説明

不飽和第4級アンモニウム塩化合物の製造方法及びそれからなる帯電防止剤と帯電防止組成物

【課題】相溶性が良好で、各種電気化学デバイスにも好適に用いられ、持続的に優れる帯電防止効果を有する、塩素イオン且つ金属塩フリ−の不飽和第4級アンモニウム塩、該不飽和第4級アンモニウム塩からなる帯電防止剤の提供。
【解決手段】3級アミン化合物とトリフルオロメタンスルホン酸エステルを有機溶媒の存在下で反応させた後、有機溶媒を不活性ガスバブリングで除去することにより、一般式(1)(式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜3のアルキル基又はアリール基を表し、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。)で示される不飽和第4級アンモニウム塩化合物を高純度、高収率で合成し、当該化合物からなるオリゴマー又は/及びポリマーを帯電防止の有効成分として帯電防止層を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩素イオンフリー且つ金属イオンフリーで、高品質な不飽和第4級アンモニウム塩化合物の製造方法、及び、当該不飽和第4級アンモニウム塩化合物からなる帯電防止剤、及び当該帯電防止剤を含有する帯電防止性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
第4級アンモニウム塩は優れた帯電防止性能を有するため、樹脂用帯電防止剤として従来から知られている(特許文献1、2)。特に近年、樹脂表面にブリードアウトし難く、持続的に帯電防止効果を維持できる高分子型の第4級アンモニウム塩が多く報告された(特許文献3)。
【0003】
カチオン性不飽和第4級アンモニウム塩が高分子型帯電防止組成物のベースモノマーとして使用することが知られている。しかし、多くの不飽和アンモニウム塩は親水性が高いため、製造上の関係により、通常水溶液の状態で流通している。例えば、不飽和第3級アミンであるN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートを用い、水とアプロティックな有機溶媒からなる混合溶媒存在下で、4級化剤としてメチルクロライドを加えて4級化反応を行う方法(特許文献4)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートとベンジルクロライドをアセトン中で4級化反応させた後、水を添加して、アセトンを減圧除去する方法(特許文献5)がよく使われている。当然ながら、この方法により得られるカチオン性第4級アンモニウム塩モノマーは通常水溶液タイプであるため、塗膜時の乾燥性が悪く、また、汎用樹脂、多官能アクリルモノマー、オリゴマー、有機溶媒などとの相溶性が乏しく、均一に分散できず、有効な帯電防止性が発現できないという問題点があった。仮に第4級アンモニウム塩モノマーを高純度に精製し、極性有機溶媒に溶解させたとしても、これらのモノマー自身の親水性が高いために、有機溶媒を除去して使用する際に樹脂中の他成分に対する溶解性が低く、樹脂中で凝縮するか樹脂から析出し、連続した帯電防止膜を形成できず、目標とする帯電防止性能を達成できない場合があった。
【0004】
そこで、樹脂、有機溶媒との相溶性を改良しようとする種々の試みも行われてきた。例えば、アクリレート系第4級アンモニウムモノマーと他の重合可能なビニルモノマーを共重合して使用する方法が報告されている(特許文献6、7)。しかし、これらの方法では、帯電防止組成物中のカチオン性ビニルモノマーの含有量が低下するため、目標とする帯電防止性能を得るためには、この共重合体を多量に添加する必要があり、その結果、樹脂の各種特性が低下するとともに、樹脂組成物の価格が高くなってしまうという問題点があった。
【0005】
また、第4級アンモニウム塩モノマー自身の相溶性向上の目的で、例えば、弱配位性アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等のアニオンを有する重合性化合物が提案された(特許文献8、9、10)。また、透明性及び樹脂、溶剤への溶解性を持たせるため、チオシアナートイオンをアニオンとするアンモ二ウム塩が提案された(特許文献11、12、13)。しかし、
これらの提案のアンモニウム塩は全てアンモニウムのクロリド塩又はブロミド塩を原料とする既知の方法である金属塩反応法で合成されている。即ち、水溶液中で、第4級アンモニウムのクロリド塩又はブロミド塩とビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのアルカリ金属塩、チオシアン酸の金属塩とのアニオン交換反応を行い、目的生成物を酢酸エチルなどの有機溶媒により抽出、分離する方法である。この方法では、アニオンとして塩素又は臭素イオン、同時にカチオンとしてナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウムなどのアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンの生成物へ混入は回避できない。塩素又は臭素イオンの残存による環境負荷が高く、金属へ腐食性が懸念され、特に電子材料として使用される場合、電子製品の機能低下、故障の原因になる可能性がある。一方、金属イオンが残存すると、空気中の二酸化炭素を吸収しやくなり、同様に金属への腐食が促進され、電子材料として使用できない場合がある。
【0006】
一方、トリフルオロメタンスルホニル基をアニオンとして導入した第4級アンモニウム塩モノマーの報告もあった(特許文献14、15)。特許文献14では、原料としてメタクリル酸アミノエチル塩酸塩を使用し、ポジ型レジスト組成物の一構成モノマーとしてメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナートを合成した。また、特許文献15では、原料としてN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートとトリフルオロメタンスルホン酸メチルを用いて、溶媒としてジクロロメタン中で反応を行い、コンタクトレンズ用架橋コポリマーの構成モノマーを合成した。ところが、これらの特許文献において、第4級アンモニウム塩モノマー、該モノマーを構成成分とするオリゴマー、ポリマーの帯電防止効果についての記載はなかった。仮に、特許文献14、15の記載合成方法でアニオンとしてトリフルオロメタンスルホニル基を有する不飽和第4級アンモニウム塩化合物を取得できても、塩素系の原料又は溶媒を使用するため、目的生成物の第4級アンモニウム塩モノマー中の塩素残存は回避できず、環境負荷の増加、金属への腐食性、電子製品の機能低下等の問題点が依然として解決できていない。
【0007】
【特許文献1】特開2008−231240号公報
【特許文献2】特開2008−13636号公報
【特許文献3】特開2008−231196号公報
【特許文献4】特開昭63−201151号公報
【特許文献5】特開平07−267906号公報
【特許文献6】特開平07−150130号公報
【特許文献7】特開2007−51241号公報
【特許文献8】特開2007−9042号公報
【特許文献9】特開2005−255843号公報
【特許文献10】特開2006−45425号公報
【特許文献11】特開2009−13295号公報
【特許文献12】特開2009−197074号公報
【特許文献13】特開2009−179671号公報
【特許文献14】特開2007−93778号公報
【特許文献15】特開平09−20814号公報
【0008】
以上述べたように、アンモニウムカチオンとトリフルオロメタンスルホナートアニオンから構成される、塩素イオンフリー且つ金属イオンフリーで、高品質な不飽和第4級アンモニウム塩化合物を高収率で工業的に製造する方法は従来知られていない。また、汎用アクリルモノマー、有機溶剤や樹脂との相溶性が良好で、活性エネルギー線又は熱により重合性が高く、高透明性と高耐湿性を有し、各種電気化学デバイスにも好適に用いられ、持続的に優れる帯電防止効果を有する帯電防止剤用の安価な、塩素イオンフリー且つ金属塩フリー、及び有機溶媒を含まず、高品質な不飽和第4級アンモニウム塩化合物、当該不飽和第4級アンモニウム塩化合物からなる帯電防止剤及び当該帯電防止剤を含有する帯電防止性樹脂組成物は未だに簡便に得られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の第一目的は、塩素イオンフリー且つ金属イオンフリーで、活性エネルギー線又は熱により重合性が高く、高品質な不飽和第4級アンモニウム塩化合物の効率的、且つ経済的な製造方法を提供することにある。
本発明の第二目的は、当該不飽和第4級アンモニウム塩化合物を構成成分とする、汎用アクリルモノマー、有機溶剤や樹脂との相溶性が良好で、他の帯電防止剤組成物に均一に分散でき、また帯電防止効果が優れ且つ長期持続可能な高透明性と高耐湿性を有し、各種電気化学デバイスにも好適に用いられる帯電防止剤、及び、当該帯電防止剤を含有する帯電防止性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はこれらの課題を解決するために鋭意検討を行った結果、3級アミン化合物とトリフルオロメタンスルホン酸エステルを有機溶媒の存在下で反応させた後、減圧濃縮、さらに残存有機溶媒を不活性ガスバブリングで除去することにより、一般式(1)(式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜3のアルキル基又はアリール基を表し、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。) で示される不飽和第4級アンモニウム塩化合物を得ることを見出した。さらに当該不飽和第4級アンモニウム塩化合物及び/又は当該不飽和第4級アンモニウム塩化合物からなるオリゴマー、ポリマーで構成した帯電防止剤を見出した。該帯電防止剤を有機溶媒に溶解させてから基材上にコーティング、固定することで帯電防止層を形成させることにより上記課題を解決し、本発明に到達した。
【化1】

【0011】
すなわち本願発明は、
1)一般式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜3のアルキル基又はアリール基を表し、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。)で表される不飽和第4級アンモニウム塩化合物が有機溶媒中で、一般式(2)
【化2】


(式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。)で表される3級アミン化合物と、一般式(3)
【化3】


(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基又はアリール基を表す。)で表されるトリフルオロメタンスルホン酸エステルとの4級化反応により合成されることを特徴とする不飽和第4級アンモニウム塩の製造方法、
2)前記不飽和第4級アンモニウム塩化合物を製造するにあたり、有機溶媒として、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルからなる非プロトン性有機溶媒群から選ばれた少なくとも1種を用いることを特徴とする、前記1)に記載の不飽和第4級アンモニウム塩化合物の製造方法、
3)前記不飽和第4級アンモニウム塩化合物を製造するにあたり、有機溶媒の除去は不活性ガスバブリングによる行うことを特徴とする前記1)又は前記2)記載の不飽和第4級アンモニウム塩化合物の製造方法、
4)前記不飽和第4級アンモニウム塩化合物を製造するにあたり、不活性ガスとして、乾燥窒素、乾燥空気及び乾燥ヘリウム、乾燥ネオン、乾燥アルゴン、乾燥クリプトン、乾燥キセノンと乾燥ラドンなどの乾燥希ガスからなる、前記不飽和第4級アンモニウム塩化合物と反応しない乾燥不活性ガス群から選ばれた少なくとも1種を用いることを特徴とする、前記1)乃至前期3)に記載の不飽和第4級アンモニウム塩化合物の製造方法、
5)前記1〜4いずれか一項に記載の製造方法で合成される塩素イオンフリー(塩素イオン含量は1ppm以下)、金属イオンフリー(各種金属イオン含量は1ppm以下)、且つ有機溶剤の含有量は100ppm未満の不飽和第4級アンモニウム塩化合物、
6)前記5)記載の不飽和第4級アンモニウム塩化合物をラジカル重合させることにより得られる塩素イオンフリー(塩素イオン含量は1ppm以下)且つ金属イオンフリー(各種金属イオン含量は1ppm以下)の4級アンモニウム塩含有オリゴマー又はポリマー、
7)前記5)記載の不飽和第4級アンモニウム塩化合物と他の共重合可能のビニル系単量体との共重合で得られる塩素イオンフリー(塩素イオン含量は1ppm以下)且つ金属イオンフリー(各種金属イオン含量は1ppm以下)の4級アンモニウム塩含有コオリゴマー又はコポリマー、
8)前記5)乃至前記7)の不飽和第4級アンモニウム塩化合物及び/又はオリゴマー若しくはポリマーからなる塩素イオンフリー(塩素イオン含量は1ppm以下)且つ金属イオンフリー(各種金属イオン含量は1ppm以下)の帯電防止剤、
9)前記8)記載の帯電防止剤又は該帯電防止剤を含有する帯電防止組成物であって、前記5)の不飽和第4級アンモニウム塩化合物を構成単位として0.1〜90重量%含有するもの、
10)前記8)又は9)記載の帯電防止剤を含有する帯電防止組成物であって、さらに多官能(メタ)アクリレート及び/又は多官能(メタ)アクリルアミドを含有する帯電防止組成物、
11)基材上に前記8)〜10)いずれか一項に記載の帯電防止剤又は帯電防止組成物を塗装した後、活性エネルギー線又は熱により重合して形成されることを特徴とする帯電防止層、
12)少なくとも片面に前記11)記載の帯電防止層を有することを特徴とする帯電防止フィルム、シート、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によると、塩素イオンフリー、金属イオンフリー、且つ活性エネルギー線又は熱により重合性が高く、高品質な不飽和第4級アンモニウム塩化合物を高収率且つ簡便に製造することができる。また、当該不飽和第4級アンモニウム塩化合物を構成成分とする帯電防止剤及び帯電防止剤組成物は汎用モノマー、有機溶剤や樹脂との相溶性が良好であり、他の帯電防止剤組成物に均一に分散でき、高透明性と高耐湿性を有し、持続的に優れる帯電防止効果を有するため、各種電気化学デバイスにも好適に用いられる。当該帯電防止剤、及び、当該帯電防止剤を含有する帯電防止性組成物、帯電防止層、帯電防止膜または帯電防止フィルム、シートが提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の帯電防止剤は、一般式(1)で表わされる不飽和第4級アンモニウム塩化合物及び当該不飽和第4級アンモニウム塩化合物から構成されるオリゴマー若しくはポリマーのうちいずれか1種以上からなるものである。
【0014】
一般式(1)の式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜3のアルキル基又はアリール基を表し、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。
【0015】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物は(メタ)アクリレート系第4級アンモニウム塩であり、具体的には、アクリロイルオキシメチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシメチルトリエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシメチルトリプロピルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシプロピルメチルジエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシプロピルエチルジメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシプロピルメチルジプロピルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシプロピルトリエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシプロピルトリプロピルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシプロピルジメチルベンジルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシプロピルジエチルベンジルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシプロピルメチルジベンジルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、アクリロイルオキシプロピルエチルジベンジルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシメチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシメチルトリエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシメチルトリプロピルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシプロピルメチルジエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシプロピルエチルジメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシプロピルメチルジプロピルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシプロピルトリエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシプロピルトリプロピルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシプロピルジメチルベンジルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシプロピルジエチルベンジルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシプロピルメチルジベンジルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシプロピルエチルジベンジルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナートなどの(メタ)アクリレート系アンモニウムアルキルトリフルオロメタンスルホナートなどが挙げられる。
【0016】
これらの中では、安価な工業的原料を入手しやすい点で、特にアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナートが好ましい。
【0017】
本発明の出発物質である一般式(2)で表わされる3級アミン化合物はN,N−二置換アミノ(メタ)アクリレート系モノマーである。
【0018】
一般式(2)の式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。
【0019】
上記N,N−二置換アミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−メチルプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−メチルエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−メチルプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
本発明のもう一種の出発物質は一般式(3)で表わされるトリフルオロメタンスルホン酸エステルである。具体的には、トリフルオロメタンスルホン酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸エチル、トリフルオロメタンスルホン酸プロピル、トリフルオロメタンスルホン酸イソプロピル、チオシアンブチル、トリフルオロメタンスルホン酸イソブチル、トリフルオロメタンスルホン酸−t−ブチル、トリフルオロメタンスルホン酸ペンチル、トリフルオロメタンスルホン酸ヘキシル、トリフルオロメタンスルホン酸ヘプチル、トリフルオロメタンスルホン酸オクチル、トリフルオロメタンスルホン酸ノニル、トリフルオロメタンスルホン酸デシルなどのトリフルオロメタンスルホン酸アルキルエステル、トリフルオロメタンスルホン酸シクロヘキシルなどのトリフルオロメタンスルホン酸環状脂肪族エステル、トリフルオロメタンスルホン酸フェニル、トリフルオロメタンスルホン酸ベンジル、トリフルオロメタンスルホン酸トリル、トリフルオロメタンスルホン酸トリル、トリフルオロメタンスルホン酸キシリルなどのトリフルオロメタンスルホン酸アリールエステルが挙げられる。これらの中では、融点と反応性の点で、特にトリフルオロメタンスルホン酸メチルとトリフルオロメタンスルホン酸エチルが好ましい。
【0021】
前記の3級アミン化合物とトリフルオロメタンスルホン酸エステルの4級化反応において、3級アミン化合物とトリフルオロメタンスルホン酸エステルのモル比は任意であるが、一方を過剰に用いることで反応の完結が促進される。本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物の重合特性を利用する目的である場合、重合性の3級アミンを過剰に用いる方が、仮に3級アミンが微量に残存しても不飽和第4級アンモニウム塩化合物の重合特性及び帯電防止性能に影響を与えないので好ましい。3級アミン/トリフルオロメタンスルホン酸エステルのモル比は0.2〜5モルが好ましく、0.5〜2モルがより好ましい。
【0022】
前記の4級化反応においては、有機溶媒の存在下で実施する。使用する有機溶媒として、本発明の出発物質である3級アミン化合物又はトリフルオロメタンスルホン酸エステルの何れか又両方に可溶(100g溶媒に対して5g以上溶解する)であり、且つ反応に悪影響を及ぼさない溶媒であれば、広く使用することができる。例えば、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルからなる非プロトン性有機溶媒群から選ばれた少なくとも1種を用いることができる。これらの中では、酢酸ブチルが出発物質である3級アミン化合物及びトリフルオロメタンスルホン酸エステルに可溶である一方、不飽和第4級アンモニウム塩化合物に難溶(100g溶媒に対して5g未満溶解する)であり、目的生成物である不飽和第4級アンモニウム塩化合物から残存3級アミン化合物及びトリフルオロメタンスルホン酸エステルを取り除きやすいので、最も好ましい。これらの溶媒は、1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0023】
前記4級化反応に用いられる有機溶媒の配合量は、その種類によっても異なるが、出発物質トリフルオロメタンスルホン酸エステルの濃度が1〜95%となるような範囲が好ましい。さらに5〜90%となるような範囲が特に好ましい。1%未満であれば、原料の接触効率が低下し、反応速度が著しく遅くなる。95%を越えると反応が制御できず、選択率が低下するおそれがあり、また、発熱による重合トラブルなどの問題を生じることがある。
【0024】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物を合成するときの反応温度は、通常10℃以上、15〜130℃が好ましく、20〜100℃が特に好ましい。反応温度が10℃未満の場合、反応速度が遅くなり、完結する所要反応時間が長くなる。一方、130℃を超えると原料又は生成物の重合性化合物が重合してしまう可能性がある。使用する原料の沸点が低い場合はオートクレーブなどの密閉型反応器を使用することができる。
【0025】
反応系中の水分は、トリフルオロメタンスルホン酸エステルの加水分解不純物を副生させる恐れがあり、少ない方が好ましい。持ち込まれる水分は、主として原料由来であるため、反応前に、蒸留脱水又は乾燥剤などを使用して水分を除去することが望ましい。
【0026】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物は塩素イオンフリー且つ金属イオンフリーの高品質品を得るためには、勿論のことであるが、前述の原料中に含まれる各種塩素イオンの合計が1ppm以下、各種金属イオンの合計が1ppm以下であることが必要である。ここで、金属イオンはナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオンなどの1価の金属イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなど2価の金属イオン、アルミニウムイオン、鉄イオンなどの多価金属イオンである。
【0027】
反応終了後、余剰の原料と反応溶媒が生成物である不飽和第4級アンモニウム塩化合物との相溶性によるが、蒸留、抽出、薄膜処理により容易に分離、回収し、さらに繰り返し使用することができる。
【0028】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物は高粘度、しかも蒸気圧がないため、通常の蒸留では、約1〜10%の有機溶媒が残存し、高純度製品の取得はできないという問題があった。本発明の第4級アンモニウム塩化合物は、不飽和基を有するため、有機溶媒を除去するために長時間蒸留を行うと、重合するおそれがある。さらに、沸点の高い有機溶媒を反応溶媒として用いた場合、これを除去するために高温、減圧下で蒸留を行うと、さらに本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物が重合してしまい、高純度製品の取得が困難となる。そこで、本発明者らは、不活性ガスのバブリングにより揮発性有機溶媒のミストを発生させ、不活性ガス気流に飛沫同伴する特徴に注目し、不活性ガスのバブリングにより残存有機溶媒を100ppm以下に除去することを提案し、簡便且つ経済的、高収率で純度99%以上の不飽和第4級アンモニウム塩化合物高純度品を取得することに至った。即ち、不飽和第4級アンモニウム塩化合物の融点以上で不活性ガスをバブリングさせながら、有機溶媒を蒸発させ、除去、回収する方法である。
【0029】
反応終了後の残存溶媒が10%以上である場合、減圧下で蒸留による10%まで除去した後、不活性ガスのバブリング処理がより効率がよいので、好ましい。
【0030】
不活性ガスとして、乾燥窒素、乾燥空気、乾燥ヘリウム、乾燥ネオン、乾燥アルゴン、乾燥クリプトン、乾燥キセノンと乾燥ラドンなどの乾燥希ガスからなる、本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物と反応しない乾燥不活性ガス群から選ばれた少なくとも1種を用いることができる。これらの中では、安価な工業的原料を入手しやすい点で、特に乾燥空気と乾燥窒素が好ましい。これらの不活性ガスは、1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0031】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物は非揮発性であるため、不活性ガスバブリング処理時のガス流量は特に限定する必要がない。残存有機溶媒の種類と量によっても異なるが、1mL/min〜100L/minとなるような範囲が好ましい。さらに10mL/min〜10L/minとなるような範囲が特に好ましい。1mL/min未満であれば、有機溶媒の除去速度が著しく遅くなる。100L/minを越えると不経済的になり、また、残存有機溶媒の多い場合、ミスト発生量が多く、突沸現象によるトラブルなどの問題を生じることがある。
【0032】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物は重合性が高いため、反応終了後の減圧蒸留及び常圧下の不活性ガスバブリングによる有機溶媒の回収、除去は重合禁止剤の存在下で実施することが好ましい。重合禁止剤としては公知のものが使用できるが、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、tert−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチルパラハイドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、2,4−ジメチル−6−tertブチルフェノール、ハイドロキノンモノメチルエーテル等のフェノール化合物、N−イソプロピル−N'−フェニル−パラ−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N'−フェニル−パラ−フェニレンジアミン、N−(1−メチルヘプチル)−N'−フェニル−パラ−フェニレンジアミン、N,N'−ジフェニル−パラ−フェニレンジアミン、N,N'−ジ−2−ナフチル−パラ−フェニレンジアミン等のパラフェニレンジアミン類、チオジフェニルアミン等のアミン化合物、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4?ヒドロキシ?2,2,6,6?テトラメチルピペリジン?1?オキシル、アセトアミドテトラメチルピペリジン−1−オキシル等のピペリジン1−オキシルフリーラジカル化合物類などを例示することができる。これら重合禁止剤は、1種または2種以上を併用しても構わない。
【0033】
重合禁止剤の添加量は、本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物に対して1〜10000ppm、好ましくは5〜5000ppmである。
【0034】
以上の方法により99%以上の高純度の不飽和第4級アンモニウム塩化合物を得ることができる。さらに、必要に応じて、逆浸透膜処理やイオン交換樹脂処理、キレート樹脂処理などによる残存金属イオンの低減、カラムクロマトグラフィーなどの精製手段により精製してもよい。
【0035】
本発明の本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物が室温で液体である場合、高純度のままで帯電防止剤として使用することができる。また、室温で液体又は固体である場合、水、有機溶媒に溶解させ、溶液状態での使用も可能である。有機溶媒で薄めて使用する場合、反応溶媒と同様でもよく、異なってもよく、溶解度パラメーター(SP値)の範囲が8〜16(cal/cm3)0.5であるものがよい。
【0036】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物及び/又は該不飽和第4級アンモニウム塩化合物を構成成分とするオリゴマー又は/及びポリマーは、プラスチックなどの成形品に塗布した後、乾燥して使用する場合、単独でも帯電防止性、プラスチックへの塗膜性、耐擦傷性、高硬度の効果を十分に示すことができる。また、本発明の本来の帯電防止性、透明性、高耐湿性などの特性を阻害しない範囲で、2個以上のエチレン基を有する多官能(メタ)アクリレートまたは多官能(メタ)アクリルアミドを添加し、不飽和第4級アンモニウム塩化合物と多官能(メタ)アクリレートまたは多官能(メタ)アクリルアミドとの優れた相溶性を利用し、均一な架橋性被膜を基材表面に形成させることができ、さらなる製膜性や耐擦傷性などの塗膜の性能を向上させることができる。
【0037】
このような多官能(メタ)アクリレートとしてはペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1、6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等のモノマーとオリゴマーが挙げられる。
【0038】
このような多官能(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、アロニックスM−400、M−450、M−305、M−309、M−310、M−315、M−320、TO−1200、TO−1231、TO−595、TO−756(以上、東亞合成製)、KAYARD D−310、D−330、DPHA、DPHA−2C(以上、日本化薬製)、ニカラックMX−302(三和ケミカル社製)等が挙げられる。
【0039】
また、多官能(メタ)アクリルアミドとしては、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド、エチレンビスメタアクリルアミド、ジアリルアクリルアミド等のモノマーとウレタンアクリルアミド(特開2002−37849)等のオリゴマーが挙げられる。
【0040】
これらの多官能(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリルアミドは、1種類でも、複数の多官能モノマー、オリゴマーを組み合わせて使用してもよい。また、このような多官能モノマー、オリゴマーを使用する場合、本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物構成単位に対して0.001〜25000重量%含有させることが好ましく、また50〜20000重量%含有させることが特に好ましい。含有量が0.1重量%未満ではその添加効果が認められず、25000重量%を越えると、架橋率が高くなるため、塗膜の硬度、耐擦傷性は向上するが、弾力性が失われて割れやすくなる。
【0041】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物は、帯電防止組成物及び帯電防止層の種々の性能、例えば硬化物性を硬くあるいは、柔らかく調整する際には、他の重合性化合物を混合し、共重合させてもよく、重合性化合物としては、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、不飽和ニトリルモノマー、不飽和カルボン酸、アミド基含有モノマー、メチロール基含有モノマー、アルコキシメチル基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、多官能性モノマー、ビニルエステル、オレフィンなど分子鎖中に反応性二重結合をもつラジカル重合化合物が挙げられる。
【0042】
アルキル(メタ)アクリレートの例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレートなどが挙げられる。
【0043】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及びヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0044】
不飽和ニトリルモノマーの例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0045】
不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、モノアルキルイタコネート等がある。
【0046】
このような重合性化合物は、1種類に限らず、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物は重合性化合物と公知の方法によって重合体または共重合体とすることができる。重合方法としては、例えば、乳化重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等の方法を用いることができる。
【0048】
ラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル等のアゾ化合物系触媒や、ベンゾイルパーオキシド、過酸化水素等の過酸化物系触媒、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩系触媒等を用いることができる。重合開始剤の使用量は、重合性単量体100重量%に対して0.05〜10重量%、好ましくは0.2〜3重量%である。
【0049】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物の含有量は、使用する多官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリアミドの粘度、他の重合性化合物の配合量、樹脂組成物に要求される物性によるので、特に限定されるものではないが、帯電防止組成物中の固形分比で0.1〜90重量%、好ましくは1〜60重量%である。この不飽和第4級アンモニウム塩化合物の含有量が0.1重量%以下では帯電防止性能が不十分となり、90重量%を超えると透明性に劣るものとなる。
【0050】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物及び/又は該化合物を構成成分とするオリゴマーもしくはポリマーを含む帯電防止剤、該帯電防止剤に多官能(メタ)アクリレート又は/及び多官能(メタ)アクリルアミドをさらに含有する帯電防止組成物は基材上に塗装して硬化させることによりコーティングすることから、塗装可能な粘度に調整するため、反応性希釈剤や有機溶媒を含有していることが好ましい。
【0051】
反応性希釈剤は25℃の粘度が500mPa・s以下である低粘度ビニルモノマーであれば、特に限定するものではないが、速硬性、低臭気、高引火点、高塗膜硬度が要求される観点から、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリンなどが好ましい。
【0052】
有機溶媒は本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物、該化合物を構成成分とするオリゴマー及びポリマーを溶解できるものが好ましい。特に、該不飽和第4級アンモニウム塩化合物及び単独重合で得られるオリゴマーとポリマーに対して、溶解性パラメータが9〜15(cal/cm0.5の有機溶媒が好ましい。
【0053】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物を構成成分として含む帯電防止組成物は、活性エネルギー線又は熱による硬化が可能であるので、プラスチックなどの成形品に塗装し、乾燥後、硬化することによって、帯電防止性ハードコート樹脂組成物として使用することができる。
【0054】
本発明の活性エネルギー線とは、活性種を発生する化合物(光重合開始剤)を分解して活性種を発生させることのできるエネルギー線と定義される。このような活性エネルギー線としては、可視光、紫外線(UV)、赤外線、X線、α線、β線、γ線等の光エネルギー線が挙げられる。ただし、一定のエネルギーレベルを有し、硬化速度が速く、しかも照射装置が比較的安価で、小型である点から、紫外線を使用することが好ましい。
【0055】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物を光硬化させる際は、光開始剤を添加しておく。光開始剤は、活性エネルギー線として電子線を用いる場合には特に必要はないが、紫外線を用いる場合には必要となる。光開始剤はアセトフェノン系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系等の通常のものから適宜選択すればよい。光開始剤のうち、市販の光開始剤としてはチバ・スペシャルティーケミカルズ社製、商品名Darocure1116、Darocure1173、IRGACURE184、IRGACURE369、IRGACURE500、IRGACURE651、IRGACURE754、IRGACURE819、IRGACURE907、IRGACURE1300、IRGACURE1800、IRGACURE1870、IRGACURE2959、IRGACURE4265、IRGACURE TPO、UCB社製、商品名ユベクリルP36、などを用いることができる。
【0056】
本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物の帯電防止性や相溶性などの特性を阻害しない範囲で、顔料、染料、界面活性剤、ブロッキング防止剤、バインダー、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の他の任意成分を併用してもよい。
【0057】
本発明の帯電防止組成物を調製する際に、これらの組成成分の添加順序としては不飽和第4級アンモニウム塩化合物及び/又は該不飽和第4級アンモニウム塩化合物を構成成分とするオリゴマーもしくはポリマー、反応性希釈剤及び/又は有機溶媒、多官能(メタ)アクリレート又は/及び多官能(メタ)アクリルアミド、光重合開始剤、その他の添加剤の順に行うことが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
なお、以下の実施例、比較例において、帯電防止組成物の特性評価は、以下の方法により行った。
(1)不飽和第4級アンモニウム塩化合物の定量方法
電位差自動滴定装置(装置名:AT−610 京都電子工業株式会社製)を用いて、濃度0.02mol/Lのテトラフェニルほう酸ナトリウム溶液(関東化学株式会社製)により滴定を行い、滴定量から第4級アンモニウム塩濃度を求める。
(2)塗装
厚さ100μmのポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムをガラス製板(縦200×横200×厚さ5mm)の上に貼り付け、動かないように水平面に固定した。PETフィルムの先方の端に帯電防止ハードコート剤を帯状に滴下して、バーコーター(RDS60)で全体に均等な力がかかるように両端を押さえ、回転させずに同じ速さ(5cm/sec)で手前まで引いて塗装し、熱風乾燥機で80℃、3分の条件で溶媒を除去し、塗膜を得た。塗膜の付着状態を目視によって観察し、塗膜の形成性とべたつき性を評価した。
塗膜の形成性
◎:ハジキがなく、均一な塗装膜である;
○:ハジキが極めて僅にあるが、ほぼ均一な塗装膜である;
△:ハジキが幾分あるが、全体としてはほぼ均一な塗装膜である;
×:ハジキが多く、不均一な塗装膜である。
べたつき性
◎:ベタツキが全くない;
○:僅かにベタツキがある;
△:若干のベタツキがある;
×:明らかなベタツキがある。
(3)紫外線硬化
塗装面を上向きにして紫外線照射を行って硬化させ、帯電防止ハードコート膜を得た。紫外線硬化条件は、出力300W、単位当たり出力50W/cmの高圧水銀灯1本を設置した紫外線照射装置(オーク製作所 モデルOHD320M)を使用し、1秒当たりに紫外線エネルギーは10mJ/cmであるように試料板とランプの距離を調節した。塗膜の表面がベタつかなくなるまでに必要な照射時間を硬化時間として測定した。硬化後、各PETフィルム上の塗膜の透明性を目視によって観察し、下記方法により表面抵抗率測定、耐擦傷性試験、鉛筆硬度試験を行った。
硬化後塗膜の透明性
◎:透明で表面が平滑;
○:透明だが凹凸がある;
△:僅かな曇りや凹凸がある;
×:極度な曇りや凹凸がある
(4)表面抵抗率測定
型板 (縦110×横110mm) を用い、カッターナイフで帯電防止ハードコート膜を裁断し、温度25℃、相対湿度60%に調整した恒温恒室機に入れ、24時間静置し、表面抵抗率測定用試料を得た。JIS K 6911 に基づき、YOKOGAWA HEWLETT-PACKARD製HIGH RESISTANFE METER 4329Aを用いて測定を行った。
(5)耐擦傷性試験
スチールウールを#0000のスチールウールを用いて、200g/cmの荷重をかけながら帯電防止ハードコート膜の上で10往復させ、傷の発生の有無を評価した。
耐擦傷性評価
◎:膜の剥離や傷の発生がほとんど認められない;
○:膜にわずかな細い傷が認められる;
△:膜全面に筋状の傷が認められる;
×:膜の剥離が生じる。
(6)耐湿性試験
帯電防止ハードコート膜を40℃、90%RHの恒温槽内にて3日間保管し、膜の外観の変化を目視で評価した。
◎:外観に変化が無い;
○:白化などの外観変化が僅かに認められるが問題のないレベル;
△:白化などの外観変化が僅かに認められる;
×:白化などの外観変化が著しく認められる;
(7)鉛筆硬度試験
帯電防止ハードコート膜について、JIS K 5400 に基づき、鉛筆硬度試験を行った。
【0060】
不飽和第4級アンモニウム塩化合物の製造実施例である合成例、比較合成例を以下に示す。
【0061】
〈不飽和第4級アンモニウム塩化合物の合成〉
合成例1
窒素雰囲気下で、500mLの三つ口フラスコにN,N−ジメチルアミノエチルアクリレート(興人製:DMAEA)40g、酢酸エチル160gを加え、内温を30℃に調整、撹拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸メチル45.4gを滴下し、反応温度30℃〜35℃で4級化反応を実施した。6時間後、反応液を取り出し、30℃、90torrでエバポレーターにより減圧濃縮を行った。ガスクロマトグラフ定量分析により、酢酸エチルは9.1%含有と確認した。続いて、35℃、常圧下にて4時間、10mL/minの流量で乾燥空気によりバブリングを行い、目的生成物であるアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナートを室温で透明な液体として84.1g得た。ガスクロマトグラフにより、酢酸エチルは未検出(100ppm以下)、DMAEA1000ppm、トリフルオロメタンスルホン酸メチル未検出(100ppm以下)であった。また、電位差滴定で第4級アンモニウム塩濃度(該目的物の純度)を求めたところ、99.8%であった。収率は99.0%であった。元素分析では、実測値(C:35.07%、H:5.11%、N:4.38%)が理論値(C:35.18%、H:5.25%、N:4.56%)と一致した。イオンクロマトグラフにより、塩素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、カルシウムイオンを定量し、それぞれの含量は1ppm以下であった。
【0062】
合成例2
窒素雰囲気下で、300mLの三つ口フラスコにN,N−ジメチルアミノエチルアクリレート(興人製:DMAEA)40g、酢酸ブチル110gを加え、内温を30℃に調整、撹拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸メチル43.7gを滴下し、反応温度30℃〜35℃で4級化反応を実施した。5時間後、二層分離した下層の4級アンモニウム塩層を取り出し、40℃、5torrで減圧濃縮した。ガスクロマトグラフにより、酢酸ブチル10.5%を確認した。続いて、45℃、常圧下にて4時間、乾燥空気でバブリング(流量20ml/min)を行い、目的生成物アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナートを室温において、透明な液体として80.1g得た。ガスクロマトグラフにより、酢酸ブチルは未検出(100ppm以下)、DMAEAは未検出(100ppm以下)、トリフルオロメタンスルホン酸メチルは未検出(100ppm以下)であった。電位差滴定で第4級アンモニウム塩濃度(該目的物の純度)を求めたところ、100%であった。また、収率は98.0%であった。元素分析では、実測値(C:35.22%、H:5.09%、N:4.35%)が理論値(C:35.18%、H:5.25%、N:4.56%)と一致した。イオンクロマトグラフにより、塩素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、カルシウムイオンを定量し、それぞれの含量は1ppm以下であった。
【0063】
合成例3
窒素雰囲気下で、300mLの三つ口フラスコにN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(和光純薬工業社製:DMAEMA)40g、酢酸ブチル110gを加え、内温を30℃に調整、撹拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸メチル38gを滴下し、反応温度30℃〜35℃で4級化反応を実施した。2時間後、析出した結晶をろ過し、40℃、5torrで減圧乾燥した。ガスクロマトグラフにより、酢酸ブチル1.2%を確認した。続いて、85℃に加熱し、結晶を融解させ、常圧下にて3時間、乾燥空気でバブリング(流量50ml/min)を行い、目的生成物であるメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナートを室温において、サラサラした白色結晶として71.0gを得た。ガスクロマトグラフにより、酢酸ブチルは未検出(100ppm以下)、DMAMEAは200ppm、トリフルオロメタンスルホン酸メチルは未検出(100ppm以下)であった。電位差滴定で第4級アンモニウム塩濃度(該目的物の純度)を求めたところ、99.9%であった。また、収率は95.5%であった。元素分析では、実測値(C:37.29%、H:5.45%、N:4.37%)が理論値(C:37.38%、H:5.65%、N:4.36%)と一致した。イオンクロマトグラフにより、塩素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、カルシウムイオンを定量し、それぞれの含量は1ppm以下であった。
【0064】
合成例4
窒素雰囲気下で、300mLの三つ口フラスコにN,N−ジメチルアミノエチルアクリレート(興人製:DMAEA)40g、酢酸ブチル120gを加え、内温を30℃に調整、撹拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸エチル47.4gを滴下し、反応温度30℃〜35℃で4級化反応を実施した。6時間後、二層分離した下層の4級アンモニウム塩層を取り出し、40℃、5torrで減圧濃縮した。ガスクロマトグラフの定量分析により、酢酸ブチルの残存量は9.7%と確認した。続いて、45℃、常圧下にて4時間、流量10ml/minの乾燥空気でバブリングを行い、目的生成物アクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナートを室温で透明な液体として82.8g得た。ガスクロマトグラフにより、酢酸ブチルは未検出(100ppm以下)、DMAEAは未検出(100ppm以下)、トリフルオロメタンスルホン酸エチルは未検出(100ppm以下)であった。電位差滴定で第4級アンモニウム塩濃度(該目的物の純度)を求めたところ、99.9%であった。また、収率は97.0%であった。元素分析では、実測値(C:37.25%、H:5.67%、N:4.18%)が理論値(C:37.38%、H:5.65%、N:4.36%)と一致した。イオンクロマトグラフにより、塩素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、カルシウムイオンを定量し、それぞれの含量は1ppm以下であった。
【0065】
合成例5
窒素雰囲気下で、300mLの三つ口フラスコにN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(和光純薬工業社製:DMAEMA)40g、酢酸ブチル110gを加え、内温を30℃に調整、撹拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸エチル43.2gを滴下し、反応温度30℃〜35℃で4級化反応を実施した。2時間後、析出した結晶をろ過し、40℃、5torrで減圧乾燥した。ガスクロマトグラフにより、酢酸ブチル1.6%を確認した。続いて、85℃に加熱し、結晶を融解させ、常圧下にて4時間、乾燥空気でバブリング(流量50mL/min)を行い、目的生成物であるメタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナートを室温において、サラサラした白色結晶として76.4gを得た。ガスクロマトグラフにより、酢酸ブチルは未検出(100ppm以下)、DMAMEAは230ppm、トリフルオロメタンスルホン酸エチルは未検出(100ppm以下)であった。電位差滴定で第4級アンモニウム塩濃度(該目的物の純度)を求めたところ、99.8%であった。また、収率は96%であった。元素分析では、実測値(C:39.28%、H:5.99%、N:4.15%)が理論値(C:39.40%、H:6.01%、N:4.18%)と一致した。イオンクロマトグラフにより、塩素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、カルシウムイオンを定量し、それぞれの含量は1ppm以下であった。
【0066】
合成例6
窒素雰囲気下で、300mLの三つ口フラスコにN,N−ジメチルアミノエチルアクリレート(興人製:DMAEA)40g、酢酸ブチル110gを加え、内温を30℃に調整、撹拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸メチル43.7gを滴下し、反応温度30℃〜35℃で4級化反応を実施した。5時間後、二層分離した下層の4級アンモニウム塩層を取り出し、40℃、5torrで減圧濃縮した。ガスクロマトグラフにより、酢酸ブチル10.5%を確認した。続いて、45℃、常圧下にて4時間、乾燥窒素でバブリングを行った。ガスクロマトグラフにより、酢酸ブチルは未検出(100ppm以下)、DMAEA1000ppm、トリフルオロメタンスルホン酸メチル未検出(100ppm以下)であった。この結果、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナートを透明液体として78.0g得た。電位差滴定で第4級アンモニウム塩濃度(該目的物の純度)を求めたところ、99.8%であった。また、収率は93.8%であった。元素分析では、実測値(C:35.13%、H:5.32%、N:4.55%)が理論値(C:35.18%、H:5.25%、N:4.56%)と一致した。イオンクロマトグラフにより、塩素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、カルシウムイオンを定量し、それぞれの含量は1ppm以下であった。
【0067】
比較合成例1
500mLの三口フラスコにトリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム54.7gをイオン交換水に250g溶解させ、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム水溶液を調製した。この水溶液にアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド(興人製:DMAEA−Q)79%水溶液70gを35℃で1時間かけて滴下し、均一で透明な反応液を得た。続いて、酢酸エチル200gを加え、抽出を行った。抽出は3回行い、その後、酢酸エチル層を合せてエバポレーターにより濃縮した。電位差滴定で濃縮液中の第4級アンモニウム塩濃度を求めたところ、未検出であり、目的生成物は得られなかった。
【0068】
比較合成例2
窒素雰囲気下で、1Lオートクレーブガラス容器にN,N−ジメチルアミノエチルアクリレート(興人製:DMAEA)200g、メタノール270gを加え、内温を30℃以下に調整し、撹拌しながら塩化メチルを注入し、4級化反応を実施した。
反応液中の残存遊離アミン(残存DMAEA)が0.3%以下になったところで反応液中の過剰の塩化メチルを減圧留去し、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド(DMAEA−Q)50%含有メタノール液532g(収率98.3%)を得た。
続いて、500mLの三つ口フラスコに、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム49.4g、メタノール200gを加え、該溶液を攪拌しながら、上記で合成したDMAEA−Q50%含有メタノール液100gを25℃で1時間をかけて滴下し、同時に白色結晶状固形物が析出した。滴下終了後、さらに25℃で2時間攪拌した後、結晶をろ過し、メタノールで洗浄した後、ろ液中のメタノールを減圧留去し、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナートを透明な液体として75.1g得た。電位差滴定で第4級アンモニウム塩濃度を求めたところ、該目的生成物の純度は88.7%、収率は83.9%であった。イオンクロマトグラフにより、塩素イオン、ナトリウムイオンを定量し、塩素イオン20800ppm、ナトリウムイオン2300ppmであった。
【0069】
比較合成例3
1Lの三つ口フラスコにメタクリル酸2−アミノエチル塩酸塩(Aldrich社製)18.4g、アセトン500mLを加え、0℃のアイスバスで撹拌しながら、トリフルオロメタンスルホン酸メチル65.7gを滴下し、続いて炭酸カリウム83gを添加した。反応液を0℃に保ち、24時間撹拌後、アセトンを減圧留去し、懸濁した残渣を得た。得られた残渣にクロロホルム500mL、水500mLを加え、分液ロートで有機相を分離、減圧濃縮し、半固体状の生成物を得た。続いて、酢酸エチルを加え撹拌し、不溶な固形分をろ過で取り除き、ろ液を真空下で濃縮、乾燥することにより、淡黄色固体粉末を18.5g取得した。ガスクロマトグラフにより、酢酸エチルは2.3%含有し、又、トリフルオロメタンスルホン酸メチルとアセトンの反応で副生した多数の不純物の発生を確認した。電位差滴定でメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナートの純度を求めたところ、57.5%であった。収率は33.1%であった。
【0070】
比較合成例4
窒素雰囲気下で、300mLの三つ口フラスコにN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(和光純薬工業社製:DMAEMA)40g、ジクロロメタン120gを加え、内温を35℃に調整、撹拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸メチル41.8gを滴下し、反応温度35〜40℃で4級化反応を実施した。8時間撹拌後、エバポレーターにより反応液を減圧濃縮し、半固体状生成物を52.5g取得した。ガスクロマトグラフにより、ジクロロメタンは7.4%、DMAEMA4.5%、トリフルオロメタンスルホン酸メチル由来の多数の不純物の発生を確認した。また、電位差滴定で第4級アンモニウム塩メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナートの純度を求めたところ、74.8%であった。また、収率は48.1%であった。イオンクロマトグラフにより塩素イオンを定量し、79000ppmであった。
【0071】
合成例1〜6の結果から分かるように、本発明の合成方法によると、重合などのトラブルは発生せず、高純度、高収率で、目的の塩素イオンフリー、金属イオンフリー、且つ反応用有機溶媒を完全に除去した不飽和第4級アンモニウム塩化合物が取得できる。
【0072】
一方、比較合成例1〜4の結果から、水溶液中で行われたアニオン交換反応にて実施した場合、目的の不飽和第4級アンモニウム塩化合物と副生する金属塩が共に水に溶解するため、不飽和第4級アンモニウム塩化合物を単離することが困難であると明らかになり、また、メタノール、アセトン、ジクロロメタンなどの有機溶媒中でアニオン交換反応又は酸エステルによる4級化反応を行っても、有機溶媒の残存、副生物の多数発生、塩素イオンと金属イオンの残存など多くの問題点があり、高収率で高純度の目的の不飽和第4級アンモニウム塩化合物を取得することができない。
【0073】
本発明の製造方法により得られた不飽和第4級アンモニウム塩化合物を組成物とする帯電防止剤とする実施例、比較例を以下に示す。
【0074】
実施例A−1
帯電防止ハードコート剤の作製
合成例1で合成したアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート23重量部をIPA120重量部に溶解してから、ペンタエリスリトールトリアクリレート(共栄社化学(株)社製:ライトアクリレートPE−3A)35重量部、光開始剤として、チバ・スペシャルティーケミカルズ社製、商品名Darocure1173 3重量部を加え、均一に混合し、紫外線硬化可能な帯電防止ハードコート剤を得た。その後、得られたハードコート剤を厚さ100μmのPETフィルムに塗装し、紫外線硬化を行い、帯電防止性ハードコートを作製した。
【0075】
実施例A−2〜9、比較例A−10〜18
表1と表2に記載の組成に変えた以外は実施例A−1とで同様に帯電防止ハードコートを作製、評価した。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
実施例B−1
〈ホモポリマー溶液の合成〉
撹拌翼、還流冷却器、ガス導入口を備えたフラスコに、合成例1で合成したアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート20重量部とアゾイソブチロニトリル(AIBN)0.2重量部をメタノール(MeOH)120重量部に混合溶解し、窒素気流下60℃で8時間重合し、第4級アンモニウム塩ホモポリマー溶液(a)を得た。
〈第4級アンモニウム塩ホモポリマー含有の帯電防止ハードコート剤の作製〉
第4級アンモニウム塩ホモポリマー溶液(a)10重量部に、ペンタエリスリトールトリアクリレート(共栄社化学社製:ライトアクリレートPE−3A)50重量部とジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学社製:ライトアクリレートDPE−6A)50重量部、及び光開始剤として、チバ・スペシャルティーケミカルズ社製、商品名Darocure1173 3重量部を、IPAとメチルエチルケトン(MEK)の1:1重量比の混合溶媒120重量部に混合溶解して、紫外線硬化可能な4級塩ポリマー含有の帯電防止ハードコート剤を得た。その後、得られたハードコート剤を厚さ100μmのPETフィルムに塗装し、紫外線硬化を行い、帯電防止性ハードコートを作製した。
【0079】
実施例B−2
〈コポリマー溶液の合成〉
撹拌翼、還流冷却器、ガス導入口を備えたフラスコに、合成例1で合成したアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート10重量部、2−エチルヘキシルアクリレート(EHA)10重量部とAIBN 0.2重量部をIPA120重量部に混合溶解し、窒素気流下70℃で8時間重合し、第4級アンモニウム塩コポリマー溶液(b)を得た。
コポリマー溶液の合成におけるモノマーの配合比を表3に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
実施例B−2〜6、比較例B−7〜8
表4に記載の組成に変えた以外は実施例B−1と同様に帯電防止性ハードコートを作製、評価した。
【0082】
【表4】

【0083】
実施例と比較例のUV硬化性と塗膜の帯電防止性評価結果から、市販の不飽和第4級アンモニウム塩はアニオンとして塩素イオンを有するため、それから得られた塗膜はべとつき、透明性が悪く、また、それらの原因により均一な塗膜が得られず、耐擦傷性や硬度が低下し、帯電防止効果も低いことが分かった。さらに、不飽和第4級アンモニウム塩化合物中の金属イオン濃度が高い場合も、吸湿しやすくなるため、得られた帯電防止膜は耐湿性が悪く、塗膜の表面が白化するなどの問題が発生する。本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物は、塩素イオンフリー、金属イオンフリー、有機溶媒含有せず、多官能モノマーや有機溶媒との相溶性が高く、特に帯電防止剤組成物中の非極性成分とも相溶するので、均一且つ透明な、着色しない帯電防止性塗膜が得られる。本発明の製造方法は簡便で、高純度の目的不飽和第4級アンモニウム塩化合物を高収率で取得できる。さらに、得られた高品質な不飽和第4級アンモニウム塩化合物は、UV硬化に要するエネルギーが少なく、透明性がよく、着色せず、高耐擦傷性、高硬度、高耐加水分解性を併せ持ち、優れた帯電防止効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明してきたように、本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物は、常温、常圧でも十分な速度で高純度且つ高収率で製造することができる。また、塩素イオンフリー、金属イオンフリー、且つ有機溶媒を含有しないため、環境負荷が少なく、電子材料にも適用されると共に、他の多官能モノマーなどの帯電防止組成物及び有機溶媒との相溶性が良好である。この不飽和第4級アンモニウム塩化合物からなる帯電防止組成物を用いて形成される帯電防止層は、帯電防止性、透明性、耐擦傷性、高硬度、着色し難く、さらに耐湿性に優れる。本発明の不飽和第4級アンモニウム塩化合物からなる帯電防止層は、紫外線硬化型樹脂組成物、粘着剤組成物等の樹脂にあらかじめ添加して使用する場合などに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】


(式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜3のアルキル基又はアリール基を表し、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。)で表される不飽和第4級アンモニウム塩が有機溶媒中で、一般式(2)
【化2】


(式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。)で表される3級アミン化合物と、一般式(3)
【化3】


(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基又はアリール基を表す。)で表されるトリフルオロメタンスルホン酸エステルとの4級化反応により合成されることを特徴とする不飽和第4級アンモニウム塩の製造方法。
【請求項2】
前記不飽和第4級アンモニウム塩を製造するにあたり、有機溶媒として、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルからなる非プロトン性有機溶媒群から選ばれた少なくとも1種を用いることを特徴とする、請求項1に記載の不飽和第4級アンモニウム塩の製造方法。
【請求項3】
前記不飽和第4級アンモニウム塩を製造するにあたり、有機溶媒の除去は不活性ガスバブリングによる行うことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の不飽和第4級アンモニウム塩の製造方法。
【請求項4】
前記不飽和第4級アンモニウム塩を製造するにあたり、不活性ガスとして、乾燥窒素、乾燥空気及び乾燥ヘリウム、乾燥ネオン、乾燥アルゴン、乾燥クリプトン、乾燥キセノンと乾燥ラドンなどの乾燥希ガスからなる、前記不飽和第4級アンモニウム塩と反応しない乾燥不活性ガス群から選ばれた少なくとも1種を用いることを特徴とする、請求項1乃至請求項3に記載の不飽和第4級アンモニウム塩の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか一項に記載の製造方法で合成される塩素イオンフリー(塩素イオン含量は1ppm以下)、金属イオンフリー(各種金属イオン含量は1ppm以下)、且つ有機溶剤の含有量は100ppm未満の不飽和第4級アンモニウム塩。
【請求項6】
請求項5記載の不飽和第4級アンモニウム塩をラジカル重合させることにより得られる塩素イオンフリー(塩素イオン含量は1ppm以下)且つ金属イオンフリー(各種金属イオン含量は1ppm以下)の4級アンモニウム塩含有オリゴマー又はポリマー。
【請求項7】
請求項5記載の不飽和第4級アンモニウム塩と他の共重合可能のビニル系単量体との共重合で得られる塩素イオンフリー(塩素イオン含量は1ppm以下)且つ金属イオンフリー(各種金属イオン含量は1ppm以下)の4級アンモニウム塩含有コオリゴマー又はコポリマー。
【請求項8】
請求項5乃至7の不飽和第4級アンモニウム塩及び/又はオリゴマー若しくはポリマーからなる塩素イオンフリー(塩素イオン含量は1ppm以下)且つ金属イオンフリー(各種金属イオン含量は1ppm以下)の帯電防止剤。
【請求項9】
請求項8記載の帯電防止剤又は該帯電防止剤を含有する帯電防止組成物であって、請求項5記載の不飽和第4級アンモニウム塩を構成単位として0.1〜90重量%含有するもの。
【請求項10】
請求項8又は9記載の帯電防止剤を含有する帯電防止組成物であって、さらに多官能(メタ)アクリレート及び/又は多官能(メタ)アクリルアミドを含有する帯電防止組成物。
【請求項11】
基材上に請求項8〜10いずれか一項に記載の帯電防止剤又は帯電防止組成物を塗装した後、活性エネルギー線又は熱により重合して形成されることを特徴とする帯電防止層。
【請求項12】
少なくとも片面に請求項11記載の帯電防止層を有することを特徴とする帯電防止フィルム、シート。

【公開番号】特開2013−1654(P2013−1654A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131756(P2011−131756)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】