説明

レーダアンテナ及びレーダ装置

【課題】方位角、仰角を電気的に測定可能とすること。
【解決手段】放射素子を1方向であるz軸方向、直線状に配置したアレーアンテナ30、31、32を、z軸に垂直な方向であるy軸方向に離間して、少なくもと3本設けたレーダアンテナにおいて、各アレーアンテナのz軸方向における配設位置を異なる位置とした。複数のアレーアンテナの中から少なくとも任意の2本を選択して構成される複数の組において、アレーアンテナ間の位相差δと、仰角φ、方位角θとの関係を用いて、各組の測定された各位相差から、φ、θを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波の到来方向(仰角、方位角)を測定できるレーダアンテナ及びレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されているように、放射片を給電線に沿って配列させたアレーアンテナや、そのアンテナを平行に多数列設けた2次元アレーアンテナが知られている。このアンテナにおいては、放射アンテナであれば、放射電力密度が最大となる方向、すなわち、放射電波の中心方向は、このアンテナ基板面の法線に対して所定角方向に設定されている。また、受信アンテナであれば、最大感度が得られる電波の到来方向、すなわち、受信電波の中心方向は、このアンテナ基板面の法線に対して所定角方向に設定されている。また、下記特許文献2には、漏れ波アンテナを用いて、周波数を変化させることで、放射電波や到来電波の仰角を変化させるアンテナが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特許第3306592号公報
【特許文献2】特開2007−81825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に記載されたアレーアンテナは、車に搭載されて、前方車両や、障害物を検出するのに用いられている。そして、このアンテナの到来電波の中心方向が所定方向(所定仰角)となるように調整された取り付け台に設けた後、この取り付け台を車の所定位置に設けることが行われている。しかしながら、このアレーアンテナでは、電波の放射方向の走査や到来方向の検出をすることはできない。
【0005】
一方、特許文献2に記載の方法は、直線状の漏れ波アンテナを地面に垂直に設けた場合には、周波数により仰角方向の電波の到来方向を走査することができるが、方位角方向には走査することができない。しかも、自動車レーダへの応用を考えた場合、十分な走査角度を得るために必要な周波数帯域を確保するのが困難なため実用上不適である。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、電波の2自由度の到来方向のを測定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、放射素子を1方向であるz軸方向、直線状に配置したアレーアンテナを、z軸に垂直な方向であるy軸方向に離間して、少なくもと3本設けたレーダアンテナにおいて、各アレーアンテナのz軸方向における配設位置を異なる位置としたことを特徴とするレーダアンテナである。
【0008】
アレーアンテナとしては、一次元配列されたものや、二次元配列されたものを用いることができる。各アレーアンテナとしては、給電線の片側、又は、両側に、矩形形状の電波放射素子を配列させたマイクロストリップアンテナ素子を用いることができる。マイクロストリップアンテナの他、スロットアレーアンテナ、コプレーナアテナであっても良い。また、レーダアンテナは、モノパルスレーダに用いることができる。
【0009】
また、複数のアレーアンテナの中から任意の2本を選択して成る複数の組において、各組のアレーアンテナ間のy軸方向の距離が異なることが望ましい。この構造を採用することにより、アレーアンテナ間の位相差と、電波の到来角度との関係における位相折り返しの周期を変化させることができる。この結果、電波の到来方向の測定範囲や、その分解能を要求性能に応じて任意に設定することができる。
【0010】
また、複数のアレーアンテナの中から少なくとも任意の2本を選択して構成される複数の組において、一つの組のアレーアンテナの位相中心を結ぶ線分と他の組のアレーアンテナの位相中心を結ぶ線分とは、平行でないように構成しても良い。この構成を採用することで、電波の到来方向の測定精度を向上させることができる。
【0011】
また、他の発明は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のレーダアンテナを用いたレーダ装置において、z軸及びy軸に垂直な方向をx軸とするとき、複数のアレーアンテナの中から少なくとも任意の2本を選択して構成される複数の組において、アレーアンテナ間の位相差と、電波到来方向φ、θ、ただし、φは電波到来方向のxz面上の射影とx軸との成す角、θは電波到来方向のxy面上の射影とx軸との成す角、との関係を用いて、各組の測定された各位相差から、電波到来方向φ、θを求めることを特徴とするレーダ装置である。すなわち、少なくとも2つの位相差が分かれば、電波到来方向の2自由度であるφ、θを決定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、放射素子を1方向であるz軸方向、直線状に配置したアレーアンテナを、z軸に垂直な方向であるy軸方向に離間して、少なくもと3本設けたレーダアンテナにおいて、各アレーアンテナのz軸方向における配設位置を異なる位置としたので、アレーアンテナ間の位相差と、2つの自由度のある電波到来方向φ、θとの一次独立な対応関係を、少なくとも2組、設定することができる。この結果、電波到来方向においては、少なくとも2つの位相差と、少なくとも2つの対応関係を用いて、2自由度の方向φ、θを決定することができる。これは、機械的な駆動や、給電により制御するものと異なり、単に、位相差を測定するだけで、2自由度の方向を決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。本発明は、以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
本実施例のレーダアンテナ100は、図1に示すように、アレーアンテナ20、30、31、32の4本のアレーアンテナで構成されている。もちろん、アレーアンテナは、図示した一次元方向に配列されたものの他、二次元方向、すなわち、図示するアレーアンテナが平行に多数配設された平面アレーアンテナであっても良い。本実施例ではモノパルスレーダを想定している。アレーアンテナ20は、送信アンテナであり、3本のアレーアンテナ30、31、32が、受信アンテナである。この3本のアレーアンテナ30、31、32が、本発明のアンテナに相当するものである。
【0015】
座標系を水平面に垂直にz軸、水平面上であってレーダアンテナ100の面上にy軸、水平面上であってレーダアンテナ100の面の法線方向にx軸、原点をレーダアンテナ100の中心点にとる。本実施例においては、アレーアンテナ20は、一次元のマイクロストリップアレーアンテナで構成されている。図2に断面図を示すように、誘電体基板101の第1主面101aの上には、給電ストリップ線路200と、誘電体基板101の第2主面101b(裏面)上の全体には、接地導体102が形成されている。
【0016】
図1に示すように、本アレーアンテナでは、自動車レーダで用いられている斜め45度偏波を発生させることを目的として、給電ストリップ線路200の片側には、その線路に対して45度の角度で、8個の矩形形状の放射素子201が形成されている。各放射素子201の配置間隔wは、動作周波数における給電ストリップ線路200の管内波長λgであり、各放射素子201の長さは(接続点中央pから開放端qまでの距離)管内波長λgの約半分に設定されている。突設された各放射アンテナ素子201の開放端の1辺はすべて平行であり給電ストリップ線路200に対して略−45度(y軸からの角度)をなしている。
【0017】
放射素子201は、その1つの頂角において、矩形の放射素子の短辺の長さLの約1/2以下の幅で、給電ストリップ線路200の側辺に接続されている。誘電体板101は、4フッ化エチレン樹脂(:比誘電率2.2)を基材とする板状材料から成る。
【0018】
他のアレーアンテナ30、31、32の構成は、アレーアンテナ20の構成と同一である。y軸方向の中央に位置するアレーアンテナ31の給電ストリップ線路上であって、z軸方向の給電ストリップ線路の中点(z軸の値の小さい方から4つ目と5つ目の放射アンテナ素子の中間点)に原点oをとる。そして、各アレーアンテナの給電ストリップ線路の中点を、各アレーアンテナの基準点とする。アレーアンテナ20、30、31、32の基準点のz座標を、それぞれ、0、−a、0、a(a>0)とする。また、隣接するアレーアンテナのy軸方向の間隔をdとする。このように、本実施例では、3本のアレーアンテナ30、31、32の基準点のz軸方向の位置が異なっている。
【0019】
次に、本実施例に係るアレーアンテナの作用を説明する。その前に、基準点のz軸方向の位置が異なる2本のアレーアンテナに関する動作を説明する。
まず、図3の(a)に示すように、z軸方向の基準点の位置が異ならない2本のアレーアンテナの場合を考える。到来波の進行方向ベクトルの逆向きベクトルを到来方向ベクトルと定義し、この到来方向ベクトルのxy面上への正射影のx軸との成す角を方位角θ(xy面上のy軸正方向への左回転方向を正とする)、到来方向ベクトルのxz平面上への正射影のx軸との成す角を仰角φ(xz平面上のz軸正方向への回転方向を正とする)とする。また、y軸方向の間隔をDとする。2本のアレーアンテナに到来する波の位相差δは、(1)式で表現される。
【数1】

(1)式から、(2)式により到来波の方位角θが求められる。
【数2】

【0020】
次に、図3の(b)に示すように、本発明では、2 本のアレーアンテナ31、32の基準点P1、P2のz座標を異なる値0、aとしている。すなわち、2本のアレーアンテナの基準点P1、P2を結ぶ線分P1P2とy軸とは、角Ψで交差している。したがって、a=dtan Ψであり、この値aだけz軸方向の位置が異なっている。ただし、dは、y軸方向のアレーアンテナ間の距離である。また、基準点間P1、P2の距離は、上記のDとすると、(3)式が成立する。
【数3】

【0021】
次に、y軸をx軸の回りに、角度Ψだけ回転させた座標系をo−xYZとする。すると、到来方向ベクトルのxY平面上への射影のx軸との成す角βについて、(2)式が成立する。すなわち、座標系o−xYZにおける方位角βに関して(2)式が成立する。
よって、(2)式に、(3)式を代入して、θ=βとすると、(4)式が得られる。
【数4】

【0022】
次に、o−xYZ系における到来方向ベクトルを(a,b,c)とする。この到来方向ベクトルを、o−xyz座標系で表すと、
【数5】

となる。したがって、o−xyz座標系で定義される方位角θと仰角φについて次式が成立する。
【数6】

【数7】

この式から、
【数8】

となり、
【数9】

が得られる。ただし、A=λδ/(2πd)、
【0023】
位相差δと方位角θとの間には、Ψ、dをパラメータとして、(9)式の関係式が成立する。上記の間隔dと角度Ψとを変化させた時の、2つのアレーアンテナに受信される到来波の位相差δの特性を、シミュレートした。その結果を図4、5に示す。
【0024】
図4は、Ψ=60度、d=2mmの場合の方位角θと位相差δとの関係を示す特性、図5は、Ψ=30度、d=8mmの場合の方位角θと位相差δとの関係を示す特性である。図4と図5とを比較すると、間隔dが大きいと、方位角θに関する位相差δの特性の位相折り返し周期は、短くなる。また、角度Ψが大きい程、仰角φに対する分解能が向上する。この図4、図5の特性を用いることで、−60度から+60度の方位角範囲が測定可能となる。図5の特性の方が、位相差δの方位角θに対する微係数の絶対値は大きい。したがって、分解能は、図5の特性を実現するアンテナの組の方が大きい。しかし、周期性があるために、図5の特性では、方位角θの主値の範囲が−15度〜+15度と狭い。したがって、30度幅のレンジを決定するのに、図4の特性を用いることで、図5の特性で決定される分解能で、−60度から+60度の広範囲に渡って、方位角θを決定することができる。
【0025】
今、3本のアレーアンテナの2本を選択して、各組が2本のアンテナで構成される2組のアンテナを考える。第1組のアンテナをアレーアンテナ31、32、第2組のアンテナをアレーアンテナ30、32とする。第1組のアンテナに関する(9)式を、
【数10】

第2組のアンテナに関する(9)式を、
【数11】

とおく。関数f、gは、パラメータd、Ψが異なるだけである。
【0026】
このように、パラメータd、Ψが異なる2組のアンテナを形成することで、それらの位相差δが測定されるならば、(10)、(11)式から、方位角θと仰角φとを求めることができる。このようにして、到来波の方位角θと仰角φを測定することができる。
【0027】
図1の配置では、2組のアンテナで、上記の角度Ψが等しく、間隔は、dと2dである。間隔の値が異なるので、2組の関係式(10)、(11)を決定することができる。なお、第1組をアレーアンテナ30、31、第2組をアレーアンテナ31、32とした場合には、角度も間隔も、Ψ、dとなり、等しくなるので、上記の2式は同一となるために、このような選択はできない。また、図6に示すようにアレーアンテナを配置することができる。第1組アンテナをアレーアンテナH1、H3の組、第2組アンテナをアレーアンテナH1、H2の組とする。アレーアンテナH1の基準点P4と、アレーアンテナH3の基準点P6とを結ぶ線分P4P6とy軸との成す角をγ、アレーアンテナH1の基準点P4と、アレーアンテナH2の基準点P5とを結ぶ線分P4P5とy軸との成す角をζとする。そして、γ+ζ=π/2とする。この場合に、座標系の原点をアレーアンテナH2の基準点P5にとると、アレーアンテナH1の基準点P4のz座標は、dtanζであり、アレーアンテナH3の基準点P6のz座標は、2dtanγ+dtanζである。このように配置しても良い。
【0028】
レーダ装置としての構成は、図1に示す通りである。方位角θ、仰角φの測定は、位相モノパルス方式で実現できる。GHz帯域の搬送波を発生する発振器11の出力を、パルス発生器10の信号で、ミキサ40によりパルス変調する。次に、そのパルス信号を帯域通過フィルタ60を通過させて、送信用のアレーアンテナ20に送出する。そして、前方の物体から反射された電波を上記のアレーアンテナ30、31、32で受信する。これらの各アンテナの受信信号は、各復調器50、51、52に入力し、発振器11の出力する搬送波でベースバンドのパルス信号に復調される。そして、信号処理部70により、アレーアンテナ31、32で受信されるパルス信号の位相差δ1と、アレーアンテナ30、32で受信されたパルス信号の位相差δ2が求められる。この2つの位相差δ1、δ2と、上記の(10)、(11)式により、方位角θと仰角φを求めることができる。なお、(10)式、(11)式は、(9)式で表される関数として、2つの関数の連立方程式を解いて、方位角θと仰角φを求めても良い。また、図4、図5のような、θ、φ、δの関係を示す特性をテーブルで記憶しておき、補間演算により、測定値δ1、δ2に対応するθ、φを求めるようにしても良い。
【0029】
また、距離の測定は、FM−CW方式を用いることができる。また、上記実施例で用いたアレーアンテナは、マイクロストリップアンテナの他、スロットアレーアンテナ、コプレーナアテナであっても良い。また、これらのアレーアンテナとしては、本出願人による特許第3306592に記載の全ての構成のアンテナに採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、電気的に方位角や仰角を測定できるレーダに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例に係るレーダアンテナ及びレーダ装置の構成を示した構成図。
【図2】同実施例に係るレーダアンテナの断面図。
【図3】同実施例に係るレーダアンテナの作用を説明するための説明図。
【図4】レーダアンテナの特性図。
【図5】レーダアンテナの特性図。
【図6】他の実施例に係るレーダアンテナの構成図。
【符号の説明】
【0032】
20,30,31,32…アレーアンテナ
P1,P2,P4,P5,P6…基準点
H1,H2,H3…アレーアンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射素子を1方向であるz軸方向、直線状に配置したアレーアンテナを、z軸に垂直な方向であるy軸方向に離間して、少なくもと3本設けたレーダアンテナにおいて、
前記各アレーアンテナの前記z軸方向における配設位置を異なる位置としたことを特徴とするレーダアンテナ。
【請求項2】
前記複数のアレーアンテナの中から少なくとも任意の2本を選択して構成される複数の組において、各組のアレーアンテナ間の前記y軸方向の距離が異なることを特徴とする請求項1に記載のレーダアンテナ。
【請求項3】
前記複数のアレーアンテナの中から少なくとも任意の2本を選択して構成される複数の組において、一つの組のアレーアンテナの位相中心を結ぶ線分と他の組のアレーアンテナの位相中心を結ぶ線分とは、平行でないことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーダアンテナ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のレーダアンテナを用いたレーダ装置において、
前記z軸及び前記y軸に垂直な方向をx軸とするとき、前記複数のアレーアンテナの中から少なくとも任意の2本を選択して構成される複数の組において、アレーアンテナ間の位相差と、電波到来方向φ、θ、ただし、φは電波到来方向のxz面上の射影と前記x軸との成す角、θは電波到来方向のxy面上の射影と前記x軸との成す角、との関係を用いて、前記各組の測定された各位相差から、電波到来方向φ、θを求めることを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−8319(P2010−8319A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170303(P2008−170303)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】