説明

不斉アミノ化反応用触媒

【課題】不斉アミノ化反応に用いるための不斉触媒及び該触媒の製造のための配位子を提供する。
【解決手段】 下記の一般式(I)(式中、R1はC3-8アルキル基又はアラルキル基を示し、*はS-配置又はR-配置のいずれかの不斉炭素を示す)で表される化合物、及び上記化合物を配位子として有する希土類錯体、好ましくはランタン錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不斉アミノ化反応に用いるための不斉触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
(R)-(-)-2(4-ブロモ-2-フルオロベンジル)-1,2,3,4-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン-4-スピロ-3'-ピロリジン-1,2',3,5'-テトロン(以下、「AS-3201」と呼ぶ場合がある。)は、優れたアルドース還元酵素阻害作用を有し、有望な糖尿病の治療薬として期待されている(J. Med. Chem., 41, pp.4118-4129, 1998)。AS-3201は光学活性体であり、その光学対掌体のイン・ビトロ活性は500分の1以下に落ちることから(上掲文献の第4123頁の表6)、AS-3201を立体選択的に製造する必要がある。従来、AS-3201は3-[(ベンジルオキシカルボニル)アミノ]-3-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジンを光学分割して得られる(R)-(-)-3-[(ベンジルオキシカルボニル)アミノ]-3-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジンを脱保護して鍵中間体となる(R)-(-)-3-アミノ-3-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジンに変換し、この化合物から数工程を経て合成されている(上掲文献の第4121頁のスキーム5:上記の鍵中間体は「化合物37」で表される化合物である)。
【0003】
しかしながら、光学分割を伴う上記の方法では光学対掌体の半分を廃棄する必要が生じることから製造コスト的に不利であり、特に上記の光学分割において用いられるシンコニジンは大量供給が難しいことから、上記の製造方法は工業的に不利であり、不斉合成の手段により立体選択的に上記の鍵中間体を製造する方法の開発が求められている。(R)-(-)-3-アミノ-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジンを立体選択的に製造するためには、3-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジンの3位を立体選択的にアミノ化する方法が考えられるが、従来知られている不斉アミノ化を達成できる触媒の中で上記の3-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジンを出発原料として実用上満足できるエナンチオ選択性を達成できる触媒はなかった。
【非特許文献1】J. Med. Chem., 41, pp.4118-4129, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は不斉アミノ化反応に用いるための不斉触媒及び該触媒の製造のための配位子を提供することにある。また、本発明の別の課題は、上記の不斉アミノ化反応用触媒を用いて、効率的に(R)-(-)-3-アミノ-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジンやその誘導体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、下記の一般式(I)で表される配位子を有するランタンなどの希土類錯体を不斉アミノ化触媒として用いると3-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジンとジアルキルアゾジカルボキシレート化合物とから高いエナンチオ選択性でアミノ付加物を得ることができることを見出した。また、このアミノ付加物を化学変換することにより、上記の鍵中間体である(R)-(-)-3-アミノ-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジンを極めて効率的に製造することができ、安価かつ高収率にAS-3201を製造できることを見出した。本発明はこれらの知見を基にして完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明により、下記の一般式(I):
【化1】

(式中、R1はC3-8アルキル基又はアラルキル基を示し、*はS-配置又はR-配置のいずれかの不斉炭素を示す)で表される化合物、及び該化合物を配位子として有する希土類錯体が提供される。
【0007】
上記発明の好ましい態様として、R1が分枝鎖又は環状C3-8アルキル基である上記化合物又は上記希土類錯体;R1がイソプロピル基、tert-ブチル基、イソブチル基、又はシクロヘキシル基である上記化合物又は上記希土類錯体、及びR1がイソプロピル基である上記化合物又は上記希土類錯体が提供される。希土類元素としてはランタンが好ましい。
また、本発明により上記の希土類錯体を含む不斉アミノ化反応用触媒が提供される。
【0008】
上記の不斉アミノ化反応用触媒を利用した反応として、本発明により、下記の一般式(II):
【化2】

(式中、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立にカルボキシル基の保護基を示す)で表される化合物の製造方法であって、下記の一般式(III):
【化3】

(式中、R2は上記と同義である)で表される化合物と下記の一般式(IV):
R3-O-CO-N=N-CO-O-R4
(式中、R3及びR4は上記と同義である)で表される化合物とを上記の不斉アミノ化反応用触媒の存在下で反応させる工程を含む方法が提供される。
【0009】
上記の方法において、R2、R3、及びR4がアルキル基であることが好ましく、R2がエチル基であり、R3及びR4がtert-ブチル基であることがより好ましい。不斉アミノ化反応用触媒としては、上記一般式(I)においてR1がイソプロピル基である上記化合物を配位子として含む希土類錯体、特にはランタン錯体を用いることが好ましい。ランタン錯体の調製には、好ましくはランタントリイソプロポキシド又は硝酸ランタンなどを用いることができ、硝酸ランタンを用いる場合には塩基の存在下で上記反応を行うことが好ましい。
【0010】
さらに別の観点からは、下記の一般式(V):
【化4】

(式中、R5は水素原子又はカルボキシル基の保護基を示す)で表される化合物の製造方法であって、下記の工程:
(a)上記一般式(III)で表される化合物と上記一般式(IV)で表される化合物とを上記不斉アミノ化反応触媒の存在下で反応させて上記一般式(II)で表される化合物を得る工程;及び
(b)上記工程(a)で得られた上記一般式(II)で表される化合物からCOOR3及びCOOR4を除去した後、N-N結合を切断して上記一般式(V)で表される化合物に変換する工程
を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の不斉アミノ化反応用触媒を用いることにより、従来の触媒では実用的なエナンチオ選択性を達成できなかったアミノ化反応を効率的かつ高い不斉収率で進行させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書において一般式中の立体表記は特に言及しない場合には絶対配置を示す。
R1はC3-8アルキル基又はアラルキル基を示す。R1が示すC3-8アルキル基としては、直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組合せからなるアルキル基を用いることができるが、分枝鎖状、環状、又はそれらの組合せからなるアルキル基が好ましく、分枝鎖状又は環状のアルキル基がより好ましい。例えば、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、若しくはtert-ブチル基などの分枝鎖状C3-4アルキル基、又はシクロペンチル基、シクロヘキシル基、若しくはシクロヘプチル基などの環状C5-7アルキル基が好ましい。これらのうち、イソプロピル基、イソブチル基、又はtert-ブチル基がさらに好ましく、特に好ましいのはイソプロピル基である。
【0013】
R1が示すアラルキル基としては、例えば、1個又は数個、好ましくは1個のアリール基又はヘテロアリール基により置換された直鎖状又は分枝鎖状のC1-4アルキル基を用いることができる。R1が示すアラルキル基を構成するアリール基としては単環式又は縮合多環式の芳香族炭化水素基を用いることができ、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、アントラニル基、又はフェナンスリル基等が挙げられるが、これらに限定されることはない。ヘテロアリール基としては、単環式又は縮合多環式の芳香族ヘテロ環基を用いることができる。環構成ヘテロ原子の個数は特に限定されないが、1個ないし数個、好ましくは1個ないし5個程度である。2個以上の環構成ヘテロ原子を含む場合にはそれらは同一でも異なっていてもよい。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、又はイオウ原子等を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0014】
R1が示すアラルキル基を構成する単環式ヘテロアリール基としては、例えば、2-フリル基、3-フリル基、2-チエニル基、3-チエニル基、1-ピロリル基、2-ピロリル基、3-ピロリル基、2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基、5-オキサゾリル基、3-イソオキサゾリル基、4-イソオキサゾリル基、5-イソオキサゾリル基、2-チアゾリル基、4-チアゾリル基、5-チアゾリル基、3-イソチアゾリル基、4-イソチアゾリル基、5-イソチアゾリル基、1-イミダゾリル基、2-イミダゾリル基、4-イミダゾリル基、5-イミダゾリル基、1-ピラゾリル基、3-ピラゾリル基、4-ピラゾリル基、5-ピラゾリル基、(1,2,3-オキサジアゾール)-4-イル基、(1,2,3-オキサジアゾール)-5-イル基、(1,2,4-オキサジアゾール)-3-イル基、(1,2,4-オキサジアゾール)-5-イル基、(1,2,5-オキサジアゾール)-3-イル基、(1,2,5-オキサジアゾール)-4-イル基、(1,3,4-オキサジアゾール)-2-イル基、(1,3,4-オキサジアゾール)-5-イル基、フラザニル基、(1,2,3-チアジアゾール)-4-イル基、(1,2,3-チアジアゾール)-5-イル基、(1,2,4-チアジアゾール)-3-イル基、(1,2,4-チアジアゾール)-5-イル基、(1,2,5-チアジアゾール)-3-イル基、(1,2,5-チアジアゾール)-4-イル基、(1,3,4-チアジアゾリル)-2-イル基、(1,3,4-チアジアゾリル)-5-イル基、(1H-1,2,3-トリアゾール)-1-イル基、(1H-1,2,3-トリアゾール)-4-イル基、(1H-1,2,3-トリアゾール)-5-イル基、(2H-1,2,3-トリアゾール)-2-イル基、(2H-1,2,3-トリアゾール)-4-イル基、(1H-1,2,4-トリアゾール)-1-イル基、(1H-1,2,4-トリアゾール)-3-イル基、(1H-1,2,4-トリアゾール)-5-イル基、(4H-1,2,4-トリアゾール)-3-イル基、(4H-1,2,4-トリアゾール)-4-イル基、(1H-テトラゾール)-1-イル基、(1H-テトラゾール)-5-イル基、(2H-テトラゾール)-2-イル基、(2H-テトラゾール)-5-イル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基、3-ピリダジニル基、4-ピリダジニル基、2-ピリミジニル基、4-ピリミジニル基、5-ピリミジニル基、2-ピラジニル基、(1,2,3-トリアジン)-4-イル基、(1,2,3-トリアジン)-5-イル基、(1,2,4-トリアジン)-3-イル基、(1,2,4-トリアジン)-5-イル基、(1,2,4-トリアジン)-6-イル基、(1,3,5-トリアジン)-2-イル基、1-アゼピニル基、1-アゼピニル基、2-アゼピニル基、3-アゼピニル基、4-アゼピニル基、(1,4-オキサゼピン)-2-イル基、(1,4-オキサゼピン)-3-イル基、(1,4-オキサゼピン)-5-イル基、(1,4-オキサゼピン)-6-イル基、(1,4-オキサゼピン)-7-イル基、(1,4-チアゼピン)-2-イル基、(1,4-チアゼピン)-3-イル基、(1,4-チアゼピン)-5-イル基、(1,4-チアゼピン)-6-イル基、(1,4-チアゼピン)-7-イル基等の5ないし7員の単環式ヘテロアリール基が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0015】
R1が示すアラルキル基を構成する縮合多環式ヘテロアリール基としては、例えば、2-ベンゾフラニル基、3-ベンゾフラニル基、4-ベンゾフラニル基、5-ベンゾフラニル基、6-ベンゾフラニル基、7-ベンゾフラニル基、1-イソベンゾフラニル基、4-イソベンゾフラニル基、5-イソベンゾフラニル基、2-ベンゾ[b]チエニル基、3-ベンゾ[b]チエニル基、4-ベンゾ[b]チエニル基、5-ベンゾ[b]チエニル基、6-ベンゾ[b]チエニル基、7-ベンゾ[b]チエニル基、1-ベンゾ[c]チエニル基、4-ベンゾ[c]チエニル基、5-ベンゾ[c]チエニル基、1-インドリル基、1-インドリル基、2-インドリル基、3-インドリル基、4-インドリル基、5-インドリル基、6-インドリル基、7-インドリル基、(2H-イソインドール)-1-イル基、(2H-イソインドール)-2-イル基、(2H-イソインドール)-4-イル基、(2H-イソインドール)-5-イル基、(1H-インダゾール)-1-イル基、(1H-インダゾール)-3-イル基、(1H-インダゾール)-4-イル基、(1H-インダゾール)-5-イル基、(1H-インダゾール)-6-イル基、(1H-インダゾール)-7-イル基、(2H-インダゾール)-1-イル基、(2H-インダゾール)-2-イル基、(2H-インダゾール)-4-イル基、(2H-インダゾール)-5-イル基、2-ベンゾオキサゾリル基、2-ベンゾオキサゾリル基、4-ベンゾオキサゾリル基、5-ベンゾオキサゾリル基、6-ベンゾオキサゾリル基、7-ベンゾオキサゾリル基、(1,2-ベンゾイソオキサゾール)-3-イル基、(1,2-ベンゾイソオキサゾール)-4-イル基、(1,2-ベンゾイソオキサゾール)-5-イル基、(1,2-ベンゾイソオキサゾール)-6-イル基、(1,2-ベンゾイソオキサゾール)-7-イル基、(2,1-ベンゾイソオキサゾール)-3-イル基、(2,1-ベンゾイソオキサゾール)-4-イル基、(2,1-ベンゾイソオキサゾール)-5-イル基、(2,1-ベンゾイソオキサゾール)-6-イル基、(2,1-ベンゾイソオキサゾール)-7-イル基、2-ベンゾチアゾリル基、4-ベンゾチアゾリル基、5-ベンゾチアゾリル基、6-ベンゾチアゾリル基、7-ベンゾチアゾリル基、(1,2-ベンゾイソチアゾール)-3-イル基、(1,2-ベンゾイソチアゾール)-4-イル基、(1,2-ベンゾイソチアゾール)-5-イル基、(1,2-ベンゾイソチアゾール)-6-イル基、(1,2-ベンゾイソチアゾール)-7-イル基、(2,1-ベンゾイソチアゾール)-3-イル基、(2,1-ベンゾイソチアゾール)-4-イル基、(2,1-ベンゾイソチアゾール)-5-イル基、(2,1-ベンゾイソチアゾール)-6-イル基、(2,1-ベンゾイソチアゾール)-7-イル基、(1,2,3-ベンゾオキサジアゾール)-4-イル基、(1,2,3-ベンゾオキサジアゾール)-5-イル基、(1,2,3-ベンゾオキサジアゾール)-6-イル基、(1,2,3-ベンゾオキサジアゾール)-7-イル基、(2,1,3-ベンゾオキサジアゾール)-4-イル基、(2,1,3-ベンゾオキサジアゾール)-5-イル基、(1,2,3-ベンゾチアジアゾール)-4-イル基、(1,2,3-ベンゾチアジアゾール)-5-イル基、(1,2,3-ベンゾチアジアゾール)-6-イル基、(1,2,3-ベンゾチアジアゾール)-7-イル基、(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)-4-イル基、(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)-5-イル基、(1H-ベンゾトリアゾール)-1-イル基、(1H-ベンゾトリアゾール)-4-イル基、(1H-ベンゾトリアゾール)-5-イル基、(1H-ベンゾトリアゾール)-6-イル基、(1H-ベンゾトリアゾール)-7-イル基、(2H-ベンゾトリアゾール)-2-イル基、(2H-ベンゾトリアゾール)-4-イル基、(2H-ベンゾトリアゾール)-5-イル基、2-キノリル基、3-キノリル基、4-キノリル基、5-キノリル基、6-キノリル基、7-キノリル基、8-キノリル基、1-イソキノリル基、3-イソキノリル基、4-イソキノリル基、5-イソキノリル基、6-イソキノリル基、7-イソキノリル基、8-イソキノリル基、3-シンノリニル基、4-シンノリニル基、5-シンノリニル基、6-シンノリニル基、7-シンノリニル基、8-シンノリニル基、2-キナゾリニル基、4-キナゾリニル基、5-キナゾリニル基、6-キナゾリニル基、7-キナゾリニル基、8-キナゾリニル基、2-キノキサリニル基、5-キノキサリニル基、6-キノキサリニル基、1-フタラジニル基、5-フタラジニル基、6-フタラジニル基、2-ナフチリジニル基、3-ナフチリジニル基、4-ナフチリジニル基、2-プリニル基、6-プリニル基、7-プリニル基、8-プリニル基、2-プテリジニル基、4-プテリジニル基、6-プテリジニル基、7-プテリジニル基、1-カルバゾリル基、2-カルバゾリル基、3-カルバゾリル基、4-カルバゾリル基、9-カルバゾリル基、2-(α-カルボリニル)基、3-(α-カルボリニル)基、4-(α-カルボリニル)基、5-(α-カルボリニル)基、6-(α-カルボリニル)基、7-(α-カルボリニル)基、8-(α-カルボリニル)基、9-(α-カルボリニル)基、1-(β-カルボニリル)基、3-(β-カルボニリル)基、4-(β-カルボニリル)基、5-(β-カルボニリル)基、6-(β-カルボニリル)基、7-(β-カルボニリル)基、8-(β-カルボニリル)基、9-(β-カルボニリル)基、1-(γ-カルボリニル)基、2-(γ-カルボリニル)基、4-(γ-カルボリニル)基、5-(γ-カルボリニル)基、6-(γ-カルボリニル)基、7-(γ-カルボリニル)基、8-(γ-カルボリニル)基、9-(γ-カルボリニル)基、1-アクリジニル基、2-アクリジニル基、3-アクリジニル基、4-アクリジニル基、9-アクリジニル基、1-フェノキサジニル基、2-フェノキサジニル基、3-フェノキサジニル基、4-フェノキサジニル基、10-フェノキサジニル基、1-フェノチアジニル基、2-フェノチアジニル基、3-フェノチアジニル基、4-フェノチアジニル基、10-フェノチアジニル基、1-フェナジニル基、2-フェナジニル基、1-フェナントリジニル基、2-フェナントリジニル基、3-フェナントリジニル基、4-フェナントリジニル基、6-フェナントリジニル基、7-フェナントリジニル基、8-フェナントリジニル基、9-フェナントリジニル基、10-フェナントリジニル基、2-フェナントロリニル基、3-フェナントロリニル基、4-フェナントロリニル基、5-フェナントロリニル基、6-フェナントロリニル基、7-フェナントロリニル基、8-フェナントロリニル基、9-フェナントロリニル基、10-フェナントロリニル基、1-チアントレニル基、2-チアントレニル基、1-インドリジニル基、2-インドリジニル基、3-インドリジニル基、5-インドリジニル基、6-インドリジニル基、7-インドリジニル基、8-インドリジニル基、1-フェノキサチイニル基、2-フェノキサチイニル基、3-フェノキサチイニル基、4-フェノキサチイニル基、チエノ[2,3-b]フリル基、ピロロ[1,2-b]ピリダジニル基、ピラゾロ[1,5-a]ピリジル基、イミダゾ[11,2-a]ピリジル基、イミダゾ[1,5-a]ピリジル基、イミダゾ[1,2-b]ピリダジニル基、イミダゾ[1,2-a]ピリミジニル基、1,2,4-トリアゾロ[4,3-a]ピリジル基、1,2,4-トリアゾロ[4,3-a]ピリダジニル基等の8ないし14員の縮合多環式ヘテロアリール基が挙げられるが、これらに限定されることはない。
R1が示すアラルキル基としては、例えば、ベンジル基又は3-インドリルメチル基などを用いることができるが、これらに限定されることはない。
【0016】
上記一般式(I)で表される化合物は、側鎖としてR1を有する光学活性L又はR-アミノ酸を原料とし、該アミノ酸のカルボキシル基と2-アミノフェノールのアミノ基とを縮合して得られる化合物に対してサリチル酸を縮合させることにより製造することができる。必要に応じて該アミノ酸のアミノ基又は2-アミノフェノールの水酸基を適宜の保護基で保護しておくことができる。保護基については、Greenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することができる。アミノ基の保護基としては、例えば、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルカノイル基、又はアリールカルボニル基などを挙げることができる(上記のアリールオキシカルボニル基又はアリールカルボニル基においてアリール環は置換又は無置換であってもよく、置換基を有する場合にはハロゲン原子やアルコキシ基などが挙げられる)。これらのうち、アルコキシカルボニル基が好ましい。アルコキシカルボニル基としては、直鎖又は分枝鎖状のC1-6アルコキシ基で構成されるアルコキシカルボニル基が好ましく、より好ましいのはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、又はtert-ブトキシカルボニル基であり、特に好ましいのはtert-ブトキシカルボニル基である。水酸基の保護基としては、ベンジル基などのアラルキル基、ベンゾイル基、トリアルキルシリル基などを用いることができるが、ベンジル基が好ましい。
【0017】
この縮合反応はアミノ基とカルボキシル基とを反応させる通常のアミド形成反応により行うことができ、例えば、活性エステル化法、混合酸無水物法、又は縮合法など適宜の方法により行われる。活性エステル化法は、溶媒中、カルボン酸を活性エステル化剤と反応させ、活性エステルを製造した後、アミノ基と反応させることによって行われる。使用される溶媒としては、不活性であれば特に限定はないが、例えば、メチレンクロリド、クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素類、エーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド類、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、酢酸エチルのようなエステル類、又はこれらの混合溶媒が好適である。活性エステル化剤としては、例えば、N-ヒドロキシサクシイミド、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3- ジカルボキシイミドのようなN-ヒドロキシ化合物類;1,1'-オキザリルジイミダゾール、N,N'- カルボニルジイミダゾールのようなジイミダゾール化合物類;2,2'-ジピリジルジサルファイドのようなジサルファイド化合物類;N,N'-ジサクシンイミジルカーボネートのようなコハク酸化合物類;N,N'-ビス(2- オキソ-3- オキサゾリジニル)ホスフィニッククロライドのようなホスフィニッククロライド化合物類;N,N'-ジサクシンイミジルオキザレート(DSO)、N,N'-ジフタルイミドオキザレート(DPO)、N,N'-ビス(ノルボルネニルサクシンイミジル)オキザレート(BNO)、1,1'- ビス(ベンゾトリアゾリル)オキザレート(BBTO)、1,1'- ビス(6- クロロベンゾトリアゾリル)オキザレート(BCTO)、1,1'- ビス(6-トリフルオロメチルベンゾトリアゾリル)オキザレート(BTBO)のようなオキザレート化合物類を挙げることができ、好適には、N,N'-カルボニルジイミダゾールのようなジイミダゾール化合物類を挙げることができる。
【0018】
活性エステルとアミノ基との反応は、例えば、アゾジカルボン酸ジエチル−トリフェニルホスフィンのようなアゾジカルボン酸ジ低級アルキル-トリフェニルホスフィン類、N-エチル-5-フェニルイソオキサゾリウム-3'-スルホナートのようなN-低級アルキル-5- アリールイソオキサゾリウム-3'-スルホナート類、ジエチルオキシジフォルメート(DEPC)のようなオキシジフォルメート類、N',N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC) のようなN',N'-ジシクロアルキルカルボジイミド類、ジ-2-ピリジルジセレニドのようなジヘテロアリールジセレニド類、トリフェニルホスフィンのようなトリアリールホスフィン類、p-ニトロベンゼンスルホニルトリアゾリドのようなアリールスルホニルトリアゾリド類、2-クロル-1- メチルピリジニウム ヨーダイドのような2-ハロ-1- 低級アルキルピリジニウムハライド及びジフェニルホスホリルアジド(DPPA)のようなジアリールホスホリルアジド類、N,N'-カルボジイミダゾール(CDI) のようなイミダゾール誘導体、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)のようなベンゾトリアゾール誘導体、N-ヒドロキシ-5- ノールボルネン-2,3- ジカルボキシイミド(HONB)のようなジカルボキシイミド誘導体、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC) のようなカルボジイミド誘導体、1-プロパンホスホン酸環状無水物(T3P)のようなホスホン酸環状無水物のような縮合剤の存在下に好適に行われる。好適には1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC) のようなカルボジイミド誘導体、又は1-プロパンホスホン酸環状無水物(T3P)のようなホスホン酸環状無水物を用いることができる。活性エステルの調製のための反応温度は-10℃ないし室温であり、活性エステル化合物とアミノ基との反応は室温付近であり、反応時間は30分ないし10時間程度である。
【0019】
混合酸無水物法は、カルボン酸の混合酸無水物を製造した後、アミノ基を反応させることにより行われる。縮合法はカルボン酸とアミンとを前記の縮合剤の存在下で直接反応させることによって行なうことができ、上記の活性エステルを製造する反応と同様にして行われる。また、縮合は不活性溶媒中でカルボキシル基を酸ハライドに変換した後、得られた酸ハライドとアミンとを反応させることによって行うこともできる。
【0020】
本発明の希土類錯体は、上記の一般式(I)で表される化合物と希土類化合物とを反応させることにより調製することができる。一般的には、上記の一般式(I)で表される化合物と希土類化合物とを不斉アミノ化を行なうための反応系内に添加して、反応系内において用時調製することができる。希土類元素としては、例えば、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、及びランタノイドに属する15元素(原子番号57〜71の15元素:ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu))を挙げることができ、好ましくはランタノイドであり、特に好ましいのはランタンである。本発明の希土類錯体を調製するための希土類化合物は特に限定されず、例えば希土類塩化物、希土類臭化物、希土類フッ化物、希土類炭酸塩、希土類硫酸塩、希土類硝酸塩、希土類リン酸塩、希土類シュウ酸塩、希土類酸化物、希土類窒化物、希土類硫化物、希土類鉄ガーネット、希土類ホウ化物、希土類有機化合物などを用いることができるが、これらに限定されることはない。
【0021】
例えばランタン錯体を調製する場合には、ランタントリイソプロポキシドなどのランタントリアルコキシ化合物又はランタントリフェノキシドなどのランタントリフェノキシ化合物など、ランタントリスヘキサメチルジシラジド又は水素化ランタン、あるいは硝酸ランタンなどを用いることができる。硝酸ランタンには無水物及びいくつかの種類の水和物の存在が知られており、例えば無水硝酸ランタンのほか、硝酸ランタン6水和物など任意の水和物を用いてもよい。希土類錯体の調製は、一般的には不活性ガスの存在下において溶媒中で-50℃から室温程度の温度で行なうことができる。溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、ジメチルホルムアミドやホルムアミドなどのアミド系溶媒を用いることができるが、これらに限定されることはない。
【0022】
本発明の希土類錯体は、不斉アミノ化反応触媒として用いることができる。本発明の触媒を用いて行なうことができる不斉アミノ化の種類は特に限定されないが、一般的にはβ-ケトエステル化合物とアゾジカルボキシレート化合物とを用いてβ-ケトエスエル化合物のα-位に2個の窒素原子がそれぞれアルコキシカルボニル基などのカルボニル保護基で保護されたヒドラジニル基を導入する反応が挙げられる。
【0023】
本発明の触媒を用いて行なうことができる典型的な不斉アミノ化反応として、上記一般式(III)で表される化合物と上記一般式(IV)で表される化合物とを本発明の触媒の存在下で反応させて上記一般式(II)で表される化合物を得る反応を例示することができる。以下、この反応について具体的に説明するが、本発明の触媒の用途はこの特定の反応に限定されることはない。
【0024】
上記の一般式(II)ないし(IV)で表される化合物において、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立にカルボキシル基の保護基を示すが、カルボキシル基の保護基としては、例えばGreenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することができる。R2が示すカルボキシル基の保護基としては、例えば、C1-6アルキル基(該アルキル基としては直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組合せからなるアルキル基のいずれでもよい)、アラルキル基(ベンジル基など)、アルキルシリル基(トリメチルシリル基など)などが挙げられるが、これらのうちC1-6アルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基などがより好ましく、特に好ましいのはエチル基である。R3及びR4が示すカルボキシル基の保護基としてはC1-6アルキル基(該アルキル基としては直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組合せからなるアルキル基のいずれでもよい)、アラルキル基(ベンジル基など)、アルキルシリル基(トリメチルシリル基など)などを用いることができ、特にtert-ブチル基などが好ましい。R3及びR4が示すカルボキシル基の保護基は同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。R3及びR4が共にtert-ブチル基であることが特に好ましい。
【0025】
この反応は、例えば不活性溶媒中で行なうことができる。溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、ジメチルホルムアミドやホルムアミドなどのアミド系溶媒を用いることができる。これらのうち、酢酸エチルなどのエステル系溶媒又はテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒が好ましい。反応温度は、例えば、-50℃〜室温程度であり、反応時間は数時間ないし数日程度である。
【0026】
この反応は、一般的には上記の一般式(I)で表される化合物と希土類化合物とを反応系に添加して錯体を形成させ、そこに反応原料となる一般式(III)及び(IV)で表される化合物を添加することにより行なうことができるが、各試薬の添加順序は特に限定されることはない。希土類化合物に対する一般式(I)で表される化合物の比率は特に限定されないが、例えば、希土類化合物x mol%と一般式(I)で表される化合物y mol%を用いる場合の好ましい比率(x/y)は1/1〜1/5程度であり、1/1.5〜1/2の範囲であることが光学収率を高める観点から好ましい。一般的には希土類化合物を10 mol%程度の濃度とし、一般式(I)で表される化合物を20 mol%程度の濃度として反応系に添加することが好ましい。一般式(III)及び(IV)で表される化合物の比率も特に限定されないが、一般式(III)で表される化合物に対して一般式(IV)で表される化合物を1〜1.5当量程度の範囲で用いることが好ましい。
【0027】
反応は必要に応じて酸又は塩基などの添加剤の存在下に行なってもよい。添加剤の種類は特に限定されないが、例えば酸又は塩基などを用いることができる。酸としては、例えば、トリフルオロ酢酸、安息香酸、p-tert-ブチルフェノール、m-ジメチルアミノフェノール、又はp-アミノフェノールなどを用いることができ、塩基としてはトリエチルアミンやバリン t-ブチルエステルなどを用いることができる。酸又は塩基を用いる場合の濃度は特に限定されないが、例えば、1〜30 mol%程度の濃度で用いることができる。特に、硝酸ランタンなどの中性塩を用いて錯体を形成させる場合には、塩基の存在下で反応を行うことが好ましい。塩基としてはバリン t-ブチルエステルなどを用いることが好適であり、例えば一般式(I)で表される化合物に対して3モル当量程度の塩基の存在下で反応を行うことが好ましい。硝酸ランタンは容易に入手可能であり、ランタントリイソプロポキシドに比べて極めて安価であることから、工業的な反応を行う場合に適している。また、硝酸ランタンを用いて調製した触媒を塩基を組合わせて反応を行うことにより、不斉アミノ化反応を高い再現性で行うことができ、かつ、極めて少ない触媒量で短時間に反応を行うことができる。
【0028】
上記の反応により得られた一般式(II)で表される化合物をN-N結合切断反応に付することにより、AS-3201の製造のための鍵中間体となる(R)-(-)-3-アミノ-3-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジンなどを含む一般式(V)で表される化合物を製造することができる。一般式(V)で表される化合物においてR5が示すカルボキシル基の保護基としては、上記のR2において説明したものを用いることができ、好ましくはエチル基を用いることができる。この反応は、例えば、エチル (R)-(-)-3-アミノ-3-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジン-3-カルボキシレートの酢酸エチル溶液に4規定塩化水素酢酸エチル溶液を加え、室温で24時間撹拌し、酢酸溶媒下に酸化白金などを触媒として反応させればよい。一般式(I)で表される化合物としてR-配置の化合物を用いることにより一般式(II)で表される所望の立体を有する化合物を製造することができ、その後、窒素上の保護基の脱保護及びN-N結合切断反応を行うことによりAS-3201の製造のための鍵中間体となる(R)-(-)-3-アミノ-3-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジンなどを含む一般式(V)で表される化合物を製造することができる。
【0029】
なお、一般式(V)で表される化合物においてR5がエチル基であるエチル (R)-(-)-3-アミノ-3-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジン-3-カルボキシレートはJ. Med. Chem., 41, pp.4118-4129, 1998の第4121頁のスキーム5中の「化合物37」で表される化合物であり、この化合物からAS-3201を上記文献に記載の方法に従って容易に製造することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1:配位子の合成(R1がイソプロピル基である一般式(I)の化合物の合成)
100 mLのナス型フラスコにN-tert-ブチルオキシカルボニル-L-バリン(1.400 g, 6.44 mmol)、2-(O-ベンジルオキシ)アミノフェノール(1.284 g, 6.44 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1.017 g, 6.44 mmol)を加え、32 mLの塩化メチレンに溶解させた。室温にてトリエチルアミン(1.077 mL, 7.73 mmol)を加えて撹拌し、0℃に冷却した。0℃にてN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノ)プロピルカルボジイミド塩酸塩(1.482 g, 7.73 mmol)を加え、0℃にて一時間、さらに室温にて9時間撹拌した。反応液に1規定塩酸(40 mL)を加え、エーテルで抽出した。エーテル層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、濃縮後に得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=6/1-4/1)にて精製し、減圧濃縮及び乾燥の後、無色無定型晶質体として(2S)-N-(2-ベンジルオキシ)フェニル-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-2-イソプロピルアセトアミド(2.292g, 収率89%)を得た。
【0031】
得られた生成物(2.292 g, 5.751 mmol)を塩化メチレン(5 mL)に溶解し、0℃に冷却した。この溶液に4規定塩化水素ジオキサン溶液を加え、0°Cで2時間撹拌し、さらに室温で1時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、得られた固形残渣にエーテルを加え、不溶性成分を濾取してエーテルで十分に洗浄した。減圧乾燥後、(2S)-2-アミノ-N-(2-ベンジルオキシ)フェニル-2-イソプロピルアセトアミド 塩酸塩(1.890g, 収率98%)を無色粉末として得た。
【0032】
得られた塩酸塩(1.890 g, 5.644 mmol)の塩化メチレン(28 mL)懸濁液に、サリチル酸(779.5 mg, 5.644 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1.124 g, 7.34 mmol)、トリエチルアミン(1.573 mL, 11.288 mmol)を順次加え、0℃に冷却した。得られた溶液に、N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノ)プロピルカルボジイミド塩酸塩(1.403 g, 7.34 mmol)を加え、0℃で1時間撹拌し、室温で6時間撹拌した。反応溶液に飽和クエン酸水溶液を加え、酢酸エチルで3回抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過、減圧濃縮後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1-5/1)にて精製し、(2S)-N-(2-ベンジルオキシ)フェニル-2-サリチロイルアミノ-2-イソプロピルアセトアミド (1.690 g, 収率72%)を無色無定型晶質体として得た。
【0033】
得られた生成物(1.690 g, 4.038 mmol)をメタノール(15 mL)に溶解し、10%パラジウム-炭素(169 mg)を加え、水素雰囲気下にて室温で6時間撹拌した。パラジウム-炭素をセライト濾過し、濾液を減圧濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製、得られた無色固体をエーテル/ヘキサンで再結晶し目的配位子(1.292g, 収率97%)を白色粉末として得た。
1H NMR (CDCl3): δ 1.08 (d, J = 2.1 Hz, 3H), 1.10 (d, J = 2.4 Hz, 3H), 2.29-2.36 (m, 1H), 4.65 (dd, J = 7.8, 8.0 Hz, 1H), 6.72 (dd, J = 7.3, 7.8 Hz, 1H), 6.77 (dd, 7.3 Hz, 7,8 Hz 1H), 6.84-6.92 (m, 2H), 6.99 (dd, J = 7.3, 7.8 Hz, 1H), 7.26 (dd, J = 7.3, 8.2 Hz, 1H), 7.52 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.61 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.13 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 9.07 (brs, 1H), 11.50 (brs, 1H).
【0034】
同様にして、R1がsec-ブチル基、シクロヘキシル基、tert-ブチル基、3-インドリルメチル基、ベンジル基、又はイソブチル基である化合物を製造した。
R1がsec-ブチル基である化合物
1H NMR (CDCl3): δ 0.98 (dd, J = 6.1, 6.8 Hz, 3H), 1.08 (d, J = 8.4 Hz, 3H), 1.22-1.35 (m, 1H), 1.66-1.73 (m, 1H), 2.11-2.17 (m, 1H), 4.66 (dd, J = 6.9, 8.3 Hz, 1H), 6.85-6.89 (m, 2H), 6.98-7.02 (m, 3H), 7.13 (dd, J = 7.6, 7.6 Hz, 1H), 7.21 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.40-7.49 (m, 2H), 8.04 (brs, 1H), 8.23 (s, 1H), 11.83 (s, 1H).
【0035】
R1がシクロヘキシル基である化合物
1H NMR (CDCl3): δ 1.11-1.25 (m, 5H), 1.64 (brd, J = 12.8 Hz, 1H), 1.73-1.76 (m, 2H), 1.83 (brd, J = 12.2 Hz, 1H), 1.93 (brd, J = 12.2 Hz, 1H), 1.99-2.03 (m, 1H), 4.63 (dd, J = 8.0, 8.3 Hz, 1H), 6.73 (dd, J = 7.3, 7.3 Hz, 1H), 6.80 (dd, J = 7.3, 7.3 Hz, 1H), 6.89 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 6.94 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.04 (dd, J = 8.3, 8.3 Hz, 1H), 7.29-7.33 (m, 1H), 7.47 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.51 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.71 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.60 (brs, 1H), 8.77 (s, 1H), 11.6 (s, 1H).
【0036】
R1がtert-ブチル基である化合物
1H NMR (CDCl3): δ 1.17 (s, 9H), 4.67 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 6.91 (dd, J = 7.3, 8.0 Hz, 2H), 6.98-7.05 (m, 3H), 7.15-7.23 (m, 3H), 7.44-7.49 (m, 2H), 7.74-7.77 (m, 2H).
R1が3-インドリルメチル基である化合物
1H NMR (CDCl3): δ 3.30 (dd, J = 8.5, 14.5 Hz, 1H), 3.60 (dd, J = 9.9, 14.5 Hz, 1H), 5.12-5.17 (m, 1H), 6.59 (s, 8.0 Hz, 1H), 6.75 (dd, J = 8.0, 8.0 Hz, 1H), 6.80 (dd, J = 7.8, 7.8 Hz, 1H), 6.94 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 6.98 (d, J = 8.2 Hz. 1H), 7.02-7.08 (m, 1H), 7.12-7.20 (m, 3H), 7.22-7.26 (m, 1H), 7.37-7.42 (m, 2H), 7.72 (brs, 1H), 7.79 (d, J = 6.6 Hz, 1H), 8.10 (s, 1H), 8.17 (brs, 1H), 11.98 (s, 1H).
【0037】
R1がベンジル基である化合物
1H NMR (DMSO): δ 3.12 (dd, J = 9.3, 13.5 Hz, 1H), 3.24 (dd, 4.6, 13.5 Hz, 1H), 5.04 (brs, 1H), 6.77 (dd, J = 7.5, 7.5 Hz, 1H), 6.84-6.95 (m, 4H), 7.17 (dd, J = 7.0, 7.0 Hz, 1H), 7.26 (dd, J = 7.5, 7.5 Hz, 2H), 7.37 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 7.82 (brd, J = 8.0 Hz, 1H), 7.89 (brd, J = 7.3 Hz, 1H), 9.03 (brs, 1H), 9.45 (brs, 1H), 9.82 (brs, 1H), 11.9 (brs, 1H).
R1がイソブチル基である化合物
1H NMR (CDCl3): δ 1.00 (d, J = 6.7 Hz, 3H), 1.02 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 1.22-1.30 (m, 1H), 1.76-1.83 (m, 2H), 1.92-1.95 (m, 1H), 4.87 (brd, J = 6.4 Hz, 1H), 6.83-6.89 (m, 3H), 6.98 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.09-7.11 (m, 1H), 7.18 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 7.40-7.47 (m, 2H), 8.54 (brs, 1H).
【0038】
例2:不斉アミノ化反応
一般式(II)においてR2がエチル基であり、R3及びR4が共にtert-ブチル基である化合物を下記の方法で合成した。
20 mLの反応用試験管を減圧下加熱乾燥し、放冷後アルゴン雰囲気下とし、0.2 M ランタントリイソプロポキシドのテトラヒドロフラン(THF)溶液 50 mL(0.01 mmol)、例1で得たR1がイソプロピル基である一般式(I)の化合物の 0.1 M THF溶液を200 mL(0.02 mmol)加えた後、室温で1時間攪拌した。30分ほどすると反応液の白濁が認められた。その後、THF溶媒をアルゴン雰囲気下にて減圧留去したのち、室温で減圧乾燥を1時間行った。次に、酢酸エチル(AcOEt)を700 mL加えたのち、3-エトキシカルボニルスクシンイミド0.1 mmolをAcOEt 150 mlに溶かして加えた。得られた白濁溶液を0 ℃に冷却後、ジ-tert-ブチルアゾジカルボキシレート0.12 mmolをAcOEt 150 mlに溶かして加えた。反応は通常10時間ほどで完結し、反応終了をTLCで確認した。1N塩酸水溶液約3 mLを加え、酢酸エチル5 mLで3回抽出した。続いて、有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10 mL、飽和食塩水10 mLで洗浄し、得られた有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧留去し、減圧乾燥して粗生成物を得た。
【0039】
得られた粗生成物をジベンジルエーテルを内部標準物質に用いて1H NMR(CDCl3)により原料の消失率を求めた。光学純度(ee)決定のため粗生成物の一部をPTLCによって精製を行い、HPLCにより光学純度を決定した(85-92% ee)。条件は以下の通りである。
カラム:ダイセル化学CHIRALPAK AD-H (4.6Φx250mm)
溶媒:n-ヘキサン/メタノール = 95/5
流速:1.0ml/min
カラム温度:40℃
ピーク検出:210 nm
保持時間:9.0 min ((-)鏡像体), 12.5 min((+)鏡像体)
【0040】
同様にして、上記の各配位子を用いて調製したランタン錯体を不斉アミノ化触媒として用いて上記の反応を行い、下記の表1に示す結果を得た(表中、cyclohexylはシクロヘキシル基、CH2-3-indoleは3-インドリルメチル基を示す)。
【表1】

【0041】
例3
上記例2と同様にしてR1がイソプロピルである希土類錯体を調製し、例2と同様にして不斉アミノ化反応を行なった。結果を表2に示す。
【表2】

【0042】
例4
各種の添加剤の存在下で例2と同様の不斉アミノ化反応を行い、添加剤の影響を調べた。結果を表3に示す。各添加剤の濃度は5〜10 mol%の範囲である。
【表3】

【0043】
例5:脱アミノ化反応
例2で得た化合物(一般式(II)においてR2がエチル基であり、R3及びR4が共にtert-ブチル基である化合物)をN-N結合切断反応に付して、一般式(V)においてR5がエチル基である化合物を以下のようにして合成した。
エチル3-[N,N'-ビス(tert-ブチルオキシカルボニル)ヒドラジノ]-2,5-ジオキシピロリジン-3-カルボキシレート(67.4 mg)の酢酸エチル(0.5 mL)溶液に4規定塩化水素酢酸エチル溶液(1 mL)を加え、室温で11時間半攪拌した。不溶性成分を濾取し、エーテルで洗浄することにより、エチル 3-ヒドラジノ-2,5-ジオキソピロリジン-3-カルボキシレート一塩酸塩(19.3 mg, 48%)を粉末として得た。
【0044】
得られたエチル 3-ヒドラジノ-2,5-ジオキソピロリジン-3-カルボキシレート一塩酸塩(19.2 mg)、酢酸(1 mL)、及び水(0.5 mL)の混合物に酸化白金(3.7 mg)を加え、これを水素雰囲気下(常圧)、50℃で2時間激しく攪拌した。反応混合物をセライト濾過し、少量の酢酸でセライトを洗浄した。濾液と洗液の混合溶液に酢酸ナトリウム(12 mg)を加えて濃縮した。残留する酢酸と水を取り除くために残渣にトルエンを加えて再度、濃縮した。残渣に酢酸エチルを加えて不溶物を濾取し、酢酸エチル溶液を濃縮して得られる組生成物をPTLC(塩化メチレン/メタノール=20/1)で精製し、目的生成物(S)-(+)-3-アミノ-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジン(9.3 mg, 62%)を得た。
【0045】
なお、上記例2では例1においてN-tert-ブチルオキシカルボニル-L-バリンを出発原料として得たR1がイソプロピル基である一般式(I)の化合物を配位子として用いて不斉アミノ化を行なっており、そのアミノ化生成物を上記の方法によりN-N結合の切断をすることにより(S)-(+)-3-アミノ-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジンが得られている。従って、AS-3201の製造のための鍵中間体である(R)-(-)-3-アミノ-(エトキシカルボニル)-2,5-ジオキソピロリジンは、N-tert-ブチルオキシカルボニル-D-バリンを出発原料として用いて例1の方法により配位子を製造し、その配位子を用いて3-エトキシカルボニルスクシンイミドの不斉アミノ化を行い、得られたアミノ化生成物を上記の方法に従って脱アミノ化することにより原理的に同一の化学収率及び光学収率で得ることができる。
【0046】
例6:不斉アミノ化反応
500 mLのナス型フラスコに空気雰囲気下、硝酸ランタン6水和物(La(NO3)3・6H2O, 126 mg, 0.292 mmol)、D-バリン由来の一般式(I)で表されるR-配置の化合物(R1がイソプロピル基である化合物、96 mg, 0.292 mmol)を導入し、酢酸エチル(1.46 mL)を加えて撹拌した。得られた透明溶液にD-バリン-tert-ブチルエステル(167μL, 0.876 mmol)加えると反応液が徐々に白濁した。次に3-エトキシカルボニルスクシンイミド(10 g, 58.4 mmol)の酢酸エチル溶液(60 ml)を加えると透明な溶液が得られた。得られた溶液を0 ℃に冷却後、ジ-tert-ブチルアゾジカルボキシレート(16.1 g, 70.08 mmol)の酢酸エチル溶液(50 mL)を加えて反応を開始させた。TLCで原料の消失を確認し(60 分)、1N塩酸水溶液約80 mLを加えて分液し、水相を酢酸エチル100 mLで1回抽出した。続いて、有機相を飽和食塩水100 mLで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後に減圧留去し、減圧乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/シクロヘキサン/酢酸エチル = 4/4/1)により精製し、(-)-鏡像体である目的物(一般式(II)においてR2がエチル基であり、R3及びR4が共にtert-ブチル基である化合物)を得た(23.4 g, 収率 99%)。HPLCにより光学純度を決定した(90% ee)。条件は以下の通りである。
カラム:ダイセル化学CHIRALPAK AD-H (4.6Φx250 mm)
溶媒:n-ヘキサン/メタノール = 95/5
流速:1.0 ml/min
カラム温度:40 ℃
ピーク検出:210 nm
保持時間:9.0 min ((-)-鏡像体), 12.5 min ((+)-鏡像体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】

(式中、R1はC3-8アルキル基又はアラルキル基を示し、*はS-配置又はR-配置のいずれかの不斉炭素を示す)で表される化合物。
【請求項2】
R1が分枝鎖又は環状C3-8アルキル基である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物を配位子として有する希土類錯体。
【請求項4】
希土類元素がランタンである請求項3に記載の希土類錯体。
【請求項5】
請求項3に記載の希土類錯体を含む不斉アミノ化反応用触媒。
【請求項6】
R1がイソプロピル基であるR-配置の化合物を配位子として含むランタン錯体を含む請求項5に記載の不斉アミノ化反応用触媒。
【請求項7】
下記の一般式(II):
【化2】

(式中、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立にカルボキシル基の保護基を示す)で表される化合物の製造方法であって、下記の一般式(III):
【化3】

(式中、R2は上記と同義である)で表される化合物と下記の一般式(IV):
R3-O-CO-N=N-CO-O-R4
(式中、R3及びR4は上記と同義である)で表される化合物とを請求項6に記載の不斉アミノ化反応用触媒の存在下で反応させる工程を含む方法。
【請求項8】
R2、R3、及びR4がアルキル基である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該不斉アミノ化反応用触媒をランタントリイソプロポキシドを用いて調製する請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
該不斉アミノ化反応用触媒を硝酸ランタンを用いて調製し、塩基の存在下に不斉アミノ化反応を行う請求項7又は8に記載の方法。
【請求項11】
下記の一般式(V):
【化4】

(式中、R5は水素原子又はカルボキシル基の保護基を示す)で表される化合物の製造方法であって、下記の工程:
(a)請求項7に記載の一般式(III)で表される化合物と請求項7に記載の一般式(IV)で表される化合物とを請求項6に記載の不斉アミノ化反応触媒の存在下で反応させて請求項7に記載の一般式(II)で表される化合物を得る工程;及び
(b)上記工程(a)で得られた上記一般式(II)で表される化合物からCOOR3及びCOOR4を除去した後、N-N結合を切断して上記一般式(V)で表される化合物に変換する工程
を含む方法。

【公開番号】特開2008−285469(P2008−285469A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31321(P2008−31321)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年2月1日 インターネットアドレス「http://nenkai.pharm.or.jp/127/pc/ipdfview.asp?i=1774」に発表
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】