説明

不飽和ポリエステル樹脂組成物及びパテ塗料

【課題】 スチレンを使用せず、かつ塗膜の乾燥性、靱性、耐久性および基材との付着性に優れた樹脂組成物およびこの樹脂組成物をバインダーとして用いたパテ塗料を提供する。
【解決手段】 (A)(a)飽和多塩基酸とα、β−不飽和多塩基酸とからなる多塩基酸、(b)多価アルコール中の1〜10モル%が特定化学式で表されるビスフェノールAのエチレンオキサイド誘導体および/または特定化学式で表されるビスフェノールAのプロピレンオキサイド誘導体である多価アルコール、(c)特定化学式で表されるアリルグリシジルエーテルを反応させて得られる酸価が20〜70、数平均分子量が500〜10,000である不飽和ポリエステル10〜90重量%と(B)特定化学式で表される化合物10〜90重量%とを含有してなる不飽和ポリエステル樹脂組成物およびこれをバインダーとして用いたパテ塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不飽和ポリエステル樹脂組成物およびパテ塗料に関し、さらに詳しくはスチレンを使用せず、かつ塗膜の乾燥性および靱性に優れ、さらに基材との密着性に優れた樹脂組成物およびこれを用いたパテ塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、不飽和ポリエステルと、これと共重合可能な単量体とを含有する組成物は公知であり、例えば繊維強化プラスチック、接着剤等に使用されている。しかし、この組成物を、下塗剤、上塗剤、含浸剤、注型材料、ポリマーコンクリート用結合材、被覆材またはパテ塗料等に使用すると種々の問題が生じていた。例えば、不飽和ポリエステルと共重合可能な単量体として、一般にスチレンが用いられているが、これらの混合物を有機過酸化物を用いて常温で硬化させると、空気中の酸素により表面の硬化が阻害され、いつまでもベタツキが残るという欠点があった。
この欠点を解消するため、パラフィンワックス等のワックスを添加し、表面にワックスの膜を作り、酸素を遮断する方法が採られているが、この方法では二次接着に問題が生じ、下塗剤として用いることができないという欠点があった。また外気温、風等により、ワックスの浮きムラが生じ、上塗剤、含浸剤、注型剤、被覆材または結合材として用いると、表面にベタツキや乾燥のムラが生じる問題がある。さらに、この混合物を硬化させた場合、十分な可とう性が得られないため、僅かなひずみで膜にクラックを生じるなどの欠点があった。また、スチレン等の単量体は揮発しやすいため、これを含む組成物を取り扱う作業者の健康や作業環境を害するという問題があった。
【0003】
一方、パテ塗料は、主として鋼板、コンクリート、木材などの基材の被覆または穴埋め材として用いられており、特に自動車鋼板補修用パテ塗料としては、(1)ヘラ付け作業性に優れていること、(2)常温で速やかに硬化すること、(3)研磨性に優れていること、(4)素材との付着性に優れていること、(5)上塗り塗料との付着性に優れていること、(6)耐湿性に優れていること、(7)耐久性(クラック)に優れていること等の性能が要求されている。しかし、近年、自動車外壁に使用される素材が、防錆を目的にリン酸亜鉛、リン酸鉄等で処理した鉄板から、重防蝕を目的に亜鉛を主成分とした金属を直接鉄板に電気処理した防錆鋼板に移行してきているため、従来のパテで補修すると被膜の付着阻害を起こし、剥離、プリスター等が多発するという問題があった。
【0004】
近年、非スチレン化のために高分子量モノマーを使用し、揮発を抑制する試みがなされている。例えば、特許文献1には、骨材材料と、ジシクロペンテニルオキシアルキルアクリレートまたはメタクリレートおよびヒドロキシアルキルメタクリレートからなる結合剤単量体と、重合触媒とを含むアクリル重合体コンクリート組成物が開示されている。このものは、床や道路の補修に使用されるものであり、該公報の5頁右上欄9〜18行には、揮発性が低く、低臭気性であることによる作業環境の改善が記載されている。また該公報の12頁左下欄には、該組成物は2〜4時間で表面乾燥(=表面硬化)することが記載されている。しかしながら、この樹脂組成物をパテ塗料として用いた場合、特に上記防錆鋼板に対して用いると付着性の点で充分ではない。
【0005】
また、防錆鋼板に対するパテ塗料の付着性改良について、不飽和ポリエステル樹脂組成物を改質する試みがなされている。例えば、特許文献2では、不飽和ポリエステル、樹脂組成物の多価アルコール成分の一部をビスフェノールAのエチレンオキサイドおよび/またはビスフェノールAのプロピレンオキサイド誘導体として付着性の改良を行なっている。しかし、非スチレン化を同時に図る試みはなされていない。
【0006】
【特許文献1】特開昭57−74316号公報
【特許文献2】特開昭64−100660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、スチレンを使用せず、かつ塗膜の乾燥性、靱性、耐久性および基材との付着性に優れた樹脂組成物およびこの樹脂組成物をバインダーとして用いたパテ塗料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(A)(a)飽和多塩基酸とα、β−不飽和多塩基酸とからなり、その使用割合が0〜50:100〜50モル%(飽和多塩基酸:α、β−不飽和多塩基酸)である多塩基酸、(b)多価アルコール中の1〜10モル%が一般式(I)
【化1】


(式中nは1〜5の整数)で表されるビスフェノールAのエチレンオキサイド誘導体および/または一般式(II)
【化2】

(式中mは1〜5の整数)で表されるビスフェノールAのプロピレンオキサイド誘導体である多価アルコール、(c)一般式(III)
【化3】


で表されるアリルグリシジルエーテルを(a):(b):(c)のモル比を2.00〜1.05:1.00〜0.50:0.05〜0.50として反応させて得られる酸価が20〜70、数平均分子量が500〜10,000である不飽和ポリエステル10〜90重量%と
(B)一般式(IV)
【化4】


(式中、Rは、水素またはメチル基を意味する)で表される化合物10〜90重量%とを含有してなる樹脂組成物に関する。
【0009】
さらにまた本発明は、前記記載の樹脂組成物に、さらに(C)不活性な微粒子状および/または粒状の無機充填材を(A)成分と(B)成分の総量に対して30〜400重量%含有させてなるパテ塗料に関する。
さらにまた本発明は、前記パテ塗料に、さらに(D)芳香族アミン系促進剤を(A)成分および(B)成分の総量に対して0.01〜10重量%を含有させるか、(E)多価金属塩若しくは錯体を(A)成分と(B)成分の総量に対して0.01〜10重量%含有させるか、またはこれら(D)成分および(E)成分の両方を含有させるパテ塗料に関する。
さらにまた本発明は、前記パテ塗料に、さらに(F)有機過酸化物を(A)成分と(B)成分の総量に対して0.1〜10重量%含有させてなるパテ塗料に関する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の樹脂組成物は、乾燥性、研磨性、耐湿性、ヒートサイクル性にすぐれた自動車ならびに車両補修パテ塗料のバインダーとして好適に用いることができるものである。請求項2、請求項3、請求項4記載のパテ塗料は、乾燥性、研磨性、耐湿性、ヒートサイクル性にすぐれた自動車ならびに車両補修に好適なものである。
また、請求項1記載の樹脂組成物は副資材にガラス繊維や有機繊維を用いることで繊維強化プラスチック、注型材料、副資材に砂や炭酸カルシウム等の無機充填材を用いることでレジンコンクリート等のライニング材に使用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、本発明の樹脂組成物の必須成分である不飽和ポリエステル((A)成分)について説明する。本発明に用いられる多塩基酸(a)は、飽和多塩基酸とα、β−不飽和多塩基酸とからなり、その使用割合は飽和多塩基酸:α、β−不飽和多塩基酸=0〜50:100〜50モル%、好ましくは0〜30:100〜70モル%とされる。α、β−不飽和多塩基酸の使用割合が上記の範囲以外であると常温での硬化が遅くなり、またパテ塗膜の乾燥性および研磨性が低下する。前記の飽和多塩基酸としては、例えば無水フタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘット酸、アジピン酸、セバシン酸等が用いられる。またα、β−不飽和多塩基酸としては、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸等が用いられる。前記の飽和多塩基酸またはα、β−不飽和多塩基酸はそれぞれ2種以上を併用してもよい。
【0012】
本発明に用いられる多価アルコール(b)には、多価アルコール中の1〜10モル%、好ましくは1〜6モル%の前記一般式(I)または(II)で表されるビスフェノールAのエチレンオキサイド誘導体および/またはプロピレンオキサイド誘導体が使用される。
電気亜鉛処理鋼板への付着性は、耐アルカリ性に優れた材料、例えばビスフェノールAとエピクロロヒドリンから得られるエポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA等によって向上するが、研磨性、耐湿性、耐クラック性等のパテ塗膜の総合的特性のバランスの点から、前記のビスフェノールAの誘導体を多価アルコールの一部に使用することが必要である。前記のビスフェノールAの誘導体の使用割合が、全多価アルコールに対して1モル%未満では電気亜鉛処理鋼板付着性が低下し、例えばパテ塗膜を120℃で30分焼付けした場合には全面ハクリを生じる。また10モル%を超えて使用しても著しい効果がなく、経済的に不利となる。
【0013】
前記のビスフェノールAのエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド誘導体以外の多価アルコール成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、水添加ビスフェノールA等が用いられる。これらは併用してもよい。特に多価アルコールとしてジエチレングリコールの使用がパテ塗膜の研磨性の点で好ましい。
また、本発明においてはアリルグリジルエーテル(c)が使用される。アリルグリシジルエーテルは反応性に優れており、未反応成分が残らず、より完全に樹脂骨格に導入することができ、これによって亜鉛処理鋼板への付着性が向上される。
【0014】
本発明の不飽和ポリエステル(A)は多塩基酸(a)、多価アルコール(b)およびアリルグリジルエーテル(c)を反応させて得られ、酸価20〜70、好ましくは30〜60および数平均分子量が500〜10,000、好ましくは800〜5,000になるように調整される。この範囲に酸価および数平均分子量に調整するためには多塩基酸(a)、多価アルコール(b)およびアリルグリジルエーテル(c)をモル比で(a):(b):(c)が2.00〜1.05:1.00〜0.50:0.05〜0.50、好ましくは1.50〜1.05:1.00〜0.60:0.05〜0.40モルとされる。
【0015】
多塩基酸(a)のモル比が2.00を超える場合は不飽和ポリエステル(A)の酸価が70を超えるためパテ塗膜の耐水性が著しく低下する。また1.05未満(特に(a)のモル数が(b)と(c)の総量のモル数未満の場合)では逆に不飽和ポリエステル(A)の酸価が20未満となり、亜鉛処理板への付着性が低下する。亜鉛処理板への付着性は不飽和ポリエステル(A)の酸価が高い程良い傾向を示す。これは素材の亜鉛イオンと樹脂中の酸イオンが化学的に結合するためと推定される。しかし一定以上の酸価は逆に耐水性が低下するため付着性と耐水性のバランス化をはかるため本発明の不飽和ポリエステル(A)の酸価の範囲は重要である。また、多価アルコールのモル比が0.50未満の場合は数平均分子量が500未満となり、パテ塗膜の硬化性、耐クラック性および耐薬品性等が低下する。1.00を超えると不飽和ポリエステルの酸価が20未満となり素材への付着性が低下する。一方アリルグリジルエーテルの使用量が0.05未満ではパテ塗膜の空乾性が十分でなく、研磨性が著しく低下し、また0.50を超える使用は、空乾性は向上するが、パテ塗膜が柔くなり研磨時に塗膜にキズつきやすくなる。
【0016】
本発明の不飽和ポリエステル(A)の酸価が70を超えるとパテ塗膜の耐水性が低下する、また20未満では亜鉛処理鋼板への付着性が低下し、パテ塗膜を120℃で30分焼付けした場合には全面ハクリを生じる。更に不飽和ポリエステル(A)の数平均分子量が500未満では硬化が十分でなく、パテ塗膜の研磨性、耐水性が低下する。また、数平均分子量が10,000を超えるとパテ付け作業性が低下すると同時に、液状の重合性不飽和化合物(B)の使用量が多くなり、肉持性が低下する。
【0017】
本発明に用いられる不飽和ポリエステル(A)は常法により得ることができる。例えば前記多価アルコール成分のアリルグリシジルエーテルのエポキシ基の開環反応触媒として、第4級アンモニウム塩(例えばテトラアンモニウムクロライド、ジメチルドデシルベンジルアンモニウムクロライド等)またはアルカリ金属塩(例えば安息香酸カリウム、安息香酸ナトリウム等)をアリルグリシジルエーテルに対して0.05〜5.0重量%使用して、該多塩基酸成分(a) の一部または全部と80〜140℃で予備付加反応させた後、残りの多価アルコール成分および多塩基酸成分を加え、150〜220℃で重縮合反応させるか、または該多塩基酸成分(a) の一部または全部と該多価アルコール成分(b) を150〜220℃で予備重縮合反応させた後、アリルグリシジルエーテルおよび開環触媒を添加し、150〜220℃で重縮合反応して得られる。
【0018】
次に、本発明の樹脂組成物の必須成分である上述した一般式(IV)で表される化合物((B)成分)について述べる。本発明に用いられる一般式(IV)で表される化合物の例としては、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフリフリルメタクリレート等が挙げられる。
一般式(IV)で表される化合物には、アクリル酸系化合物およびメタクリル酸系化合物、例えば、グリシジルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシプロピルメタクリレート、分子量が200〜2000のポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールのジアクリレートまたはジメタクリレート等を併用することができる。このようなモノマーはモノマー全体に対して30重量%以下が好ましく、グリシジルメタクリレート等の官能基を有するモノマーは、モノマー全体に対して5重量%以下で使用することが好ましい。
【0019】
本発明の樹脂組成物は、スチレンを使用せず、塗膜の乾燥性、靱性、耐久性および鋼板、特に防錆鋼板に対する付着性に優れることから、パテ塗料のバインダーとして好適に用いることができる。前記式(III)で表されるアリルグリシジルエーテルが該成分に対して5〜50モル%、好ましくは5〜40モル%使用することにより、亜鉛イオンによる金属石けん形成の防止、水酸化亜鉛による加水分解の防止、さらにパテ塗膜の乾燥性および研磨性の向上等を図ることができる。アリルグリシジルエーテルの使用量が、全多価アルコール成分中5モル%未満ではパテ塗膜の乾燥性および研磨性が充分でなく、また50モル%を超えると乾燥性および研磨性は良好となるが、硬さが充分でなく、研磨の際に塗膜に傷がつき易くなる。
【0020】
本発明のパテ塗料は、前記したように、上記した(A)成分と(B)成分に(C)不活性な微粒子状および/または粒状の無機充填材を(A)成分と(B)成分の総量に対して含有させて得られる。また本発明のパテ塗料は、上記パテ塗料に(D)芳香族アミン系促進剤、(E)多価金属塩若しくは錯体または(D)成分と(E)成分の両方を含有させることにより得られる。
【0021】
さらに本発明のパテ塗料は、上記パテ塗料に、(F)有機過酸化物を含有させることにより得られる。本発明における上記樹脂組成物に(C)成分として無機充填材を含有させたパテ塗料は、(D)成分、(E)成分および(F)成分を適宜組み合わせることにより、様々の作業温度下でラジカル硬化させることができる。特に室温またはそれに近い温度において、表面のベタツキをなくすことが必要な場合には、(E)成分である多価金属塩および/または錯体を必須成分とし、(D)成分と(F)成分を組み合わせて用いることが好ましい。
【0022】
(C)成分の不活性な微粒子状および/または粒状の無機充填材としては、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、クレー、セラミックス粉、アルミナ、水酸化アルミニウム等が用いられる。この無機充填材の使用量は、(A)成分と(B)成分の総量に対して30〜400重量%、好ましくは100〜300重量%の範囲とされる。無機充填材の使用量が、400重量%を超えると樹脂組成物のバインダーとして十分な作用を発現できず、塗膜の耐久性が低下する傾向があり、また30重量%未満では、塗膜の研磨性が低下する傾向がある。(D)成分の芳香族アミン系促進剤としては、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジ(ヒドロキシエチル)トルイジン、p-ジメチルアミノベンズアルデヒドなどを一種以上の組み合わせで用いることができる。その使用量は、(A)成分と(B)成分の総量に対して0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜1重量%の範囲である。この使用量が0.01重量%未満では、促進効果が不足する傾向があり、また10重量%を超えると、可塑効果が働き、樹脂硬化物の強度が低下する傾向がある。
【0023】
(E)成分の多価金属塩および/または錯体は、一般に乾燥剤(ドライヤー)と呼ばれているもので、高級脂肪酸の金属塩がよく知られている。例えばナフテン酸、オクテン酸の多価金属塩等が挙げられる。多価金属とは、カルシウム、銅、ジルコニウム、マンガン、コバルト、鉛、鉄、バナジウムなどである。特に好ましい例としては、オクテン酸コバルト、ナフテン酸コバルトが挙げられる。錯体の例としては、アセチルアセトンの錯体がよく知られており、コバルトアセチルアセトネート、マンガンアセチルアセトネートなどが挙げられる。この(E)成分は(A)成分と(B)成分の総量に対して0.01〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%の範囲で用いられ、有機過酸化物の作用を促進する働きを有する。(E)成分の使用量が0.01重量%未満では、かかる促進効果が不足する傾向があり、一方、10重量%を超えてもそのような促進効果の一層の向上を示さない。
【0024】
(F)成分の有機過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシドなどを用いることができる。この使用量は、パテ塗料に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜3重量%である。有機過酸化物の量が0.1重量%未満では、有機過酸化物からのラジカル発生量が不十分となり、樹脂組成物が十分硬化しない場合があり、10重量%を超えると、有機過酸化物が可塑剤の働きを示し、硬化樹脂が軟質になる傾向がある。
【0025】
本発明の樹脂組成物およびパテ塗料には、必要に応じて顔料、染料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、流動性調整剤、揺変性付与剤、可塑剤、ワックス等を添加することができる。なお、着色用顔料の例としては、チタン白、ベンガラ、アニリンブラック、カーボンブラック、シアニンブルー、マンガンブルー、鉄黒、クロムエロー、クロムグリーン、マピコエロー等が挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例により説明する。なお、下記例中の部および%はそれぞれ重量部および重量%を意味する。
【0027】
<実施例1>
撹拌機、ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた2リットルの四つ口フラスコにジエチレングリコール734.5部(6.93モル)、ビスオール3PN(東邦千葉化学工業社製商品名、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド誘導体、上記式においてn=3の付加体)118.1部(0.30モル)、無水マレイン酸941.6部(9.6モル)、ハイドロキノン0.2部および還流用キシレン40部を仕込み、窒素ガスを吹込みながら、150℃で1時間加熱後、150℃から190℃まで4時間で昇温し、同温度で釜内内容物の酸価が140〜130になるまで加熱した。190℃昇温後、6時間加熱して酸価135となった。160℃に冷却し、窒素ガスの吹込み量を多くして、還流用キシレンを除去しながら同温度で、同様に酸価を測定し、釜内内容物の酸価が110〜120になるまで加熱した。160℃で加熱後1.5時間で酸価が116となった。次いで120℃に冷却し、アリルグリシジルエーテル205.4部(1.80モル)、アリルグリジルエーテルの開環触媒としジメチルドデシルベンジルアンモニウムクロイド2.1部を入れ、140℃に2時間で昇温し、同温度で加熱しながらスチレンで67%に希釈した際の粘度および釜内内容物の酸価を測定し、140℃6時間加熱後、粘度7.8秒(ガードナ、25℃)および酸価58.6を示した時点で終点とした。不飽和ポリエステルの数平均分子量はHLC(ハイスピードリキッドクロマトグラフ、日立製作所製、日立クロマトグラフ635−0200で、標準物質にポリスチレンを使用、以下同じ)で測定した所、2,830であった。反応終了後ハイドロキノン0.2部を添加したテトラヒドロフルフリルメタクリレート(三菱レイヨン製、アクリエステルTHF)に溶解し、加熱残分が55%になるように調整し、不飽和ポリエステル樹脂組成物を得た。この組成物の粘度は7.6秒、酸価32.2であつた。
【0028】
<実施例2>
実施例1と同じ装置に、ジエチレングリコール715.4部(0.75モル)、ビスオール3PN115.0部(0.29モル)、無水マレイン酸778.9部(7.95モル)、テトラハイドロ無水フタル酸213.2部(1.40モル)、ハイドロキノン0.2部および還流用キシレン40部を仕込み、実施例1と同様に150℃で1時間加熱後、150℃から190℃まで4時間で昇温し、同温度で釜内内容物の酸価が130〜120になるまで加熱した。190℃昇温後8時間加熱して酸価125となった。160℃に冷却し、実施例1と同様に窒素ガスの吹込量を多くして、還流用キシレンを除去しながら同様に酸価を測定し釜内内容物の酸価が115〜100になるまで加熱した。160℃に加熱後、2時間で酸価が108となった。次いで120℃に冷却し、アリルグリシジルエーテル180.2部(1.58モル)およびジメチルドデシルベンジルアンモニウムクロライド1.8部を入れ、140℃に2時間で昇温し、同温度で加熱しながら、実施例1と同様にスチレン希釈粘度および釜内内容物の酸価を測定し、140℃で8時間加熱後、粘度6.8秒および酸価52.8を示した時点で終点とした。不飽和ポリエステルの数平均分子量は1,890であった。反応終了後実施例1と同様にハイドロキノン0.2部を添加したテトラヒドロフリフリルメタクリレートで加熱残分が55%になるよう溶解し不飽和ポリエステル樹脂組成物を得た。この組成物の粘度は6.5秒、酸価29.0であった。
【0029】
<比較例1>
実施例1と同じ装置に、ジエチレングリコール801.0(7.56モル)、無水マレイン酸984.2部(10.04モル)、ハイドロキノン0.2部および還流用キシレン40部を仕込み、実施例1と同様に150℃で1時間加熱後4時間で190℃まで昇温し、同温度で釜内内容物の酸価が140〜130になるまで加熱した。190℃昇温後7.5時間加熱で酸価138となった。160℃に冷却し、窒素ガスの吹込み量を多くして、還流用キシレンを除去しながら同温度で、同様に酸価を測定し、釜内内容物の酸価が110〜120になるまで加熱した。160℃加熱後、1.5時間で酸価118となった。160℃に冷却し、窒素ガスの吹込み量を多くして、還流用キシレンを除去しながら、同様に酸価を測定し、釜内内容物の酸価が110〜100になるまで加熱した。160℃1.5時間加熱後酸価が103となった。次いで120℃に冷却し、アリルグリジルエーテル214.7部(1.88モル)およびジメチルドデシルベンジルアンモニウムクロライド2.1部を入れ、140℃に2時間で昇温し、同温度で加熱しながら実施例1と同様にスチレン希釈粘度および釜内内容物の酸価を測定し、160℃で5時間加熱後、粘度7.8秒および酸価56.2を示した時点で終点とした。数平均分子量は1,930であった。反応終了後、ハイドロキノン0.2部を添加したテトラヒドロフリフリルメタクリレートで加熱残分55%になるように溶解し、不飽和ポリエステル樹脂組成物を得た。この樹脂組成物は粘度7.5秒および酸価30.9であった。
【0030】
<比較例2>
実施例1と同じ装置で、ジエチレングリコール940.4部(8.87モル)、無水マレイン酸869.7部(8.88モル)、ハイドロキノン0.2部および還流用キシレン40部を仕込み、実施例1と同様に150℃で1時間加熱後、150℃から190℃まで4時間で昇温し、同温度で釜内内容物の酸価が50〜40になるまで加熱した。190℃昇温後7時間で酸価46となった。160℃に冷却し、実施例1と同様に窒素ガスの吹込み量を多くして、還流用キシレンを除去しながら同様に酸価を測定し、釜内内容物の酸価が45〜40になるまで加熱した。160℃で1時間加熱で酸価は43となった。次いで120℃に冷却し、アリルグリジルエーテル214.7部(1.66モル)およびジメチルドデシルベンジルアンモニウムクロライド2.2部を入れ、140℃まで2時間で昇温し、同温度で加熱しながら実施例1と同様にスチレン希釈粘度および釜内内容物の酸価を測定し、140℃で12時間加熱後、粘度6.5秒および酸価8.2を示した時点で終点とした。数平均分子量は1,570であった。反応終了後、実施例1と同様にハイドロキノン0.2部を添加したテトラヒドロフルフリルメタクリレートで加熱残分55%になるように溶解し、不飽和ポリエステル樹脂組成物を得た。この組成物は粘度6.3秒および酸価4.5であった。
【0031】
<試験例>実施例1〜2および比較例1〜2で得られた樹脂組成物を用いて作製したパテ塗膜の特性(乾燥性、研磨性、付着性および耐湿性)を下記のようにして調べ、その結果を表2に示す。
1.パテ塗膜特性
(1)パテ塗料配合表1に示す配合の材料をそれぞれ300ml丸缶に採取し、高速デゾルバーで15分間攪拌して、均一に分散させた。
【0032】
【表1】

【0033】
(2)試験板の調整試験板として鉄板(日本テストパネル工業(株)製、SPCC−SB)、電気亜鉛処理板(新日本製鉄(株)製、シルバージンク)を用い、表面を耐水ペーパー#150で軽く研磨した。
(3)試験片の作製(1)で作製したそれぞれの塗料に30−40%メチルエチルケトンパーオキサイド(日本油脂(株)製パーメックN)を2%添加し、これを(2)で調整した各試験板上に2mm厚にパテ付けした。
(4)塗膜性能の測定実施例1〜2および比較例1〜2の樹脂組成物を用いて得たパテ塗料について下記に示す塗膜性能を試験し、その結果を表2に示した。
i)乾燥性:鉄板上へパテ付け後、常温(20℃)で経時ごとに表面を耐水ペーパー#150を用いて指で軽く研磨し、研磨可能となる時間(min)を測定した。
ii)研磨性:鉄板上へパテ付け後、常温(20℃)で4時間放置後、耐水ペーパー#150を用いて指で研磨し、研磨のしやすさを比較し、次のようにして評価した。
○:軽く研磨しても、よくパテ塗膜が削れる。
△:パテ塗膜が削れるが、研磨がやや重く感じる。
×:研磨が重く、パテ塗膜がよく削れない。
iii)付着性:各試験板上へパテ付け後、常温(20℃)で16h放置し、その後80℃の乾燥機内で60分焼付け後、常温まで冷却し、中央部より90°角に折り曲げた際の折り曲げ部のパテ付着性を調べ、次のようにして評価した。
○:パテが付着している。
△:50%パテが付着している。
×:パテの付着が見られない。
iv)耐湿性:上記の各試験板上へパテ付け後、常温(20℃)で16時間放置し、その後表面を耐水ペーパー#240、#150および#400の順に研磨し、表面を平滑にした。研磨したパテ塗膜の上に市販アクリルウレタン塗料(イサム塗料製、ハイアート)をスプレ塗布(膜厚40μ)し、常温(20℃)で30分放置後、60℃の乾燥機で60分乾燥させた。冷却後、プリスタリングボックス(RH99%、温度50℃)に48時間入れ、塗膜表面の状態(プリスター、直径が2mm程度の発泡)および90°角に折り曲げした際のパテ付着性を調べた。プリスターは下記のように評価し、パテ付着性はiii)と同様の方法で行なった。
○:ブリスターの発生なし。
△:塗膜の20%にブリスターが発生している。
×:全面にブリスターが発生している。
【0034】
【表2】

【0035】
表2の結果から、本発明の樹脂組成物は、非スチレン系の不飽和ポリエステル樹脂であるとともに、本樹脂組成物を用いたパテ塗膜は、乾燥性、研磨性、付着性、耐湿性および耐ヒートサイクル性に優れていることが示される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)飽和多塩基酸とα、β−不飽和多塩基酸とからなり、その使用割合が0〜50:100〜50モル%(飽和多塩基酸:α、β−不飽和多塩基酸)である多塩基酸、(b)多価アルコール中の1〜10モル%が一般式(I)
【化1】

【化2】


(式中mは1〜5の整数)で表されるビスフェノールAのプロピレンオキサイド誘導体である多価アルコール、(c)一般式(III)
【化3】


で表されるアリルグリシジルエーテルを(a):(b):(c)のモル比を2.00〜1.05:1.00〜0.50:0.05〜0.50として反応させて得られる酸価が20〜70、数平均分子量が500〜10,000である不飽和ポリエステル10〜90重量%と
(B)一般式(IV)
【化4】

(式中、Rは、水素またはメチル基を意味する)で表される化合物10〜90重量%とを含有してなる不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物に、さらに(C)不活性な微粒子状および/または粒状の無機充填材を(A)成分と(B)成分の総量に対して30〜400重量%含有させてなるパテ塗料。
【請求項3】
請求項2記載のパテ塗料に、さらに(D)芳香族アミン系促進剤を(A)成分および(B)成分の総量に対して0.01〜10重量%を含有させるか、(E)多価金属塩若しくは錯体を(A)成分と(B)成分の総量に対して0.01〜10重量%含有させるか、またはこれら(D)成分および(E)成分の両方を含有させるパテ塗料。
【請求項4】
請求項3記載のパテ塗料に、さらに(F)有機過酸化物を(A)成分と(B)成分の総量に対して0.1〜10重量%含有させてなるパテ塗料。


【公開番号】特開2006−89680(P2006−89680A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279269(P2004−279269)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】