説明

ロボット用肢体駆動機構、およびこの肢体駆動機構を用いたロボット装置

【課題】低コストで製造可能であり、上肢を上方に持ち上げてその状態を長時間維持することができるロボット装置と、ロボット用肢体駆動機構を提供する。
【解決手段】ロボット用肢体駆動機構は、胴体部11と、胴体部11に対して可動自在に設置される肢体支持部材21と、肢体支持部材21に対して設置される可動肢体22と、胴体部11に固定設置されて駆動力を及ぼすアクチュエータ24と、複数のリンク23a,23cと、当該複数のリンク23a,23cを可動自在に接続するジョイント23bとから構成され、一端側のリンク23aがアクチュエータ24に接続し、他端側のリンク23cが肢体支持部材21と接続することで、アクチュエータ24と肢体支持部材21とをリンク接続するリンク部材23とを備えており、アクチュエータ24から及ぼされる駆動力が、リンク部材23を介して肢体支持部材21に伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット用肢体駆動機構、およびこの肢体駆動機構を用いたロボット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、2足歩行を行う人型ロボットや4足歩行を行う動物型ロボットなどのように、人や動物の形状と動作を模したロボット装置の開発が活発化している。この種のロボット装置では、一般に各肢体の関節の動きを複数個のアクチュエータで実現することが行われている。
【0003】
また、一般的なロボット装置の動作制御手段には、ロボットの体幹に設置されることで体幹の姿勢角や加速度を検出するセンサ群と、これらセンサ群からの信号に基づいて動作可能なエンコーダ付きのモータが利用されている。センサ群を用いることによって、ロボットの姿勢および上半身の重心位置を計測することができるので、その計測データに基づいて各関節のモータを動作制御すれば、ロボット装置全体の動作制御が可能となるわけである。
【0004】
なお、この種のロボット装置に関する技術を開示する先行技術文献として、例えば、下記特許文献1が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−305580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上掲した特許文献1に代表される従来のロボット装置では、上体の動作で遊脚の反動を打ち消すなど、上半身の作用によって歩行の安定化が図られていたため、特に初期のロボット装置には、腕などの上肢を持たないものが大半であった。したがって、上半身に設置された上肢によって作業を行うロボット装置を作成することは、容易ではなかった。
【0007】
一方、近年に至って、上半身に設置された上肢によって作業を行うロボット装置の開発が進められてはいるが、この種のロボット装置の動作制御には、多数のセンサに基づいた大量のデータ処理が必要となってしまう。したがって、従来のロボット装置には、非常に複雑な制御手段が必要となり、その結果として膨大な製造コストを要してしまうという問題が存在していた。
【0008】
また、従来のロボット装置では、アクチュエータとしてのモータが各関節に対して設置されていたので、関節部が大きくなってしまうという問題が存在していた。特に、上半身に設置された上肢に対してモータを設置すると、上肢自体の重量が大きくなってしまうので、例えば上肢を上方に持ち上げるといった動作については、モータに対して大きな負荷を与えてしまうこととなる。したがって、従来のロボット装置にとって、上肢を上方に持ち上げてその状態を長時間安定的に維持することは、事実上不可能であった。
【0009】
本発明は、上述した従来技術に存在する種々の問題点に鑑みて成されたものであって、その目的は、複雑な制御が不要でありながらも安定した動作が可能であり、また、低コストで製造可能であり、さらに、上肢を上方に持ち上げてその状態を長時間安定的に維持するなどといった従来のロボット装置では実現できなかった動作を実現することが可能な、全く新しいロボット装置と、このロボット装置に対して適用可能なロボット用肢体駆動機構とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るロボット用肢体駆動機構は、胴体部と、前記胴体部に対して可動自在に設置される肢体支持部材と、前記肢体支持部材に対して設置される可動肢体と、前記胴体部に固定設置されて駆動力を及ぼすアクチュエータと、複数のリンクと、当該複数のリンクを可動自在に接続するジョイントとから構成され、一端側のリンクが前記アクチュエータに接続し、他端側のリンクが前記肢体支持部材と接続することで、前記アクチュエータと前記肢体支持部材とをリンク接続するリンク部材と、を備え、前記アクチュエータから及ぼされる駆動力が、前記リンク部材を介して前記肢体支持部材に伝達されることを特徴とするものである。
【0011】
また、胴体部に連結された複数本の可動肢体を有し、前記複数本の可動肢体のうち、下肢として機能する可動肢体を用いることで、任意の移動面上を歩行可能とされるロボット装置において、上肢として機能する可動肢体を、上述したロボット用肢体駆動機構によって構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複雑な制御が不要でありながらも安定した動作が可能であり、また、低コストで製造可能であり、さらに、上肢を上方に持ち上げてその状態を長時間安定的に維持するなどといった従来のロボット装置では実現できなかった動作を実現することが可能な、全く新しいロボット装置と、このロボット装置に対して適用可能なロボット用肢体駆動機構とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係るロボット装置の全体構成を示す外観図である。
【図2A】本実施形態に係るロボット装置の胴体部、左手および左足からカバー類を取り外した状態を示す図であり、特に、正面視を示している。
【図2B】図2Aで示した本実施形態に係るロボット装置の右側面視を示す図である。
【図3】本実施形態に係る腕部として採用されたロボット用肢体駆動機構の基本構成を示す要部外観図である。
【図4A】図3にて示されたロボット用肢体駆動機構の内部構造を説明するための図であり、特に、ロボット用肢体駆動機構の内部構造を正面から見た場合の図である。
【図4B】図3にて示されたロボット用肢体駆動機構の内部構造を説明するための図であり、特に、ロボット用肢体駆動機構の内部構造を正面側左斜め上から見た場合の図である。
【図4C】図3にて示されたロボット用肢体駆動機構の内部構造を説明するための図であり、特に、ロボット用肢体駆動機構の内部構造を背面側左斜め上から見た場合の図である。
【図4D】図3にて示されたロボット用肢体駆動機構の内部構造を説明するための図であり、特に、ロボット用肢体駆動機構の要部構造を説明するための図である。
【図5】本実施形態に係る腕部として採用されたロボット用肢体駆動機構の動作を説明するための図である。
【図6】本実施形態に係る腕部として採用されたロボット用肢体駆動機構の構成上の条件を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
図1は、本実施形態に係るロボット装置の全体構成を示す外観図である。また、図2Aは、本実施形態に係るロボット装置の胴体部、左手および左足からカバー類を取り外した状態を示す図であり、特に、正面視を示している。さらに、図2Bは、図2Aで示した本実施形態に係るロボット装置の右側面視を示す図である。
【0016】
本実施形態に係るロボット装置10は、家事ロボットとして製作されたものであり、胴体部11と、胴体部11の下方に設置された下肢としての2本の脚部12と、胴体部11の上方側面に設置された上肢としての2本の腕部13と、胴体部11の上方に設置された1個の頭部14と、を含んで構成されている。
【0017】
本実施形態に係る移動ロボット10は、外部からの押圧力などの外乱がなければ、電源を切った状態であっても図1に示すような直立状態を維持できるように構成されている。特に、2本の脚部12は、停止時においては常に直線的に伸びた状態となるように構成されているので、安全性および安定性に優れた構成となっている。また、2本の脚部12による2足歩行時には、2本の脚部12による足踏み動作が実行されることとなる。そして、移動ロボット10が2足歩行を行うときには、2本の脚部12による足踏み動作を実行する。
【0018】
一方、2本の腕部13は、胴体部11の周囲で自在に移動できるようになっており、電源を切った状態では、図1に示すように2本の腕部13が下方に垂れ下がった状態となるように構成されている。さらに、腕部13の先端には手部13aが設置されているので、この手部13aを利用することで物を掴んだり摘まんだりすることが可能となっている。
【0019】
また、頭部14および胴体部11には、それぞれにCCDカメラ15が設置されている。このCCDカメラ15によって、ロボット装置10の周囲の状況を画像データとして収集することが可能となっている。
【0020】
そして、このロボット装置10は、遠隔操作可能に構成されたロボットであり、離れた位置にある図示しない操作マニピュレータを操作者が操作することで、操作マニピュレータの動きに応じた動作をロボット装置10が実行できるようになっている。したがって、操作者は、インターネット回線等の無線通信手段やロボット装置10に設置されたCCDカメラ15等を介して、遠隔地に居ながらにしてロボット装置10の周囲の状況を把握でき、ロボット装置10の操作ができるようになっている。
【0021】
なお、図2A等にて示されるように、本実施形態に係るロボット装置10は、胴体部11や頭部14等の上半身に設置される部材の重量が非常に軽量化されて構成されている。また、上述したように、電源を切った状態であっても安定して直立を維持できるように構成されているので、姿勢維持のための制御が不要であるという利点を有している。したがって、本実施形態に係るロボット装置10は、従来の2足歩行ロボットのように多数のセンサ類や制御手段を必要としないので、安価に製作することができるという利点を有している。
【0022】
以上、本実施形態に係るロボット装置10の全体構成を説明した。次に、図3〜図4Dを用いて、上述した種々の利点を実現するために採用された腕部13の具体的な構成についての説明を行う。ここで、図3は、本実施形態に係る腕部13として採用されたロボット用肢体駆動機構の基本構成を示す要部外観図である。また、図4A〜図4Dは、図3にて示されたロボット用肢体駆動機構の内部構造を説明するための図であり、特に、図4Aはロボット用肢体駆動機構の内部構造を正面から見た場合の図であり、図4Bはロボット用肢体駆動機構の内部構造を正面側左斜め上から見た場合の図であり、図4Cはロボット用肢体駆動機構の内部構造を背面側左斜め上から見た場合の図であり、図4Dはロボット用肢体駆動機構の要部構造を説明するための図である。
【0023】
本実施形態に係る腕部13は、図3〜図4Dにて示されるように、胴体部11に対して可動自在に設置される肢体支持部材21と、この肢体支持部材21に対して設置される可動肢体22と、を有して構成されている。
【0024】
肢体支持部材21は、人体において上腕部を支える鎖骨および肩甲骨のような機能を発揮する部材であり、図4Bおよび図4C等から明らかな通り、胴体部11の上方側面に対して取り付けられた概略中空枠体形状を有する部材である。この肢体支持部材21は、剛性の高い金属材料から構成されており、外部から加わる衝撃力に強い材料にて構成されている。また、肢体支持部材21は、胴体部11に固定設置されるとともに胴体部11の上方側面から側面外側に突き出した軸部材21aによって、胴体部11に対して傾動自在に接続されている。すなわち、肢体支持部材21は、軸部材21aを回動中心として胴体部11の側面で前後方向に傾動することが可能となっている。この傾動方向を図面を用いて確認的に説明すると、肢体支持部材21の傾動方向は、図4Aにおける紙面手前側から紙面奥側に向かう方向である(当然ながら、その逆方向も含む。)。なお、上述したように、軸部材21aは、胴体部11に対して固定設置された部材であり、軸部材21aにおいて胴体部11外側に向けて突き出した側の軸端部側に対して肢体支持部材21が取り付けられており、さらに、肢体支持部材21は軸部材21aに対して自由状態で接続されている。したがって、肢体支持部材21は、軸部材21aの軸中心を傾動中心として胴体部11の前方や下方、あるいは後方へと自由にその向きを変更できるように構成されている。
【0025】
また、肢体支持部材21は、中空枠体形状をしている関係から、軸部材21aの軸端部と軸中央部という2箇所の位置で軸部材21aによって支えられる構成となっている。従来の一般的なロボットのアーム類は、1点支持されたものが殆どであったため、その1点に力が加わると、この外力を支えられなくなって破損等を起こしてしまうという問題が存在していたが、本実施形態に係る肢体支持部材21は、軸部材21aによって2点支持されているので、外力等に対して非常に強固であるという優位な特徴を有している。
【0026】
一方、胴体部11には、肢体支持部材21に対して駆動力を及ぼすアクチュエータとしてのサーボモータ24が固定設置されている。このサーボモータ24は、図4Aにて詳細に示されるように、胴体部11の内部であって、ちょうど軸部材21aの下方の位置に設置されている。さらに、サーボモータ24が有するモータ軸24aについては、図3および図4Dに示されているように、胴体部11における軸部材21a設置位置の下方の位置に設置されるとともに、モータ軸24aの軸方向が、軸部材21aの軸方向と同じ方向を向くように構成されている。
【0027】
そして、サーボモータ24のモータ軸24aと、肢体支持部材21とは、リンク部材23によってリンク接続されている(特に、図4D参照。)。このリンク部材23は、2つのリンク23a,23cと、これら2つのリンク23a,23cを可動自在に接続する1つのジョイント23bとから構成されている。一方のリンク23aの端部は、サーボモータ24のモータ軸24aに対して固定接続されており、他方のリンク23cの端部は、肢体支持部材21の下端部21bの箇所で肢体支持部材21に対して回動自在な状態で接続されている。なお、肢体支持部材21における他方のリンク23c端部との接続箇所である下端部21bは、軸部材21aとの接続箇所とは離れた位置に配置されており、胴体部11を基準として見たときに、その位置が移動しない軸部材21aの軸中心を公転中心として、その軸部材21aの軸周りで公転移動するように構成されている。
【0028】
サーボモータ24のモータ軸24a、リンク部材23、および肢体支持部材21は、以上のような接続関係を有しているので、サーボモータ24が有するモータ軸24aが回転駆動すると、モータ軸24aは、リンク部材23が備える一方のリンク23aに対して傾動動作を実行させることとなる。ここで、リンク部材23は、サーボモータ24のモータ軸24aと、肢体支持部材21の下端部21bとをリンク接続しているので、一方のリンク23aが傾動すると、この傾動動作に応じて2つのリンク23a,23cが折り畳まれたり突っ張ったりすることとなる。モータ軸24aが、図4Dを紙面に垂直な方向で見た場合の反時計回りで回転駆動されると、2つのリンク23a,23cは折り畳まれる方向に駆動されることになるので、サーボモータ24のモータ軸24aと、肢体支持部材21の下端部21bとの間の距離は、短くなっていく。かかる動作によって、肢体支持部材21は、軸部材21aを傾動中心として胴体部11に対して下方を向くように傾動動作を行うこととなる。これにより、肢体支持部材21に対して設置される可動肢体22は、胴体部11に対して下方を向くこととなる(なお、可動肢体22の詳細は、後述する。)。
【0029】
これとは逆に、モータ軸24aが、図4Dを紙面に垂直な方向で見た場合の時計回りで回転駆動されると、2つのリンク23a,23cは突っ張る方向に駆動されることになるので、サーボモータ24のモータ軸24aと、肢体支持部材21の下端部21bとの間の距離は、拡大していく。かかる動作によって、肢体支持部材21は、軸部材21aを傾動中心として胴体部11に対して前方から上方を向くように傾動動作を行うこととなる。これにより、肢体支持部材21に対して設置される可動肢体22は、胴体部11に対して前方又は上方を向くこととなる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態に係る肢体支持部材21は、胴体部11内部に設置されたサーボモータ24から及ぼされる駆動力を、リンク部材23を介して伝達されることで、胴体部11に対して軸部材21aを傾動中心として傾動動作を行うことができるようになっている。
【0031】
次に、肢体支持部材21に設置される可動肢体22についての説明を行う。この可動肢体22は、人体において上腕部に相当する部材である。
【0032】
可動肢体22は、肢体支持部材21のみに対して可動自在に接続する部材である。可動肢体22は、可動肢体22と肢体支持部材21との接続箇所に可動肢体用サーボモータ22aを備えている。可動肢体22が有する可動肢体用サーボモータ22aのモータ軸22aが回転駆動することで、可動肢体22は肢体支持部材21に対する傾動動作が可能となっている。
【0033】
ここで、肢体支持部材21に対する可動肢体22の具体的な接続構造を、図4A〜図4Cを用いて説明すると、可動肢体22における肢体支持部材21との接続側端部には、可動肢体用サーボモータ22aが設置されている。この可動肢体用サーボモータ22aが備えるモータ軸22aは、可動肢体22の前後方向、すなわち、図4Aにおける紙面手前方向と紙面奥方向に突出している。一方、肢体支持部材21には、モータ軸22aを軸支する軸受部21cが形成されており、肢体支持部材21に対する可動肢体22の回動自在な状態での接続状態を実現している。
【0034】
モータ軸22aを軸支する軸受部21cは、肢体支持部材21の略中央部分、すなわち、上述した軸部材21aと下端部21bとの略中間位置に設置されている。また、可動肢体用サーボモータ22aのモータ軸22aは、その軸方向が軸部材21aの軸方向とは直交する方向に向くように構成されている。この構成をより具体的に説明すると、軸部材21aの軸方向は、胴体部11の側面から側面外方に向いており、したがって胴体部11の横方向に向いている。これに対して、モータ軸22aの軸方向は、胴体部11の側面に対して前後方向に向いており、またその軸中心は、肢体支持部材21を図4Aのように正面から見たときに、肢体支持部材21の略中央位置に配置されている。つまり、モータ軸22aの軸中心は、胴体部11の横方向の位置に胴体部から離れて配置されている。したがって、軸部材21aの軸方向とモータ軸22aの軸方向とは、互いに交差しない状態で直交関係となるように構成されている。
【0035】
肢体支持部材21に対する可動肢体22の接続が上述した構成となっているので、肢体支持部材21は、胴体部11に対して前方、下方、および後方を向くように傾動動作が行われるものであったが、可動肢体22は、肢体支持部材21の傾動方向とは直交する方向、すなわち、胴体部11に対して下方から横方向を向くように傾動動作が実行されるよう構成されている。
【0036】
なお、肢体支持部材21については、可動肢体22が設置される箇所において、可動肢体22よりも大きい外郭形状を備えるように構成されている。すなわち、肢体支持部材21と可動肢体22との接続箇所においては、肢体支持部材21が可動肢体22を覆うことができるように両部材の外郭形状が構成されている。また、上述したように、肢体支持部材21は、外部からの衝撃力等に対して十分な耐力を有するように、鋼材等の強度の高い材料によって構成されている。さらに、これも上述したように、肢体支持部材21は、その外郭形状が中空枠体形状をしているが故に、軸部材21aによって2点支持されていることから、外力等に対して非常に強固であるという優位な特徴を有している。したがって、仮にロボット装置10が転倒してしまった場合であっても、高強度材からなるとともに軸部材21aによって2点支持されることで外力に対して非常に強い構造を有する肢体支持部材21が、転倒の際に生じる衝撃力のほとんど全てを引き受けることになるので、可動肢体22が壊れてしまうといった不具合を好適に防止することが可能となっている。特に、本実施形態に係る可動肢体22の場合、軽量化を優先した構成が採用されているが、肢体支持部材21が好適に可動肢体22を保護しているので、全体としては外部からの衝撃に強いロボット装置10が実現されている。
【0037】
以上、本実施形態に係る腕部13として採用されたロボット用肢体駆動機構の基本構成を説明した。次に、図5を参照図面に加えることで、本実施形態に係る腕部13の動作を説明することとする。なお、図5は、本実施形態に係る腕部13として採用されたロボット用肢体駆動機構の動作を説明するための図である。
【0038】
本実施形態において、可動肢体22は、初期状態において下方を向くように構成されている(図5中の(a)参照)。そして、可動肢体22を胴体部11に対して下方から前方へ、さらに前方から上方へと傾動させたいときには、胴体部11内に設置されたサーボモータ24のモータ軸24aを図5の紙面に垂直な方向で見たときに時計回りとなるように回転駆動させる。モータ軸24aが時計回りに回転駆動すると、リンク部材23の一部を構成するとともにモータ軸24aに固定接続された一方のリンク23aが時計回りに回転駆動されることとなる。リンク部材23は、2つのリンク23a,23cと、これら2つのリンク23a,23cを可動自在に接続する1つのジョイント23bとから構成されているので、一方のリンク23aが時計回りに回転駆動すると、その回転駆動力はジョイント23bを介して他方のリンク23cへと伝達されることとなる。このとき、他方のリンク23cにおけるジョイント23b接続部とは逆側の端部は、肢体支持部材21の下端部21bの箇所で肢体支持部材21に対して回動自在な状態で接続されているので、結果的にモータ軸24aの回転駆動力は肢体支持部材21へと伝達され、肢体支持部材21は軸部材21aの軸中心を回転中心として胴体部11の下方から前方、さらに上方へと傾動することとなる。つまり、初期状態において下方を向いていた肢体支持部材21は、モータ軸24aが時計回りに回転駆動されることによりその回転駆動力をリンク部材23を介して受けるが、このとき2つのリンク23a,23cは突っ張る方向に駆動されることになるので、サーボモータ24のモータ軸24aと、肢体支持部材21の下端部21bとの間の距離は拡大していき、このリンク部材23の突っ張り動作によって、肢体支持部材21は、軸部材21aを傾動中心として胴体部11に対して下方から前方へ、さらには上方を向くように傾動動作を行うこととなる。これにより、肢体支持部材21に対して設置される可動肢体22は、図5中の(a)から(b)、そして(c)の状態へと傾動し、胴体部11に対して前方又は上方を向くこととなる。
【0039】
上述したように、サーボモータ24の駆動力は、サーボモータ24のモータ軸24aからリンク部材23を介して肢体支持部材21に伝達されることとなるが、このリンク部材23は、肢体支持部材21が上方に向けて傾動することで可動肢体22が傾動し、ちょうど図5中の(c)で示されるように腕を持ち上げた状態となったときに、リンク部材23を構成する2つのリンク23a,23cが突っ張り状態となるように構成されている。なお、ここでいう「突っ張り状態」とは、リンク部材23を構成する2つのリンク23a,23cが略直列に配置された状態を説明した語であり、リンク部材23が、略直列に配置された2つのリンク23a,23cの配列方向(長手方向)に加わる外力を受け止め、好適に支持することができる状態を示している。リンク部材23をこのように構成したのは、可動肢体22が上方に移動したときに、サーボモータ24に加わる負荷が大きくなってしまうことを考慮したものであり、突っ張り状態となるリンク部材23によってサーボモータ24を補助させることを目的としたものである。すなわち、リンク部材23を構成する2つのリンク23a,23cが突っ張り状態となることで、2つのリンク23a,23cが略直列に配置されるので、リンク部材23がサーボモータ24のモータ軸24aから肢体支持部材21の下端部21bに向けて突っ張り力を及ぼすこととなり、上方に向けて傾動した可動肢体22を略直列に配置されたリンク部材23が支えることになる。このようなリンク部材23の作用によって、サーボモータ24に加わる負荷を低減させることが可能となるとともに、可動肢体22の上向きの状態を安定して維持することが可能となる。
【0040】
一方、図5中の(c)で示す状態から胴体部11内に設置されたサーボモータ24のモータ軸24aを図5の紙面に垂直な方向で見たときに反時計回りとなるように回転駆動させると、リンク部材23の一部を構成するとともにモータ軸24aに固定接続された一方のリンク23aが反時計回りに回転駆動されることとなる。すると、一方のリンク23aに対して及ぼされた反時計回りの回転駆動力は、他方のリンク23cを介して肢体支持部材21に対して及ぼされる。このとき、2つのリンク23a,23cは折り畳まれる方向に駆動されることになるので、サーボモータ24のモータ軸24aと、肢体支持部材21の下端部21bとの間の距離は、短くなっていく。その結果、モータ軸24aの反時計回りでの回転駆動力は、肢体支持部材21へと伝達され、肢体支持部材21は軸部材21aの軸中心を回転中心として胴体部11の上方から前方、さらに下方へと傾動することとなる。かかる動作によって、肢体支持部材21は、図5中の(c)から(b)、そして(a)の状態へと傾動し、軸部材21aを傾動中心として胴体部11に対して下方を向くように傾動動作を行うこととなる。これにより、肢体支持部材21に対して設置される可動肢体22は、胴体部11に対して下方を向くこととなる。
【0041】
また別に、可動肢体22を胴体部11に対して横方向に向けて傾動させたいときには、可動肢体22と肢体支持部材21との接続箇所に設置された可動肢体用サーボモータ22aを駆動させることで、肢体支持部材21に対する可動肢体22の横方向での傾動動作を実施させることができる。具体的には、肢体支持部材21を初期状態として、可動肢体用サーボモータ22aのみを駆動させれば、可動肢体用サーボモータ22aが備えるモータ軸22aの作用によって、図2Aのロボット左半身にて示すように、可動肢体22を横方向に傾動させることができ、ロボット装置10が上腕を横方向に水平に伸ばしたような動作を実現することができる。ちなみに、本実施形態に係る可動肢体22については、胴体部11に対して水平な方向からさらに上方に向けて傾動させて、可動肢体22を斜め上方向へと傾動させることも可能である。
【0042】
なお、可動肢体22には、手部13aの他にも種々のアクチュエータを設置することができるので、このような可動肢体22に設置可能な種々のアクチュエータと、胴体部11内に設置されたサーボモータ24、および可動肢体22と肢体支持部材21との接続箇所に設置された可動肢体用サーボモータ22aとを好適に制御することによって、人の上腕の動きに近似した動作を可動肢体22で実現することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態に係る腕部13として採用されたロボット用肢体駆動機構の構成上の条件として、図6に示すように、
リンク23aのリンク長を「a」、
リンク23aに生じるモーメントを「Ma」、
リンク23aの可動角を「θa」、
肢体支持部材21のリンクとして機能する箇所のリンク長を「b」、
肢体支持部材21に生じるモーメントを「Mb」、
肢体支持部材21の可動角を「θb」、
と定義したときに、以下の表に示す関係を満たすように構成することが必要である。この表の条件を満足する構成をロボット用肢体駆動機構に採用することにより、上述した本実施形態と同様の好適な動作を実現することが可能となる。
【0044】
【表1】

【0045】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0046】
例えば、上述した本実施形態に係るロボット装置10では、本発明のロボット用肢体駆動機構を上肢として機能する可動肢体に適用した場合を例示した。しかしながら、本発明のロボット用肢体駆動機構については、ロボット装置が備える複数本の可動肢体のうちのどのような用途に用いられるものに対しても適用することが可能である。すなわち、本発明のロボット用肢体駆動機構は、上肢や下肢のほか、蜘蛛型ロボットのようにロボットの体幹に対して多数設置する場合の可動肢体としても採用することが可能である。
【0047】
また、上述した本実施形態のリンク部材23は、2つのリンク23a,23cと、これら2つのリンク23a,23cを可動自在に接続する1つのジョイント23bとから構成されていた。しかしながら、本発明のリンク部材は、上述した実施形態のものには限られない。例えば、上述した本実施形態が奏する作用効果と同様の作用効果を発揮することを条件として、リンク部材を構成するリンクの数を3つ以上としてもよい。
【0048】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0049】
10 ロボット装置、11 胴体部、12 脚部、13 腕部、13a 手部、14 頭部、15 CCDカメラ、21 肢体支持部材、21a 軸部材、21b 下端部、21c 軸受部、22 可動肢体、22a 可動肢体用サーボモータ、22a モータ軸、23 リンク部材、23a,23c リンク、23b ジョイント、24 サーボモータ、24a モータ軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体部と、
前記胴体部に対して可動自在に設置される肢体支持部材と、
前記肢体支持部材に対して設置される可動肢体と、
前記胴体部に固定設置されて駆動力を及ぼすアクチュエータと、
複数のリンクと、当該複数のリンクを可動自在に接続するジョイントとから構成され、一端側のリンクが前記アクチュエータに接続し、他端側のリンクが前記肢体支持部材と接続することで、前記アクチュエータと前記肢体支持部材とをリンク接続するリンク部材と、
を備え、
前記アクチュエータから及ぼされる駆動力が、前記リンク部材を介して前記肢体支持部材に伝達されることを特徴とするロボット用肢体駆動機構。
【請求項2】
請求項1に記載のロボット用肢体駆動機構において、
前記リンク部材は、2つのリンクと、これら2つのリンクを可動自在に接続する1つのジョイントとから構成されており、
前記肢体支持部材が前記可動肢体を前記胴体部の上方に向けて傾動させたときに、前記リンク部材を構成する2つのリンクが突っ張り状態となるように構成されていることを特徴とするロボット用肢体駆動機構。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のロボット用肢体駆動機構において、
前記肢体支持部材は、前記可動肢体が設置される箇所において、前記可動肢体よりも大きい外郭形状を備えることを特徴とするロボット用肢体駆動機構。
【請求項4】
胴体部に連結された複数の可動肢体を有し、
前記複数の可動肢体のうち、下肢として機能する可動肢体を用いることで、任意の移動面上を歩行可能とされるロボット装置において、
上肢として機能する可動肢体が、請求項1〜3のいずれか1項に記載のロボット用肢体駆動機構によって構成されていることを特徴とするロボット装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6】
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