説明

ワイヤボンディング方法

【課題】 Cu材をボンディングワイヤに利用できようにするとともに、作業性に優れ安定した接合強度を達成できるボンディング方法を提供する。
【解決手段】 X−Yステージ30上で半導体チップ12の電極パッド(14,16)と半導体パッケージ10のリード端子(28,22)をCuワイヤ32で結線するため、Cuワイヤ32を被接合部(14,16,28,22)の上に位置合わせして載置し、上方の出射ユニット34より532nmの波長を有するYAG第2高調波パルスレーザ光SHGを所望のパルス幅およびパワーで溶接ポイントのCuワイヤ32に照射し、Cuワイヤ32と被接合部(14,16,28,22)とをスポット溶接で接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子をパッケージに実装するためのワイヤボンディング方法に係わり、より詳しくはボンディングワイヤに銅(Cu)材を使用可能とするワイヤボンディングの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤボンディングは、主に半導体チップ上の電極パッドをパッケージの外部引き出し端子(リード)に電気的に接続する工程で用いられており、ボンディングワイヤを1本ずつ扱うことから、半導体実装工程の中でも最も高い信頼性を要求されている。
【0003】
従来のワイヤボンディング方法は、熱圧着ワイヤボンディング法と超音波ワイヤボンディング法とに大別される。熱圧着ワイヤボンディング法は、金(Au)ワイヤをボンディング・ツール(キャピラリ・ツール)に通し、ワイヤ先端部にボールを形成して被接合部(電極パッド、リード)に300℃前後の高温下で加熱圧着する。一方、超音波ワイヤボンディング法は、アルミ(Al)線をボンディングワイヤとし、ボンディング・ツール(ウェッジ・ツール)でAlワイヤを常温下で被接合部(電極パッド、リード)に押し付け、超音波振動と荷重とにより固相接合する。最近は、超音波を併用する超音波熱圧着ボンディング法が広く普及している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、従来のワイヤボンディング方法においては、ボンディングワイヤの材料がAu,Alに限定されており、Cuは使用されて来なかった。これは、Cu材のワイヤはその表面が酸化され易いため、これまでのボンディング方法では電極パッドやリードに安定確実に接合させることができなかったからである。このため、電気抵抗率がAlの約60%、Auの約70%という低抵抗のCu材をボンディングワイヤに用いることができないという課題があった。
【0005】
また、超音波ワイヤボンディング法や超音波熱圧着ボンディング法は、被接合物(電極パッド、リード)の接合表面を管理するのが非常に煩わしいという一面もある。すなわち、超音波接合は接合表面の状態(硬度、表面粗さ、汚染度等)に大きく依存し、特に接合強度が接合表面の状態に大きく左右される。このために、電極パッドやリードの接合表面に厳密な管理が求められている。
【0006】
また、熱圧着ワイヤボンディング法や超音波熱圧着ボンディング法では、被接合部(電極パッド、リード)がCu系の金属で構成されている場合に十分な接合強度が得られない。すなわち、半導体チップやパッケージを200〜350℃で加熱するため、被接合部(Cu系の金属)の表面がたとえ錫(Sn)、Au等でメッキされていたとしても、接合表面の酸化は進み易いために、ボンディングワイヤとの接合が十分にいかない。この問題は、1つの半導体チップに接続するボンティングワイヤの本数が多くなるほど顕著になる。このように、ボンティングワイヤにAuワイヤあるいはAlワイヤを用いる場合においても、Cu系の金属からなる被接合部(電極パッド、リード)の酸化を防止できるワイヤボンディング方法が求められていた。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、Cu材をボンディングワイヤに使用できるワイヤボンディング方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の別の目的は、作業性に優れており安定した接合強度が得られるワイヤボンディング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の第1のワイヤボンディング方法は、 半導体チップ上の電極パッドにボンディングワイヤを接合するワイヤボディング方法であって、前記ワイヤを前記電極パッドの上に載せ、可変のパルス幅を有するYAG高調波のパルスレーザ光を前記ワイヤに上方から照射して、前記パルスレーザ光のエネルギーによって前記ワイヤを前記電極パッドに接合する。
【0010】
本発明の第2のワイヤボンディング方法は、半導体パッケージの外部引き出し用端子にボンディングワイヤを接合するワイヤボディング方法であって、前記ワイヤを前記外部引き出し用端子の上に載せ、可変のパルス幅を有するYAG高調波のパルスレーザ光を前記ワイヤに上方から照射して、前記パルスレーザ光のエネルギーによって前記ワイヤを前記外部引き出し用端子に接合する。
【0011】
また、本発明の第3のワイヤボンディング方法は、絶縁基板上の導体パターンにボンディングワイヤを接合するワイヤボディング方法であって、前記ワイヤを前記導体パターンの上に載せ、可変のパルス幅を有するYAG高調波のパルスレーザ光を前記ワイヤに上方から照射して、前記パルスレーザ光のエネルギーによって前記ワイヤを前記導体パターンに接合する。
【0012】
本発明のワイヤボンディング方法では、可変のパルス幅を有するYAG高調波のパルスレーザ光をボンディングワイヤに照射し、そのレーザエネルギーによってボンディングワイヤないし被接合部(電極パッド、外部引き出し用端子、導体パターン)を溶融して、スポット溶接で接合する。
【0013】
本発明の好適な一態様によれば、Cu系の金属からなるボンディングワイヤを使用し、これをYAG高調波のレーザエネルギーでボンディングする。Cu系の金属はYAG高調波をよく吸収するので、本発明によるスポット溶接のボンディングを好適に適用できる。本発明においては、Au系の金属からなるボンディングワイヤも好適に使用可能であり、Alワイヤも使用可能である。
【0014】
本発明の好適な一態様によれば、ボンディングワイヤと接合すべき被接合部(電極パッド、外部引き出し用端子、導体パターン)がCuまたはCu合金で形成される。この場合、被接合部側もYAG高調波をよく吸収するので、一層良好なスポット溶接のボンディングが実現される。被接合部(電極パッド、外部引き出し用端子、導体パターン)にメッキが施されていてもよい。
【0015】
本発明の好適な一態様によれば、YAG高調波のパルスレーザ光をガルバノメータ・スキャナによりスキャニングして被接合部(電極パッド、外部引き出し用端子、導体パターン)の接合ポイントに照射する。かかる方式においては、接合ポイントがいくら多くても、スキャニングによって短時間のうちに全ての接合ポイントをスポット溶接でボンディングすることができる。
【0016】
本発明の好適な一態様によれば、YAG高調波のパルスレーザ光のパワーを可変制御する。パルス幅とパワー(レーザ出力)を任意に制御できるので、溶接部に対する入熱を精細に制御し、多種多様な表面実装の要求に対応できる。
【0017】
本発明におけるYAG高調波の好適な形態は波長532nm(グリーン光)のYAG第2高調波である。好適な一態様によれば、Nd:YAGレーザにより可変のパルス幅を有する波長1064nmのYAG基本波のパルスレーザ光を生成し、YAG基本波のパルスレーザ光をKTP結晶に入射させて、KTP結晶とYAG基本波のパルスレーザ光との非線形相互作用により第2高調波つまり波長532nm(グリーン光)のパルスレーザ光を生成する。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、Cu材をボンディングワイヤに使用可能にするとともに、作業性や接合強度に優れた新規なワイヤボンディング方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0020】
図1および図2に、本発明におけるワイヤボンディングの一実施形態を示す。図1は斜視図、図2は一部断面側面図である。
【0021】
図示の例では、封止前の半導体パッケージ10に、たとえばパワートランジスタの一種である縦型絶縁ゲート電界効果トランジスタ(MOSFET)を搭載した半導体チップ12が実装される。ここで、半導体チップ12の上面には、ソース用の電極パッド14とゲート用の電極パッド16とがたとえばAl等の導電体膜で個別に(互いに分離して)形成されている。また、半導体チップ12の裏面にはドレイン用電極18が同様にAuあるいは銀(Ag)等の導電体膜で形成されている。
【0022】
パッケージ10は、熱放散性に優れた窒化アルミニウム(AlN)のようなセラミック製の絶縁基板20を有している。この絶縁基板20の上面には、たとえばCu箔からなるゲート用のリード端子22およびドレイン用のリード端子24が貼り付けられている。また、絶縁基板20上の半導体チップ12の両側に放熱性の高いセラミックからなる一対の台座26が設けられ、絶縁基板20の上面からこれらの台座26の上面にわたってたとえばCu箔からなるソース用のリード端子28が貼り付けられている。これらのリード端子24,26,28の表面にはAuメッキあるいはSnメッキが施されている。
【0023】
パッケージ10に半導体チップ12を実装するためには、ワイヤボンディング工程に先立って、マニュアルダイボンド法またはオートダイボンド法により、予め半導体チップ12をドレイン用リード端子28上にマウントし、シルバーペイスト等でそのドレイン用電極18をドレイン用リード端子24に固着させてダイボンディングする。
【0024】
上記のようなダイボンディングにより半導体チップ12を固定したパッケージ10が、この実施形態のワイヤボンディング加工を受けるため、図1に模式的に示すX−Yステージ30上の所定位置に配置される。X−Yステージ30は、ボールネジ駆動またはリニアモータ駆動によりX−Y方向で移動して、ステージ上のワーク(10,12)の任意の加工ポイント(接合ポイント)を予め設定された加工位置(ボンディング位置)に位置合わせできるようになっている。
【0025】
この実施形態のワイヤボンディング装置は、上記ボンディング位置にて各被接合部の上にボンディングワイヤ32の先端部を位置合わせして載せるボンディングヘッド(図示せず)と、上記ボンディング位置の加工ポイントにレーザ光を集光照射するように上方に設置されたレーザ出射ユニット34とを有している。ここで、レーザ出射ユニット34は、532nmの波長を有するYAG第2高調波のパルスレーザ光(グリーン光)SHGを出射するようになっている。
【0026】
この実施形態のワイヤボンディングでは、ボンディングワイヤ32にCuワイヤを使用し、半導体チップ12のソース用電極パッド14およびゲート用電極パッド16とパッケージ10のソース用リード端子28およびゲート用リード端子22とをそれぞれ結線するために、Cuワイヤ32をYAG第2高調波のパルスレーザ光SHGによって各被接合部(14,16,22,28)に接合するようにしている。
【0027】
図1および図2では、片側のソース用リード端子28にCuワイヤ32をYAG第2高調波のパルスレーザ光SHGによって接合する様子が示されている。この場合、上記ボンディングヘッドがCuワイヤ32をソース用リード端子28の上に載せて支持し、X−Yステージ30が被接合部(32,28)の接合ポイントをボンディング位置に合わせ、上方からレーザ出射ユニット34がYAG第2高調波のパルスレーザ光SHGを所望のパルス幅およびパワーで被接合部(32,28)の接合ポイントに照射する。そうすると、パルスレーザ光SHGの照射した位置(接合ポイント)にスポット溶接の接合部Wが一瞬にして形成される。詳細には、パルスレーザ光SHGが照射する位置で、Cuワイヤ32がYAG第2高調波のレーザエネルギーを高い吸収率で吸収して急速に溶融し、さらにはCu箔のリード端子28もYAG第2高調波のレーザエネルギーで溶融して、スポット溶接の接合部Wが形成される。
【0028】
図示省略するが、上記と全く同様に、ゲート用リード端子22にもCuワイヤ32がYAG第2高調波のパルスレーザ光SHGにより接合される。また、半導体チップ12の電極パッド14,16にもCuワイヤ32が上記と同様にYAG第2高調波のパルスレーザ光SHGにより接合される。電極パッド14の材質はAlであるが、パルスレーザ光SHGのレーザエネルギーでCuワイヤ32と溶接接合することができる。上記のようなワイヤボンディング工程の後に、パッケージ10は封止(たとえば樹脂封止)される。
【0029】
この実施形態では、半導体チップ12にパワートラジスタ(MOSFET)が搭載されており、大きな負荷電流を流せるようにソース用の電極パッド14とリード端子28とを複数本のCuワイヤ32で結線している。ゲート用の電極パッド16とリード端子22との間では電流が僅かしか流れないため、1本のCuワイヤ32をボンディングするだけで充分である。
【0030】
この実施形態において、Cuワイヤ32は断面が円形の糸状のものであってもよいし、断面が矩形のリボン状あるいは板状のものであってもよい。たとえば、半導体チップが高周波の大電流で動作する場合には、電流の表皮効果が生じるためにCuワイヤ32はリボン状あるいは板状のものが好適となる。
【0031】
このようなリボン状あるいは板状のCuワイヤ32を用いる場合は、図3に示すように、リード端子(図示のものはソース用リード端子28)も板状のものに構成するのが好ましい。そして、対応する電極パッド(図示のものはソース用電極パッド14)との間に、所定の長さに切断したCuワイヤ32をプリフォームしてワイヤ両端部を電極パッド14およびリード端子28の上に載置し、レーザ出射ユニット34よりYAG第2高調波のパルスレーザ光SHGをCuワイヤ32の両端部に順次に照射し、電極パッド14およびリード端子28にCuワイヤ32の両端部をそれぞれスポット溶接で接合する。この実施形態の半導体素子はMOSFETであるが、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の他のパワートランジタにも上記と同様のワイヤボンディングを好適に適用することができる。
【0032】
このように、この実施形態では、波長532nmのYAG第2高調波のパルスレーザ光(グリーン光)SHGを用いることにより、電極パッド(14,16)とリード端子(22,28)にCuワイヤ32を簡便にかつ瞬時に、しかもきれいに接合させることができる。
【0033】
また、AuワイヤあるいはAlワイヤに較べて電気抵抗率の低いCuワイヤ32をボンディングワイヤに用いて半導体チップ12の電極パッド(14,16)をパッケージのリード端子(22,28)に結線するので、半導体チップ12の所望の電流動作を確保するためのワイヤ本数を減らすことが可能になり、ボンディングの所要時間が短縮し実装工程の量産性が向上するようになる。
【0034】
さらに、半導体チップやパッケージを全体的に加熱する熱圧着ワイヤボンディング法とは異なり、この実施形態におけるYAG第2高調波のパルスレーザ光SHGの照射は局所的であるために、本発明のワイヤボンディングが酸化雰囲気の空気中の作業であっても、Cu系の金属からなるリード端子表面の酸化は防止される。そして、本発明によるワイヤボンディングはスポット溶接の溶融接合であり、信頼性の高い安定強固なCu接合を保証することができる。
【0035】
そのうえ、この実施形態では、超音波を使用しないので、電極パッドやリード端子の接合部表面を厳格に管理する必要がない。しかも、ワイヤボンディング時に半導体チップ12に対して機械的な振動やそれに伴うストレスを与えることもない。この点、超音波ボンディング法や超音波熱圧着ボンディング法では、超音波振動により半導体チップの表面にクラックが入ることもあった。
【0036】
以下、図4〜図8につき、上記実施形態のワイヤボンディング方法のベースとなる本発明のレーザ技術について説明する。
【0037】
図4に、Cu、Au、Fe(鉄)の波長吸収特性を示す。代表的なYAGレーザであるNd:YAGレーザの基本波(ω)は1064nmである。このYAG基本波(ω)を、Feは比較的良好に吸収するが、CuやAuは僅かしか吸収しない。したがって、上記のようなワイヤボンディングにおけるCuワイヤ32と電極パッドやリード端子との接合にYAG基本波(ω)のレーザ光を用いたならば、接合部への入熱が非常に難しく、無理にレーザパワーを上げるとCuワイヤ32が吹き飛んでしまうこともあり、安定確実な溶接は殆ど不可能である。ところが、CuやAuは、YAG基本波(ω)の高調波つまり第2高調波(2ω:532nm)、第3高調波(3ω:355nm)あるいは第4高調波(4ω:266nm)等をよく吸収する。たとえば、第2高調波(2ω:532nm)に対するCuやAuの吸収率は50%以上である。YAG基本波(ω)をよく吸収するといわれるFeの吸収率が40%以下であることに鑑みれば、如何に高い吸収率であるかが分かる。実用的にCuやAuのレーザ溶接には第2高調波(2ω:532nm)で十分である。
【0038】
図5に、この実施形態のワイヤボンディング方法で用いるYAGレーザ装置の構成を示す。このYAGレーザ装置は、支持台(図示せず)上に直線配列型で一対の終端ミラー36,38、固体レーザ活性媒質40、波長変換結晶42、偏光素子44および高調波分離出力ミラー46を配置している。
【0039】
両終端ミラー36,38は互いに向かい合って光共振器を構成している。一方の終端ミラー36の反射面36aには、基本波長(1064nm)に対して反射性の膜がコーティングされている。他方の終端ミラー38の反射面38aには、基本波長(1064nm)に対して反射性の膜がコーティングされるとともに、第2高調波(532nm)に対して反射性の膜がコーティングされている。
【0040】
活性媒質40は、例えばNd:YAGロッドからなり、一方の終端ミラー36寄りに配置され、電気光学励起部48によって光学的にポンピングされる。電気光学励起部48は、活性媒質40に向けて励起光を発生するための励起光源(たとえば励起ランプあるいはレーザダイオード)を有し、この励起光源をレーザ電源部50からの励起電流(パルス電流)でパルス点灯駆動することにより、活性媒質40を持続的または断続的にポンピングする。なお、レーザ電源部50は制御部52の下で電気光学励起部48を駆動する。こうして活性媒質40で生成される基本波長(1064nm)の光ビームLBは、終端ミラー36,38の間に閉じ込められて増幅される。このように、両終端ミラー(光共振器)36,38、活性媒質40および電気光学励起部48によって基本波長(1064nm)の光ビームまたはレーザ光LBを生成するレーザ発振器が構成されている。
【0041】
偏光素子44は、たとえばポラライザまたはブリュースタ板等からなり、活性媒質40からの基本波長の光ビームが非法線方向で入射するように光共振器の光路または光軸に対して所定の斜めの角度で配置されている。活性媒質40からの基本波長の光ビームLBのうち、P偏光は偏光素子44をまっすぐ透過して波長変換結晶42に入射し、S偏光は偏光素子44で所定の方向に向けて反射するようになっている。ここで、P偏光およびS偏光は基本波長の光ビームの進行方向に垂直な面内で振動方向が互いに直交する直線偏光成分(電界成分)である。たとえば、P偏向は鉛直方向で振動する直線偏光成分であり、S偏向は水平方向で振動する直線偏光成分である。好ましくは、基本波長(1064nm)においてP偏光透過率は略100%でS偏光反射率は略100%であるような偏光フィルタ特性が選ばれる。
【0042】
波長変換結晶42は、たとえば非線形光学結晶であるKTP(KTiOPO4 )結晶からなり、他方の終端ミラー38寄りに配置され、この光共振器で励起された基本モードに光学的に結合され、基本波長との非線形光学作用により第2高調波(532nm)の光ビームSHGを光共振器の光路上に生成する。
【0043】
波長変換結晶42より終端ミラー38側に出た第2高調波の光ビームSHGは、終端ミラー38で戻されて、波長変換結晶42を通り抜ける。波長変換結晶42より終端ミラー38の反対側に出た第2高調波の光ビームSHGは、光共振器の光路または光軸に対して所定の角度(たとえば45°)で斜めに配置されている高調波分離出力ミラー46に入射し、このミラー46で所定の方向に反射または分離出力されるようになっている。そして、高調波分離出力ミラー46より分離出力された第2高調波の光ビームSHGは、ベントミラー54で光軸を曲げられて入射ユニット56へ向けられる。
【0044】
入射ユニット56は集光レンズ58を内蔵しており、ベントミラー54からの第2高調波の光ビームSHGを集束レンズ58により集束して光ファイバ60の一端面(入射端面)に入射させる。光ファイバ60は第2高調波の光ビームSHGをレード出射ユニット34(図1)まで伝送させる。出射ユニット34には、光ファイバ60の他端面より出射された第2高調波の光ビームSHGを集束させて被接合物(28,32)の溶接ポイントに照射するための光学レンズが設けられている。
【0045】
このYAGレーザ装置では、第2高調波の光ビームSHGすなわちYAG第2高調波パルスレーザ光SHGについてパワーフィードバック制御を行うために、ベントミラー54の背後に漏れたYAG第2高調波パルスレーザ光SHGの漏れ光MSHG を受光する受光素子またはフォトセンサ62が配置されている。測定回路64は、フォトセンサ62の出力信号を基に第2高調波パルスレーザ光SHGのレーザ出力測定値を表す電気信号(レーザ出力測定値信号)を生成する。制御部52は、測定回路64からのレーザ出力測定値信号を基準値または基準波形と比較し、比較誤差に応じてたとえばパルス幅変調(PWM)方式の制御信号を生成する。レーザ電源50は、制御部52からの制御信号に応じてスイッチング素子をスイッチング動作させ、電気光学励起部48に供給する励起電流のパルス幅および電流値を制御する。
【0046】
図6に、この実施形態におけるYAG第2高調波パルスレーザ光SHGのレーザ出力波形の一例を示す。パワーフィードバック方式でレーザパワー、パルス幅、パルス波形等を任意に設定・制御することができる。
【0047】
このYAGレーザ装置では、波長変換結晶42にKTP結晶を用いることによって、パルス幅可変のYAG第2高調波を生成する点が重要である。すなわち、Qスイッチ型レーザで生成した高出力のジャイアントパルス(通常1μs以下)を第2高調波に波長変換するための波長変換結晶として最も多く用いられているLBO(LiB35)結晶は、パルス幅が比較的長いロングパルス(10μs以上、典型的には1〜3ms)の基本波には以外に脆く、結晶に亀裂(cracking)が入りやすい。これに対して、KTP結晶は、ロングパルスのYAG基本波に対しては損傷や亀裂を発生させずに非線形光学作用を奏し、第2高調波(波長532nm)のパルスレーザ光を安定に生成することができる。
【0048】
図7に、この実施形態で用いる波長変換方法の基本原理を示す。この波長変換方法は、波長変換結晶42にタイプII位相整合角にカットされたKTP結晶を使用し、タイプIIの位相整合で基本波から第2高調波への波長変換を行う。より詳細には、固体パルスレーザたとえばYAGパルスレーザ(図示せず)で生成された基本波(たとえば1064nm)のパルスレーザ光を楕円偏光(好ましくは円偏光)またはランダム偏光の形態でKTP結晶42に入射させる。そうすると、入射光のうち基本波長の垂直偏光成分と水平偏光成分のみが直線偏光としてKTP結晶42を通過する。KTP結晶42は、基本波YAGパルスレーザと光学的に結合して、非線形光学効果により基本波光の垂直偏光成分と同じ方向に直線偏光したロングパルスの第2高調波パルスレーザ光SHG(532nm)を生成する。
【0049】
しかしながら、上記のような波長変換方法(図6)においては、基本波パルスレーザ光の偏光分布に偏りまたは異方性があったりすると、波長変換効率が低下し、第2高調波パルスレーザ光SHGのレーザ出力が下がったり変動することがある。特に、活性媒質40に対する電気光学励起部48のポンピング(励起光の照射)が不均一であると、基本波パルスレーザ光の偏光分布に偏りまたは異方性が生じる。
【0050】
図8に、この実施形態における波長変換方法を示す。この波長変換は、基本波のP偏光を透過させると同時にS偏光を反射する偏光素子44をその直線偏光化方向(P偏光の振動方向)がKTP結晶42の光学軸に対して相対的に45°傾くように配置する。実施形態の高調波レーザ装置(図5)では、図8に示すように、偏光素子44の直線偏光化方向を鉛直方向に設定し、KTP結晶42の方をその光学軸が鉛直方向に対して45°傾くように配置している。
【0051】
このように偏光素子44の直線偏光化方向とKTP結晶42の光学軸とを相対的に45°傾けて配置する構成によれば、偏光素子44からのP偏光がKTP結晶42の座標系において見かけ上直交する等強度の2つの基本波光成分として非線形光学効果に作用する。仮に偏光素子44を省くと、P偏光と直交するS偏光もKTP結晶42に入射することになり、それによってKTP結晶42の座標系において垂直偏光成分と水平偏光成分のバランスが崩れ、タイプIIの波長変換効率は低下する。こうして、偏光素子44の直線偏光化により、高効率のタイプII波長変換が可能であり、安定かつ高出力でロングパルスの第2高調波パルスレーザ光SHGを生成することができる。これにより、CuやAuの被溶接材に対しては、YAG第2高調波の入射時間をパルス幅で任意に制御し、YAG第2高調波パルスレーザ光SHGのエネルギー吸収が十分に行われ、良好な溶融接合を得ることができる。
【0052】
以上、好適な実施形態を説明したが、本発明の技術思想に基づいて種々の変形・変更が可能である。たとえば、上記した実施形態ではボンディングワイヤにCuワイヤを用いたが、Cu合金のワイヤでもよく、AuやAu合金のワイヤも好適に用いることができる。また、Al系のワイヤにも適用可能である。
【0053】
また、半導体チップの電極パッドやリードの材質も任意のものが可能であり、好適にはCu系、Al系あるいはAu系の金属を用いることができる。また、通常の金属では、レーザ光の波長が赤外光領域〜紫外光領域において、波長が短くなると共にそのエネルギー吸収率は増加する。このために、本発明は、種々の合金、高融点金属を含む金属により被接合部が形成されている場合にも適用できるものである。ここで、Cu系の金属として、CuとAg、Sn、ジルコニウム(Zr)の合金も好適になる。
【0054】
上記実施形態では基本波を生成するための活性媒質40としてNd:YAG結晶を用いたが、Nd:YLF結晶、Nd:YVO4 結晶、Yb:YAG結晶等を使用することもできる。
【0055】
上記実施形態はレーザ溶接に用いるYAG高調波としてYAG第2高調波を用いたが、YAG第3高調波やYAG第4高調波等も使用可能である。また、YAG高調波とYAG基本波を併用する方法、つまりYAG高調波にYAG基本波を重畳して溶接ポイントに照射する方法も可能である。
【0056】
また、上記した実施形態ではX−Yステージ30側で被接合部の接合ポイントを移動させたが、レーザ出射ユニット34側でレーザ照射位置を移動させて接合ポイントに合わせることも可能である。
【0057】
たとえば、図9に示すように、レーザ出射ユニット34をガルバノメータ・スキャナで構成することにより、ワイヤボンディングの対象となる実装部品を固定したままで、YAG第2高調波パルスレーザ光SHGをスキャニングして、半導体チップ84,90上の電極パッド86と絶縁基板78上の配線または導体パターン82とをワイヤボンディングすることができる。なお、図9に示すパッケージは、スタックタイプMCP(Multi Chip Package)のBGA(Ball Grid Array)である。
【0058】
図9において、ガルバノメータ・スキャナは、互いに直交する回転軸66X、66Yに取付けられたX軸スキャン・ミラー68XおよびY軸スキャン・ミラー68Yと、両ミラー68X、68Yをそれぞれ回転振動(首振り)させるX軸ガルバノメータ70XおよびY軸ガルバノメータ70Yとを有している。
【0059】
光ファイバ60の端面より放射状に出たYAG第2高調波パルスレーザ光SHGは、コリメータレンズ72によって平行光線となり、先ずX軸スキャン・ミラー68Xに入射して、そこで全反射してからY軸スキャン・ミラー68Yに入射し、このミラー68Yで全反射してのちfθレンズ74を通って被接合物(86,88)の溶接ポイント付近に集光する。被接合物上のYAG第2高調波パルスレーザ光SHGの照射位置は、X方向においてはX軸スキャン・ミラー68Xの振れ角によって決まり、Y方向においてはY軸スキャン・ミラー68Yの振れ角によって決まる。X軸スキャン・ミラー68XはX軸ガルバノメータ70Xの駆動で矢印A、A’方向に回転振動(首振り)し、Y軸スキャン・ミラー68YはY軸ガルバノメータ70Yの駆動で矢印B、B’方向に回転振動(首振り)するようになっている。
【0060】
X軸ガルバノメータ70Xは、たとえば、X軸スキャン・ミラー68Xに結合された可動鉄片(回転子)と、この可動鉄片に接続された制御バネと、固定子に取り付けられた駆動コイルとを有している。制御部52のスキャナ制御部よりX方向スキャニング制御信号に応じた駆動電流が電気ケーブル76Xを介してX軸ガルバノメータ70X内の該駆動コイルに供給されることで、該可動鉄片(回転子)が該制御バネに抗してX軸スキャン・ミラー68Xと一体にX方向スキャニング制御信号の指定する角度に振れるようになっている。
【0061】
Y軸ガルバノメータ70Yも同様の構成を有しており、上記スキャナ制御部よりY方向スキャニング制御信号に応じた駆動電流が電気ケーブル76Yを介してY軸ガルバノメータ70Y内の駆動コイルに供給されることで、Y軸ガルバノメータ70Yの可動鉄片(回転子)がY軸スキャン・ミラー68Yと一体にY方向スキャニング制御信号の指定する角度に振れるようになっている。
【0062】
図9のワイヤボンディングでは、MCPの絶縁基板78上の配線または導体パターン80の各ボンド点またはステッチ82と、それに対応する第1半導体チップ84または第2半導体チップ90の電極パッド86とをCu系またはAu系の金属からなるボンディングワイヤ88で結線する。より詳細には、ボンディングワイヤ88を各ステッチ82または各電極パッド86の上に位置合わせして載せて接合ポイントとし、ガルバノメータ・スキャナ型のレーザ出射ユニット34によりYAG第2高調波パルスレーザ光SHGをスキャニングして当該接合ポイントに照射し、ボンディングワイヤ88をステッチ82または電極パッド86に接合する。なお、絶縁基板78上の配線80ないしステッチ82は、通常はCu系の金属からなり、基板78に単層あるいは多層に設けられ、基板78のスルーホールを介して基板裏側の半田ボール92に接続されている。
【0063】
このように、本発明においてボンディングワイヤと接合するパッケージ側の外部引き出し用端子は、それ自体が直接パッケージの外へ突出するタイプ(アウタリード)に限るものではなく、外部端子(たとえば半田ボール)に電気的に接続するプリント配線板の導体パターンやリードフレームのインナリード等であってもよい。
【0064】
本発明のワイヤボンディング方法は、半導体チップをリードフレームに搭載して樹脂封止実装をする場合や、多ピンのPGA(Pin Grid Array)に実装する場合等にも全く同様に行える。さらには、ウエハサイズ実装の場合の複数の半導体チップ間あるいは複数の回路基板間の電気接続にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態におけるワイヤボンディング方法を示す斜視図である。
【図2】上記実施形態のワイヤボンディング方法を示す一部断面側面図である。
【図3】上記実施形態の一変形例によるワイヤボンディング方法を示す一部断面側面図である。
【図4】Cu、Au、Feの波長吸収特性を示す図である。
【図5】実施形態のワイヤボンディング方法で用いるYAGレーザ装置の構成を示すブロック図である。
【図6】実施形態におけるYAG第2高調波パルスレーザ光のレーザ出力波形の一例を示す図である。
【図7】実施形態における波長変換方法の基本原理を示す図である。
【図8】実施形態の波長変換方法を示す図である。
【図9】実施形態の一変形例によるガルバノメータ・スキャナ型のレーザ出射ユニットの構成例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
10 半導体パッケージ
12 半導体チップ
14 ソース用電極パッド
16 ゲート用電極パッド
18 ドレイン用電極
20 絶縁基板
22 ゲート用リード端子
24 ドレイン用リード端子
28 ソース用リード端子
30 X−Yステージ
32 Cuワイヤ
34 レーザ出射ユニット
36,38 終端ミラー
40 活性媒体
42 波長変換結晶
44 偏光素子
46 高周波分離出力ミラー
48 電気光学励起部
50 レーザ電源部
52 制御部
56 入射ユニット
60 光ファイバ
62 フォトセンサ
64 測定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップ上の電極パッドにボンディングワイヤを接合するワイヤボディング方法であって、
前記ワイヤを前記電極パッドの上に載せ、可変のパルス幅を有するYAG高調波のパルスレーザ光を前記ワイヤに上方から照射して、前記パルスレーザ光のエネルギーによって前記ワイヤを前記電極パッドに接合するワイヤボンディング方法。
【請求項2】
前記電極パッドがCuあるいはCu合金で形成されている請求項1に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項3】
前記電極パッドにメッキが施されている請求項2に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項4】
半導体パッケージの外部引き出し用端子にボンディングワイヤを接合するワイヤボディング方法であって、
前記ワイヤを前記外部引き出し用端子の上に載せ、可変のパルス幅を有するYAG高調波のパルスレーザ光を前記ワイヤに上方から照射して、前記パルスレーザ光のエネルギーによって前記ワイヤを前記外部引き出し用端子に接合するワイヤボンディング方法。
【請求項5】
前記外部引き出し用端子がCuまたはCu合金で形成されている請求項4に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項6】
前記外部引き出し用端子にメッキが施されている請求項5に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項7】
絶縁基板上の導体パターンにボンディングワイヤを接合するワイヤボディング方法であって、
前記ワイヤを前記導体パターンの上に載せ、可変のパルス幅を有するYAG高調波のパルスレーザ光を前記ワイヤに上方から照射して、前記パルスレーザ光のエネルギーによって前記ワイヤを前記導体パターンに接合するワイヤボンディング方法。
【請求項8】
前記導体パターンがCuまたはCu合金で形成されている請求項7に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項9】
前記導体パターンにメッキが施されている請求項8に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項10】
前記ボンディングワイヤがCu系の金属からなる請求項1〜9のいずれか一項に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項11】
前記ボンディングワイヤがAu系の金属からなる請求項1〜9のいずれか一項に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項12】
前記ワイヤがリボン状または板状に形成されている請求項1〜11のいずれか一項に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項13】
前記YAG高調波のパルスレーザ光をガルバノメータ・スキャナによりスキャニングして前記ワイヤに照射する請求項1〜12のいずれか一項に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項14】
前記YAG高調波のパルスレーザ光のパワーを可変制御する請求項1〜13のいずれか一項に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項15】
前記YAG高調波の波長が532nmのYAG第2高調波である請求項1〜14のいずれか一項に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項16】
Nd:YAGレーザにより可変のパルス幅を有する波長1064nmのYAG基本波のパルスレーザ光を生成し、前記YAG基本波のパルスレーザ光をKTP結晶に入射させて、前記KTP結晶と前記YAG基本波のパルスレーザ光との非線形相互作用により前記YAG第2高調波のパルスレーザ光を生成する請求項15に記載のワイヤボンディング方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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