説明

ロボットの制御方法および制御装置

【課題】新たな設備投資や改造をすることなく、既存の設備を使い実現できる溶着解除の方法とその装置を提供する。
【解決手段】スポット溶接実行後、ワークWと溶接ガン10の電極との間で溶着が発生したことを検出すると、電極を再度ワークWに予め設定された力で加圧し、開閉部に予め設定された電流値および通電時間にて通電するとともに、ロボット1により溶接ガン10をその加圧方向軸回りの予め設定された向きに予め設定された角度だけ回転させた後、電極の開放を試みるという一連の動作を行い、ワークWと電極との溶着を溶融、剥離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式溶接ガンを先端に装着してスポット溶接を行うロボットに関し、特に亜鉛めっき等の被溶接材を溶接した際に発生する溶着を解除するロボットの制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットによるスポット溶接の構成例を図6に示す。図では、多関節ロボット1がその先端に取り付けられたエア駆動式のスポット溶接用のガン17を用いて治具40上のワークWを加圧し溶接する場合の構成を示している。
図6では、全体の構成を説明するためにロボット1と溶接ガン17とを分離して描いているが、実際にはロボット1の手首先端に溶接ガン17が取り付けられている。
溶接ガン17の先端部分は開閉自在に構成されており、シリンダー18から下向きに伸びたシャンク16Uの先端には電極チップ16aが取り付けられ、ガンアーム15の側には、シャンク16Lの先端に電極チップ16bがシャンク16U、電極チップ16aに対向するように取り付けられている。シリンダー18が動作してシャンク16Uが下方へ伸びることで複数枚重ねたワークW、例えばワークW1、W2を2つの電極チップ16a、16bによって挟んで加圧し、両電極間にトランス12より溶接電流を供給しスポット溶接を行う。
また、エアの代わりに電動モータを駆動源としたスポット溶接ガンも普及しており、図1に示すように、ロボットコントローラ2により制御されたモータ11によって駆動部13、14を介して可動側の電極チップ16aを上下に動かしワークWを加圧、トランス12により溶接電流を流すという一連の溶接動作をなし、ワークを高速で溶接することができる。
しかしながら、ワークWに対するスポット溶接が終了しても、図7に示すように、溶接打点位置で電極チップとワークWが様々な状態で付着(以後、溶着という)して、ロボット1を動作させることができないという問題が生じていた。
具体的には、図7(a)のように固定側チップ16bのみが溶着する場合、図7(b)のように可動側チップ16aのみが溶着する場合、あるいは図7(c)のように可動側チップ16a、固定側チップ16bが双方とも溶着する場合がある。特に亜鉛めっき処理のワークの場合は、スポット溶接によってナゲットが生成されてもチップとワークが溶着しやすく、連続自動溶接の途中でロボット1が停止してしまうことが多かった。
【0003】
そこで従来方法では、図6に示すようにエア式溶接ガン17にガン先端部の開放を確認するためのリミットスイッチ20を設けるなどしていた。ガン先端部の開放時にシャンク16Uと連動して上方へ移動する部材がシリンダー18の上方のリミットスイッチを作動させることによって溶接後にエア式溶接ガン17の先端部が正常に開放されているか否かを確認し、開放されなければ図7のように電極チップがワークWと溶着している状態と判断してロボット1の動作を止めるようにし、その後作業員が工具を使って溶着部を剥離させていた。
しかし、従来の技術では溶着を検出することは容易だが、その後の溶接ガンとワークを剥がす際には、人手による作業に頼らざるを得なかった。
【0004】
そこで、溶着の確認と溶着部の分離とを自動的に行う方法として、特許文献1のようなものがあった。すなわち、図7に示すような溶着現象を踏まえて、溶接終了時に図6の溶着検出部7にて溶接ガン17と治具40との間で電気的な導通を検出すれば溶着したと判断し、その場合には少なくとも1回、溶接ガン17に再通電することにより溶着状態を解除するというものである。
【0005】
さらに別の従来技術として、図6の構成において、ロボットコントローラ2内の溶着検出部7にて溶着を検出した後、再度溶接ガン17にエアを加圧すると同時に、入出力部3から溶接タイマ30へ指令を出力し、溶接ガン17の両電極間に電流を供給しつつ、ロボット1を動作させ溶接ガン17を垂直軸回りに正、逆に回転動作させ溶着を解除するという方法があった(例えば特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平1―299784号公報
【特許文献2】特開平6−122077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、再通電による溶接を繰り返すだけであるため、電極チップの損傷状態、ワークの材質や表面状態、溶接条件などによっては、逆に双方が溶融してさらに溶着を促進する恐れがあった。
また特許文献2の方法では、溶接ガンがエア式のため電極の加圧力を適切に制御することが不可能で、高い加圧力で挟んだままロボットにより溶接ガンを回転させることによりワークも歪みやすくガンの電極部の芯ズレや電極の摩耗、損傷といった悪影響もあり頻繁には利用できなかった。
本発明は、このような問題点に鑑み、特に電動式溶接ガンについて新たな設備投資や改造をすることなく、既存の設備を使い実現できる溶着解除の方法とその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するために、次のようにしたものである。
請求項1に記載の発明は、電動機により電極を駆動する溶接ガンを装着し、前記溶接ガンよってスポット溶接を行うロボットの制御方法であって、スポット溶接実行後、ワークと前記電極との間で溶着が発生したことを検出すると、前記電極を再度前記ワークに予め設定された力で加圧し、前記開閉部に予め設定された電流値および通電時間にて通電するとともに、前記ロボットにより前記溶接ガンをその加圧方向軸回りの予め設定された向きに予め設定された角度だけ回転させた後、前記電極の開放を試みるという一連の動作を行い、前記ワークと前記電極との溶着を溶融、剥離させることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、前記溶接ガンをその加圧方向軸回りの前記予め設定された向きに前記予め設定された角度だけ回転させた後、折り返し前記溶接ガンを逆向きに回転させてから、前記電極の開放を試みることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、前記溶接ガンをその加圧方向軸回りの前記予め設定された向きに前記予め設定された角度だけ回転させた後、折り返し前記溶接ガンを逆向きに回転させ前記溶接ガンの姿勢をスポット溶接実行時の姿勢に戻してから、前記電極の開放を試みることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、前記溶着検出時の一連の動作を予め設定された回数繰り返し、前記回数繰り返し後も前記溶着が解消されない場合は、前記ロボットを停止することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、前記回転の向きは、前記溶接ガンが前記ワーク周辺の物体と干渉しない方向であることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、前記溶着検出時の一連の動作での前記電極の加圧力、前記通電する電流値、前記通電時間、前記回転の向き、前記回転の角度、前記繰り返し回数は、スポット溶接の打点ごとに設定することを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、電動機により電極を駆動する溶接ガンを装着し、前記溶接ガンよってスポット溶接を行うロボットの制御装置において、前記制御装置は、前記電極へ通電を行う溶接タイマと前記ロボットと前記溶接ガンの電動機を制御する中央処理部と、電気的導通によってワークと前記電極との間で溶着が発生したことを検出する溶着検出部とを備え、前記中央処理部は、前記溶着検出部にて溶着を検出すると、予め設定された前記電極の加圧力、電流値、通電時間、回転の向き、回転の角度に従って、前記電極を再度前記ワークに前記加圧力で加圧し、前記開閉部に前記予め設定された電流値および前記予め設定された通電時間にて通電するとともに、前記ロボットにより前記溶接ガンをその加圧方向軸回りの前記予め設定された向きに前記予め設定された角度だけ回転させた後、前記電極の開放を試みるという一連の動作を行い、前記ワークと前記電極との溶着を溶融、剥離させることを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、前記溶接ガンをその加圧方向軸回りの前記予め設定された向きに前記予め設定された角度だけ回転させた後、折り返し前記溶接ガンを逆向きに回転させてから、前記電極の開放を試みることを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、前記溶接ガンをその加圧方向軸回りの前記予め設定された向きに前記予め設定された角度だけ回転させた後、折り返し前記溶接ガンを逆向きに回転させ前記溶接ガンの姿勢をスポット溶接実行時の姿勢に戻してから、前記電極の開放を試みることを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、前記中央処理部は、前記溶着検出時の一連の動作での前記電極の加圧力、前記通電する電流値、前記通電時間、前記回転の向き、前記回転の角度、前記繰り返し回数を、スポット溶接の打点ごとに記憶することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ワーク上に形成された溶接ナゲットや溶接ガンの電極を損なうことなく、確実に溶着を解除することができる。また、ロボットが溶着解除を自動的に行うため、作業者の負担を軽減し、製造ラインの生産効率も向上できるという効果がある。
さらに、溶着解除の際の各パラメータを容易に設定・変更できるため、特性の異なる様々なワークに対応可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施例と図面により詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は本発明のシステム構成の概略図である。図において、1はロボット、2はロボット1および後述する電動式溶接ガン10を制御するロボットコントローラ、10はロボット1の手首先端に取り付けられたスポット溶接用の電動式溶接ガンである。30は溶接タイマで、電動式溶接ガン10へ溶接電流を供給する。
図1では、本発明の全体の構成を説明するためにロボット1と電動式溶接ガン10とを分離して描いているが、実際には図2に示すようにロボット1の手首先端に電動式溶接ガン10が取り付けられている。
40は、スポット溶接の対象となる被溶接材W1とW2を載置するための治具である。
以下の説明では、被溶接材W1とW2をまとめてワークWと称す。
【0012】
電動式溶接ガン10のガンアーム15にはシャンク16Lを介して固定側の電極チップ16bが取り付けられ、これに対向する可動側にはシャンク16Uを介して可動側の電極チップ16aが取り付けられている。
可動側電極16aには、電動式溶接ガン10に付帯するモータ11の動力がプーリ14、ボールネジ13を介して伝達され、可動側電極16aは開閉動作を行う。具体的には、加圧方向線21上を上下動する。
【0013】
モータ11の動作は、ロボットコントローラ2内のガンモータ制御部6によって制御される。電動式溶接ガン10の溶接電流制御は、ロボットコントローラ2内の入出力部3からの溶接指令を受けた溶接タイマ30の入出力部31にて行われ、その電流は、溶接タイマ30から電源2次ケーブル32、33を経て電動式溶接ガン10に付帯するトランス12に送り込まれる。また、溶接終了後の溶着を検出するために、ロボットコントローラ2内には溶着検出部7が設けられ、溶着検出部7には電動式溶接ガン10からの検出線8bと、治具40からの検出線8aが接続されている。
ロボットコントローラ2内の中央処理部4は予め教示された手順でシステム全体を統括し、ロボット1、電動式溶接ガン10、溶接タイマ30を制御する。
【0014】
図1のシステムによる、ある打点でのスポット溶接から溶着解除までについて、図3に示すフローに沿って具体的に説明する。
まず、ロボットコントローラ2内のロボット制御部5が中央処理部4の指令に従ってロボット1の各関節軸を制御し、ロボット1を動作させる。ロボット1の動作に伴いその手首部に取り付けられた電動式溶接ガン10も移動し、その固定側電極16bを目的位置であるワークW上の打点位置SPに到着させ、変数n(n:0以上の整数)に0をセットする(図3のステップ1)。nについては後述する。
次に、ロボットコントローラ2内のガンモータ制御部6にてモータ11を駆動して可動側シャンク16Uの電極チップ16aを下へ移動させてワークWに当接加圧させ、対向する固定側電極16bとで打点位置SPにてワークWを挟む(図3のステップ2)。
【0015】
それと同時にロボットコントローラ2が溶接タイマ30内の入出力部31へ信号線を介して起動指令を与える(ステップ3)。すると溶接タイマ30は電源2次ケーブル32、33を介してトランス12に電流を流し、これを受けて電極間にも電流が流れ、ワークWに対しスポット溶接を行う(ステップ4)。
スポット溶接の際の溶接電流および溶接時間は溶接タイマ30により制御され、溶接終了時には、溶接タイマ30からロボットコントローラ2の入出力部3へ完了信号を送る。ロボットコントローラ2は完了信号を受けると、即座にガンモータ制御部6により可動側電極16aを上へ移動させる指令を出すと共に、ロボット制御部5により電動式溶接ガン10を下方へ移動させる指令を出し、ワークWを解放するための開放動作を行う。(ステップ5)。
以上でスポット溶接のシーケンスは終了するが、最後は前述のようにロボットコントローラ2内の溶着検出部7にて電気的導通を確認することで電動式溶接ガン10とワークWとの溶着を判断する(ステップ6)。
溶着が発生していない場合には、ロボット1を次の打点位置へと動作させ(ステップ15)、再度ステップ1からのスポット溶接のシーケンスを行う。
【0016】
以下では、スポット溶接実行後に電動式溶接ガン10とワークWとの溶着が検出された場合の処理について説明する。これらの処理は、図3のフローチャートのステップ7〜14に相当する。
溶着が検出された場合、まずその打点での溶着発生の回数が予め設定された回数N(N:自然数)以上となっているかどうかを確認する(ステップ7)。前述のnが溶着発生の回数を示す変数であり、nは溶着解除動作後、後述するステップ13にてインクリメントされる。
n>N、すなわち溶着解除動作をN回行ってもなお溶着が解消されなければアラームとしてロボットの動作を停止させる(ステップ14)。
n≦Nの場合は、中央処理部4でその位置を記憶し所定の処理、すなわち、ガン加圧(ステップ8)、溶接タイマの起動(ステップ9)、ガンの回転制御(ステップ10、11)、ガン開放(ステップ12)といった一連の処理を実行する。
以下に、この一連の処理について詳細に説明を行う。
【0017】
まず、溶着が発生した位置を中央処理部4に記憶させる。次に電動式溶接ガン10のモータ11を駆動させ、溶接前の位置にある可動側電極チップ16aをワークWに当接する位置に移動させる。このとき電動式溶接ガン10とワークWとの溶着が図7(a)〜(c)のいずれの場合であっても、ロボットの動作により電動式溶接ガン10を上下方向に適切に移動させることにより、当接させることが可能である。当接位置に移動後、ガン加圧を行う(ステップ8)。可動側電極16aはモータ11により駆動されるため、エアシリンダによる駆動の場合と異なり、加圧力の制御を行うことができる。ステップ8におけるガン加圧では、その加圧力は実際のスポット溶接時より小さい値となるよう設定されている。
【0018】
その後、電動式溶接ガン10をワークWに対し加圧方向線21を中心として回転させるが、その回転方向は時計回りと反時計回りの2通りがある。
図4(a)(b)は、溶着が発生した打点位置における電動式溶接ガン10の動作を示す上面図であり、図3のフローのステップ10および11に相当する。
図4(a)は、上方から見て反時計回りに電動式溶接ガン10を回転させる動作を示しており、図中の矢印の向きに回転させることにより、ワークWを支える治具40のポスト40aとの干渉を避けている。また図4(b)では、上方から見て時計回りに電動式溶接ガン10を回転させて治具ポスト40a を避けている。
なお、図4においては説明のためロボット1を省略し、電動式溶接ガン10についてもガンアーム15のみを描いている。
前述の回転制御とは、ロボット制御部5からの指令によりロボット1の各軸を動作させて予め設定された角速度と角度でガンアーム15を加圧方向線21を中心として正または負の方向、つまり時計回りまたは反時計回りに回転させ、瞬時にその逆方向に回す制御を言う。
回転中もロボット1の各軸を動作させて電動式溶接ガン10の姿勢を制御しているため、電動式溶接ガン10はワークWに対して適切な打角を保っている。
さらに、前述のように可動側電極をモータによって駆動する電動式溶接ガンを用いているため、ワークWへの加圧力もエア式のようにスポット溶接時と同じ強い加圧力でなく、ガンアーム15が回転しやすいように低い加圧力が設定されている。
【0019】
電動式溶接ガン10の加圧回転に先立ち、ステップ9にてロボットコントローラ2より溶接タイマ30に対し通電指令を出力している。これによりワークWを把持する2つの電極チップ間に電流が流れ、そのジュール熱により溶着部を溶融させ、ガンアーム15の回転による剥離をさらに容易にしている。この際、通電時間はガンアーム15の回転時間より短く、また電流値は実用溶接電流より低く設定されており、コントローラ2は設定に従って溶接タイマ30を制御する。
ガンアーム15の回転が終了すると、ステップ5と同様の電動式溶接ガン10の開放動作を行う(ステップ12)。
一連の処理が終わると、nをインクリメントし(ステップ13)、再度ステップ6へ戻って溶着が解消されたか確認する。
【0020】
図5は、前述のステップ7〜11の溶着解除処理のパラメータである、回転方向、回転角度、回転中の加圧力、通電時間、通電値、繰り返し処理ループ回数の設定の一例を示している。図5における「繰り返し数」がNに相当し、この例では溶着解除処理を3回行っても解消されなければステップ14にてアラームを発生させる。
このような設定が打点ごとに中央処理部4に予め記憶されており、さらにロボットコントローラ2に接続された図示しない教示装置を使って閲覧したり、設定を変更したりすることができる。
【0021】
なお、図5のような溶着解除に使用する処理条件は、ワークWの材質や表面状態、その他の諸条件に合わせて適切に決めることができるが、既に溶接ナゲットが生成された後の処置を考慮すると、ワークWする通常のスポット溶接時の条件よりは、電流は低く、短時間の通電で問題無い。加圧力もスポット溶接より低い加圧力を与えるのみでよい。
前述のように、一連の溶着解除手順は1つの打点について最大N回まで繰り返せるようになっているが、溶着した位置で溶接ガンを回して大きな偶力を与えられるので、通常は1回の回転動作で充分に溶着を解除しうる。
よって、ステップ11の逆方向の回転では、電動式溶接ガン10の姿勢を必ずしも正回転開始前の姿勢にまで戻す必要はない。例えば、ステップ10にて電動式溶接ガン10を上方から見て反時計回りに15°回転させた後、時計回りに10°回転させた時点で電動式溶接ガン10の開放動作と溶着確認を行い、溶着が解除されていなかった場合のみ、電動式溶接ガン10をさらに時計回りに5°回転させて元の姿勢に戻し、溶着が解除されていたら次の打点へ移動するようにしてもよい。また、ステップ10にて電動式溶接ガン10を上方から見て反時計回りに回転させた時点で電動式溶接ガン10の開放動作と溶着確認を行い、溶着が解除されていなかった場合のみ、電動式溶接ガン10を時計回りに回転させて元の姿勢に戻し、溶着が解除されていたら次の打点へ移動するようにしてもよい。
さらに、この方法および装置を生かせる溶接ガンの種類も図1のようなCタイプガンだけでなく、図示しないXタイプガンの場合にも同様に適用できる。
【0022】
以上述べた本発明の概要を繰り返すと、次のようになる。
溶着が発生した打点位置で、電動式溶接ガンのモータを制御して通常のスポット溶接時の加圧力より低い加圧力にて電極をワークに当接させ、圧力を加える。ワークと垂直に当接している双方の電極チップの軸心すなわち加圧方向線まわりに、しかも干渉物の無い方向に設定角度だけガンを回転させる。ガンを回転させることで充分大きな偶力を溶着した打点位置に与えることができ、さらには補助として、凝固されたナゲットを損なわない程度の、実用の溶接電流より低い電流を所定の時間分だけ付与する事で、少ないジュール熱で表面のみ溶融を促進させて合金化されたチップとワークを離脱しやすくする。またこの時の回転角は大きくする必要はなく、10〜20°程度でよい。さらにロボットコントローラ2にて回転方向と角度を設定することができる。このような一連の動作を最大で所定の処理回数(N回)だけおこない、溶着が解除できれば次の溶接作業に移行する。
【0023】
本発明によれば、既存の溶接ナゲットを損なうことなく、ワークと電極チップを確実に乖離させることができる。よって、作業員がロボットを止めて剥離作業をする場合と比べ格段に生産効率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、電動式溶接ガンを装着したスポット溶接ロボットに広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のシステム構成を示す図である。
【図2】本発明によるワークへのスポット溶接の様子を示す斜視図である。
【図3】本発明によるスポット溶接から溶着解除までの一連の動作を示すフローチャートである。
【図4】溶着解除時の電動式溶接ガンの動作例を示す上面図である。
【図5】溶着解除時のパラメータ例である。
【図6】従来のシステム構成を示す図である。
【図7】溶着現象を模式的に説明した側面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ロボット
2 ロボットコントローラ
3 入出力部
4 中央処理部
5 ロボット制御部
6 ガンモータ制御部
7 溶着検出部
8a、8b 検出線
10 電動式溶接ガン
11 モータ
12 トランス
13 ボールネジ
14 プーリ
15 ガンアーム
16a 可動側電極
16b 固定側電極
16U 可動側シャンク
16L 固定側シャンク
17 エア式溶接ガン
18 シリンダー
19 バルブ
20 リミットスイッチ
21 加圧方向線
30 溶接タイマ
31 入出力部
32、33 電源2次ケーブル
40 治具
40a 治具ポスト
W、W1、W2 ワーク
SP 打点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機により電極を駆動する溶接ガンを装着し、前記溶接ガンよってスポット溶接を行うロボットの制御方法であって、
スポット溶接実行後、ワークと前記電極との間で溶着が発生したことを検出すると、前記電極を再度前記ワークに予め設定された力で加圧し、前記開閉部に予め設定された電流値および通電時間にて通電するとともに、前記ロボットにより前記溶接ガンをその加圧方向軸回りの予め設定された向きに予め設定された角度だけ回転させた後、前記電極の開放を試みるという一連の動作を行い、前記ワークと前記電極との溶着を溶融、剥離させることを特徴とするロボットの制御方法。
【請求項2】
前記溶接ガンをその加圧方向軸回りの前記予め設定された向きに前記予め設定された角度だけ回転させた後、折り返し前記溶接ガンを逆向きに回転させてから、前記電極の開放を試みることを特徴とする請求項1記載のロボットの制御方法。
【請求項3】
前記溶接ガンをその加圧方向軸回りの前記予め設定された向きに前記予め設定された角度だけ回転させた後、折り返し前記溶接ガンを逆向きに回転させ前記溶接ガンの姿勢をスポット溶接実行時の姿勢に戻してから、前記電極の開放を試みることを特徴とする請求項1記載のロボットの制御方法。
【請求項4】
前記溶着検出時の一連の動作を予め設定された回数繰り返し、前記回数繰り返し後も前記溶着が解消されない場合は、前記ロボットを停止することを特徴とする請求項1記載のロボットの制御方法。
【請求項5】
前記回転の向きは、前記溶接ガンが前記ワーク周辺の物体と干渉しない方向であることを特徴とする請求項1記載のロボットの制御方法。
【請求項6】
前記溶着検出時の一連の動作での前記電極の加圧力、前記通電する電流値、前記通電時間、前記回転の向き、前記回転の角度、前記繰り返し回数は、スポット溶接の打点ごとに設定することを特徴とする請求項1記載のロボットの制御方法。
【請求項7】
電動機により電極を駆動する溶接ガンを装着し、前記溶接ガンよってスポット溶接を行うロボットの制御装置において、
前記制御装置は、前記電極へ通電を行う溶接タイマと前記ロボットと前記溶接ガンの電動機を制御する中央処理部と、
電気的導通によってワークと前記電極との間で溶着が発生したことを検出する溶着検出部とを備え、
前記中央処理部は、前記溶着検出部にて溶着を検出すると、予め設定された前記電極の加圧力、電流値、通電時間、回転の向き、回転の角度に従って、前記電極を再度前記ワークに前記加圧力で加圧し、前記開閉部に前記予め設定された電流値および前記予め設定された通電時間にて通電するとともに、前記ロボットにより前記溶接ガンをその加圧方向軸回りの前記予め設定された向きに前記予め設定された角度だけ回転させた後、前記電極の開放を試みるという一連の動作を行い、前記ワークと前記電極との溶着を溶融、剥離させることを特徴とするロボットの制御装置。
【請求項8】
前記溶接ガンをその加圧方向軸回りの前記予め設定された向きに前記予め設定された角度だけ回転させた後、折り返し前記溶接ガンを逆向きに回転させてから、前記電極の開放を試みることを特徴とする請求項7記載のロボットの制御装置。
【請求項9】
前記溶接ガンをその加圧方向軸回りの前記予め設定された向きに前記予め設定された角度だけ回転させた後、折り返し前記溶接ガンを逆向きに回転させ前記溶接ガンの姿勢をスポット溶接実行時の姿勢に戻してから、前記電極の開放を試みることを特徴とする請求項7記載のロボットの制御装置。
【請求項10】
前記中央処理部は、前記溶着検出時の一連の動作での前記電極の加圧力、前記通電する電流値、前記通電時間、前記回転の向き、前記回転の角度、前記繰り返し回数を、スポット溶接の打点ごとに記憶することを特徴とする請求項7記載のロボットの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−44748(P2007−44748A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233562(P2005−233562)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】