説明

レーダ波浪解析装置

【課題】波浪情報の解析精度を向上する。
【解決手段】レーダ波浪解析装置10は、レーダ12の回転により得られる海面反射信号に対して2次元FFT処理を行うことにより2次元の波浪スペクトルを求める2次元演算手段16と、レーダ12の観測領域30での水深dに基づき作成され、観測領域30での浅海変形の影響を受けた海面反射信号に対応する波浪スペクトルを補正するための補正マップ20と、2次元演算手段16から出力された波浪スペクトルを補正マップ20で補正し、補正後の波浪スペクトルに基づいて観測領域30での波浪情報を取得する波浪情報取得手段25とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダを回転させて収集した海面反射信号に対して2次元フーリエ変換を行うことにより2次元の波浪スペクトルを求め、求めた前記波浪スペクトルに基づいて前記レーダの観測領域での波浪情報を取得するレーダ波浪解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋に面した陸上に設置されたレーダを利用して海面反射信号を収集し、収集した前記海面反射信号から前記レーダ周辺の海洋(前記レーダの観測領域)における波浪の波高、波速、波長、波向等の波浪情報を取得することが特許文献1及び2に提案されている。
【0003】
この場合、前記レーダの回転毎に得られる前記海面反射信号に対して2次元フーリエ変換を行うことにより2次元の波浪スペクトルをそれぞれ求め、前回の波浪スペクトルと今回の波浪スペクトルとの間でクロススペクトル演算を行い、前記波浪スペクトル及び前記クロススペクトル演算の結果に基づいて前記波浪情報を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−21680号公報
【特許文献2】特開2005−3611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、波浪の波長をλ、レーダの観測領域内の所定位置での水深をdとしたときに、d<λ/4となる位置(例えば、水深dの浅い沿岸水域)では、波浪の波高、波速、波向が水深dの影響を受けて、水深dの波浪への影響が支配的となる浅海変形と呼ばれる波浪の変形現象が発生する。具体的には、d≧λ/4のような前記浅海変形の影響を受けない本来の波浪(例えば、沖波)と比較して、前記浅海変形の影響を受けた波浪の波高は高くなり、波速は速くなり、波向は海岸線に平行な方向に屈折する。
【0006】
従って、d<λ/4の領域を前記レーダの観測領域として海面反射信号を収集し、収集した前記海面反射信号から2次元の波浪スペクトルを求め、求めた前記波浪スペクトルに基づく波浪情報を取得した場合に、前記海面反射信号は、前記浅海変形の影響を受けているので、前記波浪情報の解析精度が劣化するおそれがある。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、波浪情報の解析精度を向上することができるレーダ波浪解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るレーダ波浪解析装置は、レーダの回転により得られる海面反射信号に対して2次元フーリエ変換を行うことにより2次元の波浪スペクトルを求める2次元演算手段と、前記レーダの観測領域の水深情報に基づき作成され、前記観測領域での浅海変形の影響を受けた海面反射信号に対応する波浪スペクトルを補正するための補正マップと、前記2次元演算手段から出力された波浪スペクトルを前記補正マップで補正し、補正後の前記波浪スペクトルに基づいて前記観測領域での波浪情報を取得する波浪情報取得手段とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、2次元の波浪スペクトルを補正マップにより補正し、補正後の波浪スペクトルに基づいて波浪情報を取得するので、海面反射信号が浅海変形の影響を受けている場合でも、該波浪情報の解析精度を向上することができる。
【0010】
また、前記補正マップは、レーダの観測領域の水深情報に基づき作成されるので、前記波浪情報を取得したい水域(観測領域)毎に独立して当該補正マップが作成され、この結果、水域毎に波浪情報の解析精度がばらつくことを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係るレーダ波浪解析装置のブロック図である。
【図2】図1の2次元演算手段、補正マップ及び波浪情報取得手段における処理の流れを概略的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るレーダ波浪解析装置の好適な実施形態について、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0013】
本実施形態に係るレーダ波浪解析装置10は、図1に示すように、海洋に面した陸上に設置された一般的な船舶用パルスレーダ等のレーダ12と、コンピュータを使用してソフトウエアにより実施されるレーダ信号収録手段14、2次元演算手段16、補正マップ20、乗算手段18、波浪スペクトル推算手段22及びシーステート解析手段24とを有する。なお、乗算手段18、波浪スペクトル推算手段22及びシーステート解析手段24は、レーダ12周辺の海洋(図2に示すレーダ12の観測領域30)における波浪の波高、波速、波長、波向等の波浪情報を取得するための波浪情報取得手段25を構成する。
【0014】
レーダ12は、空中線を水平方向に回転(スキャン)することにより得られる海面反射信号をレーダ信号収録手段14に出力する。レーダ信号収録手段14は、レーダ12から取得した海面反射信号のデータ(レーダデータ)を2スキャン分記録する。
【0015】
図2は、2次元演算手段16、補正マップ20及び波浪情報取得手段25における処理の流れを概略的に示した説明図である。なお、図2では、レーダ12の観測領域30が海図上、破線で示す領域であり、この観測領域30に対応する海面反射信号のレーダデータがレーダ信号収録手段14から2次元演算手段16に出力され、2次元演算手段16及び波浪情報取得手段25において所定の処理が行われる場合を示している。
【0016】
この場合、レーダ12から近い程、海面反射信号の受信レベルが大きいので、先ず、2次元演算手段16は、レーダ信号収録手段14からのレーダデータに対して、レーダ12からの距離に応じた強度補正処理を行い、強度補正処理後のレーダデータを極座標から直交座標(x−y座標)に座標変換する。次に、2次元演算手段16は、座標変換後のレーダデータに対して2次元フーリエ変換(2次元FFT)処理を行い、波数空間(kx−ky座標)で表わされる2次元の波浪スペクトルを求める。
【0017】
図2の2次元の波浪スペクトルのグラフにおいて、kxは、波数k(波浪の波長λ)のx軸方向成分を示し、kyは、波数kのy軸方向成分を示す。また、前記グラフにプロットされた波浪スペクトルの濃淡は、波浪スペクトルの強度(波浪の波高)を示す。
【0018】
ここで、「発明が解決しようとする課題」の項でも説明したように、波浪の波長λ、観測領域30内の所定位置での水深dについて、d<λ/4となる位置(水深dが浅い陸地26の沿岸水域)では、波浪の波高、波速、波向が水深dの影響を受けて、水深dの波浪への影響が支配的となる浅海変形が発生する。そのため、図2の海図にも示すように、観測領域30が水深dの浅い陸地26の沿岸水域に設定されていれば、該観測領域30に応じた海面反射信号に基づく波浪スペクトルは、浅海変形の影響を受けた波浪スペクトルとなり、この結果、波浪情報取得手段25で取得される波浪情報の解析精度が劣化するおそれがある。なお、図2の海図中、参照数字の28は、海洋における水深の等高線を示す。
【0019】
そこで、本実施形態では、図2に示すように、観測領域30内での水深情報(例えば、海図より得られる観測領域30内の各位置での水深d)に基づいて、観測領域30の浅海変形の影響を受けた海面反射信号に基づく波浪スペクトルを補正するための補正マップ20を予め用意(作成)している。この補正マップ20は、2次元演算手段16で求めた2次元の波浪スペクトルのグラフに対応した、0〜1の補正強度で表わされる波数空間のグラフである。
【0020】
波浪情報取得手段25の乗算手段18は、2次元演算手段16からの2次元の波浪スペクトルに補正マップ20の補正強度を乗算することにより当該波浪スペクトルを補正し、補正後の波浪スペクトルを波浪スペクトル推算手段22に出力する。具体的に、乗算手段18は、波浪スペクトルのグラフ中の任意の位置での波浪スペクトルの強度に、該任意の位置に対応する補正マップ20中の位置での補正強度を乗じ、このような乗算処理を前記グラフの全ての位置に対して行うことにより前記波浪スペクトルを補正する。
【0021】
前述したように、補正マップ20は、観測領域30の浅海変形の影響を受けた海面反射信号に基づく波浪スペクトルを補正するためのマップであるので、補正後の波浪スペクトルは、浅海変形の影響が除去された波浪スペクトルとなる。
【0022】
なお、図2の補正後の波浪スペクトルのグラフにおいて、θは、レーダ12の位置を示す原点Oに対する波浪の方位(波向)である。
【0023】
波浪スペクトル推算手段22は、乗算手段18からの補正後の波浪スペクトルについて、前回のスキャンの波浪スペクトルと、今回のスキャンの波浪スペクトルとの相関を取ってクロススペクトルを求め、求めたクロススペクトルに対して所定のフィルタリング処理を行う。
【0024】
シーステート解析手段24は、フィルタリング処理後のクロススペクトルに基づいて観測領域30内の波浪の波速を求めると共に、補正処理後の今回の波浪スペクトルに基づいて当該波浪の波長(λ=k=(kx2+ky21/2)、波高、波向(θ=tan-1(ky/kx))を求め、求めた波高、波速、波向、波長を前記波浪の波浪情報として外部に出力する。
【0025】
なお、レーダ信号収録手段14における海面反射信号の収集処理、2次元演算手段16での海面反射信号に対する2次元FFT処理、波浪スペクトル推算手段22におけるフィルタリング処理、シーステート解析手段24における波浪情報の取得処理については、特許文献1及び2に記載されているので、ここでは、上記の各処理の詳細な説明を省略する。
【0026】
以上説明したように、本実施形態に係るレーダ波浪解析装置10は、レーダ12の回転により得られる海面反射信号に対して2次元FFT処理を行うことにより2次元の波浪スペクトルを求める2次元演算手段16と、レーダ12の観測領域30での水深d(水深情報)に基づき作成され、観測領域30での浅海変形の影響を受けた海面反射信号に対応する波浪スペクトルを補正するための補正マップ20と、2次元演算手段16から出力された波浪スペクトルを補正マップ20で補正し、補正後の波浪スペクトルに基づいて観測領域30での波浪情報を取得する波浪情報取得手段25とを有する。
【0027】
この場合、2次元の波浪スペクトルを補正マップ20により補正し、補正後の波浪スペクトルに基づいて波浪情報を取得するので、海面反射信号が浅海変形の影響を受けている場合でも、該波浪情報の解析精度を向上することができる。
【0028】
また、補正マップ20は、レーダ12の観測領域30の水深dに基づき作成されるので、波浪情報を取得したい水域(観測領域30)毎に独立して補正マップ20が作成され、この結果、水域毎に波浪情報の解析精度がばらつくことを回避することができる。
【0029】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0030】
10…レーダ波浪解析装置 12…レーダ
14…レーダ信号収録手段 16…2次元演算手段
18…乗算手段 20…補正マップ
22…波浪スペクトル推算手段 24…シーステート解析手段
25…波浪情報取得手段 26…陸地
28…等高線 30…観測領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダの回転により得られる海面反射信号に対して2次元フーリエ変換を行うことにより2次元の波浪スペクトルを求める2次元演算手段と、
前記レーダの観測領域の水深情報に基づき作成され、前記観測領域での浅海変形の影響を受けた海面反射信号に対応する波浪スペクトルを補正するための補正マップと、
前記2次元演算手段から出力された波浪スペクトルを前記補正マップで補正し、補正後の前記波浪スペクトルに基づいて前記観測領域での波浪情報を取得する波浪情報取得手段と、
を有することを特徴とするレーダ波浪解析装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−33529(P2011−33529A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181542(P2009−181542)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】