説明

両面研磨装置及びこれを用いた両面研磨方法

【課題】研磨後の各ウェーハの厚みバラツキを低減することが可能な非公転式の両面研磨装置及び両面研磨方法を提供する。
【解決手段】両面研磨装置1は、下定盤10及び上定盤20を含む回転定盤と、回転定盤の中心部の周囲に設けられ、研磨対象のウェーハ2を保持する複数のキャリア3と、複数のキャリア3を定位置で自転させる自転機構30と、キャリア3の自転位置を変更するキャリア移動機構とを備え、研磨工程の途中で研磨動作を一時停止し、キャリア移動機構によってキャリア3の自転位置を変更した後、研磨動作を再開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハのポリッシング等に使用される両面研磨装置及び両面研磨方法に関し、特に、ウェーハを保持するキャリアが公転せず自転のみを行う非公転式の両面研磨装置及び両面研磨方法するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの材料の一つであるシリコンウェーハは、単結晶シリコンインゴットから切り出された後、ラッピングやポリッシングと呼ばれる研磨処理を受ける。この研磨処理を行う装置として両面研磨装置が用いられている。
【0003】
両面研磨装置は複数枚のウェーハ(ワーク)を一度に研磨するバッチ式の装置であり、キャリアにセットされたウェーハを回転定盤の中心部の周囲に等間隔に配置し、回転定盤を構成する上定盤と下定盤とでウェーハを挟み込んだ状態で研磨することにより、各ウェーハの両面を同時に研磨する。
【0004】
両面研磨装置の研磨方式として遊星歯車方式が知られている。この方式は、回転定盤の中心部配置されたセンターギヤ(太陽ギヤ)と回転定盤の外周部に配置されたインターナルギヤとを用いて、ウェーハがセットされたキャリアを回転定盤上で公転させつつ自転させるものであり、これにより複数枚のウェーハの両面を均一に研磨することができる。
【0005】
両面研磨装置の他の研磨方式として、キャリアが遊星運動しない非公転式の両面研磨装置も知られている(特許文献1参照)。遊星歯車方式の場合、ウェーハの大口径化に伴ってキャリアを公転させるインターナルギヤが大型化し、その加工精度が悪くなるため、ウェーハの研磨精度が低下するという問題がある。また、キャリアを公転させる場合には、研磨終了後のキャリアが研磨開始位置とは異なる任意の位置に停止しているため、ハンドリング機構を用いてキャリアを自動ローディングすることが難しい。しかし、この非公転式の両面研磨装置は、キャリアを定位置で自転するので、大型のインターナルギヤを省略することができ、研磨精度を高めることができる。また、キャリアは常に定位置にあるため、キャリアの自動ローディングも容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3234881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の非公転式の両面研磨装置は、キャリアが公転せず固定された位置で自転しているので、キャリアの自転位置によって研磨後のウェーハの厚みにバラツキが生じるという問題がある。すなわち、ある自転位置で研磨されたウェーハの厚みは常に目標厚みよりも厚くなり、また別の自転位置で研磨されたウェーハの厚みは目標厚みよりも常に薄くなるという傾向が見られる。このような厚みばらつきの傾向は、ウェーハにかかる不均等な荷重、装置構造の歪み、装置の組み立て精度のばらつき等の要因が積み重なって生じるものと考えられており、装置固有のものである。
【0008】
上記の厚みバラツキは、キャリアが公転する遊星歯車方式の両面研磨装置ではほとんど問題にならない。部品の機械加工精度や装置の組み立て精度のばらつきがあったとしてもウェーハが回転定盤上を公転して一周することでばらつきが均一化されるからである。しかしながら、上記のように、遊星歯車方式の両面研磨装置では、インターナルギヤの加工精度の問題や、研磨終了時のキャリアの位置の問題があるため、非公転式の両面研磨装置においてウェーハの厚みバラツキを低減する工夫が望まれている。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、研磨後の各ウェーハの厚みバラツキを低減することが可能な非公転式の両面研磨装置及び両面研磨方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明による両面研磨装置は、下定盤及び上定盤を含む回転定盤と、前記回転定盤の中心部の周囲に設けられ、研磨対象のウェーハを保持する複数のキャリアと、前記複数のキャリアを定位置で自転させる自転機構と、前記キャリアの自転位置を変更するキャリア移動機構とを備え、研磨工程の途中で研磨動作を一時停止し、前記キャリア移動機構によって前記キャリアの自転位置を変更した後、前記研磨動作を再開することを特徴とする。
【0011】
また、本発明による両面研磨方法は、ウェーハがセットされた複数のキャリアを予め設定された研磨位置で自転させる非公転式の両面研磨装置を用いて複数枚のウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨方法であって、前記複数枚のウェーハを前記キャリアにセットした状態で回転定盤上の定位置で自転させながら研磨する研磨工程と、前記研磨工程の途中でウェーハの位置をキャリアごと入れ替える位置変更工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、研磨期間中、ウェーハを常に同じ自転位置で研磨せず、研磨動作の途中で変更するので、自転位置が固有に有する厚みばらつきの傾向を吸収して均一化することができ、研磨後において各ウェーハの厚みバラツキを低減することができる。
【0013】
本発明において、前記回転定盤は、前記キャリア移動機構を兼ねており、前記自転機構と前記複数のキャリアとの連結が解除された状態で、前記上定盤と前記下定盤との間に前記ウェーハ及び前記キャリアを挟み込んだまま前記上定盤と前記下定盤とを同一方向に所定の角度回転させることにより、各キャリアの自転位置を変更することが好ましい。この構成によれば、ウェーハ及びキャリアを回転定盤から取り出すことなく、ウェーハ及びキャリアの自転位置を変更することができる。また、ウェーハ及びキャリアの自転位置の変更の自動化も容易である。
【0014】
本発明において、前記回転定盤は、前記複数のキャリアの各々を隣接のキャリアの自転位置まで回転移動させることが好ましい。また、n枚の前記キャリアを使用する場合において、前記所定の角度は360/n度であり、前記自転位置の変更をn−1回行うことが好ましい。
【0015】
前記キャリア移動機構は、前記キャリアを持ち上げて移送するハンドリング機構であり、前記ハンドリング機構は、前記自転機構と前記キャリアとの連結が解除された状態で、一のキャリアの自転位置と他のキャリアの自転位置とを相互に入れ替えることにより、前記キャリアの自転位置を変更することが好ましい。この構成によれば、両面研磨装置にウェーハ及びキャリアをセットする場合又は研磨後のウェーハ及びキャリアを両面研磨装置から取り出す際に用いられるハンドリング機構を利用して、ウェーハ及びキャリアの自転位置の変更を行うことができる。
【0016】
n枚のウェーハを同時に研磨する場合において、前記n枚のウェーハのうち研磨後の厚みがm番目(mは1以上n/2以下の整数)に厚いウェーハのキャリアの自転位置と、m番目に薄いウェーハのキャリアの自転位置とを相互に入れ替えることが好ましい。この構成によれば、最も少ない入れ替え動作により、ウェーハの厚みばらつきを低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、研磨後の各ウェーハの厚みバラツキを低減することが可能な非公転式の両面研磨装置及び両面研磨方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好ましい実施形態による両面研磨装置の構成を示す略側面断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った両面研磨装置の略平面図である。
【図3】キャリア3を駆動するための動力伝達系統の平面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による研磨方法(5ステップ研磨)を説明するためのフローチャートである。
【図5】図4の研磨方法におけるウェーハ及びキャリアのローテーション動作を説明するための模式図である。
【図6】本発明の第2の実施形態による研磨方法(2ステップ研磨)を説明するためのフローチャートである。
【図7】図6の研磨方法におけるウェーハ及びキャリアの入れ替え動作を説明するための模式図である。
【図8】比較例及び実施例1、2による研磨方法によって得た5枚のウェーハの厚みばらつき測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る両面研磨装置の構成を示す略側面断面図である。また、図2は、図1のA−A線に沿った両面研磨装置の略平面図である。
【0021】
図1及び図2に示すように、両面研磨装置1は、下フレーム10と、下フレーム10の上方に設けられた上フレーム20と、下フレーム10側に設けられた下定盤11と、上フレーム20側に設けられた上定盤21とを備えている。
【0022】
下定盤11及び上定盤21は、複数枚のウェーハ2を挟み込んでその両面を研磨する回転定盤を構成しており、下定盤11の上面及び上定盤21の下面には研磨パッド11a,21aがそれぞれ貼り付けられている。下定盤11はモータ13を駆動源とする回転駆動機構4によって回転駆動され、また上定盤21はモータ23を駆動源とする回転駆動機構5によって回転駆動される。
【0023】
下定盤11は、中心部に空洞を有する鉛直な回転支持軸12の上端部に連結されている。回転支持軸12は下フレーム10に設けられた複数の軸受により回転自在に取付けられ、モータ13により回転駆動されることにより、下定盤11が回転する。すなわち、モータ13の出力軸が減速機14に連結され、減速機14の出力軸に取付けられた歯車14aが、回転支持軸12に取付けられた歯車12aに噛合することにより、回転支持軸12が回転して下定盤11を回転させる。
【0024】
上定盤21は、下定盤11の上方において同心状に設けられており、鉛直な回転支持軸22の下端部に連結されている。回転支持軸22は、上フレーム20内に複数の軸受を介して回転自在に支持されており、同じく上フレーム20内に設けられたモータ23の回転が減速機24及び歯車24a及び歯車22aを介して回転支持軸22に伝達されることにより、上定盤21は下定盤11とは独立に回転駆動される。また、昇降機構としてのシリンダー6によって、上定盤21は上フレーム20内でモータ23及び減速機24と共に回転軸方向(上下方向)に昇降駆動される。
【0025】
下定盤11の中心部には、センターギヤ15が下定盤11に対して独立に回転し得るように支持されている。センターギヤ15は、回転支持軸12の中心部に形成された空洞を貫通する回転駆動軸16により、下定盤11とは独立して回転駆動される。すなわち、回転駆動軸16の下端部に取付けられたプーリ16aと後述する減速機18の出力軸に取付けられたプーリ18aがベルト19によって連結されることで、回転駆動軸16が回転し、センターギヤ15を下定盤11に対して独立に回転駆動する。
【0026】
また、本実施形態においては、下フレーム10上にハンドリング機構7が設けられている。ハンドリング機構7は、不図示のカセットに収容されたウェーハやキャリアを持ち上げて回転定盤上に移送し、或いは研磨後のウェーハやキャリアを回収する役割を果たす。また後述するウェーハキャリアの入れ替え時に使用することもできる。なお、ハンドリング機構7は下フレーム10と別の独立した装置であってもよい。
【0027】
図2に示すように、複数のキャリア3は下定盤11の上面(主面)に放射状に配置されている。キャリア3はガラスエポキシ等の樹脂からなる円盤状の部材である。各キャリア3には、ウェーハ2を収容するウェーハ保持孔3aが中心から偏心して設けられており、その直径はウェーハ2の直径とほぼ一致している。本実施形態では、一枚のキャリアに一枚のウェーハが収容される。キャリア3の外周面には外周歯3bが設けられており、外周歯3bはセンターギヤ15と一対のアウターギヤ31,31に噛合している。
【0028】
本実施形態による両面研磨装置1は、1バッチで5枚のウェーハを研磨処理するものであり、下定盤11の周囲には、5つの自転機構30が周方向に等間隔で配設されている。自転機構30は、下定盤11上に載置された対応するキャリア3をセンターギヤ15と共同して定位置で回転駆動する。
【0029】
各自転機構30は、対応するキャリア3の外周歯3bに外側から対称的に噛み合う一対のアウターギヤ31,31を有する。アウターギヤ31,31は、回転軸方向に長い棒状の平歯車であって、薄肉で樹脂製からなる複数の平歯車を回転軸方向に積層することにより構成され、下フレーム10に回転自在かつ昇降自在に取付けられている。すなわち、下フレーム10には2つのガイドスリーブ32,32が鉛直に取付けられている。各ガイドスリーブ32内には軸体33が周方向及び軸方向に可動に貫通しており、その上端部にはアウターギヤ31が取付けられている。軸体33の下端部にはプーリ34がスプライン結合されている。
【0030】
一対の軸体33,33は、下フレーム10に取付けられた昇降機構としてのシリンダー35により上下に駆動される。これにより、自転機構30のアウターギヤ31,31は、プーリ34,34を定位置に残して軸方向に昇降駆動される。また、プーリ34,34が後述する駆動機構によって回転駆動されることにより、アウターギヤ31,31は同期して同方向に回転する。
【0031】
図3はキャリア駆動のための動力伝達系統の平面図である。
【0032】
図3及び図1に示すように、自転機構30は、下フレーム10に取付けられたモータ17を駆動源とする回転駆動機構によって回転駆動される。モータ17の出力軸は減速機18に接続されている。減速機18は、上下に突出する出力軸を有し、上側の出力軸にはプーリ18bが取付けられている。そして、このプーリ18bと、下定盤11の周囲に配設された複数の自転機構30の各プーリ34にベルト36が掛けられている。隣接する自転機構30,30間にはベルト36のテンションを調整するためのアイドルローラ37が設けられている。以上の構成において、モータ17が作動すると、下定盤11の周囲に配設された複数の自転機構30の各アウターギヤ31,31は同期して同方向に回転する。
【0033】
一方、減速機18の下側の出力軸にはプーリ18aが取付けられている。プーリ18aは、前述したようにセンターギヤ15の回転駆動軸16の下端部に取付けられたプーリ16aにベルト19によって連結されている。したがって、モータ17が作動することによりセンターギヤ15も回転する。センターギヤ15の回転方向及び周速度は、複数の自転機構30の各アウターギヤ31の回転方向及び周速度と同じに設定されている。
【0034】
次に、両面研磨装置1の基本的な動作について説明する。
【0035】
ウェーハの研磨では、まず上定盤21を上昇させ、各自転機構30のアウターギヤ31を定位置から下降させる。このようなアウターギヤ31の連結が解除された待避状態で、下定盤11上に5枚のキャリア3をそれぞれセットする。このときのキャリア3のセットはハンドリング機構7によって行うことができる。その後、アウターギヤ31,31を上昇させてキャリア3と連結させ、キャリア3の位置を固定する。このとき、各キャリア3の外周歯3bには、内側からセンターギヤ15が噛み合い、外側からは対応する自転機構30のアウターギヤ31,31が噛み合うようにアウターギヤ31,31を定位置まで上昇させる。そして、各キャリア3のウェーハ保持孔3aにウェーハ2をセットする。
【0036】
各キャリア3のウェーハ保持孔3aにウェーハ2がセットされると、上定盤21を下降させて、ウェーハ2を下定盤11と上定盤21との間(厳密には研磨パッド11a,21a間)に所定の圧力で挟む。
【0037】
次に、ウェーハの研磨を開始する。ウェーハの研磨では、下定盤11と上定盤21とを逆方向に回転させるべく、モータ13及びモータ23を作動させる。また、これと同時にモータ17を作動させる。
【0038】
モータ17が作動するとセンターギヤ15が回転する。また、下定盤11の周囲に配設された複数の自転機構30において一対のアウターギヤ31,31が回転する。ここで、センターギヤ15は外側のキャリア3に内側から噛み合っており、一対のアウターギヤ31,31は内側のキャリア3に外側の対称の位置から噛み合っている。また、センターギヤ15の回転方向及び周速度は、アウターギヤ31,31の回転方向及び周速度と同一である。したがって、下定盤11と上定盤21との間のキャリア3は定位置で同方向に自転し、これにより、キャリア3内のウェーハ2は偏心回転運動を行う。また、研磨中、自転機構30のアウターギヤ31,31がキャリア3と噛み合った状態のまま回転軸方向に緩やかな周期で昇降を繰り返す。
【0039】
各ウェーハ2の両面は、研磨パッド11a,21aにより同時に研磨される。最初、キャリア3の厚みはウェーハ2よりも薄いが、研磨されることで徐々にキャリアの厚みに近づき、同じになるとウェーハはキャリアごと削られる。キャリアは消耗品であるが、何回か再利用が可能であり、そのリサイクル回数はウェーハの加工精度に応じて設定される。
【0040】
詳細は後述するが、本発明においては全研磨期間にわたりウェーハを同じ自転位置で研磨せず、研磨の途中で変更する。その後、研磨が終了すると、設置時とは逆の動作によりウェーハを取り出す。すなわち、上定盤21を上昇させ、自転機構30のアウターギヤ31,31を定位置から下降させる。そして、下定盤11上のキャリア3からウェーハ2を取り出す。
【0041】
このような両面研磨によると、キャリア3が定位置で同方向に自転し、センターギヤ15の周囲を公転することがない。したがって、公転に使用されるインターナルギヤが不要であり、インターナルギヤの製作誤差等による研磨精度の低下がないため、キャリア3の直径が大きくなる大型装置では、従来装置と同等或いはそれ以上の研磨精度が確保される。また、回転定盤の外径に匹敵するような大きなインターナルギヤが省略され、その駆動機構も合わせて省略されるため、自転機構30の付加を考慮しても装置が小型化され、そのコストダウンが図られる。
【0042】
各自転機構30では、アウターギヤ31,31が樹脂により構成されているので、キャリア3との噛み合いによっても金属粉を生じない。このため、金属粉によるウェーハ2の汚染が防止される。ちなみに、キャリア3も樹脂製である。また、金属製のものと比べて製作コストが安価である。自身の磨耗が懸念されるが、研磨中、昇降を繰り返すので、キャリア3との噛み合いによる局部磨耗が抑制され、且つ磨耗部分は、部分的な交換により修復されるので、磨耗によるコスト増は可及的に抑制される。アウターギヤ31,31の昇降は、キャリア3のセット及び取り外しの操作を簡単にする。
【0043】
さらに、上記実施形態では、複数の自転機構30が共通の駆動源(モータ17)により駆動され、その駆動源はセンターギヤ15の駆動源も兼ねるため、これらの同期精度が高く、小型化も図られる。
【0044】
一方、下定盤11と上定盤21とは、センターギヤ15及び複数の自転機構30に対して独立駆動されるが、これはそれぞれの回転速度を自在に変更でき、研磨条件を広範囲に設定できる利点がある。本発明ではキャリア3の公転がなく、その運動が単純であるため、下定盤11及び上定盤21の独立駆動により研磨条件を広範囲に設定できることは大きな意味をもつ。この点から下定盤11と上定盤21とをモータ13,23で別々に駆動することは一層有利である。
【0045】
本発明による研磨方法は、全研磨工程の途中で研磨動作を一時停止し、キャリア3の自転位置を変更した後、研磨動作を再開することを特徴している。以下、キャリア3の自転位置の変更方法について説明する。
【0046】
図4は、本発明の第1の実施形態による研磨方法を説明するためのフローチャートである。また、図5は、ウェーハ及びキャリアのローテーション動作を説明するための模式図である。
【0047】
図4及び図5に示すように、第1の実施形態による研磨方法では、全研磨工程を5回の研磨ステップに分けて、1回の研磨ステップ(ステップS101)が終わるごとにキャリアのローテーションを行う。ローテーション動作では、研磨動作を途中で止めて、自転機構30のアウターギヤ31,31を待避位置に移動させてキャリア3との係合を解除させる(ステップS103)。そして、下定盤11と上定盤21との間にウェーハ2及びキャリア3を挟み込んだまま、下定盤11及び上定盤21を72度回転させ、これにより各ウェーハ2及び各キャリア3を72度回転させる(ステップS103)。そしてこのようなローテーション動作を4回繰り返し(ステップS102Y、S104)、5回目の研磨ステップが終了することにより、一連の研磨動作を終了する(ステップS102N)。
【0048】
図5に示すように、自転位置P1〜P5にキャリア3が配置されており、第1研磨ステップでは、各キャリア及びウェーハがこの位置で研磨処理される。次に、第2研磨ステップでは、自転位置P1にあったキャリア及びウェーハが自転位置P5に移動し、第3研磨ステップでは自転位置P4に移動し、第4研磨ステップでは自転位置P3に移動し、第5研磨ステップでは自転位置P2に移動する。このように、一つのキャリア3は各研磨ステップで自転位置を変え、自転位置P2での研磨ステップが終了すると、全研磨工程が完了となり、ウェーハの取り出しが行われる。
【0049】
研磨動作中は下定盤11及び上定盤21を互いに逆方向に回転させるが、下定盤11は比較的大きな軸受で軸支されており、軸受のわずかな加工精度のばらつき、軸受に組み込まれるボールベアリングの高さ方向のばらつき等の影響を受けて、その上に設けられた下定盤11は上下動し、これが研磨圧力の変化となり、ウェーハの厚みばらつきを発生させる要因となる。キャリアが公転する遊星歯車方式の両面研磨装置ではこのばらつきが平均化されるため、各ウェーハの厚みばらつきが少ない。
【0050】
このように、本実施形態においては、キャリア3が各自転位置をローテーションしていき、すべての自転位置で研磨処理されるので、公転機構に近い研磨工程を実現することができる。また、全研磨工程が終了時のウェーハの位置も決まっているので、ハンドリング機構7によるウェーハの取り出しも容易である。
【0051】
図6は、本発明の第2の実施形態による研磨方法を説明するためのフローチャートである。また、図7は、ウェーハ及びキャリアの入れ替え動作を説明するための模式図である。
【0052】
図6及び図7に示すように、第2の実施形態による研磨方法では、全研磨工程を2回の研磨ステップに分けて、第1研磨ステップ(ステップS201)が終了したとき、研磨後の厚みが1番厚いウェーハと5番目に厚い)ウェーハをキャリアごと相互に入れ替える(ステップS202)と共に、2番目に厚い自転位置P2のウェーハと2番目に薄い(4番目に厚い)ウェーハの位置を入れ替える(ステップS203)。その後、2回目の研磨ステップを実施する(ステップS204)。
【0053】
より具体的には、研磨後のウェーハの厚みが自転位置によってP1>P2>P3>P4>P5の順となる場合に、自転位置P1のウェーハと自転位置P5のウェーハとを相互に入れ替え、また自転位置P2のウェーハと自転位置P4のウェーハとを相互に入れ替える。このときの入れ替えは、ハンドリング機構7によって行ってもよく、人手によって行っても構わない。
【0054】
上記のように、両面研磨装置は装置毎に固有の構造的な歪みを持っているので、研磨工程で現れるウェーハの厚みばらつきの傾向も常に同じであり、ある自転位置で研磨したウェーハは目標厚みよりもつねに厚くなったり、別の自転位置で研磨したウェーハは目標厚みよりも常に薄くなったりする傾向にある。このようなポジションの違いによる固有の厚みばらつきを平均化するため、ウェーハの自転位置を入れ替える。
【0055】
このように、本実施形態においては、ウェーハの厚みばらつきの傾向を考慮してウェーハの自転位置を入れ替えるので、公転機構に近い研磨工程を実現することができる。また、全研磨工程が終了時のウェーハの位置も決まっているので、ハンドリング機構7によるウェーハの取り出しも容易である。
【0056】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0057】
例えば、上記実施形態においては、5枚のウェーハを同時に研磨しているが、本発明においてウェーハの同時処理枚数は特に限定されない。また、一枚のキャリアによって保持されるウェーハの枚数も特に限定されず、2枚以上であってもよい。さらに、キャリアの枚数も任意であるが、図4に示した5ステップ研磨では、キャリアの枚数に応じてローテーションの回数は変化し、ウェーハの枚数をn枚とするとき、ローテーション回数(自転位置の変更回数)はn−1回となる。
【実施例】
【0058】
(比較例)
図1〜3に示した両面研磨装置を用いて従来の研磨方法による研磨を行った後、各自転位置P1〜P5で自転するキャリアに保持されていたウェーハW1〜W5の厚みを測定した。研磨時間は50分とした。その結果、図8のグラフに示すように、ウェーハの厚みばらつきは比較的大きく、最も厚いもので770.5μm、最も薄いもので769.4μmであり、厚みばらつき(両者の厚みの差)は1.1μmであった。
【0059】
(実施例1)
次に、同じ両面研磨装置を用いて図4及び図5に示した5ステップ研磨を行い、各キャリアに保持されたウェーハW1〜W5の厚みを測定した。全研磨時間は50分とし、各研磨ステップの時間は10分とした。その結果、図8のグラフに示すように、従来の研磨方法よりも厚みバラツキが小さく、最も厚いウェーハW1で768.1μm、最も薄いウェーハW5で767.6μmであり、厚みばらつきは、0.5μmであった。
【0060】
(実施例2)
次に、同じ両面研磨装置を用いて図6及び図7に示した2ステップ研磨を行い、各キャリアに保持されたウェーハW1〜W5の厚みを測定した。全研磨時間は50分とし、各研磨ステップの時間は25分とした。2ステップ研磨では、従来の研磨方法で研磨したときのウェーハの厚みバラツキの結果(図8)を参考にし、最も厚いP2と最も薄いP1とを入れ替え、2番目に厚いP5と2番目に薄いP3とを入れ替えた。その結果、図8に示すように、従来の研磨方法よりも厚みバラツキが小さく、最も厚いウェーハW1で769.7μm、最も薄いウェーハW2で768.9μmであり、厚みばらつきは、0.8μmであった。
【符号の説明】
【0061】
1 両面研磨装置
2 ウェーハ
3 キャリア
3a キャリアのウェーハ保持孔
3b キャリアの外周歯
4,5 回転駆動機構
6 シリンダー
7 ハンドリング機構
10 下フレーム
11 下定盤
11a,21a 研磨パッド
12 回転支持軸
12a,22a 歯車
13,23 モータ
14,24 減速機
14a,24a 歯車
15 センターギヤ
16 回転駆動軸
16a プーリ
17 モータ
18 減速機
18a,18b プーリ
19 ベルト
20 上フレーム
21 上定盤
22 回転支持軸
30 自転機構
31 アウターギヤ
32 各ガイドスリーブ
32 ガイドスリーブ
33 軸体
34 プーリ
35 シリンダー
36 ベルト
37 アイドルローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下定盤及び上定盤を含む回転定盤と、前記回転定盤の中心部の周囲に設けられ、研磨対象のウェーハを保持する複数のキャリアと、前記複数のキャリアを定位置で自転させる自転機構と、前記キャリアの自転位置を変更するキャリア移動機構とを備え、
研磨工程の途中で研磨動作を一時停止し、前記キャリア移動機構によって前記キャリアの自転位置を変更した後、前記研磨動作を再開することを特徴とする両面研磨装置。
【請求項2】
前記回転定盤は、前記キャリア移動機構を兼ねており、前記自転機構と前記複数のキャリアとの連結が解除された状態で、前記上定盤と前記下定盤との間に前記ウェーハ及び前記キャリアを挟み込んだまま前記上定盤と前記下定盤とを同一方向に所定の角度回転させることにより、各キャリアの自転位置を変更することを特徴とする請求項1に記載の両面研磨装置。
【請求項3】
前記回転定盤は、前記複数のキャリアの各々を隣接のキャリアの自転位置まで回転移動させることを特徴とする請求項2に記載の両面研磨装置。
【請求項4】
n枚の前記キャリアを使用する場合において、前記所定の角度は360/n度であり、前記自転位置の変更をn−1回行うことを特徴とする請求項2に記載の両面研磨装置。
【請求項5】
前記キャリア移動機構は、前記キャリアを持ち上げて移送するハンドリング機構であり、
前記ハンドリング機構は、前記自転機構と前記キャリアとの連結が解除された状態で、一のキャリアの自転位置と他のキャリアの自転位置とを相互に入れ替えることにより、前記キャリアの自転位置を変更することを特徴とする請求項1に記載の両面研磨装置。
【請求項6】
n枚のウェーハを同時に研磨する場合において、前記n枚のウェーハのうち研磨後の厚みがm番目(mは1以上n/2以下の整数)に厚いウェーハのキャリアの自転位置と、m番目に薄いウェーハのキャリアの自転位置とを相互に入れ替えることを特徴とする請求項5に両面研磨装置。
【請求項7】
ウェーハがセットされた複数のキャリアを予め設定された研磨位置で自転させる非公転式の両面研磨装置を用いて複数枚のウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨方法であって、
前記複数枚のウェーハを前記キャリアにセットした状態で回転定盤上の定位置で自転させながら研磨する研磨工程と、
前記研磨工程の途中でウェーハの位置をキャリアごと入れ替える位置変更工程とを備えることを特徴とする両面研磨方法。
【請求項8】
前記回転定盤の中心部の周囲に設けられ、研磨対象のウェーハを保持する複数のキャリアを定位置で自転させながら、前記回転定盤を回転させて前記ウェーハの両面を研磨する研磨工程と、
研磨工程の途中で研磨を一時停止し、前記キャリアの自転位置を変更した後、前記研磨を再開することを特徴とする請求項7に記載の両面研磨方法。
【請求項9】
n枚のウェーハを同時に研磨する場合において、前記n枚のウェーハのうち研磨後の厚みがm番目(mは1以上n/2以下の整数)に厚いウェーハのキャリアの自転位置と、m番目に薄いウェーハのキャリアの自転位置とを相互に入れ替えることを特徴とする請求項7に両面研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−143839(P2012−143839A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4237(P2011−4237)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】