説明

一面せん断試験のせん断過程において自由にせん断箱が回転できるシステム

【目的】 本発明は、一面せん断試験すなわち特に地すべりのすべり面等、弱面のせん断強度計測のせん断工程において自由にせん断箱が回転できるせん断試験機に関し、不覚撹乱採取したすべり面を試験時せん断面と一致させられることと、試験後せん断面には、実際のすべり面の光沢や擦痕跡が良好に維持されることを目的とする。
【解決手段】一面せん断試験のせん断工程において、最小せん断応力でせん断変位が進行するようにせん断箱を自由に水平回転できるように構成したことを特徴とするせん断試験機に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一面せん断試験、特に地すべりのすべり面等、弱面のせん断強度計測のせん断過程において、自由にせん断箱が水平に回転できるせん断試験機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、地すべりのすべり面は、弱面となる粘性土層中に連続する光沢面としてしばしば観察される。
また、すべり面には周囲の粗粒径成分や基岩面隆起部が光沢面を引っ掻くことで形成された擦痕の方向は地すべりの移動方向に示すものとなる。
すべり面が、俗に鏡肌と呼ばれる光沢面を形成する段階になると、すべり面のせん断強度はピーク強度を越えて漸次低下し、究極的な定常せん断状態、つまり残留強度が発揮される段階になる。
そして、上記の残留強度の計測は、リングせん断試験等によってデータ収集が行われていた。けれども、この試験では練り返し調整試料が用いられ、すべり面が直接試験に使われることはなかった。
【非特許文献1】すべり面せん断試験によるすべり面のせん断強度評価、地すべり、Vol.40,No.4、pp15-24(2003) 執筆者:眞弓孝之・柴崎達也・山崎孝成(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
地すべりのすべり面のような弱層となる特定の不連続面のせん断強度を評価する場合に、一面せん断試験の試験機構は有効な試験方法であるものの,現行の地盤工学会基準などで定められている一面せん断試験(試験機)で地すべりのすべり面強度を計測しようとする場合、次のような問題がある。
【0004】
すなわち、不撹乱試料中にみられる特定の不連続面を対象に一面せん断試験を行う場合、試験せん断面との位置合わせが非常に重要である。しかし、通常の一面せん断試験は、不撹乱試料及び撹乱試料のピーク強度を計測する際に利用されることが多く、供試体のせん断面の位置合わせが厳密に要求されること
は少ない。また、そのような要望があった場合に、試料中の特定の面を試験せん断面と一致させることが難しいという問題がある。なぜならば、せん断箱が金属で出来ているため、せん断箱に試料を装填してしまうと、外部からはせん断箱の中が見ることができず、試料がどのような状態で装填されているかが分からない。よって、狙っていた弱面(すべり面)とは違う所でせん断してしまう可能性が高い。また、狙っている場所がずれていると分かっても、それを簡便に修正する手段がなかったのが実状である。
【0005】
そこで、せん断箱のせん断位置を挟んで上下10mmずつを透明アクリル筒に変え、さらに精度良くすべり面をせん断位置に合わせるべく、せん断箱の中でも試料を任意に上下できるよう、せん断箱底面にスクリュージャッキを取り付けた「すべり面せん断試験機」を開発し、非特許文献1にあるように、東北から九州までの地すべりのすべり面強度計測について100件以上の試験実績を積んだ
【0006】
ところが、上記試験の実績を積むにつれ、すべり面にある擦痕等の起伏(うねり)による試験値への影響も大きいことが分かってきた。試料によっては擦痕等による面のうねりが大きく、せん断方向と擦痕方向を一致させないでせん断を行った場合に、本来すべり面の滑動方向に発揮されるせん断強度を過大評価してしまう。これは、ボーリングコアを用いるような、予めすべり面の擦痕(移動方向)を確認できない場合に、特に問題となる。しかし、現行のシステムでは、試料の上下位置を微調整することはできても、せん断方向を変えることができないのが実状であった。
【0007】
そして、これまでの「すべり面せん断試験機」の構造では、試料をせん断箱にセットした時点でせん断方向が決定してしまうため、せん断面の擦痕とせん断方向の不一致によるせん断力増加の影響を認知しても、試験中にせん断方向を変更することは不可能であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明はすべり面せん断試験機は、擦痕等の起伏を反映したせん断強度を計測するために提供する。すなわち、せん断試験機において、一面せん断試験のせん断過程において、最小せん断応力でせん断変位が進行するようにせん断箱を自由に水平回転できるように構成したものである。
【0009】
また、上部せん断箱及び下部せん断箱ともに、せん断中自由に回転できるようにするために、せん断箱を固定する部分だけを回転できるようにしてその可動性を確保するため、上部せん断箱せん断室の天井部分を円形に切り取り,ベアリングを介して自由に回転できるようにした。また、試料に直接ふれる荷重載荷板にも、ベアリングを介すことで、試料やせん断箱と一緒に回転できるようにした。また、下部せん断箱については、今までそれを固定していたせん断用スライドベースにもベアリングを取り付けることで、その可動性を確保した。
【発明の効果】
【0010】
一面せん断試験実施において、これまでは試験のせん断方向と、供試体の擦痕方向(実際の地すべりの移動方向)との合わせに不一致が生じた場合でもそのまません断されていた。しかし、本発明は上記の構成であるから、せん断箱がせん断試験中に自由回転できるため、最小の力でせん断されようとせん断箱が回転し、せん断方向を補正する。これにより,今まで過大に評価されていたせん断応力を、より精度良く計測、評価できるようになることが期待される。
【0011】
また、試料を入れ,組み立てたせん断箱をせん断試験機にセットするときは、上下にそれぞれ付いている水平回転用のベアリングが回らないように、ねじを締める事でロックする。試験荷重の圧密が終了した後、水平回転用のロックを外して、その後は、通常の一面せん断試験を実施する。試験中にもし、擦痕のうねりによる強度強化が見られるような場合、最もせん断抵抗が少ない方向へ自然にせん断箱が回転し、せん断方向を修正することができると期待される。
【実施例1】
【0012】
本発明の実施例を図面によって説明する。図1において、1は試験機本体、2はせん断箱,3は垂直荷重載荷用ジャッキ、4はせん断荷重載荷用ジャッキ、5は荷重載荷板、6は底板昇降ジャッキ、7は垂直荷重計測用ロードセル、8は垂直変位量計測用ダイヤルゲージ、9はせん断荷重計測用ロードセル、10はせん断変位量計測用ダイヤルゲージ、11は水平回転防止用ねじである。
【0013】
図2はせん断室付近を拡大した図である。せん断箱2は上部せん断箱21と下部せん断箱22から成っている。当該せん断箱の中に直径=60mm、高さ=20mm(せん断位置を挟んで上下10mmずつを標準とする)の試料が装填される。試料の下部は、上下位置が調整できるジャッキ式の底板(底板昇降ジャッキ6)で、上部は垂直荷重載荷板5によって固定する。せん断面(すべり面)位置を挟んで上下10mmは、透明アクリル筒なので、せん断位置の確認が容易である。
せん断位置を合わせるため、底板昇降ジャッキ6で上下位置を調整する。
なお、せん断箱と試験機本体との間、水平回転防止ねじ11を挿入しておき、圧密試験等を行う際にせん断箱2が回転しないようにする。
試験荷重の圧密が終わってから、全てのせん断試験計測用計器類を取り付け、水平回転防止ねじ11を外し、せん断試験を開始する。
【0014】
図3は図1の概略側面図であり、12はスライドレールであり、せん断箱2がこの上を水平方向に進退自在に走行するようになっている。13はスライドベース、14は底板ジャッキベース、15はポーラスストーン付き底板、16は底板昇降ジャッキ、17はせん断荷重受けヒンジ、18は上部透過部、19は下部透過部、20はポーラスストーン付積荷板、21は載荷板昇降ガイド、22は供試体であり、そのうち22−1は上部供試体、22−2は下部供試体(試験実施時には上部供試体22−1と下部供試体22−2とは分離していない)である。図4はせん断室を示す。
【0015】
「具体的なせん断試験実施例」
(1) 上下のせん断箱21・22を水平回転防止ねじ11で締めて固定する。
(2) 直径60mm、厚さ20mmに整形した供試体22(上部供試体22−1・下部
供試体22−2)を、せん断方向を合わせ、下部せん断箱にセットする。その
際、すべり面の位置とせん断位置が合うようにする。
(3) 上部せん断箱21を被せるようにセットする。
(4) 上下せん断箱21・22をせん断室24に固定させる。
(5) 垂直荷重載荷用ジャッキを用いて,試料の圧密を開始する。3t法で安定
と見なされたら、圧密終了とする。
(6) 上部せん断箱のギャップ調整ねじ23を締め、上下せん断箱21・22に隙
間を開ける。
(7) 上下せん断箱21・22の水平回転防止ねじを11を緩め、回転できるよう
にする。
(8) 定体積試験の場合は、垂直変位計測ダイヤルゲージ8を、定荷重試験の場
合は垂直荷重を一定にしたまま、せん断試験を行う。
(9) 所定のせん断変位を与えた後、せん断箱21・22をせん断室24から外し
て、せん断箱21・22から試料を取り出し、せん断面の観察を行う。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明により、地すべりのすべり面のような地質構造の弱面におけるせん断強度の測定を、より精度良く測定することができる。このことにより、得られた結果を用いて斜面の安定度を検討し、合理的な地すべりの対策工設計に資することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るすべり面せん断試験機の正面図である。
【図2】図1のすべり面せん断試験機のせん断箱の拡大図である。
【図3】図1のせん断室部位の拡大側面図である。
【符号の説明】
【0018】
1……せん断試験機本体
2……せん断箱
3……垂直荷重載荷用ジャッキ
4……せん断荷重載荷用ジャッキ
5……垂直荷重載荷板
6……底板昇降ジャッキ
7……垂直荷重計測用ロードセル
8……垂直変位量計測用ダイヤルゲージ
9……せん断荷重計測用ロードセル
10……せん断変位量計測用ダイヤルゲージ
11……水平回転防止用ねじ
12……スライドレール
13……スライドベース
14……底板ジャッキベース
15……ポーラスストーン付き底板
16……底板昇降ジャッキ
17……せん断荷重受けヒンジ
18……上部透過部
19……下部透過部
20……ポーラスストーン付載荷板
21……載荷板昇降ガイド
22……供試体
23……ギャップ調整ねじ
24……せん断室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面せん断試験のせん断過程において、最小せん断応力でせん断変位が進行するように,せん断試験中に自由に水平回転できるように構成したことを特徴とするせん断箱のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−125949(P2006−125949A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313171(P2004−313171)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000170646)国土防災技術株式会社 (23)
【Fターム(参考)】