説明

レーダ装置

【課題】所定の距離範囲の測定を短時間で処理可能なレーダ装置を提供する。
レーダ装置を提供する。
【解決手段】受信部120には、信号源として相関パルス発生源121とクロック発生源128を備えている。相関パルス発生源121で生成される相関パルス列は、パルス発生源111で生成されるパルスのパルス幅と等しいパルス幅の相関パルスを、A/Dコンバータ130でサンプリングを行うサンプリング周期Tsで複数個(L個)連続的に発生させる。また、クロック発生源128から出力されるクロック信号列は、上記の相関パルス列と同期しており、相関パルス列と同じサンプリング周期Tsでクロック信号をL個連続的に発生させる。このような構成とすることで、送信信号を1つ送出する度に、L個の異なる距離情報を取得できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス信号を用いて前方の物体の距離情報を検出するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、相関器を用いたパルスレーダとして、特許文献1に開示されているものが知られている。特許文献1に記載のパルスレーダを図15に示す。同図に示すパルスレーダ900では、パルス源901で生成されたパルスが、送信ゲート902を通過してパルス変調部903aに入力される。また、マイクロ波源904で生成されたマイクロ波またはミリ波が、電力分配器916aによって分配され、搬送波としてパルス変調部903aに入力される。パルス変調部903aでは、送信ゲート902から入力されたパルスがマイクロ波源904から入力された搬送波でアップコンバートされ、送信アンテナ905から空間に送出される。
【0003】
送信アンテナ905から送出された送信パルスは、距離Rだけ離れた位置にある物体で反射され、受信アンテナ906で受信パルスとして取り込まれる。この受信パルスは、直交電力分配器907で位相が90度ずらされた2つの信号(I信号、Q信号)に分けられ、それぞれミキサ908及び909に挿入される。
【0004】
これとは別に、パルス源901で生成された上記のパルスは、遅延時間付与部910において電波が距離Rを伝搬するのに要する時間に相当する遅延時間τを付与され、さらに受信ゲート911を通過した後に、パルス変調部903bにおいて上記のマイクロ波源904から入力した搬送波でアップコンバートされる。遅延時間τが付与され、パルス変調部903b、電力分配器916bを経たパルスと直交電力分配器907から出力されるI信号及びQ信号とが、それぞれミキサ 908及び909で掛け合わされてダウンコンバートされ、それぞれの相関がとられる。ミキサ 908、909の出力は、ホールドキャパシタ912にチャージされ、プリアンプ913で増幅された後、ドップラー成分を除去するドップラーフィルタ914を通過し、検出部915で信号検出が行われる。
【0005】
特許文献1では、受信波の電力が小さいため複数の反射波の振幅電圧をコヒーレントで(同期を取って)加算している。ホールドキャパシタ912はI信号及びQ信号に対しそれぞれ一つしかないため、遅延時間τが付与されたパルスと相関をとることで、遅延時間τに相当する一つの距離情報を検波している。特許文献1によれば、相対速度も検出することができ、物体が所定の時間にどれだけの距離を移動したかをモニタすることにより相対速度を算出する。上記の遅延時間τは、プログラムで可変にすることができ、これにより検波する距離Rの範囲を可変にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US6067040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レーダ装置では、物体がどの距離に存在するかを判別するために、レンジビンと呼ばれる距離情報を格納する格納部を複数用意し、受信系の検出部により得られたデータを順次格納している。複数のレンジビンを用いて距離情報を格納する一例を、図16に示す。同図では、1nsの分解能(約0.15mの距離分解能に相当)となるように複数のレンジビン920が設けられた一例を示している。レンジビン920は通常100〜200個程度用いられ、検出部で検出された振幅値などの情報が格納される。図16に示す例では、レンジビン920a〜920dに物体の存在を示す情報が格納されており、各レンジビンに相当する距離に物体があることを検出する。
【0008】
上記の従来の技術による構成では、一つのレンジビンの情報を得るのに数発のパルスを送信し、その受信信号を同期加算していく必要があった。このような複数のパルス送信による距離情報の獲得を、例えば200個程度あるレンジビンのそれぞれに対して行う必要があるため、一通りの距離情報を得るまでに非常に長い時間を要するといった問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、所定の距離範囲の測定を短時間で処理可能なレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のレーダ装置の第1の態様は、所定の周波数の搬送波を発振する発振器と、前記発振器から出力される搬送波の電力を2出力に分配する第1の電力分配器と、前記第1の電力分配器で分配された一方の搬送波を入力して所定の送信信号を生成する送信部と、前記送信部から前記送信信号を入力して電波で空間に送出する送信アンテナと、前記送信アンテナから送出された電波が物体で反射された反射電波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナから受信信号を入力するとともに前記第1の電力分配器で分配された他方の搬送波を入力して所定の信号処理を行う受信部と、前記受信部から入力した信号をもとに物体の検出を行うデジタル信号処理部と、を備えるレーダ装置であって、前記送信部は、所定のパルス幅のパルスを所定のパルス繰返し周期で発生させるパルス発生源と、前記パルスに前記一方の搬送波を重畳させて前記送信信号を出力する第1のパルスモジュレータと、を備え、前記受信部は、前記パルス発生源に同期させて、前記パルス1つに対し前記所定のパルス幅と同一のパルス幅を有する相関パルスを所定の時間間隔(Ts)でL回(Lは2以上の整数)だけ発生させる相関パルス発生源と、前記相関パルス発生源から出力される前記相関パルスを所定の遅延時間(td)だけ遅延させて出力する第1の遅延素子と、前記第1の遅延素子から出力される相関パルスに前記他方の搬送波を重畳させる第2のパルスモジュレータと、前記受信アンテナから入力した受信信号を2つの受信信号に分配する第2の電力分配器と、前記第2のパルスモジュレータの出力を入力して位相が不変の第1の出力と90度ずれた第2の出力を出力する位相器と、前記第1の出力と第2の出力をそれぞれ前記第2の電力分配器で分配された前記2つの受信信号と掛け合わせる2つのミキサと、前記2つのミキサのそれぞれの出力電力を増幅する2つの電力増幅器と、前記相関パルス発生源と同期させてクロック信号を生成するクロック発生源と、前記クロック信号を前記遅延時間tdだけ遅延させる第2の遅延素子と、前記第2の遅延素子から出力されるクロック信号のタイミングで前記2つの電力増幅器の出力をそれぞれサンプリングする2つのA/Dコンバータと、を備え、前記A/Dコンバータは、前記送信アンテナから前記送信信号の電波が送出される度に、前記クロック信号によるサンプリングを前記L回行うことを特徴とする。
【0011】
上記構成の本発明では、1回の送信信号の送出でL個所(L≧2)の地点の距離情報を取得することが可能となり、所定の距離範囲の測定を短時間で処理することができる。
【0012】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記遅延時間tdは、前記送信アンテナから前記送信信号の電波がM回(Mは2以上の整数)送出される毎に更新されることを特徴とする。これにより、距離情報のS/Nを改善することができる。
【0013】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記第1の遅延素子及び前記第2の遅延素子は、初期値を0として単位遅延時間t1ずつ増加させて前記遅延時間tdを更新し、前記遅延時間が前記所定の時間間隔Ts以上になると再び0に初期化することを特徴とする。遅延時間tdを0からTsの範囲で順次更新していくことで、所定範囲内の距離情報を取得することができる。
【0014】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記単位遅延時間t1は、前記所定のパルス幅より短いことを特徴とする。これにより、所定距離範囲内をもれなく測定することができる。
【0015】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記デジタル信号処理部は、前記2つのA/Dコンバータの出力を入力して前記物体までの距離及び相対速度を算出するとともに、前記パルス発生源、前記相関パルス発生源、前記第1の遅延素子、前記第2の遅延素子、及び前記クロック発生源に対して所定の同期をとる制御を行うことを特徴とする。前記デジタル信号処理部からの制御で同期をとる制御が容易となる。
【0016】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記第1のパルスモジュレータと前記送信アンテナとの間に接続された第1の逓倍器と、前記第1の逓倍器に接続され、該第1の逓倍器をオンオフ制御する別のパルス発生器と、前記第2のパルスモジュレータと前記位相器との間に接続された第2の逓倍器と、をさらに備え、前記発振器が使用周波数の1/N(Nは2以上の整数)の周波数の搬送波を発振し、前記第1の電力分配器、前記第1のパルスモジュレータ、及び前記第2のパルスモジュレータの周波数帯が前記使用周波数の1/Nであり、前記第1の逓倍器及び前記第2の逓倍器がともに入力信号の周波数をN倍に逓倍することを特徴とする。低価格な低周波用の機器を使用可能とすることで、コストを低減化できる。
【0017】
本発明のレーダ装置の他の態様は、所定の周波数の搬送波を発振する発振器と、前記発振器から出力される搬送波の電力を2出力に分配する第1の電力分配器と、前記第1の電力分配器で分配された一方の搬送波を入力して所定の送信信号を生成する送信部と、前記送信部から前記送信信号を入力して電波で空間に送出する送信アンテナと、前記送信アンテナから送出された電波が物体で反射された反射電波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナから受信信号を入力するとともに前記第1の電力分配器で分配された他方の搬送波を入力して所定の信号処理を行う受信部と、前記受信部から入力した信号をもとに物体の検出を行うデジタル信号処理部と、を備えるレーダ装置であって、前記送信部は、所定のパルス幅のパルスを所定のパルス繰返し周期で発生させるパルス発生源と、前記パルスに前記一方の搬送波を重畳させて前記送信信号を出力する第1のパルスモジュレータと、を備え、前記受信部は、前記パルス発生源に同期させて、前記パルス1つに対し前記所定のパルス幅と同一のパルス幅を有する相関パルスを所定の時間間隔(Ts)でL回(Lは2以上の整数)だけ発生させる相関パルス発生源と、前記相関パルス発生源から出力される前記相関パルスを所定の遅延時間(td)だけ遅延させて出力する第1の遅延素子と前記第1の遅延素子から出力される相関パルスに前記受信アンテナから入力した受信信号を重畳させる第2のパルスモジュレータと、前記第2のパルスモジュレータの出力を2つの出力に分配する第2の電力分配器と、前記他方の搬送波を入力して位相が不変の第1の出力と90度ずれた第2の出力を出力する位相器と、前記第1の出力と第2の出力をそれぞれ前記第2の電力分配器で分配された前記2つの出力と掛け合わせる2つのミキサと、前記2つのミキサのそれぞれの出力電力を増幅する2つの電力増幅器と、前記相関パルス発生源と同期させてクロック信号を生成するクロック発生源と、前記クロック信号を前記遅延時間tdだけ遅延させる第2の遅延素子と、前記第2の遅延素子から出力されるクロック信号のタイミングで前記2つの電力増幅器の出力をそれぞれサンプリングする2つのA/Dコンバータと、を備え、前記A/Dコンバータは、前記送信アンテナから前記送信信号の電波が送出される度に、前記クロック信号によるサンプリングを前記L回行うことを特徴とする。
上記のような構成でも、所定の距離範囲の測定を短時間で処理することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、所定の距離範囲の測定を短時間で処理可能なレーダ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態の送信部において生成される信号の波形の一例を示す説明図である。
【図3】送信信号(a)および受信アンテナから受信部に出力される受信信号(b)の一例を示す説明図である。
【図4】第1の実施形態の相関パルス発生源及びクロック発生源で生成される信号波形の一例を示す説明図である。
【図5】等価サンプリングを説明するための説明図である。
【図6】第1の実施形態のデジタル信号処理部による制御を説明するための説明図である。
【図7】第1の実施形態の受信部において物体を検出するための信号処理を説明する説明図である。
【図8】第1の実施形態の受信部において別の物体を検出するための信号処理を説明する説明図である。
【図9】第1の実施形態のデジタル信号処理部に入力されるI信号、Q信号の一例を示す説明図である。
【図10】第1の実施形態のデジタル信号処理部における処理を説明するためのフローチャートである。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図13】第3の実施形態の受信部において物体を検出するための信号処理を説明する説明図である。
【図14】近接している2物体を検出するための信号処理を説明する説明図である。
【図15】従来のパルスレーダの構成を示すブロック図である。
【図16】レンジビンを用いて距離情報を格納する一例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の好ましい実施の形態におけるレーダ装置について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置の構成を、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態のレーダ装置100の構成を示すブロック図である。レーダ装置100は、所定の周波数(fcとする)の搬送波を発振する発振器101と、発振器101から出力される搬送波の電力を2つの出力に分配する第1の電力分配器102と、所定の送信信号を生成する送信部110と、送信部110から入力した送信信号を電波で空間に送出する送信アンテナ103と、送信アンテナ103から送出された電波が物体で反射され、その反射電波を受信する受信アンテナ104と、受信アンテナ104から受信信号を入力して所定の信号処理を行う受信部120と、受信部120から入力した信号をもとに物体の検出を行うとともに、送信部110及び受信部120の制御を行うデジタル信号処理部140と、を備えている。
【0022】
送信部110は、所定のパルス幅、所定のパルス繰返し周期でパルスを発生させるパルス発生源111と、パルス発生源111で生成されたパルスに第1の電力分配器102で分配された搬送波の一方を重畳する第1のパルスモジュレータ112と、を備えている。第1のパルスモジュレータ112は、第1の電力分配器102から入力した搬送波をパルス発生源111から入力したパルスで切り出して高周波の送信パルスを生成し、これを送信アンテナ103に出力している。パルス発生源111は、デジタル信号処理部140からの制御に従ってパルスを発生させている。
【0023】
受信部120は、パルス発生源111におけるパルス発生に同期させて、パルス発生源111で発生されるパルス1つに対し所定の間隔で所定のパルス幅の複数の相関パルスを発生させる相関パルス発生源121と、相関パルス発生源121から出力される相関パルスを所定の遅延時間だけ遅延させて出力する第1の遅延素子122と、第1の遅延素子122から出力される相関パルスに第1の電力分配器102で分配された搬送波の他方を重畳する第2のパルスモジュレータ123と、受信アンテナ104から入力した受信信号を2つの受信信号に分配する第2の電力分配器124と、第2のパルスモジュレータ123の出力を入力して位相が不変の出力と90度ずれた出力の2つの出力を生成する位相器125と、第2の電力分配器124の2つの受信信号出力のそれぞれと位相器125の2つの出力のそれぞれとを掛け合わせる2つのミキサ126と、ミキサ126のそれぞれの出力電力を増幅する2つの電力増幅器127と、相関パルス発生源121で生成される相関パルスと同期したクロック信号を生成するクロック発生源128と、クロック発生源128から出力されるクロック信号を第1の遅延素子122と同じ遅延時間だけ遅延させる第2の遅延素子129と、第2の遅延素子129から出力されるクロック信号のタイミングで2つの電力増幅器127の出力をそれぞれサンプリングする2つのA/Dコンバータ130と、を備えている。
【0024】
デジタル信号処理部140は、2つのA/Dコンバータ130の出力をそれぞれI信号、Q信号として同時に取得し、さらにこれを連続的に取得したものを並列に信号処理しており、これから物体までの距離情報、相対速度情報を取得する。また、デジタル信号処理部140は、上記のパルス発生源111、相関パルス発生源121、第1の遅延素子122、第2の遅延素子129、及びクロック発生源128の制御を行っている。デジタル信号処理部140は、第1の遅延素子122及び第2の遅延素子129で遅延させる遅延時間を、所定の単位遅延時間ずつ所定の回数ずらすように設定しており、遅延時間毎に受信部120の処理を行わせてデータを取得している。
【0025】
送信部110における処理を、図2に示す信号波形の一例を用いて以下に説明する。図2は、送信部110において生成される信号の波形の一例を示す説明図である。デジタル信号処理部140からのタイミング制御により、パルス発生源111は、図2(a)に示すようなパルス列10を生成して第1のパルスモジュレータ112に出力する。ここでは、パルス列10が、周期Tで生成されるパルス幅τの複数のパルス10aからなるものとしている。また、発振器101では、図2(b)に示すような周波数fcの搬送波11が生成され、第1の電力分配器102で分配された2つの搬送波の一方が第1のパルスモジュレータ112に入力される。第1のパルスモジュレータ112に入力される一方の出力は、図2(b)に示すものと同じである。
【0026】
第1のパルスモジュレータ112では、パルス発生源111で生成されたパルス列10に第1の電力分配器102で分配された搬送波11の一方を搬送波として重畳する。すなわち、第1のパルスモジュレータ112では、搬送波11がパルス列10の各パルス10aのパルス幅τ毎に切り出され、図2(c)に示す周期Tの送信パルス列12が生成される。パルスモジュレータ112は、ミキサやスイッチで構成されている。送信パルス列12は送信アンテナ103に出力され、送信アンテナ103から電波(送信波)として送出される。
【0027】
送信アンテナ103から送出された送信波が、物体で反射されて受信アンテナ104に受信され、受信アンテナ104から受信信号20が受信部120に出力される。図3は、送信信号(図3(a))および受信アンテナ104から受信部120に出力される受信信号(図3(b))の一例を示す説明図である。図3(a),(b)は、送信アンテナ103から送信パルス12aが送出される期間に、受信アンテナ104で送信パルス12aに対応した受信信号20が受信されることを示している。図3(b)は、一つの送信パルス12aに対応した受信信号20aを、時間軸の一部を拡大して示したものである。ここでは、3つの物体で送信波が反射された例を示しており、1つの送信パルス12aに対して3つの受信パルス20a1、20a2、20a3が受信されている。このように、複数の物体や反射点があると、1つの送信パルスに対し、複数の反射パルスが受信アンテナ104に受信される。
【0028】
3つの物体までの距離をそれぞれd1、d2、d3とすると、各距離d1、d2、d3は、次式
【数1】

で算出される。ここで、cは光速を表し、td1、td2、td3は、1つの送信パルス12aが送信アンテナ103から送出されてから受信アンテナ104で受信パルス20a1、20a2、20a3が受信されるまでの遅延時間を表している。
【0029】
次に、受信部120における処理を、図4〜図9を用いて以下に説明する。受信部120は、信号源として相関パルス発生源121とクロック発生源128を備えている。相関パルス発生源121及びクロック発生源128で生成される信号波形を、図4(a)及び(b)にそれぞれ示す。相関パルス発生源121で生成される相関パルス列21は、図4(a)に示すように、パルス発生源111で生成されるパルス10aのパルス幅に等しいパルス幅τの相関パルス21aを、A/Dコンバータ130でサンプリングを行うサンプリング周期Tsで、パルス発生源111から発生されるパルス10a一つに対して複数個(L個(L≧2)とする)連続的に発生させている。図4に示す例では、パルス10a一つに対し5個(L=5)の相関パルス21aを発生させている。
【0030】
クロック発生源128から出力されるクロック信号列22は、図4(b)に示すように、クロック信号22aが図4(a)に示す相関パルス21aと同期しており、相関パルス列21と同じサンプリング周期Tsでクロック信号22aをL個連続的に発生させている。但し、実際にはミキサ126からA/Dコンバータ130までの伝播遅延があるため、この伝播遅延時間だけクロック信号22aを相関パルス21aより遅らせて出力している。
【0031】
相関パルス発生源121及びクロック発生源128の出力側にはそれぞれ第1の遅延素子122及び第2の遅延素子129が設けられており、それぞれの信号が所定の時間だけ遅延されて出力される。第1の遅延素子122及び第2の遅延素子129に設定される遅延時間(tdとする)を、微小な単位遅延時間(t1とする)ずつ変更していくことで、A/Dコンバータ130において図5に例示するような等価サンプリングを行わせることができる。遅延時間tdは、デジタル信号処理部140からの制御で更新される。単位遅延時間t1については、これをパルス幅τ以下とすることで、所定の距離範囲を連続的に測定することができる。
【0032】
図5では、第2の遅延素子129が、クロック発生源128から出力されるクロック信号列22を単位遅延時間t1ずつ順次遅らせて出力していることを示している。図5に示すクロック信号列22−1〜nは、クロック発生源128で発生されたクロック信号列22を次式で表される遅延時間td=tdi(i=1,・・・,n)だけ遅延させたものである。ここで、nはクロック周期(サンプリング周期Tsに等しい)を単位遅延時間t1毎に分割した分割数である。
【数2】

【0033】
このように順次遅延させたn個のクロック信号列22−1〜nを出力することで、所定の距離範囲の測定を行う。すなわち、送信アンテナ103から1つの送信パルス12aが送出される度に5個(L個)のクロック信号22aからなる1組のクロック信号列22が出力される。これにより、1つの送信パルス12aでクロック周期Tsに相当する距離だけ離れた5つ(L個)の地点の測定を行う。以下、遅延時間tdを式(2)に基づいて更新しながら測定を行い、送信パルス12aがn回送出されると、所定の距離範囲の測定が一通り終了する。
なお、上記では、クロック信号列22について説明したが、相関パルス列21についても、クロック信号列22に同期して5個(L個)の相関パルス21aからなる相関パルス列21−i(i=1,・・・,n)が、単位遅延時間t1ずつ順次遅延されてn回にわたり出力される。
【0034】
A/Dコンバータ130では、図5に示すようなクロック信号22a毎にサンプリングが行われ、一つのクロック信号列22−iで5回(L回)のサンプリングが行われる。このようなサンプリングが、単位遅延時間t1ずつ遅らせながら行われることになる。このような単位遅延時間t1毎にサンプリングされるデータの単位はレンジビンと呼ばれ、このレンジビンが物体を分別する分解能になる。
なお、上記では、説明の簡略化のために1つの送信パルス12aが送出される度に遅延時間tdを更新するものとして説明したが、より一般的には同じ遅延時間tdでM個(Mは正の整数)の送信パルス12aによるM回(以下ではMを同期加算数という)の測定を行ってサンプリング結果を足し込んだ後に遅延時間tdを更新するようにすることもできる。Mを2以上とすることにより、同じレンジビンについて複数回(M回)測定することになり、S/Nを改善することができる。
【0035】
図5において、n=10としたときの等価サンプリングの方法を以下に説明する。送信アンテナ103から1回目のパルスが送出されると、クロック信号列22−1がA/Dコンバータ130に出力される。これにより、各クロック信号22aのタイミングで1番目、11番目、21番目、31番目、及び41番目の5つ(L個)のレンジビンのデータがサンプリングされる。次に2回目のパルスが送出されると、クロック信号列22−1より単位遅延時間t1だけ遅延させたクロック信号列22−2がA/Dコンバータ130に出力される。これにより、各クロック信号22aのタイミングで2番目、12番目、22番目、32番目、及び42番目の5つのレンジビンのデータがサンプリングされる。以下同様にして、クロック信号列22の出力を単位遅延時間t1ずつ遅らせながらサンプリングを行っていく。
【0036】
そして、10回目のパルスが送出されると、クロック信号列22−1より(n−1)×t1だけ遅延させたクロック信号列22−10がA/Dコンバータ130に出力される。これにより、各クロック信号22aのタイミングで10番目、20番目、30番目、40番目、及び50番目の5つのレンジビンの信号がサンプリングされる。
これにより、1番目から50番目までのすべてのレンジビンのサンプリングを行うことができる。各レンジビンのデータをデジタル信号処理部140に出力した後、各レンジビンを初期化し、新たなサンプリングを開始する。以降のパルス送信に対しては、再びクロック信号列22−1を用いたサンプリングに戻る。
なお、同期加算数Mが2以上の場合には、各クロック信号列22−iを連続してM回用いてサンプリングを行ってサンプリング結果を足し込み、その後次のクロック信号列22−(i+1)を用いたサンプリングに進む。
【0037】
デジタル信号処理部140は、パルス発生源111、相関パルス発生源121、クロック発生源128、第1の遅延素子122、及び第2の遅延素子129を制御しており、この制御によりそれぞれの信号発生のタイミングが図6に示すように制御される。図6(a)は、パルス発生源111におけるパルス列10の発生タイミングを示しており、図6(b)は、クロック発生源128におけるクロック信号列22の発生タイミングを示している。但し、相関パルス発生源121とクロック発生源128の信号出力タイミングは同じなので、図6では相関パルス発生源121から出力される相関パルス列21は図示を省略している。デジタル信号処理部140は、パルス発生源111でパルスを発生させるタイミングと、相関パルス発生源121で相関パルス列21を発生させるタイミング及びクロック発生源128でクロック信号列22を発生させるタイミングが一致するように制御している。また、第1の遅延素子122、及び第2の遅延素子129に対しては、パルス発生源111における1回目のパルス発生に対しては遅延時間tdがゼロとなるように制御しており、2回目以降のパルス発生に対しては、単位遅延時間t1ずつ順次遅らせてクロック信号列22をA/Dコンバータ130に出力させるように制御している。
【0038】
一方、第2のパルスモジュレータ123では、第1の遅延素子122で所定の遅延時間を付加された相関パルス列21を用いて周波数fcの搬送波を切り出しており、図7(a)に示すような波形のパルス信号を出力する。このパルス信号を位相器125に入力し、位相を変えない第1の信号と位相を90度ずらした第2の信号を出力してそれぞれを2つのミキサ126に出力している。ミキサ126では、位相器125から入力した第1の信号または第2の信号と、第2の電力分配器124から入力した受信信号20(図7(b)に再掲)とがミキシングされる。その結果、受信信号20と相関パルス列21の相互のパルス位置が一致する箇所において、パルス幅τ程度の出力が得られる。位相器125から入力する第1の信号及び第2の信号は、第1の遅延素子122で付加された遅延時間を有していることから、ミキサ126の出力は遅延時間に対応するレンジビンの情報となっている。ミキサ126の出力の一例を図7(c)に示す。図7(c)では、図7(b)に示す受信信号20で物体1と物体3による反射信号に相当するパルスのみが、図7(a)の相関パルス列21に対応するパルスと一致した場合を例示している。
【0039】
2つのミキサ126からの出力は、それぞれ別々のA/Dコンバータ130に入力され、ここで、相関パルス列21に同期したクロック信号列22−iに従ってサンプリングされる。A/Dコンバータ130に入力されるクロック信号列22−iは、図7(d)に示すように、第2の遅延素子129で付加された遅延時間(第1の遅延素子122で付加された遅延時間と同じ)を有していることから、A/Dコンバータ130における上記のサンプリングにより、当該遅延時間tdiに対応するレンジビンの情報が得られる。図7(c)に示すミキサ126の出力を図7(d)に示すクロック信号列22−iでサンプリングした場合には、物体1と物体3の位置情報が得られる。2つのA/Dコンバータ130で得られたサンプリング結果は、それぞれI信号用のレンジビン、Q信号用のレンジビンに保存される。
【0040】
同様にして、遅延時間が異なる図8(a)に示すパルス信号を用いて図8(b)に示す受信信号20との相関が取られた場合には、物体2からの反射信号に相当するパルスがダウンコンバートされ、図8(c)に示すようなミキサ126の出力が得られる。これを、A/Dコンバータ130において、図8(a)のパルス信号と同期したクロック信号列22−j(j≠i)(図8(d)に示す)に従ってサンプリングすることで、当該遅延時間tdjに対応するレンジビンに物体2の位置情報が得られる。
【0041】
上記のようにして、図5を用いて説明した等価サンプリングをすべての遅延時間tdi(i=1,・・・,n)について行うと、図9に示すような物体1,2,3の位置情報を有するI信号及びQ信号が得られ、これがデジタル信号処理部140に出力される。図9に示すようなI信号及びQ信号は、受信信号20のパルス位置に相当するレンジビンに大きな出力が得られていることを示している。I信号とQ信号は、時間情報が同じで振幅情報のみが異なる直交した2系統で得られる情報である。
【0042】
デジタル信号処理部140では、物体からの反射波の強度をI信号とQ信号の二乗和を算出して求め、所定の閾値を超える強度を有するレンジビンの情報から、それぞれの物体までの距離を算出する。また、それぞれのレンジビン情報を所定の時間ごとに保存したI信号、Q信号のデータを用いて複素FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)の演算を行い、各物体の持つドップラー成分から相対速度を算出することができる。
【0043】
本実施形態のレーダ装置100において、デジタル信号処理部140が行う処理を、図10に示すフローチャートを用いて説明する。本実施形態のレーダ装置100が起動されると、デジタル信号処理部140は、ステップS1で同期加算カウンタm、遅延時間td、FFTカウンタFの初期化を含む所定の初期化を行った後、ステップS2においてパルス発生源111を制御して送信パルス10aを送出させる。それと同時に、相関パルス21a及びクロック信号22aを出力するように相関パルス発生源121及びクロック発生源128に対し指示を出す。相関パルス発生源121及びクロック発生源128から出力された相関パルス21a及びクロック信号22aは、第1の遅延素子122及び第2の遅延素子129で遅延時間tdを付加され、A/Dコンバータ130で受信信号のサンプリングが行われる。
【0044】
ステップS3において同期加算カウンタmに1を加算し、ステップS4で回数mがあらかじめ設定された同期加算数Mに達したかを判定する。ここで、同期加算カウンタmが同期加算数Mに満たないと判定された場合には、再びステップS2に戻り、同じ遅延時間tdで次のサンプリングを行う。ステップS4で同期加算カウンタmがあらかじめ設定された同期加算数Mに達したと判定すると、次のステップS5で遅延時間tdに単位遅延時間t1を加算して更新する。そして、次のステップS6において、遅延時間tdがサンプリング周期Tsに達したかを判定し、tdがTs未満であると判定されると、ステップS7に進んで、同期加算カウンタmを0に初期化した後、再びステップS2に戻って次のサンプリングを行う。
【0045】
一方、ステップS6で遅延時間tdがサンプリング周期Tsに達したと判定されると、次のステップS8に進み、全レンジビンの結果をデジタル信号処理部140内のメモリに保持する。その後、ステップS9においてFFTカウンタFに1を加算し、次のステップS10でFFTカウンタFがFFT処理に必要な回数Fmaxに達したかを判定する。Fmaxは、例えば64ポイントとすることができる。ステップS10でFがFmax未満と判定されると、ステップS11で同期加算カウンタm及び遅延時間tdを初期化した後、再びステップS2に戻って次のサンプリングを行う。一方、ステップS10でFがFmaxに達したと判定されると、ステップS12で前記デジタル信号処理部140内のメモリに保持したデータを用いてFFT処理を行い、ステップS13で物体の位置情報や相対速度情報を算出する。
【0046】
上記構成の本第1の実施形態のレーダ装置100では、ミキサ126のローカル入力側に相関パルスを挿入し、相関パルスと受信信号との相関を取る構成となっている。一つの送信パルスに対して受信アンテナ104により得られる物体からの反射波情報を、同期した複数の相関パルス21aとA/Dコンバータ130で用いる複数のクロック信号22aを用いて等価サンプリングすることにより、より高速にサンプリングすることができる。つまり、上記の実施形態例では、送信パルス1発に対し、5箇所(L箇所)のレンジビン情報を得ることができる。従来の技術では、送信パルス1発に対し1箇所のレンジビン情報しか得られなかった。また、上記実施形態例では同期加算数Mを1として説明したが、通常は、複数回の同期加算を行って反射波のS/Nを改善させる。さらに、A/Dコンバータ130では、A/D変換された出力を用いたデジタル信号処理で同期加算を行うことで、従来のアナログ素子による電荷加算より高い信頼性が得られる。
【0047】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置の構成を、図11を用いて説明する。図11は、第2の実施形態のレーダ装置200の構成を示すブロック図である。レーダ装置200は、第1の実施形態のレーダ装置100の一部を変更した構成となっている。一般に、周波数が高くなると用いる部品が高価なものになる。そこで、本実施形態では発振器201、第1の電力分配器202、第1のパルスモジュレータ212、第2のパルスモジュレータ223の周波数帯を使用する無線周波数帯の1/N(Nは2以上の整数)とするとともに、逓倍率Nの第1の逓倍器213及び第2の逓倍器231を追加している。
【0048】
送信部210において、第1のパルスモジュレータ212の後方に第1の逓倍器213を配置することで、第1のパルスモジュレータ212の出力の周波数をN倍して、使用する無線周波数帯の信号を得ている。これにより、送信アンテナに出力される送信パルスは、第1の実施形態の送信パルス12と同等のものとなる。なお、パルス発生源として第1のパルス発生源211と第2のパルス発生源214が用いられているところ、第1のパルス発生源211としては第1の実施形態のパルス発生源111と同等のものが用いられる。第2のパルス発生源214は第1の逓倍器213をオン・オフ制御するもので、第1のパルス発生源211と同じ波形のパルスを出力するが、第1の逓倍器213を駆動させる電圧値が第1のパルスモジュレータ212の駆動電圧値と異なっているため、出力パルスの電圧値が両者で異なっている。
本実施形態では、第1のパルスモジュレータ212と第1の逓倍器213により、発振器201で生成される搬送波を2段階で切り出すことになることから、送信信号へのキャリアリークを低減させる効果もある。また、逓倍器は非線形デバイスであり、より効率よくキャリアリークを低減することができる。
【0049】
受信部220においても、第2のパルスモジュレータ223の後方に第2の逓倍器231を配置しており、ここで第2のパルスモジュレータ223の出力の周波数をN倍することで、第2の逓倍器231の出力は、第1の実施形態における第2のパルスモジュレータ123の出力と同等のものとなる。また、本実施形態の受信部220では、2つの受信アンテナ204を並べて受信信号を受信しており、ハイブリッド回路232においてそれぞれの受信波の合成(和信号Σ)と差分(差信号Δ)を生成し、アンテナ切替スイッチ233で和信号と差信号を切り替えて後段の信号処理を行うように構成している。本実施形態では、和信号と差信号のデータについてモノパルス方式で演算することで、物体の方位を検知することが可能となる。
【0050】
(第3実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置の構成を、図12を用いて説明する。図12は、第3実施形態のレーダ装置300の構成を示すブロック図である。レーダ装置300は、第1の実施形態のレーダ装置100とは第2のパルスモジュレータの位置が異なっている(本実施形態では、第2のパルスモジュレータを符号323で示す)。送信部110で送信信号を生成する過程や、受信部320における受信信号、相関パルス、クロック信号の処理、及び等価サンプリングの処理内容は第1の実施形態と同じである。以下では、第1の実施形態のレーダ装置100と異なる点を中心に、本実施形態の受信部320の処理を説明する。
【0051】
まず、物体1、3に関しては、受信アンテナ104で受信された図3(b)に示した受信信号20は、第2のパルスモジュレータ323において遅延時間tdiだけ遅延した相関パルス21−iで切り出される。これにより、受信信号20と相関パルス21−iとが重なる部分のみが切り出され、図13(a)に示ような信号が出力される。この信号が、ミキサ126において発振器101からの搬送波(図2(b)に示した連続波)とミキシングされると、第1の実施形態のミキサ126の出力と同等の図7(c)に示した波形の信号が得られる。以下の処理は、第1の実施形態と同じである。このようにして物体1と物体3の位置情報が得られる。
【0052】
同様に、物体2についても、第2のパルスモジュレータ323から別の遅延時間tdj(j≠i)だけ遅延した相関パルス21−jにより切り出され、図13(b)に示ような信号が出力される。これがミキサ126で発振器101からの搬送波とミキシングされることで、第1の実施形態のミキサ126の出力と同等の図8(c)に示した波形の信号が得られる。そして、第1の実施形態と同様の処理により、物体2の位置情報が得られる。
【0053】
上記構成の本発明では、ミキサ126のRF入力側に相関パルスを挿入し、受信波と相関パルスとの相関を取る構成となっている。ミキサ126以降の処理は、第1の実施形態と同じである。従って、第1の実施形態と同様に、複数のレンジビン情報を同時に得ることができ、一連のレーダ情報を収集する更新スピードを高速化することができる。
【0054】
本発明のレーダ装置では相関器(相関パルスの発生手段)を用いているところ、受信部を構成するデバイスであるミキサや電力増幅器、A/Dコンバータの周波数帯域が広帯域なもの(1ns程度のインパルスが通過する帯域)であれば、相関器がなくても同等の結果を得ることは可能である。
しかしながら、広帯域なデバイスは高価であり、できるだけ安価なデバイスで構成することが要求される。一方、安価なデバイスは広帯域な周波数特性をもっておらず、パルスのもつ高周波成分が遮断されて、パルス形状が崩れてしまう。その結果、物体の検出分解能が低下してしまう問題が発生する。
【0055】
一例として、図14(a)に示すような物体2と物体3とが近接している受信波形を受信した場合を例に説明する。相関器を使わずに高価な広帯域周波数特性をもつデバイスを用いた場合には、図14(a)に示す受信信号から図14(b)に示すように物体2と物体3を分離して検出することが可能である。しかしながら、安価で広帯域周波数特性をもたないデバイスを用いて、相関器を用いないレーダ装置を構成した場合には、図14(c)に示すようにパルスの波形がなまってしまい、物体2と物体3の分離が困難になってしまう。
【0056】
これに対し相関器を用いた本発明のレーダ装置では、例えば図14(d)及び(e)のように、物体2と物体3が別の相関パルスを用いて検出される。その結果、物体2と物体3を完全に分離して検出することができる。このように、相関器を用いることで、安価なデバイスで構成した場合でも高価なデバイスで構成した場合と同等の性能を満たすことができる。
【0057】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係るレーダ装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態におけるレーダ装置の細部構成及び詳細な動作などに関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0058】
100、200、300 レーダ装置
101、201 発振器
102、202,302 第1の電力分配器
103 送信アンテナ
104、204 受信アンテナ
110、210 送信部
111、211、214 パルス発生源
112、212 第1のパルスモジュレータ
120、220、320 受信部
121 相関パルス発生源
122 第1の遅延素子
123、223、323 第2のパルスモジュレータ
124 第2の電力分配器
125 位相器
126 ミキサ
127 電力増幅器
128 クロック発生源
129 第2の遅延素子
130 A/Dコンバータ
140 デジタル信号処理部
213、231 逓倍器
232 ハイブリッド回路
233 アンテナ切替スイッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数の搬送波を発振する発振器と、前記発振器から出力される搬送波の電力を2つの出力に分配する第1の電力分配器と、前記第1の電力分配器で分配された一方の搬送波を入力して所定の送信信号を生成する送信部と、前記送信部から前記送信信号を入力して電波で空間に送出する送信アンテナと、前記送信アンテナから送出された電波が物体で反射された反射電波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナから受信信号を入力するとともに前記第1の電力分配器で分配された他方の搬送波を入力して所定の信号処理を行う受信部と、前記受信部から入力した信号をもとに物体の検出を行うデジタル信号処理部と、を備えるレーダ装置であって、
前記送信部は、
所定のパルス幅のパルスを所定のパルス繰返し周期で発生させるパルス発生源と、
前記パルスに前記一方の搬送波を重畳させて前記送信信号を出力する第1のパルスモジュレータと、を備え、
前記受信部は、
前記パルス発生源に同期させて、前記パルス1つに対し前記所定のパルス幅と同一のパルス幅を有する相関パルスを所定の時間間隔(Ts)でL回(Lは2以上の整数)だけ発生させる相関パルス発生源と、
前記相関パルス発生源から出力される前記相関パルスを所定の遅延時間(td)だけ遅延させて出力する第1の遅延素子と、
前記第1の遅延素子から出力される相関パルスに前記他方の搬送波を重畳させる第2のパルスモジュレータと、
前記受信アンテナから入力した受信信号を2つの受信信号に分配する第2の電力分配器と、
前記第2のパルスモジュレータの出力を入力して位相が不変の第1の出力と90度ずれた第2の出力を出力する位相器と、
前記第1の出力と第2の出力をそれぞれ前記第2の電力分配器で分配された前記2つの受信信号と掛け合わせる2つのミキサと、
前記2つのミキサのそれぞれの出力電力を増幅する2つの電力増幅器と、
前記相関パルス発生源と同期させてクロック信号を生成するクロック発生源と、
前記クロック信号を前記遅延時間tdだけ遅延させる第2の遅延素子と、
前記第2の遅延素子から出力されるクロック信号のタイミングで前記2つの電力増幅器の出力をそれぞれサンプリングする2つのA/Dコンバータと、を備え、
前記A/Dコンバータは、前記送信アンテナから前記送信信号の電波が送出される度に、前記クロック信号によるサンプリングを前記L回行う
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記遅延時間tdは、前記送信アンテナから前記送信信号の電波がM回(Mは2以上の整数)送出される毎に更新される
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記第1の遅延素子及び前記第2の遅延素子は、初期値を0として単位遅延時間t1ずつ増加させて前記遅延時間tdを更新し、前記遅延時間が前記所定の時間間隔Ts以上になると再び0に初期化する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記単位遅延時間t1は、前記所定のパルス幅より短い
ことを特徴とする請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記デジタル信号処理部は、前記2つのA/Dコンバータの出力を入力して前記物体までの距離及び相対速度を算出するとともに、前記パルス発生源、前記相関パルス発生源、前記第1の遅延素子、前記第2の遅延素子、及び前記クロック発生源に対して所定の同期をとる制御を行う
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記第1のパルスモジュレータと前記送信アンテナとの間に接続された第1の逓倍器と、
前記第1の逓倍器に接続され、該第1の逓倍器をオンオフ制御する別のパルス発生器と、
前記第2のパルスモジュレータと前記位相器との間に接続された第2の逓倍器と、をさらに備え、
前記発振器が使用周波数の1/N(Nは2以上の整数)の周波数の搬送波を発振し、前記第1の電力分配器、前記第1のパルスモジュレータ、及び前記第2のパルスモジュレータの周波数帯が前記使用周波数の1/Nであり、前記第1の逓倍器及び前記第2の逓倍器がともに入力信号の周波数をN倍に逓倍する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
所定の周波数の搬送波を発振する発振器と、前記発振器から出力される搬送波の電力を2つの出力に分配する第1の電力分配器と、前記第1の電力分配器で分配された一方の搬送波を入力して所定の送信信号を生成する送信部と、前記送信部から前記送信信号を入力して電波で空間に送出する送信アンテナと、前記送信アンテナから送出された電波が物体で反射された反射電波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナから受信信号を入力するとともに前記第1の電力分配器で分配された他方の搬送波を入力して所定の信号処理を行う受信部と、前記受信部から入力した信号をもとに物体の検出を行うデジタル信号処理部と、を備えるレーダ装置であって、
前記送信部は、
所定のパルス幅のパルスを所定のパルス繰返し周期で発生させるパルス発生源と、
前記パルスに前記一方の搬送波を重畳させて前記送信信号を出力する第1のパルスモジュレータと、を備え、
前記受信部は、
前記パルス発生源に同期させて、前記パルス1つに対し前記所定のパルス幅と同一のパルス幅を有する相関パルスを所定の時間間隔(Ts)でL回(Lは2以上の整数)だけ発生させる相関パルス発生源と、
前記相関パルス発生源から出力される前記相関パルスを所定の遅延時間(td)だけ遅延させて出力する第1の遅延素子と、
前記第1の遅延素子から出力される相関パルスに前記受信アンテナから入力した受信信号を重畳させる第2のパルスモジュレータと、
前記第2のパルスモジュレータの出力を2つの出力に分配する第2の電力分配器と、
前記他方の搬送波を入力して位相が不変の第1の出力と90度ずれた第2の出力を出力する位相器と、
前記第1の出力と第2の出力をそれぞれ前記第2の電力分配器で分配された前記2つの出力と掛け合わせる2つのミキサと、
前記2つのミキサのそれぞれの出力電力を増幅する2つの電力増幅器と、
前記相関パルス発生源と同期させてクロック信号を生成するクロック発生源と、
前記クロック信号を前記遅延時間tdだけ遅延させる第2の遅延素子と、
前記第2の遅延素子から出力されるクロック信号のタイミングで前記2つの電力増幅器の出力をそれぞれサンプリングする2つのA/Dコンバータと、を備え、
前記A/Dコンバータは、前記送信アンテナから前記送信信号の電波が送出される度に、前記クロック信号によるサンプリングを前記L回行う
ことを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−216980(P2010−216980A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63924(P2009−63924)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】