説明

レーダ装置及び物標検出方法

【課題】FM−CWモードで得られた一方のピーク信号が目標とする物標以外の他の物標のピーク信号に埋もれた場合に、ペアリング処理が行えないという問題があった。
【解決手段】本発明のレーダ装置は、FM−CWモードとCWモードとを交互に切り替えて物標を検出するレーダ装置において、FM−CWモードによりアップビートからピーク信号を検出するとともに、ダウンビートからピーク信号を検出する手段と、アップビートから検出したピーク信号と、ダウンビートから検出したピーク信号とをペアリングする手段と、ペアリング手段によってアップビートとダウンビートのうち一方のビートから検出されたピーク信号にペアリングできなかったピーク信号がある場合、CWモードで検出した相対速度に基づいて他方のビートからペアリングできなかったピーク信号のペアリング対象を検索する手段と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物標からの反射波を利用して物標を検出するレーダ装置及び物標検出方法に関し、特に、FM−CWモードとCWモードとを切り替えて物標の検出を行なうレーダ装置及び物標検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の安全性の向上や、快適な運転の実現のために、自動車の高機能化が求められている。特に、走行中に前方に存在する車両や歩行者等との接触を回避すること、あるいは、前方を走行する車両に追随して自動運転を行うこと等を目的として、これらの物標を検出する車載用レーダ装置が重要となっている。
【0003】
この車載用レーダ装置には、レーダの走査方式に関してメカスキャン方式、位相モノパルス方式及び電子スキャン方式があり、これら各種のレーダ装置において、物標の距離及び速度を検出するためにFM−CW(周波数変調−連続波)方式が用いられる。FM−CWレーダ方式を用いた装置は、FM−CWモードで物標の検出を行なうが、物標の距離と速度を個別に検出することができないので、速度のみを検出することを目的として、間欠的にCWモードで物標の検出を行なう間欠FM−CWレーダ装置が報告されている(例えば、特許文献1)。ここで、まず、間欠FM−CWレーダ装置の構成、FM−CWモード及びCWモードでの物標の検出方法について簡単に説明する。
【0004】
図1に、従来の間欠FM−CWレーダ装置10の構成の概略図を示す。図1を用いて、メカスキャン方式のFM−CWレーダ装置を車両の前方に搭載した場合について説明する。三角波発生回路11から電圧制御発信器(VCO)12に三角波からなる周期性のあるFM信号を供給して、搬送波に周波数変調を行なった後、送信アンテナ14から、車両前方へ送信波としての電波(ミリ波)を送信する。車両前方の物標に当たって反射した反射波を受信アンテナ15で受信し、これと、方向性結合器13を介して入力された送信波の一部とをミキサ17で混合することによりビート信号を得る。ビート信号はA/D変換器18でA/D変換され、ピーク検出手段31及びペアリング手段32を備えたマイコン30に入力される。送信アンテナ14及び受信アンテナ15は、平面レンズや反射鏡からなるアンテナ構成部材16と一体化して形成されている。
【0005】
さらに、ステアリングホイールの操舵角を検出するステアリングセンサ27、車両が回転する速度を検出するヨーレートセンサ28、車速センサ29からの情報が車両制御用ECU(電子制御装置)23に送られる。車両制御用ECU23は、これらの情報と、マイコン30から送られる物標との距離や相対速度等に基づいて車両のブレーキ24、スロットル25、警報器26を制御する。例えば、物標との距離が一定距離以下にまで短縮された場合には、ブレーキ24をかけるとともに警報器26を鳴らし、その後、物標との距離が一定距離以上に広がった場合には、再びスロットル25を開放する。
【0006】
また、車両正面の所定の角度範囲で検出を行なうためには、メカスキャン方式ではアンテナを左右方向に振る必要がある。そのため、マイコン30からの信号に基づいてモータ駆動回路20によりモータ21を駆動して、送信アンテナ14及び受信アンテナ15を左右方向に振っている。具体的には例えば左右8°ずつ、合計16°の範囲をカバーできるように、これらのアンテナを同時に駆動する。さらに、モータ21からの信号がエンコーダ22を介してマイコン30に送られて、モータの動作状態がフィードバックされる。
【0007】
一方、メカスキャン方式のレーダ装置の他に、電子スキャン方式のレーダ装置があり、その構成の概略図を図2に示す。電子スキャン方式のレーダ装置では、アンテナに電子スキャンアンテナを用いており、メカスキャン方式のような可動部分がなく、図2に示すように複数のアンテナA1〜A5を配置してアンテナ切替スイッチ33で電気的に切り替えてアンテナビームを所定の角度範囲で走査する。次に、電子キャン方式のレーダ装置の構成について説明する。三角波発生回路11から電圧制御発信器(VCO)12に三角波からなる周期性のあるFM信号を供給して、搬送波に周波数変調を行なった後、アンテナA1乃至A5から、車両前方へ送信波としての電波(ミリ波)を送信する。車両前方の物標に当たって反射した反射波をアンテナA1乃至A5で受信し、これと、方向性結合器13を介して入力された送信波の一部とをミキサ17で混合することによりビート信号を得る。ビート信号はA/D変換器18でA/D変換され、ピーク検出手段31及びペアリング手段32を備えたマイコン30に入力される。
【0008】
さらに、ステアリングホイールの操舵角を検出するステアリングセンサ27、車両が回転する速度を検出するヨーレートセンサ28、車速センサ29からの情報が車両制御用ECU(電子制御装置)23に送られる。車両制御用ECU23は、これらの情報と、マイコン30から送られる物標との距離や相対速度等に基づいて車両のブレーキ24、スロットル25、警報器26を制御する。例えば、物標との距離が一定距離以下にまで短縮された場合には、ブレーキ24をかけるとともに警報器26を鳴らし、その後、物標との距離が一定距離以上に広がった場合には、再びスロットル25を開放する。
【0009】
また、車両正面の所定の角度範囲で検出を行なうために、アンテナ切替スイッチ33で電気的に切り替えてアンテナビームを所定の角度範囲、例えば左右8°ずつ、合計16°の範囲で走査する。
【0010】
(FM−CWモード)
次に、FM−CWモードでの物標の検出方法について説明する。車両のレーダ検出範囲内に、移動している物標及び静止している物標が存在すると仮定する。図3に、物標が静止している場合の、車両の送信波及び受信波の周波数fと時間との関係を示す。図3(a)において、実線の三角波は送信波の周波数を表す。送信波の中心周波数はf0、FM変調幅はΔf、繰り返し周期はTmである。この送信波は物標で反射されて図1の受信アンテナ15で受信され、破線の三角波が受信波の周波数を表す。同図から、送信波と受信波は飛行時間分だけずれていることが分かる。また、この受信波は物標との間の距離に応じて送信信号との周波数のずれ(ビート)を起こす。
【0011】
図3(b)に、送信波と受信波の周波数差fr信号(ビート信号)を三角波が上昇するアップビート区間、及び三角波が下降するダウンビート区間のそれぞれについて示す。FMの繰り返し周波数をfmとすると、距離Rの物標からの反射信号のビート周波数frは次式で表される。ただし、cは光速である。
fr=4R・fm・Δf/c (1)
また、各区間のビート信号をサンプリングし、それぞれをフーリエ変換すると電力(パワー)が得られる。
【0012】
次に、図4(a)に、物標が移動物体である場合の、送信波及び受信波の周波数と時間との関係を示す。物標が移動している場合は、ドップラ効果により受信信号の周波数がシフトする。図4(b)に、送信波と受信波のビート信号をアップビート区間、及びダウンビート区間のそれぞれについて示す。ビート信号周波数は、物標が静止している場合のビート信号周波数frに、ドップラ周波数fdが重畳したもので、アップビート区間でのビート信号周波数fbup及びダウンビート区間でのビート信号周波数fbdownは、それぞれ、
fbup=fr−fd (2)
fbdown=fr+fd (3)
で表される。また、ドップラ周波数fdと速度Vとの関係は次式で表される。
fd=2・V・f0/c (4)
【0013】
このfbup、fbdownを減算処理などで飛行時間により生じる周波数差frを算出し、fbup、fbdownを加算処理などでドップラシフト分のずれfdを算出し、それらに定数を乗算することにより距離、及び相対速度に変換することができる。即ち、
fr=(fbup−fbdown)/2 (5)
fd=(fbup+fbdown)/2 (6)
となる。したがって、同一の物標に関して、fbup、fbdownの両者が求められれば、fr、fdが算出でき、物標の距離及び相対速度を検出することができる。即ち、ピーク検出手段31(図1)によってアップビートで検出された物標のピークと、ダウンビートで検出された物標のピークとをペアリング手段32(図1)によってペアリングし、ペアリング処理された2つのピークの周波数の和から物標との距離が算出され、周波数の差から物標との相対速度が算出される。
【0014】
(CWモード)
次に、CWモードによる検出方法について説明する。図5は、送信波及び受信波の周波数と時間との関係を示す。CWモードでは、周波数変調を行なわず、一定の周波数の電波を送信する。CWモードでは、連続波信号には位相のほかに時間の区切りが無いので、物標の移動速度のみが計測できる。物標の移動速度が自速度と違う場合、ドップラ効果が生じるので、受信信号と送信信号をミキシングし、高周波成分をフィルタリングすると低周波数のドップラ信号だけ残り、その信号をフーリエ変換すると、自己との速度差を示す、物標からの反射波の受信電力が得られる。
【0015】
従来の間欠FM−CWレーダ装置においては、FM−CWモードと、FM信号で周波数変調しない搬送波を送信波とするCWモードとを交互に切替え、CWモードでは振幅の大きなFM/AM変換ノイズは発生しない点を利用して、遠方の物標でもその有無を検知できる点が開示されている(特許文献1)。
【0016】
【特許文献1】特開平3−206987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、図6に示すように、自車41の前方の目標とする物標である対向車42を検出する場合に、対向車の上方に目標とする物標以外の他の物標である構造物43(以下、「上方物」という)がある場合、レーダ装置44からの電波45は上下方向に幅を持っているために、上方物43で反射し、対向車42の検出が困難になるという問題が生じていた。図7(a)は、自車の正面を0°として、左右に8°ずつ、合計16°の範囲でビームを放射した場合の各ビームの反射波によるアップビート信号から求めたパワーのピークのマップを示している。一方、図7(b)は各ビームのダウンビート信号から求めたパワーのピークのマップを示している。これらのマップでは、原点から離れるしたがって周波数が高くなっている。仮に、アップビートで検出した物標のピークが、ダウンビートにおいても検出できた場合、ペアリング処理が行なわれ、上述のようにfbup、fbdownから物標との距離や相対速度を求めることができる。
【0018】
図7(a)には、上方物からのピーク61と、対向車からのピーク51を示している。自車に向かって進行してくる対向車は、静止している上方物よりも相対速度が大きいため、同じ距離にあっても、対向車のピーク51は、相対速度の差分だけ、上方物のピーク61よりも低い周波数領域に現れる。このことから、アップビートでの反射は、早い段階で上方物の影響を受けない周波数領域において検知することができる。
【0019】
一方、ダウンビートの場合は、図7(b)に示すように、車両のピーク52は、上方物のピーク62に埋もれてしまっており、ペアリングが困難となる。この場合、アップビートで検出した車両のピーク51の角度やパワーを基準にして検出しようとすると、物標からの反射が不安定な場合や、物標の上方に上方物がある場合、誤って検出したり、早期に検出することができないといった問題が生じる。
上記の例では、アップビートにおいては、目標とする物標のピーク信号が、目標とする物標以外の他の物標のピーク信号と明確に分離できる一方で、ダウンビートにおいては、目標とする物標のピーク信号が、目標とする物標以外の他の物標のピーク信号に埋もれてしまう場合について示したが、その逆の場合も有りうる。即ち、ダウンビートにおいては、目標とする物標のピーク信号が、目標とする物標以外の他の物標のピーク信号と明確に分離できる一方で、アップビートにおいては、目標とする物標のピーク信号が、目標とする物標以外の他の物標のピーク信号に埋もれてしまい、両者の区別が困難となる場合も考えられる。このような状況は、図6において、対向車42が自車41と同一方向に走行する場合に生じうると考えられる。
即ち、FM−CWモードで得られたアップビートのピーク信号及びダウンビートのピーク信号のうち、一方のピーク信号が目標とする物標以外の他の物標のピーク信号に埋もれてしまう場合に、アップビートのピーク信号及びダウンビートのピーク信号のペアリング処理が行えなくなるという問題が生じる。
【0020】
そこで、本発明は、FM−CWモードで得られたアップビートのピーク信号及びダウンビートのピーク信号のうち、一方のピーク信号が目標とする物標以外の他の物標のピーク信号に埋もれてしまうような場合であっても、目標とする物標の埋もれていない一方のピーク信号と、埋もれているピーク信号とを確実にペアリングすることにより、目標とする物標を迅速且つ正確に検出することができるレーダ装置及び物標検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のレーダ装置は、周波数変調をかけた電波を目標とする物標に送信するFM−CWモードと、周波数変調をかけない電波を物標に送信するCWモードとを交互に切り替えて電波を送信するとともに、これらの送信波の一部と前記物標で反射された受信波とのビート信号を利用して物標を検出するレーダ装置において、FM−CWモードによりアップビートからピーク信号を検出するとともに、ダウンビートからピーク信号を検出するピーク検出手段と、アップビートから検出したピーク信号と、ダウンビートから検出したピーク信号とをペアリングするペアリング手段と、ペアリング手段によってアップビートとダウンビートのうち一方のビートから検出されたピーク信号にペアリングできなかったピーク信号がある場合、CWモードで検出した相対速度に基づいて他方のビートからペアリングできなかったピーク信号のペアリング対象を検策する検索手段と、を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の物標検出方法は、周波数変調をかけた電波を目標とする物標に送信するFM−CWモードにおいて、送信波の一部と前記物標で反射された受信波とのアップビート及びダウンビートから目標とする物標のピーク信号を検出するステップと、周波数変調をかけない電波を物標に送信するCWモードにおいて、目標とする物標の相対速度を検出するステップと、ペアリングステップにおいてアップビートから得られた物標のピーク信号と、ダウンビートから得られた物標のピーク信号とをペアリングするステップと、アップビートとダウンビートのうち一方のビートから検出されたピーク信号にペアリングできなかったピーク信号がある場合、CWモードで検出した相対速度に基づいて他方のビートからペアリングできなかったピーク信号のペアリング対象を検策するステップと、他方のピーク信号と、検索した一方のピーク信号とをペアリングするステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のレーダ装置によれば、移動物体等の目標とする物標のピーク信号が、静止物体等の目標とする物標以外の他の物標のピーク信号に埋もれてしまうような場合であっても、ペアリング処理を正確に行なうことができ、目標とする物標の検出を迅速且つ正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下図面を参照して、本発明に係るレーダ装置について説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態には限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【実施例1】
【0025】
図8に、本発明のレーダ装置10の概略図を示す。本発明のレーダ装置は、マイコン30の内部にピーク検出手段31及びペアリング手段32に加えて、検索手段34を備えている点を特徴としている。電圧制御発信器(VCO)12に三角波発生回路11から三角波からなる周期性のあるFM信号を供給して、搬送波に周波数変調を行なった送信波を生成し、この送信波を送信アンテナ14から車両前方へ送信する。車両の前方の物標に当たって反射した反射波を受信アンテナ15で受信し、これと、方向性結合器13を介して入力された送信波の一部とをミキサ17で混合することによりアップビート信号及びダウンビート信号を得る。これらのビート信号はA/D変換器18でA/D変換され、マイコン30に入力される。ここで、アップビート信号及びダウンビート信号のそれぞれについて、ピーク検出手段31において、ピークが検出される。検出されたピークデータは、ペアリング手段32においてペアリングされ、物標の検出が行なわれ、自車と物標との相対位置、相対速度が算出される。さらに、後述するように、アップビート及びダウンビートの一方から検出されるピーク信号が、目標とする物標以外の他の物標のピーク信号に埋もれている場合には、検索手段34によって埋もれているピーク信号を検索する。これらの相対位置、相対速度のデータは車両制御用ECU23に送られ、ステアリングセンサ27、ヨーレートセンサ28、車速センサ29からのデータに基づいて、ブレーキ24、スロットル25、警報機26を制御する。
【0026】
本願発明では、アンテナの駆動方法はメカスキャン方式を採用しており、所定の角度範囲の物標を検出できるように、送信アンテナ14及び受信アンテナ15を左右に振っている。振る角度は車体正面に関して左右8°ずつ、合計16°の範囲をカバーできるように、送信アンテナ14及び受信アンテナ15が同方向を向くように、モータ21で駆動する。アンテナの方向を決めるモータ21は、マイコン30からの信号に基づいてモータ駆動回路20により駆動される。モータ21の駆動状況は、エンコーダ22を介してモータ21からの信号をマイコン30に入力することによりフィードバックされ、アンテナの角度範囲やその周期の制御が行なわれる。
【0027】
次に、本発明により、物標の検出を行なう方法について説明する。一例として、図6に示すように、上方物43の下側で自車41に向かって走行する対向車42を自車41の前方に設置したレーダ装置44から発する電波45で検出する場合について説明する。図9は、本発明により物標の検出手順を示すフローチャートである。ここでは、本発明によってペアリング処理を行なう方法を中心に説明する。
【0028】
まず、ステップ100において、CWモードで電波を送受信し、ピークデータを検出する。例えば前方16°の範囲で1°ずつアンテナを振って、この範囲でピークを検出する。このときの、対向車42からのピーク53と、上方物43からのピーク63のマップを図10(a)に示す。CWモードの場合、既に述べたように、物標の移動速度のみが計測できる。図6に示すように、対向車42は自車41に向かって走行しているが、上方物43は静止しているので、速度差が存在するため、マップ上では、対向車42からのピーク53は、上方物43からのピーク63と明確に分離できる。
【0029】
CWモードは、例えば、FM−CWモードでのスキャン10回に1回の割合で実行する。FM−CWモードと、CWモードの切り替えタイミングは可変としてもよい。例えば、通常は、FM−CWモードでのスキャン10回に1回の割合のタイミングで切り替える一方、CWモードでの測定を精度よく行いたい場合には、例えば、FM−CWモードでのスキャン2回に1回の割合のタイミングで切り替えてもよい。
【0030】
次に、ステップ101において、FM−CWモードで電波を送受信し、アップビート信号から物標のピークを検出する。このときの、上方物43からのピーク61と、対向車42からのピーク51のマップを図10(b)に示す。アップビートの場合、既に述べたように、自車に向かって進行してくる対向車は、静止している上方物43よりも相対速度が大きいため、対向車42のピーク51は、距離が同じであっても、相対速度の差分だけ、上方物43からのピーク61よりも低い周波数領域に現れる。このことから、アップビートでの反射は、早い段階で上方物の影響を受けない周波数領域において検知することができる。さらに、CWモードで検出された物標のピークの角度及びパワーをアップビートで検出された物標のピークのうち強度が最大のピークの角度とパワーとを対比することにより、物標の検知をより正確に行うことができる。
【0031】
次に、ステップ102において、FM−CWモードで電波を送受信し、ダウンビート区間の信号から物標のピークを検出する。このときの、対向車42からのピーク52と、上方物43からのピーク62のマップを図10(c)に示す。同図に示すように、対向車42からのピーク52は、上方物43からのピーク62の中に埋もれてしまっている。
【0032】
次に、ステップ103において、ステップ101で求めた対向車42のアップビートのピーク51のうち強度が最大のピークと、ステップ102で求めた対向車42のダウンビートのピーク52のうち強度が最大のピークとのペアリングを試みる。上述のように、ペアリングを行なうことにより、2つのピークの周波数の和から物標との距離が算出され、差から物標との相対速度が算出される。
【0033】
次に、ステップ104において、ペアリングされていない対向車42のアップビートのピークが有るか否かを判断する。ダウンビートでの対向車42のピークが、上方物43のピークと明確に区別できて、ペアリングが正確に行なわれた場合には、ステップ110において検出結果が最終出力候補に決定される。一方、図10(c)に示すように、ダウンビートでの対向車42のピーク52が、上方物43のピーク62に埋もれてしまい、明確に区別できない場合には、ペアリングは行なわれず、その結果、ペアリングされていないアップビートのピークが存在することとなる。このようにペアリング手段によりペアリング処理がなされた後、ペアリングされていないダウンビートから検出したピーク信号がある場合には、ダウンビートから検出したピーク信号が他の物標のピーク信号に埋もれている可能性があると判断する。
【0034】
ペアリングされていないアップビートのピークが存在する場合は、ステップ105において、対向車42のアップビートで検出される相対速度が、CWモードで検出した相対速度に等しいと仮定する。
【0035】
次に、ステップ106において、この相対速度に基づいて、対向車42のダウンビートのピークの検索範囲を絞り込む。即ち、相対速度Vが既知であるとすると、対向車42のダウンビートのピークの周波数fbdownは、式(4)及び(6)から、次式のように求められる。
fbdown=2・fd−fbup=2・2・V・f0/c−fbup (7)
このようにして、対向車42のダウンビートのピークがマップ上で出現する周波数範囲は、fbdownの近傍と考えられるため、この範囲に関して詳細に、上方物43のピーク62の中に埋もれた、対向車42のピーク52を検索する。
即ち、検索手段34(図8参照)は、アップビートで検出したピーク信号のうち強度が最大のピークから求められる周波数及びCWモードで検出した相対速度から求められるドップラ周波数から、ダウンモードのピークが現れる周波数を算出し、算出した周波数近傍でダウンビートのピークのうち強度が最大のピークを検索している。
【0036】
次に、ステップ107において、上記の検索範囲に対向車42のピークが存在するか否かを判断する。ピークが存在する場合は、対向車の42ダウンビートのピークを検出している可能性が高いと考えられるので、さらに精度を高めるために、そのピークのパワーを基準に判断を継続する。ピークが存在しない場合は、誤ったピークを検出した可能性が高いので、ペアリング処理を終了し、再度スキャンを実行する。再度スキャンを行なう場合は、FM−CWモードとCWモードとの切り替えタイミングを変える等、測定条件を変更して実行してもよい。
【0037】
次に、ステップ108において、対向車42のダウンビートのピークのうち強度が最大のピークのパワーと、アップビートのピークのうち強度が最大のピークのパワーとの差が小さいかどうかを判断する。例えば、両ピークパワーの差が5〜10dB以下であれば差が小さいと判断する。ピークのうち強度が最大のピークのパワーの差が小さい場合は、対向車42のダウンビートのピークを検出している可能性が高いと考えられるので、さらに精度を高めるために、そのピークの検出角度を基準に判断を継続する。パワー差が大きい場合は、誤ったピークを検出した可能性が高いので、ペアリング処理を終了し、再度スキャンを実行する。再度スキャンを行なう場合は、上記と同様、測定条件を変更して実行してもよい。
【0038】
次に、ステップ109において、アップビートのピークのうち強度が最大のピークが検出された角度と、ダウンビートのピークのうち強度が最大のピークが検出された角度との差が小さいか否かを判断する。例えば、両ピークの角度の差が1°以下であれば角度差が小さいと判断する。角度差が小さい場合は、対向車42のダウンビートのピークのうち強度が最大のピークを検出しているものと考えられる。この場合は、ステップ110で最終出力候補に決定する。角度差が大きい場合は、誤ったピークを検出した可能性が高いので、ペアリング処理を終了し、再度スキャンを実行する。再度スキャンを行なう場合は、上記と同様、測定条件を変更して実行してもよい。
【0039】
上記実施例では、CWモードの場合は、前方16°の範囲で1°ずつアンテナを振って、この範囲でピークを検出する例を示したが、移動する物標が存在する可能性が高い範囲に走査範囲を限定してもよい。例えば、進行方向右側の車線を走行する対向車を検出する場合は、中心から右側へ8°の範囲に走査範囲を限定してもよい。走査範囲を限定することで、短時間に物標の相対速度を検出することが可能となる。
【0040】
上記の実施例では、目標とする物標のアップビートのピークが正常に検出され、ダウンビートのピークが他の物標のピークに埋もれてしまう場合について説明したが、目標とする物標のダウンビートのピークが正常に検出され、アップビートのピークが他の物標のピークに埋もれてしまうような場合にも同様に本発明を適用できる。この場合、CWモードで求めた目標とする物標との相対速度と、ダウンビートのピークが検出された周波数から、埋もれているアップビートのピークが検出される周波数を算出し、その周波数近傍でアップビートのピークを検索する。
このように、本発明では、ペアリング手段によってアップビートとダウンビートのうち一方のビートから検出されたピーク信号にペアリングできなかったピーク信号がある場合、CWモードで検出した相対速度に基づいて他方のビートからペアリングできなかったピーク信号のペアリング対象を検索する。本発明によれば、アップビートのピーク信号とダウンビートのピーク信号のどちらのピークが検出されない場合であっても、迅速且つ正確に検出されない一方のピークを検出することができる。
【0041】
上記実施例では、車載用のFM−CWレーダ装置を例にとって説明したが、これに限られるものではなく、移動体を検出する目的で使用する他のFM−CWレーダ装置にも本発明を適用することができる。また、上記実施例においては、メカスキャン方式のレーダ装置を例にとって説明したが、電子スキャン方式や位相モノパルス方式のレーダ装置にも本発明を適用することができる。
【0042】
また、上記実施例では、車両の前方にレーダを設置する場合について説明したが、レーダの設置位置を後方や側方など、設置位置がどこであって本発明を適用することが可能である。
【0043】
上述のように、本発明の場合、アップビートのピークとダウンビートのピークとのペアリングにおいて、従来のようにピークが出現する角度及びピークのパワーだけで判断するのではなく、CWモードで検出した相対速度を判断基準に加えることによって、より正確なペアリング処理を行うことができる。その結果、移動物体等の目標とする物標のピーク信号が、静止物体等の目標とする物標以外の他の物標のピーク信号に埋もれてしまうような場合であっても、ペアリング処理を正確に行なうことができ、目標とする物標の検出を迅速且つ正確に行うことができる。例えば、自車に向かって走行する対向車の上方に構造物があるような場合であっても、ペアリング処理を正確に行なうことができ、対向車の相対速度及び距離を正確且つ迅速に検知することにより、対向車を早期に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】従来のメカスキャン方式のFM−CWレーダ装置の構成の概略を示した図である。
【図2】従来の電子スキャン方式のFM−CWレーダ装置の構成の概略を示した図である。
【図3】物標が静止している場合のFM−CWモードによる送信波及び受信波の波形と、ビート信号を示す図である。
【図4】物標が移動している場合のFM−CWモードによる送信波及び受信波の波形と、ビート信号を示す図である。
【図5】CWモードにおける送信波及び受信波の波形を示す図である。
【図6】自車、対向車、上方物の位置関係を示す図である。
【図7】FM−CWモードにおけるピーク信号のマップを示す図である。
【図8】本発明のFM−CWレーダ装置の構成の概略を示した図である。
【図9】本発明のFM−CWレーダ装置を用いて行なうペアリング処理のフローチャートである。
【図10】本発明のFM−CWレーダ装置を用いて得られるピーク信号のマップを示す図である。
【符号の説明】
【0045】
10 FM−CWレーダ装置
11 三角波生成回路
12 電圧制御発信器
13 方向性結合器
14 送信アンテナ
15 受信アンテナ
16 アンテナ構成部材
17 ミキサ
18 A/D変換器
20 モータ駆動回路
21 モータ
22 エンコーダ
23 車両制御用ECU
24 ブレーキ
25 スロットル
26 警報機
27 ステアリングセンサ
28 ヨーレートセンサ
29 車速センサ
30 マイコン
31 ピーク検出手段
32 ペアリング手段
33 アンテナ切替スイッチ
34 検索手段
41 自車
42 対向車
43 上方物
44 レーダ装置
45 電波
51、52、53 対向車のピーク
61、62、63 上方物のピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調をかけた電波を目標とする物標に送信するFM−CWモードと、周波数変調をかけない電波を物標に送信するCWモードとを交互に切り替えて電波を送信するとともに、これらの送信波の一部と前記物標で反射された受信波とのビート信号を利用して物標を検出するレーダ装置において、
前記FM−CWモードによりアップビートからピーク信号を検出するとともに、ダウンビートからピーク信号を検出するピーク検出手段と、
前記アップビートから検出したピーク信号と、ダウンビートから検出したピーク信号とをペアリングするペアリング手段と、
前記ペアリング手段によってアップビートとダウンビートのうち一方のビートから検出されたピーク信号にペアリングできなかったピーク信号がある場合、前記CWモードで検出した相対速度に基づいて他方のビートから前記ペアリングできなかったピーク信号のペアリング対象を検索する検索手段と、
を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記検索手段は、前記埋もれていないピーク信号から求められる周波数及びCWモードで検出した相対速度から求められるドップラ周波数から、前記埋もれているピーク信号が現れる周波数を算出し、算出した周波数近傍で前記埋もれているピーク信号を検索することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記検索手段は、さらに、前記埋もれていないピーク信号のパワーと、前記埋もれているピーク信号のパワーとの差を比較することを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記検索手段は、さらに、前記埋もれていないピーク信号が現れる角度と、前記埋もれているピーク信号が現れる角度との差を比較することを特徴とする請求項2または3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
周波数変調をかけた電波を目標とする物標に送信するFM−CWモードにおいて、送信波の一部と前記物標で反射された受信波とのアップビート及びダウンビートから目標とする物標のピーク信号を検出するステップと、
周波数変調をかけない電波を物標に送信するCWモードにおいて、目標とする物標の相対速度を検出するステップと、
アップビートから得られた前記物標のピーク信号と、ダウンビートから得られた前記物標のピーク信号とをペアリングするステップと、
前記ペアリングステップにおいてアップビートとダウンビートのうち一方のビートから検出されたピーク信号にペアリングできなかったピーク信号がある場合、前記CWモードで検出した相対速度に基づいて他方のビートから前記ペアリングできなかったピーク信号のペアリング対象を検索するステップと、
前記他方のピーク信号と、検索した前記一方のピーク信号とをペアリングするステップと、
を有することを特徴とする物標検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−198306(P2009−198306A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40107(P2008−40107)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】