説明

ロールミル

【課題】長時間の混練・分散処理を行う場合であっても最適なペースト状の粘性を有する高品質の原材料を形成することができるロールミルを提供する。
【解決手段】軸平行に隣接配置した一対のロール10,11間に、粉体材料と溶媒を混合したペースト状の原材料23を投入して混練・分散処理を行なうロールミルである。このロールミルは、一対のロールを収容し、ロールの周辺が一定の雰囲気下となるように収容空間14の気密を保持しているケーシング13と、ケーシング内の収容空間を、溶媒の蒸気雰囲気下に置換する置換手段とを備えている。置換手段は、排気遮断弁16を介装して収容空間及び外気の間を連通している排気通路15と、蒸気遮断弁19を介装して収容空間及び外部に配置した溶媒蒸気供給手段の間を連通している供給通路18,26と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス電子部品の製造において粉体と溶媒とを混合したペースト状の原材料を混練・分散処理するロールミルに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス電子部品の材料であるペースト材料は、粉体と溶媒とを混合したペースト状の原材料をロールミルで混練・分散処理することで形成される。
ロールミルとして、例えば特許文献1の装置が知られている。このロールミルは、図3に示すように、始点ロール1及び中間ロール2が互いのロール面を近接して軸平行に配置され、中間ロール2及び終点ロール3が互いのロール面を近接して軸平行に配置され、中間ロール2が時計回りに回転し、始点ロール1及び終点ロール3が反時計回りに回転するようにしている。粉体と溶媒とを混合したペースト状の原材料5は、始点ロール1及び中間ロール2の間に投入され、ロール1、2間、ロール2、3間を通過する際の剪断力および圧縮力によって混練・分散処理が行なわれる。そして、混練・分散処理によって形成されたペースト状の原材料5は、終点ロール3に移行した後、掻き取り部4によって回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−25075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図3で示したロールミルは、始点ロール1、中間ロール2及び終点ロール3が、上部が開口した非密閉型のケーシング6に収容されているので、混練・分散時間が長くなると原材料5の溶媒が大気に蒸発しやすく、粘度の高いペースト状の原材料5となるおそれがある。
また、温度が高い環境下で原材料5の混練・分散処理を行なうと、高温状態の原材料5は化学反応が促進し、粘度の高いゲル状になりやすい。
このため、図3のロールミルは、長時間、原材料5の混練・分散処理を行う場合、或いは高温の環境下で原材料5の混練・分散処理を行なう場合には、最適なペースト状の粘性を有する高品質の原材料5を形成しにくいという問題がある。
そこで、本発明は、長時間の混練・分散処理を行う場合、或いは、高温の環境下で混練・分散処理を行なう場合であっても、最適なペースト状の粘性を有する高品質の原材料を形成することができるロールミルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る請求項1のロールミルは、複数本のロールを軸平行に隣接配置し、隣接する一対のロール間に、粉体材料と溶媒を混合したペースト状の原材料を投入して混練・分散処理を行なうロールミルにおいて、前記複数本のロールを収容し、前記ロールの周辺が一定の雰囲気下となるように収容空間の気密を保持しているケーシングと、このケーシング内の前記収容空間を、前記溶媒の蒸気雰囲気下に置換する置換手段とを備えている。
この発明によると、複数のロール及びこれらロールに投入された原材料を収容している収容空間が溶媒蒸気の雰囲気下に置換されているので、混練・分散処理を長時間行なっても原材料に含まれている溶剤が蒸発せず、ペースト状の原材料の粘性は低下しない。
【0006】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のロールミルにおいて、前記置換手段が、前記ケーシングの外部から前記収容空間に前記溶媒の蒸気を供給して前記収容空間を前記溶媒の蒸気雰囲気下に置換するものである。
また、請求項3記載の発明は、請求項2記載のロールミルにおいて、前記置換手段は、排気遮断弁を介装して前記収容空間及び外気の間を連通している排気通路と、蒸気遮断弁を介装して前記収容空間及び外部に配置した溶媒蒸気供給手段の間を連通している供給通路とを備え、前記排気遮断弁及び前記蒸気遮断弁を開状態とし、溶媒蒸気供給手段から供給通路を介して前記収容空間に前記溶媒の蒸気を供給し、同時に、前記収容空間に存在する空気を排気通路から外部に排出するとともに、前記収容空間が前記溶媒の蒸気雰囲気下に置換されたときに、前記排気遮断弁及び前記蒸気遮断弁を閉状態とすることを特徴とする。
【0007】
この発明によると、収容空間を溶媒蒸気の雰囲気下に置換する動作を、密閉型のケーシングに溶媒蒸気を供給する溶媒蒸気供給手段、溶媒蒸気供給手段及びケーシングの間を接続する供給通路と、収容空間及び外気の間を連通している排気通路と、同時に開閉動作を行なう排気遮断弁及び蒸気遮断弁とで容易に実現することができる。
また、請求項4記載の発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載のロールミルにおいて、前記収容空間の雰囲気温度を、前記原材料のペースト状の粘性を保つ温度に設定する原材料保温手段を備えている。
【0008】
さらに、請求項5記載の発明は、請求項4記載のロールミルにおいて、前記原材料保温手段は、前記収容空間の雰囲気温度を検出する温度検出装置と、前記収容空間を加熱或いは冷却する温度調節装置と、前記温度検出装置で検出した検出温度に基づき、前記収容空間の雰囲気温度が前記原材料のペースト状の粘性を保つ温度となるように前記温度調節装置の加熱制御或いは冷却制御を行なう制御装置とを備えている。
この発明によると、化学反応が促進されず、粘度の高いゲル状とならない温度に原材料を保温する動作を、温度検出装置、温度調節装置及び制御装置で容易に実現することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るロールミルによれば、複数のロール及びこれらロールに投入された原材料を収容している収容空間が、溶媒蒸気の雰囲気下に置換されているので、混練・分散処理を長時間行なっても原材料に含まれている溶剤が蒸発せず、ペースト状の原材料の粘度は高くならない。したがって、最適なペースト状の粘性を有する高品質の原材料を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る第1実施形態のロールミルを示す概略図である。
【図2】本発明に係る第2実施形態のロールミルを示す概略図である。
【図3】従来のロールミルを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、セラミックス電子部品の材料であるペースト材料を形成するために、粉体と溶媒とを混合したペースト状の原材料を混練・分散処理する第1実施形態のロールミルを示すものである。
本実施形態のロールミルは、互いの外周を近接して軸平行に配置した第1ロール10及び第2ロール11と、これら第1及び第2ロール10,11の上部にロール軸に沿う方向に互いに離間して配置した一対の堰板12(図1では一方の堰板12を示す)と、これら第1及び第2ロール10,11及び堰板12を収容しているケーシング13と、ケーシング13の内部(以下、収容空間14と称する)及び外気を連通している排気管15と、排気管15の管路途中に介装した排気遮断弁16と、排気管15と異なる位置でケーシング13の収容空間14に連通する収束供給管26と、溶媒蒸気供給部17及び収束供給管26に接続する蒸気供給管18と、蒸気供給管18の管路途中に介装した蒸気遮断弁19と、パージガス供給部20及び収束供給管26に接続するガス供給管21と、ガス供給管21の管路途中に介装したガス遮断弁22とを備えている。
【0012】
粉体と溶媒とを混合したペースト状の原材料23は、一対の堰板12の間から第1ロール10及び第2ロール11の間に投入される。
ケーシング13は、上部に開口部24aを設けたケース24と、開口部24aを閉塞するようにケース24の上部に着脱自在に装着されているカバー25とで構成されており、これらケース24及びカバー25で画成される収容空間14は外気との気密が保持され、密閉型のケーシング13とされている。
【0013】
溶媒蒸気供給部17は、所定蒸気圧の溶媒蒸気を貯蔵している装置であり、この溶媒蒸気は、原材料23に含まれている溶媒と同一種類のものであり、ペースト状の原材料23における溶媒として例えばエチルカルビトールを使用する場合には、このエチルカルビトールの蒸気が溶媒蒸気供給部17に貯蔵されている。
パージガス供給部20は、窒素などの不活性ガスをパージガスとして貯蔵している装置である。
なお、本発明の排気通路が排気管15に相当し、本発明の溶媒蒸気供給手段が溶媒蒸気供給部17に相当し、本発明の供給通路が蒸気供給管18及び収束供給管26に相当している。
【0014】
次に、本実施形態のロールミルを使用した原材料23の投入から原材料23の混練・分散処理を完了するまでの手順について説明する。なお、ロールミルの排気遮断弁16、蒸気遮断弁19及びガス遮断弁22は、初期状態では閉状態としておく。
先ず、ケーシング13のカバー25をケース24から取り外し、粉体と溶媒とを混合したペースト状の原材料23を、一対の堰板12の間から第1ロール10及び第2ロール11の間に投入する。
次いで、ケース24にカバー25を装着して密閉型のケーシング13を構成し、気密が保持された収容空間14に、第1ロール10及び第2ロール11の間に投入されている原材料23を収容する。
【0015】
次いで、排気遮断弁16及び蒸気遮断弁19を開状態とする。排気遮断弁16及び蒸気遮断弁19が開状態となると、所定蒸気圧の溶媒蒸気が溶媒蒸気供給部17から蒸気供給管18及び収束供給管26を介して収容空間14に供給されるとともに、収容空間14に存在していた空気が排気管15を介して外気に排出される。
このように、排気遮断弁16及び蒸気遮断弁19の開状態を所定時間持続することで、収容空間14は、原材料23に含まれている溶媒と同一種類の溶媒蒸気の雰囲気下に置換される。そして、収容空間14が溶媒蒸気の雰囲気下に置換された時点で、排気遮断弁16及び蒸気遮断弁19を閉状態とする。
【0016】
次いで、第1ロール10及び第2ロール11の互いの逆方向回転により、原材料23の混練・分散処理を行なう。
そして、原材料23の混練・分散処理が完了した時点で、排気遮断弁16及びガス遮断弁22を開状態とする。排気遮断弁16及びガス遮断弁22が開状態となると、パージガスがパージガス供給部20からガス供給部21及び収束供給管26を介して収容空間14に供給されるとともに、収容空間14に存在していた溶媒蒸気が排気管15を介して外気に排出される。
【0017】
このように、排気遮断弁16及びガス遮断弁22の開状態を所定時間持続することで、収容空間14は、パージガスの雰囲気下に置換される。そして、収容空間14がパージガスの雰囲気下に置換された時点で、排気遮断弁16及びガス遮断弁22を閉状態とする。
次いで、ケーシング13のカバー25をケース24から取り外し、ケース24内部から混練・分散処理が完了した原材料23を回収する。
【0018】
したがって、本実施形態によると、原材料23の混練・分散処理を行なっている際には収容空間14が溶媒蒸気の雰囲気下に置換されているので、混練・分散処理を長時間行なっても原材料23に含まれている溶剤が蒸発せず、ペースト状の原材料23の粘性は低下しない。したがって、最適なペースト状の粘性を有する高品質の原材料23を形成することができる。
また、本実施形態は、収容空間14を溶媒蒸気の雰囲気下に置換する動作を、密閉型のケーシング13に溶媒蒸気を供給する溶媒蒸気供給部17、ケーシング13の収容空間14と外気を連通する排気管15と、同時に開閉動作を行なう排気遮断弁16及び蒸気遮断弁19とで容易に実現することができる。
【0019】
次に、図2は、第2実施形態のロールミルを示すものである。なお、図1で示した構成と同一構成部分には、同一符号を付して説明は省略する。
本実施形態は、カバー25の内壁に温度検出装置30及び温度調節装置31が装着されているとともに、ケーシング13の外側に制御装置32が配置されている。
温度検出装置30は、収容空間14の雰囲気温度を随時検出し、制御装置32に出力する装置である。
温度調節装置31は、加熱動作を行なって収容空間14の雰囲気温度を上昇、或いは、冷却動作を行なって収容空間14の雰囲気温度を下降させる熱源装置である。
【0020】
また、制御装置32は、予め所定の制御温度Tを設定しており、温度検出装置30の検出結果に基づいて、所定の制御温度Tとなるように温度調節装置31の加熱動作、或いは冷却動作を制御する装置である。
次に、本実施形態のロールミルを使用した原材料23の投入動作から混練・分散処理を完了するまでの手順について説明する。
先ず、第1実施形態と同様に、第1ロール10及び第2ロール11の間への原材料23の投入作業と、収容空間14を原材料23に含まれている溶媒と同一種類の溶媒蒸気の雰囲気下に置換する作業を行なう。
【0021】
次いで、制御装置32の制御温度Tを、原材料23の化学反応が促進されず、粘性の低いゲル状とならない温度に設定する。
次いで、第1実施形態と同様に、第1ロール10及び第2ロール11の互いの逆方向回転による原材料23の混練・分散処理を行なう。
この際、収容空間14の雰囲気温度が制御温度Tを上回っていることを温度検出装置30が検出した場合には、制御装置32は温度調節装置31に冷却動作の制御を行い、収容空間14の雰囲気温度が制御温度Tを下回っていることを温度検出装置30が検出した場合には、制御装置32は温度調節装置31に加熱動作の制御を行う。
【0022】
そして、第1実施形態と同様に、原材料23の混練・分散処理が完了した時点で、収容空間14をパージガスの雰囲気下に置換する作業を行なう。
次いで、ケーシング13のカバー25をケース24から取り外し、ケース24内部から混練・分散処理が完了した原材料23を回収する。
本実施形態によると、原材料23の混練・分散処理を行なっている際に、収容空間14の雰囲気温度が高い場合には温度調節装置31が冷却動作を行い、収容空間14の雰囲気温度が低い場合には温度調節装置31が加熱動作を行うので、原材料23は、化学反応が促進されず、粘性の低いゲル状とならない温度に保温されて混練・分散処理が行なわれ、最適なペースト状の粘性を有する高品質の原材料5を形成することができる。
【0023】
また、本実施形態も、収容空間14が溶媒蒸気の雰囲気下に置換されているが、収容空間14の雰囲気温度が一定に保持されているので、雰囲気温度の低下により溶媒蒸気が原材料23やケーシング13の内壁に析出してしまう、或いは雰囲気温度の上昇により原材料23の溶剤が蒸発してしまうおそれもなく、さらに最適なペースト状の粘性を有する高品質の原材料5を形成することができる。
【0024】
また、本実施形態は、化学反応が促進されず、粘度の高いゲル状とならない温度に原材料23を保温する動作を、ケーシング13内に配置した温度検出装置30及び温度調節装置31と、温度検出装置30の検出結果に基づいて温度調節装置31を制御する制御装置32とで容易に実現することができる。
なお、上述した第1及び第2実施形態では、2本のロール10,11を備えたロールミルについて説明したが、本発明の要旨がこれに限定されるものではなく、例えば、始点ロール、中間ロール及び終点ロールを備えた3本のロールミルであっても、同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0025】
10…第1ロール、11…第2ロール、12…堰板、13…ケーシング、14…収容空間、15…排気管、16…排気遮断弁、17…溶媒蒸気供給部、18…蒸気供給管、19…蒸気遮断弁、20…パージガス供給部、21…ガス供給管、22…ガス遮断弁、23…原材料、24…ケース、24a…ケースの開口部、25…カバー、26…収束供給管、30…温度検出装置、31…温度調節装置、32…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のロールを軸平行に隣接配置し、隣接する一対のロール間に、粉体材料と溶媒を混合したペースト状の原材料を投入して混練・分散処理を行なうロールミルにおいて、
前記複数本のロールを収容し、前記ロールの周辺が一定の雰囲気下となるように収容空間の気密を保持しているケーシングと、
このケーシング内の前記収容空間を、前記溶媒の蒸気雰囲気下に置換する置換手段と、を備えていることを特徴とするロールミル。
【請求項2】
前記置換手段は、前記ケーシングの外部から前記収容空間に前記溶媒の蒸気を供給して前記収容空間を前記溶媒の蒸気雰囲気下に置換するものであることを特徴とする請求項1記載のロールミル。
【請求項3】
前記置換手段は、排気遮断弁を介装して前記収容空間及び外気の間を連通している排気通路と、蒸気遮断弁を介装して前記収容空間及び外部に配置した溶媒蒸気供給手段の間を連通している供給通路と、を備え、
前記排気遮断弁及び前記蒸気遮断弁を開状態とし、溶媒蒸気供給手段から供給通路を介して前記収容空間に前記溶媒の蒸気を供給し、同時に、前記収容空間に存在する空気を排気通路から外部に排出するとともに、前記収容空間が前記溶媒の蒸気雰囲気下に置換されたときに、前記排気遮断弁及び前記蒸気遮断弁を閉状態とすることを特徴とすることを特徴とする請求項2記載のロールミル。
【請求項4】
前記収容空間の雰囲気温度を、前記原材料のペースト状の粘性を保つ温度に設定する原材料保温手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のロールミル。
【請求項5】
前記原材料保温手段は、前記収容空間の雰囲気温度を検出する温度検出装置と、前記収容空間を加熱或いは冷却する温度調節装置と、前記温度検出装置で検出した検出温度に基づき、前記収容空間の雰囲気温度が前記原材料のペースト状の粘性を保つ温度となるように前記温度調節装置の加熱制御或いは冷却制御を行なう制御装置と、を備えていることを特徴とする請求項4記載のロールミル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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