説明

ワークの焼入れ方法及び装置

【課題】ワークへのパーライトやベイナイトの生成を防止するとともに、ワークに生じる歪を抑制するワークの焼入れ方法及び装置を提供する。
【解決手段】ワーク焼入れ方法は、ワークを浸炭処理する浸炭処理工程(a)と、浸炭処理されたワークを冷却する高温緩冷却工程(b)と、緩冷されたワークを恒温変態曲線とマルテンサイト変態開始温度との間の温度に急速冷却する急速冷却工程(c)と、急冷されたワークの温度を恒温変態曲線とマルテンサイト変態開始温度との間の温度に保持するMs点直上恒温保持工程(d)と、恒温保持されたワークを再び急冷する急速冷却工程(c)とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの焼入れ方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼材からなるワークの焼入れ方法としてマルクエンチ処理が知られている。マルクエンチ処理とは、オーステナイトを形成する温度領域に加熱されたワークを、マルテンサイトの形成を開始するマルテンサイト変態開始温度(以下、Ms点という)より高い温度まで冷却し、ワークの表面と各部位の温度が均一になるようにワークをMs点より高い温度に保持した後、マルテンサイトの形成を終了するマルテンサイト変態終了温度以下の温度まで冷却してワークにマルテンサイトを生成する処理である。
【0003】
上記のマルクエンチ処理において、オーステナイトを形成する温度領域にワークを加熱する工程では、ワークの表面層を硬くするためにワークに炭素を拡散させる浸炭処理が行われる。そして、浸炭処理されたワークを所定の焼入温度に保持した後、ワークを油に浸漬してMs点の直上温度まで冷却し、その後油から取り出してワークの保有熱で均熱化し、再び油に浸漬して冷却する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−309314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の方法では、ワークを油に浸漬することにより冷却しているが、冷却中のワークに結晶構造の異なるパーライトやベイナイトが生成されるため、ワークの品質にばらつきが生じる場合がある。また、冷却中のワークの各部位で生じる温度差により歪が生じる場合もある。
【0006】
本発明は、上記のように高温加熱されたワークを、ワークにパーライトやベイナイトが生成されないように冷却することにより、ワークに歪を生じさせない焼入れ方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の方法は、鋼材からなるワークを浸炭処理する浸炭工程と、該浸炭工程で処理されたワークを恒温室内で冷却する第1冷却工程と、該第1冷却工程で冷却されたワークを水槽内の水で恒温変態曲線とMs点との間の温度に冷却する第2冷却工程と、該第2冷却工程で冷却されたワークの温度を前記恒温室内で前記ワークの恒温変態曲線とMs点との間の温度に保持する恒温保持工程と、該恒温保持工程で前記温度に保持されたワークを、前記水槽内の水で冷却する第3冷却工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の方法によれば、浸炭工程で浸炭処理されたワークは、第1冷却工程で冷却された後、第2冷却工程で恒温変態曲線とMs点との間の温度まで冷却される。ここでは、ワークが水で急速に冷却されることにより、パーライトやベイナイトの生成が防止され、ワークの品質のばらつきを抑制することができる。また、第2冷却工程での急速な冷却により、ワークの各部位の温度差を小さくすることができ、恒温変態曲線とMs点との間の温度に冷却する際のワークの各部位の温度差に起因するワークの歪を抑制することができる。
【0009】
さらに、水槽内の水で急速に冷却されたワークは、恒温保持工程で恒温に保持された後、第3冷却工程で再び水で冷却される。これにより、各部位の温度が恒温変態曲線とMs点との間の温度に均等化されて冷却されるので、ワークの各部位の温度差に起因して生じるワークの歪を抑制することができる。
【0010】
本発明の装置は、鋼材からなるワークを浸炭処理する浸炭炉と、浸炭処理されたワークを所定温度に保持する恒温室と、Ms点より低い温度の水を貯留する水槽と、前記恒温室内のワークを前記水槽に送る第1ワーク運搬手段と、前記水槽内の水で冷却したワークを前記恒温室内に送る第2ワーク運搬手段とを備え、前記第1ワーク運搬手段は、前記恒温変態曲線よりも高い温度のワークを前記水槽に送る高温ワーク運搬手段と、恒温変態曲線とMs点との間の温度のワークを前記水槽に送る低温ワーク運搬手段とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の装置によれば、浸炭工程で浸炭処理されたワークは、恒温室で冷却された後、高温ワーク運搬手段で水槽に移されて、この水槽内の水で恒温変態曲線とMs点との間の温度まで冷却される。ここでは、ワークが急速に冷却されて、パーライトやベイナイトの生成が防止され、ワークの品質のばらつきを抑制することができる。また、水槽内の水での急速な冷却により、ワークの各部位の温度差を小さくすることができ、恒温変態曲線とMs点との間の温度に冷却する際のワークの各部位の温度差に起因するワークの歪を抑制することができる。
【0012】
さらに、ワークは水槽内の水で急速に冷却された後に、第2ワーク運搬手段で恒温室に移されて、恒温室で恒温変態曲線とMs点との間の温度で恒温に保持された後、低温ワーク運搬手段で水槽に移されて、水槽内の水で冷却される。これにより、ワークの部位の温度が恒温変態曲線とMs点との間の温度になり、冷却する際のワークの各部位の温度差に起因するワークの歪を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態のワークの焼入れ装置にワークを入れた状態を示す平面図。
【図2】実施形態のワークの焼入れ方法の工程を示す工程図。
【図3】実施形態のワークの焼入れ方法の工程を示すフローチャート。
【図4】実施形態のワークの焼入れ方法を実行するときのワークの温度と時間との関係を示すグラフ。
【図5】ワークの一例であるプーリシャフトの断面図。
【図6】実施形態の焼入れ方法でプーリシャフトを焼入れするときのプーリシャフトの温度と時間との関係を示すグラフ。
【図7】恒温保持処理を行わない焼入れ方法でプーリシャフトを焼入れするときのプーリシャフトの温度と時間との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、図を参照して説明する。
【0015】
図1に示されるワーク焼入れ装置1は、鋼材からなるワーク2を浸炭処理する浸炭炉10と、浸炭処理されたワーク2を所定温度に保持する恒温室20と、恒温室20の下側に設けられた水槽30とを備える。
【0016】
浸炭炉10は、ガス導入管3を介して不活性ガスのガス供給源4に接続されると共に、浸炭炉10に導入されたガスを浸炭炉10の外部に排気するガス排気管5と接続されている。
【0017】
浸炭炉10には、浸炭炉10の内部温度を測定する温度センサ11と、ガス供給源4により浸炭炉10に導入されたガスを加熱する加熱用バーナー12とが設けられている。温度センサ11としては、例えば熱電対が用いられる。
【0018】
恒温室20は、ガス導入管6を介して不活性ガスのガス供給源7に接続されると共に、ガス排気管8と接続されている。ガス供給源7には図外の温度調節機が設けられ、温度調節機は、温度センサ21で測定された恒温室20の内部温度に応じて、不活性ガスの温度を調節することができる。なお、恒温室20に接続されているガス供給源7は、浸炭炉10に接続されているガス供給源4と同一であってもよい。
【0019】
恒温室20には、恒温室20の内部温度を測定する温度センサ21が設けられている。温度センサ21としては、例えば熱電対が用いられる。また、恒温室20にはエレベータ22が形成されている。エレベータ22は、底板22aが恒温室20と水槽30との間を昇降するように形成されており、底板22aにワーク2を搭載することができる。エレベータ22において、底板22aの下降により恒温室20内のワーク2を水槽30内に送る構成が第1ワーク運搬手段に該当し、底板22aの上昇により水槽30内のワーク2を恒温室20内に送る構成が第2ワーク運搬手段に該当する。
【0020】
浸炭炉10及び恒温室20には、それぞれ開閉自在な中間扉13、23が設けられ、これらの中間扉13、23を介して浸炭炉10と恒温室20が接続されている。
【0021】
水槽30にはワーク2を冷却するための水31が充填される。また、水槽30には、充填された水31の温度を調節する水温調節器32が設けられている。この水31の温度は、Ms点より低くなるように水温調節機32により調節される。ワーク2は、恒温室20内でエレベータ22の底板22aに搭載され、底板22aの下降により水31に浸される。
【0022】
次に、図2から図4を参照して、本発明のワークの焼入れ方法の実施形態を説明する。
【0023】
本実施形態のワークの焼入れ方法は、図2に示すように、初めにワーク2を浸炭処理する浸炭処理工程(a)と、浸炭処理されたワーク2を恒温室20内で冷却する第1冷却工程としての高温緩冷却工程(b)と、ここで冷却されたワーク2を水槽30内の水31で冷却する第2冷却工程としての急速冷却工程(c)と、急速冷却されたワーク2の温度を恒温室20内でワーク2の恒温変態曲線とマルテンサイト変態開始温度との間の温度に保持する恒温保持工程としてのMs点直上恒温保持工程(d)と、恒温に保持されたワーク2を、再び水槽30内の水31で冷却する第3冷却工程としての急速冷却工程(c)からなる。
【0024】
上記の各工程からなるワーク焼入れ方法は、以下の手順で実施される。図3に示すように、初めに、鋼材からなるワーク2を浸炭処理する浸炭工程が実行される(ステップS1)。この浸炭工程では、浸炭炉10内でバーナー12によってワーク2がオーステナイト化温度(以下、「Ae1点」という)以上の温度に加熱される。Ae1点とは、鋼材においてオーストナイトの存在下限を定義する平衡温度であり、他にフェライト(体心立方格子)の存在上限を定義する平衡温度を「Ae3点」という。この浸炭工程が、図2(a)に該当する。
【0025】
次に、上記の浸炭工程で浸炭処理されたワーク2を、例えばコンベアより具体的にはローラ機構やリフター機構等によって、恒温室20に送り、このワーク2をAe1点以上の温度まで冷却する高温緩冷却工程が実行される(ステップS2)。高温緩冷却工程は、恒温室20に不活性ガスが導入された状態で実行される。不活性ガスは図外の温度調節機により加熱されており、不活性ガスと浸炭処理されたワーク2との温度差は小さい。そのため、ステップS2ではワーク2の冷却は緩やかに行われる。この高温緩冷却工程が図2(b)に該当し、ステップS1からステップS2への移行が図2に示す(1)に該当する。
【0026】
次に、ワーク2を恒温室20から水槽30に送り、水槽30内の水で急速冷却して、ワーク2を恒温変態曲線(以下、TTT曲線という)とMs点との間の温度に冷却する急速冷却工程が実行される(ステップS3)。水槽30に貯留されている水の温度は、水温調節器32によって、Ms点より低い温度に調節される。ステップS3では、ワーク2を搭載したエレベータ22の底板22aが下降することにより、ワーク2が恒温室20から水槽30に送られる。このとき、ワークを送るエレベータ22の底板22aが、本発明装置の高温ワーク運搬手段に該当する。この急速冷却工程が図2(c)に該当し、ステップS2からステップS3への移行が図2に示す(2)に該当する。
【0027】
次に、ワーク2を水槽30から恒温室20に送り、恒温室20内のワーク2をTTT曲線とMs点との間の温度に恒温保持する恒温保持工程が実行される(ステップS4)。ワーク2の恒温保持は、ガス供給源4から恒温室20に不活性ガスが供給された状態で行われる。この不活性ガスの温度は、ガス供給源4に備えられた図外の温度調節機により、TTT曲線とMs点との間の温度に設定されている。この恒温保持工程が図2(d)のMs点直上恒温保持工程に該当し、ステップS3からステップS4への移行が図2に示す(3)に該当する。
【0028】
次に、恒温室20内でTTT曲線とMs点との間の温度に保持されたワーク2を水槽30に送り、水槽30内の水で急速冷却する急速冷却工程が実行される(ステップS5)。このステップS5では、ワーク2を搭載した底板22aが下降することにより、ワーク2が恒温室20から水槽30に送られる。このとき、ワーク2を送るエレベータ22の底板22aが本発明装置の低温ワーク運搬手段に該当する。第3冷却工程の終了により、ワークの焼入れ方法が完了する。この急速冷却工程が図2(c)に該当し、ステップS4からステップS5への移行が図2に示す(4)に該当する。また、ワークの焼入れ方法は、ワーク2を恒温室20から取り出すことで完了する。この取り出しが図2に示す(5)に該当する。
【0029】
図4は、本実施形態のワーク焼入れ方法を実行したときの、ワーク2の温度と時間との関係を示している。実線L1は本実施形態によるワーク2の温度を示し、破線L2は従来の油によるマルクエンチ冷却の場合のワーク2の温度を示している。また、一点鎖線L3はマルクエンチ処理を行わずにワーク2を油で冷却した場合のワーク2の温度を示している。
【0030】
本実施形態での焼入れとワークの温度との関係について説明する。始めの時刻t0で、浸炭処理を行ったワーク2が恒温室20に送られて、ワーク2の冷却が開始される。時刻t0からt11では、ワーク2は恒温室20に導入された不活性ガスにより冷却されるため、温度曲線L1で示すように、ワーク2の冷却は緩やかに行われる。時刻t11では、ワーク2の温度はAe1点以上となる。時刻t0からt11で行われる恒温室20での冷却が、図3に示すステップS2に該当する。
【0031】
時刻t11で、Ae1点以上の温度でワーク2を冷却する第1冷却工程が終了し、ワーク2は恒温室20から水槽30に送られる。ワーク2は水槽30内の水に浸漬されて急速に冷却される。ワーク2の冷却は、TTT曲線と重ならないように行われる。
【0032】
ワーク2の温度はMs点よりも少し高い温度となった時刻t12で、ワーク2は水槽30から恒温室20に送られる。恒温室20には不活性ガスが導入されている。不活性ガスの温度は、ガス供給源4に備えられた図外の温度調節機により、TTT曲線とMs点との間の温度に調節されている。時刻t11からt12で行われる水での冷却が図3に示すステップS3に該当する。
【0033】
時刻t13で、ワーク2は恒温室20から水槽30に送られる。水槽30に送られたワーク2は、水槽30内の水31に浸漬されて、急速冷却される。時刻t12からt13で行われる恒温室20での冷却が図3に示すステップS4に該当し、時刻t13以降が図3に示すステップS5に該当する。
【0034】
ところでワーク2の冷却開始から一定時間経過した時刻t3で、図4のTTT曲線で囲まれたTTT曲線領域に入る。すなわち、時刻t3でワーク2の温度がTTT曲線領域にかかると、ワーク2にパーライトやベイナイトが生じる。しかしながら、本実施形態では、温度曲線L1で示すように、ワーク2の温度はTTT曲線領域にかからないので、ワーク2の変態は生じない。
【0035】
次に、従来の油による冷却の場合について説明する。
【0036】
この場合、曲線L2で示されるように時刻t0から恒温室20内で冷却されたワーク2は時刻t21で恒温室20から図外の油槽に移され、時刻t24まで、油槽内の油で冷却される。
【0037】
こうしてワーク2を油で冷却する場合、Ae1点からTTT曲線とMs点との間の温度まで冷却するために要する時間は、水冷の場合と比較して長くなる。そのため、時刻t22とt23との間で、温度曲線L2がTTT曲線領域にかかる。すなわち、図示の時刻t22と時刻t23との間で、ワーク2の変態が生じて、パーライトやベイナイトが形成される。
【0038】
図5は、本実施形態で焼入れされるワークの一例として、CVTのプーリを構成するプーリシャフト40を示しており、以下、これの焼入れ方法について説明する。
【0039】
まず、図5に示されるプーリシャフト40の外周部には、固定プーリ部41が形成されている。固定プーリ部41には、図外の可動プーリに対向するコーン面42と、このコーン面42の反対側に設けられた裏面43とが形成されている。また、プーリシャフト40の外周部に軸部44が形成されている。軸部44は、固定プーリ41に接合されて、接合部45を形成している。
【0040】
図6は、図5に示されたプーリシャフト40を、Ae1点以上の温度から、マルテンサイト変態開始温度Ms点以上の温度まで水で冷却した後、恒温保持をし、さらにマルテンサイト変態開始温度Ms点以下の温度まで水で冷却したときのプーリシャフト40の各部位の温度と冷却時間との関係を示す。図6には、プーリシャフト40の軸部44、コーン面42、裏面43、接合部45の各部の温度の変化が示されている。
【0041】
なお、前述でマルクエンチ処理は、ワークをMs点より高い温度に保持した後、マルテンサイト変態終了温度以下の温度まで冷却すると述べた。しかしながら、図6に示されるプーリシャフト40の冷却の場合は、第3冷却工程において、プーリシャフト40がマルテンサイト変態開始温度Ms点以下の温度まで急冷されるものの、マルテンサイト変態終了温度以下の温度までは冷却しない。プーリシャフト40の各部は、マルテンサイト変態終了温度以下の温度に冷却するか否かを問わず、同様の温度変化を示すからである。
【0042】
時刻t30からt31の時間では、プーリシャフト40の温度はAe1点以上である。時刻t31で、プーリシャフト40の水による冷却が開始され、プーリシャフト40は急速冷却される。このとき、油より比熱が大きく冷却能力が高い水を利用したマルクエンチ冷却をすることにより、時刻t31からt32に向かっての単位時間当たりの各部位同士の温度差が少なくなる。
【0043】
急速冷却されたプーリシャフト40の各部位の温度はMs点よりも少し高い温度となった時刻t32で、水31による冷却を一旦終了して、プーリシャフト40を恒温に保持する。急速冷却の際には、プーリシャフト40の各部位間で温度差が生じるが、油で冷却するとMs点よりも少し高い温度に向かって緩慢な温度変化になるので単位時間当たりの各部位同士の温度差が開く傾向である。その後、恒温に保持されることにより、プーリシャフト40の各部位の温度差がなくなり、プーリシャフト40は均一の温度となる。
【0044】
プーリシャフト40が均一の温度に形成されている時刻t33で、再度水31によるプーリシャフト40の冷却が開始されて、プーリシャフト40が冷却される。プーリシャフト40の各部位が均一の温度に形成された状態で冷却が開始されているため、プーリシャフト40の各部位の温度差は小さくなる。
【0045】
図7は、図5に示されたプーリシャフト40を、Ae1点以上の温度から、マルテンサイト変態終了温度以下の温度まで、マルクエンチ処理を行うことなく、水で冷却したときのプーリシャフト40の各部位の温度と冷却時間との関係を示す。
【0046】
時刻t40からt41の時間では、プーリシャフト40の温度はAe1点以上である。時刻t41で、プーリシャフト40の水による冷却が開始されて、プーリシャフト40は急速冷却される。
【0047】
プーリシャフト40の冷却がある程度進行してMs点付近の温度になった時刻t42では、プーリシャフト40の各部位間で温度差が生じる。その際、裏面43がより低温に冷却され、以下、コーン面42、軸部44、接合部45の順序で冷却の効果が小さくなり、温度が上昇する。また、時刻t43以降では、プーリシャフト40の冷却が完了した状態となり、プーリシャフト40の各部位の温度差は解消される。
【0048】
以上のように、水でマルクエンチ処理を実行した場合は、油より比熱が大きい水のようなものでマルクエンチ処理を実行しない場合に比べて、Ms点の近傍におけるプーリシャフト40の各部位の温度差が小さくなる。そのため、冷却する際のワーク2の各部位の温度差に起因するワーク2の歪を抑制することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…焼入れ装置、2…ワーク、4…ガス供給源、10…浸炭炉、20…恒温室、22…エレベータ(第1ワーク運搬手段、第2ワーク運搬手段、低温ワーク運搬手段、高温ワーク運搬手段)、30…水槽、31…水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材からなるワークを浸炭処理する浸炭工程と、
該浸炭工程で処理されたワークを恒温室内で冷却する第1冷却工程と、
該第1冷却工程で冷却されたワークを水槽内の水で恒温変態曲線とマルテンサイト変態開始温度との間の温度に冷却する第2冷却工程と、
該第2冷却工程で冷却されたワークの温度を前記恒温室内で前記ワークの恒温変態曲線とマルテンサイト変態開始温度との間の温度に保持する恒温保持工程と、
該恒温保持工程で前記温度に保持されたワークを、前記水槽内の水で冷却する第3冷却工程とを備えることを特徴とするワークの焼入れ方法。
【請求項2】
鋼材からなるワークを浸炭処理する浸炭炉と、
浸炭処理されたワークを所定温度に保持する恒温室と
マルテンサイト変態開始温度より低い温度の水を貯留する水槽と、
前記恒温室内のワークを前記水槽に送る第1ワーク運搬手段と、
前記水槽内の水で冷却したワークを前記恒温室内に送る第2ワーク運搬手段とを備え、
前記第1ワーク運搬手段は、恒温変態曲線よりも高い温度のワークを前記水槽に送る高温ワーク運搬手段と、前記恒温変態曲線とマルテンサイト変態開始温度との間の温度のワークを前記水槽に送る低温ワーク運搬手段とを有することを特徴とするワークの焼入れ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−157578(P2011−157578A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19026(P2010−19026)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】