説明

レーダ装置

【課題】距離やドップラー速度に折返しが発生しても、気象クラッタを十分に抑圧して、正確に目標を検出することができるようにする。
【解決手段】ドップラー速度算出部11により算出されたドップラー速度の中で不連続に変化する点があれば、不連続に変化する点でドップラー速度の折返し補正を実施する速度折返し補正処理部12と、ドップラー速度を空間方向に平滑化するドップラー速度空間平滑処理部14とを設け、フィルタ設定部15が平滑化されたドップラー速度の信号成分を抑圧する帯域制限フィルタを設定し、クラッタ抑圧フィルタ処理部16が当該帯域制限フィルタを用いて、受信信号に含まれている不要信号成分を抑圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルス信号を空間に放射して、空間中に存在する物体に反射されたパルス信号の反射波を受信することにより、その受信信号から目標を検出するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置が気象クラッタを抑圧して目標を正確に検出するには、クラッタの中心周波数を精度よく推定する必要がある。
クラッタの中心周波数の推定精度を高めるには、クラッタ推定における空間平滑化(距離または角度)が有効である。
例えば、以下の特許文献1には、クラッタの中心周波数をレンジブロック単位に平均する方法、または、クラッタの中心周波数を距離方向に移動平均する方法が開示されている。
【0003】
しかし、レーダ装置で観測される気象エコーには、距離又はドップラー速度に折返しが発生することが知られている。
パルスドップラーレーダのドップラー周波数解析において、ナイキスト周波数がパルス繰返し周波数に対応する。
したがって、ドップラー速度を折返し(エイリアシング)なく計測するためには、パルス繰り返し周波数を十分高くする必要がある。
一方、パルス繰返し周波数を高くすると、レーダ装置から遠距離に位置する物体に反射された反射波がレーダ装置で受信される前に、次のパルス信号の送信が行われることになるため、距離の折返しが発生する。
このため、パルスドップラーレーダで観測される気象エコーには、距離又はドップラー速度のいずれか一方、または、両方に折返しが発生する(例えば、非特許文献1を参照)。
【0004】
なお、折返しが存在する気象エコーデータと折返しが存在しない気象エコーデータ、あるいは、折返し回数が異なる気象エコーデータを空間平均しても正しい値が得られず、距離の平均効果が得られない。
このため、クラッタの中心周波数を精度よく推定することができず、気象クラッタを抑圧することができない状況が発生することがある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−201568号公報(段落番号[0011]、図1)
【非特許文献1】Doviak and Zrnic,Doppler Radar and Weather Observations,Second Edition,Academic Press,Inc.,1993.,p.160−179.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のレーダ装置は以上のように構成されているので、距離やドップラー速度に折返しが発生していると、クラッタの中心周波数をレンジブロック単位に平均したり、クラッタの中心周波数を距離方向に移動平均したりしても、クラッタの中心周波数を精度よく推定することができず、気象クラッタを十分に抑圧することができない状況が発生することがある課題があった。
【0007】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、距離やドップラー速度に折返しが発生しても、気象クラッタを十分に抑圧して、正確に目標を検出することができるレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るレーダ装置は、ドップラー速度算出手段により算出されたドップラー速度の中で不連続に変化する点があれば、不連続に変化する点でドップラー速度の折返し補正を実施する速度折返し補正手段と、ドップラー速度を空間方向に平滑化する空間平滑化手段とを設け、クラッタ抑圧手段が空間平滑化手段により平滑化されたドップラー速度の信号成分を抑圧するフィルタを設定し、そのフィルタを用いて、送受信手段の受信信号に含まれている不要信号成分を抑圧するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、ドップラー速度算出手段により算出されたドップラー速度の中で不連続に変化する点があれば、不連続に変化する点でドップラー速度の折返し補正を実施する速度折返し補正手段と、ドップラー速度を空間方向に平滑化する空間平滑化手段とを設け、クラッタ抑圧手段が空間平滑化手段により平滑化されたドップラー速度の信号成分を抑圧するフィルタを設定し、そのフィルタを用いて、送受信手段の受信信号に含まれている不要信号成分を抑圧するように構成したので、気象エコーのドップラー速度に折返しが発生しても、気象クラッタを十分に抑圧して、正確に目標を検出することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるレーダ装置を示す構成図であり、図において、局部発振器1は局部発振信号である基準周波数信号を生成する。
信号送信部2は局部発振器1により生成された基準周波数信号を用いて、空間に放射するパルス信号を生成する処理を実施する。
信号送信部2の送信種信号発生部3は送信種信号を発生する処理を実施する。
信号送信部2の周波数変換部4は局部発振器1により生成された基準周波数信号を用いて、送信種信号発生部3により発生された送信種信号の周波数を変換することによりパルス信号を生成する。
信号送信部2の増幅部5は周波数変換部4により生成されたパルス信号を増幅する処理を実施する。
【0011】
送受切替部6は信号送信部2により生成されたパルス信号を空中線部7に出力する一方、空中線部7により受信された反射波を信号受信部8に出力する処理を実施する。
空中線部7は送受切替部6から出力されたパルス信号を空間に放射するとともに、空間中に存在する物体に反射されたパルス信号の反射波を受信する処理を実施する。
信号受信部8は局部発振器1により生成された基準周波数信号を用いて、送受切替部6から出力された反射波に対する周波数変換などの受信処理を実施し、受信処理後の信号を受信信号としてクラッタ抑圧部9に出力する。
なお、局部発振器1、信号送信部2、送受切替部6、空中線部7及び信号受信部8から送受信手段が構成されている。
【0012】
クラッタ抑圧部9は信号受信部8から出力された受信信号に含まれている不要信号成分であるクラッタ成分を抑圧する処理を実施する。
目標検出部10はクラッタ抑圧部9によりクラッタ成分が抑圧された受信信号から目標を検出する処理を実施する。なお、目標検出部10は目標検出手段を構成している。
【0013】
図2はこの発明の実施の形態1によるレーダ装置のクラッタ抑圧部9を示す構成図であり、図において、ドップラー速度算出部11は信号受信部8から出力された受信信号から気象エコーのドップラー速度を算出する処理を実施する。なお、ドップラー速度算出部11はドップラー速度算出手段を構成している。
速度折返し補正処理部12はドップラー速度算出部11により算出されたドップラー速度の中で不連続に変化する点があれば、不連続に変化する点でドップラー速度の折返し補正を実施する。なお、速度折返し補正処理部12は速度折返し補正手段を構成している。
【0014】
分布エコー抽出部13は速度折返し補正処理部12による折返し補正後のドップラー速度の中から、空間的に広がりを有している分布が気象エコー成分の分布であるとして、気象エコー成分のドップラー速度を抽出する処理を実施する。
ドップラー速度空間平滑処理部14は分布エコー抽出部13により抽出された気象エコー成分のドップラー速度を空間方向に平滑化する処理を実施する。
なお、分布エコー抽出部13及びドップラー速度空間平滑処理部14から空間平滑化手段が構成されている。
【0015】
フィルタ設定部15はドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化された気象エコー成分のドップラー速度の信号成分を抑圧する帯域制限フィルタを設定する処理を実施する。
クラッタ抑圧フィルタ処理部16はフィルタ設定部15により設定された帯域制限フィルタを用いて、信号受信部8から出力された受信信号に含まれている不要信号成分を抑圧する処理を実施する。
なお、フィルタ設定部15及びクラッタ抑圧フィルタ処理部16からクラッタ抑圧手段が構成されている。
【0016】
次に動作について説明する。
信号送信部2は、局部発振器1が局部発振信号である基準周波数信号を生成すると、その基準周波数信号を用いて、空間に放射するパルス信号を生成する。
送受切替部6は、信号送信部2がパルス信号を生成すると、そのパルス信号を空中線部7に出力する。
空中線部7は、送受切替部6からパルス信号を受けると、そのパルス信号を大気中に放射する。
大気中に放射されたパルス信号は、大気中に存在する物体に反射されて、そのパルス信号の反射波が空中線部7に受信される。
【0017】
送受切替部6は、空中線部7がパルス信号の反射波を受信すると、その反射波を信号受信部8に出力する。
信号受信部8は、送受切替部6からパルス信号の反射波を受けると、その反射波を増幅する。
また、信号受信部8は、後段のクラッタ抑圧部9等の信号処理を容易にするため、増幅後の反射波と局部発振器1により生成された基準周波数信号を混合することにより、反射波の周波数を低周波に変換し、周波数変換後の反射波の信号を受信信号としてクラッタ抑圧部9に出力する。
【0018】
クラッタ抑圧部9は、信号受信部8から受信信号を受けると、その受信信号に含まれている不要信号成分であるクラッタ成分を抑圧する処理を実施する。
具体的には、以下のクラッタ抑圧処理を実施する。
クラッタ抑圧部9のドップラー速度算出部11は、信号受信部8から受信信号を受けると、その受信信号から気象エコーのドップラー速度を算出する。
ドップラー速度の算出については、従来から気象レーダで知られている算出方法を用いればよい。
【0019】
例えば、i番目の距離,kヒット目の受信信号をs(i,k)として、パルスペア法を用いる場合、i番目の距離のドップラー速度v(i)は、次の式(1)で算出される。
【数1】

式(1)において、argは複素数値の位相角、λはパルス信号の送信波長、Tsはパルス信号のパルス間隔、Kは気象エコー処理に用いるヒット数である。また、*は複素共役を表している。
ただし、気象エコーはランダムな特性を持つため、Kは十分多く取る必要がある。即ち、十分な数の独立サンプルを用いてドップラー速度v(i)を算出する必要がある。
そこで、複数回のビーム走査で得られる受信信号を集めることにより、Kの値を大きくするのが適当である。
【0020】
クラッタ抑圧部9の速度折返し補正処理部12は、ドップラー速度算出部11により算出されたドップラー速度v(i)に折返しが生じている可能性があるので、下記に示すように、ドップラー速度v(i)に折返しが生じていれば、ドップラー速度v(i)の折返し補正を実施する。
気象エコーのドップラー速度は風の視線方向成分である。一般に風は空間的に連続的に変化する特性を持つことが知られている。
一方、ドップラー速度が折返す場合、折返しの前後の距離において、ドップラー速度の算出値が不連続に変化する。
そこで、速度折返し補正処理部12は、ドップラー速度v(i)が不連続に変化する点において、ドップラー速度v(i)の折返し補正を実施する。
【0021】
ここで、図3はドップラー速度の折返しを補正する方法を示す説明図である。
図3では、折返しなく計測できるドップラー速度v(i)の範囲が、ドップラー速度計測範囲の下限値Vminから上限値Vmaxの間であることを想定している。
ドップラー速度計測範囲の下限値Vminと上限値Vmaxの間隔Vmax−Vminは、パルス信号のパルス間隔Tsを用いて次の式(2)で表される。
【数2】

【0022】
図3では、折返し補正なしで算出されたドップラー速度v(i)が黒丸で表されており、左から5番目の距離のドップラー速度と、6番目の距離のドップラー速度の間で、ドップラー速度が不連続に変化している。
この前後でドップラー速度v(i)が折返していると仮定すると、6番目の距離のドップラー速度v(i)より遠距離側(図中、右側)のドップラー速度にλ/2Tsを加算すれば、ドップラー速度の折返しが補正された正しいドップラー速度v(i)が得られることになる。
図3では、折返し補正後のドップラー速度が白丸で表されており、折返し補正の前後のドップラー速度v(i)を比較すると、折返し補正により、ドップラー速度の距離方向の不連続性が解消されていることが分かる。
【0023】
実際には、λ/2Tsより十分小さな値をしきい値ΔVとして設定し、隣接する2点の距離におけるドップラー速度において、一方のドップラー速度がVmax−ΔVより大きく、かつ、他方のドップラー速度がVmin+ΔVより小さい場合、これら2点の距離の間で折返しが発生していると判断するようにすればよい。
折返しが発生していると判断する場合、2点のうちのどちらが折返しているドップラー速度で、どちらが折返していないドップラー速度であるかを決める必要がある。
例えば、地上設置のレーダ装置の場合、地上に近いレンジビン(仰角が正であれば、近距離レンジビン)でドップラー速度の折返しがないと判断する方法がある。これは、一般に低高度程、風速が小さく、上空へ行く程、風速が大きくなる傾向があるためである。
以上のような折返し補正を近距離から遠距離へと順次進めていけば、複数の折返しが生じる場合にも、正しく折返し補正を行うことが可能となる。
【0024】
なお、折返し補正を行う目的が空間平滑化を正しく行うことにあるとすれば、空間平均に用いるデータ同士で整合が取れていればよく、ドップラー速度の折返しが不連続の前後のどちらであるかを正しく選択しなくてもよい。
例えば、図3と同じ観測データに対して、図4に示すようなドップラー速度の折返しが行われた場合、ドップラー速度の折返し距離を含む範囲で距離平均を行うと、ドップラー速度が折返していることを除いて、平均処理を正しく行うことができる。
このように、ドップラー速度の折返し補正を下限値Vmin近傍へと行うか、上限値Vmax近傍へと行うかは、空間平均処理の平均区間内で統一が取れていれば、よいことになる。
【0025】
クラッタ抑圧部9の分布エコー抽出部13は、速度折返し補正処理部12がドップラー速度v(i)の折返し補正を実施すると、折返し補正後のドップラー速度の中から、空間的に広がりを有している分布が気象エコー成分の分布であるとして、気象エコー成分のドップラー速度を抽出する。
即ち、ドップラー速度算出部11により算出されたドップラー速度v(i)には、航空機などの目標となる反射物のドップラー速度も含まれており、目標のドップラー速度成分を含むデータが残留していると、目標信号成分を抑圧するような帯域制限フィルタ(クラッタ抑圧フィルタ)が後段のフィルタ設定部15で設定されてしまう可能性があるので、分布エコー抽出部13がドップラー速度算出部11により算出されたドップラー速度v(i)の中から、目標のドップラー速度を除去する処理を行う。
【0026】
一般に目標からのエコーは空間的にほぼ1点に局在する。一方、気象エコーは空間的に広がりを持って分布する。
また、そのドップラー速度は風の視線方向成分であることから、ドップラー速度の空間変化は連続的なものとなる。
以上から、ドップラー速度の空間分布を見て、空間的に滑らかに変化しているものは気象エコーと判断し、不連続に局在するドップラー速度があれば、目標信号成分が含まれると判断することができる。
例えば、距離方向又は角度方向にメディアンフィルタ処理を行えば、気象エコー成分のみを取り出すことができる。
【0027】
クラッタ抑圧部9のドップラー速度空間平滑処理部14は、分布エコー抽出部13が気象エコー成分のドップラー速度を抽出すると、その気象エコー成分のドップラー速度を空間方向に平滑化する処理を実施する。
空間平滑の方法としては、例えば、距離方向又は角度方向の移動平均処理を行うことが考えられる。あるいは、ある角度範囲及び距離範囲のドップラー速度を抽出し、近似曲面を最小二乗法で当てはめることにより、空間平滑値を得る方法がある。
抽出領域の面積が狭い場合には、抽出領域内でのドップラー速度の変化が小さいと見なすことができるため、近似曲面でなく、近似平面を当てはめるようにしてもよい。
【0028】
クラッタ抑圧部9のフィルタ設定部15は、ドップラー速度空間平滑処理部14が気象エコー成分のドップラー速度を空間方向に平滑化すると、平滑化された気象エコー成分のドップラー速度の信号成分を抑圧する帯域制限フィルタ(クラッタ抑圧フィルタ)を設定する。
即ち、ドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化された気象エコー成分のドップラー速度に減衰特性を持つような帯域制限フィルタの係数を設定する。1つのレンジビンに複数の気象エコードップラー速度値が得られている場合には、複数の減衰域を持つクラッタ抑圧フィルタを設定する。
【0029】
クラッタ抑圧部9のクラッタ抑圧フィルタ処理部16は、フィルタ設定部15が帯域制限フィルタを設定すると、その帯域制限フィルタを用いて、信号受信部8から出力された受信信号に含まれている不要信号成分を抑圧する処理を実施する。
これにより、信号受信部8から出力された受信信号に含まれている気象クラッタ成分が抑圧されるため、後段の目標検出部10における目標の検出性能が向上する。
【0030】
目標検出部10は、上記のようにして、クラッタ抑圧部9が受信信号に含まれているクラッタ成分を抑圧すると、抑圧後の受信信号から目標を検出する処理を実施する。
例えば、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理などの公知の手法を実施することにより、受信信号から目標を検出する。
【0031】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、ドップラー速度算出部11により算出されたドップラー速度の中で不連続に変化する点があれば、不連続に変化する点でドップラー速度の折返し補正を実施する速度折返し補正処理部12と、ドップラー速度を空間方向に平滑化するドップラー速度空間平滑処理部14とを設け、フィルタ設定部15がドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化されたドップラー速度の信号成分を抑圧する帯域制限フィルタを設定し、クラッタ抑圧フィルタ処理部16がフィルタ設定部15により設定された帯域制限フィルタを用いて、信号受信部8から出力された受信信号に含まれている不要信号成分を抑圧するように構成したので、気象エコーのドップラー速度に折返しが発生しても、気象クラッタを十分に抑圧して、正確に目標を検出することができる効果を奏する。
【0032】
即ち、この実施の形態1によれば、気象エコーのドップラー速度が折返すような場合でも、ドップラー速度の折返し処理を気象エコーに対して行うことにより、気象エコーの空間平滑化を行う際に、折返しのあるドップラー速度と折返しのないドップラー速度を区別せずに平滑化を行うことがなくなる。したがって、空間平滑化を正確に実行することができるため、フィルタ設定部15により設定される帯域制限フィルタの抑圧域の中心周波数の推定精度が向上し、クラッタの消え残りを低減することができる効果を奏する。
【0033】
実施の形態2.
図5はこの発明の実施の形態2によるレーダ装置のクラッタ抑圧部9を示す構成図であり、図において、図2と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
速度折返し補正処理部17は図2の速度折返し補正処理部12と同様にドップラー速度の折返し補正を実施するが、速度折返し補正処理部17では、空中線部7から空間に放射されるパルス信号のパルス間隔が信号送信部2により適宜変更される場合には、ドップラー速度算出部11により算出される複数のドップラー速度を組み合わせて、補正後のドップラー速度を算出するようにしている点で、図2の速度折返し補正処理部12と相違している。なお、速度折返し補正処理部17は速度折返し補正手段を構成している。
速度再折返し処理部18は空中線部7から空間に放射されるパルス信号のパルス間隔が信号送信部2により適宜変更される場合、パルス信号のパルス間隔に応じてドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化されたドップラー速度の再折返しを実施する。なお、速度再折返し処理部18は速度再折返し手段を構成している。
【0034】
次に動作について説明する。
上記実施の形態1では、空中線部7から空間に放射されるパルス信号のパルス間隔が一定であるレーダ装置について示したが、この実施の形態2では、空中線部7から空間に放射されるパルス信号のパルス間隔を適宜変更するレーダ装置について説明する。
図6は空中線部7から空間に放射されるパルス信号のパルス間隔とドップラー速度の折返し補正を示す説明図である。
図6では、空間に放射されるパルス信号のパルス繰返し周波数として、PRF1とPRF2を交互に繰り返す例を示している。
また、図6では、パルス繰返し周波数PRF1の区間とパルス繰返し周波数PRF2の区間では、対象とする観測方向が別の角度である例を示している。
【0035】
この実施の形態2では、パルス繰返し周波数PRF1の観測でドップラー速度に折返しが生じている場合、または、パルス繰返し周波数PRF1,PRF2の両方の観測でドップラー速度に折返しが生じている場合を考える。
クラッタ抑圧部9のドップラー速度算出部11は、信号受信部8から受信信号を受けると、上記実施の形態1と同様にして、その受信信号から気象エコーのドップラー速度を算出する。
図6の例では、パルス繰返し周波数PRF1の区間で観測された受信信号からドップラー速度1を算出し、パルス繰返し周波数PRF2の区間で観測された受信信号からドップラー速度2を算出する。
【0036】
クラッタ抑圧部9の速度折返し補正処理部17は、ドップラー速度算出部11がパルス繰返し周波数PRF1の区間のドップラー速度1と、パルス繰返し周波数PRF2の区間のドップラー速度2とを算出すると、そのドップラー速度1とドップラー速度2を組み合わせて、補正後のドップラー速度を算出する。
即ち、折返し後のドップラー速度は、パルス繰返し周波数によって異なり、折返し補正前のドップラー速度1とドップラー速度2を組み合わせると、折返し補正後のドップラー速度を算出することができることが広く知られているので、例えば、上記の非特許文献1に開示されている手法を用いて、ドップラー速度1とドップラー速度2を組み合わせて、補正後のドップラー速度を算出する。
【0037】
クラッタ抑圧部9の分布エコー抽出部13は、速度折返し補正処理部17がドップラー速度の折返し補正を実施すると、上記実施の形態1と同様にして、折返し補正後のドップラー速度の中から、空間的に広がりを有している分布が気象エコー成分の分布であるとして、気象エコー成分のドップラー速度を抽出する。
クラッタ抑圧部9のドップラー速度空間平滑処理部14は、分布エコー抽出部13が気象エコー成分のドップラー速度を抽出すると、上記実施の形態1と同様にして、その気象エコー成分のドップラー速度を空間方向に平滑化する処理を実施する。
【0038】
クラッタ抑圧部9の速度再折返し処理部18は、ドップラー速度空間平滑処理部14が気象エコー成分のドップラー速度を空間方向に平滑化すると、パルス信号のパルス間隔に応じてドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化されたドップラー速度の再折返しを実施する。
即ち、信号受信部8からクラッタ抑圧フィルタ処理部16に出力される受信信号は、ドップラー速度が折返している状態であるが、パルス繰返し周波数PRF1の区間とパルス繰返し周波数PRF2の区間では、ドップラー速度の折返し方が相違している。
ドップラー速度空間平滑処理部14によるドップラー速度の空間平滑化処理は、パルス繰返し周波数PRF1の観測で得られた気象エコーと、パルス繰返し周波数PRF2の観測で得られた気象エコーを合わせたものに対して行われるが、クラッタ抑圧フィルタ処理部16におけるクラッタの抑圧処理はパルス繰返し周波数PRF毎に行われるため、各パルス繰返し周波数PRFに応じた速度再折返し処理が必要となる。
そこで、速度再折返し処理部18は、クラッタ抑圧フィルタ処理部16の処理対象である受信信号のパルス繰返し周波数PRFに応じて、ドップラー速度の再折返しを実施する。
【0039】
具体的には、速度再折返し処理部18は、クラッタ抑圧フィルタ処理部16がパルス繰返し周波数PRF1の受信信号を処理しているときは、ドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化されたドップラー速度に対して、パルス繰返し周波数PRF1に対応する再折返し処理を実施する。
一方、クラッタ抑圧フィルタ処理部16がパルス繰返し周波数PRF2の受信信号を処理しているときは、ドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化されたドップラー速度に対して、パルス繰返し周波数PRF2に対応する再折返し処理を実施する。
【0040】
クラッタ抑圧部9のフィルタ設定部15は、速度再折返し処理部18がドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化されたドップラー速度の再折返しを実施すると、上記実施の形態1と同様にして、そのドップラー速度の信号成分を抑圧する帯域制限フィルタを設定する。
クラッタ抑圧部9のクラッタ抑圧フィルタ処理部16は、フィルタ設定部15が帯域制限フィルタを設定すると、上記実施の形態1と同様に、その帯域制限フィルタを用いて、信号受信部8から出力された受信信号に含まれている不要信号成分を抑圧する処理を実施する。
目標検出部10は、クラッタ抑圧部9が受信信号に含まれているクラッタ成分を抑圧すると、上記実施の形態1と同様にして、抑圧後の受信信号から目標を検出する処理を実施する。
【0041】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、空中線部7から空間に放射されるパルス信号のパルス間隔が信号送信部2により適宜変更される場合には、ドップラー速度算出部11により算出される複数のドップラー速度を組み合わせて、補正後のドップラー速度を算出するように構成したので、空中線部7から空間に放射されるパルス信号のパルス間隔が信号送信部2により適宜変更される場合でも、正確にドップラー速度の折返し補正を行うことができる効果を奏する。
【0042】
また、この実施の形態2によれば、空中線部7から空間に放射されるパルス信号のパルス間隔が信号送信部2により適宜変更される場合、パルス信号のパルス間隔に応じてドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化されたドップラー速度の再折返しを実施するように構成したので、フィルタ設定部15により設定される帯域制限フィルタの抑圧域の中心周波数の推定精度が向上し、クラッタの消え残りを低減することができる効果を奏する。
【0043】
実施の形態3.
図7はこの発明の実施の形態3によるレーダ装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
符号発生部21はランダム又は擬似ランダムな位相変調符号を発生する処理を実施する。
信号送信部2の位相変調部22は符号発生部21により発生された位相変調符号にしたがって、送信種信号発生部3から出力された送信種信号である連続波信号に位相変調を施す処理を実施する。
【0044】
図8はこの発明の実施の形態3によるレーダ装置のクラッタ抑圧部9を示す構成図であり、図において、図2と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
距離折返し補正処理部31は距離の折返し回数に応じて、信号受信部8から出力された受信信号に対する距離の折返し補正を実施する。なお、距離折返し補正処理部31は距離折返し補正手段を構成している。
距離再折返し処理部32は空中線部7から放射されるパルス信号のパルス間隔に応じて、ドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化されたドップラー速度に対する距離の再折返しを実施する。なお、距離再折返し処理部32は距離再折返し手段を構成している。
【0045】
次に動作について説明する。
上記実施の形態1,2では、気象エコーのドップラー速度の折返し補正を実施するものについて示したが、この実施の形態3では、気象エコーの距離の折返し補正を実施するものについて説明する。
信号送信部2の符号発生部21は、ランダム又は擬似ランダムな位相変調符号を発生する。
位相変調符号の簡単な符号例としては、“0”又は“1”で表現される2値の符号系列がある。
【0046】
信号送信部2の位相変調部22は、符号発生部21が位相変調符号を発生すると、その位相変調符号にしたがって、送信種信号発生部3から出力された送信種信号である連続波信号に位相変調を施す処理を実施する。
例えば、符号発生部21から発生された位相変調符号が“0”又は“1”で表現される2値の符号系列である場合、符号値が“0”であれば変調位相量が0度、符号値が“1”であれば変調位相量が180度となるような位相変調を施すようにする。
あるいは、符号系列が“0”、“1”、“2”、“3”で表現される4値の符号系列である場合、符号値が“0”であれば変調位相量が0度、符号値が“1”であれば変調位相量が90度、符号値が“3”であれば変調位相量が180度、符号値が“4”であれば変調位相量が270度となるような位相変調を施すようにする。
【0047】
信号送信部2の周波数変換部4は、位相変調部22が送信種信号である連続波信号に位相変調を施すと、局部発振器1により生成された基準周波数信号を用いて、位相変調後の信号の周波数を変換することによりパルス信号を生成する。
このパルス信号のパルス幅は距離分解能によって設定される。具体的には、距離分解能をΔrとすると、パルス幅(時間幅)Δtは下記のように設定される。
Δt=2Δr/c
ただし、cは光速である。
【0048】
信号送信部2の増幅部5は、周波数変換部4がパルス信号を生成すると、そのパルス信号を増幅する。
送受切替部6は、信号送信部2がパルス信号を生成すると、そのパルス信号を空中線部7に出力する。
空中線部7は、送受切替部6からパルス信号を受けると、そのパルス信号を大気中に放射する。
大気中に放射されたパルス信号は、大気中に存在する物体に反射されて、そのパルス信号の反射波が空中線部7に受信される。
【0049】
送受切替部6は、空中線部7がパルス信号の反射波を受信すると、その反射波を信号受信部8に出力する。
信号受信部8は、送受切替部6からパルス信号の反射波を受けると、その反射波を増幅する。
また、信号受信部8は、後段のクラッタ抑圧部9等の信号処理を容易にするため、増幅後の反射波と局部発振器1により生成された基準周波数信号を混合することにより、反射波の周波数を低周波に変換し、周波数変換後の反射波の信号を受信信号としてクラッタ抑圧部9に出力する。
【0050】
クラッタ抑圧部9は、信号受信部8から受信信号を受けると、その受信信号に含まれている不要信号成分であるクラッタ成分を抑圧する処理を実施する。
具体的には、以下のクラッタ抑圧処理を実施する。
クラッタ抑圧部9の距離折返し補正処理部31は、信号受信部8から受信信号を受け、符号発生部21から位相変調符号を受けると、その位相変調符号を用いて、その受信信号に対する距離の折返し補正を実施する。
即ち、距離折返し補正処理部31は、信号受信部8から受信信号を受けると、距離の折返し回数に応じて、その受信信号に対する位相復調を実施して、距離の折返し回数毎に受信信号の成分を分離する処理を実施する。ここで位相復調とは、位相変調部22における位相変調時に回転させたのと大きさが同じ位相量で、逆に位相回転させることにより、位相変調を行わなかった場合の位相へと位相補正することを意味する。
【0051】
図9は距離の折返しが生じている状況を示す説明図である。
例えば、距離折返し補正処理部31が直前のパルス信号の位相変調に用いた符号値を用いて、距離折返しのない反射波(1次エコー)に対して位相復調を行うと、1次エコーの正しい復調処理が行われることになる。
また、直前の1つ前のパルス信号の位相変調に用いた符号値を用いて、1回距離が折り返された反射波(2次エコー)に対して位相復調を行うと、2次エコーの正しい復調処理が行われることになる。
同様にして、直前のN前のパルス信号の位相変調に用いた符号値を用いて、N回距離が折り返された反射波(N次エコー)に対して位相復調を行うと、N次エコーの正しい復調処理が行われることになる。
ただし、この実施の形態3では、説明の簡単化のため、1次エコーと2次エコーの処理のみを行うものとして、以降の説明を進める。
【0052】
クラッタ抑圧部9のドップラー速度算出部11は、距離折返し補正処理部31から1次エコーに対する位相復調処理後の受信信号と、2次エコーに対する位相復調処理後の受信信号とを受けると、各受信信号から気象エコーのドップラー速度をそれぞれ算出する。
ドップラー速度の算出については、従来から気象レーダで知られている算出方法を用いればよい。
【0053】
例えば、i番目の距離,kヒット目の受信信号をs(i,k)として、パルスペア法を用いる場合、i番目の距離のドップラー速度v(i)は、次の式(3)で算出される。
【数3】

式(1)において、argは複素数値の位相角、λはパルス信号の送信波長、Tsはパルス信号のパルス間隔、Kは気象エコー処理に用いるヒット数である。また、*は複素共役を表している。
ただし、気象エコーはランダムな特性を持つため、Kは十分多く取る必要がある。即ち、十分な数の独立サンプルを用いてドップラー速度v(i)を算出する必要がある。
そこで、複数回のビーム走査で得られる受信信号を集めることにより、Kの値を大きくするのが適当である。
【0054】
クラッタ抑圧部9の分布エコー抽出部13は、ドップラー速度算出部11がドップラー速度v(i)を算出すると、そのドップラー速度v(i)の中から、空間的に広がりを有している分布が気象エコー成分の分布であるとして、気象エコー成分のドップラー速度を抽出する。
即ち、ドップラー速度算出部11により算出されたドップラー速度v(i)には、航空機などの目標となる反射物のドップラー速度も含まれており、目標のドップラー速度成分を含むデータが残留していると、目標信号成分を抑圧するような帯域制限フィルタ(クラッタ抑圧フィルタ)が後段のフィルタ設定部15で設定されてしまう可能性があるので、分布エコー抽出部13がドップラー速度算出部11により算出されたドップラー速度v(i)の中から、目標のドップラー速度を除去する処理を行う。
【0055】
一般に目標からのエコーは空間的にほぼ1点に局在する。一方、気象エコーは空間的に広がりを持って分布する。
また、そのドップラー速度は風の視線方向成分であることから、ドップラー速度の空間変化は連続的なものとなる。
以上から、ドップラー速度の空間分布を見て、空間的に滑らかに変化しているものは気象エコーと判断し、不連続に局在するドップラー速度があれば、目標信号成分が含まれると判断することができる。
例えば、距離方向又は角度方向にメディアンフィルタ処理を行えば、気象エコー成分のみを取り出すことができる。
【0056】
クラッタ抑圧部9のドップラー速度空間平滑処理部14は、分布エコー抽出部13が気象エコー成分のドップラー速度を抽出すると、その気象エコー成分のドップラー速度を空間方向に平滑化する処理を実施する。
空間平滑の方法としては、例えば、距離方向又は角度方向の移動平均処理を行うことが考えられる。あるいは、ある角度範囲及び距離範囲のドップラー速度を抽出し、近似曲面を最小二乗法で当てはめることにより、空間平滑値を得る方法がある。
抽出領域の面積が狭い場合には、抽出領域内でのドップラー速度の変化が小さいと見なすことができるため、近似曲面でなく、近似平面を当てはめるようにしてもよい。
【0057】
クラッタ抑圧部9の距離再折返し処理部32は、ドップラー速度空間平滑処理部14が気象エコー成分のドップラー速度を空間方向に平滑化すると、空中線部7から放射されるパルス信号のパルス間隔に応じて、ドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化されたドップラー速度に対する距離の再折返しを実施する。
即ち、ドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化されたドップラー速度は、複数のビーム走査に亘って得られたデータを用いて得られるのに対して、クラッタ抑圧フィルタ処理部16におけるクラッタ抑圧処理は、単一のビーム走査内で行う必要がある。
ビーム走査毎に、パルス繰返し周期が異なる場合、距離の折返し方がビーム走査毎に異なる。
そこで、距離再折返し処理部32は、ビーム走査毎に距離の再折返し処理を実施する。
これにより、各ビーム走査において、レンジビン毎に気象エコーのドップラー速度が得られる。距離の折返し処理により、1次エコー領域と2次エコー領域が重なる場合には、1つのレンジビンに複数のドップラー速度の値が存在するようになる。
【0058】
クラッタ抑圧部9のフィルタ設定部15は、距離再折返し処理部32がドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化されたドップラー速度に対する距離の再折返しを実施すると、上記実施の形態1と同様にして、距離の再折返し後のドップラー速度の信号成分を抑圧する帯域制限フィルタを設定する。
クラッタ抑圧部9のクラッタ抑圧フィルタ処理部16は、フィルタ設定部15が帯域制限フィルタを設定すると、上記実施の形態1と同様に、その帯域制限フィルタを用いて、信号受信部8から出力された受信信号に含まれている不要信号成分を抑圧する処理を実施する。
目標検出部10は、クラッタ抑圧部9が受信信号に含まれているクラッタ成分を抑圧すると、上記実施の形態1と同様にして、抑圧後の受信信号から目標を検出する処理を実施する。
【0059】
以上で明らかなように、この実施の形態3によれば、距離折返し補正処理部31が距離の折返し回数に応じて、信号受信部8から出力された受信信号に対する距離の折返し補正を実施するように構成しているので、気象エコーの距離に折返しが発生しても、気象クラッタを十分に抑圧して、正確に目標を検出することができる効果を奏する。
また、この実施の形態3によれば、距離再折返し処理部32が空中線部7から放射されるパルス信号のパルス間隔に応じて、ドップラー速度空間平滑処理部14により平滑化されたドップラー速度に対する距離の再折返しを実施するように構成したので、フィルタ設定部15により設定される帯域制限フィルタの抑圧域の中心周波数の推定精度が向上し、クラッタの消え残りを低減することができる効果を奏する。
【0060】
実施の形態4.
図10はこの発明の実施の形態4によるレーダ装置を示す構成図であり、図において、図7と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
距離折返し補正処理部33は空中線部7から空中に放射されるパルス信号のパルス間隔を用いて、信号受信部8から出力された受信信号に対する距離の折返し補正を実施する。
この場合、距離折返し補正処理部33は、符号発生部21から発生される位相変調符号は不要である。
なお、距離折返し補正処理部33は距離折返し補正手段を構成している。
【0061】
次に動作について説明する。
上記実施の形態3では、距離折返し補正処理部31が距離の折返し回数に応じて、信号受信部8から出力された受信信号に対する距離の折返し補正を実施するものについて示したが、空中線部7から放射されるパルス信号のパルス間隔が適宜変更される場合、複数のパルス信号のパルス間隔を用いて、信号受信部8から出力された受信信号に対する距離の折返し補正を実施するようにしてもよい。
【0062】
この実施の形態4では、信号送信部2により生成されるパルス信号のパルス間隔がT1とT2であるものとする。
また、パルス信号のパルス間隔T1,T2の大小関係がT1<T2であり、パルス間隔T2は、距離の折返しが生じない程、十分に大きいと仮定し、パルス間隔T1は、距離の折返しが生じる可能性があるが、ドップラー速度の折返しが生じない程度に十分狭い間隔であると仮定する。
また、パルス間隔T1における折返し距離がRaであり、距離の真値がRtであるとすると、折返し補正前の距離の計測値がRt−Raとなる。
【0063】
この場合、パルス間隔T2では、距離の折返しが生じないので、気象エコーの距離を正確に計測することができる。
このパルス間隔T2で得られた気象エコーの距離分布に対して、パルス間隔T1を仮定した距離の折返し処理を擬似的に実施する。ここでは、このデータをパルス間隔模擬データと称する。
実際に、パルス間隔T2の観測で得られたデータと、パルス間隔模擬データを比較すれば、パルス間隔T1の観測で得られたデータを、距離の折返しなく観測されたデータ、距離の折返しが生じて観測されたデータ、あるいは、両者が混合しているデータの3通りに分類することができる。
【0064】
距離の折返しなく観測された信号と分類されたパルス間隔T1の信号については、特に距離の折返し補正を行わない。即ち、ドップラー速度算出部11により算出されたドップラー速度は、距離の折返しが生じていない信号に対するものであるとする。
距離の折返しが生じた信号と分類されたパルス間隔T1の信号については、距離の折返し補正を行う。即ち、パルス間隔T1で観測された見かけの距離に折返し距離Raを加算した値を、折返し補正後の距離として出力する。ドップラー速度算出部11により算出されたドップラー速度は、折返し補正後の距離の気象エコーに対するものとなる。
【0065】
距離の折返しのない気象エコーと距離の折返しが生じた気象エコーが混合していると分類された気象エコーについては、次のような処理を行う。
2つの距離から到来した気象エコーが含まれることから、2つのドップラー速度を持つ受信信号が混在している。
そこで、ドップラー速度算出部11におけるドップラー速度の算出処理において、複数のドップラー速度を得るようにする。
例えば、受信信号にフーリエ変換を施すことにより、ドップラースペクトルを算出すると、複数のドップラー速度に対応するスペクトルピークが得られることになる。これら2つのスペクトルピークを検出し、それぞれのドップラー周波数からドップラー速度を算出する。
【0066】
2つのドップラー速度は、いずれか一方が距離の折返しなく観測されたものであり、他方が距離の折返しが生じて観測されたものである。
しかし、いずれのドップラー速度が距離の折返しのないドップラー速度で、いずれのドップラー速度が距離の折返しがあるドップラー速度であるのかを対応付けることができない。
そこで、フィルタ設定部15における帯域制限フィルタの設定において、距離の折返しがないとした場合の距離と、距離の折り返しがあるとした場合の距離の両方で、両ドップラー速度の信号を抑圧するフィルタ特性を持たせるようにする。即ち、2つの抑圧周故数を持つフィルタを設定する。
複数の周波数を抑圧するため、クラッタ抑圧フィルタ処理部16のクラッタ抑圧処理に必要となるヒット数は増加するが、気象クラッタの抑圧を確実に実行することが可能になる。
【0067】
以上のように、パルス間隔の異なる観測を行えば、観測毎に距離の折返しの生じ方が異なるため、距離の折返し補正を行うことが可能になる。特に前述の実施の形態では、一つのパルス間隔が距離の折返しが生じないようなものであるため、この観測データを用いて他のパルス間隔による観測データに距離の折返し補正を行うことができる。
なお、以上の例では、複数のパルス間隔を用いた観測により、距離の折返し補正のみを行うものを示したが、パルス間隔が変わることにより、距離の他に、速度の折り返し方も変わることは、上記実施の形態1でも説明したとおりである。よって、複数のパルス間隔を用いた観測により、距離とドップラー速度の両方の折返し補正を同時に行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】この発明の実施の形態1によるレーダ装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるレーダ装置のクラッタ抑圧部を示す構成図である。
【図3】ドップラー速度の折返しを補正する方法を示す説明図である。
【図4】ドップラー速度の折返しを補正する他の方法を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態2によるレーダ装置のクラッタ抑圧部を示す構成図である。
【図6】空中線部から空間に放射されるパルス信号のパルス間隔とドップラー速度の折返し補正を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態3によるレーダ装置を示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態3によるレーダ装置のクラッタ抑圧部を示す構成図である。
【図9】距離の折返しが生じている状況を示す説明図である。
【図10】この発明の実施の形態4によるレーダ装置のクラッタ抑圧部を示す構成図である。
【符号の説明】
【0069】
1 局部発振器(送受信手段)、2 信号送信部(送受信手段)、3 送信種信号発生部、4 周波数変換部、5 増幅部、6 送受切替部(送受信手段)、7 空中線部(送受信手段)、8 信号受信部(送受信手段)、9 クラッタ抑圧部、10 目標検出部(目標検出手段)、11 ドップラー速度算出部(ドップラー速度算出手段)、12 速度折返し補正処理部(速度折返し補正手段)、13 分布エコー抽出部(空間平滑化手段)、14 ドップラー速度空間平滑処理部(空間平滑化手段)、15 フィルタ設定部(クラッタ抑圧手段)、16 クラッタ抑圧フィルタ処理部(クラッタ抑圧手段)、17 速度折返し補正処理部(速度折返し補正手段)、18 速度再折返し処理部(速度再折返し手段)、21 符号発生部、22 位相変調部、31 距離折返し補正処理部(距離折返し補正手段)、32 距離再折返し処理部(距離再折返し手段)、33 距離折返し補正処理部(距離折返し補正手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス信号を空間に放射して、空間中に存在する物体に反射されたパルス信号の反射波を受信する送受信手段と、上記送受信手段の受信信号から気象エコーのドップラー速度を算出するドップラー速度算出手段と、上記ドップラー速度算出手段により算出されたドップラー速度の中で不連続に変化する点があれば、不連続に変化する点でドップラー速度の折返し補正を実施する速度折返し補正手段と、上記ドップラー速度を空間方向に平滑化する空間平滑化手段と、上記空間平滑化手段により平滑化されたドップラー速度の信号成分を抑圧するフィルタを設定し、上記フィルタを用いて、上記送受信手段の受信信号に含まれている不要信号成分を抑圧するクラッタ抑圧手段と、上記クラッタ抑圧手段により不要信号成分が抑圧された受信信号から目標を検出する目標検出手段とを備えたレーダ装置。
【請求項2】
速度折返し補正手段は、折返し補正後のドップラー速度が所定のドップラー速度範囲の中に入るように、ドップラー速度の折返し補正を実施することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
パルス間隔を変更しながらパルス信号を空間に放射して、空間中に存在する物体に反射されたパルス信号の反射波を受信する送受信手段と、上記送受信手段の受信信号から気象エコーのドップラー速度を算出するドップラー速度算出手段と、上記ドップラー速度算出手段により算出される複数のドップラー速度を組み合わせて、ドップラー速度の折返し補正を実施する速度折返し補正手段と、上記ドップラー速度を空間方向に平滑化する空間平滑化手段と、上記空間平滑化手段により平滑化されたドップラー速度の信号成分を抑圧するフィルタを設定し、上記フィルタを用いて、上記送受信手段の受信信号に含まれている不要信号成分を抑圧するクラッタ抑圧手段と、上記クラッタ抑圧手段により不要信号成分が抑圧された受信信号から目標を検出する目標検出手段とを備えたレーダ装置。
【請求項4】
送受信手段からパルス間隔が変更されながらパルス信号が放射される場合、上記パルス信号のパルス間隔に応じて空間平滑化手段により平滑化されたドップラー速度の再折返しを実施する速度再折返し手段を設けたことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項5】
パルス信号を空間に放射して、空間中に存在する物体に反射されたパルス信号の反射波を受信する送受信手段と、上記送受信手段の受信信号に対する距離の折返し補正を実施する距離折返し補正手段と、上記距離折返し補正手段による折返し補正後の受信信号から気象エコーのドップラー速度を算出するドップラー速度算出手段と、上記ドップラー速度算出手段により算出されたドップラー速度を空間方向に平滑化する空間平滑化手段と、上記送受信手段から放射されるパルス信号のパルス間隔に応じて、上記空間平滑化手段により平滑化されたドップラー速度に対する距離の再折返しを行う距離再折返し手段と、上記距離再折返し手段による再折返し後のドップラー速度の信号成分を抑圧するフィルタを設定し、上記フィルタを用いて、上記送受信手段の受信信号に含まれている不要信号成分を抑圧するクラッタ抑圧手段と、上記クラッタ抑圧手段により不要信号成分が抑圧された受信信号から目標を検出する目標検出手段とを備えたレーダ装置。
【請求項6】
距離折返し補正手段は、送受信手段からランダム又は擬似ランダム状に位相変調されているパルス信号が放射される場合、距離の折返し回数に応じて受信信号に対する位相復調を実施して、距離の折返し回数毎に受信信号の成分を分離することを特徴とする請求項5記載のレーダ装置。
【請求項7】
距離折返し補正手段は、送受信手段からパルス間隔が変更されながらパルス信号が放射される場合、複数のパルス信号のパルス間隔を用いて、送受信手段の受信信号に対する距離の折返し補正を実施することを特徴とする請求項5記載のレーダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−322331(P2007−322331A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154933(P2006−154933)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】