下水処理装置及び方法
【課題】
膜分離活性汚泥法に用いられる膜表面の付着物を効果的に掻き取ることができ、膜ろ過速度の流束低下あるいは膜差圧上昇を防止できる下水処理装置及び方法を提供する。
【解決手段】
活性汚泥が浸漬され下水が流入する反応槽3と、反応槽3内に垂直方向に設置された複数の固液分離膜4と、固液分離膜4の下方に設置された散気管6と、反応槽3内に浸漬された比重が1.2から3.0の沈降性充填物8と、散気管6の下方に設置された上向流発生機構7と、散気管6及び上向流発生機構7の起動,停止を制御する制御装置とを備えた。
膜分離活性汚泥法に用いられる膜表面の付着物を効果的に掻き取ることができ、膜ろ過速度の流束低下あるいは膜差圧上昇を防止できる下水処理装置及び方法を提供する。
【解決手段】
活性汚泥が浸漬され下水が流入する反応槽3と、反応槽3内に垂直方向に設置された複数の固液分離膜4と、固液分離膜4の下方に設置された散気管6と、反応槽3内に浸漬された比重が1.2から3.0の沈降性充填物8と、散気管6の下方に設置された上向流発生機構7と、散気管6及び上向流発生機構7の起動,停止を制御する制御装置とを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬型の膜モジュールを用いた固液分離膜を備えた下水処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浸漬型の膜モジュールを用いた下水処理装置に、例えば複数の外圧式固液分離平膜で構成され、反応槽内に膜面が垂直となるように配置したものが使われている。このような下水処理装置では、反応槽の下部に設置された散気管から空気を曝気しており、散気管から上昇する気泡により、反応槽内の活性汚泥を構成する微生物へ酸素を供給し、気泡の上昇に伴って生成される水流により膜表面を洗浄して膜面の付着物を除去し、目詰まりを抑制している。
【0003】
固液分離膜を備えた下水処理装置では、濁質成分の流出を防ぐことが可能であるため、最終沈殿池で固液分離する場合と比べて活性汚泥の濃度を高くして運転することが可能である。その結果、装置を小型化でき、発生汚泥を低減することが可能である。
【0004】
しかし、従来の下水処理装置に比べて、散気量が多量に必要であり、ブロワで多量の電気エネルギーを消費するため、運転コストが高価となっていた。近年は、平膜のほかに中空糸膜やモノリス型の膜を用いた装置の実用化も進んでいるが、いずれも膜面洗浄に要する散気量が多く、運転コストが高価となる同様の課題が存在する。
【0005】
この課題を解決するため、〔特許文献1〕に記載のように、流動性充填材としてスポンジ状の樹脂が提案されている。これは、反応槽中に流動性充填材を投入し、膜の下方に設置した散気管から曝気した気泡の浮力により流動性充填材を流動させるものである。この流動性充填材が膜面に接触することで、付着物を掻き取ることができるとしている。
【0006】
又、〔特許文献2〕に記載のように、膜モジュールの膜表面を、有機性の充填物と連続的に接触させて常時洗浄させながら、水を浄化処理するものがある。
【0007】
【特許文献1】特開平9−136021号公報
【特許文献2】特開平11−221562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
〔特許文献1〕に記載の膜分離装置では、流動性充填材がスポンジ状の樹脂であるため、沈みにくいという問題がある。又、このようなスポンジ状の流動性充填材は、その比重が処理水と近く、膜面洗浄のための曝気により生じる水流で容易に反応槽内を流動することができるが、反面、スポンジ状の流動性充填材は表面が柔らかく弾性率が低いため、膜と衝突あるいは接触した際に膜面への付着物へ与える力が小さく、大きな付着物剥離効果を得ることができない。さらに、スポンジ内部の連通細孔内へ次第に毛髪などの繊維状物質が絡み付き、ひいては充填材同士で絡み付き合い、巨大化してしまう問題もある。さらに、スポンジ状の流動性充填材は、その表面が次第に活性汚泥中の微生物やその生体外物質で覆われ易いが、これらはスポンジ状担体よりもさらに柔らかいため、膜表面の付着物の掻き取り効果が得られないという問題がある。
【0009】
又、〔特許文献1〕には、比重が大きく、容積が0.2mm と小さい流動性充填材も記載されているが、この場合は、公報の図1に示されるように散気管の出口の位置が底面より高いところにあるため、比重が大きく充填材が底面に溜まり、反応槽内を流動しないという問題がある。
【0010】
〔特許文献2〕に記載の膜分離装置では、円形あるいは柱状の樹脂で流動性充填材を構成しているが、その比重が処理水と近く、散気管の出口の位置が底面より高いところにあるため、比重が大きく充填材が底面に溜まり、反応槽内を流動しないという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、膜分離活性汚泥法に用いられる膜表面の付着物を効果的に掻き取ることができ、膜ろ過速度の流束低下あるいは膜差圧上昇を防止できる下水処理装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の下水処理装置は、活性汚泥が浸漬され下水が流入する反応槽と、反応槽内に垂直方向に設置された複数の固液分離膜と、固液分離膜の下方に設置された散気管と、反応槽内に浸漬された比重が1.2から3.0の沈降性充填物と、散気管の下方に設置された上向流発生機構と、散気管及び上向流発生機構の起動,停止を制御する制御装置と、を備えたものである。
【0013】
又、下水処理方法は、配管により活性汚泥が浸漬された反応槽に下水を流入させ、反応槽内に複数設置された固液分離膜により生物処理された下水から懸濁物と処理水を分離して処理水として配管により取り出し、固液分離膜の膜面洗浄モードでは、制御装置により、固液分離膜の下方に設置された散気管、及び散気管の下方に設置された上向流発生機構を起動し、散気管からの曝気と上向流発生機構からの上昇流により比重が1.2から3.0の沈降性充填物を流動させて固液分離膜の膜面洗浄を行うものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、効率的に膜表面の目詰まりを低減でき、流速低下あるいは膜差圧の上昇を抑制でき、膜面洗浄用の曝気量が少なく低運転コストの下水処理装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の各実施例について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、実施例1の下水処理装置の構成図である。下水処理装置は、反応槽3内に貯留されている生物処理するための活性汚泥2と、反応槽3内に浸漬され垂直方向に設置された複数の固液分離膜4と、固液分離膜4の下方で固液分離膜4間に配置された活性汚泥2への酸素供給のため散気管6と、散気管6の下方の反応槽3の低部に設けられ上昇流を発生させるための上向流発生機構7と、反応槽3内に下水である被処理水を流入させるための配管1と、各固液分離膜4に取り付けられ固液分離膜4でろ過された被処理水を処理水として下水処理装置外へ取り出すための配管5と、反応槽3内を流動して固液分離膜4の膜面に付着物を剥離するための沈降性充填物8で構成されている。
【0017】
反応槽3の底部は、上向流発生機構7の出口部に向かって低くなるように傾斜しており、沈降性充填物8が、上向流発生機構7の出口部に集まるようになっている。このように、反応槽3の底部には勾配を設け、膜面洗浄時に沈降性充填物8がより流動し易い形状としている。
【0018】
上向流発生機構7は、例えば、図2に示すように、被処理水を流す配管1から分岐した配管21と、配管21に接続されたポンプ20で構成される。ポンプ20には、図示していない制御装置と接続されており、制御装置からの信号によりポンプ20の起動,停止が制御される。
【0019】
又、図3に示すように、上向流発生機構7を、反応槽3内に挿入された配管22と、配管22に接続されたポンプ20で構成することもでき、図4に示すように、ブロア23により空気を供給するようにしてもよい。このように、上向流発生機構7は、沈降性充填物8を反応槽3内で流動させる装置で構成される。
【0020】
このように構成された下水処理装置の動作について説明する。固液分離膜4の膜洗浄に、散気管6から曝気され上昇する気泡によって固液分離膜4の膜面と並行にクロスフロー水流を発生させ、活性汚泥の微生物やその生体外物質が付着し難くなる現象を利用するものがある。本実施例は、沈降性充填物8をこのクロスフロー水流に乗せて移動させ、膜面の付着物に運動エネルギーを有する沈降性充填物8が衝突して付着物を剥離させるメカニズムを加えるものである。
【0021】
水流により移動する固体の有する運動エネルギーEは数1で表される。
【0022】
(数1)
E=(1/2)m・v2 …(1)
ここで、mは固体の質量、vは固体の移動速度であり、ρを固体の比重、Vを固体の体積として、mは固体の質量で数2で表される。
【0023】
(数2)
m=ρ・V …(2)
数1,数2で示されるように、固体の比重ρが大きいほど固体の有する運動エネルギーEは大きく、沈降性充填物8の比重ρが大きいほど、沈降性充填物8が流動して膜面付着物に衝突あるいは接触した際の剥離効果が高くなる。一方、比重ρが大きいと沈降性が増大するため、膜面洗浄時以外の運転モードでは沈降性充填物8は反応槽3の底部に沈降している。底部に沈降した沈降性充填物8は、傾斜に沿って移動し、上向流発生機構7の出口部に集まる。
【0024】
膜面洗浄時のモードでは、沈降性充填物8が流動している状態の模式図である図5に示すように、制御装置からの指令によりポンプ20又はブロワ23が起動されて上向流発生機構7からの上向きの水流により底部に沈降していた沈降性充填物8は流動状態となり上側に流され、散気管6からの曝気により早い速度で膜面間を移動し、膜面付着物に衝突あるいは接触する。これにより効率的に膜面の付着物を剥離することが可能となる。膜面洗浄時のモードが終わると、沈降性充填物8は再度反応槽3の底部に沈降する。
【0025】
沈降性充填物8の比重と付着物剥離効果の関係を図6に示す。沈降性充填物8の比重が大きくなると、ある点までは付着物の剥離効果は増大する。しかし、ある点以上では比重が大きく重くなりすぎて沈降性充填物8の流動性が低下し、上向流発生機構7では流動できない沈降性充填物8の割合が増加し、全体として付着物剥離効果は低下する。沈降性充填物8の比重の適切な範囲は、1.2から3.0、すなわち1.2以上で3.0以下であった。
【0026】
このように、沈降性充填物8を用いることで膜面の洗浄効果が増大するので、現状は大量に必要となっている曝気風量を低減でき、低コストの運転が可能となる。通常運転モードと、上向きの水流を発生させて上向流を発生する膜面洗浄モードの一例を図7に示す。このように膜面洗浄モードを間欠に設定すると、膜面の洗浄効果はやや低下するが、さらなる低コスト運転が可能となる。
【0027】
本実施例を適用した場合の運転コストの内訳の一例を図8に示す。沈降性充填物8を用いた場合には上向流発生機構7の駆動エネルギーが新たに必要となるが、膜面付着物剥離用の曝気量を低減できるため、トータルとしては従来の流動性スポンジ状充填材を用いた場合に比べて運転コストを低減できる。
【0028】
ここで、沈降性充填物8の幾つかの例について説明する。沈降性充填物8は、これらの1つであってもよく、これらのうちの組み合わせたものであってもよい。
【0029】
第1の例の沈降性充填物8の材質は、スポンジ状の有孔性固体であり、内部および表面に活性汚泥を付着させることができる。従って、このスポンジ状の有孔性固体は微生物を担体する効果も有する。その分生物処理が十分に進行するため、反応槽3内の活性汚泥2の濃度が同じであれば、より良い水質の処理水を得ることができる。逆に、処理水の水質を同じにするのであれば活性汚泥2の濃度を低減することができる。活性汚泥2の濃度を低減すると膜面の目詰まりが低減するため、その分膜面洗浄用の曝気量を低減できる。
【0030】
また、沈降性充填物8は沈降性であるため、比重は処理水より十分に大きい。従って、数2の比重ρが大きく、数1の運動エネルギーEの値が大きく、膜面洗浄の効果が増大するため、膜面洗浄に用いる曝気量をさらに低減できる。
【0031】
このように、沈降性充填物8の材質としてスポンジ状の有孔性固体を用いることで膜面洗浄用の曝気量を低減でき、運転コストの低減が可能となる。
【0032】
第2の例は、沈降性充填物8の材質が、砂あるいはアンスラサイトであり、砂あるいはアンスラサイトを用いたろ過処理は水処理分野で実績も多く、間欠的な上向流により砂を流動化させ逆洗する技術も十分に確立されており、耐久性および信頼性が高く、装置のコストや沈降性充填物8のコストが低減でき、イニシャルコストの低減が可能となる。
【0033】
砂の比重は約2.5、アンスラサイトの比重は約1.5であるため、数2の比重ρが大きく、数1の運動エネルギーEの値が大きくなり、膜面洗浄の効果が従来の流動性充填材に比べて増大するため、膜面洗浄に用いる曝気量を低減できる。
【0034】
水流により移動する固体が膜面に衝突した際の力積FΔtは、数3で表される。
【0035】
(数3)
FΔt=m・v1−m・v2 …(3)
ここで、Fは膜面に加わる力、Δtは衝突時間、mは固体の質量、v1 は衝突後の固体移動速度、v2 :衝突前の固体移動速度である。
【0036】
数3から分かるように、膜面に加わる力Fは衝突時間Δtが短いほど大きい。この衝突時間Δtは膜面および固体の表面の硬さ(弾性率)が影響する。表面が柔らかい場合には力が加わる時間が長くなるため衝突時間Δtの値が大きくなり、それに応じて膜面に加わる力Fが小さくなる。砂およびアンスラサイトは表面が極めて硬いため、衝突時間Δtの値は小さく、衝突時に加わる力Fが大きい。沈降性充填物8の弾性率と付着物剥離効果の関係を図9に示す。弾性率が低い領域では付着物剥離効果は小さいが、付着物の付着力に対応する点を境に急激に付着物剥離効果は上昇する。すなわち、弾性率が高い沈降性充填物8を用いると膜面洗浄の効果が大きい。
【0037】
このように、沈降性充填物8に砂あるいはアンスラサイトを用いることで、膜面洗浄用の曝気量を低減でき、運転コストの低減が可能となる。
【0038】
第3の例は、沈降性充填物8の材質が、無孔性固体であり、無孔性固体には、表面に光沢を有するプラスチックの立方体あるいは円柱,球が一例として挙げられる。
【0039】
無孔性固体には孔が無いため、毛髪に代表される繊維状物質の絡み付きは発生しないので、沈降性充填物同士が絡み合う問題が発生しない。また、表面に活性汚泥に含まれる微生物やその生体外物質が付着し難く、沈降性充填物8の表面が柔らかくなることが無い。すなわち、膜面の付着物と衝突した際に数3に示すΔtが大きくならず、衝突時に加わる力Fが大きい。従って膜面洗浄の効果が大きいため、膜面洗浄に用いる曝気量を低減できる。
【0040】
従来のスポンジ状充填材の場合、比重が処理水と同程度であれば微細気泡が内部に付着し、水面に浮上してしまって膜面洗浄の機能が低下する場合があった。無孔性固体には孔が無いため、内部に微細気泡が付着することが無く、このような機能低下はない。
【0041】
以上のように、沈降性充填物8に無孔性固体を用いることで、膜面洗浄用の曝気量を低減でき、運転コストの低減が可能となる。
【0042】
第4の例は、スポンジ状の有孔性固体の立体を構成する各面の中央部より端部側の弾性率を高くなるように形成している。スポンジ状の有孔性固体の代表的な形状としては、図10に示す立方体又は円柱がある。立方体の場合には6面それぞれの中央部に比べて辺および角の弾性率が高くなっている。円柱の場合には、円形の平面と側面の接合部の弾性率が高くなっている。
【0043】
スポンジ状の有孔性固体が膜面の付着物を剥離する際、面ではなく辺や角で衝突あるいは接触することが多い。従って、角や辺の弾性率が高ければ付着物の剥離効果が大きい。その分だけ膜面洗浄用の曝気量を低減でき、低コスト運転が可能となる。
【0044】
前述のように、スポンジ状の有孔性固体は、内部および表面に活性汚泥の微生物が付着するため、その分だけ水処理が十分に進む。その結果として処理水において同一の水質を得るために必要な活性汚泥2の濃度を低くでき、それだけ固液分離膜4の目詰まりが減る。従って膜面洗浄のための曝気量を低減でき、運転コストを低減できる。
【0045】
第5の例は、流動性充填物12を無孔性固体で形成し、この無孔性固体を、表面に光沢を有するプラスチック製の立方体あるいは円柱,球で形成している。
【0046】
無孔性固体には孔が無いため、毛髪に代表される繊維状物質の絡み付きは発生しない。従って、沈降性充填物12同士が絡み合う問題が発生しなく、表面に活性汚泥に含まれる微生物やその生体外物質が付着しづらいため、沈降性充填物8の表面が柔らかくなることが無い。
【0047】
すなわち、膜面の付着物と衝突した際に数3の衝突時間Δtは小さく、衝突時に膜面に加わる力Fが大きいため、膜面洗浄の効果が大きく、膜面洗浄に用いる曝気量を低減できる。
【0048】
従来のスポンジ状充填材の場合は、比重が処理水と同程度であり、微細気泡が内部に付着して水面に浮上しまうので、膜面洗浄の機能が低下する問題があったが、本実施例の沈降性充填物8は、無孔性固体で孔が無いため、内部に微細気泡が付着することが無く、このような機能低下が生じない。このように、流動性充填物12として無孔性固体を用いることで、膜面洗浄用の曝気量を低減でき、運転コストの低減が可能となる。
【0049】
第6の例は、図11に示すように、コーティングされた沈降性充填物8が用いられる。本実施例では、沈降性充填物8の表面に固液分離膜4より低い弾性率を有するコーティングが施されている。
【0050】
固液分離膜4は、平膜の場合は薄いシート状、中空糸膜の場合は薄い管壁をもった管状である。いずれも液体と気泡の存在下では破損し難いが、沈降性充填物8の物性によっては、膜面に衝突あるいは接触した際に膜面を破損する可能性がある。その場合、膜の交換が必要となり、そのためのコストがかかるため運転コストが増大する。
【0051】
膜面が破損するのは、膜面より弾性率の高い(硬い)固体が接触して傷がつき、そこが脆弱化して破損する場合と、弾性率は関係なく膜面に強い張力が働き、膜が裂ける場合の二つが典型的な例として挙げられる。沈降性充填物8を用いる場合、膜の間隔に対して充填物の寸法を適切に設定していれば、後者のように強い張力が働く可能性は低い。しかし、前者の脆弱化して破損する場合は、寸法でなく充填物の表面物性が影響する。その場合、膜の素材よりも弾性率が低い物質で沈降性充填物8をコーティングしてあれば、膜面と接触しても傷をつけることはない。その結果、膜が破損して交換するケースが低減でき、運転コストを低減することが可能となる。図11に、沈降性充填物8の断面の模式図を示す。沈降性充填物8の基材10の外側にコーティング層11が設けられる。
【実施例2】
【0052】
本発明の実施2を図12,図13により説明する。本実施例は、実施例1と同様に構成されているが、本実施例では、上向流発生機構7として、膜面下方に設置した曝気装置を用いている。この曝気装置は、図12で示すように反応槽3の底付近に沈降性充填物8の流動用の散気管9を設け、曝気に伴う上向流により沈降性充填物8を流動させてもよく、図1に示す散気管6を併用しても良い。ここで、沈降性充填物8には、第1の例から第6の例で示した沈降性充填物8を用いることができ、沈降性充填物8の比重の範囲は、1.2から3.0に設定している。
【0053】
上向水流を用いて沈降性充填物8を流動させる場合、反応槽内の水面付近の水を循環使用するのであれば、ポンプに沈降性充填物8が詰まらないよう、沈降性充填物8を一旦分離する機構が必要となる。これに対し、反応槽3の底付近に沈降性充填物8の流動用の散気管9を設けた場合には、沈降性充填物8を分離する機構が不要となり、構造的にシンプルとすることができ、装置のイニシャルコスト低減が可能となる。
【0054】
散気管6を活用する場合には、膜面洗浄モードの場合に曝気風量を一時的に増大し、反応槽3内の水流流速を高め、沈降性充填物8を流動させることとなる。この場合の通常運転モードと膜面洗浄モードの流量および風量の変化の例を図13に示す。
【0055】
このように、上向流発生機構7として膜面下方に設置した散気管6で併用することができれば、装置構造をさらにシンプルにすることができ、装置のイニシャルコストを低減できる。
【実施例3】
【0056】
図12は実施例3の下水処理装置の構成図である。実施例1と同様に、流入する被処理下水1を活性汚泥2によって生物処理する反応槽3の中には固液分離膜4が備えられ、固液分離膜4でろ過された被処理下水は処理水として配管5により下水処理装置外へ取り出される。固液分離膜4の下方には、活性汚泥2への呼吸用酸素供給のため散気管6が備えられ、この散気管6から曝気された気泡は水流を発生させ、膜面の付着物を抑制する効果も有する。散気管6の下方には上向流発生機構7が備えられ、反応槽3の中には流動性充填物12が備えられる。
【0057】
本実施例では、反応槽3の底部にわずかな傾斜を設けるか、平面状に形成している。沈降性充填物8は、立体を構成する各面の中央部より端部側の弾性率が高いもので形成し、沈降性充填物8の比重の範囲は、1.2から3.0に設定している。
【0058】
沈降性充填物8が膜面の付着物を剥離する際には、面全体ではなく辺や角で衝突あるいは接触する確率が高く、角や辺の弾性率が高い沈降性充填物8を用いることにより、付着物の剥離効果が大きい。その分だけ膜面洗浄用の曝気量を低減でき、省コスト運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例1である下水処理装置の構成図。
【図2】本実施例の上向流発生機構の例を示す構成図。
【図3】本実施例の上向流発生機構の例を示す構成図。
【図4】本実施例の上向流発生機構の例を示す構成図。
【図5】沈降性充填物が流動している模式的に示す図。
【図6】沈降性充填物の比重と付着物剥離効果の関係を示す図。
【図7】通常運転モードと膜面洗浄モードにおける上向流水量の変化を示す模式図。
【図8】本実施例を適用した場合の運転コストの内訳の例を示す図。
【図9】沈降性充填物の弾性率と付着物剥離効果の関係を示す模式図。
【図10】沈降性充填物の第4の例を示す斜視図。
【図11】沈降性充填物の第6の例を示す縦断面図。
【図12】本発明の実施例2である下水処理装置の構成図。
【図13】通常運転モードと膜面洗浄モードの流量および風量の変化を示す模式図。
【図14】本発明の実施例3である下水処理装置の構成図。
【符号の説明】
【0060】
1,5 配管
2 活性汚泥
3 反応槽
4 固液分離膜
6,9 散気管
7 上向流発生機構
8 沈降性充填物
10 沈降性充填材基材
11 コーティング層
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬型の膜モジュールを用いた固液分離膜を備えた下水処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浸漬型の膜モジュールを用いた下水処理装置に、例えば複数の外圧式固液分離平膜で構成され、反応槽内に膜面が垂直となるように配置したものが使われている。このような下水処理装置では、反応槽の下部に設置された散気管から空気を曝気しており、散気管から上昇する気泡により、反応槽内の活性汚泥を構成する微生物へ酸素を供給し、気泡の上昇に伴って生成される水流により膜表面を洗浄して膜面の付着物を除去し、目詰まりを抑制している。
【0003】
固液分離膜を備えた下水処理装置では、濁質成分の流出を防ぐことが可能であるため、最終沈殿池で固液分離する場合と比べて活性汚泥の濃度を高くして運転することが可能である。その結果、装置を小型化でき、発生汚泥を低減することが可能である。
【0004】
しかし、従来の下水処理装置に比べて、散気量が多量に必要であり、ブロワで多量の電気エネルギーを消費するため、運転コストが高価となっていた。近年は、平膜のほかに中空糸膜やモノリス型の膜を用いた装置の実用化も進んでいるが、いずれも膜面洗浄に要する散気量が多く、運転コストが高価となる同様の課題が存在する。
【0005】
この課題を解決するため、〔特許文献1〕に記載のように、流動性充填材としてスポンジ状の樹脂が提案されている。これは、反応槽中に流動性充填材を投入し、膜の下方に設置した散気管から曝気した気泡の浮力により流動性充填材を流動させるものである。この流動性充填材が膜面に接触することで、付着物を掻き取ることができるとしている。
【0006】
又、〔特許文献2〕に記載のように、膜モジュールの膜表面を、有機性の充填物と連続的に接触させて常時洗浄させながら、水を浄化処理するものがある。
【0007】
【特許文献1】特開平9−136021号公報
【特許文献2】特開平11−221562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
〔特許文献1〕に記載の膜分離装置では、流動性充填材がスポンジ状の樹脂であるため、沈みにくいという問題がある。又、このようなスポンジ状の流動性充填材は、その比重が処理水と近く、膜面洗浄のための曝気により生じる水流で容易に反応槽内を流動することができるが、反面、スポンジ状の流動性充填材は表面が柔らかく弾性率が低いため、膜と衝突あるいは接触した際に膜面への付着物へ与える力が小さく、大きな付着物剥離効果を得ることができない。さらに、スポンジ内部の連通細孔内へ次第に毛髪などの繊維状物質が絡み付き、ひいては充填材同士で絡み付き合い、巨大化してしまう問題もある。さらに、スポンジ状の流動性充填材は、その表面が次第に活性汚泥中の微生物やその生体外物質で覆われ易いが、これらはスポンジ状担体よりもさらに柔らかいため、膜表面の付着物の掻き取り効果が得られないという問題がある。
【0009】
又、〔特許文献1〕には、比重が大きく、容積が0.2mm と小さい流動性充填材も記載されているが、この場合は、公報の図1に示されるように散気管の出口の位置が底面より高いところにあるため、比重が大きく充填材が底面に溜まり、反応槽内を流動しないという問題がある。
【0010】
〔特許文献2〕に記載の膜分離装置では、円形あるいは柱状の樹脂で流動性充填材を構成しているが、その比重が処理水と近く、散気管の出口の位置が底面より高いところにあるため、比重が大きく充填材が底面に溜まり、反応槽内を流動しないという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、膜分離活性汚泥法に用いられる膜表面の付着物を効果的に掻き取ることができ、膜ろ過速度の流束低下あるいは膜差圧上昇を防止できる下水処理装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の下水処理装置は、活性汚泥が浸漬され下水が流入する反応槽と、反応槽内に垂直方向に設置された複数の固液分離膜と、固液分離膜の下方に設置された散気管と、反応槽内に浸漬された比重が1.2から3.0の沈降性充填物と、散気管の下方に設置された上向流発生機構と、散気管及び上向流発生機構の起動,停止を制御する制御装置と、を備えたものである。
【0013】
又、下水処理方法は、配管により活性汚泥が浸漬された反応槽に下水を流入させ、反応槽内に複数設置された固液分離膜により生物処理された下水から懸濁物と処理水を分離して処理水として配管により取り出し、固液分離膜の膜面洗浄モードでは、制御装置により、固液分離膜の下方に設置された散気管、及び散気管の下方に設置された上向流発生機構を起動し、散気管からの曝気と上向流発生機構からの上昇流により比重が1.2から3.0の沈降性充填物を流動させて固液分離膜の膜面洗浄を行うものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、効率的に膜表面の目詰まりを低減でき、流速低下あるいは膜差圧の上昇を抑制でき、膜面洗浄用の曝気量が少なく低運転コストの下水処理装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の各実施例について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、実施例1の下水処理装置の構成図である。下水処理装置は、反応槽3内に貯留されている生物処理するための活性汚泥2と、反応槽3内に浸漬され垂直方向に設置された複数の固液分離膜4と、固液分離膜4の下方で固液分離膜4間に配置された活性汚泥2への酸素供給のため散気管6と、散気管6の下方の反応槽3の低部に設けられ上昇流を発生させるための上向流発生機構7と、反応槽3内に下水である被処理水を流入させるための配管1と、各固液分離膜4に取り付けられ固液分離膜4でろ過された被処理水を処理水として下水処理装置外へ取り出すための配管5と、反応槽3内を流動して固液分離膜4の膜面に付着物を剥離するための沈降性充填物8で構成されている。
【0017】
反応槽3の底部は、上向流発生機構7の出口部に向かって低くなるように傾斜しており、沈降性充填物8が、上向流発生機構7の出口部に集まるようになっている。このように、反応槽3の底部には勾配を設け、膜面洗浄時に沈降性充填物8がより流動し易い形状としている。
【0018】
上向流発生機構7は、例えば、図2に示すように、被処理水を流す配管1から分岐した配管21と、配管21に接続されたポンプ20で構成される。ポンプ20には、図示していない制御装置と接続されており、制御装置からの信号によりポンプ20の起動,停止が制御される。
【0019】
又、図3に示すように、上向流発生機構7を、反応槽3内に挿入された配管22と、配管22に接続されたポンプ20で構成することもでき、図4に示すように、ブロア23により空気を供給するようにしてもよい。このように、上向流発生機構7は、沈降性充填物8を反応槽3内で流動させる装置で構成される。
【0020】
このように構成された下水処理装置の動作について説明する。固液分離膜4の膜洗浄に、散気管6から曝気され上昇する気泡によって固液分離膜4の膜面と並行にクロスフロー水流を発生させ、活性汚泥の微生物やその生体外物質が付着し難くなる現象を利用するものがある。本実施例は、沈降性充填物8をこのクロスフロー水流に乗せて移動させ、膜面の付着物に運動エネルギーを有する沈降性充填物8が衝突して付着物を剥離させるメカニズムを加えるものである。
【0021】
水流により移動する固体の有する運動エネルギーEは数1で表される。
【0022】
(数1)
E=(1/2)m・v2 …(1)
ここで、mは固体の質量、vは固体の移動速度であり、ρを固体の比重、Vを固体の体積として、mは固体の質量で数2で表される。
【0023】
(数2)
m=ρ・V …(2)
数1,数2で示されるように、固体の比重ρが大きいほど固体の有する運動エネルギーEは大きく、沈降性充填物8の比重ρが大きいほど、沈降性充填物8が流動して膜面付着物に衝突あるいは接触した際の剥離効果が高くなる。一方、比重ρが大きいと沈降性が増大するため、膜面洗浄時以外の運転モードでは沈降性充填物8は反応槽3の底部に沈降している。底部に沈降した沈降性充填物8は、傾斜に沿って移動し、上向流発生機構7の出口部に集まる。
【0024】
膜面洗浄時のモードでは、沈降性充填物8が流動している状態の模式図である図5に示すように、制御装置からの指令によりポンプ20又はブロワ23が起動されて上向流発生機構7からの上向きの水流により底部に沈降していた沈降性充填物8は流動状態となり上側に流され、散気管6からの曝気により早い速度で膜面間を移動し、膜面付着物に衝突あるいは接触する。これにより効率的に膜面の付着物を剥離することが可能となる。膜面洗浄時のモードが終わると、沈降性充填物8は再度反応槽3の底部に沈降する。
【0025】
沈降性充填物8の比重と付着物剥離効果の関係を図6に示す。沈降性充填物8の比重が大きくなると、ある点までは付着物の剥離効果は増大する。しかし、ある点以上では比重が大きく重くなりすぎて沈降性充填物8の流動性が低下し、上向流発生機構7では流動できない沈降性充填物8の割合が増加し、全体として付着物剥離効果は低下する。沈降性充填物8の比重の適切な範囲は、1.2から3.0、すなわち1.2以上で3.0以下であった。
【0026】
このように、沈降性充填物8を用いることで膜面の洗浄効果が増大するので、現状は大量に必要となっている曝気風量を低減でき、低コストの運転が可能となる。通常運転モードと、上向きの水流を発生させて上向流を発生する膜面洗浄モードの一例を図7に示す。このように膜面洗浄モードを間欠に設定すると、膜面の洗浄効果はやや低下するが、さらなる低コスト運転が可能となる。
【0027】
本実施例を適用した場合の運転コストの内訳の一例を図8に示す。沈降性充填物8を用いた場合には上向流発生機構7の駆動エネルギーが新たに必要となるが、膜面付着物剥離用の曝気量を低減できるため、トータルとしては従来の流動性スポンジ状充填材を用いた場合に比べて運転コストを低減できる。
【0028】
ここで、沈降性充填物8の幾つかの例について説明する。沈降性充填物8は、これらの1つであってもよく、これらのうちの組み合わせたものであってもよい。
【0029】
第1の例の沈降性充填物8の材質は、スポンジ状の有孔性固体であり、内部および表面に活性汚泥を付着させることができる。従って、このスポンジ状の有孔性固体は微生物を担体する効果も有する。その分生物処理が十分に進行するため、反応槽3内の活性汚泥2の濃度が同じであれば、より良い水質の処理水を得ることができる。逆に、処理水の水質を同じにするのであれば活性汚泥2の濃度を低減することができる。活性汚泥2の濃度を低減すると膜面の目詰まりが低減するため、その分膜面洗浄用の曝気量を低減できる。
【0030】
また、沈降性充填物8は沈降性であるため、比重は処理水より十分に大きい。従って、数2の比重ρが大きく、数1の運動エネルギーEの値が大きく、膜面洗浄の効果が増大するため、膜面洗浄に用いる曝気量をさらに低減できる。
【0031】
このように、沈降性充填物8の材質としてスポンジ状の有孔性固体を用いることで膜面洗浄用の曝気量を低減でき、運転コストの低減が可能となる。
【0032】
第2の例は、沈降性充填物8の材質が、砂あるいはアンスラサイトであり、砂あるいはアンスラサイトを用いたろ過処理は水処理分野で実績も多く、間欠的な上向流により砂を流動化させ逆洗する技術も十分に確立されており、耐久性および信頼性が高く、装置のコストや沈降性充填物8のコストが低減でき、イニシャルコストの低減が可能となる。
【0033】
砂の比重は約2.5、アンスラサイトの比重は約1.5であるため、数2の比重ρが大きく、数1の運動エネルギーEの値が大きくなり、膜面洗浄の効果が従来の流動性充填材に比べて増大するため、膜面洗浄に用いる曝気量を低減できる。
【0034】
水流により移動する固体が膜面に衝突した際の力積FΔtは、数3で表される。
【0035】
(数3)
FΔt=m・v1−m・v2 …(3)
ここで、Fは膜面に加わる力、Δtは衝突時間、mは固体の質量、v1 は衝突後の固体移動速度、v2 :衝突前の固体移動速度である。
【0036】
数3から分かるように、膜面に加わる力Fは衝突時間Δtが短いほど大きい。この衝突時間Δtは膜面および固体の表面の硬さ(弾性率)が影響する。表面が柔らかい場合には力が加わる時間が長くなるため衝突時間Δtの値が大きくなり、それに応じて膜面に加わる力Fが小さくなる。砂およびアンスラサイトは表面が極めて硬いため、衝突時間Δtの値は小さく、衝突時に加わる力Fが大きい。沈降性充填物8の弾性率と付着物剥離効果の関係を図9に示す。弾性率が低い領域では付着物剥離効果は小さいが、付着物の付着力に対応する点を境に急激に付着物剥離効果は上昇する。すなわち、弾性率が高い沈降性充填物8を用いると膜面洗浄の効果が大きい。
【0037】
このように、沈降性充填物8に砂あるいはアンスラサイトを用いることで、膜面洗浄用の曝気量を低減でき、運転コストの低減が可能となる。
【0038】
第3の例は、沈降性充填物8の材質が、無孔性固体であり、無孔性固体には、表面に光沢を有するプラスチックの立方体あるいは円柱,球が一例として挙げられる。
【0039】
無孔性固体には孔が無いため、毛髪に代表される繊維状物質の絡み付きは発生しないので、沈降性充填物同士が絡み合う問題が発生しない。また、表面に活性汚泥に含まれる微生物やその生体外物質が付着し難く、沈降性充填物8の表面が柔らかくなることが無い。すなわち、膜面の付着物と衝突した際に数3に示すΔtが大きくならず、衝突時に加わる力Fが大きい。従って膜面洗浄の効果が大きいため、膜面洗浄に用いる曝気量を低減できる。
【0040】
従来のスポンジ状充填材の場合、比重が処理水と同程度であれば微細気泡が内部に付着し、水面に浮上してしまって膜面洗浄の機能が低下する場合があった。無孔性固体には孔が無いため、内部に微細気泡が付着することが無く、このような機能低下はない。
【0041】
以上のように、沈降性充填物8に無孔性固体を用いることで、膜面洗浄用の曝気量を低減でき、運転コストの低減が可能となる。
【0042】
第4の例は、スポンジ状の有孔性固体の立体を構成する各面の中央部より端部側の弾性率を高くなるように形成している。スポンジ状の有孔性固体の代表的な形状としては、図10に示す立方体又は円柱がある。立方体の場合には6面それぞれの中央部に比べて辺および角の弾性率が高くなっている。円柱の場合には、円形の平面と側面の接合部の弾性率が高くなっている。
【0043】
スポンジ状の有孔性固体が膜面の付着物を剥離する際、面ではなく辺や角で衝突あるいは接触することが多い。従って、角や辺の弾性率が高ければ付着物の剥離効果が大きい。その分だけ膜面洗浄用の曝気量を低減でき、低コスト運転が可能となる。
【0044】
前述のように、スポンジ状の有孔性固体は、内部および表面に活性汚泥の微生物が付着するため、その分だけ水処理が十分に進む。その結果として処理水において同一の水質を得るために必要な活性汚泥2の濃度を低くでき、それだけ固液分離膜4の目詰まりが減る。従って膜面洗浄のための曝気量を低減でき、運転コストを低減できる。
【0045】
第5の例は、流動性充填物12を無孔性固体で形成し、この無孔性固体を、表面に光沢を有するプラスチック製の立方体あるいは円柱,球で形成している。
【0046】
無孔性固体には孔が無いため、毛髪に代表される繊維状物質の絡み付きは発生しない。従って、沈降性充填物12同士が絡み合う問題が発生しなく、表面に活性汚泥に含まれる微生物やその生体外物質が付着しづらいため、沈降性充填物8の表面が柔らかくなることが無い。
【0047】
すなわち、膜面の付着物と衝突した際に数3の衝突時間Δtは小さく、衝突時に膜面に加わる力Fが大きいため、膜面洗浄の効果が大きく、膜面洗浄に用いる曝気量を低減できる。
【0048】
従来のスポンジ状充填材の場合は、比重が処理水と同程度であり、微細気泡が内部に付着して水面に浮上しまうので、膜面洗浄の機能が低下する問題があったが、本実施例の沈降性充填物8は、無孔性固体で孔が無いため、内部に微細気泡が付着することが無く、このような機能低下が生じない。このように、流動性充填物12として無孔性固体を用いることで、膜面洗浄用の曝気量を低減でき、運転コストの低減が可能となる。
【0049】
第6の例は、図11に示すように、コーティングされた沈降性充填物8が用いられる。本実施例では、沈降性充填物8の表面に固液分離膜4より低い弾性率を有するコーティングが施されている。
【0050】
固液分離膜4は、平膜の場合は薄いシート状、中空糸膜の場合は薄い管壁をもった管状である。いずれも液体と気泡の存在下では破損し難いが、沈降性充填物8の物性によっては、膜面に衝突あるいは接触した際に膜面を破損する可能性がある。その場合、膜の交換が必要となり、そのためのコストがかかるため運転コストが増大する。
【0051】
膜面が破損するのは、膜面より弾性率の高い(硬い)固体が接触して傷がつき、そこが脆弱化して破損する場合と、弾性率は関係なく膜面に強い張力が働き、膜が裂ける場合の二つが典型的な例として挙げられる。沈降性充填物8を用いる場合、膜の間隔に対して充填物の寸法を適切に設定していれば、後者のように強い張力が働く可能性は低い。しかし、前者の脆弱化して破損する場合は、寸法でなく充填物の表面物性が影響する。その場合、膜の素材よりも弾性率が低い物質で沈降性充填物8をコーティングしてあれば、膜面と接触しても傷をつけることはない。その結果、膜が破損して交換するケースが低減でき、運転コストを低減することが可能となる。図11に、沈降性充填物8の断面の模式図を示す。沈降性充填物8の基材10の外側にコーティング層11が設けられる。
【実施例2】
【0052】
本発明の実施2を図12,図13により説明する。本実施例は、実施例1と同様に構成されているが、本実施例では、上向流発生機構7として、膜面下方に設置した曝気装置を用いている。この曝気装置は、図12で示すように反応槽3の底付近に沈降性充填物8の流動用の散気管9を設け、曝気に伴う上向流により沈降性充填物8を流動させてもよく、図1に示す散気管6を併用しても良い。ここで、沈降性充填物8には、第1の例から第6の例で示した沈降性充填物8を用いることができ、沈降性充填物8の比重の範囲は、1.2から3.0に設定している。
【0053】
上向水流を用いて沈降性充填物8を流動させる場合、反応槽内の水面付近の水を循環使用するのであれば、ポンプに沈降性充填物8が詰まらないよう、沈降性充填物8を一旦分離する機構が必要となる。これに対し、反応槽3の底付近に沈降性充填物8の流動用の散気管9を設けた場合には、沈降性充填物8を分離する機構が不要となり、構造的にシンプルとすることができ、装置のイニシャルコスト低減が可能となる。
【0054】
散気管6を活用する場合には、膜面洗浄モードの場合に曝気風量を一時的に増大し、反応槽3内の水流流速を高め、沈降性充填物8を流動させることとなる。この場合の通常運転モードと膜面洗浄モードの流量および風量の変化の例を図13に示す。
【0055】
このように、上向流発生機構7として膜面下方に設置した散気管6で併用することができれば、装置構造をさらにシンプルにすることができ、装置のイニシャルコストを低減できる。
【実施例3】
【0056】
図12は実施例3の下水処理装置の構成図である。実施例1と同様に、流入する被処理下水1を活性汚泥2によって生物処理する反応槽3の中には固液分離膜4が備えられ、固液分離膜4でろ過された被処理下水は処理水として配管5により下水処理装置外へ取り出される。固液分離膜4の下方には、活性汚泥2への呼吸用酸素供給のため散気管6が備えられ、この散気管6から曝気された気泡は水流を発生させ、膜面の付着物を抑制する効果も有する。散気管6の下方には上向流発生機構7が備えられ、反応槽3の中には流動性充填物12が備えられる。
【0057】
本実施例では、反応槽3の底部にわずかな傾斜を設けるか、平面状に形成している。沈降性充填物8は、立体を構成する各面の中央部より端部側の弾性率が高いもので形成し、沈降性充填物8の比重の範囲は、1.2から3.0に設定している。
【0058】
沈降性充填物8が膜面の付着物を剥離する際には、面全体ではなく辺や角で衝突あるいは接触する確率が高く、角や辺の弾性率が高い沈降性充填物8を用いることにより、付着物の剥離効果が大きい。その分だけ膜面洗浄用の曝気量を低減でき、省コスト運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例1である下水処理装置の構成図。
【図2】本実施例の上向流発生機構の例を示す構成図。
【図3】本実施例の上向流発生機構の例を示す構成図。
【図4】本実施例の上向流発生機構の例を示す構成図。
【図5】沈降性充填物が流動している模式的に示す図。
【図6】沈降性充填物の比重と付着物剥離効果の関係を示す図。
【図7】通常運転モードと膜面洗浄モードにおける上向流水量の変化を示す模式図。
【図8】本実施例を適用した場合の運転コストの内訳の例を示す図。
【図9】沈降性充填物の弾性率と付着物剥離効果の関係を示す模式図。
【図10】沈降性充填物の第4の例を示す斜視図。
【図11】沈降性充填物の第6の例を示す縦断面図。
【図12】本発明の実施例2である下水処理装置の構成図。
【図13】通常運転モードと膜面洗浄モードの流量および風量の変化を示す模式図。
【図14】本発明の実施例3である下水処理装置の構成図。
【符号の説明】
【0060】
1,5 配管
2 活性汚泥
3 反応槽
4 固液分離膜
6,9 散気管
7 上向流発生機構
8 沈降性充填物
10 沈降性充填材基材
11 コーティング層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入する下水を活性汚泥により生物処理する反応槽と、該生物処理された下水から懸濁物と処理水を分離する固液分離膜と、該固液分離膜の下方に設置され前記活性汚泥に酸素を供給するための散気管と、比重が1.2から3.0であって反応槽内を流動する沈降性充填物と、前記散気管の下方の反応槽の底部に設置され上向流を発生させる上向流発生機構と、を備えた下水処理装置。
【請求項2】
活性汚泥が浸漬され下水が流入する反応槽と、該反応槽内に垂直方向に設置された複数の固液分離膜と、該固液分離膜の下方で前記固液分離膜間に設置された散気管と、前記反応槽内に浸漬された比重が1.2から3.0の沈降性充填物と、前記散気管の下方に設置された上向流発生機構と、前記散気管及び上向流発生機構の起動,停止を制御する制御装置と、を備えた下水処理装置。
【請求項3】
配管により活性汚泥が浸漬された反応槽に下水を流入させ、該反応槽内に複数設置された固液分離膜により前記生物処理された下水から懸濁物と処理水を分離して処理水として配管により取り出し、前記固液分離膜の膜面洗浄モードでは、制御装置により、前記固液分離膜の下方に設置された散気管、及び前記散気管の下方に設置された上向流発生機構を起動し、散気管からの曝気と上向流発生機構からの上昇流により比重が1.2から3.0の沈降性充填物を流動させて前記固液分離膜の膜面洗浄を行う下水処理方法。
【請求項4】
前記上向流発生機構は、散気管の下方に設置した第2の散気管で構成される請求項1又は2に記載の下水処理装置。
【請求項5】
前記沈降性充填物は、スポンジ状の有孔性固体,砂あるいはアンスラサイト,無孔性固体、表面に固液分離膜より低い弾性率のコーティング層を設けたもののうちの少なくとも1つで構成されている請求項1又は2に記載の下水処理装置。
【請求項6】
前記スポンジ状の有孔性固体は、立体を構成する各面の中央部より端部側の弾性率が高く形成されている請求項5に記載の下水処理装置。
【請求項7】
前記反応槽の底部が前記上向流発生機構に向かって低くなるように傾斜されている請求項1又は2に記載の下水処理装置。
【請求項8】
前記沈降性充填物は、スポンジ状の有孔性固体,砂あるいはアンスラサイト,無孔性固体,表面に固液分離膜より低い弾性率のコーティング層を設けたもののうちの少なくとも1つで構成されている請求項3に記載の下水処理方法。
【請求項9】
前記反応槽の底部が前記上向流発生機構に向かって低くなるように傾斜され、前記散気管及び上向流発生機構の停止時に前記沈降性充填物が前記上向流発生機構側に集まるようにした請求項3に記載の下水処理方法。
【請求項1】
流入する下水を活性汚泥により生物処理する反応槽と、該生物処理された下水から懸濁物と処理水を分離する固液分離膜と、該固液分離膜の下方に設置され前記活性汚泥に酸素を供給するための散気管と、比重が1.2から3.0であって反応槽内を流動する沈降性充填物と、前記散気管の下方の反応槽の底部に設置され上向流を発生させる上向流発生機構と、を備えた下水処理装置。
【請求項2】
活性汚泥が浸漬され下水が流入する反応槽と、該反応槽内に垂直方向に設置された複数の固液分離膜と、該固液分離膜の下方で前記固液分離膜間に設置された散気管と、前記反応槽内に浸漬された比重が1.2から3.0の沈降性充填物と、前記散気管の下方に設置された上向流発生機構と、前記散気管及び上向流発生機構の起動,停止を制御する制御装置と、を備えた下水処理装置。
【請求項3】
配管により活性汚泥が浸漬された反応槽に下水を流入させ、該反応槽内に複数設置された固液分離膜により前記生物処理された下水から懸濁物と処理水を分離して処理水として配管により取り出し、前記固液分離膜の膜面洗浄モードでは、制御装置により、前記固液分離膜の下方に設置された散気管、及び前記散気管の下方に設置された上向流発生機構を起動し、散気管からの曝気と上向流発生機構からの上昇流により比重が1.2から3.0の沈降性充填物を流動させて前記固液分離膜の膜面洗浄を行う下水処理方法。
【請求項4】
前記上向流発生機構は、散気管の下方に設置した第2の散気管で構成される請求項1又は2に記載の下水処理装置。
【請求項5】
前記沈降性充填物は、スポンジ状の有孔性固体,砂あるいはアンスラサイト,無孔性固体、表面に固液分離膜より低い弾性率のコーティング層を設けたもののうちの少なくとも1つで構成されている請求項1又は2に記載の下水処理装置。
【請求項6】
前記スポンジ状の有孔性固体は、立体を構成する各面の中央部より端部側の弾性率が高く形成されている請求項5に記載の下水処理装置。
【請求項7】
前記反応槽の底部が前記上向流発生機構に向かって低くなるように傾斜されている請求項1又は2に記載の下水処理装置。
【請求項8】
前記沈降性充填物は、スポンジ状の有孔性固体,砂あるいはアンスラサイト,無孔性固体,表面に固液分離膜より低い弾性率のコーティング層を設けたもののうちの少なくとも1つで構成されている請求項3に記載の下水処理方法。
【請求項9】
前記反応槽の底部が前記上向流発生機構に向かって低くなるように傾斜され、前記散気管及び上向流発生機構の停止時に前記沈降性充填物が前記上向流発生機構側に集まるようにした請求項3に記載の下水処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−221054(P2008−221054A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59351(P2007−59351)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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