説明

ワイヤソー装置

【課題】スラリーなどによる電気的な影響を受けずに、加工中に連続的に容易にワイヤ径を測定できるワイヤソー装置を得ること。
【解決手段】ワーク6を切削する前のワイヤ2が巻き付けられた巻き出し用ボビン10と、巻き出し用ボビン10から送り出されたワイヤ2が複数回掛け回される一対のガイドローラ1と、ガイドローラ1の一方を回転させてワイヤを走行させるモータと、ガイドローラ1の間に掛け回されたワイヤ2の表面にスラリー4を付着させるスラリーノズル7と、一対のガイドローラ1間でワーク6を切削した後のワイヤ2が巻き取られる巻取り用ボビン11とを有し、スラリー4が表面に付着したワイヤ2によってワーク6を切断するワイヤソー装置であって、巻き出し用ボビン10及び巻取り用ボビン11のワイヤ巻き径を測定する光学式変位センサ14と、光学式変位センサ14の測定結果に基づいて、ワイヤ2の摩耗量を算出する演算器16と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2個のガイドローラに複数回、周回保持されたワイヤを、一方向又は双方向に送出し、このワイヤにワーク等の脆性材料(以下、ワークと表記する)を押し付けることによって板状に切断するワイヤソー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤソー装置では、ワイヤの断線が大きな問題であり、断線時に生じる不具合(ウェハの歩留まり低下や、装置稼働率の低下)を防ぐために様々な対策がとられている。一般に、ワイヤの断線の原因として、ワークを切断する際の摩擦によるワイヤの摩耗が挙げられる。
【0003】
また、ワイヤの摩耗は、ウェハの加工精度にも影響するため、これを管理することは非常に重要である。そこで、従来のワイヤソー装置では、特許文献1、2のような手法でワイヤの摩耗量を測定していた。
【0004】
特許文献1では、ワイヤの送り方向を反転させる際に装置が一時停止することを利用し、送り方向を反転中のワイヤを測定子で挟みつけ、このときの測定子の移動変位量に基づいてワイヤ径を測定する。特許文献2では、ワイヤの2点間に電流を流し、その電流抵抗を測定する。ワイヤが摩耗し、断面積が小さくなるにつれて電気抵抗が増加していくため、電気抵抗の測定結果に基づいてワイヤの摩耗量を検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−39542号公報
【特許文献2】特開平7−205015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように接触式でワイヤ径を測定するとなると、一時的とはいえ装置を停止する必要があり、加工中に連続して計測し続けることができないうえに、大掛かりな装置が必要となる。
【0007】
特許文献2のようなワイヤの電気抵抗を用いたワイヤ摩耗量測定装置も同様であり、導電性ローラなどの大掛かりな装置を取り付ける必要がある。また、電流はワイヤのみならずワークやスラリーにも流れ、ワイヤがこれらに接触するか否かによってワイヤの2点間の電気抵抗が変化するため、必ずしも信頼性の高い測定方法とは言い切れない。特に、スラリーが電解質である場合においては、このような手法でワイヤの摩耗量を測定することは困難である。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、スラリーなどによる電気的な影響を受けずに、加工中に連続的に容易にワイヤ径を測定できるワイヤソー装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、被切削材料を切削する前のワイヤが巻き付けられた第1のボビンと、第1のボビンから送り出されたワイヤが複数回掛け回される一対のガイドローラと、ガイドローラの一方を回転させてワイヤを走行させるモータと、一対のガイドローラ間に掛け回されたワイヤの表面にスラリーを付着させる手段と、一対のガイドローラ間で被切削材料を切削した後のワイヤが巻き取られる第2のボビンとを有し、スラリーが表面に付着したワイヤによって被切削材料を切断するワイヤソー装置であって、第1のボビン及び第2のボビンのワイヤ巻き径を測定するワイヤ巻き径測定手段と、ワイヤ巻き径測定手段の測定結果に基づいて、ワイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スラリーやワークなどの電気的な影響を受けずに、加工中のワーク径の変化を連続的に監視することができ、断線の予防や加工精度の向上を図れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施の形態1に係るワイヤソー装置の全体概略図である。
【図2】図2は、実施の形態2に係るワイヤソー装置の要部の部分図である。
【図3】図3は、実施の形態2に係るワイヤソー装置の張力波形のスペクトログラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかるワイヤソー装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、これらの実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明にかかるワイヤソー装置の実施の形態1の構成を示す図である。二つのガイドローラ1の周囲にワイヤ2が複数回巻き付けられて保持されている。スラリータンク3にはスラリー4が貯蔵されており、これはポンプ5a及びパイプ5bを介して、ワイヤ2とワーク6との接触部付近に設置されたスラリーノズル7からワイヤ2とワーク6とが接触する加工部位へ供給される。加工部位に供給されたスラリー4は、ワーク6の切断に寄与した後、スラリー受け8及び配管9を介して、スラリータンク3に回収される。
【0014】
ガイドローラ1は、不図示のモータからの駆動力が伝達されることによって双方向に回転しながらもトータルでは巻き出し用ボビン10から巻取り用ボビン11へワイヤ2を送出する。ワイヤ2は、その送り速度を一定とするように制御されており、張力の変動はプーリ12の間にあるダンサーローラ13によって緩和されている。ワイヤ2は、巻き出し用ボビン10及び巻取り用ボビン11がガイドローラ1の回転と同期して回転することによって送り出され、巻き取られる。
【0015】
ワイヤ2は、巻取り用ボビン11の円筒状の外周面の一端側から他端側に向かって一定の巻きピッチで巻き取られていき、巻取り用ボビン11の他端側まで巻き取られると、巻き取られたワイヤ2の上に重なるように整列して他端側から一端側に向かって巻き取られる。すなわち、巻取り用ボビン11は、ワイヤ2を一端と他端との間で往復させながら巻き取っていく。この際、ワイヤ2がいびつに重なることは無いが、ワイヤ2間には巻きピッチに対応した僅かな隙間が生じる。
ワイヤ2は、一端と他端との間での往復を繰り返し、巻き出し用ボビン10にあるワイヤ2の長さが1回の加工に必要な量を下回った時点で交換される。通常、一対のボビンが2〜4回程度の加工に使用され、使用回数はワイヤ2の送り速度と加工時間とによって変化する。
【0016】
巻き出し用ボビン10及び巻取り用ボビン11には、光学式変位センサ14が取り付けられ、巻き出し用ボビン10及び巻取り用ボビン11のワイヤ巻き径(ワイヤ2が巻き掛けられた状態での外径)を測定する。光学式変位センサ14は配線15によって演算器16と接続され、光学式変位センサ14で測定したデータは演算器16に蓄積される。また、ガイドローラ1の回転速度(ワイヤ速度)のデータも演算器16に入力される。演算器16ではこれらのデータから、巻き出し用ボビン10及び巻取り用ボビン11の径の変化をワイヤ2の径に変換し、摩耗量を演算する。
【0017】
巻き出し用ボビン10のワイヤ長さが1回の加工に必要な長さを下回った時点で巻き出し用ボビン10及び巻取り用ボビン11は交換される。通常、一対のボビンが2〜4回の加工に使用される。使用回数は、ワイヤ2の送り速度と加工時間とによって変化する。
【0018】
ここで、巻きピッチによるワイヤ2間の隙間と、ワイヤ自体の断面が円形であることに起因する隙間とを評価するために、体積充填率という指数を用いることとする。体積充填率は、ワイヤ2がボビンに巻きつくことによって増加した体積のうち、実際にワイヤ2が存在している部分(隙間ではない部分)の割合を示し、隙間が全く無い状態ならば100(%)となる。
【0019】
以下の説明において、説明の簡略化のため巻き出し用ボビン10をボビンA、巻取り用ボビン11をボビンBと表すこととする。それぞれの加工開始時に計測したワイヤ巻き径をDA1、DB1、ワイヤ径をdW1とする。また、加工開始後t秒後のワイヤ径をdW2、ワイヤ巻き径をDA2、DB2とする。また、ボビン長はBとする。ワイヤ速度をSwiとして、t秒後のワイヤ供給長さをSとする。ワイヤ2がボビンA、ボビンBに巻かれた際の、ボビンA、Bのワイヤ2の体積充填率をそれぞれk%、k%とすると、下記式(1)〜式(3)が成り立つ。
【0020】
【数1】

【0021】
式(1)は、ワイヤ2の供給長さがワイヤ速度の時間積分であることを示している。ワイヤ2は、正転/逆転に伴い加減速を繰り返し、トータルとしてボビンB側に巻き取られていく。したがって、ある時点でのワイヤ2の供給長さは、逆転時を負の速度としたときの時間積分と等しくなる。
【0022】
式(2)は、ボビンA側の巻き出し体積を2通りの方法で算出している。左辺は供給したワイヤ2の長さと断面積との積によって巻き出し体積を表し、右辺はボビンAの断面積の経時変化の差とボビン長、ワイヤ充填率の積によって巻き出し体積を表している。同様に、式(3)はボビンB側での巻取り体積を2通りの方法で算出している。
【0023】
初期ワイヤ径dW1は既知であり、未知数は摩耗後のワイヤ径dW2と、充填率k、kのみである。特に重要となる充填率kは、装置ごとの変動があるが、これは加工終了後の巻取り用ボビン11の体積と重量とを求めれば、ワイヤの比重から算出でき、装置ごとに定数として取り扱える。なお、経験的にはボビンBの充填率kはおおよそ80%程度である。以上から上記式(3)を用いて摩耗後のワイヤ径dW2を求めることが可能である。
【0024】
このような構成によれば、ワイヤ2がワーク6に押し付けられ、走行する中で生じるワイヤ2の摩耗量を、巻取り用ボビン11のワイヤ巻き径から評価できる。これにより、ワイヤ2の摩耗量が予め定めた閾値を上回った際に警報を発することができ、ワーク6の送り速度を小さくしたり、ワイヤ速度を大きくして新線供給量を増やすなどの対策をとることが可能となる。これにより、ワイヤ2の断線を予防でき、ウェハの歩留まりの向上・装置稼働率の向上を図れる。また、ワイヤ径の変動は、ウェハ加工精度に影響するため、加工精度の向上にも寄与できる。
【0025】
このように、本実施の形態に係るワイヤソー装置は、ワイヤ2の巻き出し用ボビン10及び巻取り用ボビン11のワイヤ巻き径の変化を監視・比較することにより、ワーク6を切断する際に生じるワイヤ2の摩耗を検出する演算器16を備える。巻き出し用ボビン10と巻取り用ボビン11とで、ワイヤ2の体積を比較すると、ワイヤ2が摩耗する分巻取り用ボビン11でのワイヤ2の体積が小さくなる。したがって、予めボビン直径、ボビン長、ワイヤ径、ボビンに巻いた際のワイヤの体積充填率を入力しておき、ワイヤ巻き径を監視することで、演算器16が摩耗量を算出することが可能となる。
【0026】
実施の形態2.
図2は、本発明にかかるワイヤソー装置の実施の形態2の要部の構成を示す部分図である。本実施の形態では、ワイヤソー装置は光学式変位センサ14を備えておらず、演算器16は、ワイヤ巻き径を測定するためのデータを張力制御用のダンサーローラ13から取得する。これ以外については実施の形態1と同様である。
【0027】
ワイヤ2の走行速度が一定である場合、これを巻き取る巻取り用ボビン11の回転周期は外周長さによるため、巻取り用ボビン11の回転周期を測定すれば、ワイヤ巻き径を推定できる。
【0028】
巻取り用ボビン11の外周は理想的な真円ではないため、ワイヤ2が巻取り用ボビン11に巻き掛けられる際には、周期的な引っ張り力がワイヤ2にかかる。例えば、巻取り用ボビン11の円周上に膨らみがあるとすると、この膨らみの部分ではワイヤ巻き径が大きいため、通常よりも多くのワイヤ2が巻き取られ、ワイヤ2の張力が上昇する。ワイヤ2の張力の上昇は膨らみがある部分では巻取り時に毎回生じるため、巻取り用ボビン11の回転周期と同じ周期でワイヤ2の張力に上昇が見られることとなる。したがって、このようなワイヤ2の張力の周期的な上昇をダンサーローラ13において計測した張力の波形を基に測定すれば、巻取り用ボビン11のワイヤ巻き径を推定できる。
【0029】
図3は、実験によって得られたワイヤの張力のスペクトログラムである。横軸に周波数、縦軸に加工時間をとり、張力上昇の周期性の高いものをマップしている。図3中の斜めの線(上枠の左1/3近傍から下枠の中央近傍へ至る斜めの線)が、ボビンの径変化/回転周期変化と同じ周期の張力上昇の周期を示している。これは、時間につれて張力上昇の周期が短くなっていること、すなわち1周期の巻取り径が大きくなっていることを表している。
【0030】
ある加工時間における張力の上昇周期をfとし、ワイヤ送り速度をSwiとすると、下記式(4)によって、その時点での巻取り用ボビンのワイヤ巻き径を測定できる。
【0031】
【数2】

【0032】
本実施の形態に係るワイヤソー装置は、機械的な方式でワイヤ巻き径を測定できるため、光学式のセンサを用いてワイヤ巻き径を測定する場合と比較して粉塵などの影響を受けにくい。また、ワイヤの張力をダンサーローラから取得する方法は広く一般的に採用されているため、設備の大幅な変更を行わずともワイヤの巻き径を測定可能であり、断線の予防や加工精度の向上を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明にかかるワイヤソー装置は、電気的な特性に影響を与える加工条件の影響を受けずにワイヤの摩耗量を精度よく連続的に測定できる点で有用であり、特に、ワイヤの摩耗量の測定結果に基づいて断線の予防や加工精度の向上を図る用途に適している。
【符号の説明】
【0034】
1 ガイドローラ
2 ワイヤ
3 スラリータンク
4 スラリー
5a ポンプ
5b パイプ
6 ワーク
7 スラリーノズル
8 スラリー受け
9 配管
10 巻き出し用ボビン
11 巻取り用ボビン
12 プーリ
13 ダンサーローラ
14 光学式変位センサ
15 配線
16 演算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被切削材料を切削する前のワイヤが巻き付けられた第1のボビンと、前記第1のボビンから送り出された前記ワイヤが複数回掛け回される一対のガイドローラと、前記ガイドローラの一方を回転させて前記ワイヤを走行させるモータと、前記一対のガイドローラ間に掛け回された前記ワイヤの表面にスラリーを付着させる手段と、前記一対のガイドローラ間で前記被切削材料を切削した後の前記ワイヤが巻き取られる第2のボビンとを有し、前記スラリーが表面に付着した前記ワイヤによって被切削材料を切断するワイヤソー装置であって、
前記第1のボビン及び前記第2のボビンのワイヤ巻き径を測定するワイヤ巻き径測定手段と、
前記ワイヤ巻き径測定手段の測定結果に基づいて、前記ワイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出手段と、
を有することを特徴とするワイヤソー装置。
【請求項2】
前記摩耗量演算手段は、前記第1及び第2のボビンの外径及び長さと、前記ワイヤの直径と、前記第1及び第2のボビンに前記ワイヤを巻いた際の前記ワイヤの体積充填率とを記憶する記憶手段を有し、
前記記憶手段に予め記憶された情報と、前記第1及び第2のボビンのワイヤ巻き径とに基づいて、前記第1のボビンから巻き出されたワイヤと前記第2のボビンに巻き取られたワイヤとの体積差を算出し、該体積差を基に前記ワイヤの摩耗量を算出することを特徴とする請求項1記載のワイヤソー装置。
【請求項3】
被切削材料を切削する前のワイヤが巻き付けられた第1のボビンと、前記第1のボビンから送り出された前記ワイヤが複数回掛け回される一対のガイドローラと、前記ガイドローラの一方を回転させて前記ワイヤを走行させるモータと、前記一対のガイドローラ間に掛け回された前記ワイヤの表面にスラリーを付着させる手段と、前記一対のガイドローラ間で前記被切削材料を切削した後の前記ワイヤが巻き取られる第2のボビンとを有し、前記スラリーが表面に付着した前記ワイヤによって被切削材料を切断するワイヤソー装置であって、
前記第1のボビンと前記第2のボビンとの間での前記ワイヤの張力を測定するワイヤ張力測定手段と、
前記ワイヤ張力測定手段の測定結果に基づいて、前記ワイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出手段と、
を有することを特徴とするワイヤソー装置。
【請求項4】
前記ワイヤ張力測定手段は、前記第1及び第2のボビンと前記ガイドローラとの間に設置されて前記ワイヤの張力を調整するダンサーローラから前記ワイヤの張力を検出することを特徴とする請求項3記載のワイヤソー装置。
【請求項5】
前記摩耗量算出手段は、前記ワイヤ張力測定手段の測定値の変動周期の変化に基づいて前記ワイヤの摩耗量を算出することを特徴とする請求項3又は4記載のワイヤソー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−143504(P2011−143504A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6045(P2010−6045)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】