説明

レーダ画像処理装置および気象レーダ装置

【課題】本発明は、雨量と、風速または風向との地理的分布をそれぞれ示す画像を生成するレーダ画像処理装置と、そのレーダ画像処理装置が搭載された気象レーダ装置に関し、多様に刻々と変化し得る所望の地域の雨量・風速・風向を地理的に対応づけて容易に観測できることを目的とする。
【解決手段】気象レーダ装置が与える雨量の地理的分布を示す第一の画像と、前記気象レーダ装置が与える風速または風向の地理的分布を示す第二の画像とにそれぞれ乗じられるべき2つの重みの設定および可変を実現する重み設定手段と、前記第一の画像および前記第二の画像と前記2つの重みとの積和として、前記雨量および前記風速、または前記雨量および前記風向の地理的分布を示す合成画像を生成する画像合成手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨量と、風速または風向との地理的分布をそれぞれ示す画像を生成するレーダ画像処理装置と、そのレーダ画像処理装置が搭載された気象レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気象ドップラレーダシステムは、局地的な豪雨等の雨量(降雨量)に併せて、風向や風速の予測および把握のために用いられている。
【0003】
図4は、従来の気象ドップラレーダシステムの構成例を示す図である。
図において、気象ドップラレーダの観測局20は、観測に好適な山頂等のサイトに配置され、その観測局20は通信路21を介して遠隔制御局30に接続される。
【0004】
遠隔制御局30は、以下の要素から構成される。
(1) 上記通信路21とのインタフェースをとる通信インタフェース部31
(2) 観測局20の遠隔制御、雨量・風速・風向等の観測結果等の指示にかかわる操作者とのインタフェースを実現する操作指示部32
【0005】
(3) 予め組み込まれたソフトウェアに基づいて遠隔制御局30その他の各部の統括を行う処理装置33
(4) 上記通信インタフェース部31と共に処理装置33の対応する入出力ポートに接続され、その処理装置33と操作指示部32とのインタフェースをとる操作指示インタフェース部34
【0006】
このような構成の気象ドップラレーダシステムでは、観測局20は、ドップラレーダ方式に基づいて送信波を所望の方向(アンテナの主ローブの方位角や仰角で決定される。)に送信し、その方向に分布する雨雲や雨滴によってその送信波が反射することによって到来した受信波を受信する。さらに、観測局20は、通信路21を介して遠隔制御局30宛に、この受信波を所定の信号またはデータ列として引き渡す。
【0007】
遠隔制御局30では、処理装置33は、通信インタフェース部31を介してこのような信号またはデータ列を取り込み、所定の信号処理を施すことにより、操作指示部32の指示方式に適した画像情報であって、雨量の地理的分布を示す第一の画像情報と、風速または風向の地理的分を示す第二の画像情報とを生成する。
【0008】
さらに、処理装置33は、操作指示部32に対して操作者が行う操作によって切り替えられ、かつ上記第一の画像情報と第二の画像情報との内、その操作指示部32を介して表示されるべき一方を示す二値情報を所定の頻度で監視し、図5に示すように、その二値情報の論理値に対応する一方の画像情報を選択して出力する。
【0009】
操作指示インタフェース部34は、このようにして選択された一方の画像情報を操作指示部32に引き渡す。操作指示部32は、その画像情報を内蔵された指示部の表示画面上に表示する。
【0010】
したがって、遠隔制御局30では、操作者が操作指示部34を介して与える指示に応じて、雨量(降雨量)と、風向や風速との何れか一方の地理的な分布を示す画像が表示され、かつ適宜切り替えられる。
【0011】
なお、本発明に関連する先行技術としては、後述する特許文献1〜特許文献3および非特許文献1がある。
【0012】
(1) 「海面に電波を放射して得られる反射波をビデオ信号として処理する信号処理部、この信号処理部からのビデオ信号より高分解レーダ画像を生成する表示処理部、この表示処理部で生成された高分解能レーダ画像をもとに、流速分布の算出を行う流速算出部、および流速算出部で算出された流速分布を前記高分解レーダ画像に重畳表示する表示部を備え」ことにより、「1サイトのレーダサイトから得られるレーダ画像の情報をもとに、2次元的な海流速度ベクトルの分布を推定することが出来る海洋レーダ装置を得る」点に特徴がある海洋レーダ装置…特許文献1
【0013】
(2) 「各画素の色データに透過度情報が設定されている画像データから、各画素毎に該透過度情報を抽出して、上記画像データの各画素の透過度データを作成する透過度データ作成手段と、該透過度データ作成手段によって作成された各画素の透過度データを基に、複数の画像の各画素の各色データの配合比率を設定し、該配合比率に応じて、合成画像と背景画像とを合成して得られる画像の各画素の色データの値を算出する算出手段と、該算出手段の算出結果に基づいて、前記合成画像と背景画像とを合成する合成手段とを備える」ことにより、「画像の合成を容易に行えると共に、奥行きのある画像なども作成可能で、表現力豊かな画像を作成できるようにすること」点に特徴がある画像処理装置…特許文献2
【0014】
(3) 「物体の輝度と透過度から構成される画像の系列を入力として、輝度と透過度から構成される参照画像から部分領域間の対応により符号化対象画像の輝度と透過度の画像を予測する予測手段と、前記予測手段における部分領域間の対応を予測符号として符号化する予測符号化手段と、前記予測画像と前記符号化対象画像との輝度と透過度の差分を誤差画像として求める誤差演算手段と、前記誤差画像を誤差画像符号として符号化する誤差符号化手段とを有し、画像系列を前記参照画像に対する誤差画像符号、予測符号として伝送記録する」ことにより、「視線方向の前後関係で分離された階層画像を構成する輝度と透過度の画像を高能率で符号化、復号化する」点に特徴がある画像符号化装置…特許文献3
【0015】
(4) 「各種フォトレタッチソフトウェアを用いて実現される」点に特徴がある「天気図と気象衛星画像の重ねあわせ表示」…非特許文献1
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007−248293号公報
【特許文献2】特開平10−145583号公報
【特許文献3】特開平8−116542号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】「天気図と気象衛星画像の重ねあわせ表示」http://www.ricen.hokkaido-c.ed.jp/424computer/chigaku/kisyougazou/kisyougazou3.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところで、上述した従来例では、局所的な範囲における「雨雲のエコー強度」と「ドップラ速度」とを視覚的に対応させて比較することは容易ではなく、リアルタイムによる雨量と、風速または(および)風向との正確な把握や観測は難しかった。
特に、都市型ゲリラ豪雨のように、短時間に発生し、かつ多くの被害を被る可能性が高い積乱雲については、上記雨量および風速(風向)の効率的かつ精度よい観測が強く要望されていた。
【0019】
本発明は、多様に刻々と変化し得る所望の地域の雨量・風速・風向を地理的に対応づけて観測できるレーダ画像処理装置および気象レーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1に記載の発明では、重み設定手段は、気象レーダ装置が与える雨量の地理的分布を示す第一の画像と、前記気象レーダ装置が与える風速または風向の地理的分布を示す第二の画像とにそれぞれ対応した2つの重みの設定および可変を実現する。画像合成手段は、前記第一の画像および前記第二の画像と前記2つの重みとの積和として、前記雨量および前記風速、または前記雨量および前記風向の地理的分布を示す合成画像を生成する。
【0021】
すなわち、雨量と、風速または風向とは、両者の地理的な対応関係が維持されつつ上記2つの重みで重みづけられた合成画像として得られる。
【0022】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のレーダ画像処理装置において、前記合成画像は、前記第一の画像と前記第二の画像とに個別に割り付けられ、かつ配置が異なる画素の集合として構成される。前記2つの重みは、前記第一の画像と前記第二の画像とに個別に割り付けられ、かつ配置が異なる画素毎の階調表示に適した値である。
【0023】
すなわち、雨量と、風速または風向とをそれぞれ示す画素の階調値の加算は、合成画像上でこれらの階調値が共に大きい領域についても、線形な領域で実現される。
【0024】
請求項3に記載の発明では、第一の画像生成手段は、受信波から雨量の地理的分布を示す第一の画像を生成する。第二の画像生成手段は、前記受信波から風速または風向の分布を示す第二の画像を生成する。重み設定手段は、前記第一の画像と、前記第二の画像とにそれぞれ対応した2つの重みの設定および可変を実現する。画像合成手段は、前記第一の画像および前記第二の画像と前記2つの重みとの積和として、前記雨量および前記風速、または前記雨量および前記風向の分布を示す合成画像を生成する。
【0025】
すなわち、雨量と、風速または風向とは、両者の地理的な対応関係が維持されつつ上記2つの重みで重みづけられた合成画像として得られる。
【0026】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の気象レーダ装置において、前記合成画像は、前記第一の画像と前記第二の画像とに個別に割り付けられ、かつ配置が異なる画素の集合として構成される。前記2つの重みは、前記第一の画像と前記第二の画像とに個別に割り付けられ、かつ配置が異なる画素毎の階調表示に適した値である。
【0027】
すなわち、雨量と、風速または風向とをそれぞれ示す画素の階調値の加算は、合成画像上でこれらの階調値が共に大きい領域についても、線形な領域で実現される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、雨量と、風速または風向とは、局部的な地域についても、地理的に対応づけられつつ効率的に精度よく検証可能となる。
【0029】
また、本発明では、合成画像の鮮明度が高く維持され、その合成画像に基づく雨量、風速、風向の識別が所望の重みの下で精度よく達成される。
【0030】
本発明が適用された気象レーダでは、従来例に比べて性能および操作性が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態を示す図である。
【図2】本実施形態における処理装置の動作フローチャートである。
【図3】本実施形態によって得られる観測結果の表示例を示す図である。
【図4】従来の気象ドップラレーダシステムの構成例を示す図である。
【図5】従来例によって得られる観測結果の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す図である。
【0033】
図において、図4に示す従来例との構成の相違点は、遠隔制御局30に代えて遠隔制御局10が備えられ、その遠隔制御局10の構成が以下の点で遠隔制御局30と異なる点にある。
(1) 処理装置33に代えて処理装置11が備えられる。
(2) 操作指示部32に代えて操作指示部12が備えられる。
【0034】
図2は、本実施形態における処理装置の動作フローチャートである。
以下、図1および図2を参照して本実施形態の動作を説明する。
処理装置11は、操作指示インタフェース部34および操作指示部12を介して操作者と相互に行われる対話や情報の提供をGUI(Graphic User Interface)に基づいて行う。
【0035】
本実施形態では、操作指示部12の表示画面の内、PPI表示用に確保された矩形状の領域の下端の近傍に、例えば、図3に示すように、上記GUIの下で機能するスライドバー12SBが水平に配置される。
【0036】
観測局20は、従来例と同様に送信波を所望の方向に送信し、その方向に分布する雨雲や雨滴によってその送信波が反射することによって到来した受信波を受信すると共に、通信路21を介して遠隔制御局10宛に、この受信波を所定の信号またはデータ列として引き渡す。
【0037】
遠隔制御局10では、処理装置11は、従来例における処理装置33と同様に、このような信号またはデータ列に所定の信号処理を施すことにより、操作指示部12の指示方式に適した画像情報であって、雨量の地理的分布を示す第一の画像情報と、風速または風向の地理的分を示す第二の画像情報とを生成する。
【0038】
本実施形態の特徴は、遠隔制御局10において処理装置11が下記の処理の手順にある。
(1) 所定の頻度で(あるいはそのスライドバー12SBに対して行われた操作を示すイベントに応じて駆動される処理として)、既述のスライドバー12SBの位置(操作者が行う操作に応じて可変される。)を操作指示部34および操作指示部12を介して識別する(図2ステップS1)。なお、以下では、スライドバー12SBの位置については、そのスライドバー12SBの左端において「0」に設定され、反対に右端では「1」に設定されると共に、これらの左端と右端との間で直線的に増減する係数λ(0≦λ≦1)で示されると仮定する。
【0039】
(2) 既述の第一の画像情報を示す画素値の列Pi(i=1〜N)と、第二の画像情報を示す画素値の列Si(i=1〜N)と、上記係数λとに対して下式で示される画素値の列Ti(i=1〜N)として画像(以下、「合成画像情報」という。)を生成し(図2ステップS2)、操作指示インタフェース部34を介して操作指示部12にその合成画像情報を引き渡す(図2ステップS3)。
Ti=λ・Pi+(1−λ)・Si ・・・(1)
【0040】
操作指示部12は、図3に示すように、操作指示部12の表示画面の内、既述の矩形状の領域にこのような合成画像情報を表示する。
【0041】
すなわち、雨量の地理的分布を示す第一の画像情報と、風速または風向の地理的分を示す第二の画像情報とは、スライドバー12SBに位置で定まる重み(=λ)により重みづけられ、あるいは何れか一方が選択されて表示される。
【0042】
このように本実施形態によれば、観測範囲内に強雨域の雨エコーセルが出現した状態では、エコー強度とドップラ速度とを示す画像が地理的な対応関係が維持されつつ所望の重み付けの下で重ねられて表示される。
【0043】
したがって、従来例に比べて大幅に効率的に、かつ精度よく、降雨量と風速(風向)の地理的な対応関係の検証が可能となる。
【0044】
なお、本実施形態では、第一の画像情報と第二の画像情報とは、既述の重み付けによる表示が画素毎に濃度階調や面積階調の下で行われることを前提として生成されている。
しかし、これらの画像情報は、例えば、第一の画像情報と第二の画像情報とが個別に割り付けられた画素の列として生成されてもよい。
【0045】
また、本実施形態では、合成画像情報は、遠隔制御局10に備えられた処理装置11によって生成されている。
しかし、このような合成画像情報は、観測局20において行われる同様の処理の下で生成され、かつ通信路21を介して遠隔制御局10に引き渡されてもよい。
【0046】
さらに、本実施形態では、既述の処理に等価な処理が実現されるならば、観測局20と遠隔制御局10との間における機能分散および負荷分散の形態は、如何なるものであってもよく、かつこれらの観測局と遠隔制御局10が一体化されてもよい。
【0047】
また、本実施形態では、既述の係数λが「0」以上であって「1」以下である正数に限定されている。
しかし、第一の画像情報と第二の画像情報との双方または何れか一方の強調が要求される場合には、既述の式(1) の第1項および第2項の係数λ、(1−λ)λは「1」以上に設定されてもよく、かつ両者の総和は「1」を上回ってもよい。
【0048】
さらに、本実施形態では、観測局20の数が「1」となっているが、遠隔制御局10の配下で複数の観測局が稼動し、これらの観測局から得られる観測データ列の一部または全てに既述の処理が施される場合にも、本発明は適用可能である。
【0049】
また、本実施形態では、処理装置11によって行われる処理の手順、演算対象となる情報の内容および形式は、既述のものに限定されず、等価な処理が実現されるならば、如何なるものであってもよい。
【0050】
さらに、本実施形態では、合成画像情報は、操作指示部32によって既述の矩形の領域に表示されている。
しかし、このような合成画像情報は、表示されることなく所望の情報処理系や信号処理系に引き渡されてもよい。
【0051】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【0052】
10,30 遠隔制御局
11,33 処理装置
12,32 操作指示部
12SB スライドバー
20 観測局
21 通信路
31 通信インタフェース部
34 操作指示インタフェース部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象レーダ装置が与える雨量の地理的分布を示す第一の画像と、前記気象レーダ装置が与える風速または風向の地理的分布を示す第二の画像とにそれぞれ対応した2つの重みの設定および可変を実現する重み設定手段と、
前記第一の画像および前記第二の画像と前記2つの重みとの積和として、前記雨量および前記風速、または前記雨量および前記風向の地理的分布を示す合成画像を生成する画像合成手段と
を備えたことを特徴とするレーダ画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ画像処理装置において、
前記合成画像は、
前記第一の画像と前記第二の画像とに個別に割り付けられ、かつ配置が異なる画素の集合として構成され、
前記2つの重みは、
前記第一の画像と前記第二の画像とに個別に割り付けられ、かつ配置が異なる画素毎の階調表示に適した値である
ことを特徴とするレーダ画像処理装置。
【請求項3】
受信波から雨量の地理的分布を示す第一の画像を生成する第一の画像生成手段と、
前記受信波から風速または風向の分布を示す第二の画像を生成する第二の画像生成手段と、
前記第一の画像と、前記第二の画像とにそれぞれ対応した2つの重みの設定および可変を実現する重み設定手段と、
前記第一の画像および前記第二の画像と前記2つの重みとの積和として、前記雨量および前記風速、または前記雨量および前記風向の分布を示す合成画像を生成する画像合成手段と
を備えたことを特徴とする気象レーダ装置。
【請求項4】
請求項3に記載の気象レーダ装置において、
前記合成画像は、
前記第一の画像と前記第二の画像とに個別に割り付けられ、かつ配置が異なる画素の集合として構成され、
前記2つの重みは、
前記第一の画像と前記第二の画像とに個別に割り付けられ、かつ配置が異なる画素毎の階調表示に適した値である
ことを特徴とする気象レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−58808(P2011−58808A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205432(P2009−205432)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】