説明

三フッ化窒素ガスの貯蔵方法

【課題】長期保管の際にも変質を起こさないNFガスの貯蔵方法を提供すること。
【解決手段】三フッ化窒素ガスを深絞りしごき(Deep Drawing Ironing)工法で製造されたクロム−モリブデン鋼製容器に貯蔵することによって三フッ化窒素ガスを充填・貯蔵する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三フッ化窒素(NF)ガスの貯蔵方法に関する。
さらに詳細には、本発明は、深絞りしごき(Deep Drawing Ironing)工法(以下、「DDI工法」という)で製造されたクロム−モリブデン鋼製容器を用いることによるNFガスの貯蔵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板金加工において、絞り型(Drawing Die)を用いて底付き円筒状の容器を作る加工方法をDDI工法という。
なお、DDI工法は、深絞り加工法ともいうことがある。炭素工具鋼又は合金工具鋼の上下1組(パンチとダイス)からなっている金型を絞り型という。この絞り型(ダイス)を機械プレスに固定させ、型の間に板材を挟んだ後パンチを押すと、板材が延伸されながら底面と壁面が一体になるコップ状の円筒型容器が成形される。容器の上部を密封し、注入口にバルブを設置すると、ガス貯蔵用高圧容器が完成される。
【0003】
NFガスは、半導体素子の製造の際にエッチング剤(etching agent)として用いられる高価な化学工業薬品である。NFは、フッ素ガスとアンモニアとを直接反応させ、あるいは酸性フッ化アンモニウム(NF・HF)とフッ素ガスとを反応させて製造することも、酸性フッ化アンモニウム溶融塩を電気分解して製造することもできる。一般に、NFガスは、高純度の液体状態に製造された後、20〜50Lの容器に高圧ガスの状態で充填してユーザーに供給されている。
NFは、半導体素子構造の製造工程のエッチング剤として用いられるものなので、99.99%以上の高純度のものが要求される。
現在、半導体製造工程では、N:max3ppm、O:max3ppm、CO:max1ppm、CF:max20ppm、HO:max1ppm、NO:max1ppm、HF:max1ppmの純度が保たれるNFガスが要求されている。
【0004】
NFガスは、反応性の高い気体の化学工業薬品であるので、保管又は流通過程で変質してはならないため、特殊な容器に充填して貯蔵することが一般的である。
従来のNFガスを充填して貯蔵する容器としては、マンガン鋼で製造された容器が用いられている。このような用途として用いられるマンガン鋼製容器は、0.5〜1.5%のマンガンを含有するマンガン鋼からなるパイプを熱処理成形加工によって円筒状の密閉容器に作り、この容器の内部を研磨し洗浄するなどの工程を経て製造されたものである。
NFを充填して貯蔵する容器として用いられるマンガン鋼製容器は、内面研磨によって内面粗さ(Ra)を10μm以下に維持させ、洗浄、加熱及び真空作業によって内部の不純物を徹底的に除去してから使われる。
【0005】
ところが、内部不純物が除去され、内面粗さ(Ra)が10μm以下に加工処理されたマンガン鋼製容器であっても、NFを充填して保管すると、時間の経過に伴ってNFガスが酸性を示してくるという問題がある。NFガスが酸性を示すということは、NFガスが変質することである。
しかしながら、このようなNFガスの変質原因は、未だその正確なメカニズムが解明されてはいないが、貯蔵容器内に存在する不純物、すなわち酸化鉄(Fe)と水分、酸素による影響であると推測されており、酸性を示す主原因は、NFガスの変質により生成した硝酸による影響であると分析によって明らかになっている。
【0006】
NFガスが、充填容器の内部で硝酸に変質することを示す反応式は、次のとおりである。

【0007】
現在、NFガス製造会社又はNFガス使用会社で適用しているNFガス規格には酸度が規定してあるが、これはHFのみを意味し、硝酸類を規定していないため、硝酸類は管理されていない。
このようにマンガン鋼製容器に充填・貯蔵されたNFガスから硝酸が検出されるということは、マンガン鋼製容器がNF充填容器として適しないことを意味する。
したがって、NFガス製造会社又は使用会社は、長期保管の際に変質を起こさないNF貯蔵方法の開発が必要な実情にある。
【0008】
【特許文献1】韓国公開特許公報第2003−037465号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、従来の方法で製造されたマンガン鋼製容器にNFガスを貯蔵する場合、容器の内部を研磨加工して粗さ(Ra)を10μm以下に低くしても、容器内面の組織が緻密ではなく、その結果、微量の遊離鉄(isolated iron)成分や水分などの不純物が存在することになり、このような不純物がNFガスと反応を起こしてNFガスが変質するが、これに対しDDI工法で製造されたクロム−モリブデン鋼製容器を使用すると、長期保管の際にもNFガスが変質を起こさないことを確認し、本発明を完成するに至った。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、長期保管の際にも変質を起こさないNFガスの貯蔵方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、DDI工法で製造されたクロム−モリブデン鋼製容器を用いるNFガスの貯蔵方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクロム−モリブデン鋼製容器を用いて充填して貯蔵されたNFガスは、2年以上長期保管経過後にも変質しないという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
半導体製造工程において使用されるガスの場合、半導体の集積度が高くなるにつれて、要求されるガスの純度も益々高くなっており、これによりガスの充填容器に対する管理もさらに厳しくなっている。一般に、高純度用ガス充填容器は、充填後、容器の内面に付いている水分及び不純物粒子によるガスの汚染を防止するために、内面研磨工程によって、内面の粗さ(Ra)を10μm以下の水準に維持させ、次いで容器内部の異物を除去するための洗浄、乾燥、真空などの工程を経る。ところが、NFガスの場合、前記のような厳しい工程によって製造された貯蔵容器であっても、充填後、段々酸性化してしまうという問題が発生している。
【0013】
本発明者らは、NFガスの場合、従来のマンガン鋼で製作した充填容器に充填する場合、硝酸化物系の不純物が形成されて製品の酸度(pH)が増加することを観察し、マンガン鋼ではなくクロム−モリブデン鋼を用いてDDI工法で製作した充填容器にNFガスを充填すると、酸度の増加なしに高純度の製品が維持されることを見出した。すなわち、既存のマンガン鋼で製作した充填容器は、如何に内面を精密に加工し、厳しく洗浄乾燥させても、NFガスを充填する場合、時間の経過に伴って酸性物質が生成され、ガスから酸性域のpHが検知されるという問題点があった。しかしながら、DDI工法で製造したクロム−モリブデン鋼製容器を用いて三フッ化窒素ガスを充填すると、いかなる汚染物の生成も全く観察されず、長期間保存の際にも製品の変質がないため、NFの貯蔵容器として適することを見出し、本発明に至った。
このような現象は、クロム−モリブデン鋼の場合、一般なマンガン鋼製容器とは異なり、パイプではなく、鋼板を用いてDDI工法によって製作されるが、材質及び工法の特性上、マンガン鋼製容器とは異なり、別途の内面処理工程を経なくても表面が均一になり、5μm以下の粗さ(Ra)を示し、内面処理工程を経る場合に1μm未満の表面粗さ(Ra)を得ることができるという利点がある。
【0014】
マンガン鋼パイプを材料として用いて製作されるマンガン鋼製容器は、徹底的な内面処理工程を経ても、極めて微細な隙間の中に付いている水分や粒子などの不純物を完璧に除去することが難しく、隙間の内部表面に露出している遊離(isolated)鉄成分などと三フッ化窒素との反応によりフッ化鉄が生成される上、生成されたフッ化鉄が触媒作用してNFの分解をさらに加速化させることによりNO又は酸性成分が増加する。
これに対し、本発明におけるように、クロム−モリブデン鋼板を主材料としてDDI工法で製造した容器の場合、鉄板の圧縮成形過程で鋼板内部の組織が極めて緻密になって鉄成分の焼結(Sintering)などの現象が現われ、内面処理工程を経なくても表面が均一かつ清浄な形状になる。このような特性は、マンガン鋼より表面の隙間など微細空間が減少して内面の不純物の除去が容易になる上、遊離鉄と微量不純物の量が減少することによりNFガスの分解が抑えられるためであると推定される。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0015】
溶融塩状態の酸性フッ化アンモニウムの中にアンモニアとフッ素をガス状態で供給して不純物含有NFガスを製造し、このガスから精製工程を経て低温の液状高純度NFを製造して貯蔵容器に気(液)体状態で受け取った。受け取ったNFガスをマンガン鋼製充填容器とDDI工法で製造されたクロム−モリブデン鋼製充填容器にそれぞれ20kgずつ充填し、充填容器を常温に放置した後、時間経過によるNFガスのpHの変化を測定した。
ここで、マンガン鋼製容器は、マンガン含量1.5wt%の容器を使用し、クロム−モリブデン鋼製容器は、クロム含量1.5wt%、モリブデン含量0.5wt%の容器を使用した。ガスクロマトグラフ(Valco社製、PDD検出器)を用いてNOを分析した。
HNO分析は、NaOHを用いる中和滴定により総酸度を測定し、その総酸度の値からHFの量を差し引いた値をHNOの量として換算することにより行った。HFの量は、Fイオン分析器を用いて分析し、HNOの存在は、硫酸及びFeSOを用いてCS及びKI液を加え、希硫酸酸性液中でCS層の色相が紫色に変化する陰イオン定性分析により確認した。
その結果を、表1及び表2に示した。
表1において、粗さは容器の内面粗さ(Ra)を意味する。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
マンガン鋼で製作した充填容器では、時間が経過すると酸成分が検知されるが、これに対し、クロム−モリブデン鋼で製作した充填容器では、2年以上の時間を置いて測定しても何の変化も認められなかった。
一方、マンガン鋼で製作した容器の場合、内部粗さを10μm以下にまで研磨した貯蔵容器では、NFガスの分解の程度は、内部粗さ25μm以上の容器に貯蔵されたガスよりさらに少なかったが、DDI工法で製作されたクロム−モリブデン鋼貯蔵容器よりは多かった。
また、表2のように貯蔵容器内のガス成分を分析した結果、マンガン鋼で作製した充填容器に充填されたNFガスの場合、硝酸とフッ酸の量が多少増加し、これによりpH低下することが確認された。
実際、容器内のNFガス中に含まれるNO量もマンガン鋼の貯蔵容器では時間とともに増加する傾向を示したが、クロム−モリブデンのDDI工法で製作された貯蔵容器に充填されたNFガスでは、時間をおいても殆ど変わらずNFガスは高純度を維持することを確認することができた。
本発明のNFガスを充填して貯蔵する容器としては、クロム含量1.5〜2.0wt%、モリブデン含量0.2〜0.5wt%のクロム−モリブデン鋼のDDI工法で製作された容器が適することが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三フッ化窒素ガスの貯蔵方法において、三フッ化窒素ガスを深絞りしごき(Deep Drawing Ironing)工法で製造されたクロム−モリブデン鋼製容器に貯蔵することを特徴とする三フッ化窒素ガスの貯蔵方法。
【請求項2】
前記クロム−モリブデン鋼が、クロム含量1.5〜2.0wt%、モリブデン含量0.2〜0.5wt%のクロム−モリブデン鋼であることを特徴とする請求項1に記載の三フッ化窒素ガスの貯蔵方法。

【公開番号】特開2006−349171(P2006−349171A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161674(P2006−161674)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(505139779)蔚山化學株式会社 (7)
【氏名又は名称原語表記】Ulsan Chemical Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】290 Maeam−dong, Nam−ku, Ulsan, Republic of Korea
【Fターム(参考)】