説明

ロール装置およびその装置を用いたアクリル繊維の製造方法

【課題】ロール装置に付着した汚れ物に関して、従来からの手法である汚れ物を除去するという観点を変え、ロール装置に油剤などの付着物が付着しないようにするという観点で考えた繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】ロールの接触面と水との接触角αが50°以上であるロール装置。ロール装置が加熱ロールであることが好ましい。これらより、安定して長期間繊維を得られる工程を提供する。また、前記ロール装置を用いるアクリル繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は従来問題となっていた合成繊維の製造工程における、ロール装置の汚れ付着を抑制する方法に関する。詳しくは、合成繊維の製造において、複数のロール装置を用いて乾燥処理、延伸処理を行う際に、これまで表面に堆積していく汚れを付着しにくくすることにより、繊維の糸切れ、油剤・加工剤の付着斑、毛羽の発生などの不具合を解消して合成繊維の工程通過性を長期間安定に維持すると共に、ロール装置の掃除作業を少なくして稼働率を向上し、生産効率を改善する合成繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、特に産業用合成繊維の製造においては、複数のロール装置を用いて、未延伸糸を高倍率かつ高張力下で熱延伸し、且つ延伸後の繊維を加熱ロール装置にて乾燥する方法が一般的に採用されているが、この延伸、加熱工程において、ロール装置表面に汚れが付着堆積し、延伸状態の異常、繊維表面への油剤付着斑などを起こし、この現象が繊維の品質・品位や生産効率に重大な影響を及ぼす原因となっている。なお、上記ロール装置上に付着堆積する汚れとは、主に糸に付与した油剤などが延伸、加熱ロール装置上で熱処理、または熱劣化することにより生じた固着物と、繊維から析出したオリゴマ類、およびそれらの熱酸化劣化物などである。上記、延伸、加熱ロール装置表面の汚れ物は、ロール装置の表面温度が高いほど短時間で発生し延伸状態の異常を生ずるため、定期的或いは異常状態を検知するごとに工程を停止、もしくは繊維を強制的に切断しロール装置を洗浄しなければならなかった。
【0003】
上記問題の改善のため、紡糸油剤の組成を耐熱性の優れたものに改良する方法や、比較的耐熱性の劣る活性剤成分を油剤組成物から除き、製糸後巻き取り直前の糸条に活性剤成分などを付与する方法等、様々な工夫が従来からなされてきたが、これらの方法では十分な改善はできなかった。更には、このような付着物の発生は、新規機能性を付与するための油剤開発の妨げにも繋がっていた。
【0004】
また、合成繊維の延伸、加熱ロール装置の表面の汚れ防止手段として、従来から種々の方法が提案されており、最近の技術として特許文献1が開示されている。
【0005】
特許文献1には、延伸加熱ロール装置を用いて合成繊維を延伸加熱処理するに際し、延伸加熱処理ロール装置表面の汚れの進行と共に増加する繊維の毛羽量を検知し、予め設定した毛羽量に達した時または予め設定した時間に達した時に延伸熱処理ロ−ラを洗浄することが記載されている。しかしながら、このような方法では、紡糸速度を変えることで、紡糸原液の温度変化、洗浄性の変化などの問題が起き、該技術の効果を十分に活かすことができず、更なる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−200171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ロール装置に付着した汚れ物に関して、従来からの手法である汚れ物を除去するという観点を変え、ロール装置に油剤などの付着物が付着しないようにするという観点で考えた繊維の製造方法を確立せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の要旨は、ロールの接触面と水との接触角αが50°以上の範囲であるロール装置である。また、第二の要旨は、ロールの接触面と水との接触角αが50°以上の範囲であるロール装置を用いるアクリル繊維の製造方法である。そして、第三の要旨は、ロールの接触面と水との接触角αが50°以上の範囲である加熱ロール装置を用いるアクリル繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の装置、およびその装置を用いた製造方法によれば、ロール装置の洗浄をなくす、もしくはその回数を格段に減らせることができ、生産安定性、生産収率向上効果をもたらすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のロール装置は、一般的なロール装置であり、その材質、ロール長さ、ロール径などは問題ない。また、加熱ロールとは、高圧・高温蒸気によりロール内部を加熱させるものから、電熱ロールによるものまでを含み、ロールの表面温度が100℃から400℃程度のものを意味している。
【0011】
本発明のロール装置は、ロールの接触面と水との接触角αを60°以上にすることが必要である。ロールの接触面と水との接触角αを60°以上にすることでロール表面への付着を軽減させることが可能となる。さらに、好ましくは、50°以上にすることで油剤や樹脂などの付着物がロールの表面に残存するのを防ぐことが可能となる。
【0012】
本発明のロール装置におけるロールの接触面を、ロールの接触面と水との接触角αを
50°以上にする手法は、特に限定しないが、離型剤をロールの接触面に塗布する方法、フッ素系チューブでロール装置を被覆する方法などが挙げられる。
【0013】
(離型剤をロール接触面に塗布する方法)
本発明のロール装置におけるロールの接触面を、ロールの接触面と水との接触角αを50°以上とするために使用できる
離型剤としては、鋳造加工などに用いられる一般的な離型剤が使用できる。例えば、ジメチルシリコーン、メチル系シリコーン、変性シリコーンなどのシリコーン系組成物、フッ素系樹脂、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックスなどの脂肪族炭化水素系ワックス、酸化ポリエチレンワックスなどの脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物やそれらのブロック共重合物、カルナバワックス、サゾールワックス、モンタン酸エステルワックスなどの脂肪酸エステルを主成分とするワックス類、脱酸カルナバワックスなどの脂肪酸エステル類を一部または全部を脱酸化したものなどが挙げられる。さらに、パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸などの飽和直鎖脂肪酸類。ブランジン酸、エレオステアリン酸、バリナリン酸などの不飽和脂肪酸類。ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールなどの飽和アルコール類。ソルビトールなどの多価アルコール類、リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミドなどの脂肪酸アミド類、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドなどの飽和脂肪酸ビスアミド類、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド類。m−キシレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミドなどの芳香族系ビスアミド類;ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩(一般に金属石けんといわれているもの)。また、脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸などのビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス類。ベヘニン酸モノグリセリドなどの脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化物。植物性油脂の水素添加などによって得られるヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物などが挙げられる。離型剤の形態も簡単に塗布できる液状、スプレー式のものから、強固に固着させるために焼付けするものまで種々存在するが、離型効果を発揮できれば特に問題ない。
【0014】
(フッ素系チューブでロール装置を被覆する方法)
本発明のロール装置におけるロールの接触面を、ロールの接触面と水との接触角αを50°以上とあするために使用できるフッ素系チューブとしては、ポリテトラフルオロエチレンまたは、その共重合体などを原料とする材料であれば特に問題なく、チューブの収縮系、非収縮系の性質についても問わない。
【0015】
(アクリル繊維の製造方法)
次に本発明のアクリル繊維の製造方法について説明する。使用するロール装置を本発明のロール装置とする以外は、通常のアクリル繊維の製造方法と同様で良く、湿式紡糸、乾湿式紡糸のどちらであってもよい。ロール装置は前述のロール装置を使用するが、製造工程にある全てのロール装置を本発明に記載のロール装置とする必要はなく、使用する箇所は、付着物の発生が多い箇所に設置することで、ロール装置の加工コスト、または、設備設置コストを抑えた効果的な製造方法を得ることができる。また、本製造方法は、アクリル繊維を得る方法であれば問題なく、それが炭素繊維前駆体であっても同様である。
【実施例】
【0016】
以下実施例、比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は何等これらに限定されるものではない。なお、各評価項目は次の方法によって行った。
【0017】
(接触角の測定方法)
接触角計(協和界面科学株式会社製、商品名:CA−X)を用いて、温度20℃、湿度65%の雰囲気下で測定した。ステンレス製の板にハードクロムメッキ加工を施した材料を測定できる大きさに切断し、各実施例、比較例中の加工を施し、表面にシリンジを用いて水を1サンプル面について1滴ずつ5点滴下した。滴下した液滴の滴下方向の液径は約1.5mmとした。滴下した水の接触角を測定し、5点のうちの最大値、最小値の1点ずつを除いた3点の接触角の平均値を算出し、該算出した平均値の小数点以下第1位の数値を四捨五入し接触角とした。
【0018】
(紡糸工程安定性)
実施例、比較例の条件で、加熱ロール装置およびロール装置を、24時間稼動させた後に布地を用いて付着物の有無の確認と付着物の取れやすさを目視で、ほとんど汚れがない場合を○、汚れがめだつ場合を×と判定した。
【0019】
(実施例1)
水系懸濁重合法によりアクリロニトリル95質量%、酢酸ビニル5質量%を重合させて、共重合体を得た。続いて前記共重合体をジメチルアセトアミドに溶解し、共重合体濃度20質量%の紡糸原液を得た。紡糸原液の温度を80℃、紡浴の温度を50℃、ジメチルアセトアミド濃度を50質量%とし、前記紡糸原液を孔直径0.050mm、孔数10,000個を具備するノズル口金を用い湿式紡糸し、さらに沸水中で洗浄し、溶剤を除去しながら5.0倍延伸を施し、続いてアミノ変性シリコーン60質量%、ステアリン酸アミド30質量%、POE(20)フェニールグリシジルエーテル10質量%の組成で構成された油剤の水分散液にディップ法で繊維質量に対して付着量が0.6質量%となるように繊維に付着させ、150℃の加熱ロール装置で乾燥後、20℃のロール装置で冷却し、アクリル繊維を得た。
【0020】
加熱ロール装置およびロール装置は、ロール表面にハードクロムメッキ加工を施したのち、離型剤(AXEL社製 製品名:セミパーマネント19PFW)をロール表面に塗布したものを使用した。なお、上記製造条件にて、24時間稼動させて、紡糸工程安定性の評価を行った。
【0021】
(実施例2〜5、比較例1)
実施例2〜5、比較例1については、表1に示すように、離型剤の種類を変更した以外は実施例1と同様の方法で紡糸を行った。また、紡糸工程安定性、各離型剤を用いたの接触角の測定結果についてもあわせて表1に記載した。
【0022】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールの接触面と水との接触角αが50°以上であるロール装置。
【請求項2】
ロール装置が加熱ロールである請求項1に記載のロール装置。
【請求項3】
請求項1に記載のあるロール装置を用いるアクリル繊維の製造方法。
【請求項4】
湿式または乾湿式紡糸のいずれかの方法である請求項3に記載のアクリル繊維の製造方法。
【請求項5】
アクリル繊維が、炭素繊維前駆体繊維である請求項3または4に記載のアクリル繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載のあるロール装置を用いるアクリル繊維の製造方法。
【請求項7】
アクリル繊維の製造方法が湿式または乾湿式紡糸のいずれかの方法である請求項6に記載のアクリル繊維の製造方法。
【請求項8】
アクリル繊維の製造方法が湿式紡糸であって、繊維の紡糸直後、膨潤状態のアクリル繊維の乾燥に、加熱ロール装置を用いる請求項6または7に記載のアクリル繊維の製造方法。
【請求項9】
アクリル繊維が、炭素繊維前駆体繊維である請求項6〜8のいずれか一項に記載のアクリル繊維の製造方法。

【公開番号】特開2012−188775(P2012−188775A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52400(P2011−52400)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】