説明

不快な臭気を抑制した植物油と、当該植物油の臭気抑制方法、並びに当該植物油を用いた石鹸

【課題】 アプリコットカーネルオイルを代表とする不飽和脂肪酸を主成分とする植物油の脱臭や、酸化による変色の抑制を、簡単に行える方法を提供し、当該方法が適用できる植物油の用途拡大に寄与すること。
【解決手段】 植物油に桜、茶、ウコン、黒豆、胡瓜、茄子、トマト、蓬、枇杷、オレガノ、八角、シナモンから選ばれる少なくとも1種の植物の葉などを粉末化して加え、60〜70℃の温度で処理し、直ちに冷却することにより、不快臭を解消することができる。これによって不飽和脂肪酸を主成分とするマッサージオイルが得られる。また、これを原料とする化粧品や石鹸が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不快な臭気を抑制した植物油と、当該植物油の臭気抑制方法、並びに当該植物油を用いた石鹸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚の保湿には皮脂が重要な役割を担っている。皮脂が過剰な状態では、体臭の原因になったり、ニキビの原因になったりすることがあり、皮脂が不足している状態では、いわゆる乾燥肌になり、皮脂の最適量を維持することが健康と美容のために重要である。
【0003】
ここで、皮脂の成分に着目すると、当然のことながらばらつきがあるが、皮脂は、約41%がオレイン酸、約25%が脂肪酸エステル系のワックス、約16%が皮脂酸と称されるオレイン酸以外の脂肪及びその誘導体、約12%がスクワレンであることが知られている。
【0004】
これらの成分の中で、オレイン酸は、元来皮脂に含まれる物質であり、皮膚への刺激が少なく、保湿性が高いので、クリームやローションなどの化粧品に多用されている。また、リノール酸は、皮脂に元来含まれる成分ではないが、オレイン酸と同様に皮膚に保湿性を付与する他、ニキビなどの局部的な皮膚の炎症を抑制する機能があり、化粧品、石鹸、乳化剤の原料として多用されている。
【0005】
オレイン酸やリノール酸は、植物由来であり、椿、杏、オリーブなどの種子の搾油により得られる。これらの中で、杏の種子から得られる、アプリコットカーネルオイルは杏仁油とも称され、重量比で、オレイン酸を60〜79%、リノール酸を18〜34%含み、マッサージオイルや化粧品の原料として有用である。
【0006】
しかしながら、これらは不飽和脂肪酸であり、炭素−炭素二重結合を、オレイン酸は一つ、リノール酸は二つ有し、搾油後の酸化や不純物のために独特の臭気を発したり、着色し易かったりするため、そのままでは使用できないという問題がある。
【0007】
これに対処する方法の一つとして、非特許文献1には、アルコールを添加する方法が開示されている。しかしながら、マッサージオイルや、化粧品のように皮膚に直接触れる用途では、アルコールの親水性により、アルコールの蒸発に際し皮膚の水分が奪われ、乾燥肌を誘発しやすいという問題がある。
【0008】
また、特許文献1には、平均粒径が15μm以下になるまで微粉砕した茶葉を食用油に加え、茶葉の有効成分を前記食用油に移行させることによって、抗菌性や栄養価に優れた食用油を得る技術が開示されている。しかしながら、ここに開示されている技術は、茶葉を微粉砕するという工程を要することから、コストが増加する他、前記の臭気という問題には必ずしも十分に対処できるものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、アプリコットカーネルオイルを代表とする不飽和脂肪酸を主成分とする植物油の脱臭や、酸化による変色の抑制を、簡単に行える方法を提供し、当該方法が適用できる植物油の用途拡大に寄与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題の解決のため、不飽和脂肪酸を主成分とする植物油の脱臭及び酸化抑制に効果を発現する成分と、それを効果的に当該植物に付与する方法を検討した結果なされたものである。
【0011】
即ち、本発明は、オレイン酸を50重量%以上及びリノール酸を15重量%以上含む植物油に、植物の一部を添加して加熱してなることを特徴とする植物油である。
【0012】
また、本発明は、前記植物油が、アプリコットカーネルオイルを含むことを特徴とする、前記の植物油である。
【0013】
また、本発明は、オレイン酸を50重量%以上及びリノール酸を15重量%以上含む植物油に、植物の一部を添加して、60〜70℃の温度に加熱する工程を有することを特徴とする、前記の植物油の製造方法である。
【0014】
また、本発明は、前記植物が、桜、茶、ウコン、黒豆、胡瓜、茄子、トマト、蓬、枇杷、オレガノ、八角、シナモンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、前記の植物油の製造方法である。
【0015】
また、本発明は、前記の植物油を原料とする石鹸である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の植物油は、桜、茶、ウコン、黒豆、胡瓜、茄子、トマト、蓬、枇杷、オレガノ、八角、シナモンから選ばれる植物の葉などを加え、60〜70℃の温度範囲に保持することで、植物の葉に含まれる有効成分が、速やかに植物油中に抽出され、不快臭や酸化に起因する変色を抑制することができる。これらの植物には、芳香成分の他に、カテキン、ポリフェノールなどの活性酸素の作用を抑制する成分が含まれ、不快臭を解消するとともに、変色を抑制できるものと解される。
【0017】
また、本発明では、植物の有効成分の抽出を促進するために加熱するが、前記の60〜70℃という温度範囲は、実験により求めたものである。つまり、前記のように、有効成分の抽出は加温した方が促進されるが、過度に高温になると、やはり酸化による植物油の劣化が生じるからである。具体的には、色相が褐色に変化するという現象が起こる。
【0018】
つまり、酸化が顕著にならない温度範囲内で、植物の有効成分の抽出を行うことで、消臭と変色抑制を同時に高効率で行うことができ、高品質で、オレイン酸とリノール酸に富む植物油を得ることができる。また、このような植物油を用いることで、不快臭がなく、皮膚のケアに適した化粧品、マッサージオイル、石鹸などを得ることができる。
【0019】
なお、本発明の植物油を得るための加熱手段としては、植物油の容器に対する局部的な加熱が生じないように、例えばウォーターバスのような、別途に設けられた加熱源により熱媒を昇温して使用する装置に、植物油の容器を浸す方式が適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に本発明の実施の形態について、具体的な例に基づいて説明する。
【0022】
図1は、植物油の加熱処理の状態を模式的に示した図である。図1において、1は植物油、2はビーカー、3は湯、4はウォーターバス、5はヒーター、6は温度計である。
【0023】
ここでは、処理対象の植物油1として、68重量%のオレイン酸と、33重量%のリノール酸を主成分とするアプリコットカーネルオイル(以下、植物油と記す)を用いた。この植物油1を、容量200mlのビーカー2に秤量した。なお、植物油1は、搾油後3週間経過したものである。
【0024】
次に、2日以上天日干した後、500Wの電子レンジで1分間処理した桜の葉を、乳鉢を用いて32メッシュの篩を通過するまで磨り潰し、植物油1に加える桜の葉の粉末を調製した。
【0025】
次に、前記のビーカー2に桜の葉の粉末を加え、70℃に温度を保持したウォーターバス4に浸し、植物油1の温度が70℃に到達した後、温度計6を用いて攪拌しながら15分間保持した。その後直ちにビーカー2を水に浸し、室温まで冷却した。ちなみに植物油1の温度が70℃に到達するのに要した時間は、約7分間であった。
【0026】
次に、濾過により植物油1から桜の葉の粉末を除き、臭気について官能試験を実施した。具体的には、25人の被験者に、搾油直後、搾油3週間後、加熱処理後の植物油の臭気をかいでもらい、“不快臭を感じる”、“やや不快臭を感じる”、“不快臭を感じない”、“芳香を感じる”の4等級に分別するという内容である。表1には、その結果を示した。表1から明らかなように、前記の加熱処理により、臭気の改善が認められた。
【0027】
【表1】

【0028】
また、別途に、処理の対象とした植物油について、前記の加熱処理前後の酸化の程度を調べるために、酸価及び過酸化物価を測定した。表2には、それらの結果をまとめて示した。表2からは、前記の条件で処理する限りにおいては、酸化が殆ど進まないことが認められる。
【0029】
【表2】

【0030】
また、ここでは、70℃で15分間処理するという条件での結果を示したが、処理温度の適正範囲を検証するために、処理温度を変えたときの植物油のヨウ素価を測定した。ここでは、処理温度を40℃,50℃,60℃,70℃,80℃,90℃,100℃,110℃,120℃として、やはり15分間の処理を施した。なお、90℃以上の温度領域においては、ウォーターバス4に湯3の代替としてシリコンオイルを用いた。
【0031】
図2は、処理温度とヨウ素価の関係を示した図である。図2によると、70℃前後までは、ヨウ素価の変化は殆ど見られないが、80℃以上の温度領域ではヨウ素価が徐々に低下していく傾向が見られる。つまり、80℃以上の温度領域では酸化による重合反応が無視できず、変色や粘性係数の増加に繋がる虞があることが分かる。しかしながら、常温では、消臭効果が見られないことを別途確認してあるので、本発明の処理における温度の最適範囲は60〜70℃である。
【0032】
次に前記の処理を施した、植物を用いて石鹸を製造する例について説明する。ガラス製の容器に水を180g注ぎ、水酸化ナトリウムを63g秤量して水に溶解した。水酸化ナトリウムの溶解により発熱するので、40℃前後まで冷却し、ラードを200g、ショートニングオイルを100g、前記の植物油を200g、容器に投入し、温度を40℃前後に保持した状態で、約20分間攪拌した。
【0033】
その後、前記の成分の混合液を型に流し込み、発泡スチロール製の保温箱に収納して常温まで放置した。冷却により固化して得られたものを、適当な大きさに切断して乾燥し、石鹸を得た。
【0034】
なお、ここでは、植物油としてアプリコットカーネルオイルを用い、桜の葉の粉末を加えた例を挙げて説明したが、オレイン酸、リノール酸を主成分とする他の植物油に、前記の桜、茶、ウコン、黒豆、胡瓜、茄子、トマト、蓬、枇杷、オレガノ、八角、シナモンから選ばれる植物を加えて熱処理を施しても同様の効果が得られる。
【0035】
以上に説明したように、本発明は、不飽和脂肪酸を主成分とし、不快臭を発する植物油の、用途拡大に寄与するものである。また、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】 植物油の加熱処理の状態を模式的に示した図
【図2】 処理温度とヨウ素価の関係を示した図
【符号の説明】
【0037】
1 植物油
2 ビーカー
3 湯
4 ウォーターバス
5 ヒーター
6 温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレイン酸を50重量%以上及びリノール酸を15重量%以上含む植物油に、植物の一部を添加して加熱してなることを特徴とする植物油。
【請求項2】
前記植物油は、アプリコットカーネルオイルを含むことを特徴とする、請求項1に記載の植物油。
【請求項3】
オレイン酸を50重量%以上及びリノール酸を15重量%以上含む植物油に、植物の一部を添加して、60〜70℃の温度に加熱する工程を有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の植物油の製造方法。
【請求項4】
前記植物は、桜、茶、ウコン、黒豆、胡瓜、茄子、トマト、蓬、枇杷、オレガノ、八角、シナモンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項3に記載の植物油の製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の植物油を原料とする石鹸。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150492(P2010−150492A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−336218(P2008−336218)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(505386834)
【Fターム(参考)】