説明

ワイヤーボンド方法

【課題】 アイランド現象を発生させないでアルミ薄膜にアルミ線でワイヤーボンドする方法の提供。
【解決手段】 水晶基板11にアルミで成膜した薄膜にアルミ線13を超音波で接合し配線を作るワイヤーボンド方法であって、ウエッジヘッドでアルミ線13をアルミ薄膜12の上に押しつける工程と、アルミ線13とアルミ薄膜12に超音波振動を印加する工程とを含み、前記超音波振動の強度を所定値より低く、前記超音波振動の印加時間を所定値より長くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶基板上に成膜された表面弾性波素子やインダクタンス素子等のアルミ薄膜が表面に露出している素子をアルミ線を用いてウエッジボンダーと呼ばれる超音波を用いて結線するワイヤーボンド方法を包含する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ線を用いて素子間を配線する方法はワイヤーボンド方法としては早くから存在している。しかし、金線を用いて配線するワイヤーボンド方法が主流になった昨今ではアルミ線を用いるワイヤーボンド方法は一部の特殊用途を残すのみとなった。
【0003】
アルミ線をワイヤーボンドする装置はウエッジと呼ばれるヘッドを持ち、アルミ線を押しつぶして、その上から超音波を掛けて、アルミ線を接合する相手方の金属に押し込む方法を取っている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この方法は相手方の金属の条件、金属の固さや表面状態などに影響を受ける。また、柔らかい金属にしか用いられ無いと言う欠点もある。
【0004】
アルミ線はアルミ材に圧力を掛け、オレフィスから押し出す方法で製造されるが、押し出したそのままの状態のものと、押し出したものを還元雰囲気の中で熱処理をしたアニリング材とがある。一般的にアニリング材の方が柔らかい性質を持つ。
【0005】
アルミ線によるワイヤーボンド方法では、超音波の振動を効率良くアルミ線に伝える為、アルミ線を打つ素子は強固な保持力を持つ接着剤で固定されていることが好ましい。しかし、表面弾性波素子の様に物理波が素子の表面を移動する様な場合は、強固な接着剤で素子を固定してしまうと固定強度や方法によって素子の基本的な周波数が変化してしまう場合が多い。この様な場合は、固定を弛める為に軟硬化型の接着剤を使うことが考えられる。 実際、強硬化型の接着剤による固定では、経時的な周波数の変位が軟硬化型よりも大きい。
【特許文献1】特開平6−69292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表面弾性波素子の一般的な構造は誘電体基板の上に櫛歯状のパターンが櫛歯を合わせる様に配置されている。当該表面弾性波素子の周波数は櫛歯の大きさや距離、それに櫛歯の厚み、つまり成膜されたアルミの膜厚に依存する。従って、周波数の異なる表面弾性波素子を作成しようとすると、素子毎のアルミ薄膜の厚みが異なるという事になる。傾向としては周波数が上がると膜厚が薄くなる傾向にある。
【0007】
非常に薄いアルミ薄膜の上にアルミ線でワイヤーボンドを行おうとすると、ウエッジがアルミ線をアルミ薄膜の上に押しつけられた後の超音波振動を与えられると、押しつぶされたアルミ線の部分(通称、フットプリントと言う)の周辺のアルミ薄膜がフットプリントに沿って脱落する現象が起こる。この現象をアイランド現象と言う。この現象が発生するとアルミ線は素子の上にある程度の強度で付着しているが、アルミ薄膜が楕円形に脱落しているため電気的導通が取れなかったり、取れても弱い電流しか流れない為、その後の電気特性検査で不良と判断される原因となる。
【0008】
一方、アルミ線の付着強度は通常ワイヤープルなどの物理的な方法でアルミ線を破壊的に素子から引き離し、その破壊重量を持って良否を判定する場合が多い。しかし、一度アイランド現象が発生するとこの方法で不良を見つける事ができない。不良であることを見つけるには電気特性検査まで待つことになる。
【0009】
アイランド現象はアルミ薄膜の厚みが薄くなればなるほど発生し易くなる為、薄い厚みでの条件出しの最適化が求められる。
【0010】
そこで本発明では、アイランド現象を発生させないでアルミ薄膜にアルミ線でワイヤーボンドする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
水晶基板にアルミで成膜した薄膜にアルミ線を超音波で接合し配線を作るワイヤーボンド方法であって、ウエッジヘッドでアルミ線をアルミ薄膜の上に押しつける工程と、アルミ線とアルミ薄膜に超音波振動を印加する工程とを含み、前記超音波振動の強度を所定値より低く、前記超音波振動の印加時間を所定値より長くすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水晶基板の上にアルミ成膜して製造する表面弾性波素子について、アルミ結線を行うパッドの部分の厚みを厚くする事で周辺のアルミ薄膜が脱落するアイランド現象を回避する事ができる。また、本発明の条件でアルミ線を打つ事で、アルミ膜厚100ナノメートル程度までの薄膜に対して、歩留まり良くワイヤーボンドを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図1〜図4を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、水晶基板11上のアルミ薄膜12上(アルミ成膜された素子)の上にアルミ線13をワイヤーボンディングした時の状態を示す模式図である。この形状はウエッジボンダーでアルミ配線を行った場合の理想的な形状である。
【0015】
アルミ線をワイヤーボンドする為の装置としてウエッジボンダーを使用する。ウエッジの角度は45度のものを使用する。配線材は直径0.3ミリメートルのアニリングしたアルミ線を用いる。一方、配線する素子は、アルミナ・セラミックを土台とする基板に、5インチの水晶ウエハに成膜した表面弾性波素子を、切断した状態で接着する。水晶ウエハの厚みは0.5ミリメートルで、アルミパターンの厚みは118ナノメートルである。接着剤は、軟硬化型の接着剤をダイアッタチ後150度Cで1時間硬化したものを用いる。
【0016】
また、水晶基板を用いた表面弾性波素子は、性能が安定しているのが大きな利点であるが、反面周波数の上限は1ギガヘルツと言われている。例えば、米国の小電力無線の規格である916.5MHzの周波数に対応する表面弾性波素子を作成する場合は、アルミ薄膜の厚みが110ナノメートル前後になる。また、周波数の個体バラツキを押さえる為に表面にパッシベーションを施さない為、アルミが表面に露出する形の表面弾性波素子が用いられることとなる。当該素子はアルミを均一にスパッタした薄膜をエッチングして作成する為、周囲にあるパッドの厚みも同一の厚みとなる。これにパッドのみの膜厚を増す操作を行うには、フォトリソ工程とアルミスパッタ工程が追加されると考えられるが、櫛歯状のパターンをエッチングした後の作業だけに製品の歩留まりの低下が心配される。
【0017】
アルミ薄膜に安定してアルミ線を打つためには、打った後にアイランド現象が起こっていないことが確認できれば良い。ウエッジボンダーでアイランド現象を防ぐ為の条件出しを行う場合の条件出しは3つの変数、ウエッジを押しつける圧力Pw、超音波振動の強度Vs及びその時間Vt、を変化させてアルミ線を打った後に、アルミ線のフットプリント14を引き剥がし、さらに素子をセラミック基板から引き剥がして、裏面からアルミ薄膜の脱落があるか否かを見る方法を用いる。図2(a)はアルミ配線を引き剥がした時のアイランド現象を起こしたアルミ薄膜21の形状を示し、アイランド部23はフットプリントの下のアルミ薄膜21が残留しており、アルミ薄膜21に生じるアルミ欠落部22によって形成される。図2(b)は、素子を光源24に対して裏面から見てアイランド現象の状態を観察する方法に付いて説明する模式図である。アルミ薄膜の脱落を観察するには5倍から50倍の可変倍率を持つ実体顕微鏡を用いる。
【0018】
実施の際に考慮する事はアルミ薄膜の脱落は、どの段階又は条件で起こるのかである。ウエッジを押しつける圧力Pwを掛けた上で超音波振動を充分掛けないと、アルミ線が離脱するリフトと言う現象が起こってしまう事が判っており、Pwは一度決定されれば、後は超音波の強度Vsとその時間Vtを変化させる事で最適条件を見出すことが可能となる。しかし、接着剤が軟硬化性である為、Pwを掛けてアルミ線をウエッジで素子表面に押しつけた後に、接着剤の軟硬化性の影響で素子自体が振動する可能性がある。従って最初に、その振動が収まってから超音波振動を掛けた時と、ウエッジを押しつけた直後に超音波を掛けた時とのアイランド現象に係わる差を確認し、その後は、アルミ薄膜の脱落は超音波の強度と印可時間よるものとして実施する。以下にこの実施例を示す。
【実施例】
【0019】
軟硬化性の接着剤でダイアタッチを行う場合は、接着剤の投下量によってダイアッタチ後に素子とその下のアルミナ基板との間に入る接着剤の量が異なる。この接着剤の厚みは接着剤の弾性係数を変える原因となる。接着剤の厚みが厚くなるに従って、弾性係数が高くなる傾向にあるが、その数値は素子の横から破壊検査で行うダイシアーの様な方法で測定しようと試みたが、この方法での測定は不可能である。また、アルミナ性セラミック基板の表面状況、例えば基板上面に配線パターンがある、などでも弾性係数も変化することが確認されている。
【0020】
本実施例ではPwの値を使用したウエッジボンダーの変数値として25に設定した。主な理由は、20以下の数値を設定するとアルミ線を充分な強度で配線できない事に由来する。次に使用したウエッジボンダーでは、超音波振動の強度Vsを電流量で示す為、この値を50ミリアンペアーとし、同様に印可時間Vtはミリ秒で表される為、10ミリ秒を用いた。ウエッジダウン位置から超音波振動を印可する時間をWtとし、0,1,10,100及び500ミリ秒の4種類の条件でワイヤーボンドを行った。図3(a)はウエッジダウンを行って直ぐに超音波振動を印可した場合の時間的信号強度を示しており、図3(b)は、ウエッジダウン後に時間をおいて超音波振動を印可した時の時間的信号強度を示している。
【0021】
実施した数量は各条件40個で行い、基板側を第1ボンド、素子側を第2ボンドとして各素子4アルミ線を配線する実験を行った。
【0022】
結果を図2で示す方法で観察し、比較検討した。結果として大きさの大小はあるものの、アイランド現象が全てのサンプルに付いて発生をしていた。しかし、Wtを変化させても特に顕著な違いが無かった。従って、ウエッジが素子に当たって振動する事は無いか、又は振動してもアイランド現象に与える影響は極めて少ないと判断し、Wtを0と設定した。
【0023】
次に、アルミ線が充分な強度で下地に付着する幅が狭かったので、超音波振動に係わる強度Vsと印可時間Vtに付いて2条件のみで試験した。サンプルの作成数は何れの場合も各40個である。図4(a)に相当する高い振動強度で短時間の条件には、電流量Vsが60mA、印可時間Vtを10ミリ秒とし、図4(b)に相当する低い振動強度で長時間の条件として電流量Vsが50mA、印可時間Vtを15ミリ秒とした。
【0024】
両条件で作成したサンプルを図2の方法で観察した結果、両者ともにアイランド現象が発生していた。しかし、図2(b)で示す条件の方がアイランド現象の度合いが低かった。そこで両者のサンプルで導通試験を行ったところ、図2(a)の条件では行ったものは不良品が40個中9個、図2(b)の条件で行ったものは不良品が出なかった。
【0025】
同様に接着剤の厚み条件を変え、厚みを厚くしてダイアッタチしたサンプルで実験を「行った結果、図2(a)の条件でおこなったものは電気特性検査に於ける不良品が40個中12個と増え、反面、図2(b)の条件で行ったサンプルは不良品が1個に留まった。
【0026】
この結果から、超音波振動を強度を上げると、例え時間が短くてもアイランド現象が起こることを確認した。
【0027】
従って、以上の実施例から、アルミ薄膜にアルミ線をワイヤーボンドする際は、超音波振動の強度を下げ、時間を長くすることで良品率を上げることができることを確認した。
【0028】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のワイヤーボンド方法は、表面弾性波素子の工程追加や歩留まり低下によるコスト増加を防ぎながら、表面弾性波素子による周波数フィルター、発信機、時計等に製品を製造する方法として利用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態にかかわる水晶基板上のアルミ薄膜上にアルミ線をワイヤーボンドした状態を示す模式図である。
【図2】アルミ薄膜上のアイランド現象とその形状を示し、(a)はアルミ配線を引き剥がした時のアイランド現象を起こしたアルミ薄膜の形状を示す模式図であり、(b)は素子を裏面から見てアイランド現象の状態を観察する方法に付いて説明する模式図である。
【図3】本発明の実施例にかかわる超音波振動を掛けるタイミングを示し、(a)はウエッジダウンを行って直ぐに超音波振動を印可した場合の時間的信号強度を示すグラフであり、(b)はウエッジダウン後に時間をおいて超音波振動を印可した場合の時間的信号強度を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例にかかわる超音波振動の強度と時間の関係を示し、(a)は高い振動強度で短時間の条件で超音波振動を印可した場合の時間的信号強度を示すグラフであり、(b)は低い振動強度で長時間の条件で超音波振動を印可した場合の時間的信号強度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
11 水晶基板
12 アルミ薄膜
13 アルミ線
14 フットプリント
21 アルミ薄膜
22 アルミ欠落部
23 アイランド部
24 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶基板にアルミで成膜した薄膜にアルミ線を超音波で接合し配線を作るワイヤーボンド方法であって、
ウエッジヘッドでアルミ線をアルミ薄膜の上に押しつける工程と、
アルミ線とアルミ薄膜に超音波振動を印加する工程とを含み、
前記超音波振動の強度を所定値より低く、前記超音波振動の印加時間を所定値より長くするワイヤーボンド方法。
【請求項2】
前記ウエッジヘッドを前記アルミ線に押しつけた直後に超音波振動を印加する請求項1記載のワイヤーボンド方法。
【請求項3】
水晶基板にアルミで成膜した表面弾性波素子にアルミ線を超音波で接合し配線を作る請求項1記載のワイヤーボンド方法であって、
前記表面弾性波素子のアルミ結線を行うパッドの部分の厚みを周囲より厚くするワイヤーボンド方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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