説明

上飾り縫いミシン

【課題】2本の第1,2上飾り糸を使用し、装飾性の高い斬新な上飾り縫目構造を簡単に形成することのできる上飾り縫いミシンを提供する。
【解決手段】針棒22により上下駆動し、左右横方向に並列する3乃至4本の縫針12と、この複数本の縫針12の側方に配設され、第1上飾り糸挿通孔35が設けられた第1上飾り糸案内部材16Aと、第2上飾り糸挿通孔44が設けられた第2上飾り糸案内部材16Bと、前記第1上飾り糸挿通孔35を通過した第1上飾り糸18と前記第2上飾り糸挿通孔44を通過した第2上飾り糸19をそれぞれ引掛ける第1糸係合部37および第2糸係合部38を有し、前記縫針12の上下動作に合わせて左右方向に往復揺動する上飾りスプレッダー17と、を備えており、第1上飾り糸案内部材16Aと第2上飾り糸案内部材16Bは上飾りスプレッダー17と共に往復揺動するように構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上飾り縫いミシンに係り、特に、上飾り糸を2本使用し、2本の上飾り糸が混在することなく、目立ち感が強くて装飾性を向上できる上飾り縫目構造を簡単に形成することのできる上飾り縫いミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上飾り縫目構造として、例えば、図32に示すように、1本の上飾り糸50を縫製生地(図示せず)を貫く左側の針糸51の縫目である第1縫針糸ステッチ52とその隣りの中間の針糸53の縫目である第2縫針糸ステッチ54とにループ状に絡み合わせてジグザグ状に縫い込まれたものがある(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
また、図33に示すように、2本の第1,2上飾り糸55,56を使用し、第1上飾り糸55は縫製生地(図示せず)を貫く左側の針糸51の縫目である第1縫針糸ステッチ52とその隣りの針糸53の縫目である第2縫針糸ステッチ54に平行な筋目状(平目状)に組み合わせるとともに、第2縫針糸ステッチ54と右側の針糸57の縫目である第3縫針糸ステッチ58にループ状に絡み合わせてジグザグ状に縫い込み、第2上飾り糸56は第2縫針糸ステッチ54と第3縫針糸ステッチ58にループ状に絡み合わせてジグザグ状に縫い込むという上飾り縫目59を形成するものもある(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60−2974号公報(第2図)
【特許文献2】特開2000−37579号公報(図9)
【特許文献3】実用新案登録第3155710号公報(図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図32に示す上記上飾り縫目構造では、上飾り糸50が1本であるため、飾り模様として単純なものしか得られず、装飾効果に乏しい。
これに対し、図33に示す上記上飾り縫目構造は、2本の第1,2上飾り糸55,56を使用しているため、縫製生地の表面に密度の異なる、多色かつレイヤー感がある装飾糸を形成することができる。また、複数の縫針糸51,53,57は種類の異なる色にすることが可能であり、第1上飾り糸55及び第2上飾り糸56も縫針糸51,53,57と異なる色にすることができるため、縫製生地上に形成する装飾糸は色のバリエーションが多いだけでなく、模様にレイヤー感がある反面、第2縫針糸ステッチ54と第3縫針糸ステッチ58間において、第1上飾り糸55の色と第2上飾り糸56の色が混在するため、第1上飾り糸55のもつ色と第2上飾り糸56のもつ色とが互いに相殺し合って混濁した目立たない色に見え、見映えを悪くする。また、第2縫針糸ステッチ54と第3縫針糸ステッチ58間において、第1上飾り糸55と第2上飾り糸56が重なり合うため、これに肌が接触するとき肌触りが悪くなるという問題も生じる。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、2本の第1,2上飾り糸を使用し、装飾性の高い斬新な上飾り縫目構造を簡単に形成することのできる上飾り縫いミシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上飾り縫いミシンは、請求項1に記載のように、その発明の内容を理解しやすくするために図1〜図31に付した符号を参照して説明すると、針棒22により上下駆動し、左右横方向に並列する3本の縫針12(第1縫針(左針)12a,第2縫針(中針)12b,第3縫針(右針)12c)または4本の縫針12(第1〜3縫針12a〜12cに、更に第3縫針12cの右側に並べる第4縫針12dを加えたもの)と、この複数本の縫針12の側方に配設され、第1上飾り糸挿通孔35が設けられた第1上飾り糸案内部材16Aと、この第1上飾り糸案内部材16Aの上側に配され、第2上飾り糸挿通孔44が設けられた第2上飾り糸案内部材16Bと、前記第1上飾り糸挿通孔35を通過した第1上飾り糸18と前記第2上飾り糸挿通孔44を通過した第2上飾り糸19をそれぞれ引掛ける第1糸係合部37および第2糸係合部38を有し、前記縫針12の上下動作に合わせて左右方向に往復揺動する上飾りスプレッダー17と、を備えており、第1上飾り糸案内部材16Aと第2上飾り糸案内部材16Bは上飾りスプレッダー17と共に往復揺動するように構成していることに特徴を有するものである。
【0008】
上記構成の上飾り縫いミシンによれば、3乃至4本針12が繰り返し上下動作を継続するとき、上飾りスプレッダー17の左右揺動で第1上飾り糸18及び第2上飾り糸19を引掛け及び解放する動作を組み合わせることにより、第1上飾り糸18が3乃至4本針タイプの上飾り縫いミシンにおいて第1縫針12aに通される針糸131の縫目である第1縫針糸ステッチ131Sとその隣りの第2縫針12bに通される針糸132の縫目である第2縫針糸ステッチ132Sとにループ状に絡み合わされてジグザグ状に縫い込まれ、第2上飾り糸19が3本針タイプの上飾り縫いミシンでは第2縫針糸ステッチ132Sと第3縫針12cに通される針糸133の縫目である第3縫針糸ステッチ133Sとにループ状に絡み合わされてジグザグ状に縫い込まれ、4本針タイプの上飾り縫いミシンでは第3縫針糸ステッチ133Sと第4縫針12dに通される針糸134の縫目である第4縫針糸ステッチ134Sとにループ状に絡み合わされてジグザグ状に縫い込まれるという上飾り縫目構造を形成することができる。したがって、第1上飾り糸18によるジグザグ模様と第2上飾り糸19によるジグザグ模様とを混在させることなく左右に明確に分離独立して出現でき、このため第1縫針糸ステッチ131Sと第2縫針糸ステッチ132S間の第1上飾り糸18の色と、第2縫針糸ステッチ132Sと第3縫針糸ステッチ133S間または第3縫針糸ステッチ133Sと第4縫針糸ステッチ134S間の第2上飾り糸19の色とがよく目立ち、すなわち明視性の高い色となり、目立ち感を強める。また、第1上飾り糸18と第2上飾り糸19の色や材質等の種類を変えることで従来みられない全く新規なデザインのバリエーションを広げ、多様な上飾り模様を現すことができる。また、3本針タイプの上飾り縫いミシンでは第2縫針糸の針糸132を中間の境目として、4本針タイプの上飾り縫いミシンでは第2縫針糸の針糸132と第3縫針糸の針糸133との中間を境目として左右異なる色の2枚の縫製生地や左右材質の異なる2枚の縫製生地を使用する時は、より装飾効果を高めることができる。
【0009】
また、第1縫針糸ステッチ131Sと第2縫針糸ステッチ132Sとの間では第1上飾り糸18のみの縫目が、また第2縫針糸ステッチ132Sと第3縫針糸ステッチ133Sとの間または第3縫針糸ステッチ133Sと第4縫針糸ステッチ134Sとの間では第2上飾り糸19のみの縫目がそれぞれ分離独立して存在するという上飾り縫目構造を形成することができるので、第1上飾り糸18の縫目と第2上飾り糸19の縫目とが重なり合うようなことがなくなり、このため、全体がフラットな縫目となり、肌接触時の肌触りが良くなる。さらに、第1上飾り糸18の張力と第2上飾り糸19の張力をそれぞれ独自に変更させることができるため、例えば、第1縫針糸ステッチ131Sと第2縫針糸ステッチ132S間ではゆったりとした緩み状態に、第2縫針糸ステッチ132Sと第3縫針糸ステッチ133S間または第3縫針糸ステッチ133Sと第4縫針糸ステッチ134S間では引き締まり状態に縫い調子を異ならせることもできる。
【0010】
更に又、第1上飾り糸18の各ループ部18Rは第1縫針糸ステッチ131Sの隣り合う針目131p,131p間および第2縫針糸ステッチ132Sの隣り合う針目132p,132p間に跨げて、また第2上飾り糸19の各ループ部19Rは第2縫針糸ステッチ132Sの隣り合う針目132p,132p間および第3縫針糸ステッチ133Sの隣り合う針目133p,133p間、または第3縫針糸ステッチ133Sの隣り合う針目133p,133p間および第4縫針糸ステッチ134Sの隣り合う針目134p,134p間に跨げて、送りピッチ飛びなく連続して順次跨げるという上飾り縫目構造を形成することができる。したがって、各ループ部18R、19Rの曲率を大きくして、ジグザグ状模様を透き間の少ない目の詰んだ帯状模様に近い様子に変現することができ、このため第1上飾り糸18および第2上飾り糸19がそれぞれもつ色を明確に表すことができ、色の面積効果を上げて装飾性を高めることができる。
【0011】
第1上飾り糸18と第2上飾り糸19は異なる色または異なる材質にすると、第1上飾り糸18と第2上飾り糸19の色調が異なって、しかも調和する二色を組み合わせた配色であるツートーンカラーの上飾り縫目を現出することができる。
【0012】
第1上飾り糸案内部材16Aと第2上飾り糸案内部材16Bは上飾りスプレッダー17と共に往復揺動するように構成しているので、第1上飾り糸18と第2上飾り糸19を第1上飾り糸挿通孔35と第2上飾り糸挿通孔44を介して上飾りスプレッダー17の第1糸引掛け部37および第2糸引掛け部38に円滑且つ安定確実に案内移動させることができ、第1,2上飾り糸18,19の糸切れや目飛びを防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上飾り縫いミシンによれば、第1上飾り糸による透き間の少ない目の詰んだジグザグ模様と第2上飾り糸による透き間の少ない目の詰んだジグザグ模様とを混在させることなく左右に目立ち感を強めるように分離独立して出現できるという斬新な上飾り縫目構造を簡単に得ることができて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例の3本針タイプの上飾り縫いミシンを示す全体斜視図である。
【図2】図1の上飾り縫いミシンにおける上飾りスプレッダーおよび上飾り糸案内部材の揺動機構の斜視図である。
【図3】図2の上飾りスプレッダーおよび上飾り糸案内部材の揺動機構の側面図である。
【図4】図2の上飾りスプレッダーおよび上飾り糸案内部材の揺動機構の平面図である。
【図5】図2の上飾りスプレッダーおよび上飾り糸案内部材の揺動機構の正面図である。
【図6】図2の上飾りスプレッダーおよび上飾り糸案内部材の平面図である。
【図7】図2の上飾りスプレッダーおよび上飾り糸案内部材の正面図である。
【図8】図2の上飾りスプレッダーおよび上飾り糸案内部材の左側面図である。
【図9】図2の上飾りスプレッダーおよび上飾り糸案内部材の右側面図である。
【図10】図2の上飾りスプレッダーおよび上飾り糸案内部材の正面左側方からみた斜視図である。
【図11】図2の上飾りスプレッダーおよび上飾り糸案内部材の正面右側方からみた斜視図である。
【図12】図2の上飾りスプレッダーおよび上飾り糸案内部材の平面作動図である。
【図13】図2の上飾りスプレッダーおよび上飾り糸案内部材の分解斜視図である。
【図14】図1の上飾り縫いミシンにおける糸通し経路の一例を示す斜視図である。
【図15】図14におけるA部の拡大斜視図である。
【図16】図1の上飾り縫いミシンで実現できる上飾り縫目構造を示し、(a)は平面図、(b)は斜視図である。
【図17】図16の上飾り縫目を形成する過程においてミシン主軸の回転角が0度(360度)で3本の縫針が最も低い位置である下死点の位置にまで下降した時点の状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図18】図16の上飾り縫目を形成する過程においてミシン主軸の回転角が60度で3本の縫針が下死点と上死点の中間の位置まで少し上昇した時点の状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図19】図16の上飾り縫目を形成する過程においてミシン主軸の回転角が120度で3本の縫針が下死点と上死点の中間の位置まで更に上昇した時点の状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図20】図16の上飾り縫目を形成する過程においてミシン主軸の回転角が180度で3本の縫針が最も高い位置である上死点の位置まで上昇した時点の状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図21】図16の上飾り縫目を形成する過程においてミシン主軸の回転角が240度で3本の縫針が上死点と下死点の中間の位置まで下降した時点の状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図22】図16の上飾り縫目を形成する過程においてミシン主軸の回転角が300度で3本の縫針が上死点と下死点の中間の位置まで下降した時点の状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図23】本発明の他の実施例の4本針タイプの上飾り縫いミシンにおける糸通し経路の一例を示す斜視図である。
【図24】図23におけるB部の拡大斜視図である。
【図25】本発明の他の実施例の4本針タイプの上飾り縫いミシンで実現できる上飾り縫目構造の平面図である。
【図26】図25の上飾り縫目を形成する過程においてミシン主軸の回転角が0度(360度)で4本の縫針が最も低い位置である下死点の位置にまで下降した時点の状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図27】図25の上飾り縫目を形成する過程においてミシン主軸の回転角が60度で4本の縫針が下死点と上死点の中間の位置まで少し上昇した時点の状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図28】図25の上飾り縫目を形成する過程においてミシン主軸の回転角が120度で4本の縫針が下死点と上死点の中間の位置まで更に上昇した時点の状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図29】図25の上飾り縫目を形成する過程においてミシン主軸の回転角が180度で4本の縫針が最も高い位置である上死点の位置まで上昇した時点の状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図30】図25の上飾り縫目を形成する過程においてミシン主軸の回転角が240度で4本の縫針が上死点と下死点の中間の位置まで下降した時点の状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図31】図25の上飾り縫目を形成する過程においてミシン主軸の回転角が300度で4本の縫針が上死点と下死点の中間の位置まで下降した時点の状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図32】従来例の上飾り縫目構造を示す平面図である。
【図33】他の従来例の上飾り縫目構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
図1において、本発明の3乃至4本針タイプの上飾り縫いミシンのフレーム1は、ベッド部2と、ベッド部2の一端部から上方に立設する胴部3と、胴部3の上部よりベッド部2に平行に延びるアーム部4とから構成される。
【0017】
3本針タイプの上飾り縫いミシンのフレーム1の胴部3には、図14、図15に示すように、上側から糸調子5,6,7,8が配置されている。上側の3個の糸調子5は、シリコンタンク9、針糸道10 針棒糸道11を経由して3本の縫針12(第1縫針(左針)12a,第2縫針(中針)12b,第3縫針(右針)12c)にそれぞれ通される針糸131,132,133にそれぞれに所定の張力を付与するものである。また、その下の糸調子6,7は、シリコンタンク9の下部に設けた第1の飾り糸道14、第2の飾り糸道15等の飾り糸道、および縫針12の側方に配設された第1上飾り糸案内部材16Aおよび第2上飾り糸案内部材16Bを経由して上飾りスプレッダー(上飾りルーパー)17に通される第1上飾り糸18、第2上飾り糸19にそれぞれ所定の張力を与えるものであり、最下段の糸調子8は、ベッド部2の内部に配置される下ルーパー(図示省略)に通される下ルーパー糸20に所定の張力を与えるものである。
【0018】
3本針タイプの上飾り縫いミシンのアーム部4には、図2に示すミシン主軸(上軸)21が内蔵され、このミシン主軸21によって針棒22がミシン主軸21の左端に固定した針棒クランク23等を介して上下に往復駆動される。図15に示すように、針棒22の下端部には針抱き24が固着され、この針抱き24に3本の縫針12(第1縫針(左縫針)12a,第2縫針(中縫針)12b,第3縫針(右縫針)12c)が針先端の位置を順次高くする階段状になるように針高をずらして配置固定されている。すなわち、第1縫針12aの先端が最も低く、その隣りの第2縫針12bの先端がそれよりも少し高く、第3縫針12cの先端が最も高くなるような階段状に配置固定されている。
【0019】
図2、図15に示すように、針棒22が配置されるアーム部4には、第1,2上飾り糸案内部材16A,16Bと上飾りスプレッダー17が設けられる。
図2〜図13を参照にして、上飾りスプレッダー17を往復揺動する周知の揺動機構25、および上飾りスプレッダー17と共に往復揺動する第1,2上飾り糸案内部材16A,16Bの新規な揺動機構26について説明する。
【0020】
先ず、上飾りスプレッダー17の揺動機構25について説明すると、図2〜図5に示すように、ミシン主軸21には偏心カム27が固着され、この偏心カム27には連結レバー部28aを有するロッド28が外嵌され、このロッド28の連結レバー部28aが、ミシン主軸21と平行に配設された駆動軸(飾り振り軸)29の突出レバー29aに枢支連結されている。駆動軸29の左端部には揺動レバー30が固着され、この揺動レバー30の先端部30aが鉛直なスプレッダー軸31の上端部に一体に設けたクランク32のクランクピン32aに挿通連結された連結ピン部材33に連結されている。
【0021】
図6〜図13に示すように、スプレッダー軸31の下端部にはスプレッダー駆動アーム34が固着され、この駆動アーム34の先端部に上飾りスプレッダー17の鉛直軸部17aが挿通固定されている。上飾りスプレッダー17には、第1上飾り糸案内部材16Aを通過した第1上飾り糸18と第2上飾り糸案内部材16Bを通過した第2上飾り糸19をそれぞれ引掛ける第1糸引掛け部37および第2糸引掛け部38を設けている。図2において、ミシン主軸21が所定の方向に回転駆動されると、偏心カム27を介してロッド28が揺動するのに伴って駆動軸(飾り振り軸)29と揺動レバー30とが同時に往復揺動し、連結ピン部材33およびクランクピン32a、クランク32によるユニバーサルジョイント的な連結機構を介してスプレッダー軸31が鉛直軸心回りに往復揺動する。上飾りスプレッダー17は第1縫針12a,第2縫針12b,第3縫針12cの上下の動作に合わせて左右方向に往復揺動する。
【0022】
次に、第1,2上飾り糸案内部材16A,16Bの新規な揺動機構26について説明すると、図2〜図13に示すように、スプレッダー軸31の下端部であってスプレッダー駆動アーム34の上側には飾り糸案内部材駆動アーム39が固着され、この飾り糸案内部材駆動アーム39に二又ロッド40の一端の二又部40aが枢軸41で連結され、二又ロッド40の他端部に飾り糸案内部材軸42の上端に固着したクランク43のクランクピン43aが挿通結合され、この飾り糸案内部材軸42の下端に上下二つの第1,2上飾り糸案内部材16B,16Aが挿通固定される。フレーム1のアーム部4には上部取付ブラケット52がビス53で固定され、この上部取付ブラケット52に下部取付ブラケット55がビス54で固定され、この下部取付ブラケット55に設けた軸受筒部55aに飾り糸案内部材軸42が挿通支持される。しかるときは、上飾りスプレッダー17の左右方向の往復揺動と同時に、第1,2上飾り糸案内部材16A,16Bが飾り糸案内部材駆動アーム39、二又ロッド40、及び飾り糸案内部材軸42を介して左右方向に往復揺動する。
【0023】
そして、図13、図15に示すように、第1上飾り糸案内部材16Aは先端部161をL字形状に形成し、この先端部161に第1上飾り糸18を通すため第1上飾り糸挿通孔35がトンネル状に貫通して設けられ、第2上飾り糸案内部材16Bの先端部163には第2上飾り糸19を通すための第2上飾り糸挿通孔44が設けられる。そして、第1,2上飾り糸案内部材16B,16Aは往復揺動方向に位置調整可能に構成する。すなわち、図6〜図12に示すように、第1上飾り糸案内部材16Aの後端基部162および第2上飾り糸案内部材16Bの後端基部164は飾り糸案内部材軸42の下端にそれぞれ鉛直軸心まわりに往復揺動可能に挿通されてネジ45で固定され、そのネジ45を緩めることで第1,2上飾り糸案内部材16A,16Bはそれぞれ往復揺動方向に位置調整可能としてある。したがって、例えば、第1上飾り糸案内部材16Aの位置調整により、第1上飾り糸18を第2縫針12bの後ろの位置(図20(a)参照)に通すことができるように第1上飾り糸案内部材16Aの揺動開始角を調整できる。
【0024】
いま、図2において、ミシン主軸21が所定の方向に回転駆動されると、偏心カム27を介してロッド28が揺動するのに伴って駆動軸(飾り振り軸)29と揺動レバー30とが同時に往復揺動し、連結ピン部材33およびクランクピン32a、クランク32によるユニバーサルジョイント的な連結機構を介してスプレッダー軸31が鉛直軸心回りに往復回動するので、上飾りスプレッダー17は、図12に示すように、一定揺動角の範囲内で左方向(時計回り方向)に揺動され、また前記一定揺動角の範囲内で右方向(反時計回り方向)に揺動される。同図12に示すように、この上飾りスプレッダー17の左右方向の往復揺動と同時に、第1,2上飾り糸案内部材16A,16Bが左右方向に往復揺動する。このように、第1,2上飾り糸案内部材16A,16Bは、上飾りスプレッダー17と共に左右に往復揺動するように構成することで、第1上飾り糸18と第2上飾り糸19を第1上飾り糸挿通孔35と第2上飾り糸挿通孔44を介して上飾りスプレッダー17の第1糸引掛け部37および第2糸引掛け部38に円滑且つ安定確実に案内移動させることができ、第1上飾り糸18、第2上飾り糸19の糸切れや目飛びを防止できる。
【0025】
次に、上記3本針タイプの上飾り縫いミシンにより図16(a)、(b)に示されるごとき上飾り縫目を形成する過程について図17(a)、(b)〜図22(a)、(b)を参照して説明する。
【0026】
予め、第1,2上飾り糸案内部材16A,16Bは、図20(a)、(b)に示すように、ミシン主軸21の回転角が180度で3本の第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cが最も高い位置である上死点の位置まで上昇した時点の状態において、第1上飾り糸18が第2縫針12bの後ろを、第2上飾り糸19が第2縫針12bの手前をそれぞれ通るように第1,2上飾り糸案内部材16A,16Bのそれぞれの揺動開始角を調整しておく。
【0027】
第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cにはそれぞれ針糸131,132,133が通され、第1上飾り糸18は第1上飾り糸案内部材16Aの第1上飾り糸挿通孔35に対応して通され、第2上飾り糸19は第2上飾り糸案内部材16Bの第2上飾り糸挿通孔44に対応して通される。第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cのそれぞれの針糸131,132,133は全て同一もしくは類似の色の針糸、またはそれぞれ異なる色の針糸を使用することができる。第1上飾り糸18及び第2上飾り糸19はそれぞれ異なる色の糸、あるいは共に同一もしくは類似の色の糸を使用し、かつ針糸131,132,133とは異なる色にすることができる。
【0028】
まず、第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cにそれぞれ通されている3本の針糸131,132,133と第1上飾り糸案内部材16A下の第1上飾り糸18及び第2上飾り糸案内部材16B下の第2上飾り糸19とが縫製生地46の進行方向へ引っ張られ、図17(a)、(b)(ミシン主軸の回転角が0度(360度)で3本の第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cが最も低い位置である下死点の位置にまで下降した時点の状態図)に示すように縫製開始時は、第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cが完全に縫製生地46を貫通し、かつ下ルーパー糸20(図14参照)の糸ガイド構造体(図示せず)が第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cの上下動作に合わせて、図16(b)に示すように下ルーパー糸20と第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cの各針糸131,132,133を掛合させて固定する(この技術は周知であるため説明を省略する)。このとき、上飾りスプレッダー17が第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cから最も離れた位置にある。第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cに通された各針糸131,132,133と下ルーパー糸20が上記のように掛合固定された後、第1上飾り糸18と第2上飾り糸19も針糸131,132,133により縫製生地46の表面上に固定される。
【0029】
次いで、第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cは図18(a)、(b)(ミシン主軸21の回転角が60度で3本の第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cが下死点と上死点の中間の位置まで少し上昇した時点の状態図)、図19(a)、(b)(ミシン主軸21の回転角が120度で第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cが下死点と上死点の中間の位置まで更に上昇した時点の状態図)に示すように上方向に動作し、上飾りスプレッダー17が第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cの上方向への動作に合わせて左方向に揺動する。このとき、上飾りスプレッダー17の第1糸引掛け部37が第1上飾り糸18を、第2糸引掛け部38が第2上飾り糸19をそれぞれ引掛けて行く。
【0030】
次いで、縫製生地46が送られ、第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cが図20(a)、(b)(ミシン主軸21の回転角が180度で3本の第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cが最も高い位置である上死点の位置まで上昇した時点の状態図)に示すように上方向へ動作し、あらかじめ定められた上死点の位置に達すると、上飾りスプレッダー17が動作可能な範囲の左方向の限界点まで揺動し、右方向へ戻る揺動の準備が完了する。このとき注目すべきは、第1上飾り糸案内部材16Aの先端部161が第1縫針12aと第2縫針12bとの間を手前側より後方へ進入移動することで第1上飾り糸18は第1縫針12aの手前を、第2縫針12bの後ろを通り、第2上飾り糸19は第2縫針12bの手前を、第3縫針12cの後ろを通る点である。
【0031】
次に、第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cが図21(a)、(b)(ミシン主軸21の回転角が240度で3本の第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cが上死点と下死点の中間の位置まで下降した時点の状態図)に示すように下方向に動作を開始すると、上飾りスプレッダー17も右方向に向かって揺動を開始する。
【0032】
第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cが図22(a)、(b)(ミシン主軸21の回転角が300度で3本の第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cが上死点と下死点の中間の位置まで下降した時点の状態図)に示すように下方向に動作すると、上飾りスプレッダー17も右方向に揺動し、第1糸引掛け部37から第1上飾り糸18を、第2糸引掛け部38から第2上飾り糸19をそれぞれ解放させ、第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cが下方向に動作するため、第1縫針12aの針糸131が第1上飾り糸18を押さえて縫製生地46に縫い付け、また第2縫針12bの針糸132が第1上飾り糸18と第2上飾り糸19を同時に押さえて縫製生地46に縫い付け、更に又第3縫針12cの針糸133が第2上飾り糸19を押さえて縫製生地46に縫い付けて(図16(a)参照)、1回の縫いの動作が完了する。
【0033】
第1縫針12a、第2縫針12b、及び第3縫針12cが図17(a)、(b)〜図22(a)、(b)に示すように繰り返し上下動作を継続するとき、上飾りスプレッダー17の左右の揺動で第1上飾り糸18及び第2上飾り糸19を引掛け及び解放する動作を組み合わせることにより、図16(a)、(b)に示すように、第1上飾り糸18が縫製生地46を貫く左側の針糸131の縫目である第1縫針糸ステッチ131Sとこの隣りで同じく縫製生地46を貫く中間の針糸132の縫目である第2縫針糸ステッチ132Sとにループ状に絡み合わされてジグザグ状に縫い込まれ、第2上飾り糸19は第2縫針糸ステッチ132Sとこの隣りで同じく縫製生地46を貫く右側の針糸133の縫目である第3縫針糸ステッチ133Sとにループ状に絡み合わされてジグザグ状に縫い込まれ、かつ、第1上飾り糸18の各ループ部18Rは第1縫針糸ステッチ131Sの隣り合う針目131p,131p間および第2縫針糸ステッチ132Sの隣り合う針目132p,132p間にそれぞれ跨り、第2上飾り糸19の各ループ部19Rは第2縫針糸ステッチ132Sの隣り合う針目132p,132p間および第3縫針糸ステッチ133Sの隣り合う針目133p,133p間にそれぞれ跨る、という上飾り縫目構造156が形成される。
【0034】
このような上飾り縫目構造は、図16(a),(b)に示すように、3本針偏平縫いで2本の第1、2上飾り糸18,19を使用し、第1上飾り糸18は縫製生地46を貫く左側の針糸131の縫目である第1縫針糸ステッチ131Sとその隣りの中間の針糸132の縫目である第2縫針糸ステッチ132Sとにループ状に絡み合わされてジグザグ状に縫い込まれ、第2上飾り糸19は第2縫針糸ステッチ132Sと右側の針糸133の縫目である第3縫針糸ステッチ133Sとにループ状に絡み合わされてジグザグ状に縫い込まれたものである。
【0035】
このように第1上飾り糸18および第2上飾り糸19を縫い込むことにより、第1上飾り糸18によるジグザグ模様と第2上飾り糸19によるジグザグ模様とを左右に明確に分離独立して出現できるため、第1上飾り糸18の色と第2上飾り糸19の色とがよく目立ち、目立ち感を強める明視性の高い色の縫目模様を得ることができる。
【0036】
また、第1縫針糸ステッチ131Sと第2縫針糸ステッチ132Sとの間では第1上飾り糸18のみの縫目が、また第2縫針糸ステッチ132Sと第3縫針糸ステッチ133Sとの間では第2上飾り糸19のみの縫目がそれぞれ分離独立して存在することにより、第1上飾り糸18の縫目と第2上飾り糸19の縫目とが重なり合うようなことがなくなるため、全体がフラットな縫目となり、肌接触時の肌触りが良くなる。
さらに、第1上飾り糸18の張力と第2上飾り糸19の張力をそれぞれ独自に変更させることができる。このため、例えば、第1縫針糸ステッチ131Sと第2縫針糸ステッチ132S間ではゆったりとした緩み状態に、第2縫針糸ステッチ132Sと第3縫針糸ステッチ133S間では引き締まり状態に縫い調子を異ならせることができる。逆に、第1縫針糸ステッチ131Sと第2縫針糸ステッチ132S間では引き締まり状態に、第2縫針糸ステッチ132Sと第3縫針糸ステッチ133S間ではゆったりとした緩み状態に縫い調子を異ならせることもできる。
【0037】
そして、第1上飾り糸18の各ループ部18Rは第1縫針糸ステッチ131Sの隣り合う針目131p,131p間および第2縫針糸ステッチ132Sの隣り合う針目132p,132p間にそれぞれ跨っており、第2上飾り糸19の各ループ部19Rは第2縫針糸ステッチ132Sの隣り合う針目132p,132p間および第3縫針糸ステッチ133Sの隣り合う針目133p,133p間にそれぞれ跨っているものとした。これにより、第1上飾り糸18の各ループ部18Rの曲率および第2上飾り糸19の各ループ部19Rの曲率をそれぞれ大きくできて、ジグザグ状模様を透き間の少ない目の詰んだ帯状模様に近い様子に変現することができるため、第1上飾り糸18および第2上飾り糸19がそれぞれもつ色を明確に表すことができ、色の面積効果を上げて装飾性を高めることができる。
【0038】
このように図16に示すような上飾り縫目構造は3本針タイプの上記上飾り縫いミシンにより簡単に得ることができる。
【0039】
上記実施例では3本針タイプの上飾り縫いミシンにより図16に示すような上飾り縫目構造を得る場合について説明したが、4本針タイプの上飾り縫いミシンにより図25に示すような上飾り縫目構造を簡単に得ることもできる。
【0040】
次に、4本針タイプの上飾り縫いミシンについて説明する。
【0041】
4本針タイプの上飾り縫いミシンのフレーム1の胴部3には、図23、図24に示すように、上側から糸調子5,6,7,8が配置されている。上側の4個の糸調子5は、シリコンタンク9、針糸道10 針棒糸道11を経由して4本の縫針12(第1縫針(左針)12a,第2縫針(中針)12b,第3縫針(中針)12c,第4縫針(右針)12d)にそれぞれ通される針糸131,132,133,134にそれぞれに所定の張力を付与するものである。また、その下の糸調子6,7は、シリコンタンク9の下部に設けた第1の飾り糸道14、第2の飾り糸道15等の飾り糸道、および縫針12の側方に配設された第1上飾り糸案内部材16Aおよび第2上飾り糸案内部材16Bを経由して上飾りスプレッダー(上飾りルーパー)17に通される第1上飾り糸18、第2上飾り糸19にそれぞれ所定の張力を与えるものであり、最下段の糸調子8は、ベッド部2の内部に配置される下ルーパー(図示省略)に通される下ルーパー糸20に所定の張力を与えるものである。
【0042】
4本針タイプの上飾り縫いミシンのアーム部4には、3本針タイプの上飾り縫いミシンのアーム部4の場合と同様に、図2に示すミシン主軸(上軸)21が内蔵され、このミシン主軸21によって針棒22がミシン主軸21の左端に固定した針棒クランク23等を介して上下に往復駆動される。図24に示すように、針棒22の下端部には針抱き24が固着され、この針抱き24に4本の縫針12(第1縫針(左縫針)12a,第2縫針(中縫針)12b,第3縫針(中縫針)12c,第4縫針(右縫針)12d)が針先端の位置を順次高くする階段状になるように針高をずらして配置固定されている。すなわち、第1縫針12aの先端が最も低く、その隣りの第2縫針12bの先端がそれよりも少し高く、その隣りの第3縫針12cの先端がそれよりも更に少し高く、第4縫針12dの先端が最も高くなるような階段状に配置固定されている。
【0043】
針棒22が配置されるアーム部4には、図2、図16に示す3本針タイプの上飾り縫いミシンのアーム部4の場合と同様に、第1,2上飾り糸案内部材16A,16Bと上飾りスプレッダー17が設けられる。上飾りスプレッダー17を往復揺動する揺動機構25、および上飾りスプレッダー17と共に往復揺動する第1,2上飾り糸案内部材16A,16Bの揺動機構26は、図3〜図14に示す3本針タイプの上飾り縫いミシンの場合の揺動機構25,26と同一であるため、同一部材に同一符号を付してその説明を省略する。
【0044】
次に、4本針タイプの上飾り縫いミシンにより図25に示されるごとき上飾り縫目を形成する過程について図26(a)、(b)〜図31(a)、(b)を参照して説明する。
【0045】
予め、第1,2上飾り糸案内部材16A,16Bは、図29(a)、(b)に示すように、ミシン主軸21の回転角が180度で4本の第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c,第4縫針12dが最も高い位置である上死点の位置まで上昇した時点の状態において、第1上飾り糸18が第1縫針12aの手前を、第2縫針12bの後ろを、第2上飾り糸19が第3縫針12cの手前を、第4縫針12dの後ろをそれぞれ通るように第1,2上飾り糸案内部材16A,16Bのそれぞれの揺動開始角を調整しておく。
【0046】
第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dにはそれぞれ針糸131,132,133,134が通され、第1上飾り糸18は第1上飾り糸案内部材16Aの第1上飾り糸挿通孔35に対応して通され、第2上飾り糸19は第2上飾り糸案内部材16Bの第2上飾り糸挿通孔44に対応して通される。第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dのそれぞれの針糸131,132,133,134は全て同一もしくは類似の色の針糸、またはそれぞれ異なる色の針糸を使用することができる。第1上飾り糸18及び第2上飾り糸19はそれぞれ異なる色の糸、あるいは共に同一もしくは類似の色の糸を使用し、かつ針糸131,132,133,134とは異なる色にすることができる。
【0047】
まず、第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dにそれぞれ通されている4本の針糸131,132,133,134と第1上飾り糸案内部材16A下の第1上飾り糸18及び第2上飾り糸案内部材16B下の第2上飾り糸19とが縫製生地46の進行方向へ引っ張られ、図26(a)、(b)(ミシン主軸の回転角が0度(360度)で第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dが最も低い位置である下死点の位置にまで下降した時点の状態図)に示すように縫製開始時は、第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dが完全に縫製生地46を貫通し、かつ下ルーパー糸20(図23参照)の糸ガイド構造体(図示せず)が第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dの上下動作に合わせて、下ルーパー糸20と第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dの各針糸131,132,133,134を掛合させて固定する(この技術は周知であるため説明を省略する)。このとき、上飾りスプレッダー17が第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dから最も離れた位置にある。第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dに通された各針糸131,132,133,134と下ルーパー糸20が上記のように掛合固定された後、第1上飾り糸18と第2上飾り糸19も針糸131,132,133,134により縫製生地46の表面上に固定される。
【0048】
次いで、第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dは図27(a)、(b)(ミシン主軸21の回転角が60度で第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dが下死点と上死点の中間の位置まで少し上昇した時点の状態図)、図28(a)、(b)(ミシン主軸21の回転角が120度で第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dが下死点と上死点の中間の位置まで更に上昇した時点の状態図)に示すように上方向に動作し、上飾りスプレッダー17が第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dの上方向への動作に合わせて左方向に揺動する。このとき、上飾りスプレッダー17の第1糸引掛け部37が第1上飾り糸18を、第2糸引掛け部38が第2上飾り糸19をそれぞれ引掛けて行く。
【0049】
次いで、縫製生地46が送られ、第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dが図29(a)、(b)(ミシン主軸21の回転角が180度で第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dが最も高い位置である上死点の位置まで上昇した時点の状態図)に示すように上方向へ動作し、あらかじめ定められた上死点の位置に達すると、上飾りスプレッダー17が動作可能な範囲の左方向の限界点まで揺動し、右方向へ戻る揺動の準備が完了する。このとき注目すべきは、第1上飾り糸案内部材16Aの先端部161が第2縫針12bと第3縫針12cとの間を手前側より後方へ進入移動することで第1上飾り糸18は第1縫針12aの手前を、第2縫針12bの後ろを通り、第2上飾り糸19は第3縫針12cの手前を、第4縫針12dの後ろを通る点である。
【0050】
次に、第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dが図30(a)、(b)(ミシン主軸21の回転角が240度で第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dが上死点と下死点の中間の位置まで下降した時点の状態図)に示すように下方向に動作を開始すると、上飾りスプレッダー17も右方向に向かって揺動を開始する。
【0051】
第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dが図31(a)、(b)(ミシン主軸21の回転角が300度で第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dが上死点と下死点の中間の位置まで下降した時点の状態図)に示すように下方向に動作すると、上飾りスプレッダー17も右方向に揺動し、第1糸引掛け部37から第1上飾り糸18を、第2糸引掛け部38から第2上飾り糸19をそれぞれ解放させ、第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dが下方向に動作するため、第1縫針12aの針糸131および第2縫針12bの針糸132が第1上飾り糸18を押さえて縫製生地46に縫い付け、また第3縫針12cの針糸133および第4縫針12dの針糸134が第2上飾り糸19を押さえて縫製生地46に縫い付けて(図25参照)、1回の縫いの動作が完了する。
【0052】
第1縫針12a、第2縫針12b、第3縫針12c、及び第4縫針12dが図26(a)、(b)〜図31(a)、(b)に示すように繰り返し上下動作を継続するとき、上飾りスプレッダー17の左右の揺動で第1上飾り糸18及び第2上飾り糸19を引掛け及び解放する動作を組み合わせることにより、図25に示すように、第1上飾り糸18が縫製生地46を貫く左側の針糸131の縫目である第1縫針糸ステッチ131Sとこの隣りで同じく縫製生地46を貫く中間の針糸132の縫目である第2縫針糸ステッチ132Sとにループ状に絡み合わされてジグザグ状に縫い込まれ、第2上飾り糸19は中間の針糸133の縫目である第3縫針糸ステッチ133Sとこの隣りで同じく縫製生地46を貫く右側の針糸134の縫目である第3縫針糸ステッチ134Sとにループ状に絡み合わされてジグザグ状に縫い込まれ、かつ、第1上飾り糸18の各ループ部18Rは第1縫針糸ステッチ131Sの隣り合う針目131p,131p間および第2縫針糸ステッチ132Sの隣り合う針目132p,132p間にそれぞれ跨り、第2上飾り糸19の各ループ部19Rは第3縫針糸ステッチ133Sの隣り合う針目133p,133p間および第4縫針糸ステッチ134Sの隣り合う針目134p,134p間にそれぞれ跨る、という上飾り縫目構造157が形成される。
【0053】
このような上飾り縫目構造は、図25に示すように、4本針タイプの上飾り縫いで2本の第1、2上飾り糸18,19を使用し、第1上飾り糸18は縫製生地46を貫く左側の針糸131の縫目である第1縫針糸ステッチ131Sとその隣りの中間の針糸132の縫目である第2縫針糸ステッチ132Sとにループ状に絡み合わされてジグザグ状に縫い込まれ、第2上飾り糸19は中間の針糸133の縫目である第3縫針糸ステッチ133Sと右側の針糸134の縫目である第4縫針糸ステッチ134Sとにループ状に絡み合わされてジグザグ状に縫い込まれたものである。
【0054】
このように第1上飾り糸18および第2上飾り糸19を縫い込むことにより、第1上飾り糸18によるジグザグ模様と第2上飾り糸19によるジグザグ模様とを左右に明確に分離独立して出現できるため、第1上飾り糸18の色と第2上飾り糸19の色とがよく目立ち、目立ち感を強める明視性の高い色の縫目模様を得ることができる。
【0055】
また、第1縫針糸ステッチ131Sと第2縫針糸ステッチ132Sとの間では第1上飾り糸18のみの縫目が、また第3縫針糸ステッチ133Sと第4縫針糸ステッチ134Sとの間では第2上飾り糸19のみの縫目がそれぞれ分離独立して存在することにより、第1上飾り糸18の縫目と第2上飾り糸19の縫目とが重なり合うようなことがなくなるため、全体がフラットな縫目となり、肌接触時の肌触りが良くなる。
さらに、第1上飾り糸18の張力と第2上飾り糸19の張力をそれぞれ独自に変更させることができる。このため、例えば、第1縫針糸ステッチ131Sと第2縫針糸ステッチ132S間ではゆったりとした緩み状態に、第3縫針糸ステッチ133Sと第4縫針糸ステッチ134S間では引き締まり状態に縫い調子を異ならせることができる。逆に、第1縫針糸ステッチ131Sと第2縫針糸ステッチ132S間では引き締まり状態に、第3縫針糸ステッチ133Sと第4縫針糸ステッチ134S間ではゆったりとした緩み状態に縫い調子を異ならせることもできる。
【0056】
そして、第1上飾り糸18の各ループ部18Rは第1縫針糸ステッチ131Sの隣り合う針目131p,131p間および第2縫針糸ステッチ132Sの隣り合う針目132p,132p間にそれぞれ跨っており、第2上飾り糸19の各ループ部19Rは第3縫針糸ステッチ133Sの隣り合う針目133p,133p間および第4縫針糸ステッチ134Sの隣り合う針目134p,134p間にそれぞれ跨っているものとした。これにより、第1上飾り糸18の各ループ部18Rの曲率および第2上飾り糸19の各ループ部19Rの曲率をそれぞれ大きくできて、ジグザグ状模様を透き間の少ない目の詰んだ帯状模様に近い様子に変現することができるため、第1上飾り糸18および第2上飾り糸19がそれぞれもつ色を明確に表すことができ、色の面積効果を上げて装飾性を高めることができる。
【符号の説明】
【0057】
12 縫針
12a 第1縫針
12b 第2縫針
12c 第3縫針
12d 第4縫針
16A 第1上飾り糸案内部材
16B 第2上飾り糸案内部材
17 上飾りスプレッダー
18 第1上飾り糸
19 第2上飾り糸
22 針棒
35 第1上飾り糸挿通孔
44 第2上飾り糸挿通孔
37 第1糸係合部
38 第2糸係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針棒22により上下駆動し、左右横方向に並列する3乃至4本の縫針12と、この複数本の縫針12の側方に配設され、第1上飾り糸挿通孔35が設けられた第1上飾り糸案内部材16Aと、この第1上飾り糸案内部材16Aの上側に配され、第2上飾り糸挿通孔44が設けられた第2上飾り糸案内部材16Bと、前記第1上飾り糸挿通孔35を通過した第1上飾り糸18と前記第2上飾り糸挿通孔44を通過した第2上飾り糸19をそれぞれ引掛ける第1糸係合部37および第2糸係合部38を有し、前記縫針12の上下動作に合わせて左右方向に往復揺動する上飾りスプレッダー17と、を備えており、第1上飾り糸案内部材16Aと第2上飾り糸案内部材16Bは上飾りスプレッダー17と共に往復揺動するように構成していることを特徴とする上飾り縫いミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2012−120736(P2012−120736A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274491(P2010−274491)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(391005123)株式会社森本製作所 (26)
【Fターム(参考)】