説明

レールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法

【課題】粘着係数測定値とその時の速度を用いて測定対象車両の滑走確率を計算することにより、車両の加速力または制動力の定量的な設定を可能にすることができるレールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法を提供する。
【解決手段】レールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法において、粘着係数測定値とその時の速度から比粘着係数を算出し、この算出した比粘着係数を値の小さいものから大きなものへと順に並べ、最も小さいものを1として番号付けを行い、この付与した番号の全てを、粘着係数測定試験時にブレーキ力を繰り返し与えた総回数で除することにより、前記比粘着係数に対する滑走確率を得るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法に係り、特に、比粘着係数に基づいた滑走確率の導出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レールと車輪間の粘着係数は、速度に応じて値が変化する特性があるとされている。従来は、車輪とレール間の粘着係数測定値を、横軸を速度としたグラフにプロットし、同じグラフに描いた粘着係数計画式
μ=13.6/(v+85)
に対してその大小をもって評価していた。
【0003】
なお、粘着係数の測定値は、ブレーキ力が測定できるようブレーキ装置にセンサ等を取り付けるなどした車軸に対してのみ0から上限値まで時間に対してある傾きを持って増加するブレーキ力を繰り返し与え、車輪が滑走した場合にその瞬間のブレーキ力を測定データから読み取り、その読み取ったブレーキ力を当該車軸に負荷される静止輪重で除することによって得られる。そのときの速度は、当該車軸が滑走した瞬間の速度とする。
【0004】
一方、鉄道車両の設計では、空転や滑走による車輪損傷等を最小限にとどめるため、加速力および制動力が車輪とレール間の粘着力を超えることがないようにそれらの制御装置を設定する必要がある。この目的のために、レールと車輪間の粘着係数の測定値は有効に利用されるべきであるが、上記のグラフにおける測定値の分布から、加速力又は制動力をどのように設定するかについては、明確な手法がないのが現実であった。
【特許文献1】なし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、車両用制御装置の設計においては、車両の加速力又は制動力を、列車の速度に応じてどのように変化させると、車輪の空転や滑走を許容の最小限にすることができるかを把握し、加速力又は制動力のパターンを設定する必要がある。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、粘着係数測定値とその時の速度を用いて測定対象車両の滑走確率を計算することにより、車両の加速力または制動力の定量的な設定を可能にすることができるレールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕レールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法において、粘着係数測定値とその時の速度から比粘着係数を算出し、該算出した比粘着係数を値の小さいものから大きなものへと順に並べ、最も小さいものを1として番号付けを行い、この付与した番号の全てを、粘着係数測定試験時にブレーキ力を繰り返し与えた総回数で除することにより、前記比粘着係数に対する滑走確率を得るようにしたことを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載のレールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法において、前記粘着係数測定値μi とその時の速度vi から得られる粘着係数計画式μ(vi )により前記比粘着係数μi ′を次式により算出することを特徴とするレールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法。
【0009】
μi ′=μi /μ(vi
〔3〕上記〔2〕記載のレールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法において、新幹線車両においては、前記粘着係数測定値μi とその時の速度vi から次式により前記比粘着係数μi ′を算出することを特徴とするレールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法。
【0010】
μi ′=μi /〔13.6/(vi +85)〕
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、滑走確率を比粘着係数に対する特性として表示することにより、車両の加速力又は制動力に対する滑走発生の確率が把握でき、車両の加速力又は制動力のパターン設定を定量的な根拠に基づいて行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のレールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法は、粘着係数測定値とその時の速度から比粘着係数を算出し、該算出した比粘着係数を値の小さいものから大きなものへと順に並べ、最も小さいものを1として番号付けを行い、この付与した番号の全てを、粘着係数測定試験時にブレーキ力を繰り返し与えた総回数で除することにより、前記比粘着係数に対する滑走確率を得るようにした。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
(1)2次元の1次元化
まず、車両の速度特性の情報を保ったまま粘着係数測定値を1次元のデータで表現する。
【0015】
この時、粘着係数測定値をその時の速度から計算した粘着係数計画値で正規化したものを比粘着係数とする。
【0016】
一般的には、レールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法としては、粘着係数測定値μi とその時の速度vi から得られる粘着係数計画式μ(vi )により比粘着係数μi ′を次式により算出する。
【0017】
μi ′=μi /μ(vi
また、新幹線車両の場合においては、レールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法としては、粘着係数測定値μi とその時の速度vi から次式により比粘着係数μi ′を算出する。つまり、
比粘着係数=粘着係数測定値/粘着係数計画値〔μ(v)=13.6/(v+85)〕
で求めることができる。
【0018】
図1は本発明に係る比粘着係数を求める例を示す図であり、図1(a)は例えば、速度253km/hでの粘着係数測定値が0.03だった場合、
比粘着係数=0.03/〔13.6/(253+85)≒0.03/0.04 =0.75
となる。
【0019】
つまり、速度に関わらず、粘着係数計画値〔μ(vi )〕の75%に相当するブレーキ力で滑走することを意味する。
【0020】
図2は本発明に係る粘着係数の測定結果例(新幹線)を示す図である。
【0021】
この図において、横軸は速度(km/h)を、縦軸は粘着係数測定値を示している。また、実線は粘着係数計画式μ=13.6/(v+85)を示している。なお、散水条件下での粘着係数測定結果を示している。
【0022】
(2)滑走の累積度数を、ある比粘着係数に相当するブレーキ力を与えた時の滑走確率で表現
図3は本発明に係る粘着係数の測定実施例を示す図である。横軸には三角波入力回数が、縦軸にはブレーキ力と粘着係数測定軸速度がそれぞれ示されている。ここで三角波入力回数とは、粘着係数測定試験時にブレーキ力を繰り返し与えた総回数である。また、図4は本発明に係る比粘着係数に対する滑走確率の関係を示す図である。
【0023】
比粘着係数に対する滑走確率は、以下の計算で求めることができる。
【0024】
滑走確率=滑走回数/三角波入力回数
詳細には以下の手順により滑走確率を得ることができる。
【0025】
(i)上記(1)で求めた比粘着係数を昇順に並べる。
【0026】
(ii)(i)に小さいものから順に番号付けを行う。
【0027】
(iii)(ii)で付与した番号を三角波入力回数で割る。
【0028】
これにより、粘着の状況を滑走しやすさで表現することができる。
【0029】
次に、この比粘着係数対滑走確率の関係を設計に応用した場合について説明する。
【0030】
図5は本発明に係る比粘着係数対滑走確率の関係を新幹線車両の設計に利用する例を示す図である。
【0031】
図5において、横軸には比粘着係数が、縦軸には滑走確率が示されており、Aは滑走許容限界を示している。
【0032】
この図から明らかなように、滑走確率0.25が滑走許容限界Aを示しており、滑走の発生を滑走許容限界A以下の確率とするためには、比粘着係数がそれぞれ1両目において0.75、2両目においては0.95、3両目において1.2、4両目においては1.65であり、5両目においては、2.3となるように各車両の加速力又は制動力の制御装置を設計するとよい。
【0033】
このように、列車における各車両のブレーキ負担率決定のための指針を示すことができる。
【0034】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のレールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法は、列車における各号車のブレーキ負担率決定のための指針を示すことができ、加速力又は制動力の車両用制御装置の設計に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る比粘着係数を求める例を示す図である。
【図2】本発明に係る粘着係数の測定結果例(新幹線)を示す図である。
【図3】本発明に係る粘着係数の測定実施例を示す図である。
【図4】本発明に係る比粘着係数に対する滑走確率の関係を示す図である。
【図5】本発明に係る比粘着係数対滑走確率の関係を新幹線車両の設計に利用する例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)粘着係数測定値とその時の速度から比粘着係数を算出し、
(b)該算出した比粘着係数を値の小さいものから大きなものへと順に並べ、最も小さいものを1として番号付けを行い、
(c)該付与した番号の全てを、粘着係数測定試験時にブレーキ力を繰り返し与えた総回数で除することにより、前記比粘着係数に対する滑走確率を得るようにしたことを特徴とするレールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法。
【請求項2】
請求項1記載のレールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法において、前記粘着係数測定値μi とその時の速度vi から得られる粘着係数計画式μ(vi )により前記比粘着係数μi ′を次式により算出することを特徴とするレールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法。
μi ′=μi /μ(vi
【請求項3】
請求項2記載のレールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法において、新幹線車両においては、前記粘着係数測定値μi とその時の速度vi から次式により前記比粘着係数μi ′を算出することを特徴とするレールと車輪間の粘着係数測定値の評価方法。
μi ′=μi /〔13.6/(vi +85)〕

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−292380(P2009−292380A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149584(P2008−149584)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】