説明

ロール、電気絶縁性シートの巻取装置および電気絶縁性シートロール体の製造方法

【課題】絶縁性シートの帯電を防止する接圧ロール、それを使用した巻取装置および絶縁性シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】接圧ロールのロール軸方向に複数の基材からなるロールであって、ロールのロール軸方向の両端部に帯電制御剤を20質量部以下含むことを特徴とする。これにより、接圧ロールのたわみによって強く摩擦帯電する両端の帯電欠点を抑制し、巻きズレなど品位の低下も無い良好な巻き姿が保てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム等の電気絶縁性シートの帯電を防止するロールとロール状に巻き取られた電気絶縁性シート(以下、シートロール体という)を製造する方法とそのために用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気絶縁性シート、たとえば、ポリエステルフィルムは耐熱性、耐薬品性、機械的特性において優れた特性を有することから、磁気記録材料、各種写真材料、電気絶縁材料、各種工程紙材料として多くの用途に用いられている。
【0003】
フィルム等の電気絶縁性シートの製造工程においては、製造用具(たとえば、搬送用金属ロールやゴムロール等)がフィルムに接触すると、フィルム表面に帯電電荷が発生し、工程中で種々の障害を起こすことは良く知られている。また、フィルム等の電気絶縁性シートの帯電が非常に強くなり、数10μC/m以上になると、フィルムと搬送ロールあるいはその他の製造装置との間で容易に放電が発生し、絶縁体であるフィルム表面にスタチックマークと呼ばれる放電痕跡を残すという問題がある。障害の例として、周囲のゴミが帯電電荷のクーロン力により引き寄せられ、製品の品位を落としたり、局所的な帯電部分が加工時の溶液の塗布ムラ原因となることもある。また、蒸着等の加工工程では、ベースフィルムの静電気帯電によって冷却キャン上でシワが発生しその周囲で熱負けを起こしたり、金属蒸着膜に抜けが生じたりする問題がある。
【0004】
特性の異なる2つの物質を接触、あるいは、摩擦させると、両者の間で電子の授受が発生した状態となる。電気絶縁性シートの場合、表面抵抗が非常に高いため、授受された電子が表面に孤立した状態になり、漏洩することなく帯電した状態を維持する。電子の授受は、物質の持つ仕事関数の大小により発生し、仕事関数の小さいものから大きいものへ電子が移動することが知られている。そして、電子を受け入れ過剰になった物質が負極性に帯電し、逆に電子が不足となった物質が正極性に帯電する。仕事関数とは、真空準位へ物質から電子1個を取り出すのに必要なエネルギーのことである。仕事関数が実測された金属の場合、前述の電子の授受と帯電との関係が明確になっており、仕事関数の小さい物質が正極性に、仕事関数の大きい物質が負極性に帯電する。フィルム等の電気絶縁性シートでも同様のメカニズムで電子の授受が起こり、電気絶縁性シートが帯電すると考えられている。
【0005】
このような帯電現象を抑制するため、電気絶縁性シートの特性に合わせた基材として、基材100質量部に対して帯電制御剤を20質量部以下の割合で混練したものを芯材上に被覆層として設けたロールが、本発明者らによって開示されている(特許文献1)。上記の帯電を制御したロールを使用すれば、フィルムとの摩擦帯電を減少でき、放電痕などの帯電欠点を防止することができる。このロールにおいては、ロール軸方向における被覆層の帯電特性は均一(変化しない)であった。ところで、シート状物、例えば電気絶縁性フィルムを適当な硬度でロール状に巻取るためには、接圧ロールを巻取中のシートロール体に押しつけながら巻取ることが有効であることが知られている。ここで、シートロール体とは巻取コアに順次電気絶縁性シートが巻き上げられたものを指す。接圧ロールを用いずに絶縁性シートを巻き取ると、空気を噛み込み巻き姿が不良であるだけでなく、シートロール体にはシワが発生しやすくなり、商品価値が著しく低下する。
【0006】
特に、磁気テープのベースフイルムなどのように薄いフイルムを巻取る場合には、巻取中に巻き込む空気量が多すぎると、シートロール体にしわなどの欠点が発生するので、接圧ロールによってこの巻込み空気をできるかぎり巻口で排除しながら、巻き取り良好な巻き姿のシートロール体を得ることが望ましい。
【0007】
従来から良く知られている接圧ロールとしては、ゴムなどの弾性体を外側に被覆成形した芯金の両軸端部で、ベアリングなどの軸受を介して、接圧ロール用のアームまたはフレームなどに回転自在に支持され、エアシリンダなどの加圧装置によって電気絶縁性シートロール体に接圧されるものである。
【0008】
巻取中の巻込み空気を効率良く排除するためには、接圧ロールの外径が小さい方が良く、押圧力(接圧)は大きい方がよいことが潤滑理論等から知られている。しかしながら、ロール径を小さくすることも、押圧力を大きくすることも、ともに接圧ロール自身の軸のたわみを増大し、結果として均一な接圧力を付与することが出来なかった。
【0009】
そして、本発明者らの知見によると、電気絶縁性シートに接圧ロールを強く押圧すると、接圧ロールと電気絶縁性シートの間で強い摩擦帯電が発生してしまうことが判明した。ロールと電気絶縁性シートの摩擦帯電は、接圧が高い程強くなるため、上記のようなロールでは、ロール軸方向の中央部に比べて、両端部では局所的にシートの摩擦帯電が非常に強くなってしまうという問題があった。
そこで、本発明者らは、前述の特許文献1に開示された帯電を制御したロールを使用することを検討したが、新たな問題が発生する場合があることを見出した。
すなわち、近年の平滑で高品位なプラスチックフィルムを高い硬度で巻き上げようとすると、シートロール体の巻き姿を良好に維持できない場合がある。本発明者らの知見によると、これは、帯電していないフィルム面は滑りやすく、ロール状に巻き上げたときにフィルム面とフィルム面がズレやすく、フィルム端面が不揃いになりやすいという問題がある。言い換えると、フィルム面が適度に帯電していると、フィルムの帯電によるクーロン力が上記のようなズレを抑制し、巻取時に良い方向に作用することがあるが、特許文献1に開示されたロールではこの作用が低下する。
【0010】
一方、従来より均一な接圧を得る技術として以下のような技術が知られている。
【0011】
たとえば、ロールの自重と荷重によるたわみを考慮して、中央部に比べて端部の直径を小さくし、ニップ幅や荷重が均一になるように加工されることがある(非特許文献1)。これをクラウン加工と呼ぶ。しかしながら、クラウン形状は、ロールの周長が中央部と端部で異なるので、周速差が生じてしまい、シートロール体にシワなどの巻き姿不良を発生させることもある。
【0012】
また、別の方法で、接圧ロールのロール軸方向に互いに硬度の異なる少なくとも2種類の弾性体を、中央部に最も硬度の高いものを、両端部方向へいくにつれ順次硬度の低いものを配列する構成の接圧ロールが開示されている(特許文献2)。中央部が最も硬く、つまりたわみにくく、両端部にいくにつれ順次軟らかく、つまりたわみやすい。したがって、シート状物の製品ロールとの接圧時に接圧ロールの軸がたわんでも、両端部の弾性体から順次つぶれてたわみを吸収できるので、均一な接圧を保つことができる。
【0013】
しかしながら、上記の方法では、両端の面圧を中央部と均一化し、接圧ロールとの摩擦帯電を局所的に高くしないことはできるが、たわみの具合は押圧力の大きさやロールの長さ、製品シートの幅によって変わるため、個々の条件を考慮する必要があり生産性が良いとは言い難かった。従来の技術は、ロールのたわみを考慮してロール全幅に亘り、押圧後に均一な面圧となるように配慮しすぎたため、ロールに高精度な加工技術を必要とするばかりか、均一な接圧分布を得るための取り付け方法や調整等に多大な労力を要した。また、中央部より端部に低硬度のゴム材質を使用するため端部ぼど削れやすく、使用によりロールに周速差が発生し、シートロール体にシワが発生してしまうという問題があった。つまり、このように、電気絶縁性シートとゴムロール等の接圧ロールの摩擦帯電を防止しつつ、巻きズレなどの発生がない良好なシートロール体を安定して得ることは困難であった
【特許文献1】特開2003−104605号公報
【特許文献2】特開平7−267451号公報
【非特許文献1】「ゴムロール技術資料」株式会社金陽社 技術資料
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は上記従来技術の問題点を解決することにある。すなわち本発明の目的は、フィルム等の電気絶縁性シートの製造工程における接圧ロールとして用いる場合に、電気絶縁性シートの帯電を有効に防止しつつ、ズレやシワなどの巻き姿不良を発生させにくいロールを提供することにある。さらに、かかるロールを使用した巻取装置および電気絶縁性シートロール体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため本発明は以下の構成をとる。すなわち本発明は、芯材に被覆層を設けたロールであって、前記被覆層の表面の帯電特性がロール軸方向において変化するよう構成されていることを特徴とするロールを提供する。
【0016】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記被覆層のロール軸方向の両端部における表面の帯電特性が中央部と異なることを特徴とするロールが提供される。
【0017】
また、本発明の別の形態によれば、芯材に被覆層を設けたロールであって、前記被覆層の表面部の少なくとも一部において帯電制御剤が配合され、該配合された帯電制御剤の種類および/または配合された帯電制御剤の配合率ロール軸方向において変化するよう構成されていることを特徴とするロールが提供される。
【0018】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記被覆層のロール軸方向の両端部の表面部における、配合された帯電制御剤の種類および/または配合率が中央部と異なることを特徴とするロールが提供される。
【0019】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記被覆層の表面の電気伝導度がロール軸方向において変化するよう構成されていることを特徴とするロールが提供される。
【0020】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記被覆層のロール軸方向の両端部の表面の電気伝導度が中央部よりも低いことを特徴とするロールが提供される。
【0021】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記被覆層の表面部における基材の材質はロール軸方向において実質的に均質に構成されていることを特徴とするロールが提供される。
【0022】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記被覆層のロール軸方向の両端部の表面部は、基材100質量部に対して帯電制御剤をそれぞれ1質量部以上20質量部以下含むことを特徴とするロールが提供される。
【0023】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記基材の材質は、ゴムであることを特徴とするロールが提供される。
【0024】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記両端部は両端から、それぞれ被覆層のロール軸方向の長さの25%の範囲の部分であることを特徴とするロールが提供される。
【0025】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記被覆層が厚み方向に複数の層からなることを特徴とするロールが提供される。
【0026】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記帯電制御剤は、導電性フィラーおよび/またはカーボンブラックであることを特徴とするロールが提供される。
【0027】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記ロールは、接圧ロールであることを特徴とするロールが提供される。
【0028】
また、本発明の別の形態によれば、電気絶縁性シートを接圧ロールで押圧して面圧を与えながら巻取コアに巻き取る電気絶縁性シートの巻取装置であって、前記接圧ロールとして上記いずれかのロールを備えてなることを特徴とする電気絶縁性シートの巻取装置が提供される。
【0029】
また、本発明の別の形態によれば、電気絶縁性シートを接圧ロールで押圧して面圧を与えながら巻取コアに巻き取る電気絶縁性シートロール体の製造方法であって、前記電気絶縁性シートの表面電位がロール軸方向において変化するよう巻取ることを特徴とする電気絶縁性シートロール体の製造方法。
【0030】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記電気絶縁性シートのロール軸方向の両端部の表面電位の絶対値が中央部よりも低くなるよう巻き取ることを特徴とする絶縁性シートロール体の製造方法が提供される。
【0031】
本発明おいて電気絶縁性シートとは、一般に絶縁性高分子からなり表面抵抗率が1011Ω/□以上であり、実質的に電気を通さない材質からなるシートである。このような絶縁性シートの体積抵抗率は、通常、1012Ω・m以上である。なお、表面抵抗値と体積抵抗値の測定は、ASTM D−257による。測定は、エレクトロメータ6517型(KEITHLEY)と抵抗率チェンバ8009型(KEITHLEY)を使用し直流500Vを印加し、25度50%RHで測定する。本発明において、絶縁性シートの材質に特に制限はないが、たとえば、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系などの絶縁性高分子からなるシートを挙げることができる。また、絶縁性シートの表面には放電処理やコーティングなどが施されていてもよい。また、シートの厚みについては特に制限はないが、好ましくは0.5μmから500μmの範囲である。
【0032】
フィルム等の絶縁性シートとしては、あらかじめ片面に金属などの導電薄膜が形成されたものや後工程での接着性を良くするために易接着剤がコーティングされたものも好ましく使用される。つまり、絶縁性シートの片面に導電性膜が形成されていても、他方の面の絶縁性が保たれておれば、本発明における絶縁性シートたりうる。
【0033】
本発明が適用される電気絶縁性シートとして、代表的なものには、プラスチックフィルム、布帛、紙等のシートや枚葉体があるが、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ナイロンフィルム、アラミドフィルム、ポリエチレンフィルム等のプラスチックフィルムは、電気絶縁性が高いため、本発明を適用するのに特に好適である。
【0034】
本発明において、被覆層の基材の材質は特に限定されないが、好ましくは柔軟性を有するゴムを使用する。ここで、ゴムの材質は従来ゴムロールに使用されているゴムならいずれも使用できる。具体例としてクロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコンゴム、アクリルニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ウレタンゴムなどが好ましく使用される。これらのゴムは単独で用いても良く、数種のゴム材質をブレンドして用いてもかまわない。
【0035】
被覆層の基材には、必要に応じて難燃剤、熱安定剤、可塑剤、補強剤、充填剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、ワックス、オイルなどを配合しても良く、これら二種以上を適宜配合しても良い。また、ロールに導電性を付与するために、導電性カーボンブラックや導電性フィラーなどの導電性物質や、第4級アンモニウム塩などのイオン性の化合物を基材に添加するのも好ましく用いられる。導電性を付与しておくと、ロール表面の帯電荷が効率的に排出されるため、ロール表面の帯電状況の変化による電気絶縁性シートの長手方向における特性の変化を低減できる。また、ロールの表面処理を施しても良く、たとえば、易滑性を得るために紫外線、電子線の照射、化学薬品処理による表面処理を行っても良い。
【0036】
本発明において、「ロール両端部」とは、被覆層のロール軸方向両端から内側に属する領域をいう。両端に近い部位と中央に近い部位との間で明確な特性の差が認められるときは、そのような特性の差が現れる点を境界として、両端に近い側を両端部、中央に近い側を中央部とする。このような特性の差が現れない場合には、典型的には、被覆層の全長さに対して25%の範囲としてもよい。例えば、被覆層の長さが640mmであれば両端から160mm以下の範囲である。かかる領域をロール両端部とするときは、表面の電気伝導度等の特性はその領域内における平均値で評価する。なお、被覆層とは芯材の外側に形成された層であって、芯材が例えば金属からなる円筒状物の場合には円筒の外径より直径が大きい部分に存在する層をいう。ロール軸方向におけて被覆層は芯材の端部より内側に形成され、芯材より外径が大きくなっている。本発明において、配合とは被覆層を形成する素材に対して混ぜ合わせることをいい、配合率とは素材に対する質量割合で示す。なお、配合は練りの段階でゴム材料とその他の添加物を混ぜた方が均一に配合しやすい。
【0037】
本発明において、「表面の帯電特性」とは、2つの物質の界面で発生する帯電の様子のことで、一方が正にどれくらい帯電し、もう一方が負にどれくらい帯電するかを、特性値として静電荷に関係する物理量(例えば、表面電位や電荷密度)で表したものである。
【0038】
本発明において、「ロール中央部」とは、前述の「ロール両端部」以外の領域をいう。
【0039】
本発明において、「ロール軸方向において変化する」とは、中央部と両端部が異なる帯電特性等の諸特性を持つ状態をいう。たとえば、帯電特性の場合、中央部と両端部で同じ電気絶縁性シートを摩擦帯電させたときに、一方における帯電量が他方における帯電量の2倍以上となる程度に異なることをいう。配合率、電気伝導度等の数値パラメータも同様である。
【0040】
本発明において「被覆層の表面の電気伝導度」とは、被覆層の最表層部の表面抵抗率の逆数をいう。通常、表面抵抗率(ASTM D−257)を測定して得られるが、ロール形状の場合、直径1mmの2個のプローブを間隔14mmでロールに押し付け、プローブ間印加電圧500Vで得られた抵抗値を読みとって代用する。
【0041】
本発明において、「実質的に均質」とは被覆層の主たる素材が同一であり、機械的強度や硬さ、表面の摩擦係数などの非電気的特性の部位の違いによる変化の度合いが帯電特性等の電気的特性の変化の度合いに比べて1/10以下となっていることをいう。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、後述の通り、実施例と比較例との対比からも明らかなように、接圧ロールを用いて電気絶縁性シートを巻取る場合に、実質的に帯電欠点が発生しにくく、ズレなどの巻き姿の問題が発生しないシートロール体を、極めて簡単な方法および装置で製造することができる。これにより、電気絶縁性シートの帯電が原因で発生する後工程での、搬送不良、塗布ムラが発生しない電気絶縁性シートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を電気絶縁性シートとしてプラスチックフィルムを用いる場合を例にとって説明するが、本発明は、これに限られるものではない。
【0044】
電気絶縁性シートであるフィルムの摩擦帯電量は製造工程中に接触する部材の材質により大きな影響を受ける。特に、フィルムをロール状に巻き取る巻取部での接圧ロールとフィルムとの摩擦帯電は非常に強いため、巻き上がった製品シートロール体の帯電量を左右する。つまり、フィルムの摩擦帯電量が小さくなる静電気的に相性の良い接圧ロール材質を見い出せればシートロール体の帯電量を小さくできる。
【0045】
一方、シートロール体に発生する局所的な帯電欠点は、フィルムがロール状に積層されたときにフィルム1枚毎の摩擦帯電量が積算されるために発生する。この局所的な帯電欠点はシートロール体で発生した放電が原因であるため、シートロール上での放電を防止すれば、局所的帯電欠点の発生も抑制できる。すなわち、シートロール体の電位を低く抑えることがこのましく、根本的対策として上記の接圧ロールとシートの摩擦帯電量を減少させることが有効である。
【0046】
ここで、フィルムの帯電について以下に説明する。ポリエステル系やポリオレフィン系のフィルムは帯電列が負傾向を示すことが多い。帯電列とは、2つ以上の物質を摩擦帯電させたときにいずれの極性に帯電するかを、正から負の順に並べたものである。表面を異種物質でコーティングしたフィルムには、たとえば、易接着性フィルム、離型性フィルム、ハードコートフィルムが挙げられる。このような高機能な表面特性を得るために、コーティングにはアクリル系樹脂やシランカップリング材、シリコーン等の成分を含む。このような物質はどちらかと言うと正に帯電しやすく、接圧ロールとの接触、あるいは、摩擦帯電で電気絶縁性シートが正に帯電する。
【0047】
接圧ロールに使用されるゴム材質も通常は負に帯電しやすく、帯電列が負傾向であるから、電気絶縁性シートと接圧ロールの帯電列は比較的似たものとなり、摩擦帯電が弱く帯電問題が発生することは少なかった。しかしながら、電気絶縁性シートの表面をコーティングすることで、コーティング材質と接圧ロールの摩擦帯電の様子が変わり、正のコーティング材と負の接圧ロールの帯電列が異なるため、シートはロールとの摩擦帯電が非常に強くなってしまう。
【0048】
上記問題を解決するため、従来のゴム基材に対して、帯電を制御する帯電制御剤を20質量部以下含むロールが本発明者らによって提供された(特許文献1)。特に、正の帯電制御剤をゴム基材に対して5から7%程度練り込んだゴム基材を有するロールは、コーティングした電気絶縁性シートとの摩擦帯電量を絶対値で従来の半分以下、より好ましくは1/4以下に小さく抑えることができる。このシートの摩擦帯電量を抑制するロールをここでは帯電制御ロールと呼ぶ。
【0049】
しかしながら、フィルムの摩擦帯電量を小さく抑制したばかりに、シートロール体の巻き形状が変化することが明らかになった。例えば、フィルム層が巻きズレやすくなったり、シートの長さ方向に収縮しシートロール体が必要以上に硬く巻き上げられたりする。特に、磁気記録材料等に使用されるような非常に平滑な平面性を有するフィルムを巻き上げ高硬度なシートロール体を得ようとすると、巻きズレが発生しフィルム端部が不揃いになるという製品品位に関する問題が発生した。このような問題が発生しやすい「非常に平滑な平面を有するフィルム」とは、典型的には、表面の中心線面平均粗さSRaが10nm以下であるフィルムである。フィルムの中心線面平均粗さSRa値は、JIS B 0601で規定するRaに相当する値である。
【0050】
この原因を以下に説明する。
【0051】
フィルムをロール状に巻き上げる際、フィルムに随伴する空気は接圧ロールで排除されるが、完全には排除しきれずに、空気が噛み込んだ状態で巻き取られる。シートにはシート長さ方向に張力が付与されており、この張力によってフィルム層間の空気が押し出され、徐々に巻き径が減少することで張力は緩和する。空気は、フィルムの端面から抜けるが、空気層に接していたフィルム層が空気層につられてずれることで、巻きズレが発生する。特に、接圧ロールとコアの平行度がずれていたり、接圧ロール面圧の分布が異なるとフィルムにかかる左右の力がアンバランスとなり、フィルムの巻きずれが大きくなる傾向がある。
【0052】
電気絶縁性シートがロールと摩擦して発生した帯電電荷はクーロン力を発生する。クーロン力は周知のように帯電電荷量に比例するが、他の物質に引き寄せられ密着することができる。特に、アースに接続されたコアや積層したシートロール体に貼り付きズレ止め力として働くことができる。この力はエア抜け時にフィルムにかかるズレ力よりも大きいため巻きズレの発生はほとんど起こらない。しかしながら、帯電制御ロールによって摩擦帯電が抑制され、帯電欠点や放電痕がほとんどないフィルムは、このズレ抑制力がほとんどないため、巻きズレが発生するのである。
【0053】
上記課題を解決する本発明を以下に説明する。本発明は、巻きズレ等によるシートロール体の品位の低下がなく、かつ、帯電が抑制された良好なシートロール体を両立する方法である。本発明者らがシートと接圧ロールと摩擦帯電について詳細に検討したところ、問題となる帯電欠点や強い帯電部は接圧ロールの両端部分で多く発生することが判った。これは、接圧ロールが機械的にたわむため、ロール中央部に比較して両端部分の接圧が大きくなることによる。また、局所的に帯電部分があると巻きズレは発生しないので、ロール中央部の帯電量は上述の巻きズレを抑制する力として十分であることが判った。つまり、ロールのたわみから局所的に接圧が大きくなる両端部分に帯電制御機能を持たせて局所的な帯電欠点の発生を抑制し、ロール中央部は従来のゴム材質を用いて巻きズレを最小限にくい止めるのである。
【0054】
この結果、本発明者らは、ロール軸方向における被覆層の表面の帯電特性を変えて帯電量を変化させたものが有効であることを見出した。たとえば、両端部に摩擦帯電しにくい帯電制御剤を1質量部以上20質量部以下混練するとよい。ここで、前述のように、ゴムロールとの帯電はフィルムが負帯電であるが、フィルム表面がコーティングされると正帯電になる場合が多い。ゴム材質に練り込むカーボン粒子は正帯電傾向が強いので、帯電列が正にほぼ一致し摩擦帯電が抑制されるという効果がある。たとえば同一のゴム材質にカーボン粒子を混練するだけで帯電が制御できるので、ロール軸方向に帯電特性が変化する被覆層を容易に形成できる。被覆層の基材の種類が異なると、表面形状や摩擦係数、機械的磨耗性等の特性が異なるが、同種の材質を用いるとこれらの影響を最小限にできるので好ましい。
【0055】
以上、ロールのロール軸方向に表面の帯電特性の異なる被覆層を適用し、たとえば中央部に比べて両端部分の摩擦帯電量を制御したロールは、ロール軸方向のシート帯電分布を任意に変えることができる。帯電の強さは電気絶縁性シートとロールの両者の帯電列の位置関係に関係する。正帯電のものと負帯電傾向の強いものを摩擦帯電させると非常に強く帯電し、帯電が強くなると放電痕などの問題が発生する。正帯電傾向の絶縁性シートに正帯電傾向のゴムロールを用いると帯電が抑制できる。また、逆に、負帯電傾向の絶縁性シートには負帯電傾向のゴムロールを用いても帯電が抑制できる。前述のように、フィルムの表面コーティング材は正帯電列が多い。一方、ゴム材質に練り込むカーボン粒子も正帯電傾向が強いので、コーティングとロールの帯電列が正にほぼ一致するため帯電が抑制されるという効果がある。
【0056】
摩擦帯電の調整はシートとロールの簡便な摩擦帯電評価方法で確認することができる。その方法を図4を参照しながら以下に示す。
【0057】
図4はフィルムとロールの摩擦帯電評価方法の概略図である。図4に示すように、ロールを電気絶縁性シート上でころころと転がし、シートとロールを摩擦帯電させる。シートには、厚さ6.3[μm]の2軸延伸された磁気テープ用ベースフィルムであるポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、ポリエチレンテレフタレート原料Aと、ポリエチレンテレフタレートに平均粒径300nmの架橋性ポリスチレン球を0.30質量%含有させた原料Bとを厚み比5:1の割合で共押出しした積層フィルムで、平滑な面の表面中心線面平均粗さSRaは5nmである。この面の外側に、以下の成分を固形分塗布量で25mg/m2となるように塗布したものである。
【0058】
ポリビニルアルコール 0.25質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−カリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体)0.44質量%
アミノエチルシランカップリング剤 0.18質量%
アミノ変性シリコーン 0.31質量%
平均粒径 4nmの極微細シリカ0.10質量%
後述の実施例では、面長210mm、直径100mmの小型のゴムロールを製作し、シートと摩擦帯電させて帯電量を定量した。摩擦帯電量は、シート23の上にゴムロール1を50mm/秒の速度で転がした後、シート23を空中で把持し、シート23のアースに対する電位を電位計(トレック社製model−523)にて測定する。ゴムロール1とシート23との摩擦は、ロール軸方向の長さあたり、接圧200〜210N/mで行った。値は、シート23内で5点測定しその平均値で表した。被測定シート23の背面の摩擦帯電の影響を抑えるために、同種、同寸法のシート24を下敷きとして使用し、さらにその下には表面の平滑な絶縁性のアクリル板22とアースに接続した500mm四方の金属板21を使用している。なお、この測定は温度23℃、湿度45%〜50%RHの環境で実施する。ロール軸方向に異なる材質を有するロールの場合、その軸方向の場所毎に摩擦帯電評価を行い、ロール軸方向の電位分布を求めることができる。
【0059】
次に、本発明のロールの好ましい実施形態の例を図1を用いて説明する。図1はロール軸方向に複数のゴム層からなるロール1を示しており、ステンレスなどの金属からなる芯材4に帯電制御剤を含むゴム層2と他のゴム層3が被覆された構成である。ゴム層2にはゴム100質量部に対して1質量部以上20質量部以下の帯電制御剤が混練されている。
【0060】
帯電制御剤の含量は、1質量部未満では十分な帯電制御が期待できないことが多く、絶縁性シートの帯電量が大きくなる。このため、絶縁性シートに異物が静電引力で付着したり、塗布ムラが多くなるため好ましくない。一方、帯電制御剤が20質量部を越えると、基材であるゴムの柔軟性を損ねたり、ロール表面の硬度が高くなったり、ゴムにクラックが入りやすいといった問題が発生することがある。また、帯電制御剤が多すぎると、帯電制御剤が凝集して表面に析出されたりする問題が発生することもある。
【0061】
もちろん、被覆層の表面の帯電特性をロール軸方向で変化させる方法としては、同一の帯電抑制剤の有無だけでなく、帯電制御剤の種類や量を軸方向の中央部と両端部とで異ならしめることでも実現できる。また、硬度などの帯電特性以外の点が変化しても問題なければ、基材の素材として帯電特性が異なるものを用いてもよい。
【0062】
図2は、帯電制御剤を混練した、本発明の他の実施形態例を示している。図2では、厚み方向に被覆層が複数のゴム層からなり、その最表層のみに帯電制御剤を含んだ両端部のゴム被覆層2と他の特性を有する中央部のゴム被覆層3が使用されている。最表層以外の内層の他のゴム層5には低弾性率で変形しやすいゴム材質を用いることができ、ゴムロールの硬さを容易にコントロールすることができる。ここで、最表層の厚みは特に限定されないが、好ましくは数10μmから数mmまでの範囲で用いられる。
【0063】
本発明の好ましい実施形態に使用する帯電制御剤について以下に詳細に説明する。帯電制御剤は、一般に、他の物質に含有させたときにその物質の帯電特性を変化させる物質をいう。よって、帯電制御剤自身は非常に帯電しやすく電子または、イオンの移動が容易に起こりうる化合物である。
【0064】
本発明の好ましい実施形態に使用する帯電制御剤の粒径は特に制限はないが、細粒であるほうが基材との混練が容易でムラなく基材中に分散することができる。そこで、帯電制御剤の平均粒径は100μm以下、特に、0.01〜20μm程度とすることが好ましい。本発明に使用する帯電制御剤は2種類に大別される。1つは、帯電制御剤自身が正に帯電しやすい場合であり、電子やイオンを放出しやすい特徴がある。もう1つは、帯電制御剤自身が負に帯電しやすい場合であり、電子や負イオンを捕捉するサイト(トラップサイトとも呼ぶ)が豊富であるため、摩擦帯電で捕捉できる電子の量(個数)や負イオンの量(個数)が多いことに特徴がある。このような正または負の帯電制御剤を基材に混練することで、被覆層の帯電列を変えることができる。被覆層に含まれる帯電制御剤の効果により、絶縁性シートと該被覆層との摩擦の際に、電子またはイオンが容易にかつ多量にやりとりできるため、絶縁性シートとの摩擦帯電状態を所望の状態に変えることができる。
【0065】
次に帯電制御剤を具体例を挙げて説明する。まず、正の帯電制御剤となり得る化合物として、分子構造中にアミノ基、アミド基、イミノ基、窒素を含む複素環から選ばれた基を有する化合物および/またはトリフェニルメタンやカーボンブラック粒子であれば、電子を供与して正に帯電しやすく、帯電列を正側にできる。この中でも、カーボンブラック粒子は帯電が制御しやすく、ゴム基材との混練も容易であるため好ましく用いられる。
【0066】
次に電子を授容して負に帯電しやすく、帯電列を負側にできる帯電制御剤の例であるが、例えば、含金属アゾ化合物やサリチル酸誘導体等が挙げられる。ここで、金属元素は特に限定されないが、好ましくはカリウム、コバルト、鉄、マンガン、鉛およびクロムから選ばれた少なくとも1種である。具体的な商品としては、オリエント化学社製の”ボントロンS−31”、”同S32”,”同S−34”などを挙げることができる。
【0067】
次に、本発明のロールの好ましい実施形態例の製造方法の例について説明する。ロールは芯材と表面の被覆層で構成されている。芯材は芯がね、または、ロール芯とも呼ばれ、荷重に十分耐えるものが好ましい。芯材の材質は、SUSやステンレスなどの金属やカーボンファイバーを含む複合樹脂材料などと使用することができる。
【0068】
ゴム基材は、素練りを経た原料ゴムに加硫剤、促進剤、老化防止剤、補強剤、充填剤、可塑剤、粘着剤、着色剤などを配合して練り混むことが多い。この時に帯電制御剤を所定量配合すると、帯電制御剤が均一に分散して好ましい。また、混合する前に帯電制御剤の粒径をできるだけ細粒化することが好ましい。混合したコンパウンドを数日間熟成した後、カレンダーで厚さ1〜3mmのシート状に押し出しゴムシートを加工する。得られたゴムシートの表面に溶剤を塗布し粘着化させ、接着剤を塗布した芯材に巻き付け、周囲を固めた後、加硫を開始する。このとき、ロール軸方向に異なる電気的特性等を有するゴムシートをあらかじめ巻き付けておく。この異種のゴムの間に中間層を設けても良い。複数のゴム基材は同じゴム材質を含むものであれば、熱による収縮や機械的強度などの特性が基質となるゴム材質でほぼ一致させることができ、好ましい。
【0069】
このようにしたロール軸方向に表面の帯電特性が異なるゴムシートを巻き付けたロールを一度で加硫する。加硫は、加硫用の容器にいれて120℃から170℃に加熱し、ゴムと加硫剤を化学的に結合しゴム弾性体を得る。その後、研磨機でゴム表面を研磨する。ゴム表面粗さはRzで5μm程度以下にすると、絶縁性シートをスムーズにハンドリングできるため好ましい。ここで、Rzとは、JISB601における、十点平均粗さである。ロール表面の摩擦係数は全幅で均一にすることが好ましい。例えば、中央部と端部で摩擦係数が異なるとエア抜けの効率が異なり、局所的にエアが溜まりやすい部分でシワになる可能性がある。
【0070】
ゴム硬度としては、10度〜80度(JIS K6253 タイプAに規定する測定法により行なう。この規格で規定されたJISスプリング式硬さ試験器を、軸方向を水平に静置したロールの上に水平に載せ、9.8Nの荷重をかけ測定する)の範囲が好ましいが、あまり硬すぎるとたわみを吸収することができず、接圧時に中央部に隙間ができることもあり得る。また、あまり低硬度のゴムを使用するとゴムが削れやすく耐久性の問題がある。ロール端部の硬度が中央部より2、3度低く設定するとより効果が得られる。
【0071】
また、小径の接圧ロールは、特にエア噛み込み量が小さいので、巻きズレの発生が少なく、面方向に異なるゴム基材を有し両端部に帯電制御剤を混練したロールは、特に、巻きズレの発生を抑制することができる。ここで小径とは直径が60mm以下、あるいは、軸方向長さと直径の比で100以下であることをいう。
【0072】
両端の帯電制御部分や中央部のゴムの幅もそれぞれ任意に変化させても良い。また、ロール周速差に影響がでない程の微小なクラウン形状を用いても良い。好ましい範囲は、直径の比が0.99以上1.00以下である。
【0073】
次に本発明の巻取装置、並びに、電気絶縁性シートロール体の製造方法の好ましい形態について図3を用いて説明する。
【0074】
本形態のロールは電気絶縁性シートの巻取装置の接圧ロールとして好適に用いることができる。つまり、絶縁性シート5を巻取コア7に巻き取ってシートロール体8を製造するのに好適に使用することができる。絶縁性シート5は、接圧ロール1により押圧を加えながら巻取コア7に巻き取られ、シートロール体8が製造される。接圧ロール1は、帯電制御剤を含むゴム層を含んだもので、ベアリングを介してフレームに電気的に接地されている。接圧ロール1は、エアシリンダなどの押圧手段により巻取コアに押圧されている(図示せず)。図3に示す巻取装置の前工程には、通常、フィルムを搬送する目的や張力を制御する目的で多数の装置や他のロールが配置されている。図中では巻取部直前の接圧ロールのみ図示した。図3では、電気絶縁性シート5の移動に伴って接圧ロールであるロール1は時計回りに、巻取コア7は反時計回りに回転する。巻取コア7には順次シートが巻き取られていくため、シートロール体8は次第に巻き太り、直径が増大する。除電器11はシートロール体8に向けて設置されており、絶縁性シートロール体8のロール電位を低く抑える為に用いられる。この除電器は本発明の接圧ロールの帯電抑制効果を補助する目的で使用される。このような絶縁性シートロール体の除電装置としては、交流式、直流式、交流高周波式、送風式などの電圧印加式静電気除去装置や、導電性繊維やカーボンブラシを用いた自己放電式除電装置などを挙げることができる。図3の実施態様では針電極12が交流式高電圧電源14に接続されている。針電極の近傍には対向電極13があり接地されている。
【0075】
本発明の接圧ロールを使用したところ、ロール端部の強い摩擦帯電が抑制でき放電痕等の帯電欠点の発生は無く、かつ、シートロール体には巻きズレが発生しなかった。別途、上述の摩擦帯電評価方法でロール端部と中央部との帯電量を確認したところ、中央部に比べて端部は摩擦帯電が半分程度に小さくなっていた。ゴム基材に帯電制御剤を少量混練するという簡単な方法で、接圧ロールの接圧分布を均一化することもなく、シートロール体の巻き姿を良好に保ったまま生産性を向上することができた。
【実施例】
【0076】
以下実施例を用いて説明する。
【0077】
摩擦帯電評価方法:シートとして200mm×300mmに切り出した。面長210mm、直径100mm、ゴム厚3mmのゴムロールを用いた。このときゴム材質は種々に変えたものを製作した。
【0078】
摩擦帯電量は、シートの上にゴムロールを滑らせないように手で50mm/秒の速度で転がした後、シートを空中で把持し、シートのアースに対する電位を電位計(トレック社製model−523)にて、40mmの距離で5点測定し、その平均値で表した。この際、被測定シートの背面の摩擦帯電の影響を抑えるために、同種、同寸法のシートを下敷きとして使用し、さらにその下には表面の平滑なアクリル板とアースに接続した500mm四方の金属板をこの順で置いた。なお、測定温度23℃、湿度45%RHの環境で実施した。
実施例1、および、比較例1、2を以下に示す。
ゴム基材としてクロロプレン系のゴムを使用した。このゴムは金陽社製で商品名が“CR”であった。帯電制御剤にはカーボンブラック粒子を用い、ゴム基材に対して6.4質量%添加した。また、オイルの添加量でゴム硬度を調整した。帯電制御剤を含むゴム基材は“導電性CR”と呼称した。
【0079】
まず、CRと導電性CRを含む基材を肉厚4mm、幅700mm、長さ500mmのシート状に押しだし成形し、ステンレス綱(SUS303)製の芯材に該シートを巻き付けた。このとき、ロール軸方向に基材を変え、中央部にCRを、両端部に導電性CR(=帯電制御ゴム基材)を配置し、端部は両端から150mmまでとした。この状態で加圧しながら徐々に加熱して加硫させ、ロールを成形した。その後、ゴム表面を研磨紙を用いて表面粗さRz=5μmとした。さらに、表面に易滑性を付与するため、塩素系の薬品で表面を処理した。
【0080】
比較のため、ロール全幅がCRのみのロールと導電性CRのみのロールを製作した。成形方法は同じであった。接圧ロールを表1に示す。ゴム硬度はアスカーC型硬度計を9.8N荷重でロールに押し付け測定した。
【0081】
【表1】

【0082】
図3に示す巻取装置に接圧ロールに用いて、絶縁性シートを巻取り絶縁性シートロール体を得た。除電器には針式除電バーに交流電圧を印加し、スタティックバーにはSS50(シムコ社製)、高圧電源としてPU−4(シムコ社製)を用い、印加電圧4kVで使用した。
【0083】
厚さ6.3[μm]の2軸延伸された磁気テープ用ベースフィルムであるポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。平滑な面の表面中心線面平均粗さSRaは5nmであった。(品番6XV68F 東レ株式会社)、接圧ロールに平滑面をタッチさせながら2000m巻き返した。平滑面は易接着コーティングがなされていたコーティング面であった。フィルム速度は100m/分で、ガラス繊維強化樹脂製のコアに巻き取った。接圧ロールは300N/mになるようにエアシリンダでコアに押しつけた。シートの張力は50N/mとした。
【0084】
巻取テストに先立ち、摩擦帯電評価を実施した。その結果、CRとコーティング面の摩擦帯電電位は+15kV以上であり、導電性CRロールでは+6.5kVであった。つまり、ロール軸方向に変化する帯電分布があり、ロールの両端部は中央部より帯電量が半分以下に抑制されている。
【0085】
巻き上がった後、巻きズレの有無と帯電欠点の発生状況を確認した。巻きズレは周期性の有無に関わらず、フィルム端面からの飛び出し量をゲージで測定した。巻きズレの発生率は、それぞれ3回巻き取ったうちの巻きズレが発生した回数を求めた。帯電欠点の有無は、シートにコピー用のトナーを振りかけ評価した。帯電箇所にはトナーが付着するので、トナーが局所的に付着するかしないかを判断し、付着した場合帯電欠点ありとした。結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、プラスチックフィルムをロール状に巻き上げるために使用されるロールやそのロールを用いた巻取方法、電気絶縁性シートの製造方法限らず、紙等のウエブの印刷技術やシリコンウエハ、ガラス基板等の枚葉物フィルムのハンドリング技術などにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【0088】
また、本発明の目的として端部の帯電を抑制したが、反対に端部に積極的な帯電部を作成し巻きズレ等の問題を解消することにも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明のロールの1例を示す概略構成図である。
【図2】本発明のロールの別の1例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の巻き取り装置の1例を示す概略構成図である。
【図4】本発明のシートとゴムロールの摩擦帯電を評価する概略構成図である。
【符号の説明】
【0090】
1:接圧ロール
2:帯電制御剤を含む被覆層
3:他のゴム層
4:芯材
5:電気絶縁性シート
6:コア
7:電気絶縁性シートからなるシートロール体
8:針電極
9:アース電極
10:交流式高電圧電源
21:アースに接続した金属板
22:絶縁性のアクリル板
23:シート
24:被測定シートと同種のシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材に被覆層を設けたロールであって、前記被覆層の表面の帯電特性がロール軸方向において変化するよう構成されていることを特徴とするロール。
【請求項2】
前記被覆層のロール軸方向の両端部における表面の帯電特性が中央部と異なることを特徴とする請求項1に記載のロール。
【請求項3】
芯材に被覆層を設けたロールであって、前記被覆層の表面部の少なくとも一部において帯電制御剤が配合され、該配合された帯電制御剤の種類および/または配合された帯電制御剤の配合率がロール軸方向において変化するよう構成されていることを特徴とするロール。
【請求項4】
前記被覆層のロール軸方向の両端部の表面部における、配合された帯電制御剤の種類および/または配合率が中央部と異なることを特徴とする請求項3に記載のロール。
【請求項5】
前記被覆層の表面の電気伝導度がロール軸方向において変化するよう構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のロール。
【請求項6】
前記被覆層のロール軸方向の両端部の表面の電気伝導度が中央部よりも低いことを特徴とする請求項5に記載のロール。
【請求項7】
前記被覆層の表面部における基材の材質はロール軸方向において実質的に均質に構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のロール。
【請求項8】
前記被覆層のロール軸方向の両端部の表面部は、基材100質量部に対して帯電制御剤をそれぞれ1質量部以上20質量部以下含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のロール。
【請求項9】
前記基材の材質は、ゴムであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のロール。
【請求項10】
前記両端部は、両端から、それぞれ被覆層のロール軸方向の長さの25%の範囲の部分であることを特徴とする請求項2、4または8に記載のロール。
【請求項11】
前記被覆層が厚み方向に複数の層からなることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のロール。
【請求項12】
前記帯電制御剤は、導電性フィラーおよび/またはカーボンブラックであることを特徴とする請求項3または4のいずれかに記載のロール。
【請求項13】
前記ロールは、接圧ロールであることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のロール。
【請求項14】
電気絶縁性シートを接圧ロールで押圧して面圧を与えながら巻取コアに巻き取る電気絶縁性シートの巻取装置であって、前記接圧ロールとして請求項1〜13のいずれかに記載のロールを備えてなることを特徴とする電気絶縁性シートの巻取装置。
【請求項15】
電気絶縁性シートを接圧ロールで押圧して面圧を与えながら巻取コアに巻き取る電気絶縁性シートロール体の製造方法であって、前記電気絶縁性シートの表面電位がロール軸方向において変化するよう巻取ることを特徴とする電気絶縁性シートロール体の製造方法。
【請求項16】
前記電気絶縁性シートのロール軸方向の両端部の表面電位の絶対値が中央部よりも低くなるよう巻き取ることを特徴とする請求項15に記載の絶縁性シートロール体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−151569(P2006−151569A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343617(P2004−343617)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】