説明

中低温高効率電気化学セル及びそれらから構成される電気化学反応システム

【課題】700℃以下の中低温域においても発電効率40%以上を実現する電気化学セル及びその発電方法を提供する。
【解決手段】上記電気化学セルが燃料ガスと界面を有する燃料極、緻密なイオン伝導体(電解質)、空気(酸素)と界面を有する空気極がその順番に積層されている構造を有し、燃料極と空気極は接触することなく電解質によって分離され、燃料ガスとの界面である燃料極表面全面あるいは一部に電気化学反応を促進する多孔質構造の機能層が積層されている構造を有する電気化学セル。
【効果】気体水素燃料を利用する電気化学発電システムにおいて、気体水素燃料ガスの燃料極内部拡散による抵抗を大幅に低減し、700℃以下の中低温域においても発電効率40%以上を単セルレベルで実現することを可能とする、環境・エネルギー問題の解決に資する高効率な電気化学反応システムを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル及び該電気化学セルから構成される固体酸化物形燃料電池システムなどの電気化学反応システムに関するものであり、更に詳しくは、電気化学セルの燃料極の表面に電気化学反応を促進させる機能層を形成することで、気体水素燃料を利用した際の高効率発電を700℃以下の中低温域で実現可能とする電気化学セル、及び電気化学反応システムに関するものである。本発明は、クリーンエネルギー源や環境浄化装置として好適に用いられる電気化学セル、及び該セルを利用した電気化学反応システムに関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルの代表的なものとして、固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」という。)がある。SOFCとは、電解質として、ジルコニアやセリアなどの酸化物イオン導電性を有する固体酸化物を用いた電気化学セルのことである。このSOFCの基本構造は、通常、空気極−電解質−燃料極の3層により構成され、通常は、800〜1000℃の温度領域において使用される。
【0003】
SOFCの燃料極に、燃料ガス(水素、一酸化炭素、炭化水素など)、空気極に空気(あるいは酸素)が供給されると、空気極側の酸素分圧と燃料極側の酸素分圧との間に差が生じることから、ネルンストの式に従う電圧が電極間に生じる。酸素は、空気極において、酸化物イオンとなり、固体電解質内を通って燃料極側に移動し、燃料極に達した酸化物イオンは、燃料ガスと反応して電子を放出する。そのため、燃料極及び空気極に負荷を接続すれば、燃料電池より、直接、電気を取り出すことができる。SOFCは、理論的には高いエネルギー効率での発電が可能であることから、次世代の発電システムとしてその実用化が強く期待されている。
【0004】
SOFCの普及・実用化を進めていくためには、SOFCの作動温度の低減が必須である。作動温度を中低温域である500〜700℃に下げることで、安価な材料の適用とSOFCシステムの起動時間の短縮が可能となり、SOFCの汎用性が高まることが期待される。これまでには、新しい燃料極、空気極材料を提案すること、あるいは電極の構造を改善することで、中低温域(700℃以下)においても、0.8〜1W/cmと高い電力出力を有する燃料極支持のSOFCが報告されている(非特許文献1〜3)。
【0005】
しかしながら、これまでに報告されている高い電力出力を有するSOFCは、あくまで単セルでの評価であることから、必ずしも実用的な条件下での評価ではなく、低い発電効率条件下での評価であることが多かった。一方、高効率発電を実現するためには、SOFCを積層し、スタック/モジュール化した構造体において、燃料、空気ガス流路を最適化することが必要であり、高効率発電を謳ったSOFCは、ほとんどがモジュール構造での評価結果である。
【0006】
たとえば、特許文献1の0046段落には、「ディスク積層型セル単体は、室温〜1000℃の繰り返し試験において、100回のサーマルサイクル試験をクリアした。特に、起動立ち上げ、冷却の繰り返しに対するディスクの半径方向の温度分布がいずれの方向も均等であることを確認した。50枚のディスクを積層したスタックユニットを2段用いて発電部とした当該燃料電池は、発電効率が50%を超えることを確認した。」(ここで、ディスクとは、平板型SOFC単セルのことである。)とあり、従来技術では、発電効率50%を達成するのに、50枚ものディスクをスタック化した構造体を2段用いて、1000℃の高温運転が必要であったことから明らかなように、従来の技術では、単セルレベルでの中低温域での高効率発電は困難であったといえる。
【0007】
単セルにおける高い電力出力性能は、低い発電効率での条件において見い出されているが、これらのセルを集積したスタック、モジュールにおいては、燃料ガス流路の最適化などに加えて、より高い運転温度(700℃以上)での利用によって、高い発電効率(>40%)を実現しているのが一般的である。そのため、高い発電効率を実現させながら、運転温度を低減させていくことは、単セルレベルでのセル性能の向上が必須であり、単セルレベルでのセル性能の向上は、非常に大きな技術的課題となっていた。
【0008】
一方、炭化水素燃料利用時の運転温度の低減の試みについてはさまざまな試みがなされており、たとえば、本発明者らによって、炭化水素燃料の改質用触媒を燃料極表面に塗布することで,従来では不可能であった500℃以下での低温域でメタン燃料の直接利用が可能となったことが報告されている(特許文献2、非特許文献4)。
【0009】
しかしながら、これらは、炭化水素燃料の改質反応(セル内部での水素製造)と同時発電を検討したものであり、SOFCの外部から供給された気体水素含有燃料の反応については未検討であり、また、これらの報告では、発電効率については言及しておらず、特に、中低温域において、気体水素燃料を用いて発電効率を高めていく方法については全く知られていないというのが現状であった。従って、当技術分野においては、SOFCの発電効率を上げつつ、運転温度を低減していくことは最もその解決が望まれている最重要の課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−151106号公報
【特許文献2】特願2009−252492号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Z.Shao and S.M.Haile.Nature 431 170−173(2004)
【非特許文献2】T.Hibino,A.Hashimoto,K.Asano,M.Yano,M.Suzuki and M.Sano.Electrochem.Solid−Sate Lett,5(11)A242−A244(2002)
【非特許文献3】T.Suzuki,Z.Hasan,Y.Funahashi,T.Yamaguchi,Y.Fujishiro and M.Awano.Science 325 852−855(2009)
【非特許文献4】T.Suzuki,T.Yamaguchi,K.Hamamoto,Y.Fujishiro,M.Awano,N.Sammes.Energy & Environmental Sci.4,p.940−943(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上述のような従来部材の問題点を確実に解決していくことが可能な電気化学セル、及びその新しい利用形態を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、単一の電気化学セルにおいて、電気化学反応を促進する機能層を燃料ガスと界面を有する燃料極表面に配置することで、効果的にセル性能を高めるとともに、燃料ガス拡散による分極抵抗を大幅に低減することが可能であること、その結果、中低温域での発電効率が大幅に改善されることなどの新規知見を見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、中低温域においても高い発電効率を有する単一の電気化学セルを提供することを目的とするものである。更に、本発明は、上記電気化学セルを用いた固体酸化物形燃料電池システムなどの電気化学反応システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)電気化学セルが、燃料ガスと界面を有する燃料極、緻密なイオン伝導体(電解質)、空気(酸素)と界面を有する空気極がその順番に積層されている構造を有し、燃料極と空気極は接触することなく電解質によって分離され、燃料ガスとの界面である燃料極表面全面あるいは一部に電気化学反応を促進する多孔質構造の機能層が積層されている構造を有する気体水素を含む燃料を利用した単一の電気化学セルであって、
下記の式
式:η=作動時の燃料利用率×(作動電圧/1.25)
から計算される発電効率ηにおいて、40%以上をセル温度700℃以下で実現できることを特徴とする上記電気化学セル。
(2)上記電気化学セルの構造形状が、燃料極材料からなる支持構造を有し、
1)その燃料極構造体の一面に緻密なイオン伝導体(電解質)が積層され、
2)電解質上に燃料極構造支持体と接触することなく、空気極が積層されており、
3)燃料極材料からなる構造支持体の電解質が積層されず、燃料ガスと界面を有する面に電気化学反応を促進する機能層が積層されている、前記(1)記載の電気化学セル。
(3)上記電気化学セルの構造形状が、燃料極材料からなる支持構造を有し、
1)その燃料極構造体の一面に緻密なイオン伝導体(電解質)が積層され、
2)電解質上に燃料極構造支持体と接触することなく、空気極が積層されており、
3)燃料極材料からなる構造支持体の電解質が積層されず、燃料ガスと界面を有する面に電気化学反応を促進する機能層が積層されており、
4)空気が供給される面において電解質及び空気極がなくて、燃料極がむき出し状態の露出部があり、その箇所に、燃料極集電部が設置されている構造、
を有する、前記(1)記載の電気化学セル。
(4)燃料ガスとの界面を有する燃料極面に積層される電気化学反応を促進する多孔質構造の機能層の材料が、Ni,Cu,Fe,Sn,Pt,Pd,Au,Ru,Co,La,Sr,Ti,Ce,Al,Mg,Ca,Zr,Yb,Y,Sc,Si,W,V,Ti,Moから選ばれる元素及び/又はこれらの元素1種類以上を含む酸化物化合物から構成される、前記(1)から(3)のいずれかに記載の電気化学セル。
(5)燃料ガスとの界面を有する燃料極面に積層される電気化学反応を促進する多孔質構造の機能層が、Ru−CeO,Pd−CeO,Cu−CeO、又はNi−CeOから構成される、前記(1)から(3)のいずれかに記載の電気化学セル。
(6)電解質材料が、Zr,Ce,Mg,Sc,Ti,Al,Y,Ca,Gd,Sm,Ba,La,Sr,Ga,Bi,Nb,Wから選ばれる2種類以上の元素を含む酸化物化合物である、前記(1)から(3)のいずれかに記載の電気化学セル。
(7)燃料極材料が、Ni,Cu,Pt,Pd,Au,Ru,Co,La,Sr,Tiから選ばれる元素及び/又はこれらの元素1種類以上を含む酸化物化合物から構成される、前記(1)から(3)のいずれかに記載の電気化学セル。
(8)燃料極材料が、前記(6)に記載の材料と、前記(7)に記載の材料の複合材料である、前記(1)から(3)のいずれかに記載の電気化学セル。
(9)電気化学反応によって電流を取り出す電気化学反応システムであって、前記(1)から(8)のいずれかに記載の電気化学セルより構成され、運転温度が高くても700℃であることを特徴とする電気化学反応システム。
(10)上記記載の電気化学セルが複数集積されたスタック構造体を利用したモジュールから構成される、前記(9)に記載の電気化学反応システム。
(11)前記(1)から(8)のいずれかに記載の電気化学セルを使用して発電する発電方法であって、気体水素を含む燃料を持いて、700℃以下で、前記(1)で定義される発電効率が40%以上の条件で上記電気化学セルを使用して発電する発電方法。
【0015】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明で定義する発電効率ηは、以下の式1、
式1:η=(作動時の燃料利用率)×(作動電圧)/1.25
で定義される。式中、1.25Vは、気体水素と酸素が反応して水になるときの反応熱のうち低位発熱量(LHV)から算出された理論起電力であり、作動時の燃料利用率は、燃料流量と作動電流から以下の式2のように計算できる(気体水素の場合)。
式2:(作動時の燃料利用率)=(作動電流)/((気体水素の流量)/6.9)
ここで、6.9(mL/min)は、1Aの電流を得るのに必要な気体水素の流量である。従って、セルの発電効率は、作動時の電流、電圧、及び気体水素流量によって決定される。
【0016】
本発明の電気化学セルは、上記に定義された発電効率において、700℃以下において、40%以上の高効率を実現するものであり、該電気化学セルは、燃料ガスと界面を有する燃料極、緻密なイオン伝導体(電解質)、空気(酸素)と界面を有する空気極がその順番に積層されている構造を有し、燃料極と空気極は接触することなく電解質によって分離され、燃料ガスとの界面である燃料極表面全面あるいは一部に電気化学反応を促進する多孔質構造の機能層が積層されている構造を有することを特徴とするものである。
【0017】
従来、同様の構造で改質反応層を燃料極表面に積層することで、炭化水素燃料の直接改質を可能とするSOFCが、すでに提案されている。しかしながら、該SOFCは、その内容を吟味すると、あくまで炭化水素燃料において、水蒸気改質を促進するための触媒層としての利用であり、気体水素燃料を使用した際の効果については報告されていない。また、発電効率の向上の面からこのような機能層を利用する報告もなく、中低温域で単一の電気化学セルにおける高効率発電を実現するという課題は依然として未解決であった。
【0018】
しかるに、本発明では、燃料極表面に機能層を設けることで、電気化学反応を低温域においても促進し、同時にガス拡散による電極抵抗が減少するという現象の発見によって、中低温域における発電効率を向上させた電気化学セルの実現が可能になった。また、本発明は、燃料極支持型の形状を有する電気化学セルを利用することによって、より効果的に高効率発電可能な電気化学セルを実現することが可能になった。
【0019】
本発明において、電気化学反応を促進する多孔質構造の機能層は、電極反応を向上させる効果に加えて、燃料極支持型の電気化学セルにおいて問題となっていた燃料ガス拡散による性能低下の問題を解決することが可能となる。また、空気(酸素)が供給されるセル面に燃料極からの集電部を設けることで、電気化学反応を促進する多孔質構造の機能層は、高い自由度で設計することが可能となり、該電気化学セルを利用して、作動温度の低温化及び低コスト化を実現できる電気化学反応システムを提供することが可能となる。
【0020】
ここで、本発明に使用される電気化学セルの構成について説明する。本発明では、機能層は、Ni,Cu,Fe,Sn,Pt,Pd,Au,Ru,Co,La,Sr,Ti,Ce,Al,Mg,Ca,Zr,Yb,Y,Sc,Si,W,V,Ti,Moから選ばれる金属及び/又はこれらの元素1種類以上から構成される複合物である必要がある。
【0021】
機能層は、燃料ガスや反応後発生する水蒸気などを通過させる必要があるため、多孔質構造を有することが必要であり、10%以上、好ましくは30%以上の気孔率を有する多孔質構造を有することが好適である。それは、10%以下となると透過ガス速度がセル発電性能において律速となり、高効率運転が困難になるためである。
【0022】
特に、燃料ガスとの界面を有する燃料極面に積層される電気化学反応を促進する多孔質構造の機能層としては、具体的には、ルテニウム(Ru)とセリア(CeO)などの組み合わせでRu担持CeO,あるいはPd担持CeO,Cu担持CeO、あるいはNi担持CeOが好適な一例として挙げられる。CeOそのものも高い触媒活性を有することが知られてり、本発明においても重要な役割を担っている。担持量としては、担持する材料によって適宜決定すればよいが、RuやPdの場合、1〜5wt%の担持量で十分な効果を発揮する。
【0023】
電解質材料は、高イオン伝導を持つ材料が好ましく、Zr,Ce,Mg,Sc,Ti,Al,Y,Ca,Gd,Sm,Ba,La,Sr,Ga,Bi,Nb,Wから選ばれる2種類以上の元素を含む酸化物化合物であることが望ましい。その中でも、イットリア(Y)、カルシア(CaO)、スカンジア(Sc)、マグネシア(MgO)、イッテルビア(Yb)、エルビア(Er)などの安定化剤で安定化された安定化ジルコニアや、イットリア(Y)やガドリニア(Gd)、サマリア(Sm)などをドープしたセリア(CeO)などが好適な例として挙げられる。なお、安定化ジルコニアは、1種又は2種以上の安定化剤により安定化されていることが好ましい。
【0024】
具体的には、安定化剤として5〜10mol%のイットリアを添加したイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ドープ剤として5〜10mol%のガドリニアを添加したガドリニアドープセリア(GDC)などが好適な一例として挙げられる。また、例えば、YSZの場合、イットリア含有量が5mol%未満であると、アノードの酸素イオン導電率が低下するので好ましくない。また、イットリア含有量が10mol%を超えると、同様に、アノードの酸素イオン導電率が低下するので好ましくない。ガドリニアドープセリア(GDC)の場合も、同様である。
【0025】
燃料極は、Ni,Cu,Fe,Sn,Pt,Pd,Au,Ru,Co,La,Sr,Tiから選ばれる金属及び/又はこれらの元素1種類以上から構成される酸化物と電解質材料の混合体から構成される複合物である必要がある。具体的には、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などが好適な一例として挙げられる。このうち、ニッケル(Ni)は、他の金属に比べて安価であり、広く一般に使用されており、好適に用いることができる。また、これらの元素や酸化物を混合した複合物を用いることも可能である。
【0026】
ここで、上記記載材料と電解質材料との複合物において、前者と後者の混合比率は、90:10重量%〜40:60重量%の範囲が好ましいが、それは、電極活性、電気抵抗や熱膨張係数の整合性などのバランスに優れるからであり、より好ましくは、80:20重量%〜45:55重量%である。
【0027】
一方、空気極の材料としては、酸素のイオン化に活性の高い材料が好ましく、特に、Ag,La,Sr,Mn,Co,Fe,Sm,Ca,Ba,Ni,Mgの元素及びこれらの酸化物化合物の1種類以上から構成される材料が好適である。その中で、例えば、遷移金属ペロブスカイト型酸化物、遷移金属ペロブスカイト型酸化物と電解質材料との複合物を好適に用いることができる。
【0028】
複合物を用いた場合には、空気極に必要な特性である電子伝導性及び酸化物イオン伝導性のうち、酸化物イオン伝導性が向上するため、空気極で生じた酸化物イオンが電解質層へ移行し易くなり、空気極の電極活性が向上する利点がある。遷移金属ペロブスカイト型酸化物としては、具体的には、LaSrMnO、LaCaMnO、LaMgMnO、LaSrCoO、LaCaCoO、LaSrFeO、LaSrCoFeO、LaSrNiO、SmSrCoOなどの複合酸化物が、好適な一例として挙げられる。
【0029】
また、燃料極材料と同様に、空気極材料においても、上記記載遷移金属ペロブスカイト型酸化物と電解質材料との複合物を好適に用いることができる。その場合、前者と後者の混合比率は、90:10重量%〜60:40重量%の範囲が好ましいが、それは、電極活性や熱膨張係数の整合性などのバランスに優れるからであり、上記混合比は、より好ましくは、90:10重量%〜70:30重量%である。
【0030】
次に、本発明の一実施の形態に係る電気化学セル及びそれから構成される電気化学反応システムについて詳細に説明する。初めに、本発明に係る電気化学セルの構成について説明する。図1は、従来のセル構造と、本発明に係る平板型の電気化学セルのセル構造の概略図である。図1の本発明のセル構造に示すように、上記燃料極材料から構成される支持体としての燃料極2の燃料供給サイドと対面して緻密な電解質1が形成されている。
【0031】
その電解質の表面には燃料極2と接触することなく空気極3が形成されている。燃料極2の電解質1が存在しない燃料ガスと界面となる箇所に電気化学反応の促進に最適ないし好適化された機能層4が積層されることによって、新規構造の機能層積層型電気化学セルが構築される。燃料極側に燃料5が、空気極側に酸素6が供給されると、所定のセル温度において発電が可能となる。
【0032】
次に、電解質1について説明する。電解質1の厚みは、電解質1の材料自体の比抵抗などを考慮して定める必要がある。電解質1は、緻密であり、厚さが0.1〜50ミクロンの範囲であることが好ましく、更に、電解質1のイオン伝導による電気抵抗を抑えるためにも、20ミクロン以下であることが好ましい。この電解質1は、燃料極2を支持体とした場合、厚さの低減化が容易に可能である。
【0033】
ここで、本発明に係る電気化学セルでは、燃料極2の厚みは1mm以下で、気孔率は、20%ないし30%以上が好適である。図2に示す電気化学セルは、セル形状が管状のチューブ形状のものを示しているが、図1と同様の電気化学セルの構造を有しており、同様に、機能層4を燃料極2の表面に積層することができる。この場合、管状内が燃料通路8となり、管の外側に電解質1、空気極3が存在しない露出部分をインターコネクト接続部7とすることができる。このとき、管内の燃料極表面には、全面に機能層を積層することが可能となり、簡便なスラリーなどを利用した製造プロセス方法で、本発明の電気化学セルが実現できる。
【0034】
管状支持体として燃料極を利用した場合については、管径は5mm以下であることが好ましい。このとき、管厚み(すなわち燃料極の厚み)を1mm以下にすることで、最適ないし好適なアノード電極性能を得ることができる。また、管状を5mm以下にすることで、管厚み1mm以下であっても、強度を保ちながら、気孔率の高い燃料極構造を持つ管状構造体を実現することができる。通常、燃料電池としての使用条件では、燃料通路8に、気体水素を含む燃料ガスが供給され、また、管外部の空気極側には、酸素6などの酸化剤ガスが供給される。
【0035】
平板型電気化学セルのサイズについては、システムサイズとスタックのデザインにおいて、適宜決定すれば良く、特に限定されるものではない。燃料極の気孔率については、ガス拡散や還元反応の促進のために、10%以上、好ましくは30%以上であることが必要である。また、機能層4についても、10%以上、好ましくは30%以上あるのが好適である。一方、管状のチューブ型の電気化学セルについては、管の長さは、燃料極2の電気伝導度とセルの性能によって決定され、電気化学セルとしての電気抵抗[電解質抵抗+電極抵抗(反応・ガス拡散)]に対して、管の長さ方向の電気抵抗が、10%以下となるようにすることが好ましい。
【0036】
次に、上記本発明に係る電気化学セルについて、SOFCとして作動させる一作動方法について説明する。図3の本発明を適用したセル−インターコネクト構造に示すように、燃料極2は、通常、燃料通路8と空気通路(酸素通路)を同時に構成するインターコネクト9に接続され、隣接する電気化学セルの空気極3と電気的な接続が成される。従って、機能層4は、インターコネクト9が接触していない燃料極面に設けられる。
【0037】
インターコネクト9の材料としては、ランタンクロマイト(LaCrO)などの導電性セラミックス、金、銀や白金などの貴金属、ステンレスなどを含む金属材料が適しており、ステンレスなどは、コストの面から好適である。インターコネクト9は、燃料通路8、酸素通路10が設けられているので、図3のスタック構造に示すように、単純積層によってスタック化が可能であり、同時に、燃料・酸素のガス通路が確保できる。
【0038】
管状のチューブ型電気化学セルを発電する方法としては、図4の管状電気化学セルにおける発電時の構成図に示すように、集電ワイヤー11を、インターコネクト接続部7、空気極3の表面に巻き付け、燃料マニホールド12を、チューブ型電気化学セルの末端に配置し、シール材13により封止する。上記燃料マニホールド12を構成する主な材料としては、具体的には、SOFCの運転条件によるが、耐熱性のステンレス鋼、セラミックスなどが好適な一例として挙げられる。
【0039】
上記シール材13の材料としては、ガスを透過させないものであればよく、特に限定されるものではない。ただし、燃料極部分の熱膨張係数に整合させる必要がある。具体的には、シリカ、ボロン、バリウムなどを含むガラスなどが好適な一例として挙げられる。
【0040】
図3、図4に示す、平板型、管状のチューブ型の電気化学セルにおいて、燃料極部に気体水素を含む燃料5を、空気極3の表面に酸素6を導入し、電極やインターコネクトに取り付けた集電ワイヤー11などを通じて負荷を接続すれば、発電可能となる。ここで、燃料の流量は、作動電流と燃料利用率の観点から決定される必要がある。具体的には、作動電流に対して燃料利用率が80%以上、好ましくは90%以上となる燃料ガス流量が好適である。
【0041】
なお、上記においては、本発明に係る電気化学セルをSOFCとして単体として作動させる一作動方法について説明したが、上記作動方法は、特に限定されるものではない。また、本発明に係るチューブ型電気化学セルを並列に集合させたものをユニットとし、これを、複数スタックして発電装置を構成することもできる。
【0042】
また、使用する燃料に関しては、気体水素を主成分とする燃料が必要であり、特に、10%以上の気体水素を含む燃料ガスが好適である。また、メタン、エタン、プロパン、ブタンなどの炭化水素系燃料を水蒸気や空気と混合して、改質器を通過させることで、気体水素を多量に含む燃料ガスを製造することができるのでその改質ガスを燃料として利用することも可能である。本発明による電気化学セルは、機能層4が燃料極2表面に積層された構造を有する他は、従来の電気化学セルと全く同様にして利用することが可能である。
【0043】
次に、本発明に係る電気化学セルの特徴と作用について説明する。本発明に係る電気化学セルは、燃料が供給される燃料極3界面に電気化学反応を促進する機能を有する機能層4が積層されていることを特徴としている。
【0044】
本発明者らは、綿密かつ膨大な実験、検討の結果、燃料極面に付加される機能層5は、電気化学反応を効果的に促進するだけではなく、燃料ガス拡散による電極抵抗をも低減することができるという発見に至った。その結果、700℃以下の中低温域において、発電効率が40%以上を単セルレベルで達成しうる電気化学セルの実現が可能となり、該電気化学セルを利用して、作動温度の低温化を実現できる電気化学反応システムの提供が可能となった。
【0045】
次に、本発明に係る電気化学セルの製造方法について説明する。支持体である燃料極2は、焼結法を用いて作製することができる。すなわち、原料を増孔材などとともにボールミルで混合粉砕し、乾燥した後、金型に入れてプレスする。このときに、電解質1を、スプレー法や印刷法などの種々の方法を用いて燃料極2の片面に形成し、約1300℃〜約1500℃で共焼成する。更に、この電解質1の上面に、空気極3をスプレー法、印刷などの方法で形成し、焼成する。また、燃料極2の他方の面上には、同様に、多孔質で、電気化学反応を効果的に促進する機能層4を空気極と同様の方法で形成する。
【0046】
一方、本発明に係る管状のチューブ型電気化学セルの製造方法は、基本的には、次のような工程を含んでいる。
(1)燃料極材料、セルロース系高分子、水を混合し、押し出し成型法によって、成型体を造形し、乾燥あるいは仮焼する工程。
(2)得られた成型体に、電解質材料、有機高分子、溶媒を混合したスラリーをコートし、1200〜1500℃において、燃料極構造体と電解質を同時焼成する工程。
(3)得られた電解質付成型体に、空気極材料をコートし、800〜1300℃において、焼成する工程。
(4)機能層を、管状成型体の内壁に積層し、400〜1200℃において、焼成する工程。
【0047】
以下、更に詳細に説明すると、Zr,Ce,Mg,Sc,Ti,Al,Y,Ca,Gd,Sm,Ba,La,Sr,Ga,Bi,Nb,Wから選ばれる2種類以上の元素を含む酸化物化合物の粉末と、Ni,Cu,Pt,Pd,Au,Ru,Co,La,Sr,Tiから選ばれる金属元素あるいは酸化物の粉末に、バインダーを加えて、水で練り、得られた塑性混合物を押し出し成形法などを用いて、所定の管径、管長さ、管厚みの管状成形体を成形する。
【0048】
ここでは、セルロース系有機高分子を使用することが必要である。バインダー添加量は、燃料極材料100gに対して、5〜50gのセルロース系有機高分子の使用が好ましく、好適には10〜30gである。なお、必要に応じて、炭素粉末などの気孔生成剤を加えてもよい。得られた成形体は、常温で乾燥するが、必要に応じて、〜1000℃まで仮焼してもよい。
【0049】
次いで、得られた成形体に、電解質材料粉体を含むスラリーを付着させた後、乾燥させる。電解質スラリーは、例えば、電解質材料粉体、有機高分子、溶媒などを混合して作製する。ここで用いる有機高分子は、ビニル系高分子であることが望ましく、必要に応じて、分散剤などを添加してもよい。溶媒として有機化合物、例えば、アルコール、アセトン、トルエンなどを用い、スラリーの濃度を制御することで、コーティング厚を制御することができる。
【0050】
この手法によって、管の表面に、後の焼成によって電解質となる電解質形成層を付着させることができる。上記乾燥方法としては、特に制限されるものではなく、適宜の方法及び手段を使用することができる。上記スラリーの付着方法としては、例えば、管状燃料極の両端側の開口を樹脂系接着剤などにより封止した後、この管を、電解質を含むスラリー中に浸漬してディップコーティングする方法などが好適な一例として挙げられる。なお、ディッピング法以外にも、例えば、ハケ塗り法、スプレー法などの種々の付着方法を用いることができる。
【0051】
このとき、得られた電解質付管状燃料極の外側面の一端に、電解質スラリーが付着されることなく、燃料極部分がむき出し状態とされた露出部、すなわちインターコネクト接続部が形成されることが必要である。これを、所定の温度で焼成して、電解質付管状燃料極とする。この構造体の焼成温度としては、1200〜1600℃程度の温度で焼成することが好ましいが、特に限定されるものではなく、燃料極の材質、多孔度などを考慮して、電解質が緻密になる温度であればよい。管長さは、特に限定されるものではなく、これらを集積して成るスタック形状に応じて、適宜決定することができる。
【0052】
次いで、空気極材料を、電解質上に塗布する。材料としては、特に、Ag,La,Sr,Mn,Co,Fe,Sm,Caから選ばれる一種類以上及び/又はこれらの酸化物化合物から構成される材料が好適である。この粉体より、スラリーを作製して、上記電解質スラリーの調製と同様の方法を用い、空気極を電解質層上に形成することができる。
【0053】
次いで、得られたチューブを、所定の温度で焼成して、管状のチューブ型電気化学セルとする。焼成温度としては、800〜1200℃程度の温度で焼成することが好ましいが、特に限定されるものではなく、空気極材料の種類などを考慮して、種々の温度に調節することができる。
【0054】
次いで、機能層材料を、燃料極チューブ内壁に積層する。材料としては、少なくともNi,Cu,Fe,Sn,Pt,Pd,Au,Ru,Co,La,Sr,Ti,Ce,Al,Mg,Ca,Zr,Yb,Y,Sc,Si,W,V,Ti,Moから選ばれる元素及び/又はこれらの元素1種類以上を含む酸化物化合物から構成される粉体であり、この粉体より、上記電解質スラリーと同じ調製でスラリーを作製する。
【0055】
管状燃料極の内壁には、機能層スラリーを流し込み、シリンジなどで残スラリーを引き抜くことで、均質な機能層を形成することができる。これを、400〜1200℃において、焼成する。以上により、管状燃料極の内壁面に、機能層、外側面に固体電解質層が接合され、更に、電解質層の外側に、空気極が積層された、管状電気化学セルを得ることができる。
【0056】
なお、必要に応じて、得られた管状のチューブ型電気化学セルの空気極又は燃料極の部分を機械加工して、面出しや寸法調整を行ってもよい。また、上記製造方法においては、電解質スラリーをコートした成形体を焼成することにより、予め電解質付燃料極を作製した後に、空気極を積層した場合について説明したが、これ以外にも、管状燃料極を作製した後に、電解質スラリー・空気極スラリーをそれぞれコートして、同時焼成によって電気化学セルを作製することも可能である。
【0057】
これらの管状のチューブ型電気化学セルをスタックとして積層させていく場合、電気化学セルを並列に配列し、それぞれの電気化学セルに、共通の燃料ガス導入及び集電用マニホールドなどを使用することができる。更に、これらを電気的に直列に積層させることで、マルチボルト発電可能な集積スタックとして使用することが可能である。
【0058】
また、管状のチューブ型電気化学セルにおいてスタックを構成した場合、管状のチューブ型電気化学セルは急速起動による熱衝撃に強いということ知られているので、様々なアプリケーションに適用が可能であり、小型システムにおいても低温・高効率発電運転を可能とするスタック/モジュールが実現可能となる。
【発明の効果】
【0059】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)燃料ガスとの界面である燃料極表面全面あるいは一部に電気化学反応を促進する多孔質構造の機能層が積層されている構造を有する、700℃以下において40%以上の発電効率を実現することが可能な電気化学セルを提供することができる。
(2)簡便な手法を用いて上記機能層を積層することができ、低コストでの性能向上が見込める。
(3)中低温域のセル運転温度において前述の式1で定義される発電効率が飛躍的に向上する。
(4)平板型や管状型など様々なセル形状において上記機能層の積層が可能であり、様々なアプリケーションへの展開が期待できる。
(5)セルレベルでの高効率・運転温度低減の実現によって、小型・高性能SOFCシステムをより安価に提供することができる。
(6)本発明は、従来のセル構造へも適用が可能であり、既存のSOFCシステムにおいても高性能化が容易に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】従来のセル構造と本発明に係る機能層を積層した電気化学セルのセル構造の概略図を示す。
【図2】本発明に係る機能層を積層した管状電気化学セルの概略図(図2a)及びその断面図(図2b)を示す。
【図3】従来のセル−インターコネクト構造と本発明を適用した機能層を積層したセル−インターコネクト構造(平板型)と、インターコネクト、スタック構造の概略図を示す。
【図4】管状電気化学セルにおける発電時の構成図を示す。
【図5】実施例1において作製された本発明の電気化学セルのSEM写真(図5a〜d)を示す。
【図6】作動温度650、700℃における、機能層あり、機能層なしのI−V特性評価試験の結果を示す。
【図7】作動温度650、700℃における、機能層あり、機能層なしのインピーダンス特使評価試験の結果を示す。
【図8】作動温度650、700℃における、機能層あり、機能層なしの燃料利用率と発電効率の関係を示す。
【図9】作動温度650、700、750℃における機能層あり、機能層なしの最大発電密度と発電効率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0062】
本実施例では、以下の手順に従って、電気化学セルを作製した。先ず、燃料極材料として、NiO(和光製)とZrO−8mol%Y(YSZ)組成を有する粉末(東ソー株式会社製)に、結合剤として、ニトロセルロースを加えて、水で練り、粘土状にした後、押し出し成形法により管状成形体を成形した。得られた管状成形体の管径は、2.4mmであった。
【0063】
次いで、得られた管状成形体を、長さ3cmに切断し、一端の開口の5mm長さ分を、テフロン(登録商標)テープにより封止し、マスキングした後、この管を、ZrO−10mol%Sc(ScSZ)組成を有する粉末(第一希元素株式会社製)組成の固体電解質を含むスラリー中に浸漬して、電解質をディップコーティングし、電解質付管状成形体とした。
【0064】
電解質のコーティング後、テフロン(登録商標)テープを取り外し、燃料極の他端5mmを、燃料極露出部とした。この成形体を、乾燥後、1300℃で2時間焼成し、電解質付き燃料極成形体とした。次いで、空気極材料として、LaSrCoFeO(日本セラミックス株式会社製)とGd−CeO(阿南化成株式会社製)を含むペーストを、電解質層面に塗布し、100℃で乾燥させた後、1050℃で1時間焼成し、電気化学セルとした。これを機能層なしの電気化学セルとした。この電気化学セルの完成後のサイズは長さが3cm、電解質長さが2cmで、電解質の中央部に長さ1cmの空気極が形成されており、管径は、1.8mmであった。
【0065】
次に、塩化ルテニウム(RuCl)水溶液(和光株式会社製)にCeO(第一希元素工業社製)を混合し、乾燥後、600℃にて焼成を行い、機能層材料となるRu/CeO粉体を作製した。この粉体を含むスラリーを作製し、上記で得られた電気化学セルの管内部にコーティングし、800℃にて焼成した。これにより、機能層ありの電気化学セルを得た。図5に、この機能層ありの電気化学セルの電子顕微鏡写真(図5a〜d)を示す。図に示したように、機能層は多孔質を有する構造であり、その内壁に約10ミクロンの機能層が形成されていることがわかる。
【実施例2】
【0066】
実施例1で作製した機能層あり、機能層なしの電気化学セルを、図4に示すように、それぞれ、インターコネクト接続部7において、燃料マニホールド12に接続した。燃料極露出部に、Agワイヤー(集電ワイヤー11)を巻き付け、Agペーストにて固定し、空気極側は、Agワイヤーを、空気極3の全体に1mmピッチで巻き付けて、Agペーストによって固定した。この試験においては、燃料5として、気体水素20%を含むアルゴンガス17〜47cc/minを、それぞれの電気化学セルに導入した。また、空気極側には、空気100cc/minを供給した。
【0067】
図6に、機能層なし、機能層ありの電気化学セルの650℃、700℃におけるセル発電性能試験結果を示す。図に示すように、セルの発電性能は燃料流量によって大きく変化することがわかる。一方で、機能層あるなしで比較すると、機能層ありのほうが、650℃、700℃ともにおいて、最大電力密度が向上し、特に低燃料流領域において、顕著に性能が向上している。
【0068】
これは、図7に示すインピーダンス測定結果によって説明することができる。インピーダンス測定では、電極抵抗を電極反応による寄与分とガス拡散による寄与に分離することができ、機能層があるなしでの比較を行うと、(1)機能層の付与によって電極反応による寄与分が大幅に減少し、(2)また、ガス拡散による寄与分についても減少し、(3)また、ガス流量の依存性も小さくなっていることがわかる。
【0069】
一般的には、電極反応は燃料極内部の電解質近傍での三相界面(電解質、触媒、ガス)にて行われるというのが通説であり、燃料極表面の機能層が電極反応へ寄与すること、また、燃料ガスの拡散までに影響を及ぼすということは、これまで全く報告されておらず、この機能層の効果は、新しい知見となっている。
【0070】
図6の結果を、電圧、発電効率と燃料利用率の関係に再構築したのが図8である。図からわかるように、燃料利用率から見ると、低燃料ガス流量時のほうが高い電圧、ひいては高い発電密度を示している。これらの図をまとめたものが図9である。機能層がないものと比較して、本発明に係る機能層を有する電気化学セルの最大効率は、650℃で40%以上であり、700℃においては50%を超える結果を、この機能層付与のみによって達成することができている。一方、750℃においても試験を行うと、若干の発電密度の向上が見受けられたが、効率においては、ほぼ同等であった。このことから、本発明は、700℃以下の運転温度において効果的に利用することができるといえる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、上記実施の形態では、単一管状電気化学セルのみについて実施例を示したが、平板型セルを利用する場合についても、作製したセルについて、機能層材料を含むスラリーを塗布することで、同様の手順で作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上詳述したように、本発明は、高効率発電を可能とする電気化学セル及びそれから構成される電気化学反応システムに係るものであり、本発明の電気化学セルによれば、気体水素燃料を利用した発電システムにおいて、エネルギー効率を高めながら、運転温度を効果的に低減させることができるSOFCの構築が可能となり、高性能SOFCシステムの利用が可能となる。また、本発明では、従来の電気化学セル構造においても機能層を付加するのみで、その効果を発現することが可能であり、コストパフォーマンスに優れた電気化学セル及びそれを利用した電気化学システムを構築し、提供することが可能となる。本発明は、機能層を付与した新しいタイプの電気化学セル及び該電気化学セルを利用したSOFCなどの電気化学反応システムに関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0073】
(図1〜4の符号)
1 電解質
2 燃料極
3 空気極
4 機能層
5 燃料
6 酸素
7 インターコネクト接続部
8 燃料通路
9 インターコネクト
10 酸素通路
11 集電ワイヤー
12 燃料マニホールド
13 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルが、燃料ガスと界面を有する燃料極、緻密なイオン伝導体(電解質)、空気(酸素)と界面を有する空気極がその順番に積層されている構造を有し、燃料極と空気極は接触することなく電解質によって分離され、燃料ガスとの界面である燃料極表面全面あるいは一部に電気化学反応を促進する多孔質構造の機能層が積層されている構造を有する気体水素を含む燃料を利用した単一の電気化学セルであって、
下記の式
式:η=作動時の燃料利用率×(作動電圧/1.25)
から計算される発電効率ηにおいて、40%以上をセル温度700℃以下で実現できることを特徴とする上記電気化学セル。
【請求項2】
上記電気化学セルの構造形状が、燃料極材料からなる支持構造を有し、
1)その燃料極構造体の一面に緻密なイオン伝導体(電解質)が積層され、
2)電解質上に燃料極構造支持体と接触することなく、空気極が積層されており、
3)燃料極材料からなる構造支持体の電解質が積層されず、燃料ガスと界面を有する面に電気化学反応を促進する機能層が積層されている、請求項1記載の電気化学セル。
【請求項3】
上記電気化学セルの構造形状が、燃料極材料からなる支持構造を有し、
1)その燃料極構造体の一面に緻密なイオン伝導体(電解質)が積層され、
2)電解質上に燃料極構造支持体と接触することなく、空気極が積層されており、
3)燃料極材料からなる構造支持体の電解質が積層されず、燃料ガスと界面を有する面に電気化学反応を促進する機能層が積層されており、
4)空気が供給される面において電解質及び空気極がなくて、燃料極がむき出し状態の露出部があり、その箇所に、燃料極集電部が設置されている構造、
を有する、請求項1記載の電気化学セル。
【請求項4】
燃料ガスとの界面を有する燃料極面に積層される電気化学反応を促進する多孔質構造の機能層の材料が、Ni,Cu,Fe,Sn,Pt,Pd,Au,Ru,Co,La,Sr,Ti,Ce,Al,Mg,Ca,Zr,Yb,Y,Sc,Si,W,V,Ti,Moから選ばれる元素及び/又はこれらの元素1種類以上を含む酸化物化合物から構成される、請求項1から3のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項5】
燃料ガスとの界面を有する燃料極面に積層される電気化学反応を促進する多孔質構造の機能層が、Ru−CeO,Pd−CeO,Cu−CeO、又はNi−CeOから構成される、請求項1から3のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項6】
電解質材料が、Zr,Ce,Mg,Sc,Ti,Al,Y,Ca,Gd,Sm,Ba,La,Sr,Ga,Bi,Nb,Wから選ばれる2種類以上の元素を含む酸化物化合物である、請求項1から3のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項7】
燃料極材料が、Ni,Cu,Pt,Pd,Au,Ru,Co,La,Sr,Tiから選ばれる元素及び/又はこれらの元素1種類以上を含む酸化物化合物から構成される、請求項1から3のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項8】
燃料極材料が、請求項6に記載の材料と、請求項7に記載の材料の複合材料である、請求項1から3のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項9】
電気化学反応によって電流を取り出す電気化学反応システムであって、請求項1から8のいずれかに記載の電気化学セルより構成され、運転温度が高くても700℃であることを特徴とする電気化学反応システム。
【請求項10】
上記記載の電気化学セルが複数集積されたスタック構造体を利用したモジュールから構成される、請求項9に記載の電気化学反応システム。
【請求項11】
請求項1から8のいずれかに記載の電気化学セルを使用して発電する発電方法であって、気体水素を含む燃料を持いて、700℃以下で、請求項1で定義される発電効率が40%以上の条件で上記電気化学セルを使用して発電する発電方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−212624(P2012−212624A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78514(P2011−78514)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】