説明

不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法

【課題】プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール又はメチル第三級ブチルエーテルからそれぞれに対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を高収率で製造でき、且つ、触媒成形体の機械的強度が優れた触媒の製造方法の提供。
【解決手段】プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール又はメチル第三級ブチルエーテルを分子状酸素により気相接触酸化し、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン、ビスマス及び鉄を含む成形触媒の製造方法であって、触媒成分を含む粒子に、グルコース単位及びマンノース単位を含む重合体を加えて成形することを特徴とする不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール(以下、「TBA」ともいう)又はメチル第三級ブチルエーテル(以下、「MTBE」ともいう)を分子状酸素を用いて気相接触酸化することにより、それぞれに対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に使用する機械的強度に優れ、且つ、反応性に優れた触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロピレンを気相接触酸化してアクロレイン及びアクリル酸を製造する際に用いる触媒や、イソブチレン、TBA又はMTBEを気相接触酸化してメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に用いる触媒及びその製造方法については数多くの提案がなされている。
【0003】
これらの提案の中で、触媒の機械的強度を付与する方法として、例えば、触媒成分にウィスカーを添加して賦形する方法(特許文献1)、触媒成分に平均粒子径が1〜10nmのシリカゾルを無水ケイ酸として1〜10重量%添加して賦形する方法(特許文献2)及びシリカゾルを無水ケイ酸として1〜6重量部及び長さが30〜300μmの無機繊維を添加して賦形する方法(特許文献3)が報告されている。
【0004】
しかしながら、上記方法で得られた触媒成形体では機械的強度は改良されるが、目的とする不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸の収率はまだ十分ではない為、より高い機械的強度を有し、且つ、高収率で目的生成物を得ることができる触媒成形体及びその製造方法の開発が望まれている。
【0005】
一方、高収率で目的生成物を得ることができる触媒を得る方法として、例えば、少なくとも、粘度が5,000mPa・s以上25,000mPa・s以下の高粘度有機バインダー及び粘度が10mPa・s以上5,000mPa・s未満の低粘度有機バインダーを含む有機バインダーを使用して触媒成分を成形する方法(特許文献4)が提案されている。
【0006】
しかしながら、上記方法で得られた触媒成形体では目的とする不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸の収率は改良されるが、触媒成形体の機械的強度はまだ十分ではなく、より高い機械的強度を有し、且つ、高収率で目的生成物を得ることができる触媒成形体ならびにその製造方法の開発が望まれている。
【特許文献1】特開昭59−183832号公報
【特許文献2】特開平7−16463号公報
【特許文献3】特開平9−52053号公報
【特許文献4】国際公開第2005/058497号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、プロピレン、イソブチレン、TBA又はMTBEからそれぞれに対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を高収率で製造でき、且つ、触媒成形体の機械的強度が優れた触媒の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール又はメチル第三級ブチルエーテルを分子状酸素により気相接触酸化し、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン、ビスマス及び鉄を含む成形触媒の製造方法であって、触媒成分を含む粒子に、グルコース単位及びマンノース単位を含む重合体を加えて成形することを特徴とする不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械的強度が優れた成形触媒を製造することができ、前記成形触媒を用いることにより、プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール又はメチル第三級ブチルエーテルを分子状酸素により気相接触酸化して、高収率で不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の方法で製造される成形触媒(以下、「触媒」という)は、プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール又はメチル第三級ブチルエーテルを分子状酸素により気相接触酸化し、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いられるものである。反応原料は一種を用いてもこれら二種以上を組合わせて用いてもよい。ここで不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸とは、具体的には、反応原料がプロピレンの場合にはアクロレイン及びアクリル酸を指し、それ以外の反応原料の場合にはメタクロレイン及びメタクリル酸を指す。なお、触媒組成や反応条件によっては不飽和アルデヒド又は不飽和カルボン酸のいずれか一方のみが生成する場合も有るが、本発明はこのような場合も含んでいる。
【0011】
本発明の方法で製造される成形触媒は、触媒成分として少なくともモリブデン、ビスマス及び鉄を含むものであって、下記一般式(1)で示される組成のものが好ましい。
【0012】
MoBiFeSi ・・・・・(1)
(式中、Mo、Bi、Fe、Si及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素及び酸素を示す。Mはコバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Xはクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛から選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Yはリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiは各元素の原子比率を表し、a=12のときb=0.01〜3、c=0.01〜5、d=1〜12、e=0〜8、f=0〜5、g=0.001〜2及びh=0〜20であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)
触媒成分として、このような少なくともモリブデン、ビスマス及び鉄を含む押出成形触媒は、一般に(1)触媒成分を含む粒子を製造する工程、(2)得られた触媒成分を含む粒子を混練りする工程、(3)得られた混練り品を押出成形する工程、(4)乾燥及び/又は熱処理する工程を経て製造される。
【0013】
本発明において、(1)の工程は特に限定されず従来公知の種々の方法が適用できる。通常、少なくともモリブデン、ビスマス及び鉄を含む水性スラリーを乾燥し、必要に応じてさらに粉砕して粒子状にする。
【0014】
モリブデン、ビスマス及び鉄を含む水性スラリーを調製する方法としては、触媒成分の著しい偏在を伴わない範囲で、沈殿法、酸化物混合法等の公知の方法を適用することができる。
【0015】
触媒成分の出発原料としては、各元素の酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、アンモニウム塩、ハロゲン化物等が挙げられる。例えば、モリブデン原料としてはパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン等が挙げられる。ビスマス原料としては酸化ビスマス、硝酸ビスマス、炭酸ビスマス等が挙げられる。鉄原料としては硝酸第二鉄・九水塩等が挙げられる。触媒成分の出発原料は各元素について、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
水性スラリーを乾燥して粒子状にする方法としては特に限定されないが、例えば、スプレー乾燥機を用いて乾燥する方法、スラリードライヤーを用いて乾燥する方法、ドラムドライヤーを用いて乾燥する方法、蒸発乾固して塊状の乾燥物を粉砕する方法等が適用できる。これらの中では、乾燥と同時に粒子が得られること、得られる粒子の形状が整った球形であることから、スプレー乾燥機を用いて乾燥粒子を得ることが好ましい。乾燥条件は乾燥方法により異なるが、スプレー乾燥機を用いる場合、入口温度は通常100〜500℃、出口温度は通常100℃以上で好ましくは105〜200℃である。
【0017】
このようにして得られた触媒成分を含む乾燥粒子は、触媒原料等に由来する硝酸等の塩を含んでいることがあり、これらの塩を粒子の成形後に焼成により分解すると成形品の強度が低下する恐れがある。このため、粒子は乾燥するだけでなく、この時点で焼成して焼成粒子としておくことが好ましい。焼成条件は特に限定されず、公知の焼成条件を適用することができる。通常、焼成は、酸素、空気、窒素、窒素酸化物等の存在下、200〜600℃の温度範囲で行われ、焼成時間は目的とする触媒によって適宜選択される。
【0018】
触媒成分を含む粒子の平均粒子直径は大きくなると、成形後の粒子間に大きな空隙、すなわち大きな細孔が形成されて選択率が向上する傾向があり、一方、小さくなると単位体積当たりの粒子同士の接触点が増加するので得られる触媒成形体の機械的強度が向上する傾向がある。これらを考慮すると、平均粒子直径は10〜150μmの範囲が好ましく、40〜120μmの範囲がさらに好ましい。
【0019】
次に(2)の工程では、(1)の工程で得られた触媒成分を含む粒子、液体並びにグルコース単位及びマンノース単位を含む重合体を混合したものを混練りする。
【0020】
混練りに使用する装置は特に限定されず、例えば、双腕型の攪拌羽根を使用するバッチ式の混練り機、軸回転往復式やセルフクリーニング型等の連続式の混練り機等が使用できるが、混練り品の状態を確認しながら混練りを行うことができる点で、バッチ式が好ましい。また、混練りの終点は、通常目視又は手触りによって判断することができる。前記粒子、液体並びにグルコース単位及びマンノース単位を含む重合体の混合方法は特に限定されない。具体的には、粒子並びにグルコース単位及びマンノース単位を含む重合体を混合したものと液体とを混合する方法、触媒成分を含む溶液又はスラリー並びにグルコース単位及びマンノース単位を含む重合体とを混合する方法、液体にグルコース単位及びマンノース単位を含む重合体を溶解又は分散させたものと粒子とを混合する方法等が例示できるが、なかでも粒子並びにグルコース単位及びマンノース単位を含む重合体を混合したものと液体を混合する方法が好ましい。
【0021】
(2)の工程で用いる液体としては、水やアルコールが好ましく、このようなアルコールとしては、例えばエチルアルコール、メチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の低級アルコールが挙げられる。これらの中では経済性と取り扱い性の点から、水が特に好ましい。これらの液体は1種を用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
液体の使用量は、触媒成分を含む粒子の性状、液体の種類等により適宜選択されるが、通常は(1)の工程で得られた触媒成分を含む粒子に含まれる固形物100質量部に対して10〜70質量部であり、好ましくは20質量部以上又は60質量部以下である。
【0023】
(2)の工程で用いるグルコース単位及びマンノース単位を含む重合体とは、グルコースとマンノースがグリコシド結合によって重合した多糖のことであり、その一例としてグルコマンナンを挙げることができる。グルコース単位及びマンノース単位を含む重合体の起源は特に限定されないが、微生物起源、植物起源及び動物起源のものが好ましい。これらグルコース単位及びマンノース単位を含む重合体は保水性と高い粘性を有しており、成形体により多くの水分を含めることができるので、最終的に触媒中に好ましい細孔が発現し、より選択率の高い触媒を製造することができる。これらは、1%水溶液、20℃における粘度が30,000mPa・s以上のものが、成形性を向上させるため、好ましい。
【0024】
グルコース単位及びマンノース単位を含む重合体は、未精製のまま用いてもよく、精製して用いてもよいが、不純物としての金属や強熱残分は、触媒性能を低下させることがあるため、より少ない方が好ましい。
【0025】
グルコース単位及びマンノース単位を含む重合体の使用量は、(1)の工程で得られた触媒成分を含む粒子の種類や大きさ、液体の種類等により適宜選択されるが、通常は触媒成分を含む粒子100質量部に対して0.05〜15質量部であり、好ましくは0.1質量部以上又は10質量部以下であり、より好ましくは0.2質量部以上又は5質量部以下である。グルコース単位及びマンノース単位を含む重合体の添加量が多くなるほど成形性が向上する傾向があり、少なくなるほど成形後の熱処理等の後処理が簡単になる傾向がある。グルコース単位及びマンノース単位を含む重合体を用いる際の形状は粉末状態でもペースト状態でも構わない。
【0026】
(2)の工程においては、上述したようなグルコース単位及びマンノース単位を含む重合体とともに、成形助剤を用いることができる。本発明においては、前記重合体とともに、成形助剤としてβ−グルカン誘導体を用いた場合、さらに活性、選択性に優れた触媒が得られる。
【0027】
本発明においてβ−グルカン誘導体とは、グルコースから構成される多糖類のうち、グルコースがβ型の構造で結合したものをいい、β−1,4−グルカン、β−1,3−グルカン、β−1,6−グルカン、β−1,3−1,6−グルカンβ−1,3−1,4−グルカン等の誘導体が例示できる。
【0028】
このようなβ−グルカン誘導体としては、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、発酵βグルカン、カードラン、ラミナラン、パラミロン、カロース、パキマン、スクレログルカン等のβ−1,3−グルカンなどを挙げることができる。β−グルカン誘導体は1種を用いても2種以上を用いてもよい。これらは、1%水溶液、20℃における粘度が10〜15000mPa・sの範囲のものが、成形性がよいため、好ましい。
【0029】
β−グルカン誘導体の使用量は、(1)の工程で得られた触媒成分を含む粒子の種類や大きさ、液体の種類等により適宜選択されるが、通常は触媒成分を含む粒子100質量部に対して0.05〜15質量部であり、好ましくは0.1質量部以上又は10質量部以下であり、より好ましくは0.2質量部以上又は8質量部以下である。β−グルカン誘導体の添加量が多くなるほど成形性が向上する傾向があり、少なくなるほど成形後の熱処理等の後処理が簡単になる傾向がある。
【0030】
グルコース単位及びマンノース単位を含む重合体とβ−グルカン誘導体との合計使用量は、通常、(1)の工程で得られた触媒成分を含む粒子100質量部に対して0.2質量部以上が好ましく、0.4質量部以上がより好ましい、また、20質量部以下が好ましく、16質量部以下がより好ましい。
【0031】
次に(3)の工程では、(2)の工程で得られた混練り品を押出成形する。
【0032】
触媒成分を含む粒子にグルコース単位及びマンノース単位を含む重合体とβ−グルカン誘導体及び液体を添加して混練後、押出成形する際には、オーガー式押出成形機、ピストン式押出成形機などを用いることができる。押出成形による成形体の形状としては特に限定はなく、リング状、円柱状、ハニカム状、星型状などの任意の形状に成形することができる。
【0033】
次に(4)の工程では、(3)の工程で得られた触媒成形体を乾燥、焼成して成形触媒(製品)を得る。
【0034】
乾燥方法は特に限定されず、一般的に知られている熱風乾燥、湿度乾燥、遠赤外線乾燥又はマイクロ波乾燥などの方法を任意に用いることができる。乾燥条件は、目的とする含水率とすることができれば適宜選択することができる。
【0035】
乾燥成形品は通常焼成するが、(1)の工程で触媒成分を含む粒子を焼成している場合等は省略することも可能である。焼成条件については特に限定はなく、公知の焼成条件を適用することができる。通常は200〜600℃の温度範囲で行われる。また、乾燥工程を省略し、焼成のみを行なってもよい。また、本発明においては、従来公知のグラファイトやケイソウ土などの無機化合物、ガラス繊維、セラミックファイバーや炭素繊維などの無機ファイバーなどを添加することができる。添加は(2)の工程、混練りする際に行なえばよい。
【0036】
本発明の方法で製造した触媒の存在下、反応原料であるプロピレン、イソブチレン、TBA又はMTBEと分子状酸素とを含む原料ガスを気相接触酸化することにより、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造することができる。反応は、通常、固定床で行なう。また、触媒層は1層でも2層以上でもよい。
【0037】
この際、反応管内において、触媒はシリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリコンカーバイト、チタニア、マグネシア、セラミックボールやステンレス鋼等の不活性担体で希釈されていてもよい。また、(2)の工程、混練りする際にこれらの不活性担体を添加してもよい。
【0038】
原料ガス中の反応原料であるプロピレン、イソブチレン、TBA又はMTBEの濃度は、広い範囲で変えることができるが、1〜20容量%が好ましい。分子状酸素源としては空気を用いることが経済的であるが、必要ならば純酸素で富化した空気等も用いうる。原料ガス中の反応原料と酸素のモル比(容量比)は1:0.5〜1:3の範囲が好ましい。原料ガスは反応原料と分子状酸素以外に水を含んでいることが好ましく、また窒素、二酸化炭素等の不活性ガスで希釈して用いることが好ましい。原料ガス中の水の濃度は、1〜45容量%が好ましい。反応圧力は常圧から数100kPaまでが好ましい。反応温度は通常200〜450℃の範囲で選ぶことができるが、特に250〜400℃の範囲が好ましい。接触時間は1.5〜15秒が好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
【0040】
実施例及び比較例中の「部」は質量部を示し、原料ガス及び生成物の分析はガスクロマトグラフィーより行った。触媒組成は触媒原料の仕込み量から求めた。また、グルコース単位及びマンノース単位を含む重合体及びβ−グルカン誘導体の粘度は、1%濃度の水溶液又は分散液を用いて、B型粘度計により測定した。
【0041】
実施例及び比較例中のオレフィン、TBA又はMTBEの反応率(以下、「反応率」という)、生成する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の選択率、生成する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の合計収率(以下、「合計収率」という)は次式により算出した。
【0042】
反応率(%)=(A/B)×100
不飽和アルデヒドの選択率(%)=(C/A)×100
不飽和カルボン酸の選択率(%)=(D/A)×100
合計収率(%)={(C+D)/B}×100
ここで、Aは反応した反応原料のモル数、Bは供給した反応原料のモル数、Cは生成した不飽和アルデヒドのモル数及びDは生成した不飽和カルボン酸のモル数である。
【0043】
また、触媒成形体の充填粉化率は以下のように定義する。
【0044】
触媒成形体a部を、水平方向に対して垂直に設置した内径30mmφ、長さ5mからなるステンレス鋼管に、ステンレス鋼管上部より充填し、充填後ステンレス鋼管下部より回収する。回収した触媒成形体の内、8メッシュの篩を通過しない触媒成形体がb部であったとき、充填粉化率は以下の式で表される。
【0045】
充填粉化率(%)={(a−b)/a}×100
【0046】
また、圧縮強度の測定はそれぞれ以下の方法により測定した。
圧縮強度:藤井精機(株)製 小型材料試験機 FSP−100型で測定し、平均圧縮強度は30個の成形体を測定した平均値である。
【0047】
[実施例1]
純水2000部に、パラモリブデン酸アンモニウム500部、パラタングステン酸アンモニウム12.4部、硝酸セシウム23.0部、三酸化アンチモン27.4部及び三酸化ビスマス33.0部を加え、加熱、攪拌した。更に、硝酸第二鉄209.8部、硝酸ニッケル75.5部、硝酸コバルト453.3部、硝酸鉛31.3部及び85%リン酸5.6部を順次加え、加熱、攪拌し、水性のスラリーとした。
【0048】
この水性スラリーをスプレー乾燥機を用いて平均粒径80μmの乾燥球状粒子とした。そして、この乾燥球状粒子を300℃で1時間、510℃で3時間焼成を行い、触媒成分を含む粒子とした。
【0049】
このようにして得られた触媒成分を含む粒子100部に対して、粘度(1%水溶液、20℃における粘度)が190,000mPa・sであるグルコマンナン5部を添加し、乾式混合した。ここに純水35部を混合し、双腕型の攪拌羽根をもつバッチ式の混練機を用いて混練した後、押出成形機にて、外径5mm、内径2mm及び長さ5mmのリング状物を成形した。
【0050】
次いで、得られた触媒成形体を110℃熱風乾燥機を用いて乾燥を行い、触媒成形体の乾燥品を得た。そして、この触媒成形体を510℃で3時間再度焼成を行い、触媒成形体の最終焼成品を得た。
【0051】
得られた成形触媒の酸素以外の元素の組成は、Mo120.2Bi0.6Fe2.2Sb0.8Ni1.1Co6.6Pb0.40.2Cs0.5であった。
【0052】
この成形触媒をステンレス鋼製反応管に充填し、イソブチレン5%、酸素12%、水蒸気10%及び窒素73%(各々、容量%)の混合ガスを用い、常圧下、接触時間3.6秒、反応温度340℃で反応させた。結果を表1に示す。
【0053】
[実施例2]
実施例1において、グルコマンナン5部の代わりに、グルコマンナン3部と粘度(1%水溶液、20℃における粘度)が4000mPa・sであるヒドロキシプロピルメチルセルロース2部とを添加した以外は、実施例1と同様に成形触媒を製造し、反応を行った。反応結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
実施例1において、グルコマンナン5部の代わりに、グルコマンナン2部と粘度(1%水溶液、20℃における粘度)が15000mPa・sであるヒドロキシプロピルメチルセルロース2部と粘度(1%水溶液、20℃における粘度)が40mPa・sのカードラン1部とを添加した以外は、実施例1と同様に成形触媒を製造し、反応を行った。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例4]
実施例1において、グルコマンナン5部の代わりに、グルコマンナン1部と粘度(1%水溶液、20℃における粘度)が15000mPa・sであるヒドロキシプロピルメチルセルロース4部とを添加した以外は、実施例1と同様に成形触媒を製造し、反応を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例5]
実施例1において、グルコマンナン5部の代わりに、グルコマンナン2部と粘度(1%水溶液、20℃における粘度)が40mPa・sであるカードラン3部とを添加した以外は、実施例1と同様に成形触媒を製造し、反応を行った。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
実施例1において、グルコマンナンを加えずに、得られた触媒焼成物100部に対して純水35部だけを添加した以外は、実施例1と同様に成形触媒を製造し、反応を行った。得られた成形触媒は保形性の非常に低いものであった。反応結果を表1に示す。
【0058】
[比較例2]
実施例1において、グルコマンナン5部の代わりに、粘度(1%水溶液、20℃における粘度)が15000mPa・sであるヒドロキシプロピルメチルセルロース4部と粘度(1%水溶液、20℃における粘度)が40mPa・sのカードラン1部とを添加した以外は、実施例1と同様に成形触媒を製造し、反応を行った。結果を表1に示す。
【0059】
[比較例3]
実施例1において、グルコマンナン5部の代わりに、平均粒径5〜9nmのシリカゾルを無水ケイ酸として5部添加した以外は、実施例1と同様に成形触媒を製造し、反応を行った。結果を表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール又はメチル第三級ブチルエーテルを分子状酸素により気相接触酸化し、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン、ビスマス及び鉄を含む成形触媒の製造方法であって、触媒成分を含む粒子に、グルコース単位及びマンノース単位を含む重合体を加えることを特徴とする不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
触媒成分を含む粒子に、グルコース単位及びマンノース単位を含む重合体並びにβ−グルカン誘導体を加えて成形することを特徴とする請求項1記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
前記重合体が、グルコマンナンである請求項1又は2記載の触媒の製造方法。
【請求項4】
前記β−グルカン誘導体が、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、及びβ−1,3−グルカンのいずれか1種以上である請求項2に記載の触媒の製造方法。

【公開番号】特開2010−5555(P2010−5555A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168746(P2008−168746)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】