説明

両親媒性ブロックコポリマー及びその製造方法

この発明は、両親媒性ブロックコポリマー、その製法、及びその自己安定性ラテックスの形態における利用に関するものである。このコポリマーは、式R5-O-[-CH2CH2-O-]n-C(=O)-CR3R4-[CH2CR6R7]m-S-C(=S)-S-R1を有し、式中:R1は、直鎖又は分枝鎖アルキル基、一つ以上の−C=C−結合を有するアルケニル基、又は一つ以上の−C≡C−結合を有するアルキニル基を表し、該基は、8〜18炭素原子を有し;20≦n≦100であり;R3及びR4は、各々、互いに独立的に、H、1〜4炭素原子を有するアルキル基又はニトリル基を表し、R3及びR4の少なくとも一つは、Hでなく;R6は、フェニル基又はアルコキシカルボニル基(式中、アルコキシ基は、1〜8炭素原子を有する)を表し;R7は、水素原子又はメチル基を表し;そして20≦m≦1000である。製法は、化合物R1−S−C(=S)−S−CR34−C(=O)−OR2{式中、R2は、R5−[−O−CH2CH2−]n−基であり、R5は、親水基であり、20≦n≦100である}の水溶液を調製し;該溶液に、式(II)R6−CR7=CH2の一種以上の疎水性モノマー及び遊離基重合開始剤を加え;そして該水溶液を60〜90℃の温度に加熱することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性ブロックコポリマーの、遊離界面活性剤を含まない水性媒質及びエマルジョン中での製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
両親媒性コポリマーは、多くの技術分野、特に、ペンキ、ワニス及びコーティングの分野において有用である。有機溶媒を含まない水性組成物は、第一に、溶媒として用いられる水が有機溶媒より安価であるという事実により、第二に、殆どの有機溶媒に内在する毒性及び汚染の問題のために、特に望ましい。
【0003】
両親媒性コポリマーを、特に有機溶媒中の溶液において、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)剤の助成による重合によって製造することは、公知の慣例である。しかしながら、有機溶媒の使用は、もはや、現在の非毒性及び非汚染の基準に合わない。
【0004】
(コ)ポリマーのRAFT剤を用いる水中での製造を、乳化重合によって行なうことができるが、次に、界面活性剤を加えることが必要である。しなしながら、得られた(コ)ポリマーは、一般に、様々なペンキ、ワニス又はコーティング組成物に、精製することなく、得られた形態で、直接導入されるので、該組成物は、遊離の界面活性剤を含み、それは、その後、これらの組成物が基材上に被覆された場合に拡散しうる。
【0005】
疎水性モノマーの、RAFT剤の存在下での重合は、溶媒なしで行なうことができる(「バルク」重合)が、その場合その反応媒質は、非常に粘性となって、重合速度に有害となり、得られる(コ)ポリマーの組成の均一性に有害となる。
【0006】
両親媒性コポリマーの、水中での、マクロRAFT剤の存在下での製造方法は、Ferguson等により記載されている[Macromolecules, 2005, 28(6), 2191-2204]。マクロRAFT剤は、溶液中のRAFT剤を親水性モノマー(アクリル酸)と、遊離基重合開始剤及びNaOHの存在下で、無酸素雰囲気中で60℃で2時間撹拌して反応させることによって得られる。このRAFT剤は、2−{[(アルキルスルファニル)カルボノチオイル]スルファニル}プロパン酸であり、アルキル基は、ブチル又はドデシル基である。アルキル基がブチルである場合には、反応は、水中で起こりうる。アルキル基がドデシルである場合には、RAFT剤の溶解度は、余りにも低く、反応は有機溶媒中で行わなくてはならない。ブロックコポリマーは、マクロRAFT剤、遊離基重合開始剤及びNaOHを含む水溶液を60℃で調製し、次いで、連続する画分にて、疎水性ブロックを形成することを意図する疎水性モノマー(n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート又はスチレン)を加えることにある方法によって得られる。このモノマーは、反応媒質中で、モノマー濃度を飽和濃度よりも低い値に維持するために、5時間より長時間にわたって加える。この疎水性モノマーの画分における添加は、この方法を複雑にし、この工程の持続時間を長くする。
【0007】
水中で、マクロRAFT剤の存在下でモノマーを重合するための方法は、Martins dos Santos等[Macromol. Rapid Comm., 2007, 28, 1325-1332]により記載されている。このマクロRAFT剤は、「ジチオベンゾエート」型であり、それは、アミノ末端基を有するポリ(エチレンオキシド)をスクシンイミド−4−[(フェニル−1−チオキソ)チオ]−4−シアノペンタノエートと反応させることにより得られる。両親媒性ブロックコポリマーは、一方法によって製造され、その間、マクロRAFT剤、疎水性モノマー及び遊離基重合開始剤が水に導入され、反応媒質を酸素を除去するためにパージし、その後、70℃にて加熱する。この方法は、鎖成長を制御することを可能にしない:モノマーの転化によって形成されたポリマーのモル質量を変えることは不可能であり;数平均モル質量と、モノマーとマクロRAFT剤の初期濃度の比との間には直接的関係はなく;モル質量分布はブロードであり、慣用の乳化重合法により得られたものと類似している。
【0008】
M. Manguian等[Macromol. Rapid Commun. 2006, 27, 399-404]は、4−シアノペンタン酸4−ジチオベンゾエート(CPADB)をジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA)と反応させることによるマクロRAFT剤の調製、及びその、スチレンとの両親媒性ブロックコポリマーを、水中で、遊離基重合開始剤の存在下で、界面活性剤を添加することなく製造するための利用を記載している。この実施方法においても、鎖成長は、制御され得ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ferguson等、Macromolecules, 2005, 28(6), 2191-2204
【非特許文献2】Martins dos Santos等、Macromol. Rapid Comm., 2007, 28, 1325-1332
【非特許文献3】M. Manguian等、Macromol. Rapid Commun. 2006, 27, 399-404
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、両親媒性コポリマーを水中のエマルジョン中で製造する方法を提供することであり、該方法は、得られるコポリマーのモル質量を制御すること及び、界面活性剤を添加することなくコロイド安定性を与えることを可能にする。
【0011】
本発明の主題は、両親媒性コポリマーを、水性媒質中のエマルジョン中で製造する方法であり、得られたコポリマーでもあり、その利用でもある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明による方法は、下記にある:
− 下記式(I)の化合物の水溶液を調製し:
1−S−C(=S)−S−CR34−C(=O)−OR2 (I)
{式中:
*1は、直鎖又は分枝鎖アルキル基、一つ以上の−C=C−結合を有するアルケニル基、又は一つ以上の−C≡C−結合を有するアルキニル基を表し、該基は、8〜18炭素原子を有し;
*2は、R5−[−O−CH2CH2−]n−基を表し、式中、R5は、親水基であり、20≦n≦150であり;
*3及びR4は、各々、互いに独立に、H、1〜4炭素原子を有するアルキル基又はニトリル基を表し、R3及びR4の少なくとも一つは、Hでなく;該水溶液は、界面活性剤を含まない}、
− 該溶液に、連続的に、下記式(II)の一種以上の疎水性モノマー:
6−CR7=CH2 (II)
{式中:
*6は、フェニル基又はアルコキシカルボニル基(式中、アルコキシ基は、1〜8炭素原子を有し、適宜、一種以上の官能基を有する)を表し、そして
*7は、水素原子又はメチル基を表す}を加え、
次いで、遊離基重合開始剤を加え;その後
− 該水溶液を、疎水性モノマーの重合のために、5〜95℃の温度にもたらす。
【0013】
5〜95℃の範囲内の特定の温度及びこの温度での保持の持続時間の選択は、使用する特定のモノマーに依存する。この選択は、当業者の範囲内にある。
【0014】
式(I)の化合物の親水性基R5は、H又は−(CH2p−CH2−R8基{式中、pは、0又は1であり、R8は、H又は、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−N(CH32及び−N(CH33+-(ここに、Mは、H又はアルカリ金属であり、Xは、Cl、Br又はIである)から選択する基を表す}であってよい。
【0015】
式(I)の化合物 R1−S−C(=S)−S−CR34−C(=O)−OR2は、この発明の方法で用いられるマクロRAFT剤である。それは、溶液中で、2−{[(アルキルスルファニル)カルボノチオイル]スルファニル}−2−メチルプロパン酸(ここに、アルキル基は、8〜18炭素原子を有する)を、有機溶媒中の親水性セグメントとしてのエチレンオキシドオリゴマーと反応させることにより得られる。2−{[(アルキルスルファニル)カルボノチオイル]スルファニル}−2−メチルプロパン酸の例として、2−{[(ドデシルスルファニル)カルボノチオイル]スルファニル}−2−メチルプロパン酸を挙げることができる。
【0016】
この反応は、好ましくは、脱酸素化媒質中で行なう。
【0017】
疎水性モノマー/マクロRAFT剤比の選択は、このブロックコポリマーの疎水性セグメントの長さを調節することを可能にする。該比は、それらの量はモル数として表され、好ましくは、20〜1000であり、一層特には、20〜500である。
【0018】
この発明の方法は、界面活性剤の添加なしで、ポリエーテル親水性ブロック及び反復するCH2CR67単位よりなる疎水性ブロックを含む両親媒性コポリマーを得ることを可能にする。かかるコポリマーは、下記の一般式(III)により表すことができる:
R5-O-[-CH2CH2-O-]n-C(=O)-CR3R4-[CH2CR6R7]m-S-C(=S)-S-R1 (III)
(式中、R1、R3、R4、R5、R6及びR7及びnは、上で与えた意味を有し、mは、20〜1000である)
【0019】
本発明による製造方法は又、最初からバッチ式で行なうことができる、即ち、(共)重合に必要なすべての化合物(式(I)及び(II)の化合物、水及び遊離基重合開始剤)を反応器に導入し、次いで、(共)重合を、外部干渉なしで、単一工程で行なうことによりバッチ式で行なうことができるという利点をも有する。
【0020】
式(III)のコポリマーの特別の例として、下記の式に対応するコポリマーを挙げることができる(ここに、Phは、フェニル基である):
i) CH3-O-[-CH2CH2-O-]n-C(=O)-C(CH3)2[CH2-CHPh]m-S-C(=S)-S-C12H25;
ii) CH3-O-[-CH2CH2-O-]n-C(=O)-C(CH3)2[CH2-CHPh]m1-[CH2-CHCOOC4H9]m2-S-C(=S)-S-C12H25
(式中、m1及びm2は、同じであっても異なってもよくて、0〜1000に及び、且つ20≦m1+m2≦1000である);
iii) CH3-O-[-CH2CH2-O-]n-C(=O)-C(CH3)2[CH2-CHCOOC4H9]m-S-C(=S)-S-C12H25;
iv) CH3-O-[-CH2CH2-O-]n-C(=O)-C(CH3)2[CH2-CCH3COOCH3]m3-[CH2-CHCOOC4H9]m4-S-C(=S)-S-C12H25
(式中、m3及びm4は、同じであっても異なってもよく、0〜1000に及び、且つ20≦m3+m4≦1000であり、且つm3/(m3+m4)<0.9である)。
【0021】
このコポリマーは、自己安定性ラテックスの形態で、即ち、巨大分子の凝集により形成された粒子の水中コロイド懸濁液の形態で得られる。これらの粒子の核は、コポリマーの疎水性ブロック及び随意の親水性ブロックの部分により形成され、これらの粒子の表面は、コポリマーの親水性ブロックの全部又は一部により被覆され、これは、これらの粒子の水中でのコロイド安定性を与える。
【0022】
この発明の方法により得られたこれらのコポリマーは、特に、コーティング即ちペンキ及びワニスの分野及び接着剤の分野において有用である。
【0023】
これらのコポリマーは又、様々な組成物における添加剤として、特に、顔料分散剤として、油/水若しくは水/油エマルジョンに対する安定剤として、又はポリマーブレンドにおける安定剤としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】マクロ−RAFT剤の純度をスペクトルとして表す。
【図2】モノマーの転化率(%)を時間(時間)の関数として表す。
【図3】転化率の関数として、数平均モル質量Mn及びMw/Mn多分散性インデックスを表す。
【図4】転化率の関数としての、サイズ排除クロマトグラフィーの変化を表す。
【図5】モノマーの転化率(%)を、時間(時間)の関数として泡ラス。
【図6】転化率の関数として、数平均モル質量Mn及びMw/Mn多分散性インデックスを表す。
【図7】サイズ排除クロマトグラフィーの、転化率の関数としての、変化を表す。
【図8】転化率によるサイズ排除クロマトグラフィーの変化を表す。
【図9】転化率の関数として、数平均モル質量Mn及びMw/Mn多分散性インデックスを表す。
【実施例】
【0025】
本発明は、下記の実施例によって、一層詳細に説明されるが、該実施例に限定されるものではない。
【0026】
これらの実施例は、脱イオン水中で、下記の出発生成物を用いて行なわれる:
ACPA 4,4’−アゾビス−4−シアノペンタン酸(純度>98%、Fluka);
DCC N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(純度>99%、Fluka);
DMAP 4−(ジメチルアミノ)ピリジン(純度>99%、Fluka);
MPEO α−メトキシ−ω−ヒドロキシ−ポリ(エチレンオキシド)(Mn=2000g.モル-1、Fluka)(乾燥トルエンを用いて共沸蒸留により乾燥したもの);
TTCA 2−{[(ドデシルスルファニル)カルボノチオイル]スルファニル}−2−メチルプロパン酸;
Lai, J. T., Filla, D., Shea, R. Macromolecules 2002, 35, 6754-6756 により調製;
DTBA 4−シアノペンタン酸4−ジチオベンゾエート(Mitsukami, Y.; Donovan, M. S.; Lowe, A. B.; McCormick, C. L. Macromolecules 2001, 34, 2248-2256により調製);
ST スチレン(純度>99%、Fluka)、(真空下で蒸留したもの);
nBA n−ブチルアクリレート(純度>99%、Aldrich)(真空下で蒸留したもの);
MMA メチルメタクリレート(純度>99%、Aldrich)(真空下で蒸留したもの)。
【0027】
得られた生成物を、下記の方法により、特性決定した。
【0028】
モノマーの転化率を、重量分析により、測定した。
【0029】
これらの(コ)ポリマーのモル質量及び多分散性インデックスを、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により測定した。後者を、40℃で、2つのカラム(PSS SDV 直線的MU、5μm)を用いて行なった。テトラヒドロフラン(THF)を溶離剤として、1mL.分-1の流量で用いた。この検出を、LDCアナリティカル・リフラクトモニターIV示差屈折率検出器を用いて行なった。平均モル質量を、較正曲線から、Polymer Standards Service により販売されているポリスチレン標準に基いて計算した。
【0030】
希釈した水性分散液の平均粒子直径(Dz)及び多分散性を、動的光散乱法(DLS)により25℃で、Malvernのゼタシザー・ナノS90装置(角度90°、633nmの、5mW He−Neレーザー)を用いて測定した。
【0031】
実施例1
マクロ−RAFT剤の調製
【化1】

40mLの無水THF中の、TTCA1.82g(5×10-3モル)、DCC1.03g(5×10-3モル)及びDMAP0.06g(5×10-4モル)の溶液を、窒素大気下で、5gの乾燥MPEO(2.5×10-3モル)を含む反応器に導入した。この反応媒質を、下記のエステル化反応を得るように、室温に、攪拌しながら120時間維持した:
【化2】

【0032】
エステル化により形成されたこのポリマーを、反応媒質を、ジエチルエーテルから冷条件下で沈澱させることにより回収した。濾過後に、得られた生成物を、真空下で、40℃で乾燥させてから、5〜8℃に貯蔵した。このマクロ−RAFT剤(収率90%で得られた)は、2420g/モルの数平均モル質量Mnを有する。その末端官能基−S−C(=S)−S−C1225の含有量は、95%より大きい。
【0033】
このマクロ−RAFT剤の純度は、1H−NMR分光測定法により、ブリュッカースペクトル計を用いて、500MHzで、CDCl3中で、周囲温度で測定された。対応するスペクトルを添付の図1に表示してあるが、そこでは、下記の化学シフトを同定することができる:
0.86ppm (t,3H,C1225基の−CH2CH3),
1.23ppm (m,18H,C1225基の−CH2(CH29CH3),
1.67ppm (s,6H,-C(CH32−SC(S)S−), 3.24 (t,2H,C1225基の−SC(S)CH2CH2−),
3.36ppm (s,3H,PEO基のCH3OCH2−),
3.6ppm (M,PEO基のCH3O−(CH2CH2O)n-1−CH2CH2−OC(O)C(CH32−),
4.23ppm (t,2H,PEO基の−CH2CH2−OC(O)C(CH32−)。
【0034】
実施例2
PEO−ポリスチレンブロックコポリマーの製造
実施例1により得られたPEO−TTC0.1670g(0.069mモル)を、7.63gの脱イオン水に溶解させた。次に、1.04g(10.0mモル)のスチレンを、シールした25mLフラスコ内に加えた。この反応媒質中で、スチレンは、媒質の全重量に対して11重量%に相当し、PEO−TTCの初期濃度は、7.5mモル.L-1である。
【0035】
10mg.mL-1のACPAを含む水溶液を調製して、NaHCO3(ACPAに対して3.5モル当量)で中和した。この溶液0.48mL(即ち、0.017mモルのACPA)を、該シールされたフラスコに含まれる反応混合物に加えて、その結果得られた混合物を、窒素によるスパージングにより、3℃で、30分間脱酸素化し、次いで、そのフラスコを、サーモスタット付きの油浴(80℃)に浸した。これらの反応条件は、表1にまとめてあり、該表において:
− [ACPA]0は、反応媒質のACPAの初期濃度(mモル.L-1)を示し;
− tは、重合時間(時間)を示し;
− Cは、疎水性モノマーの転化率(%で表示)を示し;
− [ST]0/[RAFT]0は、モノマーのRAFT剤に対する初期の比(モル数)を示し;
− Mn,thは、示した実験における転化率での理論的数平均モル質量を示し;
− Mn,expは、SECによるポリマーの分析から計算された数平均モル質量を示し;
− Mw/Mnは、重量平均モル質量の数平均モル質量に対する比を表し;
− Dz(nmで表示)は、平均粒径を示す。分散度インデックスは、括弧内に示されている。低いインデックスは、狭い粒子サイズ分布を示し;
− Npは、重量分析から、下記の方程式により計算されるラテックス1グラム当りの粒子数を示す:
【数1】

(式中、τは、ラテックス1グラム当りのポリマーの質量[g.g-1latex]であり、dpは、25℃におけるポリマーの密度であり、即ち、ポリスチレンについては、1.05g.cm-3であり、PnBuAについては、1.055g.cm-3である)。
【0036】
モノマーの転化率を重量分析によりモニターし、転化率による平均粒径及びモル質量の変化をもモニターするために、試料を、規則的間隔で採取した。
【0037】
添付の図2は、モノマーの転化率(%)を時間(時間)の関数として表している。
【0038】
添付の図3は、X軸に沿って与えられた転化率の関数として、数平均モル質量Mn(正方形により表示)及びMw/Mn多分散性インデックス(三角形により表示;Mnは、数平均モル質量であり;Mwは、重量平均モル質量であり;これら2つの値は、SECによるポリマーの分析から計算される)を表している。直線は、理論的平均モル質量を転化率の関数として表している。
【0039】
添付の図4は、転化率の関数としての、サイズ排除クロマトグラフィーの変化を表している。
【0040】
これらの図は、下記を示している:
i) スチレンの重合は、数平均モル質量Mnの直線的変化が、モノマー転化率に伴って認められ、多分散性インデックスが低い(1.5より遥かに低い)という意味において、制御され;
ii)すべてのPEO−TTCマクロ−RAFT剤が反応した。何故なら、Mnの値が理論的直線と非常によく合っている、即ち、形成されたポリマーの質量の、導入したマクロRAFT剤のモル数に対する比により、所与の転化率で計算されるMnの理論値と非常によく合っていることが認められるからである。
【0041】
比較のために、実施例2の手順を、実施例1のマクロRAFT剤を下記式に相当するPEO−DTBで置き換えて、再現した:
【化3】

【0042】
操作条件は、表1に与えてある。PEO−DTBを用いたならば、等しい反応時間(約20時間)についての、疎水性モノマーの転化率は、26%しかなく、実施例1のマクロRAFT剤を用いたならば、それは67%である。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例3
PEO−b−ポリ(n−ブチルアクリレート)ブロックコポリマーの製造
試料A2
実施例1により得られたPEO−TTC0.1670g(0.069mモル)を、7.63gの脱イオン水に溶解させた。次に、1.28g(10mモル)のn−ブチルアクリレートを、25mLのシールしたフラスコ中に加えた。この反応媒質において、スチレンは、13重量%に相当し、PEO−TTCの初期濃度は、7.1mモルL-1である。
【0045】
10mg.mL-1のACPAを含む水溶液を調製して、NaHCO3(ACPAに対して3.5モル当量)を用いて中和した。この溶液0.48mL(即ち、0.017mモルのACPA)を、該シールしたフラスコ内に含まれる反応媒質に加え、その結果生成した混合物を、窒素による3℃で30分間のスパージングにより脱酸素化し、次いで、そのフラスコを、サーモスタット付きの油浴(70℃)に浸した。
【0046】
試料A1、A3及びA4
試料A2の手順を、種々の量の疎水性モノマーを用いて、再現した。試料A1、A2及びA3において、マクロRAFT剤の濃度は、事実上一定に維持され、疎水性モノマーの濃度は、変更された。モノマー/マクロRAFT剤比が増大すると、想像されるように、疎水性セグメントの長さが増し、ラテックス粒子の直径も増大し(89nmから510nmへ)、そして粒子の数は、実質的に減少する。試料A4において、PEO−TTCマクロRAFT剤の濃度は、実験A3と比較して増大した。
【0047】
試料A2のこれらの条件下での手順も又、PEO−TTCマクロRAFT剤を、実施例2で比較のために用いたPEO−DTBマクロRAFT剤で置き換えて再現した。この比較試験は、X2と示されている。
【0048】
様々な試験の条件を表2に与えるが、そこでは:
− nBAの段は、反応混合物中のモノマーに相当する重量パーセンテージを示しており;
− [ACPA]0の段は、初期反応媒質中のACPAの初期濃度(mモル.L-1)を与え;
− tの段は、転化時間(時間)を与え;
− Cの段は、nBAモノマーの転化率(%)を与え;
− [nBA]0/[RAFT]0の段は、nBAモノマーのマクロRAFT剤に対する初期モル比を示し;
− Mn,thの段は、示した実験転化率での理論的数平均モル質量を与え;
− Mn,expの段は、SECによるポリマーの分析から計算された数平均モル質量を与え;
− Mw/Mnの段は、重量平均モル質量の数平均モル質量に対する比を与え;
− Dz(nmで表示)の段は、平均粒径を与える。分散度インデックスは、括弧内に示されている。低いインデックスは、狭い粒子サイズ分布を示す。
− Npの段は、重量分析から、実施例2につき与えた方程式により計算された、ラテックス1グラム当りの粒子数を与える。
【0049】
モノマーの転化率を重量分析により追跡するために、そして平均粒径の変化及び転化率の関数としてのモル質量をも追跡するために、試料を、規則的間隔で採取した。
【0050】
添付の図5は、モノマーの転化率(%)を、時間(時間)の関数として表示している。ひし形は、試料A4に相当し、三角形は、試料A3に相当する。
【0051】
添付の図6は、X軸に沿って与えた転化率の関数として、数平均モル質量Mn(中実のひし形及び三角形により表示)及びMw/Mn多分散性インデックス(中空のひし形及び三角形により表示)を表示している。直線は、理論的平均モル質量を、転化率の関数として表している。
【0052】
添付の図7は、サイズ排除クロマトグラフィーの、転化率の関数としての、変化を表している。
【0053】
これらの結果は、第一に、n−ブチルアクリレートの重合が特に迅速であり事実上完全であることを示し、第二に、ラテックス(試料A4)の不安定化なしで、バッチ式条件下で、即ち、すべての反応物を反応の初めに反応器に加えることにより、ポリマーの23重量%(試料A4)又はポリマーの24重量%(試料A3)に達することが可能であったことを示している。それらは又、本発明で用いられるマクロRAFT剤が、PEO−DTBマクロRAFT剤と比べて明らかに優れていることをも示している。
【0054】
【表2】

【0055】
実施例4
PEO−b−ポリ(メチルメタクリレート)−コ−ポリ(n−ブチルアクリレート)ブロックコポリマーの製造
実施例1により得られたPEO−TTCマクロRAFT剤0.167g(Mn=2420g.モル-1、即ち、6.9×10-5モル)を、25mLのシールしたフラスコ内の脱イオン水3.666gに溶解させた。8mg.mL-1のACPAを含む水溶液を用意して、NaHCO3(ACPAに対して3.5モル当量)を用いて中和した。この溶液(4.0mg、1.4×10-5モル)0.5mLを、PEO−TTC溶液に加えた。次いで、0.575g(4.5×10-3モル)のnBA及び0.459g(4.6×10-3モル)のMMAを、該シールしたフラスコに含まれる混合物に加えた。この反応混合物を、窒素によるスパージングにより、3℃で30分間、脱酸素化してから、そのフラスコを、サーモスタット付きの油浴(70℃)に浸した。
【0056】
モノマーの転化率を重量分析により追跡するために、並びに平均粒径の変化及び転化率の関数としてのモル質量をも追跡するために、試料を、規則的間隔で採取した。
【0057】
5.4時間の重合の後に、全モノマー転化率は、92%に達する。125nmの粒子(分散度=0.04)よりなる安定なラテックスが得られる。
【0058】
添付の図8は、転化率によるサイズ排除クロマトグラフィーの変化を示している:それらは、転化率と共にシフトして、マクロRAFT剤(PEO−TTC)の初期ピークの完全な消失が認められ、これは、後者の完全な消費を示している。
【0059】
添付の図9は、X軸に沿って与えられた転化率の関数としての、数平均モル質量Mn(中実のひし形により表示)及びMw/Mn多分散性インデックス(中空のひし形により表示)を表している。この直線は、理論的平均モル質量を転化率の関数として表している。Mnの、転化率に伴う直線的変化及び予想質量に非常に近い一致性が、認められる。これらの結果は、n−ブチルアクリレートとメチルメタクリレートの共重合が、実施例1に記載されたマクロRAFT剤の存在下で、最初から、バッチ条件下で、水性エマルジョン中で制御されうることを示している。自己安定性アクリルラテックスを、慣用の界面活性剤の添加を必要としないこの簡単な方法によって得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両親媒性コポリマーを、水性媒質中のエマルジョン中で製造する方法であって、下記を特徴とする当該方法:
− 下記式(I)の化合物の水溶液を調製し:
1−S−C(=S)−S−CR34−C(=O)−OR2 (I)
{式中:
*1は、直鎖又は分枝鎖アルキル基、一つ以上の−C=C−結合を有するアルケニル基、又は一つ以上の−C≡C−結合を有するアルキニル基を表し、該基は、8〜18炭素原子を有し;
*2は、R5−[−O−CH2CH2−]n−基を表し、式中、R5は、親水基であり、20≦n≦150であり;
*3及びR4は、各々、互いに独立に、H、1〜4炭素原子を有するアルキル基又はニトリル基を表し、R3及びR4の少なくとも一つは、Hでなく;該水溶液は、界面活性剤を含まない}、
− 該溶液に、連続的に、下記式(II)の一種以上の疎水性モノマー:
6−CR7=CH2 (II)
{式中:
*6は、フェニル基又はアルコキシカルボニル基(式中、アルコキシ基は、1〜8炭素原子を有し、適宜、一種以上の官能基を有する)を表し、そして
*7は、水素原子又はメチル基を表す}を加え、
次いで、遊離基重合開始剤を加え;その後
− 該水溶液を、5〜95℃の温度にもたらす。
【請求項2】
式(I)の化合物の親水基R5が、H又は−(CH2p−CH2−R8基{式中、pは、0又は1であり、R8は、H又は、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−N(CH32及び−N(CH33+-(ここに、Mは、H又はアルカリ金属であり、Xは、Cl、Br又はIである)から選択する基を表す}である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
疎水性モノマー/(式(I)の化合物)モル比が、20〜1000である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
下記式(III)の両親媒性コポリマー:
R5-O-[-CH2CH2-O-]n-C(=O)-CR3R4-[CH2CR6R7]m-S-C(=S)-S-R1 (III)
{式中:
*1は、直鎖又は分枝鎖アルキル基、一つ以上の−C=C−結合を有するアルケニル基、又は一つ以上の−C≡C−結合を有するアルキニル基を表し、該基は、8〜18炭素原子を有し;
*3及びR4は、各々、互いに独立に、H、1〜4炭素原子を有するアルキル基又はニトリル基を表し、R3及びR4の少なくとも一つは、Hでなく;
*5は、親水基であり;
*6は、フェニル基又はアルコキシカルボニル基(式中、アルコキシ基は、1〜8炭素原子を有する)を表し;
*7は、水素原子又はメチル基を表し;
* 20≦n≦150であり;そして
* 20≦m≦1000である}。
【請求項5】
親水基R5が、H又は−(CH2p−CH2−R8基{式中、pは、0又は1であり、R8は、H又は、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−N(CH32及び−N(CH33+-(ここに、Mは、H又はアルカリ金属であり、Xは、Cl、Br又はIである)から選択する基を表す}である、請求項4に記載のコポリマー。
【請求項6】
下記の式の一つに対応する、請求項4に記載のコポリマー(ここに、Phは、フェニル基を表示する):
i) CH3-O-[-CH2CH2-O-]n-C(=O)-C(CH3)2[CH2-CHPh]m-S-C(=S)-S-C12H25;
ii) CH3-O-[-CH2CH2-O-]n-C(=O)-C(CH3)2[CH2-CHPh]m1-[CH2-CHCOOC4H9]m2-S-C(=S)-S-C12H25
(式中、m1及びm2は、同じでも異なってもよく、0〜1000の範囲で、且つ20≦m1+m2≦1000である);
iii) CH3-O-[-CH2CH2-O-]n-C(=O)-C(CH3)2[CH2-CHCOOC4H9]m-S-C(=S)-S-C12H25;
iv) CH3-O-[-CH2CH2-O-]n-C(=O)-C(CH3)2[CH2-CCH3COOCH3]m3-[CH2-CHCOOC4H9]m4-S-C(=S)-S-C12H25
(式中、m3及びm4は、同じでも異なってもよく、0〜1000の範囲で、且つ20≦m3+m4≦1000であり、且つm3/(m3+m4)<0.9である)。
【請求項7】
請求項4〜6の一つに記載のコポリマーの分子の凝集により形成された粒子の水中コロイド懸濁液よりなる自己安定性ラテックスであって、これらの粒子の核は、コポリマーの疎水性ブロック及び随意の親水性ブロックの部分により形成され、これらの粒子の表面は、コポリマーの親水性ブロックの全部又は一部により被覆されている、当該自己安定性ラテックス。

【図2】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−521042(P2011−521042A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508978(P2011−508978)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【国際出願番号】PCT/FR2009/050850
【国際公開番号】WO2009/147338
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(507018539)ユニベルシテ ピエール エ マリー キュリー (10)
【出願人】(510301482)ユニベルシテ・ド・リエージュ(アンテルファス・アントレプリース・ユニベルシテ) (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LIEGE(INTERFACE ENTREPRISES UNIVERSITE)
【住所又は居所原語表記】Avenue Pre−Aily,4,B−4031 Angleur BELGIQUE
【出願人】(506369944)サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク (45)
【Fターム(参考)】