説明

ワーク処理系の処理時間を評価する方法

【課題】個々のワークによって処理工程が異なり、機構上の干渉が想定されるワーク処理系において、実際の運転の前に、短時間で正確な評価を可能とする方法を提供する。
【解決手段】コンベア系により複数のワークを順次搬送して複数の処理工程に送るワーク処理系の同期的動作に基づいて決められたタクト時間を単位としたタクトごとにワークを投入するものとし、個々のワークについて、そのワークが送られる処理工程が何タクト目にあたるかを、最初の処理工程から最後の処理工程までコンピュータ上でシミュレーションする。当該ワーク処理系にあとから投入しようとするワークが位置する処理工程が、先に投入されたワークに起因する干渉により実行不可能と判断されるとき、あとから投入しようとするワークの投入のタイミングを1タクト分遅らせる。このシミュレーションにおいて得られたタクトの最大値にタクト時間を掛けることによりトータルの処理時間を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベア系により複数の対象ワークを順次搬送して複数の処理工程に送る対象ワーク処理系の処理時間をシミュレーションによって評価する方法に係る。本発明は、とくに自動分析装置の処理時間を評価するのに好適に利用できる。
【背景技術】
【0002】
組み立て製造ラインはもとより解体処理ライン、検体搬送分析ライン、自動分析装置などの分野において、ベルトコンベアやターンテーブル等のコンベア系によりタンデム状に複数の物品すなわちワークを順次搬送して種々の製造工程、解体工程または分析処理工程に送り、製品や分析結果を出すコンベア系の自動処理方式が広く採用されている。このコンベア系に供給すべきワークをどれくらいの頻度でどの程度準備すべきか、はじめに準備したワークの全体を処理するのに必要な運転時間はどれだけか、何時に終わるのか、といった系全体の処理速度にかかわる情報を知る必要がたびたび生じる。このコンベア系の処理方式においては、同じ搬送ライン上に同時に複数のワークが前後に並ぶ。いちばん簡単なのは、各処理工程が独立に運転でき、搬送速度に影響を及ぼさず、各ワークに対する処理工程の組み合わせがすべて同じ場合である。この場合は、各工程の処理がすべて可能な搬送速度が全体の処理速度となり、全体の運転時間も運転終了時刻も簡単に予測・算出できる。
【0003】
もっぱら同一製品の大量生産、大量処理をおこなうのならば、上記のような各ワークに対する処理工程が一定のコンベア系の処理方式で対応できる。しかしながら、多品種少量を製造ラインで製造する場合や、検体ごとに異なる検査を可能とするランダムアクセス型の自動分析装置にあっては、たんに1本の搬送路に乗せたままで、はじめに供給したワークから順に出力するという前提は成り立たない。多品種少量の製造ラインやランダムアクセス型の自動分析装置においては、個々のワークによって処理する工程が異なり、搬送路が分岐したり、ループ状の搬送路を回る回数がワークによって異なったり、異なる処理工程がひとつの処理ユニットを共有する場合がある。その結果、処理順序が逆転し、先に供給したワークよりもあとに供給したワークが先に出力されてくることもある。
【0004】
コンベア系の処理方式の処理速度を予測・算出するうえで、とくに注意しなければならないのは、つぎのような場合である。たとえば分岐した搬送路が再び合流する場合、タイミングによってはワークとワークとが衝突することがあり得る。また、異なる処理工程がひとつの処理ユニットを共有する場合、同時にそれらの処理工程を動作させることはできない。このような機構上の干渉は、それらが起こらないように制御して動作させるわけであるが、実際に機械を稼動させる前にそれらを予測し、処理系全体の処理速度や処理時間を算出することは容易なことではない。たとえば、検体により検査項目すなわち分析処理条件が異なるものをランダムに自動分析装置に供給しようとする場合、ひとつの分注装置を検体希釈と試薬分注とで共有しているならば、検体希釈の必要なこの検査項目はこのタイミングでは検査を開始することができない、といった状況が生まれる。
【0005】
複数の種類からなるワーク群を複数の工程を有する生産ラインに流すときの全所要時間算出システムの例が特許文献1に開示されている。この特許文献は、つぎのような仮定および計算原理に基づく。第1のワークはそれぞれの工程の作業時間がそれぞれ既知のタクト時間に等しい。引き続く第2のワークは第1のワークとともにペアで連続して生産ラインを流され、かつ同時に同じ工程に存在することはできない。したがって、第2のワークの工程ごとの作業時間は、先行する第1のワークの先行する工程の作業時間より短くは成りえない。つまり、第2のワークの各工程の作業時間は、各工程のタクト時間に、先行する第1のワークが先行する工程から搬出するまで待たされる時間を加味して計算する。引き続き、第3のワークの各工程の作業時間は第2のワークとともにペアで連続して生産ラインを流されるものとして、第2のワークの先行する工程の作業時間に基づいて計算される。第3のワーク以降も同様に計算される。こうして、全所要時間は(各ワークの工程1における作業時間の和)+(最後のワークの生産所要時間)によって求められる。特許文献1では、最初に流すワーク以後のワークの各工程の作業時間を評価するにあたっては、先行して流したワークのみの移動状態に制限を受けると仮定して評価計算を簡略化することが特徴となっているが、ワークによって工程の数や順序が変わったりする場合には、現実の所要時間と計算結果との間に乖離が生じる恐れがある。
【0006】
【特許文献1】特開平6−110896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、コンベア系により複数の対象ワークを順次搬送して複数の処理工程に送るワーク処理系の処理時間を評価するにあたり、とくに個々のワークによって処理する工程が異なり、たとえば搬送路が分岐したり、ループ状の搬送路を回る回数がワークによって異なったり、異なる処理工程がひとつの処理ユニットを共有する場合のような機構上の干渉が想定される系において、実際の運転の前に、短時間で正確な評価を可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ワーク処理系の同期的動作の時間経過に対してワークが前記コンベア系のどの位置すなわちどの処理工程に移動するかを、ワーク処理系に投入する順のワークごとにシミュレーションすることを想到し、鋭意検討を重ねて本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、複数のワークを、コンベア系によってワークごとに複数の処理工程に搬送し、所定の処理ユニットで処理するワーク処理系における、ワーク処理時間を予測する方法であって、当該ワーク処理系の同期的動作に基づいて決められたタクト時間を単位としたタクトごとに当該ワーク処理系にワークを投入するものとし、全てのワークについて、そのワークが送られる処理工程が何タクト目にあたるかを、最初の処理工程から最後の処理工程までコンピュータ上でシミュレーションすることと、前記シミュレーションにおいて、当該ワーク処理系に2番目以降に投入しようとするワークが位置する処理工程が、先に投入されたワークに起因する干渉により実行不可能と判断されるとき、2番目以降に投入しようとするワークの投入のタイミングを1タクト分遅らせることと、前記シミュレーションにおいて得られたタクトの最大値にタクト時間を掛けることと、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明におけるワーク処理系とは、組み立て、製造、分解、解体、分析、測定等の対象となる物品すなわちワークをそこに投入すると、そのワークに何らかの処理を施して、製品、分析結果等の出力を与えるものをいう。ワーク処理系は通常複数の処理工程からなっている。組み立て製造ラインはもとより解体処理ライン、検体搬送分析ラインおよび自動分析装置がワーク処理系の代表的な例である。コンベア系とは、一般に物品を自動的に移送、搬送する装置ないし構成物をいう。とくに、一定速度で連続的あるいは間歇的に複数の物品をタンデム状に順次搬送するベルトコンベアやターンテーブル等が有用である。
【0011】
本発明においては、ワーク処理系の同期的動作に基づいて決められた所定のタクト時間を単位としたタクトという概念を使用する。タクトは所定動作のサイクルととらえてもよい。タクトという概念を使用することにより、時間の経過を処理系の動作に結びついたデジタルな時間的尺度に置き換えて取り扱うことができ、シミュレーションするにあたり便利である。たとえばコンベア系にターンテーブルを使用し、ターンテーブルをタクトごとに1ピッチずつ、間歇的に回転させることでワークを搬送する場合、複数の処理ユニットをターンテーブルに沿って配置してタクトごとに所定動作を行なえば、複数の処理ユニットの動作が同期し、タクトごとに処理工程を取り扱うことができる。また、タクトの単位となるタクト時間には特に制限はなく、たとえば処理ユニットの動作の一区切りにかかる時間に設定したり、コンベア系によりワークが一定距離搬送されるのにかかる時間に設定したりすることで、複数の処理ユニット同士やコンベア系と処理ユニットの同期をさせやすくすることができる。
【0012】
本発明において、全てのワークの処理内容が同一であっても、一部または全てのワークの処理内容が異なっていてもよい。本発明ではある処理内容を受けるワークと、それとは異なる処理内容を受けるワークが混在する場合や、ワーク処理系に投入される個々のワークごとの処理内容が全て異なっている場合などにおいても、正確にワーク処理時間を予測することができる。処理内容は処理ユニットによる処理の種類だけでなく処理工程の順序や組み合わせでも構成される。シミュレーションはワークごとにおこない、そのワークが送られる処理工程がワーク処理系全体の何タクト目にあたるかを表わす言わばワークの移動軌跡を重ねて記録する。たとえば、第1のワークをワーク処理系に投入してから出力されるまでを、そのワークが送られる処理工程ごとに、その処理工程が第1のワークが投入されてから何タクト目、すなわちワーク処理系の何タクト目にあたるかをコンピュータ上でシミュレーションする。第1のワークに対するシミュレーション結果を踏まえて、つぎに第2のワークのシミュレーションを行なう。さらに、第3のワークのシミュレーションをおこなうときは、先行する第1および第2のシミュレーション結果を踏まえておこなう。以下同様に最後のワークまでシミュレーションする。このとき、個々のワークが送られる処理工程の組み合わせないし処理内容はワークごとに異なってよい。したがって、あとから投入しようとするワークの仮想的移動位置における処理工程が、先に投入されたワークに起因する干渉により実行不可能となる場合がありうる。その場合は、あとから投入しようとするワークのタクトを1進めて、すなわち投入のタイミングを1タクト分遅らせたところからシミュレーションしなおす。この操作を上記の干渉が起こらなくなるまで繰り返す。シミュレーションにおけるこのような機構上の干渉は、たとえば当該ワーク処理系に2番目以降に投入しようとするワークが位置する処理工程が、同じタクトにおいて先に投入されたワークと同じ処理工程にあること(位置の干渉)、および/または同じタクトにおいて先に投入されたワークと共有する処理ユニットを使用すること(共有の干渉)に起因する。
【0013】
本発明では、第一のワークから最後のワークまでのシミュレーションが終了した後、タクトの最大値にタクト時間を掛けることで、ワーク処理系の処理時間を予測することができる。タクトの最大値とは最後のタクトの値であり、タクト時間は全てのタクトにおいて一定であるため、タクトの最大値とタクト時間の積が予測される処理時間として算出される。
【0014】
本発明は、ワーク処理系が自動分析装置であり、対象ワークが分析1テスト分に対応する反応容器であり、処理工程に必要な処理ユニットが検体、試薬または希釈液を分注する分注装置であり、タクトごとに間歇的に移動するコンベア系を使用する場合の処理時間を予測するのに好適な方法である。また本発明は、たとえば免疫化学分析のように、検体の分注、インキュベーション、B/F分離、基質の分注、検出の順に処理される1ステップ反応のワークと、検体の分注、インキュベーション、B/F分離、試薬の分注、インキュベーション、B/F分離、基質の分注、検出の順に処理される2ステップ反応のワークが混在している場合にも、先に投入されたワークに起因する干渉が起こらないようにワーク処理系の処理時間を正確に予測でき、免疫化学分析に好適な方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、個々のワークによって処理する工程が異なり機構上の干渉が想定されるワーク処理系の処理時間の正確な予測を、実際のワーク処理系の動作前に短時間で達成できる。したがって、たとえば自動分析装置で一連の検査を予定していた検体や検査項目に追加やキャンセル等の変更があるときにも、一連の検査を開始する直前までならば、検査の終了予定時刻を正確に計算して表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1のフローチャートに示す実施例を用いて本発明の要点を説明する。
まず、初期化処理としてワークを区別する変数Wに0を代入しておく(S1)。つぎに、先に投入されたワークに起因する干渉により、あとから投入しようとするワークの投入のタイミングを1タクト分遅らせる操作をカウントする変数をd(待ちの回数)として、これに0を代入しておく(S2)。
【0017】
まず、S3によりワーク1についてシミュレーションを開始する。S4により最初の工程1からはじめる。S5はワークの移動軌跡を記録するシミュレーションの核心部分である。ワーク処理系に投入される個々のワークごとに処理内容は異なってよい。このことを関数Fw(p)で表した。実際はワーク処理系に関して限られた数の処理プロトコルがワークに応じて用意されている。関数Fw(p)はワークWについて、処理工程pにおけるタクトの値を示す。関数Fw(p)は最初の工程1のときタクトが1となるようにFw(1)=1で規格化されており、機構上の干渉がないと仮定したときのタクトの値を示したものである。シミュレーションにより仮想タクトを言わば{処理工程,タクト}座標上にプロットするための式: タクトT=Fw(p)+W−1+d は、ワークを投入する時期が、規格化された関数Fw(p)よりワークの投入順だけずれることと、干渉による遅れ(待ち)の影響dとを含んでおり、W=1でd=0のとき、T=F1(p)となる。
【0018】
ワーク1においては干渉を考慮する必要はないが、ワーク2以降は仮想タクトをプロットするとき、先に投入されたワークに起因する干渉、すなわち同じタクトにおいて先に投入されたワークと同じ処理工程にある位置の干渉(S6)、または同じタクトにおいて先に投入されたワークと共有する処理ユニットを使用する他の処理工程が使われているか、つまり共有の干渉(S7)があるかどうかをチェックする。これらどちらかが検出されたときはS8において待ちの変数dのカウントを加算し、ただちに初めの工程(S4)に戻る。こうして変数dが加算されたのち、再びS5に移り、S6、S7の干渉チェックをおこなう。そのシミュレーションが最後の処理工程でなければ(S9)、つぎの工程に進み(S10)、S5の操作を実行する。
【0019】
S9において、最後の工程に至っていればS11に移り、現在のワークが最後に投入したワークであるかどうかをチェックする。最後のワークでなければS3に戻り、つぎのワークのシミュレーションを実行する。S11において現在のワークが最後のワークならば、シミュレーションによってそれまでに到達したタクトの最大値にタクト時間を掛けてトータルの処理時間を算出できる(S12)。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の方法を説明するためのフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のワークを、コンベア系によってワークごとに複数の処理工程に搬送し、所定の処理ユニットで処理するワーク処理系における、ワーク処理時間を予測する方法であって、
・当該ワーク処理系の同期的動作に基づいて決められたタクト時間を単位としたタクトごとに当該ワーク処理系にワークを投入するものとし、全てのワークについて、そのワークが送られる処理工程が何タクト目にあたるかを、最初の処理工程から最後の処理工程までコンピュータ上でシミュレーションすることと、
・前記シミュレーションにおいて、当該ワーク処理系に2番目以降に投入しようとするワークが位置する処理工程が、先に投入されたワークに起因する干渉により実行不可能と判断されるとき、2番目以降に投入しようとするワークの投入のタイミングを1タクト分遅らせることと、
・前記シミュレーションにおいて得られたタクトの最大値にタクト時間を掛けることと、
を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項2】
先に投入されたワークに起因する干渉は、当該ワーク処理系に2番目以降に投入しようとするワークが位置する処理工程が、同じタクトにおいて先に投入されたワークと同じ処理工程にあること、および/または同じタクトにおいて先に投入されたワークと共有する処理ユニットを使用することに起因する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ワーク処理系が自動分析装置であり、前記ワークが分析1テスト分に対応する反応容器であり、前記処理工程に必要な処理ユニットが検体、試薬または希釈液を分注する分注装置であり、前記コンベア系がタクトごとに間歇的にワークを搬送するものである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ワーク処理系が自動分析装置であり、前記ワークが分析1テスト分に対応する反応容器であり、前記処理工程に必要な処理ユニットが検体、試薬または基質を分注する分注装置、B/F分離装置および検出装置であり、前記コンベア系がタクトごとに間歇的にワークを搬送するものであり、前記複数のワークが、検体の分注、インキュベーション、B/F分離、基質の分注、検出の順に行なうものと、検体の分注、インキュベーション、B/F分離、試薬の分注、インキュベーション、B/F分離、基質の分注、検出の順に行なうものとを含む、請求項1または2に記載の方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−308391(P2006−308391A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130165(P2005−130165)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】