説明

ワイン缶用塗料、ワイン缶用塗装金属板およびワイン缶

【課題】塗料が塗布されてなる塗膜を備える塗装金属板の成形性および耐腐食性が高くまたかかる塗膜を供えるワイン缶の耐腐食性が高いワイン缶用塗料、ワイン缶用塗装金属板ならびにワイン缶を提供する。
【解決手段】本ワイン缶用塗料は、炭酸カルシウム11と、重合度が200以上800以下のポリオレフィンもしくはその誘導体13と、熱硬化性樹脂15とを含む。また、本ワイン缶用塗装金属板30は、金属板20の少なくとも一方の面に、上記のワイン缶用塗料が塗布されてなる塗膜10fを備える。また、本ワイン缶は、缶体の内面および外面の少なくとも内面に、上記のワイン缶用塗料が塗布されてなる塗膜を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイン缶の製造に用いられるワイン缶用塗料およびワイン缶用塗装金属板ならびにワイン缶に関する。
【背景技術】
【0002】
ワインには、通常、果汁発酵中の野生酵母の抑制および/または熟成の調節のための必須の添加剤として適量(遊離SO2(二酸化イオウ)としての残存量が350ppm未満)の亜硫酸が添加されている。このようなワインを金属缶に充填して缶詰にする場合、ワイン中に添加されている亜硫酸の腐食性が大きいため金属缶に腐食を生じやすく、また亜硫酸(特にワイン中の遊離SO2)と缶を形成する金属との間の酸化還元反応により発生する硫化水素がワインの風味(フレーバー)を悪化させる問題が生じる。
【0003】
かかる問題を解決するために、特開2006−62688号公報(特許文献1)は、ワイン缶の内面側に形成された樹脂層中に亜硫酸と反応する捕酸剤として炭酸カルシウムが添加されたワイン缶詰用金属缶が提案されている。
【0004】
ここで、ワイン缶詰用金属缶としては、一般的な飲料缶詰の容器として使用されている3ピース缶、2ピース缶、ボトル型缶などの金属缶が用いられる。これらの金属缶のうち、3ピース缶は、缶の胴部の側面を、溶接、接着および/またはカシメなどにより接合して形成され(側面継目)、缶胴部の両端開口部に、それぞれ天蓋および底蓋を二重巻締めなどで接合部を有する。また、2ピース缶は、平板ブランクを絞り加工または絞りしごき加工して成形した円筒型または角筒型の有底缶の開口部に、天蓋が取り付けられたものである。また、ボトル型缶には、円筒型の有底缶の底部側が口頚部と肩部に成形され、有底缶の開口部に別体の底蓋が巻締め固着されているタイプのもの、円筒型の有底缶の開口部側が口頚部と肩部に成形され、別体の栓が装着されているタイプのもの、などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−62688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、引用文献1に開示されたワイン缶詰用金属缶は、缶内面となる面を炭酸カルシウムが添加された樹脂層で被覆した樹脂被覆金属板から、絞り加工および/またはしごき加工を経て、2ピース缶またはボトル型缶に形成されるため、樹脂層に添加した炭酸カルシウムにより樹脂層が脆くなり、ワイン缶の製造の際に、樹脂被覆金属板の成形性および耐腐食性が低減する問題があった。また、樹脂被膜金属板から3ピース缶を形成する場合においても、成形加工、溶接加工、接着加工および/またはカシメ加工などを経るため、樹脂被覆金属板の成形性および耐腐食性が低減する問題があった。
【0007】
さらに、上記のようにして得られたワイン缶詰用金属缶は、缶が運搬される際に、缶同士の衝突または缶と運搬用ガイドレールとの衝突などによる衝撃を受けて、樹脂層にクラックおよび/または剥離が生じるという、耐デント性の低下という問題があった。特に、内容物であるワインによる金属の腐食性が高いため、耐腐食性がワイン缶詰用金属缶においては、内容物であるワインによる金属の腐食性が高いため、エポキシ塗料などの従来の塗料または従来の塗料に無機フィラーなどを添加して塗膜剛性を高めた塗料などによっては、塗膜の金属の密着性および塗膜による金属のカバレッジ(カバー範囲またはカバー率を意味する。)を保つことができず、耐腐食性が低減する問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、塗料が塗布されてなる塗膜を備える塗装金属板の成形性および耐腐食性が高くまたかかる塗膜を備えるワイン缶の耐食性が高いワイン缶用塗料、ワイン缶用塗装金属板ならびにワイン缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、炭酸カルシウムと、重合度が200以上800以下のポリオレフィンもしくはその誘導体と、熱硬化性樹脂と、を含むワイン缶用塗料である。
【0010】
本発明にかかるワイン缶用塗料において、ポリオレフィンの誘導体は、そのポリオレフィンの炭素原子に結合する−Cl基、−OH基、−COOH基およびエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種類の官能基を含むことができる。また、ポリオレフィンもしくはその誘導体を質量平均分子量が25000以上250000以下をすることができる。また、炭酸カルシウムを熱硬化性樹脂100質量部に対して15質量部以上100質量部以下とし、ポリオレフィンもしくはその誘導体を熱硬化性樹脂100質量部に対して5質量部以上50質量部以下とすることができる。
【0011】
また、本発明は、金属板の少なくとも一方の主面に、上記のワイン缶用塗料が塗布されてなる塗膜を備えるワイン缶用塗装金属板である。また、本発明は、缶体の内面および外面の少なくとも内面に、上記のいずれかのワイン缶用塗料が塗布されてなる塗膜を備えるワイン缶である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塗料が塗布されてなる塗膜を備える塗装金属板の成形性および耐腐食性が高くまたかかる塗膜を備えるワイン缶の耐食性が高いワイン缶用塗料、ワイン缶用塗装金属板ならびにワイン缶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかるワイン缶用塗料の一実施形態を示す模式断面図である。
【図2】本発明にかかるワイン缶用塗装金属板の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
図1および図2を参照して、本発明の一実施形態であるワイン缶用塗料10は、炭酸カルシウム11と、重合度が200以上800以下のポリオレフィンもしくはその誘導体13と、熱硬化性樹脂15とを含む。
【0015】
本実施形態のワイン缶用塗料10は、塗料に含まれる炭酸カルシウム11が、ワインに添加された亜硫酸、特にワイン中で亜硫酸から遊離したSO2と反応するため、かかる塗料が塗布され硬化して形成される塗膜10fを備えるワイン缶用塗装金属板30の耐腐食性を高める。
【0016】
また、本実施形態のワイン缶用塗料10は、さらに、重合度が200以上800以下のポリオレフィンもしくはその誘導体13と、熱硬化性樹脂15とを含む。ここで、ワイン缶用塗料10および塗膜10fにおいては、熱硬化性樹脂15中に重合度が200以上800以下のポリオレフィンもしくはその誘導体13が分散している海島樹脂構造(ポリオレフィンおよびその誘導体の質量部数が熱硬化性樹脂の質量部数以下の場合、図1および図2を参照)、またはポリオレフィンもしくはその誘導体13中に熱硬化性樹脂15が分散している海島樹脂構造(ポリオレフィンおよびその誘導体の質量部数が熱硬化性樹脂の質量部数より大きい場合、図示せず)となり、このような海島樹脂構造を有する熱硬化性樹脂15およびポリオレフィンもしくはその誘導体13中に炭酸カルシウム11が分散している海島構造を有する。このため、塗膜10fの可撓性が高くなるとともに、塗膜10fへの遊離SO2への浸透が抑制されるため、かかるワイン缶用塗料10が塗布されて塗膜10fが形成されたワイン缶用塗装金属板30の成形性および耐腐食性が高くなる。
【0017】
ここで、上記海島樹脂構造は、目視、通常の光学顕微鏡などを用いては観察することはできないが、電子顕微鏡などを用いて観察することができる。また、上記海島構造は、通常の光学顕微鏡、電子顕微鏡などを用いて観察することができる。
【0018】
本実施形態のワイン缶用塗料10に含まれるポリオレフィンもしくはその誘導体13は、その重合度が200以上800以下である。重合度が200より小さいとワイン缶用塗料10が塗布されたワイン缶用塗装金属板30の成形性および耐腐食性を高くすることが困難となり、重合度が800より大きいと熱可塑性樹脂とポリオレフィンもしくはその誘導体との相溶性が低く良好なワイン缶用塗料が得られない。かかる観点から、ポリオレフィンもしくはその誘導体13は、重合度が300以上600以下であることが好ましい。
【0019】
ここで、ポリオレフィンは、特に制限はないが、ワイン缶用塗料10が塗布されたワイン缶用塗装金属板30の成形性が高い観点から、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが好ましい。
【0020】
また、上記のポリオレフィンの誘導体は、特に制限はないが、ワイン缶用塗料10の反応性が高く、また、得られる塗膜10fのバリヤ性が高いためワイン缶用塗装金属板30の耐腐食性が高い観点から、そのポリオレフィンの炭素原子に結合する−Cl基、−OH基、−COOH基およびエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種類の官能基を含むことが好ましい。ポリオレフィンの誘導体は、そのポリオレフィンの炭素原子に結合する−Cl基、−OH基、−COOH基およびエポキシ基から1種類以上および1個以上の官能基を含むことができる。たとえば、ポリオレフィンの炭素原子に結合する−Cl基を含むポリオレフィン誘導体として、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。また、ポリオレフィンの炭素原子に結合する−OH基を含むポリオレフィン誘導体として、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。また、ポリオレフィンの炭素原子に結合する−COOH基を含むポリオレフィン誘導体として、酢酸ビニル重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。また、ポリオレフィンの炭素原子に結合するエポキシ基(すなわち、ポリオレフィンの炭素原子に架橋する酸素原子を有するエポキシ基)を含むポリオレフィン誘導体として、エポキシ変性塩化ビニル−酢酸ビニル重合体などが挙げられる。ここで、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体は、ポリオレフィンの炭素原子に結合する−Cl基および−COOH基を含むポリオレフィン誘導体であり、エポキシ変性塩化ビニル−酢酸ビニル重合体は、ポリオレフィンの炭素原子に結合するエポキシ基、−Cl基および−COOH基を含むポリオレフィン誘導体である。なお、ポリオレフィンの炭素原子とは、ポリオレフィンに含まれる炭素原子であれば特に制限はないが、柔軟な塗膜が得られやすい観点から、ポリオレフィンの主鎖に含まれる炭素原子であることが好ましい。
【0021】
また、上記のポリオレフィンもしくはその誘導体13は、特に制限はないが、その質量平均分子量が25000以上250000以下であることが好ましい。質量平均分子量が25000より小さいとワイン缶用塗料10が塗布されたワイン缶用塗装金属板30の成形性および耐腐食性を高くすることが困難となり、質量平均分子量が250000より大きいと熱可塑性樹脂とポリオレフィンもしくはその誘導体との相溶性が低く良好なワイン缶用塗料が得られない。かかる観点から、ポリオレフィンもしくはその誘導体13は、質量平均分子量が50000以上200000以下であることがより好ましい。
【0022】
また、本実施形態のワイン缶用塗料10に含まれる炭酸カルシウム11は、特に制限はないが、熱硬化性樹脂100質量部に対して15質量部以上100質量部以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂100質量部に対して、炭酸カルシウムが15質量部より小さいと上記ワイン缶用塗装金属板30の耐腐食性が高くならず、炭酸カルシウムが100質量部より大きいとワイン缶用塗装金属板30の成形性が低下するため耐腐食性も高くならない。かかる観点から、炭酸カルシウムは、熱可塑性樹脂100質量部に対して、25質量部以上70質量部以下であることがより好ましい。
【0023】
また、本実施形態のワイン缶用塗料10に含まれるポリオレフィンもしくはその誘導体13は、熱硬化性樹脂100質量部に対して5質量部以上50質量部以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂100質量部に対して、ポリオレフィンもしくはその誘導体が5質量部数より小さいとワイン缶用塗装金属板30の成形性および耐腐食性が高くならず、ポリオレフィンもしくはその誘導体が50質量部より大きいとワイン缶用塗装金属板30の塗膜10fの機械的強度が低下するためワイン缶用塗装金属板30の成形性および耐腐食性が高くならない。かかる観点から、ポリオレフィンもしくはその誘導体は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、10質量部以上30質量部以下が好ましい。
【0024】
また、本実施形態のワイン缶用塗料10に含まれる熱硬化性樹脂は、塗料を硬化させて塗膜を形成することができるものであれば特に制限はなく、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アミノ樹脂およびこれらの樹脂の混合樹脂、化合樹脂などが挙げられるがワイン缶の内面の塗装にも用いる観点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、これらの樹脂の混合樹脂または化合樹脂が好ましい。
【0025】
本実施形態のワイン缶用塗料は、金属板の少なくとも一方の主面に塗布して塗装金属板を作製した後塗装金属板を加工してワイン缶を作製した場合および金属板を成形して缶体を作製した後缶体の内面および外面の少なくとも内面に塗布してワイン缶を作製した場合のいずれの場合であっても、ワイン缶の耐腐食性を高くすることができる。
【0026】
なお、本実施形態のワイン缶用塗料には、ワインを詰めるワイン缶用の塗料に限定されず、ワイン以外であっても保存性を高めるため亜硫酸が添加されている飲料または食品を詰める缶用の塗料も含まれる。本実施形態のワイン缶用塗料は、亜硫酸が添加されている飲料または食品であれば、ワイン以外の飲料または食品であっても、それらの飲料または食品を詰める缶において、上記作用効果を発揮することができるからである。
【0027】
(実施形態2)
本発明にかかる他の実施形態であるワイン缶用塗装金属板30は、金属板20の少なくとも一方の主面に、実施形態1のワイン缶用塗料10が塗布されてなる塗膜10fを備える。
【0028】
本実施形態のワイン缶用塗装金属板30は、少なくとも一方の主面に実施形態1のワイン缶用塗料(すなわち、炭酸カルシウムと、重合度が200以上800以下のポリオレフィンもしくはその誘導体と、熱硬化性樹脂とを含むワイン缶用塗料)が塗布されてなる塗膜10fを備えるため、成形性および耐腐食性が高い。
【0029】
ここで、ワイン缶用塗装金属板30に用いられる金属板20は、ワイン缶として用いられるものであれば特に制限はないが、飲料缶として汎用されている金属鋼板という観点から、アルミニウム板、スチール板などが好ましく用いられる。
【0030】
また、ワイン缶用塗装金属板30の金属板20上に実施形態1のワイン缶用塗料10が塗布されることにより形成された塗膜10fの厚さは、特に制限はないが、ワイン缶用塗装金属板30の成形性および耐腐食性を高める観点から、2μm以上15μm以下が好ましく、3μm以上12μm以下がより好ましい。
【0031】
なお、本実施形態のワイン缶用塗装金属板には、ワインを詰めるワイン缶用の塗装金属板に限定されず、ワイン以外であっても保存性を高めるため亜硫酸が添加されている飲料または食品を詰める缶用の塗装金属板も含まれる。本実施形態のワイン缶用塗装金属板は、亜硫酸が添加されている飲料または食品であれば、ワイン以外の飲料または食品であっても、それらの飲料または食品を詰める缶において、上記作用効果を発揮することができるからである。
【0032】
(実施形態3)
本発明にかかるさらに他の実施形態であるワイン缶は、缶体の内面および外面の少なくとも内面に、実施形態1のワイン缶用塗料が塗布されてなる塗膜を備える。缶体は、特に制限はないが、金属板で形成されていることが、成型性および耐久性の観点から好ましい。金属板は、飲料缶として汎用されている金属鋼板という観点から、アルミニウム板、スチール板などが好ましく用いられる。
【0033】
本実施形態のワイン缶は、缶体の内面および外面の少なくとも内面に、実施形態1のワイン缶用塗料(すなわち、炭酸カルシウムと、重合度が200以上800以下のポリオレフィンもしくはその誘導体と、熱硬化性樹脂とを含むワイン缶用塗料)が塗布されてなる塗膜10fを備えるため、成形性および耐腐食性が高い。
【0034】
本実施形態のワイン缶を作製する方法には、特に制限はなく、金属板の少なくとも一方の主面に実施形態1のワイン缶用塗料が塗布されてなる塗膜を備える実施形態2のワイン缶用塗装金属板を缶状に加工してもよい。また、金属板を予め缶状に加工した後、缶体の内面および外面の少なくとも内面に、実施形態1のワイン缶用塗料を塗布して塗膜を形成させてもよい。ここで、ワイン缶に形成される塗膜の厚さは、特に制限はないが、ワイン缶の耐腐食性を高める観点から、2μm以上15μm以下が好ましく、3μm以上12μm以下がより好ましい。
【0035】
なお、本実施形態のワイン缶には、ワインを詰めるワイン缶に限定されず、ワイン以外であっても保存性を高めるため亜硫酸が添加されている飲料または食品を詰める缶も含まれる。本実施形態のワイン缶は、亜硫酸が添加されている飲料または食品であれば、ワイン以外の飲料または食品に対しても、上記作用効果を発揮することができるからである。
【実施例】
【0036】
上記実施形態のワイン缶用塗料およびワイン缶用塗装金属板について、以下の実施例I〜IXにより、さらに具体的に説明する。
【0037】
(実施例I)
実施例Iは、ポリオレフィンもしくはその誘導体を含まないワイン缶用塗料についての比較例I−R1と、ポリオレフィン(ポリプロピレン)を含むワイン缶用塗料についての実施例I−1〜I−5および比較例I−R2〜I−R3を含む。ここで、実施例I−1〜I−5および比較例I−R2〜I−R3は、ワイン缶用塗料に含まれるポリオレフィン(ポリプロピレン)の重合度を変えたものである。
【0038】
1.ワイン缶用塗料の作製
攪拌容器内に、表1に示す配合の塗料組成物を投入後プレミックスして、グレンミルによる分散条件が約40℃で塗料流量が4リットル/分、回転数が3000rpm、パス時間を約1分として混合することにより、均一なワイン缶用塗料を得た。かかるワイン缶用塗料に含まれる炭酸カルシウムの粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製SALD−2000)を用いて測定したところ、0.05μmであった。
【0039】
2.ワイン缶用塗装金属板の作製
厚さ0.3mmのアルミニウム板の一方の主面に、ワイヤーバーを用いて、上記ワイン缶用塗料を、14g/m2の目付け量で塗布した。次いで、ワイン缶用塗料が塗布された金属板を、大気雰囲気中200℃で10分間加熱することにより、金属板上の塗料を硬化させることにより膜を形成させてワイン缶用塗装金属板を得た。得られた塗膜の厚さは、マイクロケージを用いて測定したところ、4μmであった。
【0040】
3.ワイン缶の作製
上記ワイン缶用塗装金属板の塗膜が形成された主面が缶の内面となるように、ワイン缶用塗装金属板に絞りしごき加工を行って、厚さ0.12mmのアルミニウム製ワイン缶を作製した。ここで、絞りしごき加工における加工率は60%であった。ここで、加工率は、加工前の塗装金属板の厚さT1、加工後の塗装金属板の最小厚さT2を用いて、以下の式(1)
加工率(%)=100×(T1−T2)/T1 (1)
で表される。
【0041】
実施例Iにおいては、上記絞りしごき加工によりワイン缶の缶体を作製した。しかし、3ピース缶、2ピース缶およびボトル型缶のいずれかを作製するために、上記以外の加工方法を用いることができる。
【0042】
4.ワイン缶の塗装金属板の物性評価
上記ワイン缶について、塗装金属板の成形性(製缶の成形性を含む)は以下のようにして評価した。成形後のワイン缶の缶内に1質量%の食塩および0.1質量のラピゾールを含む水溶液1質量%を入れて、缶本体を陽極とし、上記水溶液中に浸漬した銅電極を陰極として、陽極と陰極との間に6Vの電圧を印加して、電圧印加から3秒後の電流値(単位:mA)を測定した。塗装金属板の成形性が悪いほど、塗膜に欠陥ができるため、電流値が大きくなる。上記加工により成形された20個のワイン缶について上記条件における電流値を測定して、それらの平均値が0.1mA未満のものを優、それらの平均値が0.1mA以上1mA未満かつそれらの最大値が3mA未満のものを良、それらの平均値が1mA以上またはそれらの最大値が3mA以上のものを不良、と評価した。
【0043】
また、上記ワイン缶について、塗装金属板の耐腐食性は以下のようにして評価した。成形後のワイン缶の缶内に亜硫酸添加ワイン(亜硫酸濃度:100ppm)を250ml充填して、55℃の貯蔵庫内に1ヶ月貯蔵した後、缶内面の腐食状態を目視で確認した。缶内面に腐食が見られないものを優、缶内面に見られる腐食が微少で表面のみであるものを良、缶内面に見られる腐食が著しいものを不良、と評価した。
【0044】
また、上記ワイン缶用塗料における熱硬化性樹脂とポリオレフィンもしくはその誘導体との相溶性は以下のようにして評価した。塗料中で全く分離せず塗料が透明であるものを優、塗料中に極僅かな曇りが生じるが攪拌すると塗料が透明になるものを良、塗料が白濁し攪拌しても塗料が透明にならないものを不良、と評価した。結果を表1にまとめた。
【0045】
【表1】

【0046】
表1を参照して、炭酸カルシウムと、重合度が200以上800以下のポリオレフィン(ポリプロピレン)と、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂およびフェノール樹脂)とを含むワイン缶用塗料は、ポリオレフィンと熱硬化性樹脂との相溶性が高くなった。また、かかるワイン缶用塗料を金属板の一方の主面に塗布することにより形成された塗膜を備えるワイン缶用塗装金属板は、成形性および耐腐食性が高くなった。また、かかる観点から、ワイン缶用塗料および塗膜に含まれるポリオレフィン(ポリプロピレン)の重合度は、300以上600以下がより好ましかった。
【0047】
(実施例II)
実施例IIは、ポリオレフィンもしくはその誘導体を含まないワイン缶用塗料についての比較例II−R1と、ポリオレフィンの誘導体(ポリ塩化ビニル)を含むワイン缶用塗料についての実施例II−1〜II−5および比較例II−R2〜II−R3を含む。ここで、実施例II−1〜II−5および比較例II−R2〜II−R3は、ワイン缶用塗料に含まれるポリオレフィン誘導体(ポリ塩化ビニル)の重合度を変えたものである。表2に示す配合の塗料組成物を用いたこと以外は、実施例Iの場合と同様にして、ワイン缶用塗料、ワイン缶用塗装金属板およびワイン缶を作製し、ワイン缶の塗装金属板の物性評価を行った。結果を表2にまとめた。
【0048】
【表2】

【0049】
表2を参照して、炭酸カルシウムと、重合度が200以上800以下のポリオレフィン誘導体(ポリ塩化ビニル)と、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂およびフェノール樹脂)とを含むワイン缶用塗料は、ポリオレフィン誘導体と熱硬化性樹脂との相溶性が高くなった。また、かかるワイン缶用塗料を、金属板の一方の主面に塗布することにより形成された塗膜を備えるワイン缶用塗装金属板は、成形性および耐腐食性が高くなった。また、かかる観点から、ワイン缶用塗料および塗膜に含まれるポリオレフィン誘導体(ポリ塩化ビニル)の重合度は、300以上600以下がより好ましかった。
【0050】
(実施例III)
実施例IIIは、各種ポリオレフィン誘導体を含むワイン缶用塗料についての実施例III−1〜III−5を含む。表3に示す配合の塗料組成物を用いたこと以外は、実施例Iの場合と同様にして、ワイン缶用塗料、ワイン缶用塗装金属板およびワイン缶を作製し、ワイン缶の塗装金属板の物性評価を行った。結果を表3にまとめた。
【0051】
【表3】

【0052】
表3を参照して、炭酸カルシウムと、各種ポリオレフィン誘導体(ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エポキシ変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体または塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体)と、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂およびフェノール樹脂)とを含むワイン缶用塗料を、金属板の一方の主面に塗布することにより形成された塗膜を備えるワイン缶用塗装金属板は、成形性および耐腐食性が高くなった。
【0053】
(実施例IV)
実施例IVは、ワイン缶用塗料において炭酸カルシウムの質量部数を変えたときの実施例IV−1〜IV−5を含む。表4に示す配合の塗料組成物を用いたこと以外は、実施例Iの場合と同様にして、ワイン缶用塗料、ワイン缶用塗装金属板およびワイン缶を作製し、ワイン缶の塗装金属板の物性評価を行った。結果を表4にまとめた。
【0054】
【表4】

【0055】
表4を参照して、熱硬化性樹脂100質量部に対して、15質量部以上100質量部以下(好ましくは、25質量部以上70質量部以下)の炭酸カルシウムおよび20質量部のポリオレフィン(ポリプロピレン)を含むワイン缶用塗料を用いることによって、成形性および耐腐食性が高いワイン缶用塗装金属板が得られた。
【0056】
(実施例V)
実施例Vは、ワイン缶用塗料においてポリオレフィン(ポリプロピレン)の質量部数を変えたときの実施例V−1〜V−5を含む。
【0057】
表5に示す配合の塗料組成物を用いたこと以外は、実施例Iの場合と同様にして、ワイン缶用塗料、ワイン缶用塗装金属板およびワイン缶を作製し、ワイン缶の塗装金属板の物性評価を行った。結果を表5にまとめた。
【0058】
【表5】

【0059】
表5を参照して、熱硬化性樹脂100質量部に対して、30質量部の炭酸カルシウムおよび5質量部以上50質量部以下(好ましくは10質量部以上30質量部以下)のポリオレフィン(ポリプロピレン)を含むワイン缶用塗料を用いることによって、成形性および耐腐食性が高いワイン缶用塗装金属板が得られた。
【0060】
(実施例VI)
実施例VIは、ワイン缶用塗料において炭酸カルシウムおよびポリオレフィン(ポリプロピレン)の質量部数を変えたときの実施例VI−1〜VI−5を含む。表6に示す配合の塗料組成物を用いたこと以外は、実施例Iの場合と同様にして、ワイン缶用塗料、ワイン缶用塗装金属板およびワイン缶を作製し、ワイン缶の塗装金属板の物性評価を行った。結果を表6にまとめた。
【0061】
【表6】

【0062】
表6を参照して、熱硬化性樹脂100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下(好ましくは20質量部以上70質量部以下)の炭酸カルシウムおよび5質量部以上50質量部以下(好ましくは10質量部以上30質量部以下)のポリオレフィン(ポリプロピレン)を含むワイン缶用塗料を用いることによって、成形性および耐腐食性が高いワイン缶用塗装金属板が得られた。
【0063】
(実施例VII)
実施例VIIは、ワイン缶用塗料において炭酸カルシウムの質量部数を変えたときの実施例VII−1〜VII−5を含む。表7に示す配合の塗料組成物を用いたこと以外は、実施例Iの場合と同様にして、ワイン缶用塗料、ワイン缶用塗装金属板およびワイン缶を作製し、ワイン缶の塗装金属板の物性評価を行った。結果を表7にまとめた。
【0064】
【表7】

【0065】
表7を参照して、熱硬化性樹脂100質量部に対して、15質量部以上100質量部以下(好ましくは25質量部以上70質量部以下)の炭酸カルシウムおよび20質量部のポリオレフィン誘導体(ポリ塩化ビニル)を含むワイン缶用塗料を用いることによって、成形性および耐腐食性が高いワイン缶用塗装金属板が得られた。
【0066】
(実施例VIII)
実施例VIIIは、ワイン缶用塗料においてポリオレフィン誘導体(ポリ塩化ビニル)の質量部数を変えたときの実施例VIII−1〜VIII−5を含む。表8に示す配合の塗料組成物を用いたこと以外は、実施例Iの場合と同様にして、ワイン缶用塗料、ワイン缶用塗装金属板およびワイン缶を作製し、ワイン缶の塗装金属板の物性評価を行った。結果を表8にまとめた。
【0067】
【表8】

【0068】
表8を参照して、熱硬化性樹脂100質量部に対して、30質量部の炭酸カルシウムおよび5質量部以上50質量部以下(好ましくは10質量部以上30質量部以下)のポリオレフィン誘導体(ポリ塩化ビニル)を含むワイン缶用塗料を用いることによって、成形性および耐腐食性が高いワイン缶用塗装金属板が得られた。
【0069】
(実施例IX)
実施例IXは、ワイン缶用塗料において炭酸カルシウムおよびポリオレフィン誘導体(ポリ塩化ビニル)の質量部数を変えたときの実施例IX−1〜IX−5を含む。表9に示す配合の塗料組成物を用いたこと以外は、実施例Iの場合と同様にして、ワイン缶用塗料、ワイン缶用塗装金属板およびワイン缶を作製し、ワイン缶の塗装金属板の物性評価を行った。結果を表9にまとめた。
【0070】
【表9】

【0071】
表9を参照して、熱硬化性樹脂100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下(好ましくは20質量部70質量部以下)の炭酸カルシウムおよび5質量部以下50質量部以上(好ましくは10質量部以上30質量部以下)のポリオレフィン誘導体(ポリ塩化ビニル)を含むワイン缶用塗料を用いることによって、成形性および耐腐食性が高いワイン缶用塗装金属板が得られた。
【0072】
なお、上記の実施例I〜IXにおいては、一方の主面に塗料が塗布されてなる塗膜を備える塗装金属板から成形して得られたワイン缶の塗装金属板についてそれらの耐腐食性を評価した。塗装前の金属板から成形して得られたワイン缶の内面に塗料がスプレーにより塗布してなる塗膜を備える塗装金属板についても、上記実施例I〜IXに記載された塗料を用いて、それらの耐腐食性を評価したところ、上記実施例I〜IXと同様の傾向が見られた。
【0073】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
10 ワイン缶用塗料、10f 塗膜、11 炭酸カルシウム、13 ポリオレフィンもしくはその誘導体、15 熱硬化性樹脂、20 金属板、30 ワイン缶用塗装金属板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムと、重合度が200以上800以下のポリオレフィンもしくはその誘導体と、熱硬化性樹脂とを含むワイン缶用塗料。
【請求項2】
前記ポリオレフィンの誘導体は、前記ポレオレフィンの炭素原子に結合する−Cl基、−OH基、−COOH基およびエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種類の官能基を含む請求項1に記載のワイン缶用塗料。
【請求項3】
前記ポリオレフィンもしくはその誘導体は質量平均分子量が25000以上250000以下である請求項1または請求項2に記載のワイン缶用塗料。
【請求項4】
前記炭酸カルシウムは、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して15質量部以上100質量部以下であり、
前記ポリオレフィンもしくはその誘導体は、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して5質量部以上50質量部以下である請求項1から請求項3までのいずれかに記載のワイン缶用塗料。
【請求項5】
金属板の少なくとも一方の主面に、請求項1から請求項4のいずれかのワイン缶用塗料が塗布されてなる塗膜を備えるワイン缶用塗装金属板。
【請求項6】
缶体の内面および外面の少なくとも内面に、請求項1から請求項4のいずれかのワイン缶用塗料が塗布されてなる塗膜を備えるワイン缶。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−16570(P2011−16570A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163912(P2009−163912)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(591176225)桜宮化学株式会社 (22)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【Fターム(参考)】