説明

ローラのリテーナ及び揺動内接噛合型の歯車装置

【課題】高い強度を維持しつつ、ローラの潤滑性をより高めることのできるリテーナ、及び、該リテーナの組み込まれた潤滑性能の高い揺動内接噛合型の歯車装置を得る。
【解決手段】複数のローラ60、62を保持するリテーナ34、35であって、前記複数のローラ60、62のそれぞれの両端位置を位置決めする一対の第1、第2リング体34A、34Bと、該第1、第2リング体34A、34Bを連結すると共に、前記複数のローラ60、62の円周方向位置を位置決めする連結体34Cと、を備え、前記連結体34Cは、その軸方向中間部に潤滑剤の通路となる凹部34E、34Fが形成され、且つ、第1、第2リング体34A、34Bに隣接する連結体34Cの基端部34C1の径方向寸法L6が、前記凹部34E、34Fが形成されている部分の径方向寸法L7よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラのリテーナ、及び該リテーナの組み込まれた揺動内接噛合型の歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、揺動内接噛合型の歯車装置が開示されている。この歯車装置では、外歯歯車が揺動しながら内歯歯車に内接噛合する。外歯歯車と該外歯歯車を揺動させる偏心体との間には複数のローラが配置されている。複数のローラは、リテーナによって保持されている。リテーナは、該複数のローラのそれぞれの両端位置を規定する一対のリング体と、該一対のリング体を連結すると共に前記複数のローラの円周方向位置を規定する連結体と、を備えている。
【0003】
この揺動内接噛合型の歯車装置は、外歯歯車を複数備え、各外歯歯車に対してそれぞれ複数のローラ(及びそのリテーナ)が組み込まれている。各リテーナの隣接するリング体同士は互いに接触している。この特許文献1では、この隣接する2つのリテーナについて、第1のリテーナの連結体によって規定される仮想円環体と、第2のリテーナの連結体によって規定される仮想円環体とを想定し、その上で、該2つの仮想円環体が軸方向から見たときに周方向全体で互いに重なるような大きさとなるように、2つのリテーナの連結体の大きさを設定している。
【0004】
特許文献1では、このような構成により、歯車装置にトルクが掛かって一方のリテーナで保持されているローラが傾こうとした場合でも、該トルクをその隣のリテーナの連結体によって受け止めることで、当該ローラが傾くのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−32000号公報(図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外歯歯車を複数備える揺動内接噛合型の歯車装置では、特許文献1に開示されている歯車装置のように、各偏心体と外歯歯車との間に配置されるローラの軸方向の位置決めを、リテーナのリング体同士の接触によって行なうのが一般的である。
【0007】
ところが、各ローラ及びそのリテーナは、(偏心体の外周に配置されているため)該偏心体の設けられている軸が1回転する度に、該軸の軸心からの距離が偏心量に相当する分だけ変化してしまう。したがって、隣接するリテーナのリング体同士が常時接触し続けることができるようにするには、リング体の半径方向の寸法(幅)は相応に大きなものとならざるを得ない。その結果、リング体同士の隙間から潤滑剤が進入しにくく、ローラの潤滑を円滑に行ないにくいという問題があった。
【0008】
とりわけ、特許文献1に開示されている歯車装置のように、連結体の補強効果によってリング体が傾くのを防止するように構成したリテーナの場合、隣接するリング体同士の接触面は、常にぴったりと押し付けられた状態が維持される。そのため、潤滑剤がローラ側に一層進入しにくく、潤滑性が更に低下する恐れがあった。
【0009】
本発明は、このような従来の問題を解消するためになされたものであって、安定したローラの保持特性及び高い強度を維持しつつ、ローラの潤滑性をより高めることのできるリテーナ、及び、該リテーナの組み込まれた潤滑性能の高い揺動内接噛合型の歯車装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数のローラを保持するリテーナであって、前記複数のローラのそれぞれの両端位置を位置決めする一対のリング体と、該一対のリング体を連結すると共に、前記複数のローラの円周方向位置を位置決めする連結体と、を備え、前記連結体は、その軸方向中間部に潤滑剤の通路となる凹部が形成され、且つ、前記リング体に隣接する前記連結体の基端部の径方向寸法が、前記凹部が形成されている部分の径方向寸法よりも大きい構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0011】
リテーナのリング体や連結体は、半径方向の大きさ(長さ)を小さくすれば、ローラの潤滑性はより高まるが、ローラ保持の安定性はより低下する傾向となる。本発明に係るリテーナでは、軸方向中間部に潤滑剤の通路となる凹部を形成している。。この結果、(連結体全体の半径方向の大きさは相応の大きさが維持できるので)ローラを安定した状態で保持することができ、且つ凹部に潤滑剤が通れるようになるため、高い潤滑性を確保することができる。
【0012】
更に、本発明では、リング体に隣接する連結体の基端部の径方向寸法が、必ず当該凹部が形成されている部分の径方向寸法よりも大きくなるように形成する。これにより、強度的に厳しい連結体の前記基端部に応力が集中するのを緩和でき、(凹部が形成されているにも拘わらず)リテーナ全体の強度が低下するのを防止できる。
【0013】
なお、この凹部の形成位置である前記「軸方向中間部」は、必ずしも軸方向中央位置を意味するものではなく、中央位置からずれていてもよい。また、凹部の形成個数も1個に限定されない。更には、凹部は、連結体の半径方向外周側から形成してもよいし、内周側から形成してもよく、また連結体の半径方向両側から形成してもよい。
【0014】
本発明は、揺動内接噛合型の歯車装置の偏心体と外歯歯車との間に配置されるローラの保持に適用した場合に、特にその本来の機能が発揮され得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安定したローラの保持特性及び高い強度を維持しつつ、ローラの潤滑性をより高めることのできるリテーナ、及び、該リテーナの組み込まれた潤滑性能の高い揺動内接噛合型の歯車装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態の一例に係るリテーナが組み込まれた揺動内接噛合型の歯車装置の全体概略図
【図2】図1のリテーナ付近の要部拡大図
【図3】該リテーナがローラを保持している様子を示す斜視図
【図4】同じくリテーナがローラを保持している様子を示す連結体付近の拡大断面図
【図5】該リテーナの連結体の爪部が存在する部分の軸直角断面の部分拡大図
【図6】当該歯車装置の外歯歯車の斜視図
【図7】本発明の他の実施形態の一例に係るリテーナの(A)一部破断の正面図及び(B)側面図
【図8】図7の要部拡大断面図
【図9】図7のリテーナを半径方向内側から見た部分拡大図
【図10】図7のリテーナが組み込まれた他の歯車装置の全体概略図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態の一例に係るリテーナが組み込まれた揺動内接噛合型の歯車装置の全体概略図である。先ず、該歯車装置の概略構成を簡単に説明する。
【0019】
この歯車装置10は、偏心体12、14によって揺動回転させられた外歯歯車16、18が内歯歯車20に内接噛合する揺動内接噛合型と称される歯車装置である。
【0020】
歯車装置10の入力軸22にはピニオン24が一体的に形成されている。ピニオン24は、3本の偏心体軸26A〜26Cの3個の振り分けギヤ28A〜28C(図1ではそれぞれ偏心体軸26A、振り分けギヤ28Aのみ図示)と同時に噛合している。各偏心体軸26A〜26Cには、それぞれ前記偏心体12、14が一体に形成されている。各偏心体12、14の外周には複数のローラ60、62が配置され、該複数のローラ60、62の外周に外歯歯車16、18が嵌合する態様で組み込まれている。本発明の実施形態に係るリテーナ34、35は、この偏心体12、14と外歯歯車16、18との間に配置された複数のローラ60、62の保持に適用されている(後述)。
【0021】
外歯歯車16、18は内歯歯車20に内接噛合している。外歯歯車16、18は、内歯歯車20よりわずかだけ歯数が少ない。内歯歯車20はケーシング36と一体化されている。
【0022】
各偏心体軸26A〜26Cは、ローラ軸受38、40を介して第1、第2フランジ42、44に支持されている。第1フランジ42と第2フランジ44は、第2フランジ44から一体的に突出されたキャリヤ体44A及びボルト46を介して連結・一体化されている。一体化された第1、第2フランジ42、44は、それぞれ第1、第2アンギュラころ軸受48、50を介して前記ケーシング36に支持されている。
【0023】
なお、この例では外歯歯車16、18は軸方向に2枚並んで配置されており、各外歯歯車16、18の偏心位相は180度ずれている。図1、図2、及び図6に示されるように、2枚の外歯歯車16、18には、後述するリテーナ34の第2リング体34B及びリテーナ35の第1リング体35Aの軸方向寸法分を収容する空間を確保するため、外歯16A、18Aの半径方向内側に突部16B、18Bが形成されている。これにより、外歯歯車16、18の外歯の歯幅L1を大きく確保すると共に、該突部16B、18Bの存在によって確保された外歯歯車16、18の間の空間にリテーナ34の第2リング体34B及びリテーナ35の第1リング体35Aの部分を合理的に収容している。
【0024】
なお、歯車装置10の内部空間は、オイルシール54等によって密閉され、グリース(潤滑剤)が封入されている。
【0025】
この歯車装置10の作用を簡単に説明する。
【0026】
入力軸22が回転すると、ピニオン24及び3個の振り分けギヤ28A〜28Cを介して3本の偏心体軸26A〜26Cが同一の速度で同一の方向に回転する。これにより、各偏心体軸26A〜26Cに嵌合している外歯歯車16、18が揺動回転しながら内歯歯車20に内接噛合する。外歯歯車16、18は、内歯歯車20よりわずかだけ歯数が少ないため、外歯歯車16、18が揺動しながら内歯歯車20に内接噛合すると、各外歯歯車16、18と内歯歯車20との間にゆっくりとした相対回転が生じる。
【0027】
ここで、もし、内歯歯車20(及びケーシング36)が固定されるときは、外歯歯車16、18の自転成分と同期して偏心体軸26A〜26Cが歯車装置10の軸心O1の周りを公転する。これにより、この公転に伴って回転する第1、第2フランジ42、44から減速出力を取り出すことができる。逆に、もし、外歯歯車16、18の自転(偏心体軸26A〜26Cの公転)が拘束されるときは、内歯歯車20側が回転するため、該内歯歯車20と一体化されたケーシング36からいわゆる枠回転出力を取り出すことができる。
【0028】
以下、前記リテーナ34、35付近の構成について詳細に説明する。
【0029】
図2は、図1のリテーナ34、35付近の要部拡大図である。図1、図2の描写から明らかなように、この実施形態では、2つのリテーナ34、35は、それぞれ複数のローラ60、62を保持しており、全く同一の形状を有している。そのため、以降の説明では、特に断りがない限り、リテーナ34側にのみ着目して説明することとする。
【0030】
なお、図3は、リテーナ34がローラ60を保持している様子を示す斜視図、図4は、リテーナ34がローラ60を保持している様子を示す連結体付近の拡大断面図である。
【0031】
リテーナ34は、ガラス繊維を含む樹脂によって形成されており、複数のローラ60の軸方向両端位置を規定する一対の第1、第2リング体34A、34Bと、該一対の第1、第2リング体34A、34Bを連結する連結体34Cと、を備えている。ガラス繊維の含有量は、本実施形態では35%である。なお、本実施形態のようにリテーナ34(35)同士が擦る構造において、特に該リテーナ34(35)の第2リング体34B(35B)の摩耗を防止するには、ガラス繊維の含有量は、10〜40%が好ましく、25〜40%が特に好ましい。連結体34Cは、(リテーナ34によって保持されている)ローラ60の円周方向の間に位置することにより、一つ一つのローラ60の円周方向位置を規定している。
【0032】
リテーナ34の、第1、第2リング体34A、34Bの半径方向の大きさはL2であり、連結体34Cの半径方向の大きさはL3である。この大きさL2、L3は、ローラ60を十分に安定した状態で位置決め・保持することができる大きさである。
【0033】
連結体34Cには、その軸方向中間部に潤滑剤の通路となる凹部34E、34Fが計2個形成されている。この実施形態では、連結体34Cの半径方向外周側に凹部34E、内周側に凹部34Fが配置されている。2つの凹部34E、34Fは、互いに軸方向にずれた位置に形成されている。この実施形態では、更に、図3に示されるように、連結体34Cが交互に裏返して組み込まれることにより、隣接する連結体34Cの凹部34Eと34E、及び凹部34Fと34Fも軸方向にずれた状態とされている。
【0034】
凹部34E、34Fは、軸心O1を含む断面の形状が円錐台形状とされている。凹部34E、34Fの断面形状が円錐台形状とされているのは、凹部34E、34Fの底辺の角部に過度の応力集中が発生しないようにしたためである。凹部34E、34Fの深さd1は、強度の低下を避けるために、いずれもローラ60のピッチ円P1を跨がない浅い大きさとされている。代わりに軸方向の形成長さL4は深さd1の2〜3倍は確保されており、潤滑剤が十分通過できるように設計されている。
【0035】
但し、凹部の形状は必ずしも錐台形状である必要はなく、例えば、U字形でも半円形でもよい。また、この例では凹部34E、34Fは、連結体34Cの外周側及び内周側にそれぞれ1個のみ形成しているが、2個以上形成するようにしてもよい。形成する位置も、この例の位置に限定されない。更には、凹部34Eと34Fの深さが異なっていても良いし、各連結体34Cごとに凹部34E(あるいは34F)の深さが異なっていてもよい。
【0036】
このリテーナ34は、第1、第2リング体34A、34Bに隣接する連結体34Cの基端部34C1の径方向寸法L6が、凹部34E、34Fが形成されている部分の径方向寸法L7よりも大きな寸法とされている。これは、応力の集中し易い基端部付近の強度を十分に確保するためである。
【0037】
また、連結体34Cの半径方向内側及び外側の端部には、ローラ60の脱落を防止する爪部34G、34Hがそれぞれ形成されている。この爪部34G、34Hは、この実施形態では、連結体34Cの軸方向の全長に亘って形成されているのではなく、軸方向の一部、具体的には第1、第2リング体34A、34Bに隣接する連結体34Cの基端部34C1から軸方向に若干離れた位置において、連結体34Cの半径方向内側の端部に爪部34Gが、半径方向外側の端部に爪部34Hがそれぞれ一対ずつ形成されている。すなわち、連結体34Cの基端部34C1及び軸方向中央部34C6には爪部は形成されていない。
【0038】
半径方向内側の端部の爪部34Gの大きさ(形成高さ)は、H1であり、半径方向外側の端部の爪部34Hの大きさ(形成高さ)は、これより若干大きいH2である(H2>H1)。この大きさの設定により、各ローラ60は、若干力を入れてリテーナ34の半径方向内側から(爪部34Gを弾性変形させて)押し込むことで、該爪部34Gを乗り越えてリテーナ34に組み込むことができる。
【0039】
図5に想像線で示されるように、ローラ60は、連結体34Cに保持された状態で爪部34G、34Hの間で半径方向に動けるようになっており、該動ける範囲Lmが、前記偏心体12、14の偏心量e(図2参照)よりも大きく設定されている(Lm>e)。
【0040】
なお、図2に示されるように、2つのリテーナ34、35は互いに接触しており、スペーサ64、66を介して前記第1、第2フランジ42、44に挟まれることによって、軸方向の位置決めがなされている。なお、リテーナ34、35同士を直接擦らせず、例えば、各リテーナ34、35の間にプレートを挟むようにしてもよい。
【0041】
次に、この実施形態に係るリテーナ34の作用を説明する。
【0042】
本実施形態に係る揺動内接噛合型の歯車装置10によれば、複数のローラ60、62が偏心体12、14と外歯歯車16、18との間に配置され、偏心体12、14の外周で外歯歯車16、18が揺動する際の摺動抵抗を軽減している。
【0043】
リテーナ34側に着目して、複数のローラ60は、リテーナ34の第1、第2リング体34A、34Bによってその軸方向の位置が規定され、連結体34Cによって円周方向の位置が規定される。この実施形態では、リテーナ34の、第1、第2リング体34A、34Bの半径方向の大きさが(大きめの)L2に設定され、また、連結体34Cの半径方向の大きさも(大きめの)L3に設定されている。そのため、ローラ60を十分に安定した状態で位置決め・保持することができる。また、歯車装置10の減速比が低くて偏心体12、14の偏心量eが大きい場合であっても、第1、第2リング体34A、34Bの半径方向の大きさL2が相応の大きさに確保されているため、隣接するリテーナ34の第2リング体34B及びリテーナ35の第1リング体35Aが常時安定した状態で接触し続けることができ、リテーナ34、35の軸方向の位置決めを適切に行うことができる。
【0044】
ここで、連結体34Cには、その軸方向中間部の外周側に凹部34E、内周側に凹部34Fがそれぞれ形成されている。そのため、(連結体34Cの第1、第2リング体34A、34B及び連結体34Cの半径方向の大きさL2、L3が大きめに形成されていたとしても)この凹部34E、34Fを潤滑剤が通ることにより、ローラ60自体の回転と相まって、潤滑剤はローラ60の全周に良好に行き渡ることができる。特に、この実施形態では、この2つの凹部34E、34Fが、互いに軸方向にずれた位置に形成されており、しかも、各連結体34Cが交互に裏返して組み込まれることにより、隣接する連結体34Cの凹部34Eと34E、及び凹部34Fと34Fも軸方向にずれた状態とされている。これにより、潤滑剤は、周方向にもまた軸方向にも容易に移動することができ、一層潤滑性を向上させることができている。
【0045】
また、この実施形態では、第1、第2リング体34A、34Bに隣接する連結体34Cの基端部34C1の径方向寸法L6が、凹部34E、34Fが形成されている部分の径方向寸法L7よりも大きな寸法とされている。したがって、応力の集中し易い基端部34C1付近の強度を十分に確保することができる。
【0046】
また、この実施形態では、連結体34Cの爪部34G、34Hが、連結体34Cの軸方向全長にわたっては形成されておらず、連結体34Cの軸方向の一部にのみ形成されている。特に、第1、第2リング体34A、34Bに隣接している基端部34C1及びローラ60の軸方向中央部34C6には爪部が形成されていない。そのため、潤滑剤はより自由にローラ60の軸方向及び円周方向の表面全体に移動することができ、潤滑性を一層向上させることができる。ただ、例えば、より強度を優先するような場合には、爪部を、軸方向の全長に亘って形成してもよい。
【0047】
なお、本実施形態におけるリテーナ34とリテーナ35は、隣接する第2リング体34B、35B同士が接触することによって互いの軸方向の位置決めが行なわれるようになっている。このような位置決め構造では、該第2リング体34B、35B同士の磨耗が発生し易くなるが、この実施形態では、ガラス繊維を35%含む樹脂にてリテーナ34(35)を形成するようにしているため、耐久性を良好に確保することができる。また、特に、本実施形態は、隣接する第2リング体34B、35B同士が接触することによって互いの軸方向の位置決めを行う構成であり、且つ既述の従来技術と同様に、実質的に仮想円環体が全周で重なる構成であって、潤滑条件がよくないため、本実施形態の構成によって良好にローラ60(62)を潤滑することができる効果は大きい。
【0048】
更に、この実施形態では、爪部34G、34Hが、第1、第2リング体34A、34Bに隣接する連結体34Cの基端部34C1から軸方向に若干離れた位置であって、該基端部34C1と凹部34E、34Fとの間に形成されているため、該爪部34G、34Hがリーンホースメント(補強体)としての役割を果たしている。すなわち、該爪部34G、34H自体が耐久性上厳しい連結体34Cの基端部34C1を補強するとともに、凹部34E、34Fでの応力集中の影響が基端部34C1側にまでそのまま伝達されるのを阻止している。
【0049】
なお、爪部34G、34Hの存在により、リテーナ34へのローラ60の組み込みも容易である。この実施形態では、半径方向内側の爪部34Gの大きさ(形成高さ)はH1であり、半径方向外側の爪部34Hの大きさ(形成高さ)はそれより若干大きいH2である(H2>H1)。この大きさの設定により、各ローラ60を、力を入れてリテーナ34の半径方向内側から(爪部34Gを弾性変形させて)押し込むことで、該爪部34Gを乗り越えてリテーナ34に組み込むことができる。組み込まれたローラ60は、(外側の爪部34Hの方が大きいため)半径方向外側にまで飛び出すことはない。また、内側の爪部34Gを越えて一度ローラ60をリテーナ34に組み込んでしまうと、該ローラ60は、(力を込めて半径方向内側に意図的に落とし込まない限り)リテーナ34から脱落しない。
【0050】
更に、この実施形態では、ローラ60が連結体34Cに保持された状態で半径方向に動ける範囲Lmが、偏心体12、14の偏心量eよりも大きく設定されている。そのため、このようにしてローラ60が組み込まれたリテーナ34(35)を、歯車装置10の偏心体12、14の外周に組み込む際に、2つのリテーナ34(35)の双方を軸方向同一の側から(ローラ60あるいは62を半径方向にシフトさせながら)組み込むことができる。このため、ローラ60(62)の組み込まれた状態のリテーナ34(35)を歯車装置10に容易に組み込むことができる。
【0051】
なお、この実施形態では、潤滑性を最高度に向上させるために、全ての隣接し合う凹部34E(34F)を軸方向にずらしていたが、この構成は必ずしも必須ではなく、例えば、複数の隣接し合う連結体で軸方向同じ位置に凹部34E(34F)が形成されていてもよい。また、周方向2つ置き、あるいは3つ置きに凹部34E(34F)の軸方向位置が変わるものであっても良い。結果として、いずれかの隣接する連結体の凹部同士が軸方向にずれた位置に形成されていれば、(全ての凹部が軸方向同一位置に形成されている場合と比較して)より潤滑性を高めることができる。
【0052】
図7〜図9に本発明の他の実施形態の例を示す。
【0053】
図7は、本実施形態に係る他のリテーナにローラが組み込まれた状態を示す一部破断の正面図及び側面図、図8は図7の要部拡大断面図、図9は該リテーナの図7の矢視IX方向線視図である。
【0054】
この実施形態に係るリテーナ70も、先の実施形態と同様に、第1、第2リング体70A、70B及び連結体70Cを備える。また、第1、第2リング体70A、70Bに隣接する連結体70Cの基端部70C1の径方向寸法L8は、凹部70Eが形成されている部分の径方向寸法L9よりも大きい。但し、この実施形態では、凹部として幅の広い凹部70Eが軸方向の中央部に1個のみ形成されている。なお、変形例として、外周側に(或いは外周側にも)同様な幅広の凹部を形成してもよい。
【0055】
また、図9に示されるように、この実施形態におけるリテーナ70の連結体70Cは、第1、第2リング体70A、70Bに隣接する連結体70Cの基端部70C1の周方向の厚さD1よりも、凹部70Eを含む領域の周方向の厚さD2の方が厚く形成されている(D1<D2)。すなわち、連結体70Cは、その周方向の厚さが軸方向において一定ではない(周方向の厚さが軸方向において変化している)。これは、連結体70Cとローラ76が軸方向の全体において均等に接触しているのではなく、周方向に厚く形成された部分(基端部70C1以外の厚さD2の部分)のみでローラ76が連結体70Cと接触していることを意味している。換言するならば、周方向に相対的に薄く形成された連結体70Cの基端部70C1とローラ76との間には、若干の隙間が存在している。この構成により、以下のような作用が得られる。
【0056】
すなわち、リテーナ70の連結体70Cによってローラ76を保持する場合に、何らかの原因によってローラ76がスキューしようとすると(ローラ76の回転軸線が傾こうとすると)、ローラ76の端部にいわゆる「エッジロード」と称される過大な応力が発生する。しかし、この実施形態においては、連結体70Cの基端部70C1の周方向の厚さD1が凹部70Eを含む領域の周方向の厚さD2よりも薄く、且つ、該基端部70C1付近(のローラ76との隙間)に潤滑剤を潤沢に保持することができることから、このエッジロードが発生しにくい。
【0057】
また、結果としてローラ76が若干スキューしたとしても、これに伴ってローラ76の端部の摺動抵抗が増大することが殆どないので、該摺動抵抗の増大によってスキューが助長されることがなく(速やかにスキューが収束するため)ローラ76を極めて円滑に、かつ安定的に保持することができる。
【0058】
更には、この実施形態では、軸方向の広い範囲に亘って凹部70Eが形成されているが、この凹部70Eを含む領域が基端部70C1よりも相対的に厚く形成されているため(D1<D2)、幅広の凹部70Eが形成されているにも拘わらず、該凹部70Eの部分を含む連結体70Cの強度は十分に確保される。なお、この実施形態では、凹部70Eを含んで該凹部70Eの軸方向範囲よりも広い範囲に亘ってその周方向の厚さD2を基端部70C1の周方向の厚さD1よりも厚く形成している。しかし、より潤滑性を優先する場合には、例えば、凹部と同一の軸方向範囲のみ基端部の周方向の厚さより厚く形成するようにしてもよい。また、凹部の軸方向範囲よりも狭い範囲のみ(凹部の軸方向範囲の一部のみ)を、基端部の周方向の厚さより厚く形成するようにしてもよい。更には、例えば、リング体に隣接する基端部での強度が相対的により心配される場合には、凹部を含む領域の周方向の厚さの方が基端部よりも薄くなっていてもよい。要するに、連結体の軸方向における円周方向の厚さの設定(変化のさせ方)は、必ずしも凹部の位置と連動していなくてもよく、連結体の基端部での半径方向の長さ、凹部の位置、形状、軸方向の大きさや半径方向の深さ等を考慮した上で、確保したい強度やエッジロードとの関係で適宜に設定されてよい。
【0059】
なお、ローラ76を半径方向に保持するための爪部70G、70Hの具体的な構成を含め、その他の構成については、先の実施形態と基本的に同一であるため重複説明を省略する。
【0060】
ところで、本発明においては、リテーナの組み込まれる装置の具体的な構成については、特に限定されない。図10に、図7〜図9のリテーナ70を他の構成に係る歯車装置110に組み込んだ例を示す。この歯車装置110も揺動内接噛合型の歯車装置である。但し、図1の実施形態でのピニオン24及び3個の振り分けギヤ28A〜28Cに相当するピニオン124及び3個の振り分けギヤ128A〜128C(図10では振り分けギヤ128Aのみ図示)を、(歯車装置110の軸方向側部にではなく)2枚の外歯歯車116、118の軸方向中央に配置している。そのため、2つのリテーナ70、70は、直接接触し合っておらず、それぞれ振り分けギヤ128A〜128Cの側部と接触している。
【0061】
その他の構成については、先の図1〜図6の実施形態に係る歯車装置と同様である。よって、同一または類似する部分に図1の実施形態の符号と下2桁が同一の符号付すに止め、重複説明は省略する。
【0062】
なお、本発明では、リテーナを、このような揺動内接噛合型の歯車装置に組み込む際に適用すると顕著な効果が得られるが、必ずしも揺動内接噛合型の歯車装置に適用が限定されるものではなく、要は、軸と、該軸の外周にリテーナで保持された複数のころを介して嵌合している嵌合部材と、を含む装置ならば種々の装置に適用可能である。例えば、単純遊星歯車装置の遊星ピンと遊星歯車との間に配置されたローラを保持するリテーナに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0063】
10…歯車装置
12、14…偏心体
16、18…外歯歯車
20…内歯歯車
22…入力軸
34、35…リテーナ
34A、34B、35A、35B…第1、第2リング体
34C…連結体
34C1…基端部
34E、34F…凹部
34G、34H…爪部
36…ケーシング
42、44…第1、第2フランジ
60、62…ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のローラを保持するリテーナであって、
前記複数のローラのそれぞれの両端位置を位置決めする一対のリング体と、
該一対のリング体を連結すると共に、前記複数のローラの円周方向位置を位置決めする連結体と、を備え、
前記連結体は、その軸方向中間部に潤滑剤の通路となる凹部が形成され、且つ、
前記リング体に隣接する前記連結体の基端部の径方向寸法が、前記凹部が形成されている部分の径方向寸法よりも大きい
ことを特徴とするローラのリテーナ。
【請求項2】
請求項1において、
互いに隣接する前記連結体の前記凹部同士が、軸方向にずれた位置に形成されている
ことを特徴とするローラのリテーナ。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記凹部が前記連結体の半径方向内周側及び外周側の双方に形成されている
ことを特徴とするローラのリテーナ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記凹部が、前記ローラのピッチ円を跨がない大きさに形成されている
ことを特徴とするローラのリテーナ
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記連結体の半径方向の端部に、前記ローラの脱落を防止する爪部が形成されている
ことを特徴とするローラのリテーナ。
【請求項6】
請求項5において、
前記爪部が、前記連結体の軸方向の一部にのみ形成されている
ことを特徴とするローラのリテーナ。
【請求項7】
請求項5において、
前記爪部が、前記連結体の軸方向の全長に亘って形成されている
ことを特徴とするローラのリテーナ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、
前記連結体の周方向の厚さが、軸方向において変化している
ことを特徴とするローラのリテーナ。
【請求項9】
請求項8において、
前記リング体に隣接する前記連結体の基端部の周方向の厚さよりも、前記凹部を含む領域の周方向の厚さの方が厚い
ことを特徴とするローラのリテーナ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかにおいて、
前記リテーナが、ガラス繊維を含む樹脂にて形成されている
ことを特徴とするローラのリテーナ。
【請求項11】
偏心体によって揺動回転する外歯歯車が内歯歯車に内接噛合する揺動内接噛合型の歯車装置であって、
請求項1〜10のいずれかに記載のリテーナを、前記偏心体と外歯歯車との間に配置される複数のローラを保持するリテーナとして備えた
ことを特徴とする揺動内接噛合型の歯車装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記ローラが前記連結体に支持された状態で半径方向に動ける範囲が、前記偏心体の偏心量よりも大きく設定されている
ことを特徴とする揺動内接噛合型の歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−36947(P2012−36947A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176571(P2010−176571)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】