパルス幅を調整する第2の制御器15とが備えられている。したがって、レーザ光の出力とパルス幅とをレーザ光源内で調整する場合に比較して、レーザ光の出力とパルス幅の制御範囲を大幅に広げることができる。また、第1のレーザ光の出力・パルス幅の調整と、第2のレーザ光の出力・パルス幅の調整とを、互いから独立して実施することができる。これにより、被検査物100の種類や寸法に応じて、第1のレーザ光の出力・パルス幅を、被検査物にダメージを生じさせることなく適度な超音波振動を生成させるような大きさとするとともに、第2のレーザ光の出力・パルス幅を、被検査物に生成された超音波振動を検知するのに適した大きさとすることが、簡単にできる。
【0044】
また、レーザ光源11、波長シフタ12、分波器13、第1の制御器14、第2の制御器15、合波器16、投光部21、受光部22、など、レーザ超音波探傷装置1の各構成要素の間を伝わるレーザ光が、レンズやミラーなどのバルク型光学素子によって導かれる場合に比較して、レーザ超音波探傷装置1内における各構成要素の配置の自由度が高められるとともに、各構成要素のアライメントの精度を確保するための固定治具等も不要となる。したがって、レーザ超音波探傷装置1の構造を簡素化し、レーザ超音波探傷装置1を小型化することができる。
【0045】
また、レーザ光を被検査物100の表面に導く導光系21が収められた探傷ヘッド20が、レーザ超音波探傷装置1の他の構成要素11〜16を格納するレーザ超音波探傷装置本体10に対して動作可能とされている。ここで、探傷ヘッドには導光系21、受光導光系22のみが収められているので、探傷ヘッド20の重量・寸法は、レーザ超音波探傷装置1全体の重量・寸法に比べて非常に小さい。よって、探傷ヘッド20をレーザ超音波探傷装置本体10に対して動作させることによって、レーザ光の照射位置を、所望の位置に変更・調整することが簡単にできる。
すなわち、レーザ光の照射位置を変更・調整する際には、被検査物100をレーザ超音波探傷装置1に対して移動させる必要は無く、被検査物100を静止させたままの状態で、レーザ超音波探傷装置1の探傷ヘッド20のみを被検査物100の検査対象箇所に移動させればよい。特に、被検査物100の重量や寸法が大きい場合にも、被検査物100を動かさずに被検査物100の所望の箇所にレーザ光を照射し、被検査物100の各箇所の探傷検査を実施することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1 レーザ超音波探傷装置
10 レーザ超音波探傷装置本体
11 レーザ光源
12 波長シフタ
12A 非線形誘起ファイバ
12B サイドバンドスペクトラム光変調器
13 分波器
14 第1の制御器
15 第2の制御器
16 合波器
17 波長フィルタ
18 レーザ干渉計
20 探傷ヘッド
21 投光部
25 受光部
31、32、41〜48 光ファイバ
100 被検査物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のレーザ光を被検査物の表面に照射し、
第2のレーザ光を前記被検査物の表面に照射して該被検査物の表面で反射した反射波を検知することによって、前記第1のレーザ光によって生成された超音波により励起された前記被検査物の表面の振動変位を取得し、この振動変位に反映された前記被検査物内部の欠陥の有無を検出するレーザ超音波探傷装置であって、
1種類の波長を有するレーザ光を発振するレーザ光源と、
前記レーザ光源から発振されたレーザ光を、少なくとも2種類の波長を含むレーザ光に変換する波長シフタと、
前記波長シフタによって変換されたレーザ光を、第1の波長を有するレーザ光と、前記第1の波長とは異なる第2の波長を有するレーザ光とに分波して出力する分波器と、
前記分波器から出力された前記第1の波長を有するレーザ光の出力とパルス幅を調整する第1の制御器と、
前記分波器から出力された前記第2の波長を有するレーザ光の出力とパルス幅を調整する第2の制御器と、
前記第1の制御器によって調整された前記第1の波長を有するレーザ光と、前記第2の制御器によって調整された前記第2の波長を有するレーザ光とを合波して、これら第1の波長を有するレーザ光と第2の波長を有するレーザ光とを含む一のレーザ光を出力する合波器と、
前記合波器によって得られた一のレーザ光を前記被検査物の表面に投光する投光部と
を備え、
前記第1の波長を有するレーザ光が前記第1のレーザ光として、前記第2の波長を有するレーザ光が前記第2のレーザ光として用いられること
を特徴とするレーザ超音波探傷装置。
【請求項2】
前記レーザ光源、前記波長シフタ、前記分波器、前記第1の制御器、前記第2の制御器、前記合波器、前記導光系のうち少なくとも2つの間を伝わる前記レーザ光は、光ファイバによって導かれること
を特徴とする請求項1に記載のレーザ超音波探傷装置。
【請求項3】
前記レーザ光源、前記波長シフタ、前記分波器、前記第1の制御器、前記第2の制御器及び前記合波器は、レーザ超音波探傷装置本体に収められ、
前記導光系は、前記レーザ超音波探傷装置本体に対して動作可能な探傷ヘッドに収められ、
前記レーザ超音波探傷装置本体と前記探傷ヘッドとの間を伝わる前記レーザ光は、光ファイバによって導かれること
を特徴とする請求項1または2に記載のレーザ超音波探傷装置。
【請求項4】
前記波長シフタは、非線形誘起ファイバを有していること
を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のレーザ超音波探傷装置。
【請求項5】
前記波長シフタは、サイドバンドスペクトラム光変調器を有していること
を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のレーザ超音波探傷装置。
【請求項6】
前記投光部によって前記被検査物の表面に投光され、該被検査物の表面で反射した前記一のレーザ光の反射波を受光する受光部と、
前記受光部によって受光された前記一のレーザ光のうち、前記第1の波長を有するレーザ光を遮蔽して前記第2の波長を有するレーザ光を通過させる波長フィルタと、
前記波長フィルタを通過した前記第2の波長を有するレーザ光を検知するレーザ干渉計と
をさらに有する請求項1から5のいずれかに記載のレーザ超音波探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−179928(P2011−179928A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43520(P2010−43520)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】