説明

レーダシステムおよびレーダ信号処理装置

【課題】取得した画像データから水面の状態に関するデータを得るための処理を自動化し、これにより省力化および処理の高速化を図る。
【解決手段】アンテナ1、送受信部2、信号処理部3よりなるSARによりSAR画像データを取得する。また記憶部5に、水面の波がとり得る状態のイメージデータに波の向きを示すベクトル(矢印)およびその波長を対応付けたテンプレートデータベース5aを記憶しておく。そして、相関処理部4により、SAR画像データを複数の区域に分割してそれぞれテンプレートとの相関を取り、相関値の最も高いテンプレートに対応付けられた波の向きと波長とを記憶部5から読み出す。またこの読み出したデータをもとに、演算部6で最適進入コースを算出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、捜索レーダを使用して海上捜索を行う哨戒機などに搭載され、海上捜索を行うに際して捜索エリアの海上の状態を事前に把握し、ひいては当該エリアにおける飛行ルートを決定するために用いられるレーダシステムおよびレーダ信号処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】捜索レーダを用いて海上捜索を行う哨戒機には、SAR(Synthetic ApertureRadar)を搭載することがある。海上捜索を行うには、捜索レーダへのクラッタを抑圧するため波の進行する向きに沿って(すなわち風上から風下へ)進入するのが都合が良いので、SARを用いて事前に波の状態を把握し、これをもとに風向きなどを推定して飛行ルートを決めるようにする。
【0003】ところで、従来ではSAR画像から波の向きや波長などの情報を得るのに人手を介する必要があった。つまり画像となって現れている波の向きや波長を、人間が直接測定する必要があったため、そのための作業が煩雑で、手間も大きかった。また作業にかかる時間も長く、その間に天候が変わったり、哨戒機が目的地に到達するまでに間に合わなくなったりする虞があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記したように、従来ではSAR画像から水面の波の向きや波長などの情報を得るのに人手を要していたため、手間が大きく、作業に時間がかかるなどの不具合が有った。
【0005】本発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、取得した画像データから水面の状態に関するデータを得るための処理を自動化し、これにより省力化および処理の高速化を図ったレーダシステムおよびレーダ信号処理装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明は、以下に示す手段を講じている。
【0007】(1)本発明に係わるレーダシステムは、航空機に搭載して使用されるレーダシステムにあって、前記航空機の目的エリアの水面の画像データを取得するレーダ部と、水面に発生する波の状態を示す複数のイメージデータに、それぞれのイメージデータが示す少なくとも波の波長とその向きとを個別に対応付けてデータベース化したテンプレートデータベースを記憶する記憶手段と、前記レーダ部で取得された画像データと前記記憶手段に記憶されたテンプレートデータベースとの相関を取り、前記画像データと最も相関の高いイメージデータを判別して、当該イメージデータに対応付けられた波の波長とその向きとから前記航空機の目的エリアの水面の状態に係わる情報を得る相関処理手段とを具備することを特徴とする。
【0008】(2)本発明に係わるレーダシステムの相関処理手段は、前記レーダ部で取得された画像データを複数の区域に分割し、各々の区域ごとに前記記憶手段に記憶されたテンプレートデータベースとの相関を取り、各区域ごとの水面の状態に係わる情報を得ることを特徴とする。
【0009】(3)本発明に係わるレーダシステムは、前記イメージデータおよび前記画像データを形成する個々のピクセルに、その色別に異なる数値を割り当て、前記相関処理手段は、前記割り当てられた数値を個々のピクセルごとに乗算した値の総和を取り、この総和が最大となるイメージデータを判別することで、前記画像データと最も相関の高いイメージデータを判別することを特徴とする。
【0010】このような手段を講じることにより、例えば波の波長やその向き、ひいては風速や風向などの、航空機の目的エリアの水面の状態に係わる情報が自動的に算出される。すなわち画像データから水面の状態に関するデータを得るための処理が自動化され、これにより省力化および処理の高速化を図ることが可能となる。
【0011】(4)本発明に係わるレーダ信号処理装置は、上記(1)乃至(3)のいずれかのレーダシステムを備え、さらに、前記相関処理手段で得られた情報をもとに、当該航空機がその目的エリアに進入する際に辿るべき飛行経路を算出する演算手段を具備するようにした。
【0012】このようにすることで、航空機の辿るべき経路の算出までもが自動化され、更なる省力化と作業時間の短縮を促すことができる。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本実施形態に係わるレーダ信号処理装置の構成を示すブロック図である。本実施形態では、このレーダ信号処理装置を図示しない航空機に搭載して使用するものとする。
【0014】同図に示すように、このレーダ信号処理装置はアンテナ1を有する送受信部2と、信号処理部3と、相関処理部4と、記憶部5と、演算部6とを備えている。このうち記憶部5は、テンプレートデータベース5aを所定の記憶領域に記憶している。
【0015】このうち、アンテナ1と、送受信部2と、信号処理部3とは共同で例えばSARとして機能し、航空機の目的エリアの水面のSAR画像データを取得する。またこのSAR(アンテナ1、送受信部2、信号処理部3)と、相関処理部4と、記憶部5とでレーダシステムをなす。
【0016】相関処理部4は、上記SAR画像データとテンプレートデータベース5aとを取り込み、相関処理を行って当該目的エリアの水面の波の向きとその波長を算出する。演算部6は、相関処理部4から出力される情報をもとに、目的エリアの風向、風速および目的エリアへの航空機の進入コースを算出する。
【0017】図2に、記憶部5に記憶されるテンプレートデータベース5aの内容を示す。本実施形態では水面の波がとり得る状態をイメージ化したイメージデータを複数用意して、これをテンプレートとして区別する。図2R>2において各テンプレートは例えばA,B,C,…として区別され、それぞれに波の状態を示すイメージデータと、波の向きを示すベクトル(矢印)およびその波長を示す数値(a,b,c,…:単位はメートル[m])とを対応付ける。
【0018】図3は、信号処理部3から出力されるSAR画像データの例を示す模式図である。近年のSARでは、数十マイル先の半径数マイルのエリアの画像を取得できるようになっている。図3は二つの波が交差する様子を示すもので、直線が波頭に相当し、これに直交する方向に波が進行する。
【0019】次に、上記構成における動作を図4のフローチャートを参照して説明する。図4のステップS1で、相関処理部4は、信号処理部3で得られたSAR画像を図6に示すように複数の区域に分割する。
【0020】次のステップS2で、相関処理部4は記憶部5に記憶された個々のテンプレート(A,B,C,…)のうち一つを読み出す。次のステップS3で相関処理部4は、読み出した一つのテンプレートと、ある一つの区域(例えば図6の太線で囲った領域)との相関を取る。相関を取る手法を、図5を参照して説明する。
【0021】図5は、本実施形態での相関処理の手法を概念的に示す図である。各テンプレート(A,B,C,…)に対応付けられたイメージデータは、例えば32×64(=2048)個のピクセル(画素)からなるものとし、各ピクセルにつき黒=0,白=1なる数値を割り振る。同様に、ステップS1で画像データを分割する際にも各区域を32×64個のピクセルで形成し、各ピクセルにつき黒=0,白=1なる数値を割り当てる。
【0022】個々の区域とテンプレートとの相関の度合いを測るには、両者を形成するピクセルに割り当てられた数値(0または1)を互いに乗算し、その総和を求める。すなわち相関処理部4は、ステップS3で、互いに対応する位置にあるイメージデータの数値と、区域データの数値とを乗算し、それらの総和を取る。
【0023】相関処理部4は、一つの区域につき、ステップS2〜ステップS5で全てのテンプレート(A,B,C,…)を用いて上記処理を繰り返す。そして全てのテンプレートを用いた処理が完了したならば(ステップS4)、相関処理部4はステップS6で総和Sが最大となったテンプレートを選択する。そして相関処理部4は、ステップS7で上記選択したテンプレートに対応付けられた波の向きと波長とを記憶部5から読み出す。このような処理の結果、例えば図6の太線で囲った区域は、図7の各イメージデータのうち(c)との相関が最も高いとして判定される。これにより、図6の太線区域の波の向きは左上方向、かつその波長はc[m]として算出される。
【0024】さらに相関処理部4は、以上のような処理を他の区域についても同様に行い(ステップS8〜ステップS9)、全ての区域についての完了をもって相関処理を終了する。
【0025】上記処理の結果、画像データの個々の区域における波の向きと、波長とを算出することができる。これをもとに、演算部6は、各区域の風速および風向を既知の手法により算出し、この空域に進入する際の最適進入コースを算出する。図8にその概念図を示す。この図には、波の進行方向に沿って進入するコースが示される。
【0026】このように本実施形態では、アンテナ1、送受信部2、信号処理部3よりなるSARによりSAR画像データを取得する。また記憶部5に、水面の波がとり得る状態のイメージデータに波の向きを示すベクトル(矢印)およびその波長を対応付けたテンプレートデータベース5aを記憶しておく。そして、相関処理部4により、SAR画像データを複数の区域に分割してそれぞれテンプレートとの相関を取り、相関値の最も高いテンプレートに対応付けられた波の向きと波長とを記憶部5から読み出す。またこの読み出したデータをもとに、演算部6で最適進入コースを算出するようにしている。
【0027】このようにしたので、取得した画像データから水面の状態に関するデータを得るための処理を自動化でき、これにより省力化および処理の高速化を図ることが可能となる。また、進入する空域の海況を予め知ることができるので、これ自体もメリットとなる。
【0028】なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば本発明の思想はSARに限らず種々のレーダ装置に対する応用が可能である。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形実施を行うことができる。
【0029】
【発明の効果】以上詳述したように本発明によれば、取得した画像データから水面の状態に関するデータを得るための処理を自動化でき、これにより省力化および処理の高速化を図ったレーダシステムおよびレーダ信号処理装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態に係わるレーダ信号処理装置の構成を示すブロック図。
【図2】 図1のテンプレートデータベース5aの内容を示す図。
【図3】 信号処理部3から出力されるSAR画像データの例を示す模式図。
【図4】 相関処理部4の処理手順を示すフローチャート。
【図5】 本発明の実施形態における相関処理の手法を概念的に示す図。
【図6】 図4の手順において、画像データを複数の区域に分割した様子を示す図。
【図7】 各テンプレートデータ(A,B,C,…)に対応付けられたイメージデータを示す概念図。
【図8】 演算部6で算出した進入コースを示す概念図。
【符号の説明】
1…アンテナ
2…送受信部
3…信号処理部
4…相関処理部
5…記憶部
5a…テンプレートデータベース
6…演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 航空機に搭載して使用されるレーダシステムであって、前記航空機の目的エリアの水面の画像データを取得するレーダ部と、水面に発生する波の状態を示す複数のイメージデータに、それぞれのイメージデータが示す少なくとも波の波長とその向きとを個別に対応付けてデータベース化したテンプレートデータベースを記憶する記憶手段と、前記レーダ部で取得された画像データと前記記憶手段に記憶されたテンプレートデータベースとの相関を取り、前記画像データと最も相関の高いイメージデータを判別して、当該イメージデータに対応付けられた波の波長とその向きとから前記航空機の目的エリアの水面の状態に係わる情報を得る相関処理手段とを具備することを特徴とするレーダシステム。
【請求項2】 前記相関処理手段は、前記レーダ部で取得された画像データを複数の区域に分割し、各々の区域ごとに前記記憶手段に記憶されたテンプレートデータベースとの相関を取り、各区域ごとの水面の状態に係わる情報を得ることを特徴とする請求項1に記載のレーダシステム。
【請求項3】 前記イメージデータおよび前記画像データを形成する個々のピクセルに、その色別に異なる数値を割り当て、前記相関処理手段は、前記割り当てられた数値を個々のピクセルごとに乗算した値の総和を取り、この総和が最大となるイメージデータを判別することで、前記画像データと最も相関の高いイメージデータを判別することを特徴とする請求項1または2に記載のレーダシステム。
【請求項4】 請求項1乃至3のいずれかに記載のレーダシステムを備え、さらに、前記レーダシステムで得られた情報をもとに、前記航空機がその目的エリアに進入する際に辿るべき飛行経路を算出する演算手段を具備することを特徴とするレーダ信号処理装置。

【図1】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2002−107450(P2002−107450A)
【公開日】平成14年4月10日(2002.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−297669(P2000−297669)
【出願日】平成12年9月28日(2000.9.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】