説明

不定形耐火物成形材料及び不定形耐火物成形体

【課題】断熱性及び機械的強度の両方に優れ、更に耐熱性や機械加工性も良好な不定形耐火物成形体、並びにその成形材料を提供する。
【解決手段】無機中空粒子を2〜20質量%、非晶質シリカ及びワラストナイトの少なくとも一方を50〜93質量%及びアルミナセメントを5〜50質量%の割合で含む不定形耐火物成形材料、並びに前記不定形耐火物成形材料に水を加えた混練物を硬化させてなり、かつ、密度が0.8〜2.0g/cmで、曲げ強度が2〜20MPaで、熱膨張係数が0.1〜7×10−6/℃ある不定形耐火物成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性及び機械的強度の両方に優れ、更に断熱性や機械加工性も良好で、耐火材や断熱材として好適な不定形耐火物成形体を与える水硬性の成形材料に関する。また、本発明は、前記成形材料からなり、アルミニウム、亜鉛、スズ、鉛、マグネシウムあるいはこれらの合金等のように概ね融点が800℃以下である比較的低融点の金属を鋳造する鋳造装置において、これら低融点金属の溶湯と接触する部位に使用される不定形耐火物成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
上記に挙げた低融点金属の鋳造装置において、溶湯と接触する部材、例えば樋、溶湯保持炉、取鍋等を製造、構築もしくは補修するための内張材として、キャスタブル耐火物が広く利用されている。キャスタブル耐火物は適量の水と混練してから型枠に流し込んで硬化させ、乾燥後、焼成して、付着水および結晶水を除くことにより、使用中に水蒸気の発生が無く、耐火性も良い内張材を形成させるものである。
【0003】
上述のような鋳造装置の内張り用のキャスタブル耐火物として、溶湯に濡れ難く、耐食性も比較的良好なことから、アルミナセメントやワラストナイト系のものが従来使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−265151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来のアルミナセメントやワラストナイト系キャスタブルは、耐食性は優れているものの、溶湯の保温性を重視し断熱性に優れた製品にする場合は、密度を低くする必要があるため、曲げ強度等の機械的強度が不足して、施工時や、溶湯が激しく接触し大きな応力が発生するような使用箇所では、亀裂や割れが発生しやすいという問題があった。一方で、密度を高めて機械的強度を増すと、断熱性能が低下するようになる。このように、従来のキャスタブル耐火物は、断熱性と機械的強度がトレードオフの関係にあり、両立することは困難であった。
【0006】
本発明の目的は、断熱性及び機械的強度の両方に優れ、更に耐熱性や機械加工性も良好な不定形耐火物成形体、並びにその成形材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の不定形耐火物成形材料及び不定形耐火物成形体を提供する。
(1)無機中空粒子を2〜20質量%、非晶質シリカ及びワラストナイトの少なくとも一方を50〜93質量%及びアルミナセメントを5〜50質量%の割合で含むことを特徴とする不定形耐火物成形材料。
(2)無機中空粒子が、粒径1mm以下で、SiO及びAlの少なくとも一方を70質量%以上の割合で含むことを特徴とする上記(1)記載の不定形耐火物成形材料。
(3)無機中空粒子が、フライアッシュバルーンまたはシラスバルーンであることを特徴とする上記(2)記載の不定形耐火物用成形材料。
(4)上記(1)〜(3)の何れか1項に記載の不定形耐火物成形材料に水を加えた混練物の成形体を硬化させてなり、かつ、密度が0.8〜2.0g/cmで、曲げ強度が2〜20MPaで、熱膨張係数が0.1〜7×10−6/℃あることを特徴とする不定形耐火物成形体。
(5)融点が800℃以下の低融点金属の溶湯と接触する部位に使用されることを特徴とする上記(4)記載の不定形耐火物成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明による不定形耐火物成形体は、優れた断熱性と機械的強度とを兼ね備え、更に耐熱性や機械加工性も良好であり、従来品と比較して溶湯が激しく接触し大きな応力が発生する箇所に使用した場合でも、亀裂や割れの発生が少なくなり、材料の交換、補修をする頻度は従来と比較して大幅に少なくて済む。また、材料自体のコストも従来品と比較してほぼ同等である。そのため、交換や補修の所要時間と成形体購入コストで、従来と比較してトータル的に非常に安価で低融点金属の鋳造が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0010】
本発明の不定形耐火物成形材料は、無機中空粒子と、非晶質シリカ及びワラストナイトの少なくとも一方と、アルミナセメントとを含む粉状混合物である。
【0011】
無機中空粒子は、熱伝導率が低いことから断熱性能の向上に寄与する。また、後述するように、不定形耐火物成形材料に水を加えた混練物を成形することで本発明の不定形耐火物成形体が得られるが、無機中空粒子は、混練物の流動性を高める作用もあり、加工性の向上にも寄与する。更に、無機中空粒子は、不定形耐火物成形体において非晶質シリカやワラストナイト、アルミナセメントの隙間に入り込み、高充填化により機械的強度を増す効果もある。更には、不定形耐火物成形体の軽量化を図ることもできる。
【0012】
また、無機中空粒子は、同一含有量で比較すると、より小径である方がより多数となり、上記の効果がより高まる。本発明では、粒径が1mm以下の無機中空粒子を用いることが好ましく、粒径300μm以下の無機中空粒子がより好ましい。
【0013】
更に、無機中空粒子は、化学的な劣化成分であるアルカリ分が少ないことが好ましく、また耐熱性も有することからSiO及びAlの少なくとも一方を70質量%以上の割合で含むことがより好ましい。
【0014】
これらを考慮すると、無機中空粒子として、フライアッシュバルーン及びシラスバルーンが好ましい。フライアッシュバルーンやシラスバルーンは、安価であるという利点もある。また、その粒径は、平均粒径で10〜300μmであることが好ましく、50〜150μmであることがより好ましい。
【0015】
非晶質シリカ及びワラストナイトは、共に耐熱性を付与する成分である。非晶質シリカとしては、各種溶融シリカを好適に使用できる。非晶質シリカの粒径は、0.5〜500μmであることが好ましく、1〜500μmであることがより好ましい。また、平均粒径100〜500μmの粗粒と、平均粒径1〜50μmの微粒とを組み合わせることが好ましい。一方、ワラストナイトは針状結晶鉱物であり、鉱物ワラストナイト及び合成ワラストナイトがあるが、鉱物ワラストナイトの方が細長い針状であることから機械的強度の点で好ましく、更に軽量化や熱伝導率の低下を図ることもできる。そのため、ワラストナイトは、その平均繊維長で35μm以上のものが好ましく、60〜100μmのものがより好ましい。
【0016】
アルミナセメントは、耐熱性の結合材として寄与する。アルミナセメントの種類には制限が無く、従来から耐火物等に使用されているものを使用することができる。中でも、得られる不定形耐火物成形体の外観に優れることから、Al23成分が55質量%以上を占めるハイアルミナセメントが好ましい。
【0017】
不定形耐火物成形材料の組成は、断熱性と機械的強度とを両立するために、何れも成形材料全量に対し、無機中空粒子を2〜20質量%、好ましくは4〜12質量%、更に好ましくは6〜10質量%とし、非晶質シリカ及びワラストナイトの少なくとも一方を50〜93質量%、好ましくは60〜80質量%とし、アルミナセメントを5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%とする。
【0018】
尚、耐熱衝撃性を重視する場合は、熱衝撃性に優れた低熱膨張率の非晶質シリカと、バインダーであるアルミナセメントとからなる配合が望ましく、低熱伝導率性を重視する場合は、低密度化に効果が大きいワラストナイトとバインダーであるアルミナセメントとからなる配合が望ましい。また、その中間的な性能を重視する場合は非晶質シリカ、ワラストナイト、アルミナセメントからなる配合が望ましい。
【0019】
また、不定形耐火物成形材料には、必要に応じて、従来からキャスタブル材料に使用されている耐火材料を適量配合することもできる。但し、本発明ではアルミニウム、亜鉛、スズ、鉛、マグネシウムあるいはこれらの合金等のように概ね融点が800℃以下の低融点金属の溶湯と接触する部材を対象としていることから、融点が800℃以上のものを使用する。具体的には、ムライト、ジルコニア、マグネシア、ジルコン等の酸化物系耐火物、窒化ホウ素や窒化珪素、窒化アルミニウム、サイアロン等の窒化物系耐火物、炭化珪素等の炭化物系耐火物、グラファイトや黒鉛等のカーボン系耐火物が挙げられる。これらの添加量は、全体の0.1〜10質量%が好ましい。
【0020】
不定形耐火物成形材料は、水と混合され、得られた混練物を所定形状に成形し、硬化させることにより不定形耐火物成形体となる。
【0021】
また、水には、ヘキサメタ燐酸ナトリウムやトリポリ燐酸ナトリウム、ウルトラポリ燐酸ナトリウム等の分散剤、炭酸リチウムや水酸化カルシウム等の硬化促進剤、ホウ酸やけいフッ化ナトリウム等の硬化遅延剤、あるいは爆裂防止目的でポリプロピレン繊維等の有機繊維を適量配合してもよい。これらの添加量は、全体の0.05〜0.5質量%が好ましい。
【0022】
不定形耐火物成形材料と水との混合比率は、混練物を成形したときに形状を保持できればよく、制限はないが、不定形耐火物成形材料100質量部に対し、水を10〜60質量部とすることが好ましい。尚、成形方法は、型枠への流し込みが簡便であり、型枠内で養生、硬化させればよい。養生条件は、特に制限はないが、例えば15〜25℃、湿度50〜95RHで24時間以上行う。
【0023】
所定形状に成形した後は、乾燥することが好ましく、特に制限はないが、例えば100〜120℃で24時間以上行う。また、不定形耐火物成形体は、乾燥後の成形体中のアルミナセメントの水和物を脱水するために焼成してもよく、特に制限はないが、例えば600〜800℃で1〜5時間行う。尚、焼成は必ずしも必要はなく、使用する際に加えられる加熱により焼成してもよい。
【0024】
このようにして得られる本発明の不定形耐火物成形体は、密度が0.8〜2.0g/cmで、曲げ強度が2〜20MPaで、熱膨張係数が0.1〜7×10−6/℃あり、断熱性と機械的強度の両方に優れ、その他、耐熱性や機械加工性も良好である。そのため、アルミニウム等の低融点金属を鋳造する鋳造装置の注湯ボックスや樋、保持炉等の内張り材として好適である。
【実施例】
【0025】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明について更に説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。
【0026】
(実施例1〜9、比較例1〜3)
表1に示した配合の成形材料と、水とをプラネタリーミキサーにて充分に混練した混練物を、平板用型枠に流し込んで20℃、80%RH、24時間の条件で養生し、脱型後105℃で24時間乾燥し、更に200℃/時間の昇温速度で700℃まで昇温し、この温度に3時間保って焼成することにより、アルミナセメントの水和物の脱水を行い、160×40×40mmサイズの試験体を作製した。尚、使用材料の詳細は以下の通りである。そして、各試験体について下記の物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
(1)線変化率の測定
JIS R2554に準拠し、105℃または700℃における線変化率を測定した。
(2)密度の測定
JIS R2655に準拠して測定した。
(3)曲げ強度及び圧縮強度の測定
試験体の曲げ強度及び圧縮強度をJIS R2553に準拠して測定した。
(4)熱膨張係数の測定
試験体から切り出した長さ20mm、幅5mm、厚さ5mmの試験片を、理学電機工業株式会社製熱機械分析装置「TMA8310」を用いて、空気中で5℃/minの速度で室温から800℃まで昇温し熱膨張係数を測定した。
(5)熱伝導率の測定
周期加熱法にて測定した。
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
表1から、本発明に従う実施例の試験体は、低密度であり、熱伝導率が小さく、機械的強度も総じて高いことがわかる。実施例の試験体と比較例の試験体とは、無機中空粒子(フライアッシュバルーン)の有無で異なっており、無機中空粒子を配合することの有意性が確認された。特に、熱膨張係数が小さく、機械的強度も高い実施例1〜3の試験体が好ましい。また、実施例7〜9の試験体は、熱伝導率が小さく、断熱性を重視する用途に特に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機中空粒子を2〜20質量%、非晶質シリカ及びワラストナイトの少なくとも一方を50〜93質量%及びアルミナセメントを5〜50質量%の割合で含むことを特徴とする不定形耐火物成形材料。
【請求項2】
無機中空粒子が、粒径1mm以下で、SiO及びAlの少なくとも一方を70質量%以上の割合で含むことを特徴とする請求項1記載の不定形耐火物成形材料。
【請求項3】
無機中空粒子が、フライアッシュバルーンまたはシラスバルーンであることを特徴とする請求項2記載の不定形耐火物用成形材料。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の不定形耐火物成形材料に水を加えた混練物の成形体を硬化させてなり、かつ、密度が0.8〜2.0g/cmで、曲げ強度が2〜20MPaで、熱膨張係数が0.1〜7×10−6/℃あることを特徴とする不定形耐火物成形体。
【請求項5】
融点が800℃以下の低融点金属の溶湯と接触する部位に使用されることを特徴とする請求項4記載の不定形耐火物成形体。

【公開番号】特開2008−81360(P2008−81360A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263276(P2006−263276)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】