説明

不飽和化合物のヒドロシアン化方法

本発明は、不飽和化合物をヒドロシアン化して不飽和モノニトリル化合物又はジニトリル化合物にする方法に関する。より特定的には、本発明は、触媒系の回収及び分離を含む、ブタジエンのようなジオレフィンの二重ヒドロシアン化によるジニトリルの製造方法に関する。本発明の不飽和化合物をヒドロシアン化することによるジニトリルの製造方法は、1種又はそれより多くの単座オルガノホスファイトリガンドと1種又はそれより多くの二座有機リンリガンドとから構成される有機金属錯体及び随意としてのルイス酸タイプの促進剤を含む触媒系の存在下における少なくとも1つのヒドロシアン化工程を含み、そしてプロセスにおいて用いた反応成分又は反応によって生成した化合物を前記触媒系を含む媒体から蒸留することによる少なくとも1つの分離工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和化合物をヒドロシアン化して不飽和モノニトリル化合物又はジニトリル化合物にする方法に関する。
【0002】
より特定的には、本発明は、触媒系の回収及び分離を含む、ブタジエンのようなジオレフィンの二重ヒドロシアン化によるジニトリルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒドロシアン化反応は、不飽和を含む化合物からニトリル官能基を含む化合物を合成するために工業的に用いられている。かくして、(特にポリアミドのような多くのポリマーのためのモノマーであるヘキサメチレンジアミンの製造において)重要な化学中間体であるアジポニトリルは、ブタジエン又はブタジエンを含む炭化水素留分(C4留分と称される)の2段階でのヒドロシアン化によって製造される。この製造プロセスにおいては、同じ構成要素(即ち有機金属配位錯体及び亜リン酸トリトリルのような単座オルガノホスファイトタイプの少なくとも1種の有機リンリガンド)を本質的に含む触媒系を用いて2つの反応が実施される。
【0004】
多くの特許明細書に、このアジポニトリルの製造方法及び前記触媒の製造方法が開示されている。さらに、このプロセスの経済性のためには、触媒系を回収してヒドロシアン化工程に再循環することができることが重要である。かくして、米国特許第4539302号明細書には、アジポニトリルの調製方法の第2工程、即ち不飽和ニトリルのジニトリルへのヒドロシアン化において得られる反応媒体から触媒を回収するための方法が開示されている。
【0005】
沈降(デカンテーション)によるこの回収方法によれば、金属元素の損失を抑制することができ、不飽和ニトリルのヒドロシアン化のための有機リンリガンド/金属元素比の調節が容易になる。従って、高いリガンド/金属元素比を有する触媒系を回収することも可能になり、これにより、触媒の製造工程及び/又はブタジエンのヒドロシアン化若しくは分枝鎖状ペンテンニトリルの異性化工程に触媒系を再循環して再利用することが可能になる。
【0006】
多くのその他の有機リンリガンドが、これらのヒドロシアン化反応を触媒するために提供されてきている。
【0007】
かくして、例えば国際公開WO99/06355号、同WO99/06356号、同WO99/06357号、同WO99/06358号、同WO99/52632号、同WO99/65506号、同WO99/62855号各パンフレット、米国特許第5693843号明細書、国際公開WO96/1182号、同WO96/22968号各パンフレット、米国特許第5981772号明細書、国際公開WO01/36429号、同WO99/64155又は同WO02/13964号各パンフレットのような数多くの特許明細書に、オルガノホスファイト、オルガノホスフィナイト、オルガノホスホナイト及びオルガノホスフィンタイプの二座リガンドが開示されている。
【0008】
最後に、国際公開WO03/11457号パンフレットには、ヒドロシアン化反応を触媒するために単座リガンドと二座リガンドとの混合物を使用することが提唱されている。
【0009】
リガンドの混合物の場合にもまた、リガンドや金属元素を損失することなく触媒を回収できることが重要である。
【特許文献1】米国特許第4539302号明細書
【特許文献2】国際公開WO99/06355号パンフレット
【特許文献3】国際公開WO99/06356号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO99/06357号パンフレット
【特許文献5】国際公開WO99/06358号パンフレット
【特許文献6】国際公開WO99/52632号パンフレット
【特許文献7】国際公開WO99/65506号パンフレット
【特許文献8】国際公開WO99/62855号パンフレット
【特許文献9】米国特許第5693843号明細書
【特許文献10】国際公開WO96/1182号パンフレット
【特許文献11】国際公開WO96/22968号パンフレット
【特許文献12】米国特許第5981772号明細書
【特許文献13】国際公開WO01/36429号パンフレット
【特許文献14】国際公開WO99/64155号パンフレット
【特許文献15】国際公開WO02/13964号各パンフレット
【特許文献16】国際公開WO03/11457号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1つの目的は、単座オルガノホスファイトリガンドと二座有機リンリガンドとの混合物を含む触媒系を用いて不飽和化合物をヒドロシアン化することによってジニトリルを製造するための方法であって、触媒系を構成する成分の損失を最小限にとどめながら触媒及び各種生成物を分離回収することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的で、本発明は、単座オルガノホスファイトタイプの1種又はそれより多くの有機リンリガンドと1種又はそれより多くの二座有機リンリガンドとから構成される有機金属錯体及び随意としてのルイス酸タイプの促進剤を含む触媒系の存在下における少なくとも1つのヒドロシアン化工程、並びにプロセスにおいて用いた反応成分又は反応によって生成した化合物を前記触媒系を含む媒体から蒸留することによる少なくとも1つの分離工程を含む、不飽和化合物のヒドロシアン化によるジニトリルの製造方法であって、
蒸留による分離工程に付される媒体中におけるリン原子として表わした単座有機リンリガンド及び二座有機リンリガンドのモル数対金属元素の原子数の比を15若しくはそれ未満とし且つ/又は該媒体中における有機金属錯体を構成する金属元素の重量濃度を1.3%若しくはそれ未満とすること、並びに蒸留工程の蒸留ボトム温度を180℃又はそれ未満とすることを特徴とする、前記製造方法を提供する。
【0012】
用語「蒸留ボトム温度」とは、蒸留プラントのボイラー中に存在する媒体の温度及び該ボイラーの壁の温度を意味するものとする。
【0013】
前記の蒸留条件、特にボイラーの壁の最高温度の設定によって、有機金属錯体を構成する金属元素の沈殿形成を抑制すること及びこれを無くすことさえ可能になる。実際、この温度が高いと分離又は蒸留工程の際に触媒の錯体解除がもたらされ、その結果として金属元素の沈殿形成が引き起こされる。
【0014】
ヒドロシアン化反応において触媒作用を示す金属元素は、例えばニッケル、コバルト、鉄、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム又はセリウムである。好ましい触媒元素はニッケルである。よりわかりやすくするために、本明細書の続きにおいては金属元素を用語「ニッケル」によって示すが、これは限定的な意味を持つものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明にとって好適な単座オルガノホスファイトリガンドの例としては、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリトリル(TTP)又は亜リン酸トリシメニルを挙げることができる。
【0016】
本発明にとって好適な二座リガンドとしては、オルガノホスファイト、オルガノホスホナイト、オルガノホスフィナイト又はオルガノホスフィン化合物、特に以下の構造を有するものを挙げることができる(これら式中、Phはフェニルを意味する)。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【0017】
本発明の好ましい特徴に従えば、反応媒体中に存在させる触媒系は、金属元素1原子に対するリン原子の数として表わした二座リガンドのモル数が1〜4の範囲(境界を含む)であり、リン原子の数として表わした単座リガンドのモル数が4〜12の範囲(境界を含む)である。
【0018】
これらの比は、実施されるヒドロシアン化反応に応じて異なることができる。ジニトリルの製造は一般的に、第1の工程においてブタジエンのようなジオレフィンをHCNでヒドロシアン化して不飽和モノニトリルを得て、第2の工程においてこれらのモノニトリルをHCNとの反応によってジニトリルに転化させることから成る2つの連続した工程で実施される。さらに、本方法は第1工程から得られた分枝鎖状不飽和モノニトリルを直鎖状モノニトリルに転化させるための異性化工程を含むのが一般的であり、この直鎖状モノニトリルが第2工程において直鎖状ジニトリルに転化される。
【0019】
かくして、第1工程において用いられるリガンド/ニッケル比は第2工程において用いられるものより高くするのが一般的である。同様に、ニッケルの濃度も2つの工程において異なることができる。
【0020】
さらに、不飽和ニトリルのヒドロシアン化反応又は第2工程においては、促進剤又は助触媒を用いるのが一般的である。好ましい促進剤としては、一般的にルイス酸が選択される。例として、G. A. Olah編集の「Friedel-Crafts and Related Reactions」第1巻、第191〜197頁(1963年)に挙げられたルイス酸を用いることができる。
【0021】
本方法において助触媒として用いることができるルイス酸は、元素周期表第Ib、IIb、IIIa、IIIb、IVa、IVb、Va、Vb、VIb、VIIb及びVIII族からの元素の化合物から選択されるのが有利である。これらの化合物は、一般的に塩、特に塩化物又は臭化物のようなハロゲン化物、硫酸塩、スルホン酸塩、ハロアルキルスルホン酸塩、ペルハロアルキルスルホン酸塩、特にフルオロアルキルスルホン酸又はペルフルオロアルキルスルホン酸塩、ハロ酢酸塩、ペルハロ酢酸塩、カルボン酸塩及びリン酸塩である。
【0022】
かかるルイス酸の非限定的な例としては、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、塩化マンガン、臭化マンガン、塩化カドミウム、臭化カドミウム、塩化第一錫、臭化第一錫、硫酸第一錫、酒石酸第一錫、塩化インジウム、トリフルオロメチルスルホン酸インジウム、トリフルオロ酢酸インジウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ハフニウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムのような希土類元素の塩化物若しくは臭化物、塩化コバルト、塩化第一鉄又は塩化イットリウムを挙げることができる。
【0023】
また、トリフェニルボランやチタンテトライソプロポキシドのような化合物も、ルイス酸として用いることができる。
【0024】
もちろん、数種のルイス酸の混合物を用いることもできる。ルイス酸の中では、塩化亜鉛、臭化亜鉛、塩化第一錫、臭化第一錫、トリフェニルボラン、トリフルオロメチルスルホン酸インジウム、トリフルオロ酢酸インジウム及び塩化亜鉛/塩化第一錫混合物が特に好ましい。用いられるルイス酸助触媒は一般的に、ニッケル1モル当たりに0.005〜50モルを占める。
【0025】
これらの工程のそれぞれにおいて、ヒドロシアン化反応の後に得られた反応媒体を未反応の反応成分(即ちブタジエン又は不飽和ニトリル)を蒸留することによる分離に付して再循環するのが有利である。
【0026】
本発明に従えば、これらの分離工程は、ニッケルの錯体解除及びその沈殿形成を回避又は制限するために、蒸留ボトム温度を観察しながら、上記のリガンド/ニッケル比及びニッケル濃度の条件に従って実施される。
【0027】
本発明の好ましい特徴に従えば、ニッケル原子の数に対するリン原子の数として表わした全リガンド/ニッケル比は、15又はそれ未満であるのが好ましく、5〜15の範囲であるのが有利であり、ニッケルの重量濃度は0.1%〜2%の範囲であるのが有利であり、0.1%〜1.2%の範囲であるのが好ましい(境界を含む)。
【0028】
用語「全リガンド」とは、単座リガンド及び二座リガンドの全分子を意味するものとする。また、本明細書において「リガンド/ニッケル」という表現は、別途記載がない限り、単座リガンド及び二座リガンドの全分子対ニッケル原子の数の比に関する。
【0029】
かくして、第1のヒドロシアン化工程から得られた反応媒体を蒸留することによってブタジエン又はC4石油留分を分離する場合、(リン原子として表わした)二座リガンドのモル数対ニッケル原子の数の比が1〜4の範囲(境界を含む)、(リン原子として表わした)単座リガンドのモル数対ニッケル原子の数の比が4〜12の範囲(境界を含む)について、蒸留ボトムの最高温度を180℃又はそれ未満とする。さらに、本発明の好ましい特徴に従えば、ニッケルの重量濃度を、0.1%又はそれより上、有利には0.2%より高くする。
【0030】
同様に、第2工程の不飽和ニトリルのヒドロシアン化から得られた媒体からの不飽和ニトリルの分離工程においては、(リン原子として表わした)二座リガンドのモル数対ニッケル原子の数の比が1〜4の範囲(境界を含む)、(リン原子として表わした)単座リガンドのモル数対ニッケル原子の数の比が4〜7の範囲(境界を含む)について、蒸留ボトムが140℃又はそれ未満であるのが有利である。さらに、本発明の好ましい特徴に従えば、ニッケルの重量濃度を、0.2%又はそれより高くする。
【0031】
さらに、1つの具体例において、本発明の方法は、ニトリル(特にジニトリル)を含む媒体から抽出溶剤を用いた液液抽出によって有機金属錯体及び有機リンリガンドを抽出する工程を含むことができる。好適な抽出溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘプタン及びより一般的にシクロパラフィン又は類似体のような飽和の直鎖状又は環状脂肪族炭化水素を挙げることができる。好ましい抽出溶剤は、シクロヘキサンである。
【0032】
また、抽出溶剤中のリガンド及び有機金属錯体の溶液は抽出溶剤を分離するために蒸留に付され、こうして回収されたリガンド及び有機金属錯体が再循環される。本発明において、抽出溶剤は本方法を実施するために用いられる反応成分である。
【0033】
この分離もまた、リガンド/ニッケル比、ニッケルの濃度及び蒸留ボトム温度のような上に示した本発明の特徴を観察しながら実施される。
【0034】
本発明の好ましい具体例に従えば、このシクロヘキサンの分離は、0.7%又はそれより高いニッケル重量濃度について、180℃又はそれ未満の蒸留ボトム温度で実施される。さらに、本発明の好ましい特徴に従えば、リン原子として表わした二座リガンドのモル数対ニッケル原子の数の比は1〜4の範囲(境界を含む)であり、単座リガンドのそれは8又はそれより高い(境界を含む)。
【0035】
本発明に従えば、触媒系を含む媒体から蒸留によって分離する工程においては、蒸留ボトムの最高温度は、該媒体中のリガンド/ニッケル比及びニッケルの濃度の関数として決定される。かくして、この温度は、リガンド/ニッケル比が高くなるにつれ及び/又はニッケル濃度が高くなるにつれて、高くする。
【0036】
本発明の好ましい具体例において、本方法は、濃密相及び軽質相の2つの相にする沈降工程において実施される触媒系及びジニトリルの分離工程を含む。この沈降工程に供給される媒体は、第2のヒドロシアン化工程の後に得られる媒体又は未反応不飽和ニトリルの分離工程において得られる蒸留ボトムのいずれかである。
【0037】
かくして、下相の濃密相はニッケル及び二座リガンドのほとんど並びに単座リガンドの一部を含む。上相の軽質層は、ジニトリルと、ニッケル及び単座リガンド及び二座リガンドの残りの部分とから成る。
【0038】
沈降工程に供給される媒体は、25〜75℃の範囲、好ましくは30〜55℃の範囲の温度まで冷ますのが有利である。
【0039】
本発明の方法の別の特徴に従えば、沈降工程において回収される上相中のリガンド/ニッケルのモル比が8より大きいのが有利である。
【0040】
本発明に従えば、ジニトリルと不混和性の抽出溶剤を用いて金属錯体及びリガンドを液液抽出することによって、これらの全回収を実施する。この操作は上に記載したものに対応し、溶剤は同一である。
【0041】
この具体例においては、未反応不飽和ニトリルの蒸留工程に先立って、沈降工程において回収される下相の濃密相の一部を添加することによって媒体中のニッケル濃度を調節・制御するのが有利である。
【0042】
実際、本発明の方法に従って二座リガンドと組み合わせてニッケルを用いる場合にヒドロシアン化媒体中に用いられるニッケルの濃度は、例えば反応媒体1kg当たりにニッケル100〜2000mg程度のように、非常に低いことがある。沈降を促進するのに好適なニッケル濃度を得るためには、ヒドロシアン化工程から出てくる反応媒体に所定量の触媒系を添加することが必要な場合がある。このニッケル濃度に対する調節は、上に示したように行うことができる。
【0043】
かくして、本発明の方法は、金属元素の損失(従って触媒の損失)を最小限にとどめながら触媒の回収及び分離を可能にする。
【0044】
本発明は、次式:
Ni(L1)x(L2)y
{ここで、L1は単座リガンドを、L2は二座リガンドを表わし、
x及びyは0〜4の範囲の数(少数を含む)を表わし、和x+2yは3又は4である}
で示されるタイプの触媒を用いることによるブタジエンのヒドロシアン化及び3〜8個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状不飽和ニトリルのヒドロシアン化、より好ましくはアジポニトリルの製造のための3−ペンテンニトリル及び/又は4−ペンテンニトリルのヒドロシアン化に適用される。触媒は、上の一般式に相当する錯体の混合物から成ることもできる。
【0045】
触媒系又は反応媒体はまた、遊離の形の単座有機リンリガンド及び/又は二座有機リンリガンド、即ちニッケルに結合していない単座有機リンリガンド及び/又は二座有機リンリガンドを所定量含むこともできる。本発明の触媒系は、次のようにして得られる。まず、第1工程においてニッケルと単座リガンドとの間の有機金属錯体を形成させる。かかる錯体の形成方法は、例えば米国特許第3903120号及び同第4416825号の両明細書に開示されている。第2工程において、前記有機金属錯体を含む媒体に二座リガンドを添加する。
【0046】
第1のヒドロシアン化工程及び第2のヒドロシアン化工程を直列で実施するのが有利である。この場合、回収される触媒の少なくとも一部(特に液液抽出において回収されるもの、より特定的には沈降工程の上相において回収される触媒)を再循環して、第1工程のブタジエンのヒドロシアン化工程及び/又は分枝鎖状不飽和ニトリルの直鎖状不飽和ニトリルへの異性化工程において触媒として用いるのが有利である。ブタジエンのヒドロシアン化及びペンテンニトリルのヒドロシアン化について同一の又は類似の触媒系を用いるのが好ましい。
【0047】
しかしながら、もっぱら不飽和ニトリルのヒドロシアン化工程において上記の触媒系を用い、第1工程のブタジエンのヒドロシアン化工程及び異性化工程において用いる触媒系は化合物の性状が異なっていることも可能である。
【実施例】
【0048】
本発明のその他の詳細及び利点は、もっぱら例示として与えた下記の実施例を見ればより一層明らかになるであろう。
【0049】
実施例において用いる略語
PN:ペンテンニトリル
DN:ジニトリル(ジニトリルAdN、MGN及びESNの混合物であって主としてAdNを含む)
AdN:アジポニトリル
MGN:メチルグルタロニトリル
ESN:エチルスクシノニトリル
リガンド:
【化5】

【0050】
例1:ペンテンニトリル(PN)の蒸留
不活性雰囲気下において次の組成を有する混合物を調製する(百分率は重量により表わされ、比はモル比である)。
Ni=1.2%
TTP/Ni=5
リガンドA/Ni=1
P/Ni=7
DN=38.5%
PN=5%
【0051】
この混合物を管に入れ、この管を密封し、所定温度(表を参照)に2時間加熱し、次いでクロマトグラフィー分析によって錯化ニッケルの損失を測定する。
【表1】

【0052】
例2:液液抽出後に得られる溶液の蒸留工程
不活性雰囲気下において次の組成を有する混合物を調製する(百分率は重量により表わされ、比はモル比である)。
Ni=1.0%
TTP/Ni=12
リガンドA/Ni=1
P/Ni=13
PN=11%
【0053】
この混合物を管に入れ、この管を密封し、所定温度(表を参照)に2時間加熱し、次いでクロマトグラフィー分析によって錯化ニッケルの損失を測定する。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単座オルガノホスファイトタイプの1種又はそれより多くの有機リンリガンドと1種又はそれより多くの二座有機リンリガンドとから構成される有機金属錯体及び随意としてのルイス酸タイプの促進剤を含む触媒系の存在下における少なくとも1つのヒドロシアン化工程、並びにプロセスにおいて用いた反応成分又は反応によって生成した化合物を前記触媒系を含む媒体から蒸留することによる少なくとも1つの分離工程を含む、不飽和化合物のヒドロシアン化方法であって、
蒸留による分離工程に付される媒体中におけるリン原子として表わした単座有機リンリガンド及び二座有機リンリガンドのモル数対金属元素の原子数の比を15若しくはそれ未満とし且つ/又は該媒体中における有機金属錯体を構成する金属元素の重量濃度を1.3%若しくはそれ未満とすること、並びに蒸留工程の蒸留ボトム温度を180℃又はそれ未満とすることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記単座リガンドが亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリトリル及び亜リン酸トリシメニルより成る群から選択される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二座有機リンリガンドがオルガノホスファイト、オルガノホスホナイト、オルガノホスフィナイト及びオルガノホスフィンより成る群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記二座有機リンリガンドが以下の構造:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(これら式中、Phはフェニルを意味する)
を有する化合物より成る群から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記促進剤が元素周期表第Ib、IIb、IIIa、IIIb、IVa、IVb、Va、Vb、VIb、VIIb及びVIII族からの元素のハロゲン化物、硫酸塩、スルホン酸塩、ハロアルキルスルホン酸塩、ペルハロアルキルスルホン酸塩、ハロ酢酸塩、ペルハロ酢酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、アリールホウ酸塩、フルオロアルキルスルホン酸塩及びペルフルオロアルキルスルホン酸塩を含む群の中から選択される化合物より成る群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ルイス酸が塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、塩化マンガン、臭化マンガン、塩化カドミウム、臭化カドミウム、塩化第一錫、臭化第一錫、硫酸第一錫、酒石酸第一錫、塩化インジウム、トリフルオロメチルスルホン酸インジウム、トリフルオロ酢酸インジウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ハフニウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムのような希土類元素の塩化物又は臭化物、塩化コバルト、塩化第一鉄、塩化イットリウム、トリフェニルボラン、チタンテトライソプロポキシド並びにそれらの混合物より成る群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記不飽和化合物がブタジエン及び/又は不飽和ニトリル化合物であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記不飽和ニトリルが3〜8個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状脂肪族化合物であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記不飽和ニトリルがペンテンニトリルであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記の蒸留による分離工程が、ヒドロシアン化工程から得られた媒体から未反応不飽和化合物を分離するための該媒体の蒸留工程であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
生成したジニトリルからの触媒系の回収が、不飽和ニトリルのヒドロシアン化から得られた反応媒体を、随意に未反応不飽和ニトリルを蒸留によって分離した後に、沈降させる工程を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
不飽和ニトリルのヒドロシアン化から得られて随意に未反応不飽和ニトリルを分離した後の反応媒体又は沈降工程において回収された上相若しくは軽質相を、これらの媒体中に存在する有機リンリガンド及び有機金属錯体を抽出するための液液抽出に付すことを特徴とする、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
抽出溶剤がヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン及びシクロヘプタンより成る群から選択されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記分離工程が液液抽出の後に得られた溶液から抽出溶剤を蒸留する工程であることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
ヒドロシアン化から得られて不飽和ニトリルの蒸留工程の前の反応媒体に前記下相の一部を再循環することを特徴とする、請求項10〜14のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2007−502854(P2007−502854A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530334(P2006−530334)
【出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001110
【国際公開番号】WO2004/101498
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(598051417)ロディア・ポリアミド・インターミーディエッツ (14)
【Fターム(参考)】