説明

ローラハース式連続炉

【課題】被処理物が蛇行又は屈曲しても、被処理物に擦り傷が発生することを防止するローラハース式連続炉を提供する。
【解決手段】炉体を形成する左右両側壁11,12と、炉体内に左右方向に平行でかつ同じ高さで前後に並設されしかも回転自在に支持された円柱状の複数の搬送ローラ13とを備え、搬送ローラ13に載置された被処理物Pを搬送ローラ13の回転によって前方に移動させながら、被処理物Pに熱処理を施すローラハース式連続炉20において、左右両側壁11,12の搬送ローラ13より上方から前後方向に垂直かつ搬送ローラ13間に向けて延びるとともに回転自在に支持された円柱状の複数のガイドローラ27,28を備え、しかもガイドローラ27,28の径D2を搬送ローラ13と同じ径D1にするとともに、ガイドローラ27,28を搬送ローラ13と同じ回転速度で回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製品に焼きなまし処理等の熱処理を施すローラハース式連続炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属製品の残留応力の低減や軟化等の目的で、ローラハース式連続炉等によって金属製品に焼きなまし処理が施される。
このような処理に用いられるローラハース式連続炉とは、図4に示すように、円柱状の複数の搬送ローラ13に被処理物Pを載置し、搬送ローラ13が回転することによって被処理物Pを徐々に前方に搬送しながら、被処理物Pに焼きなまし処理等の熱処理を施すものである。
ここで、被処理物Pは搬送ローラ13に載置されているだけで、左右に移動しないように固定されているわけではないので、最初は搬送ローラ13の左右中央に載置しても、被処理物Pが前方に搬送されるに伴い、搬送ローラ13上で被処理物Pが蛇行等の不規則な動きをすることがある。
また、被処理物Pが細い場合、被処理物Pが加熱されるに伴い屈曲することがある。
【0003】
このように被処理物Pが蛇行したり屈曲すると、被処理物Pが左右の側壁11,12に接触してしまい、被処理物Pが円滑に搬送されない。この結果、蛇行した被処理物Pは、次々と送られる後続の被処理物Pの進路を妨げてしまう。また、側壁11,12に接触した際に被処理物Pに擦り傷がついてしまうという問題もある。
【0004】
そこで、図5及び図6に示すようなローラハース式連続炉10が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−162967号公報
【0006】
特許文献1に記載の発明は、それぞれの搬送ローラ13の左右両側に案内輪14を嵌着したものである。これにより、被処理物Pが搬送ローラ13上を蛇行しても被処理物Pの動きが案内輪14で制限されるので、被処理物Pは側壁11,12に接触しない。よって、被処理物Pは円滑に搬送され、後続の被処理物Pの進路を妨げない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の発明においては、炉内は高温のため案内輪14に酸化物が生成し案内輪14の表面が凸凹になるので、被処理物Pが案内輪14に接触して被処理物Pに擦り傷がついてしまうという問題がある。したがって、擦り傷を防止するため頻繁に案内輪14を曲面状に研磨する必要がある。しかし、この研磨は狭く高温の炉内での作業となるので、研磨を行う作業者の負担は非常に大きい。
【0008】
ここで、この案内輪14に表面が滑らかなステンレスの薄板を被せると、被処理物P表面の擦り傷を軽減することができるが、この手法であっても擦り傷の発生を防ぐには至らず、品質要求が厳しい被処理物の熱処理には用いることができない。
【0009】
また、図7に示すように、案内輪14に替えて側壁11,12に煉瓦15を備えた場合、擦り傷は軽減されるものの、やはり被処理物Pの煉瓦15との接触により若干の擦り傷が発生してしまう。
【0010】
そこで、本発明の目的とするところは、被処理物が蛇行又は屈曲しても、被処理物に擦り傷が発生することを防止するローラハース式連続炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に記載のローラハース式連続炉(20)は、炉体を形成する左右両側壁(11,12)と、前記炉体内に左右方向に平行でかつ同じ高さで前後に並設されしかも回転自在に支持された円柱状の複数の搬送ローラ(13)とを備え、前記搬送ローラ(13)に載置された被処理物(P)を前記搬送ローラ(13)の回転によって前方に移動させながら、前記被処理物(P)に熱処理を施すローラハース式連続炉(20)において、前記左右両側壁(11,12)の前記搬送ローラ(13)より上方から前記前後方向に垂直かつ前記搬送ローラ(13)間に向けて延びるとともに回転自在に支持された円柱状の複数のガイドローラ(27,28)を備え、しかも前記ガイドローラ(27,28)の径(D2)を前記搬送ローラ(13)と同じ径(D1)にするとともに、前記ガイドローラ(27,28)を前記搬送ローラ(13)と同じ回転速度で回転させることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載のローラハース式連続炉(20)は、前記ガイドローラ(27,28)下面の内側端部(27a,28a)は、前記搬送ローラ(13)の上端よりも下方に位置することを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載のローラハース式連続炉(20)は、一方の側壁(11)側の前記ガイドローラ(27)を、他方の側壁(12)側の前記ガイドローラ(28)と同じ前後位置に配置することを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載のローラハース式連続炉(20)は、前記ガイドローラ(27,28)を前記搬送ローラ(13)に対して30〜50度となるように支持することを特徴とする。
【0015】
ここで、上記括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に掲載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1に記載のローラハース式連続炉によれば、左右両側壁の搬送ローラより上方から前後方向に垂直かつ搬送ローラ間に向けて延びるとともに回転自在に支持された円柱状の複数のガイドローラを備え、しかもガイドローラの径を搬送ローラと同じ径にするとともに、ガイドローラを搬送ローラと同じ回転速度で回転させるので、被処理物が蛇行してガイドローラに接触したとしても、被処理物における接触点と搬送ローラにおける接触点の相対速度はゼロに近似する。よって、被処理物とガイドローラは擦れ合うことが限りなく少ないので、図6に記載の案内輪14にステンレスの薄板を被せた発明や図7に記載の発明よりも被処理物に擦り傷が発生することが防止され、品質要求が厳しい被処理物であっても熱処理を施すことができる。
【0017】
また、請求項2に記載のローラハース式連続炉によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加え、ガイドローラ下面の内側端部は搬送ローラの上端よりも下方に位置するので、エッジとなっているガイドローラ下面の内側端部によって被処理物が傷付くおそれもない。
【0018】
また、請求項3に記載のローラハース式連続炉によれば、請求項1又は2に記載の発明の作用効果に加え、一方の側壁側のガイドローラを、他方の側壁側のガイドローラと同じ前後位置に配置するので、被処理物が左右どちらに蛇行しても被処理物に擦り傷が発生することが防止される。
【0019】
また、請求項4に記載のローラハース式連続炉によれば、請求項1乃至3に記載の発明の作用効果に加え、ガイドローラを搬送ローラに対して30〜50度となるように支持するので、被処理物がガイドローラを乗り越えて側壁に接触しない。つまり、ガイドローラと搬送ローラとのなす角度が小さいと、被処理物がガイドローラを乗り越えて側壁に接触する可能性があるが、この角度が30〜50度であると被処理物がガイドローラを乗り越えることはなく、側壁に接触して擦り傷が発生するおそれがない。また、被処理物の大小にかかわらず、被処理物が確実にガイドローラに接触するので、被処理物に擦り傷が発生することが防止される。
【0020】
なお、本発明のローラハース式連続炉のように、搬送ローラと同じ径のガイドローラを備え、ガイドローラを搬送ローラと同じ回転速度で回転させる点は、上述した特許文献1には全く記載されていない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るローラハース式連続炉を示す平面図である。
【図2】図1に示すローラハース式連続炉のA−A線拡大断面図である。
【図3】図1に示すローラハース式連続炉において別の被処理物を載置した要部拡大断面図である。
【図4】従来例に係るローラハース式連続炉を示す平面図である。
【図5】他の従来例に係るローラハース式連続炉を示す平面図である。
【図6】図5に示すローラハース式連続炉のB−B線拡大断面図である。
【図7】更に他の従来例に係るローラハース式連続炉の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1及び図2を参照して、本発明の実施形態に係るローラハース式連続炉20を説明する。
このローラハース式連続炉20は搬送ローラ13に加え、ガイドローラ27,28を備えるものである。
【0023】
炉体は、左右両側壁11,12等の壁面を有し、略直方体に形成される。内部は、熱源によって昇温される。このように昇温された炉体内をステンレス製のパイプ等の被処理物Pが通過することで、被処理物Pに焼きなまし処理等の熱処理が施される。
【0024】
搬送ローラ13は、円柱状であり、搬送ローラ13の軸が水平かつ左右方向に平行になるように左右両側壁11,12を貫通して炉体内に配置される。このような搬送ローラ13が、同じ高さで、前後に複数並設される。隣り合う搬送ローラ13の間隔は、被処理物Pの大きさに比べて十分狭い。また、搬送ローラ13はそれぞれ、軸を中心として回転するように回転自在に支持されている。そして、一つのモータ(図示しない)を動力源としてチェーン(図示しない)によって全てが同じ方向に、同じ回転速度で回転する。
このような搬送ローラ13に被処理物Pが載置され、搬送ローラ13の回転によって被処理物Pを徐々に前方に移動させながら、被処理物Pに熱処理を施す。
【0025】
ガイドローラ27,28は、搬送ローラ13の径D1と同じ径D2で、搬送ローラ13と同じ材質からなる円柱である。左右両側壁11,12を貫通して、搬送ローラ13より上方から前後方向に垂直かつ搬送ローラ13間に向けて下方に延びる。ここで、ガイドローラ27,28と搬送ローラ13のなす角度θは45度である。また、ガイドローラ27,28下面の内側端部27a,28aが、搬送ローラ13の上端13aよりも下方に位置するように配置され、しかも回転自在に支持されている。
【0026】
このようなガイドローラ27,28が、それぞれ同じ高さ位置から、全て同じ傾きで前後に複数配設される。また、一方の側壁11側のガイドローラ27を、他方の側壁12側のガイドローラ28と同じ前後位置に配置している。すなわち、左側のガイドローラ27と右側のガイドローラ28の本数は等しく、炉体に対して左右対称で、しかもガイドローラ27,28と搬送ローラ13が前後方向に交互に並ぶ。
そして、チェーンやギア等(図示しない)を用いることで、搬送ローラ13を回転させているモータ(図示しない)によって、ガイドローラ27,28を搬送ローラ13と同じ回転速度で回転させる。左側のガイドローラ27の回転方向は、右側のガイドローラ28の回転方向とは異なり、それぞれが被処理物Pを前方に送る方向に回転する。
【0027】
以上のように構成されたローラハース式連続炉20によれば、ガイドローラ27,28の径D2を搬送ローラ13の径D1と同じにするとともに、ガイドローラ27,28を搬送ローラ13と同じ回転速度で回転させるので、被処理物Pに擦り傷が発生しない。すなわち、被処理物Pが蛇行してガイドローラ27,28に接触したとしても、被処理物Pにおける接触点と搬送ローラ13における接触点の相対速度はゼロに近似する。よって、被処理物Pとガイドローラ27,28は擦れ合うことが限りなく少ないので、被処理物Pに擦り傷が発生することが防止され、品質要求が厳しい被処理物Pであっても熱処理を施すことができる。
【0028】
また、ガイドローラ27,28下面の内側端部27a,28aは搬送ローラ13の上端13aよりも下方に位置するので、被処理物Pがエッジとなっているガイドローラ27,28下面の内側端部27a,28aで傷付くおそれもない。
【0029】
また、一方の側壁11側のガイドローラ27を、他方の側壁12側のガイドローラ28と同じ前後位置に配置するので、被処理物Pが左右どちらに蛇行しても被処理物Pに擦り傷が発生することが防止される。
【0030】
加えて、ガイドローラ27,28を搬送ローラ13に対して45度となるように支持するので、被処理物Pがガイドローラ27,28を乗り越えて側壁11,12に接触しない。つまり、ガイドローラ27,28と搬送ローラ13とのなす角度θが小さいと、被処理物Pがガイドローラ27,28を乗り越えて側壁11,12に接触する可能性があるが、この角度θが45度であると被処理物Pがガイドローラ27,28を乗り越えることがなく、側壁11,12に接触して擦り傷が発生するおそれはない。また図3に示すように、搬送ローラ13の径D1やガイドローラ27,28の径D2よりも被処理物Pが大きい場合であっても小さい場合であっても、確実に被処理物Pはガイドローラ27,28に接触するので、被処理物Pに擦り傷は発生することが防止される。
【0031】
なお、本実施形態において、被処理物Pはステンレスのパイプとしたが、焼きなましや焼成等の熱処理が必要で、擦り傷が発生すると商品価値が低下するものであれば、被処理物Pの材質や物品はこれに限られるものではない。
また、一つのモータを用いることで、搬送ローラ13とガイドローラ27,28の回転速度を等しくしたが、搬送ローラ13とガイドローラ27,28は、別々のモータを用いて回転速度を等しくしてもよい。もちろん、搬送ローラ13やガイドローラ27,28の一本一本を個々のモータで回転させてもよい。
【0032】
さらに、一方の側壁11側のガイドローラ27を、他方の側壁12側のガイドローラ28と同じ前後位置となるようにしたが、例えば前後方向に対してガイドローラ27,28が左右交互となるように配置されていてもよい。
また、ガイドローラ27,28と搬送ローラ13のなす角度θを45度としたが、これは最適な角度であって、30度から50度の範囲内であることが好ましい。
【0033】
また、側壁11,12を貫通するようにガイドローラ27,28を配置するとしたが、ガイドローラ27,28が側壁11,12を貫通せずに完全に炉体内部に入るように配置されてもよい。同じく、搬送ローラ13も炉体内部に配置されてよい。
また、ガイドローラ27,28と搬送ローラ13とのなす角度θが大きければ、ガイドローラ27,28下面の内側端部27a,28aで被処理物Pが傷付かないので、ガイドローラ27,28下面の内側端部27a,28aが搬送ローラ13の上端13aよりも下方に位置しなくてもよい。但し、ガイドローラ27,28下面の内側端部27a,28aの位置が高過ぎると、被処理物Pが蛇行したときにガイドローラ27,28と被処理物Pが接触しなくなるので、これらが接触できる高さでなくてはならない。
【符号の説明】
【0034】
10 ローラハース式連続炉
11 側壁
12 側壁
13 搬送ローラ
13a 上端
14 案内輪
15 煉瓦
20 ローラハース式連続炉
27 ガイドローラ
27a 下面の内側端部
28 ガイドローラ
28a 下面の内側端部
D1 搬送ローラの径
D2 ガイドローラの径
P 被処理物
θ ガイドローラと搬送ローラのなす角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体を形成する左右両側壁と、前記炉体内に左右方向に平行でかつ同じ高さで前後に並設されしかも回転自在に支持された円柱状の複数の搬送ローラとを備え、前記搬送ローラに載置された被処理物を前記搬送ローラの回転によって前方に移動させながら、前記被処理物に熱処理を施すローラハース式連続炉において、
前記左右両側壁の前記搬送ローラより上方から前記前後方向に垂直かつ前記搬送ローラ間に向けて延びるとともに回転自在に支持された円柱状の複数のガイドローラを備え、しかも前記ガイドローラの径を前記搬送ローラと同じ径にするとともに、前記ガイドローラを前記搬送ローラと同じ回転速度で回転させることを特徴とするローラハース式連続炉。
【請求項2】
前記ガイドローラ下面の内側端部は、前記搬送ローラの上端よりも下方に位置することを特徴とする請求項1に記載のローラハース式連続炉。
【請求項3】
一方の側壁側の前記ガイドローラを、他方の側壁側の前記ガイドローラと同じ前後位置に配置することを特徴とする請求項1又は2に記載のローラハース式連続炉。
【請求項4】
前記ガイドローラを前記搬送ローラに対して30〜50度となるように支持することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載のローラハース式連続炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−255910(P2010−255910A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105501(P2009−105501)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(592017002)三建産業株式会社 (23)
【Fターム(参考)】