説明

ワイヤロープ結束具およびワイヤロープの端部の結束方法

【目的】ワイヤロープに強い張力が加わったとしてもワイヤロープの結束(連結)を保つことができる構造を持つワイヤロープ結束具を提供する。
【構成】ワイヤロープ結束具30は,内側上半体31,内側下半体32および外側筒状体33を含む。内側上半体31および内側下半体32には,それぞれワイヤロープ溝が形成されている。末端にストッパ11が固定された2本のワイヤロープ10a,10bの端部を,端部が所定長さだけ二重になるようにそれぞれ上記ワイヤロープ溝に入れ,両半体31,32を外側筒状体33内に入れる。両半体31,32と筒状体33は,ボルト34,35およびナットによって固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,ワイヤロープの端部を結束するワイヤロープ結束具,およびワイヤロープ結束具を用いたワイヤロープの端部の結束方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には,2本のワイヤーロープをスライド可能に繋ぐ接合具が記載されている。この接合具は,横断面がC字形状の内側部材と,内側部材が挿入される横断面がC字形状の外側部材との組み合わせで構成されている。接合具によって接合されるワイヤーロープ(支柱落下防止ワイヤーロープおよび支柱回転防止ワイヤーロープ)は,防音壁を構成する支柱に貫通されて設置される。
【0003】
特許文献1に記載の接合具を構成する内側部材および外側部材のいずれにも,その長手方向に間隙があるので,防音壁もしくは接合具に強い衝撃が加わる,またはワイヤーロープに強い力が加わると,この間隙が外方に開いてしまうおそれがある。ワイヤーロープの接合(連結)が外れてしまう可能性が生じる。
【特許文献1】特開2006−328766号公報
【発明の開示】
【0004】
この発明は,ワイヤロープに強い力が加わったとしてもワイヤロープの結束(連結)を保つことができる構造を持つワイヤロープ結束具を提供することを目的とする。
【0005】
この発明は,上記ワイヤロープ結束具を用いたワイヤロープの端部の結束方法を提供している。
【0006】
この発明によるワイヤロープの結束具は,ワイヤロープの端部を結束(連結)するためのものである。ワイヤロープの端部は,2本以上のワイヤロープのそれぞれの端部であってもよく,少なくとも1本のワイヤロープの両端部であってもよい。
【0007】
この発明によるワイヤロープ結束具は,2つの内側半体と,1つの筒状体を備えている。2つの内側半体のそれぞれには,少なくとも2つのワイヤロープ溝が互いに平行に形成されている。2つの内側半体を上記ワイヤロープ溝を向かい合わせて重合わせた内側体が,筒状体に挿入され,固定具によって筒状体と内側体とが固定される。
【0008】
ワイヤロープ結束具を用いたワイヤロープの端部の結束は,次のようにして行われる。。すなわち,末端に抜止めストッパが固定されたワイヤロープの少なくとも2つの端部を上記筒状体にそれぞれ通す。ワイヤロープの少なくとも2つの端部を上記ワイヤロープ溝に入れた状態で上記2つの内側半体を重ね合わせる。ワイヤロープが挿通された内側体を筒状体内に挿入する。これにより,ワイヤロープが挿通された内側体(2つの内側半体)の端部を除く全体が筒状体によって覆われる。
【0009】
筒状体と内側体を固定具によって固定する。固定具は,2つの内側半体と筒状体の相対的な位置がずれないようにするものであればよい。一実施態様では,上記筒状体および2つの内側半体のそれぞれを貫く穴があけられ,この穴に棒状体を挿入することによって筒状体と内側体が固定される。たとえば,ボルト(およびナット),ピンなどを上記棒状体として用いることができる。
【0010】
この発明によるワイヤロープ結束具は,2つの内側半体の端部を除く全体が筒状体によって覆われているので,結束具に強い衝撃が加わったとしても,またはワイヤロープに強い張力が加わったとしても,結束具(特に,筒状体)が破損する可能性は低い。ワイヤロープの結束状態(連結状態)を良好に維持することができる。
【0011】
好ましくは,上記ワイヤロープ溝によって形成される複数のワイヤロープ挿通路を,挿通されるワイヤロープがその長手方向に動きうる。この場合,上記2つの内側半体はその外方においてワイヤロープの端部が所定長さだけ重複するように(二重,三重等になるように)それぞれ上記ワイヤロープ溝に入れた状態で重合わされる。
【0012】
ワイヤロープが長手方向に動きうるとは,ワイヤロープ挿通路がワイヤロープの径とほぼ同じであること,または少し大きいことを含む。いずれにしても,ワイヤロープに張力が加わったときにワイヤロープが互いに離れる方向にずれていく程度であればよく,結束されるワイヤロープの径に応じて決められる。
【0013】
ワイヤロープに張力が加わることによって互いに離れる方向にワイヤロープが引っ張られると,ワイヤロープの末端に固定されている抜止めストッパが結束具に当たるまでずれていく。ワイヤロープに急激に加わる張力が互いに離れる方向にワイヤロープがずれていくことによって緩衝され,かつワイヤロープの結束具からの抜け落ちが防止される。ワイヤロープの末端に固定されている抜止めストッパはワイヤロープ溝によって形成されるワイヤロープ挿通路の径よりも大きいことは言うまでもない。
【0014】
一実施態様では,上記2つの内側半体の両側部に,上記2つの内側半体を重ね合わせたときに互いに嵌合する段部が形成されている。段部によって2つの内側半体の互いに近づく方向または互いに離れる方向への動きが制限されるので,内側体と筒状体との相対的な位置ずれの防止効果が補強される。凸部(凹部),壁部,その他の段差を構成する形状によって,上記2つの内側半体の両側部の段部は形成される。たとえば,2つの内側半体の両側部の一部に上記ワイヤロープ溝から立ち上がる側壁を形成すれば,この側壁が段部となる。
【0015】
この発明によるワイヤロープ結束具(ワイヤロープ結束具を用いたワイヤロープの端部の結束方法)は,遮音壁,防音壁,その他の壁体に用いることができる。この発明による壁体は,間隔をあけて立設された複数本の支柱,隣接する支柱間に張られ,両側間にワイヤロープ挿通路が形成されたパネル体,および上記パネル体の上記ワイヤロープ挿通路を通された複数本のワイヤロープを備え,上記複数本のワイヤロープは,一のワイヤロープの一端と他のワイヤロープの一端が上述のワイヤロープ結束具を用いたワイヤロープの端部の結束方法によって結束されており,結束されたワイヤロープの両端が上記支柱または支柱が固定される構造体に固定されていることを特徴とする。
【0016】
壁体,たとえば遮音壁に車両が衝突して遮音壁(支柱およびパネル体)が傾いた場合,ワイヤロープに荷重がかかる。ワイヤロープ結束具は内側体(2つの内側半体)の端部を除く全体が筒状体によって覆われているので,遮音壁もしくは結束具に強い衝撃が加わったとしても,またはワイヤロープに強い張力が加わったとしても破損する可能性は低く,ワイヤロープの結束状態(連結状態)が良好に維持される。また,内側体のワイヤロープ挿通路がワイヤロープが長手方向に動きうるものであり,結束具の外側でワイヤロープの端部が所定長さだけ重複するようにワイヤロープを結束具によって結束しておくことによって,遮音壁に車両が衝突すると互いに離れる方向にワイヤロープが引っ張られて,ワイヤロープの末端に固定されている抜止めストッパが結束具に当たるまでずれていく。ワイヤロープに加わる張力が緩衝される。また,ワイヤロープによって,支柱およびパネル体の動き(倒れ,移動,回転等)を抑制することできる。ワイヤロープは支柱を貫通させて張設しておいてもよい。
【実施例】
【0017】
図1は道路の側部に沿って設けられている遮音壁(防音壁)を,正面側(道路側)から見た斜視図を示している。
【0018】
遮音壁1は,下端に板状の基台3が溶接されたH鋼よりなる支柱2と,隣接する支柱2間に張られて壁をつくる防音パネル4,5,6および7と,隣接する支柱2間に嵌め込まれた,加工されたH鋼からなる支持部材8とから構成されている。支柱2は基台3をアンカーボルト51によってコンクリート上に固定することによって立設される。複数の支柱2を立設した後に,隣接する2つの支柱2の溝(H鋼のウェブとフランジによって形成される溝)に,支持部材8および4つの防音パネル4〜7が嵌込まれて積重ねられる。
【0019】
立設される支柱2の数および遮音壁1の幅(距離)は,遮音または防音が要求される場所に応じて適宜調節される。この実施例では,遮音壁1は比較的長い距離(たとえば,200m)にわたって設けられているものとする。複数の支柱2のうち,遮音壁1の2つ(左右)の最終地点に位置する支柱2を,特に符号2(A),2(C)で示し,中間地点に位置する支柱2を符号2(B)で示す。
【0020】
図2は,支柱2の下端部分を背面側から見た拡大斜視図である。図2において防音パネルの図示は省略されている。図3は支柱2の上端部分を背面側から見た拡大斜視図である。
【0021】
図2を参照して,立設された支柱2(H鋼)のウェブ2aを挟む2つのフランジ2b,2cのうち,背面側(道路に面していない側)のフランジ2cの下端部分にボルト穴があけられている。支持部材8(H鋼)のウェブ8aを挟むフランジ8b,8cのうち,背面側のフランジ8cの端部にもボルト穴があけられている。支柱2のフランジ2cの下端部分にあけられたボルト穴および支持部材8のフランジ8cの端部にあけられたボルト穴にボルト73を通しナット(図示略)によって締付けることによって,支持部材8の両端は隣接する支柱2にそれぞれ固定されている。
【0022】
図3を参照して,最上段の防音パネル4の両側部には,正面側および背面側のそれぞれに,側方に伸びるフランジ部4b,4cが形成され,背面側のフランジ部4cの上端部および下端部にそれぞれボルト穴があけられている。支柱2の背面側のフランジ2cの対応する高さ位置にもボルト穴があけられている。支柱のフランジ2cにあけられたボルト穴および防音パネル4のフランジ部4cにあけられたボルト穴にボルト74が通してナット(図示略)によって締付けることによって,防音パネル4の両端部が隣接する支柱2にそれぞれ固定されている。防音パネル4の下段の3つの防音パネル5,6および7も同様に,ボルト・ナットによって隣接する支柱2に固定される。
【0023】
図4は遮音壁の一部破断正面図を示している。図5,図6および図7は,図4の V-V線,VI-VI線およびVII-VII線に沿う断面図(ハッチングは省略)をそれぞれ示している。
【0024】
最上段の防音パネル4の下端部分には,正面側(道路側)および背面側のそれぞれに,下方に伸びるフランジ部4d,4eが形成されている(図5)。フランジ部4d,4eによって遮音壁1の幅方向にのびるワイヤロープ挿通路4aが形成されている。また,複数の支柱2のウェブ2aの上記ワイヤロープ挿通路4aに対応する高さ位置にワイヤロープ通し穴2dがあけられている(図6)。ワイヤロープ挿通路4aおよび支柱2の通し穴2dに,結束具30(図4,図7)によって端部同士が結束(連結)されて直線状にされた互いに等しい径を持つワイヤロープ10a〜10fが通されている。図4では,2本のワイヤロープ10a,10b(およびワイヤロープ10a,10bの間を結束(連結)する結束具30)のみが示され,残りの4本のワイヤロープ10c〜10fの図示は省略されている。
【0025】
遮音壁1の下方に位置する支持部材8は防音パネル4〜7を支持するとともに,遮音壁1の幅方向にのびるワイヤロープ挿通路8dを形成する(図5)。複数の支柱2のウェブ2aのワイヤロープ挿通路8dに対応する高さ位置にはワイヤロープ通し穴2eがあけられている(図6)。ワイヤロープ挿通路8dおよび支柱2の通し穴2eに,結束具40(図4,図7)によって端部同士が結束(連結)されて直線状にされた互いに同じ径を持つワイヤロープ20a〜20fが通されている。図4では,2本のワイヤロープ20a,20b(およびワイヤロープ20a,20bの間を結束(連結)する結束具40のみが示され,残りの4本のワイヤロープ20c〜20fの図示は省略されている。
【0026】
後述するように,遮音壁1の下部に張設されたワイヤロープ20a〜20fは,車両等が遮音壁1に衝突した場合に支柱2および防音パネル4〜7がはねとばされて(支柱2が根本から破損して)道路から落下してしまうのを防止するためのものであり,以下,落下防止用ワイヤロープと呼ぶ。遮音壁1の比較的上部に張設されたワイヤロープ10a〜10fは,車両等が遮音壁1に衝突した場合に,上述の落下防止用ワイヤロープ20a〜20fを軸にして支柱2および防音パネル4〜7が回転してしまうのを防止するためのものであり,以下,回転防止用ワイヤロープと呼ぶ。遮音壁1の下部に張設された落下防止用ワイヤロープ20a〜20fの径は,遮音壁1の比較的上部に張設された回転防止用ワイヤロープ10a〜10fの径(たとえば,直径12mm)よりも若干太い(たとえば,直径18mm)。
【0027】
回転防止用ワイヤロープ10a〜10fおよび落下防止用ワイヤロープ20a〜20fは,遮音壁1の全幅にわたって張設されるが,この実施例の遮音壁1は比較的長い距離にわたって設けられているので,遮音壁1の中間位置の支柱2(B)(図1参照)において2つに分離されている。すなわち,遮音壁1の一端の支柱2(A)から中間支柱2(B)の間に,2つの結束具30によって結束された回転防止用ワイヤロープ10a,10b,10cが張設され,中間支柱2(B)から他端の支柱2(C)の間に2つの結束具30によって結束された回転防止用ワイヤロープ10d,10e,10fが張設されている。同様にして,落下防止用ワイヤロープ20a〜20fについても,支柱2(A)から中間支柱2(B)の間に2つの結束具40によって結束された落下防止用ワイヤロープ20a,20b,20cが張設され,中間支柱2(B)から支柱2(C)の間に,2つの結束具40によって結束された落下防止用ワイヤロープ20d,20e,20fが張設されている。
【0028】
図8は,回転防止用ワイヤロープ10cの一端と回転防止用ワイヤロープ10dの一端とが,中間支柱2(B)に固定されている様子を示している。回転防止用ワイヤロープ10c,10dの一端(固定端)にねじ溝が形成された端末具71がそれぞれ固定されている。中間支柱2(B)のウェブ2aにあけられた2つの穴にねじ軸52がそれぞれ通されて,ねじ軸52と端末具71が連結(固定)される。ねじ軸52をナット53によってウェブ2aに固定することによって,回転防止用ワイヤロープ10c,10dの一端がそれぞれ中間支柱2(B)に固定される。
【0029】
落下防止用ワイヤロープ20c,20dの一端も,上述と同様にして,中間支柱2(B)に固定される。
【0030】
図4に戻って,遮音壁1の一端に位置する支柱2(A)に回転防止用ワイヤロープ10aの一端が固定されている。回転防止用ワイヤロープ10aの一端にもねじ溝が形成された端末具71が固定されており,支柱2(A)のウェブ2aにあけられた通し穴2dにねじ軸52が通されて端末具71と固定され,このねじ軸52がナット53によって支柱2(A)のウェブ2aに固定される。落下防止用ワイヤロープ20aの一端も同様にして,落下防止用ワイヤロープ20aの一端に固定されたねじ溝が形成された端末具72と支柱2(A)のウェブ2aにあけられた通し穴2eに通されたねじ軸62とが固定され,このねじ軸62がナット63によって支柱2(A)のウェブ2aに固定される。
【0031】
図4において図示は省略するが,遮音壁1の他端に位置する支柱2(C)には,回転防止用ワイヤロープ10fおよび落下防止用ワイヤロープ20fの一端が,上述と同様にして固定される。
【0032】
回転防止用ワイヤロープ10a,10fの一端および落下防止用ワイヤロープ20a,20fの一端については,上述のように支柱2(A),2(C)に固定するのに代えて,他の構造物,たとえば,支柱2(A),2(C)が固定されるコンクリート高欄の側壁にアンカーボルト等を用いて固定するようにしてもよい。
【0033】
結束具30によって結束(連結)される回転防止用ワイヤロープの端部,すなわち,回転防止用ワイヤロープ10aの他端(上述の支柱2(A)に固定される一端と反対側),ワイヤロープ10bの両端等には,ストッパ11が固定されている(図4)。ストッパ11によって,ワイヤロープ10a,10b・・・の端部(結束端)が結束具30から抜け,ワイヤロープ同士の結束(連結)がとかれてしまうことが防止される(詳しくは後述する)。同様に,結束具40によって結束される落下防止用ワイヤロープ20a,20b・・の端部にもストッパ21が固定されており(図4),連結されたワイヤロープ20a,20b・・・の結束具40からの抜けが防止される。
【0034】
図9は,2本の回転防止用ワイヤロープ10a,10bの端部が結束具30によって結束(連結)されている様子を示している。図10は結束具30の分解斜視図である。寸法が異なるものの,落下防止用ワイヤロープ20a,20b・・の端部を結束する結束具40も結束具30と同じ構造を持つ。結束具30について説明する。
【0035】
結束具30は,内側上半体31,内側下半体32および外側筒状体33を含む。内側上半体31,内側下半体32および外側筒状体33は,いずれも鉄にカーボン,マンガン等を混入させた,比較的硬い高張力炭素鋼でつくられている。
【0036】
内側上半体31の下面には,壁部31eによって仕切られた互いに平行にのびる弧状の断面形状を持つ2つのワイヤロープ溝31c,31dが形成されている。壁部31eの部分に,内側上半体31の上面から下面を貫く2つのボルト穴31a,31bが間隔をあけてあけられている。
【0037】
内側下半体32の上面にも,壁部32eによって仕切られた互いに平行にのびる弧状の断面形状をもつ2つワイヤロープ溝32c,32dが形成され,壁部32eの部分に,内側下半体32の上面から下面を貫く2つのボルト穴32a,32bが間隔をあけてあけられている。
【0038】
両半体31,32を,ワイヤロープ溝を向かい合わせて重ね合わせると,上半体31のワイヤロープ溝31c,31dおよび下半体32のワイヤロープ溝32c,32dによって,回転防止用ワイヤロープ10a,10bがそれぞれ通る2つのワイヤロープ挿通路が形成される。
【0039】
上半体31の下面の両側には,上半体31の一端部から中央にかけて形成された高い側壁31fが立ち上がり,中央から他端部にかけては低い側壁31gが立ち上がっている。高い側壁31fと低い側壁31gとの境界は段差31hをなしている。
【0040】
他方,下半体32の上面の両側には,下半体32の他端部から中央にかけて高い側壁32fが立ち上がり,中央から一端部にかけて低い側壁32gが立ち上がっている。高い側壁32fと低い側壁32gとの境界は段差32hをなしている。
【0041】
両半体31,32を重ね合わせると,上半体31の下面両側の高い側壁31fと,下半体32の上面両側の低い側壁32gが嵌合し,かつ上半体31の下面両側の低い側壁31gと,下半体32の上面両側の高い側壁32fが嵌合する。また,上半体31の段差31hと下半体32の段差32hが互いに対向する。段差31h,32hによって,重合わされた上半体31および下半体32の互いに近づく方向への動きが制限される。
【0042】
また,両半体31,32を重ね合わせると,上面および下面が扁平した円柱状の外形形状となる。外側筒状体33は,両半体31,32を重ね合わせたときの外形形状よりも少し大きい。外側筒状体33の上面および下面にも,2つのボルト穴33a,33bが間隔をあけてあけられている。
【0043】
外側筒状体33の中に2本の回転防止用ワイヤロープ10a,10bを,それぞれ反対方向に通しておく。2本の回転防止用ワイヤロープ10a,10bのそれぞれの端部を,内側下半体32の2つのワイヤロープ溝32c,32dにそれぞれ入れる。このとき,2本の回転防止用ワイヤロープ10a,10bのそれぞれについて,ストッパ11から少し離れたワイヤロープ10a,10bの部分を,内側下半体32の2つのワイヤロープ溝32c,32dにそれぞれ入れておく。以下,ストッパ11から結束具30までの回転防止用ワイヤロープ10a,10bの部分を余長部分と呼ぶ。
【0044】
内側下半体32の上に内側上半体31を重ねる。内側上半体31の下面のワイヤロープ溝31c,31dにも,2本の回転防止用ワイヤロープ10a,10bがそれぞれ入る。
【0045】
両半体31,32を重ね合わせた後,両半体31,32の位置まで外側筒状体33をスライドさせ,両半体31,32を外側筒状体33内に入れる。その後,ボルト穴33a,31a,32aとボルト穴33b,31b,32bに,それぞれボルト34,35を通し,ワッシャ38,39を介してナット36,37によって締め付ける。2本の回転防止用ワイヤロープ10a,10bの端部の結束(連結)が完成する。
【0046】
上半体31および下半体32にそれぞれ形成されたワイヤロープ溝31c,31d,32c,32dによって形成される回転防止用ワイヤロープ10a,10bが通る2つのワイヤロープ挿通路の径は,回転防止用ワイヤロープ10a,10bの径よりも少し大きい,またはほぼ一致している。回転防止用ワイヤロープ10a,10bの端部は結束具30内をその長手方向に動きうる。
【0047】
また,回転防止用ワイヤロープ10a,10bの末端に固定されているストッパ11の径は,回転防止用ワイヤロープ10a,10bが通るワイヤロープ挿通路の径よりも大きい。回転防止用ワイヤロープ10a,10bが互いに離れる方向にずれていった場合,ストッパ11が結束具30(両半体31,32)の端部に当接し,回転防止用ワイヤロープ10a,10bが結束具30から抜け落ちてしまうことはない(図11)。
【0048】
たとえば,道路を走行している車両が道路の側部に沿って立設された遮音壁1に衝突した場合を考える。車両が遮音壁1に衝突すると,1または数本の支柱2と,その支柱2間に渡されている防音パネル4〜7および支持部材8が道路と反対の方向に傾くおそれがある。さらに,その衝撃が強い場合には,支柱2が根本から破損してしまう(はね飛ばされる)おそれもある。道路が橋架上に建設されておりその橋架下に他の構造物(たとえば,他の道路,民家など)が存在する場合,支柱2または防音パネル4〜7および支持部材8が橋架上から落下すると,災害(二次災害)を引き起こすおそれがある。
【0049】
支柱2,防音パネル4〜7および支持部材8の橋架上からの落下が,遮音壁1の下部に張設された落下防止用ワイヤロープ20a,20b・・・によって効果的に防止される。上述のように,落下防止用ワイヤロープ20a,20b・・・は,複数本の支柱2の下部にそれぞれにあけられた通し穴2eに通され,両端が支柱2に固定された支持部材8のワイヤロープ挿通路8dを通されて張設されている。このため,複数本の支柱2のうちの一部の支柱2がその根本から破損したとしても,衝突を免れた支柱2および支持部材8を通っている落下防止用ワイヤロープ20a,20b・・・によって,破損した支柱2の動きが制限され,橋架上からの落下が防止される。防音パネル4〜7および支持部材8は支柱2に固定されているので,防音パネル4〜7および支持部材8も橋架上から落下することはない。
【0050】
落下防止用ワイヤロープ20a,20b・・・のみが設けられているとすると,支柱2および防音パネル4〜7が橋架上から落下しなくても,落下防止用ワイヤロープ20a,20b・・・を軸にして橋架下に向けて回転してしまう(180度に近い角度の倒壊,宙づり状態)おそれがある。これについては,回転防止用ワイヤロープ10a,10b・・・によって防止される。回転防止用ワイヤロープ10a,10b・・・は遮音壁1の比較的上部において支柱2の通し穴2dおよび防音パネル4のワイヤロープ挿通路4aを通して張設されているので,回転防止用ワイヤロープ10a,10b・・・によって支柱2および防音パネル4〜7の上方部分の動きが制限され,支柱2および防音パネル4〜7が大きく傾いてしまうこと(回転)が防止される。
【0051】
支柱2,防音パネル4〜7および支持部材8が傾いた場合,または支柱2が根本から破損した場合,回転防止用ワイヤロープ10a,10b・・・は互いに離れる方向に引っ張られる。回転防止用ワイヤロープ10a,10b・・・の端部は,上述のように,余長部分をあらかじめ確保した上で結束具30によって結束され,結束具30内を長手方向に動きうるので,回転防止用ワイヤロープ10a,10b・・・が引っ張られると,ストッパ11が結束具30に当たるまでワイヤロープがずれていく。これにより,回転防止用ワイヤロープ10a,10b・・・に急激に加わる張力が緩衝される。ストッパ11によって結束(連結)された状態は保たれるので,回転防止用ワイヤロープ10a,10b・・・の端部が暴れてしまうおそれもない。このことは,落下防止用ワイヤロープ20a,20b・・・についても同様である。
【0052】
回転防止用ワイヤロープ10a,10b・・・を結束する結束具30は,内側上半体31および内側下半体32の側部を除く全体が外側筒状体33に覆われ,この外側筒状体33と内側上半体31および内側下半体32とが,ボルト34,35およびナット36,37によって固定されているので,回転防止用ワイヤロープ10a,10b・・に強い張力が加わったとしても,または結束具30に強い衝撃が加わったとしても,外側筒状体33が破損してしまう可能性は低く,回転防止用ワイヤロープ10a,10b・・・の結束(連結)がとかれる可能性は低い。このことは,落下防止用ワイヤロープ20a,20b・・・を結束する結束具40についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】遮音壁の斜視図である。
【図2】支柱と支持部材を示す斜視図である。
【図3】支柱と防音パネルを示す斜視図である。
【図4】遮音壁の正面図である。
【図5】遮音壁のV-V線に沿う断面図である。
【図6】遮音壁のVI-VI線に沿う断面図である。
【図7】遮音壁のVII-VII線に沿う断面図である。
【図8】ワイヤロープが支柱に固定されている様子を示す。
【図9】結束具の斜視図である。
【図10】結束具の分解斜視図である。
【図11】結束具の斜視図である。
【符号の説明】
【0054】
1 遮音壁
2 支柱
4,5,6,7 防音パネル
10a,10b 回転防止用ワイヤロープ
20a,20b 落下防止用ワイヤロープ
11,21 ストッパ
30,40 結束具
31 内側上半体
32 内側下半体
31c,31d,32c,32d ワイヤロープ溝
31h,32h 段差
33 外側筒状体
31a,31b,32a,32b,33a,33b ボルト穴
34,35 ボルト
36,37 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのワイヤロープ溝が互いに平行に形成された2つの内側半体,
上記ワイヤロープ溝を向かい合わせて上記2つの内側半体を重ね合わせた内側体が挿入される筒状体,および
上記筒状体と上記内側体を固定する固定具,
を備えたワイヤロープ結束具。
【請求項2】
上記2つの内側半体を重ね合わせることによって上記ワイヤロープ溝によって形成されるワイヤロープ挿通路を,ワイヤロープがその長手方向に動きうる,
請求項1に記載のワイヤロープ結束具。
【請求項3】
上記2つの内側半体の両側部に,上記2つの内側半体を重ね合わせたときに互いに嵌合する段部が形成されている,
請求項1に記載のワイヤロープ結束具。
【請求項4】
少なくとも2つのワイヤロープ溝が互いに平行に形成された2つの内側半体,および上記ワイヤロープ溝を向かい合わせて上記2つの内側半体を重合わせた内側体が挿入される筒状体を用意し,
末端に抜止めストッパが固定されたワイヤロープの少なくとも2つの端部を上記筒状体に通し,
上記ワイヤロープの少なくとも2つの端部を上記ワイヤロープ溝に入れた状態で上記2つの内側半体を重合わせ,
ワイヤロープが挿通された,上記2つの内側半体を重合わせた内側体を上記筒状体に挿入し,
上記筒状体と内側体を固定具によって固定する,
ワイヤロープの端部の結束方法。
【請求項5】
間隔をあけて立設された複数本の支柱,
隣接する支柱間に張られ,両側間にワイヤロープ挿通路が形成されたパネル体,および
上記パネル体の上記ワイヤロープ挿通路を通された複数本のワイヤロープを備え,
上記複数本のワイヤロープは,一のワイヤロープの一端と他のワイヤロープの一端が請求項4に記載のワイヤロープの端部の結束方法によって結束されており,
結束されたワイヤロープの両端が上記支柱または支柱が固定される構造体に固定されている,壁体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−303490(P2008−303490A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151142(P2007−151142)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【Fターム(参考)】