説明

ロボットアーム装置

【課題】アームの旋回位置によってアーム先端部における重力方向の変位差が生じ得るという不具合や、昇降部の上昇時に基台本体部の内部空間の埃等が舞い上がって基台の外部に放出され得るという不具合を抑制・防止可能なロボットアーム装置を提供する。
【解決手段】起立壁33に正対した場合に、シータ軸J及び昇降軸(ネジ軸61)の各軸心Jc,61cを、起立壁33の幅方向中央部33cと一致させ、且つ、昇降部4を最下降させた状態で基台本体部3の内部空間で起立壁33の高さ方向中間点33hより下方に存在する部品、すなわち昇降駆動用モータ7、リニアガイド部8(ガイドレール81)、可動部62(可動部62を構成するナット体621、ナット保持体622、被ガイド体623)、排気口9に付帯させたファンを、起立壁33の幅方向中央部33cを中心に左右対称となるように配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回及び昇降可能なアームを備えたロボットアーム装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば複数のリンク要素を連結してなるアームの基端部をベース部(基台)に水平旋回可能に支持させたロボットアーム装置が知られている。ロボットアーム装置は、アーム全体を水平旋回させたり、リンク要素同士を関節部分で回転させてアームの全体形状を適宜変形させて、その先端部(エンドエフェクタ)でウェーハや液晶等の搬送対象物を保持して所定の場所(次工程の処理装置等)に搬送可能な搬送装置として機能し得るものである。
【0003】
そして、基台に対してアームが上下動し得るように昇降機構を備えたロボットアーム装置も開発され、既に実用化されている。このようなロボットアーム装置の一例としては、基台を、基台本体部と、アームの基端部を水平旋回可能に支持した状態で基台本体部に対して昇降可能な昇降部(昇降基台)とによって構成し、昇降機構を構成する部材を基台本体部や昇降部の適宜箇所に配置した態様が挙げられる。具体的には、昇降駆動用モータや、この昇降駆動用モータからの動力によって作動する作動部材(例えばボールネジ)を基台本体部に固定した態様が知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−166376号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2008/059815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アームを旋回軸回りに左右方向へ自在に旋回可能に構成した上記各特許文献記載のロボットアーム装置は、昇降機構を構成する各部材(昇降用駆動モータやボールネジ等)が旋回軸の軸心を中心に左右アンバランスに配置されている。特に基台の小型化を図る場合には、スペース的な制約が大きく、配置し易い箇所に配置していくという設計思想が優先され、昇降機構を構成する各部材を旋回軸の軸心を中心にバランスを取って配置する点はほとんど考慮されていないのが現状であると推察できる。
【0006】
しかしながら、昇降機構を構成する各部材を旋回軸の軸心を中心にアンバランスに配置した場合には、基台本体部、ひいては基台の左側領域と右側領域とで剛性や重量に差異が生じる。そして、左右非対称な配置によって生じる基台の左側領域と右側領域との微小なアンバランスが、アームの先端部分における重力方向の変位に大きく現れるおそれがある。すなわち、アームの旋回位置(旋回角度)によって、アームの先端部分における重力方向への変位差が生じ得るのである。そして、このような変位差が生じ得るロボットアーム装置を搬送装置として機能させる場合、旋回位置によってアームの先端部分で搬送対象物を安定して保持できないという、搬送装置として致命的な欠陥を有し得るものとなる。
【0007】
また、基台本体部はカバー等によって外部から隔離した内部空間を形成しているが、昇降部の昇降動作によって内部空間に生じ得る埃(粉塵)等が巻き上がり、昇降部のスムーズな昇降動作を確保するために昇降部と基台本体部との間に確保した隙間(基台本体部に形成した開口部)からその埃が基台の外部へ放出され得る。このようなロボットアーム装置では、基台の周辺環境を基台本体部の内部空間内と同様にクリーンな雰囲気に保つ必要がある場面に用いることができず、特にアームの先端部でウェーハ等の精密部品を保持して搬送する搬送装置として活用した場合には、昇降部と基台本体部との隙間(基台本体部に形成した開口部)から基台の外部へ放出された埃やごみ等が精密部品に付着するおそれがあり、搬送処理能力の大幅な低下につながる。
【0008】
本発明者らは、このような不具合を解消すべく鋭意研究したところ、これまでに着目されることのなかった斬新な技術的思想、構成を採用することによって、これら不具合の発生を抑制できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、先端側にエンドエフェクタを備えたアームと、このアームを支持する基台とを備え、基台を、基台本体部と、アームを旋回軸によって左右方向に旋回可能に支持した状態で基台本体部に対して昇降可能な昇降部と、昇降部を昇降軸に沿って昇降させる昇降機構とによって構成したロボットアーム装置に関するものである。
【0010】
そして、本発明のロボットアーム装置は、基台本体部として、昇降部の一部または全部を収容し得る内部空間を備えたものを適用し、この内部空間が、少なくとも、底壁と、昇降部の昇降動作を許容する開口部を有する天井壁と、これら底壁と天井壁との間に起立姿勢で配置した起立壁と、起立壁と正対する位置に配置した正面壁と、起立壁と正面壁との間に配置した左右両側壁とによって形成される閉空間であり、起立壁に正対した場合に、旋回軸及び昇降軸の各軸心を起立壁の幅方向中央部と一致させ、且つ昇降部を最下降させた状態で基台本体部の内部空間において起立壁の高さ方向中間点より下方に存在する部品を、起立壁の幅方向中央部を境に左右対称に配置していることを特徴としている。
【0011】
ここで、「起立壁に正対した場合」とは、起立壁に対して真っ直ぐ向き合う方向から見た場合と同義であり、以下では適宜「正面視」という文言を用いる場合がある。また、以下の説明において用いる「左側領域」とは、起立壁に正対した場合に起立壁の幅方向中央部を境にした一方側(左側)の領域を意味し、「右側領域」とは、起立壁に正対した場合に起立壁の幅方向中央部を境にした他方側(右側)の領域を意味する。また、基台本体部の内部空間は、少なくとも、底壁、天井壁、起立壁、正面壁、及び左右両側壁とによって形成されたものであればよく、各壁がそれぞれ別体のもの、或いは隣接する壁同士を一体に有するもの、これら何れであってもよい。さらに、一つの壁を複数の部材から構成する態様であっても構わない。また、底壁または底壁に据え付けた底以外の壁(起立壁等)に対して着脱可能なカバーによって所定の壁(例えば正面壁や側壁等)を形成することもできる。
【0012】
本発明のロボットアーム装置は、基台本体部の内部空間内に存在する部品、特に、昇降部を最下降させた状態で基台本体部の内部空間において起立壁の高さ方向中間点より下方に存在する部品を、起立壁に正対した場合に旋回軸及び昇降軸の各軸心と一致する起立壁の幅方向中央部を境に左右対称に配置するという斬新な技術的思想を採用したものである。このような技術的思想を採用したことによって本発明のロボットアーム装置では、基台本体部の下側領域における左側領域と右側領域のバランスを保った状態でアームを旋回させることができ、左側領域と右側領域とのアンバランスに起因して生じ得る不具合、すなわち、旋回位置や旋回方向によってアームの先端部分における重力方向への変位差が現れるという不具合を効果的に抑制することができる。
【0013】
したがって、このようなロボットアーム装置を搬送装置として活用した場合には、何れの旋回位置であってもアームの先端部分で搬送対象物を安定して保持することができ、搬送能力の大幅な向上を期待することができる。ここで、搬送体対象物を保持する態様は特に限定されないが、一例としては、真空吸引して大気圧との差圧を利用して搬送対象物を保持する「真空吸着保持」、機械的な爪やローラを用いて搬送対象物に物理的に接触して保持する「メカニカル保持」、静電気力で搬送対象物を保持する「静電気保持」、ベルヌーイ効果を利用して搬送対象物を保持する「ベルヌーイ保持」、搬送対象物自体の重力によって保持する(例えばエンドエフェクタに溝または3点以上のノッチを設け、搬送対象物を溝や複数のノッチ内に収めて保持する)「重力保持」を挙げることができる。
【0014】
なお、本発明において、「部品を、起立壁に正対した場合に、起立壁の幅方向中央部を境に左右対称に配置」とは、ある種類の部品が複数である場合には、文言通り、「複数の部品を、起立壁に正対した場合に、起立壁の幅方向中央部を境に左右対称に配置」することを意味し、ある種類の部品が一つである場合には、「その部品の幅方向中央部又は軸心を、起立壁に正対した場合に、起立壁の幅方向中央部と一致するように配置」することを意味する。
【0015】
また、本発明のロボットアーム装置では、昇降部を最下降させた状態で基台本体部の内部空間において起立壁の高さ方向中間点より下方に存在する部品を、正面視において旋回軸及び昇降軸の各軸心と一致する起立壁の幅方向中央部を境に左右対称に配置することによって、昇降部の上昇時に生じ得る上述した不具合を抑制できる。すなわち、本発明者らは、昇降部の昇降動作によって基台本体部の内部空間に生じ得る埃等が、昇降部の上昇移動時に基台本体部内における空気の流れに乗って舞い上がり、昇降部と基台本体との隙間(天井壁に形成した開口部)から基台の外部へ放出されるという不具合の発生が、従来の配置構成、つまり、基台本体部の内部空間における部品の構成配置が左側領域と右側領域とで不均等な配置構成に起因するものであると見出した。具体的に、本発明者らは、基台本体部の内部空間における左側領域と右側領域とで部品の配置が不均等であれば、基台本体部の内部空間内の空気が流れ難く、昇降部の上昇移動時に上方に押し出される空気の流れによって内部空間内において巻き上がった埃等の多くは下方へ向かうことなくそのまま昇降部と基台本体との隙間(天井壁に形成した開口部)から基台の外部へ放出されると考えられるのである。
【0016】
そして、本発明のロボットアーム装置では、基台本体部の内部空間における左側領域と右側領域とで部品を均等に配置した場合には、基台本体部の内部空間内の空気が流れ易く(循環し易く)なり、昇降部の上昇移動時に上方に押し出される空気の流れによって内部空間内において舞い上がった埃等は、上方から下方に向かって循環する空気の流れに沿って下方に向かう。その結果、昇降部の上昇時に基台本体部の内部空間内の埃等が昇降部と基台本体との隙間(天井壁に形成した開口部)から基台の外部へ放出されることを効果的に防止・抑制することができる。したがって、このようなロボットアーム装置を、アームの先端部でウェーハ等の精密部品を保持して搬送する搬送装置して適用した場合には、搬送工程でウェーハ等の精密部品に埃等が不用意に付着することに基づく搬送処理能力の低下を防止することができる。
【0017】
本発明のロボットアーム装置において、起立壁の幅方向中央部を境に正面視において左右対称に配置する部品としては、昇降機構の昇降駆動用モータや、底壁に設けたファンを挙げることができる。特に、底壁にファンを設けた場合には、内部空間内で循環する空気の流れのうち、下方に向かう流れを上方に向かう流れよりも多く(早く)することができ、底壁側から基台の外部へ効率良く排気することができる。したがって、昇降部の上昇移動時に基台本体部の内部空間内で舞い上がる埃等の量自体を減らすことができるとともに、一旦舞い上がった後に下方に向かう埃を底壁側から基台の外部へ効率良く排気することができる。
【0018】
また、本発明のロボットアーム装置において、起立壁に沿って設けられ昇降軸として機能するネジ軸と、昇降部に設けられてネジ軸の回転に伴いネジ軸に対して螺合進退動作可能な可動部とを備えたボールネジ機構を用いて昇降機構を構成した場合には、これらネジ軸及び可動部を、正面視において起立壁の幅方向中央部を中心に左右対称に配置することが好ましい。
【0019】
また、本発明のロボットアーム装置では、昇降機構として、起立壁に沿って設けたリニアガイド部と、昇降部に設けられてリニアガイド部に案内される被ガイド体とを備えたものを適用することができ、この場合には、リニアガイド部及び被ガイド体を、正面視において起立壁の幅方向中央部を境に左右対称に配置することが好適である。
【0020】
さらに、基台の下側領域に限らず、基台の上側領域も正面視において起立壁の幅方向中央部を中心に左右対称に配置することが望ましく、本発明のロボットアーム装置では、アームを旋回駆動させる旋回駆動用モータを、起立壁に正対した場合に旋回軸の軸心(換言すれば起立壁の幅方向中央部)と一致するように配置することも好ましい構成である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、基台を構成する部品、特に基台本体部の内部空間内に存在する部品を、正面視において旋回軸及び昇降軸の各軸心と一致する起立壁の幅方向中央部を境に左右対称に配置することによって、アームの旋回位置ごとにアーム先端部における重力方向の変位差が生じ得るという不具合、及び、昇降部の上昇時に基台本体部の内部空間の埃等が舞い上がって基台の外部に放出され得るという不具合を抑制、防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るロボットアーム装置の全体概略図。
【図2】同実施形態において基台本体部の第1カバーを取り外した状態の図1要部拡大図。
【図3】同実施形態において昇降部のカバーを取り外した状態の図2対応図。
【図4】同実施形態において基台本体部の第1カバーを取り外した状態の正面模式図。
【図5】同実施計形態において昇降部を最下降位置にした状態の図4対応図。
【図6】図3のy−y線断面相当図。
【図7】同実施形態に係るロボットアーム装置の一変形例の図5対応図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0024】
本実施形態に係るロボットアーム装置Xは、図1〜図3に示すように、複数のリンク要素(第1リンク要素A、第2リンク要素B、エンドエフェクタC)から構成されたアーム1と、アーム1を支持する基台2とを備えたものである。なお、図2は、図1の要部拡大図であって後述する基台本体部3の第1カバー36を取り外した状態を示す図であり、図3は、後述する昇降部4のカバー43を取り外した状態の図2対応図である。
【0025】
アーム1は、例えば、アーム1のうち最も基端側(基台2側)に配置した第1リンク要素Aと、第1リンク要素Aの先端部に水平旋回可能に連結した第2リンク要素Bと、第2リンク要素Bの先端部に水平旋回可能に連結したエンドエフェクタCとを備えたものである。このアーム1は、アーム長が最大になる伸長状態(図1参照)と、アーム長が最小になる折畳状態(図示省略)との間で形状が変わるリンク構造(多関節構造)のものである。
【0026】
本実施形態のロボットアーム装置Xは、図4(同図は図3のT方向矢視図(正面図)である)に示すように、シータ軸J(本発明の「旋回軸」に相当)を介してアーム1と基台2とを連結している。本実施形態では、シータ軸Jを介して第1リンク要素Aの基端部を基台2に連結している。
【0027】
第1リンク要素Aの基端側には、シータ軸Jを配置する領域を形成している。なお、図示していないが、本実施形態では、シータ軸Jの下端部に、シータ軸用モータ(旋回駆動用モータ)Mによって駆動・従動するシータ軸用プーリ及びシータ軸用ベルトを配置し、シータ軸Jのうちこれらシータ軸用プーリ及びシータ軸用ベルトに干渉しない上半部領域にシータ軸用ギアを一体回転可能に設けている。
【0028】
エンドエフェクタCは、先端部がフォーク状(図示例では二股状)をなし、適宜箇所に形成した吸着用エア供給口Caから供給される負圧エアによって搬送対象物を吸着可能に構成したものである。また、エンドエフェクタの先端部の形状はフォーク状のものに限られず、他の適宜の形状のものであってもよい。
【0029】
基台2は、基台本体部3と、シータ軸Jを介してアーム1の基端部(第1リンク要素Aの基端部)を水平旋回可能に支持した状態で基台本体部3に対して昇降可能な昇降部4と、昇降部4を昇降移動させる昇降機構5とを備えたものである。
【0030】
基台本体部3は、底壁31と、昇降部4の昇降動作を許容する開口部3aを有する天井壁32と、これら底壁31と天井壁32との間に起立姿勢で配置した起立壁33と、起立壁33と対向するように配置される正面壁34と、起立壁33及び正面壁34の対応する側端同士間に配置される左右の両側壁35とを備え、これら各壁(底壁31、天井壁32、起立壁33、正面壁34、左右両側壁35)によって囲まれる閉空間(本発明の「内部空間」に相当し、以下「内部空間3S」と称する)を有するものである。本実施形態では、天井壁32や両側壁35の一部、及び正面壁35全体を第1カバー36によって構成し(図1参照)、この第1カバー36を取り外した状態(図2及び図3参照)において内部空間3Sが開放される。また、本実施形態の基台本体部3は、底壁31の前後方向中央部近傍に起立壁33を配置し、起立壁33を挟んで正面壁34と対向するように配置される背面壁を有する第2カバー37を備えている(図1参照)。
【0031】
昇降部4は、内部に閉空間41Sを有する昇降部本体41を主体としてなり、昇降部本体41の上端部にシータ軸Jを保持する軸受け部(図示省略)を内蔵するシータ軸保持部42を設けたものである。本実施形態では、シータ軸Jを回転駆動させるシータ軸用モータMを昇降部4の上端部側に付帯させ(図3及び図4参照)、このシータ軸用モータM及び昇降部本体41を共通のカバー43で被覆している(図1及び図2参照)。カバー43によって囲まれる内部空間43Sや昇降部本体41の内部空間41Sは基台本体部3の内部空間3Sとは隔離される空間である。この昇降部4は、所定の最上昇位置と図5に示す最下降位置との間で昇降移動する。
【0032】
昇降機構5は、ネジ軸61(本発明の「昇降軸」に相当)及びネジ軸61に対して螺合進退動作可能な可動部62を有するボールネジ6と、ネジ軸61を回転駆動させる昇降駆動用モータ7と、可動部62の昇降移動をガイドするリニアガイド部8とを備えたものである。
【0033】
本実施形態の基台2は、図4及び図5に示すように、ボールネジ6のネジ軸61を、起立壁33の幅方向中央部33cにおいて鉛直方向に配置し、さらに、図6(図4のy−y線断面に相当する図である)に示すように、昇降駆動用モータ7を、ネジ軸61を挟んで起立壁33に正対するように基台本体部3の底壁31上に載置(配置)している。そして、本実施形態では、起立壁33に正対する方向(以後、この方向を「正面」とする)から見た場合(正面視)において昇降駆動用モータ7(具体的には昇降駆動用モータ7の回転軸71)の軸心7c、ネジ軸61の軸心61c、及び起立壁33の幅方向中央部33cが一致するようにこれら昇降駆動用モータ及びネジ軸61を配置している(図4参照)。
【0034】
また、本実施形態に係る昇降機構6は、図6に示すように、ネジ軸61の上端部及び下端部近傍をそれぞれ軸受け63で回転可能に支持させて、昇降駆動用モータ7の回転駆動をネジ軸61に伝達する動力伝達部を、昇降駆動用モータ7の回転軸71及びネジ軸61の下端部(軸受けよりもさらに下方に突出させた部分)にそれぞれ設けたプーリP1,P2と、これらプーリP1,P2間に掛け渡したベルトVとによって構成している。これにより、昇降駆動用モータ7の回転角度に応じた動力がネジ軸61に伝達してネジ軸61が回転し、このネジ軸61に沿って可動部62が昇降移動する。なお、図6では、説明の便宜上、基台本体部3及び昇降機構5を断面で示し、昇降部4やアーム1を断面ではなく側面視形状で示している。
【0035】
可動部62は、ネジ軸61に直接螺合しているナット体621と、幅方向中央部にナット体621を保持するナット保持体622と、ナット保持体622の左右両側端部にそれぞれ設けられリニアガイド部8に案内される被ガイド体623とを備えたものである。この可動部62は、概略板状をなすナット保持体622のうち、起立壁33に対面する側の面にナット体621及び被ガイド体623を固定し、反対側の面に、上述した昇降部4の下端部に取り付けられる昇降部支持体624を固定したものである。これにより、可動部62の昇降移動に応じて昇降部4全体を昇降移動させることができる。本実施形態では、概略板状をなすナット保持体622の幅方向中央部622cをネジ軸61の軸心61cと一致させ、ナット体621をナット保持体622の幅方向中央部622cに設けるとともに、それぞれ左右一対のナット保持体622及び昇降部支持体624を、ナット保持体622の幅方向中央部622cを境に左右対称に配置している(図4及び図5参照)。なお、左右一対に設けた昇降部支持体624同士の離間寸法(具体的には内法)を、昇降駆動用モータ7の幅寸法よりも大きく設定し、昇降部4が最下降位置にある場合に昇降部支持体624が昇降駆動用モータ7と干渉することを回避している(図5参照)。被ガイド体623は、後述するリニアガイド部8(ガイドレール81)を抱き込んだ状態でリニアガイド部8に沿って上下動可能なものである。本実施形態では、ナット保持体622の幅方向中央部622cを境に左右対称に配置した被ガイド体623を上下に複数段(例えば二段)設けている(図4〜図6参照)。
【0036】
リニアガイド部8は、被ガイド体623をガイドするものであり、本実施形態では、起立壁33に沿って鉛直姿勢で配置したリニアガイドレール81によって構成している。本実施形態では、左右一対のリニアガイドレール81を、起立壁33の幅方向中央部33c、換言すればネジ軸61の軸心61cを中心に左右対称に配置している。
【0037】
さらに、本実施形態の基台2は、図3〜図5に示すように、底壁31に、上下方向(高さ方向)に貫通する排気口9を形成し、この排気口9にファン(図示省略)を載置した状態で取付可能なファン支持部91を形成している。ファン支持部91に取り付けたファンが、排気口9を通じて基台本体部3の内部空間3S内の空気を基台2の外部へ排気する機能を発揮し得る。本実施形態では、ファンによる適切な排気機能を発揮させるべく、底壁31を、排気口9のファンによる排気量に見合った空間を有し、且つその空間を基台2の外部に連通させた台(図示省略)に載置している。なお、底壁31を載置する台としては、昇降部4の昇降動作時に基台本体部3全体が振動しない程度に安定的な強度を持ったものが好適である。
【0038】
本実施形態では、左右一対の排気口9を、起立壁33の幅方向中央部33c、つまりネジ軸61の軸心61cを中心に左右対称に配置している。また、各排気口9の一部または全体が、昇降部4の直下(平面視において昇降部4と重なり得る位置)に配置している。
【0039】
このような構成を有するロボットアーム装置Xは、第1リンク要素A、第2リンク要素B、エンドエフェクタCをシータ軸Jやリンク要素同士の連結部に設けた旋回軸周りに水平旋回させてアーム1全体の形状(姿勢)を適宜変形させることができる。
【0040】
そして、本実施形態に係るロボットアーム装置Xは、エンドエフェクタC上にウェーハ等の搬送対称物を保持して搬送する際に、図示しない吸着切替ユニットをエア供給可能状態にして、エンドエフェクタCの吸着用エア供給口Caから供給される負圧エアによって搬送対称物をエンドエフェクタC上に吸引して保持することができる状態(吸着ON状態)になる。また、本実施形態に係るロボットアーム装置Xは、吸着ON状態を維持したままアーム1を適宜変形させて搬送対象物を所定の搬送位置まで搬送した時点で、吸着切替ユニットをエア供給可能状態からエア供給停止状態に切り替えると、エンドエフェクタCの吸着用エア供給口Caからの負圧エア供給動作を停止して搬送対象物の吸引保持状態を解除する状態(吸着OFF状態)になる。
【0041】
このように、本実施形態に係るロボットアーム装置Xは、吸着切替ユニットをエア供給可能状態とエア供給停止状態との間で切り替えることによって、吸着ON状態または吸着OFF状態となり、エンドエフェクタC上に吸着保持した搬送対象物を好適に搬送することができる。
【0042】
また、本実施形態に係るロボットアーム装置Xは、昇降部4を昇降移動させることによってアーム1全体を上下動させることができる。具体的には、昇降駆動用モータ7で昇降用プーリP1,P2及び昇降用ベルトVを駆動・従動させて、基台本体部3に起立姿勢で配置したネジ軸61を回転させる。すると、このネジ軸61に対して可動部62のナット体621が螺合進退動作を行うことにより、この可動部62の昇降部支持体624に支持されている昇降部4が、基台本体部3の天井壁32に形成した開口部3aを通じて昇降移動し、この昇降部4に支持されているアーム1が上下動する。また、本実施形態のロボットアーム装置Xは、可動部62の被ガイド体623をリニアガイドレール81に案内させながら可動部62全体を昇降移動させることにより、昇降部4全体、ひいてはアーム1全体の安定したスムーズな昇降移動を実現している。
【0043】
そして、本実施形態に係るロボットアーム装置Xは、起立壁33に正対した場合に、シータ軸J及び昇降軸(ネジ軸61)の各軸心Jc,61cを、起立壁33の幅方向中央部33cと一致するように設定し、さらに、図5に示す昇降部4を最下降させた状態で、基台本体部3の内部空間3Sにおいて起立壁33の高さ方向中央部33hより下方に存在する部品、具体的には、昇降駆動用モータ7、リニアガイド部8(リニアガイドレール81)、可動部62(可動部62を構成するナット体621、ナット保持体622、被ガイド体623)、排気口9に付帯させた排気ファンを、起立壁33に正対した場合に、起立壁33の幅方向中央部33cを中心に左右対称に配置している。
【0044】
このように、本実施形態のロボットアーム装置Xは、重心のバランスが下側の領域(基台本体部3のうち特に高さ方向中央部分33hよりも下側の領域)でシータ軸J及びネジ軸61の軸心Jc,61cと一致している起立壁33の幅方向中央部33cを境に左右対称となるように部品の配置を設定しているため、アーム1を左方向へ旋回させた場合と右方向へ旋回させた場合とで生じ得るアーム1先端部の重力方向の変位差を可及的に抑制することができ、搬送対象物を水平姿勢に保持したままで搬送(受け渡し)することができ、搬送能力が向上する。
【0045】
また、本実施形態に係るロボットアーム装置Xは、基台本体部3の内部空間3Sに存在する部品、具体的には、昇降駆動用モータ7、リニアガイド部8(リニアガイドレール81)、ネジ軸61、可動部62(可動部62を構成するナット体621、ナット保持体622、被ガイド体623)、排気口9に付帯させた排気ファンを、起立壁33の幅方向中央部33cを境に左右対称に配置しているため、基台本体部3の内部空間3Sにおける空気が、起立壁33の幅方向中央部33cを境にした左側領域と右側領域で均等に流れ易くなる。その結果、基台本体部3の内部空間3Sに一部を収容した昇降部4が天井壁32の開口部3aを通じて昇降移動する際に、基台本体部3の内部空間3Sにおいて昇降部4の上昇移動に伴って一旦上方へ向かって流れる空気は、基台本体部3の内部空間3Sにおいて円滑に循環する気流に沿って下方へ流れる。これにより、基台本体部3の内部空間3Sにおいて空気が流れ難い場合に生じ得る事態、すなわち、昇降部4の昇降動作によって基台本体部3の内部空間3Sに生じる埃やごみ(粉塵)等が、昇降部4の上昇動作に伴って基台本体部3の内部空間3Sにおいて舞い上がり、そのまま基台本体部3の天井壁32に形成した開口部3aと昇降部4との隙間から内部空間3S外へ押し出されて放出し、搬送対象物に付着してしまうという事態を回避・抑制することができる。
【0046】
さらに、本実施形態では、基台本体部3の底壁31のうち昇降部4の直下に相当する領域に排気口9及びファンを配置しているため、基台本体部3の内部空間3Sにおいて循環する空気のうち、下方へ向かって流れる空気を排気口9及びファンにより底壁31側から基台本体部3外へ効率良く排出することができる。そして、昇降部4の昇降移動時に、この上昇移動に伴って上方へ流れる空気の量(速度)よりも、排気口9及びファンを通じて基台本体部3外へ流れる空気の量(速度)が多く(速く)なるように設定することにより、内部空間3Sに存在する埃やごみ等が空気と共に開口部3aと昇降部4との隙間から内部空間3S外へ噴き出されて搬送対象物に付着してしまう不具合を有効に防止することができる。
【0047】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、昇降駆動用モータを複数(例えば2つ)備えた昇降機構を適用する場合には、これら複数の昇降駆動用モータを、起立壁の幅方向中央部を境に左右対称に配置することによって、上述した作用効果を奏するロボットアーム装置となる。
【0048】
また、上記実施形態では、昇降機構として、ボールネジ機構を用いた態様を例示したが、本発明のロボットアーム装置は、ボールネジ機構に代えて、または加えて(併用して)、ベルト機構、またはワイヤ機構、或いはシリンダ機構を用いて昇降機構を構成することができる。この場合、各機構における昇降軸(ベルトやワイヤの走行経路、或いはピストンの往復動経路)を旋回軸の軸心及び起立壁の幅方向中央部と一致させれば、上述した作用効果を奏するロボットアーム装置になる。
【0049】
また、本発明のロボットアーム装置は、基台本体部の内部空間において起立壁の高さ方向中間点より下方に存在する部品、特に昇降部を最下降させた状態で基台本体部の内部空間において起立壁の高さ方向中間点より下方に存在する部品を、正面視において起立壁の幅方向中央部を中心に左右対称に配置するという条件を満たせばよい。したがって、左右対称に配置すべき部品(以下、「左右対称配置部品」と称す)単位の数によって、その配置を上記条件を満たすように設定すればよい。具体的には、ある特定の左右対称配置部品の数が単数であれば、その部品の幅方向中央部又は軸心を、正面視において起立壁の幅方向中央部と一致するように配置すればよく、ある特定の左右対称配置部品の数が2以上であれば、それら2以上の左右対称配置部品を、正面視において起立壁の幅方向中央部を中心に左右対称となるように配置すればよい。なお、例えばある特定の左右対称配置部品の数が3以上の奇数である場合には、そのうちの1つが正面視において起立壁の幅方向中央部と一致することになる。
【0050】
また、リニアガイド部として、例えば起立壁に高さ方向に形成した長孔を適用し、被ガイド体として、長孔に一部を挿入した状態でこの長孔に沿って進退動作可能な被ガイド体を適用することもできる。
【0051】
また、本発明のロボットアーム装置では、図7に示すように、旋回駆動用モータMの(回転軸の)軸心を、正面視において起立壁33の幅方向中央部33cと一致させるように配置することもできる。このような態様を採用すれば、基台の下側領域のみならず、上側領域において正面視において起立壁の幅方向中央部を中心に左右対称な配置となり、基台全体としてより一層バランスの取れた構造を実現できる。なお、図7では図5に対応する部分に同一の符号を付している。
【0052】
さらに、上述した実施形態では、底壁の奥行き方向(前後方向)中央部近傍に起立壁を配置した態様を示したが、起立壁を奥行き方向(前後方向)中央部近傍以外の位置、例えば底壁の後端部に配置することもできる。
【0053】
また、上述した実施形態では、基台本体部の内部空間を外部と仕切り得る各壁(便宜的に「仕切り壁」と称する)のうち、天井壁及び側壁の一部、正面壁全体を、底壁に対して着脱可能な共通のカバー(第1カバー)によって形成した態様を例示したが、それぞれ別体のカバーで各仕切り壁を形成したり、或いはカバーを用いることなく仕切り壁を形成することも可能である。
【0054】
また、例えば、吸着用エア供給口から低圧エアを供給するリンク式ロボットアーム装置であってもよい。この場合、吸着用エア供給口から吐出される低圧エアをエンドエフェクタの表面に沿って流すことで、搬送対象物とエンドエフェクタを近付けた際に、搬送対象物とエンドエフェクタとの隙間に負圧が生じ、大気圧との圧力差によって搬送対象物に働くエンドエフェクタ側に向かう力を利用して搬送対象物を吸着することができる(ベルヌーイ保持)。
【0055】
また、アームを構成するリンク要素の数や長さは適宜変更してもよく、リンク要素同士を、水平旋回動作に代えて、或いは加えて、鉛直面内で旋回(回転)する(縦振り)動作可能に連結したり、スライド動作可能に連結してもよい。さらには、エンドエフェクタの形状、或いは吸着用エア供給口の数や形状等も適宜変更しても構わない。また、エンドエフェクタによる搬送対象物の保持態様は、「真空吸着保持」や「ベルヌーイ保持」の他に、上述した「メカニカル保持」や、「静電気保持」、或いは「重力保持」、これら何れの保持態様であっても構わない。
【0056】
また、本発明のロボットアーム装置で搬送可能な搬送対象物は、ウェーハに限らず、液晶等、他のものであってもよい。
【0057】
さらには、アームが、例えば、把持部、溶接ガン等、所定の作業対象に直接働きかける機能をもつエンドエフェクタを備えたものであっても構わない。
【0058】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…アーム
2…基台
3…基台本体部
31…底壁
32…天井壁
33…起立壁
33c…起立壁の幅方向中央部
33h…起立壁の高さ方向中央部
3a…開口部
3S…内部空間
4…昇降部
5…昇降機構
61c…昇降軸の軸心(ネジ軸の軸心)
61…昇降軸(ネジ軸)
62…可動部
621…ナット体
623…被ガイド体
7…昇降駆動用モータ
8…リニアガイド部
C…エンドエフェクタ
J…旋回軸(シータ軸)
Jc…旋回軸の軸心(シータ軸の軸心)
X…ロボットアーム装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側にエンドエフェクタを備えたアームを支持する基台を、基台本体部と、前記アームを旋回軸によって左右方向に旋回可能に支持した状態で前記基台本体部に対して昇降可能な昇降部と、昇降部を昇降軸に沿って昇降させる昇降機構とによって構成し、
前記基台本体部が、前記昇降部の一部または全部を収容し得る内部空間を備え、当該内部空間が、少なくとも、底壁と、前記昇降部の昇降動作を許容する開口部を有する天井壁と、これら底壁と天井壁との間に起立姿勢で配置した起立壁と、当該起立壁と正対する位置に配置した正面壁と、前記起立壁と前記正面壁との間に配置した左右両側壁とによって形成される閉空間であり、
前記起立壁に正対した場合に、前記旋回軸及び前記昇降軸の各軸心を、前記起立壁の幅方向中央部と一致させ、且つ前記昇降部を最下降させた状態で前記内部空間において前記起立壁の高さ方向中間点より下方に存在する部品を、前記起立壁の幅方向中央部を境に左右対称に配置していることを特徴とするロボットアーム装置。
【請求項2】
前記起立壁の幅方向中央部を境に左右対称に配置している部品が、前記昇降機構の昇降駆動用モータである請求項1に記載のロボットアーム装置。
【請求項3】
前記起立壁の幅方向中央部を境に左右対称に配置している部品が、前記底壁に設けたファンである請求項1又は2の何れかに記載のロボットアーム装置。
【請求項4】
前記昇降機構が、前記起立壁に沿って設けられ前記昇降軸として機能するネジ軸、及び前記昇降部に設けられ当該ネジ軸の回転に伴いネジ軸に対して螺合進退動作可能な可動部を有するボールネジ機構を備えたものであり、
前記起立壁の幅方向中央部を境に左右対称に配置している部品が、前記可動部である請求項1乃至3の何れかに記載のロボットアーム装置。
【請求項5】
前記昇降機構が、前記起立壁に沿って設けたリニアガイド部と、前記昇降部に設けられ前記リニアガイド部に案内される被ガイド体とを備えたものであり、
前記起立壁の幅方向中央部を境に左右対称に配置している部品が、前記リニアガイド部及び前記被ガイド体である請求項1乃至4の何れかに記載のロボットアーム装置。
【請求項6】
前記アームを旋回駆動させる旋回駆動用モータの回転軸を、前記起立壁に正対した場合に、前記旋回軸の軸心と一致させている請求項1乃至5の何れかに記載のロボットアーム装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate