説明

中温熱源からの発電

【解決手段】作動流体が200°Cから700°Cの温度で凝縮されるランキンサイクルで作動するシステムと比較して改善された効率で、200°Cから700°Cの温度範囲の中温熱源から発電する方法および関連する装置である。乾き度が0.10から0.90(10%から90%の乾燥)の湿り蒸気を生成するために、排ガス流(22)であってもよい熱源(A、22)からの熱を用いてボイラ(11)内で水を加熱する。湿り蒸気は、2軸式膨張機などの容積式蒸気膨張機(21)内で膨張されて出力を生成する。膨張された蒸気は、70°Cから120°Cの範囲の温度で凝縮され、凝縮した蒸気がボイラに戻される。膨張された蒸気は、有機ランキンサイクル(22)のボイラ内で凝縮されて追加の出力を提供してもよいし、加熱システムの加熱器を用いた熱交換によって凝縮されて熱電併給サイクルを提供してもよく、これによってサイクル効率がさらに改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中温熱源から機械力を生成することに関する。
【背景技術】
【0002】
機械力は、通常、水蒸気を作動流体として使用して、ランキンサイクルシステム内で燃焼生成物などの外部熱源から回収される。しかしながら、近年、出力回収のためにより低い温度の熱源を用いることへの関心が増大しているため、代替的な作動流体および約200°C未満の温度の熱源を探索する傾向が高まっている。多くの場合、軽質炭化水素などの有機流体または一般冷媒(common refrigerant)が適切であることが分かっている。これらの流体は特有の性質を有しており、所与の熱源から出力を回収するための最良のシステムを得る技術の多くは最適な流体の選択に基づいている。
【0003】
最も広く用いられるかまたは最も広く検討されているそれらの流体は、R124(クロロテトラフルオロエタン)、R134a(テトラフルオロエタン)、またはR245fa(1.1.1.3.3−ペンタフルオロプロパン)などの一般冷媒、もしくはイソブタン、n−ブタン、およびn−ペンタンなどの軽質炭化水素のいずれかである。一部のシステムは、DowthermsやTherminolsなどの非常に安定した熱流体を含むが、これらの流体の非常に高い臨界温度は、解決コストを高くするシステム設計上の多くの問題を生み出す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、主に燃焼生成物の形態である、内燃(IC)機関の排ガスなどの多数の熱源が、他のプロセスで既に使用されている。内燃機関では温度はかなり高く、典型的に200°−700°Cの範囲の初期値を有する。この場合、有機作動流体は熱安定性の問題と関連し、流体の熱力学的特性の利点は少なくなる。残念なことに、これらの温度では、従来の蒸気サイクルも重大な欠陥を有する。
【0005】
ロシア特許出願公開RU2050441号は、工業プロセスによって生み出される廃棄物として利用可能である蒸気からエネルギーを回収することによって、電力を生成する方法を開示する。蒸気の乾き度は0.6から1の範囲に維持され、それゆえ蒸気は比較的乾燥している。蒸気の膨張は、ツインスクリュ型機械で実行されてもよい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、200°C−700°Cの温度範囲にある外部熱源からの出力回収を最適化することに関する。本発明は、湿り蒸気(乾き度の低い蒸気でさえ)を使用することで、作動流体が同一温度またはわずかに低い温度で凝縮されるときに、水または有機流体を作動流体として作動するランキンサイクルなどの既知の発電サイクルよりも、200°C−700°Cの温度範囲内の中温熱源から効率的に出力を回収できるという理解に基づいている。
【0007】
一態様によると、本発明は、200°Cから700°Cの範囲の熱源から発電する方法を提供する。この方法は、熱源からの熱でボイラ内の水を加熱して乾き度が0.1から0.9(10%から90%)の湿り蒸気を生成し、湿り蒸気を膨張して容積式膨張機内で出力を生成し、膨張した蒸気を70°Cから120°Cの範囲の温度で水に凝縮し、凝縮した水をボイラに戻すステップを含む。
【0008】
このようなシステムは、この中温範囲にある内燃機関の排気または他の高温ガス流などの高温ガスから、20−500kWの範囲の出力を得るのに最も適している。
【0009】
さらなる態様によると、本発明は、熱源と、200°Cから700°Cの範囲の温度で熱源から熱を受け取り、それによって乾き度が0.1から0.9(10%から90%)の湿り蒸気を生成するように構成された蒸気ボイラと、蒸気を膨張し、それによってさらなる機械力を生成する容積式蒸気膨張機と、膨張した蒸気を70°Cから120°Cの温度で水に凝縮するような大きさの凝縮器と、水をボイラに戻す給水ポンプと、を備える機械力の生成装置を提供する。
【0010】
以下、図面を参照して本発明の例をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(A)、(B)は、従来の蒸気ランキンサイクルのサイクル(エントロピー対温度)およびシステム構成を示す図である。
【図2】飽和蒸気ランキンサイクルを示す図である。
【図3】過熱蒸気の熱伝達に対するボイラ温度を示す図である。
【図4】飽和蒸気の熱伝達に対するボイラ温度を示す図である。
【図5】(A)、(B)は、復熱(recuperative)有機ランキンサイクル(ORC)に対して図1(A)、(B)に対応する図である。
【図6A】湿り蒸気ランキンサイクルに対しての図1(A)に対応する図である。
【図6B】湿り蒸気ランキンサイクルに対しての図1(B)に対応する図である。
【図7】図6Aおよび図6Bにしたがった、内燃機関の排気熱から発電する構成を示す図である。
【図8A】湿り蒸気ランキンサイクルと有機ランキンサイクルの組み合わせを示す図である。
【図8B】湿り蒸気ランキンサイクルと有機ランキンサイクルの組み合わせを示す図である。
【図9】有機ランキンサイクルを使用して排ガスから発電する構成を示す図である。
【図10】蒸気有機ランキンサイクル(ORC)を用いて内燃機関の冷却ジャケットの熱から発電する構成を示す図である。
【図11】過熱有機ランキンサイクル(ORC)の図7と同様の構成を示す図である。
【図12】蒸気有機ランキンサイクル(ORC)を使用して内燃機関の排ガスと冷却ジャケットの両方から発電する構成を示す図である。
【図13A】異なる温度にある二つの熱源から発電するための、蒸気およびORCの組み合わせシステムの代替的な作動サイクルを示す図である。
【図13B】異なる温度にある二つの熱源から発電するための、蒸気およびORCの組み合わせシステムの代替的な作動サイクルを示す図である。
【図13C】蒸気サイクルを用いて排ガスから発電し、内燃機関の冷却ジャケットから熱を受け取るORCシステムに廃熱(rejected heat)を供給する構成を示す図である。
【図14A】図13Cのシステムで採用される膨張機の側面図である。
【図14B】図13Cのシステムで採用される膨張機の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の説明では、同一の構成要素を参照可能である限り、同一の参照符号を使用する。
【0013】
ランキンサイクルシステム
水蒸気を使用する基本のランキンサイクルシステムが図1に示されている。温度−エントロピー図上の点1−6は、システム図内の点1−6に対応している。基本ランキンサイクルは、わずか4つの主要な要素、すなわち給水ポンプ(10)、水を加熱し蒸発させるボイラ(11)、機械力を生成する膨張機(12)、発電機(14)に接続され、廃熱を除き水を給水ポンプ入口に戻す凝縮器(13)で構成される。高温流体はAでボイラに入り、冷却された流体はBでボイラから出る。膨張過程の間に蒸気が凝縮することを避けるために膨張前に過熱器(15)の中で過熱することが好ましい場合、通常は膨張機(12)はタービンである。タービン内部の蒸気速度は非常に高く、そうして形成された水滴がタービンブレードに衝突してブレードを浸食し、タービン効率を低下させるので、これは重要である。
【0014】
タービンブレードの前縁に特別な材料を用いることで、ブレード浸食の問題を軽減することが可能であり、これによって、一部の地熱システムでなされているように、乾燥した飽和蒸気の条件で水蒸気をタービンに進入させることができる。このようなサイクルが図2に示されており、いくらかの効率を犠牲にして膨張の後続ステージにおける湿り度を増大させることが可能になる。しかしながら、その入口で湿った流体を安全に受け入れられるタービンは未だ製造されていない。
【0015】
続いて、過熱蒸気または乾燥飽和蒸気であっても、タービン入口に進入する際の問題が存在する。この問題は、熱源の初期温度が低下すると、より顕著になる。これは、全ての回収可能な熱が使用される場合、ボイラ内の熱源と作動流体の温度が一致することである。このことは、図3を参照すると最もよく理解できる。図3は、高温ガスが450°Cの初期温度から150°Cまで冷却され、加圧水を加熱し蒸発させその後過熱するときに、ボイラ内部で作動流体と熱源の温度がどのように変化するかを示している。
【0016】
図から分かるように、水はあらゆる既知の流体の中で最大の潜熱を有しているので、水蒸気によって受け取られた熱の最大部分が水を蒸発させるために必要とされ、蒸発は一定温度で発生する。しかしながら、ガス流温度は、熱を水蒸気に伝達するにつれて、連続的に減少する。したがって、水蒸気の蒸発温度は初期ガス流温度よりもかなり低くなければならず、この場合、ガス流の初期温度が比較的高いにもかかわらず、蒸気は120°Cよりも高い温度で蒸発することができない。さらに、図4に示すように、過熱が取り除かれると、蒸発温度は数度上昇することができるに過ぎない。
【0017】
水蒸気を蒸発させるために必要な温度のこの大きな低下は、動力装置のサイクル効率の悪化につながるが、これは蒸発温度を高めることによってのみ高いサイクル効率が達成されるからである。
【0018】
高温ガス流の出口温度が上昇する場合、さらに高い蒸発温度が達成できる。しかしながら、ガス流の出口温度を上昇させると、回収される熱量が減少する。その場合、サイクル効率は高くなるにもかかわらず、正味の回収可能な出力は減少するだろう。
【0019】
これとは対照的に、有機流体は熱を与えるための蒸発加熱の比率がかなり低く、それゆえかなり高い温度を容易に達成することができ、したがってより優れたサイクル効率が得られる。この例は、図5に示されている。同じ熱源を使用して、ペンタンを180°Cで蒸発させることが可能である。この温度は、流体の化学分解に関連する熱安定性の問題を回避するために、ペンタンに対して安全な上限であると一般的に考えられている。図5のサイクルは、給水ポンプ(10)、ボイラまたは給水加熱器(16)、蒸発器(17)、膨張機(18)および過熱低減器(desuperheater)−凝縮器(19)を備える。
【0020】
この場合、水蒸気と異なり、飽和蒸気から開始して、作動流体が膨張するときに過熱されることが分かる。したがって、その使用に関連してブレードの浸食問題は発生しない。膨張終了時のサイクル効率を改善するために、逆流熱交換器または復熱器(recuperator)(20)に低圧の過熱蒸気を通過させて、熱を回収することができる。この熱は凝縮器内で除熱され、給水ポンプを出る加圧された液体をボイラ(16)に入る前に予熱するために用いられる。このように、ペンタンを使用して、さらに高いサイクル効率を達成することができる。
【0021】
熱安定性の問題は、作動流体のバルク温度に限られるわけではない。ペンタンの場合、かなり高い温度を達成可能であるが、高温端でペンタンと接触するボイラ表面の温度がはるかに高くなるだろう。熱源から作動流体を分離する熱交換器の壁で破裂が発生した場合に、出火または爆発の危険性がある。
【0022】
水蒸気に関連するさらなる問題は、冷却水流または大気のいずれかに排熱する蒸気パワープラントで必要とされる通常の凝縮条件において、蒸気圧力が非常に低いことである。40°Cの凝縮温度において、水蒸気の蒸気圧はわずかに0.074barである。これは、膨張した水蒸気の密度が非常に低く巨大で高価なタービンが必要になる一方で、凝縮器内で真空を維持するという問題があることを意味する。これとは対照的に、40°Cのペンタンの蒸気圧は1.15barである。したがって、密度がはるかに高く、その結果ペンタンに必要な膨張機はかなり小さく安価なものとなる。
【0023】
スクリュ式膨張機
20kWから1MWの範囲の比較的低い出力のユニットに対しては、タービンの代替物として、スクリュ式膨張機などの容積式機械の使用を検討することができる。
【0024】
例えばEP0898455に示されるように、スクリュ式膨張機は、ケーシングに収容された一組のかみ合ったヘリカルロータを備える。ロータが回転すると、ロータとケーシングの間に捕捉される容積が変化する。ロータの一端で流体がこの空間内に進入すると、ロータの他端である反対側から流体が最終的にはき出されるまで、回転方向のみに応じてその容積が増加または減少する。
【0025】
ロータ上の圧力によって流体とロータシャフトの間で力が伝達されるが、これは流体の容積とともに変化する。さらに、この種の機械における流体速度は、タービン内の速度よりもおよそ一桁分小さい。このため、ターボ機械内での動力伝達のモードとは異なり、流体運動に関連する動的効果のために、力の比較的小さな部分のみが回収される。したがって、流体浸食効果が取り除かれ、圧縮または膨張される蒸気または気体とともにある機械内での液体の存在が動作モードまたは効率に対して及ぼす影響は小さくなる。
【0026】
これに基づき、給水ポンプ(10)、ボイラ(11)、スクリュ式膨張機(21)および凝縮器(13)を備える図6Aおよび図6Bに示すように、典型的にわずか0.5のオーダーの乾き度の非常に湿った流体として進入するサイクル内で水蒸気を使用することができる。この値は、熱源と作動流体の間で最も適合するように調整される。これらの作動条件の下、200°Cから240°Cの湿り蒸気温度を達成することは容易である。この値を大きく上回る温度は、ケーシングとロータの熱変形によって制限される。
【0027】
水蒸気の有益な特徴は、これらの高い温度において、その圧力が高くなりすぎず、200°Cで15barをわずかに越え、約240°Cで30barに過ぎないことである。
【0028】
有機流体よりもはるかに高い水蒸気のこの特定のエネルギーは、作動流体を圧縮するために必要な給水ポンプの仕事が、有機流体サイクル内よりも水蒸気サイクル内ではるかに小さいことを意味している。
【0029】
膨張機のベアリングを潤滑するために、ライン(L)がポンプの出口からわずかな水流を取り出し、この水をベアリングに供給する。湿り蒸気自身が、ロータの表面を潤滑し隙間漏れを低減する傾向を有している。
【0030】
したがって、スクリュ式膨張機で湿り蒸気を利用することで残る主要な問題は、低い凝縮温度に膨張させるために必要な機械のサイズの大きさのみとなる。
【0031】
以下の二つの例によって図解されるように、湿り蒸気の凝縮温度を好ましくは約100°C以上まで上昇させることによって、この問題を解決することができる。この値では、水蒸気の蒸気圧は1barをわずかに上回り、最も一般的に使用される冷媒および炭化水素作動流体の同一温度における蒸気圧よりも小さいものの、同等の値である。
【0032】
湿り蒸気の凝縮温度を好ましくは約100°C以上に上昇させることの重要な利点は、以下を含む。
i)凝縮器内で真空を維持することに関連する問題が回避される。
ii)膨張率を削減した小型のスクリュ式膨張機を採用する必要性
iii)より低い凝縮温度で作動する発電システムと比べて、世界のあらゆる地域で凝縮器を効率的に空冷することが可能になる。より低い凝縮温度で作動する発電システムは、吸収する寄生電力が大きすぎる非常に大型で高価な空冷凝縮器か、あるいは固定内燃機関が据え付けられる場所では実用的および利用可能であることがまれである水冷のいずれかを必要とする。
【0033】
冷却水が利用可能であるか、または大気温度が異常に低い場合、除去された熱を有機ランキンサイクルシステムに供給することで、プロセスの効率をさらに改善することができる。以下でこれを詳細に説明する。
【0034】
内燃機関によって生成される利用可能なエネルギーの利用を最大化するために、熱電併給(CHP:Combined Heat and Power)システムで内燃機関駆動の発電機を使用することが知られている。この種のシステムでは、内燃機関からの排ガス熱がボイラで回収されて、加熱過程で使用される温水または水蒸気のいずれかを上昇させる。
【0035】
あらゆるCHPシステムの問題点は、生成される電力と回収可能な熱との割合が常に好都合であるわけではなく、多くの場合、特に夏期では、回収された熱は他の実用的な用途がないため単に捨てられていることである。
【0036】
本発明の好適な実施形態の機械力を生成する装置は、約100°C−120°Cの温度で凝縮器から熱を廃棄する。およそ85−90°Cの温度であるこの廃熱、すなわち排ガスの利用可能な全エネルギーのうち約85−90%を維持しているこの廃熱を回収して、外部の温水システムを循環する温水または蒸気を加熱することが可能である。これは、加熱目的ではもはや利用できない排ガスエネルギーの10−15%を使用して追加の出力を生成し、これによって生成された電力と加熱に利用可能な熱との間の比率がさらに好都合であるCHPシステムを提供する。
【0037】
自動車の内燃機関(23)によって生成される排ガス流(22)内の廃熱から電力を回収するための構成が図7に示される。自動車は、ラジエータ(24)とジャケット冷却回路(25)とを有する。ボイラ11は給水加熱器−蒸発器であってもよい。
【0038】
自動車では、燃料の燃焼によって放出されるエネルギーが、エンジンによって発現される機械力の形態と、排気ガスに排出される熱と、冷却ジャケットに排出される熱とでおおよそ等しい割合で使用される。追加の出力を生成するためにあらゆる廃熱を高い費用効率で回収することは、非常に望ましく、年間の燃料コストが非常に高い大型の長距離輸送用自動車の場合は特に望ましい。
【0039】
自動車における低位熱の燃焼に関連する主要な問題は、凝縮器(13)のための空間を見つけることである。なぜなら、良好なサイクル効率を得るのに必要な低い廃熱温度は、非常に大型の凝縮器を必要とするからである。しかしながら、排ガス熱のみが使用され、凝縮温度がエンジンジャケットの冷却液の温度とほぼ同一であるならば、空冷式の凝縮器がエンジンラジエータ(24)よりも大型である必要はない。
【0040】
典型的に、クーラントは約90°Cで進入し、約70°Cでエンジンジャケットに戻される。したがって、約80°Cで凝縮することによって、廃熱回収ユニットを自動車内に適合させることは可能である。
【0041】
以下の表は、ペンタン廃熱回収ユニットから得られるものを比較したものである。このユニットでは作動流体が180°Cで乾燥蒸気として膨張機に進入し、膨張した蒸気は蒸気システムからの回収可能な出力とともに、77°Cで凝縮される。蒸気システムでは、乾き度0.45の湿り蒸気が約200°Cでスクリュ式膨張機に進入し、100°Cで凝縮される。いずれの場合も、排ガスが廃熱ボイラに450°Cで進入し、150°Cで放出され、このプロセスで200kWの熱が排ガスから作動流体に伝達されると仮定している。仮定された全ての構成要素の効率は、両方のケースで同一である。
【0042】
【表1】

【0043】
表から分かるように、水蒸気の凝縮温度の方が高いにもかかわらず、蒸気回収ユニットは15%多い正味出力を発生し、良好な第一近似として、給水加熱器、蒸発器、復熱器、過熱低減器、および凝縮器の全体の熱伝達率が全て等しいと仮定すると、蒸気プラントは、ペンタンプラントのサイズの1/3の全熱交換器表面を有するに過ぎない。事実、水/蒸気の優れた熱伝達特性のために、この利点はさらに大きくなるだろう。蒸気スクリュ式膨張機のサイズは、ペンタン膨張機のサイズの2.2倍が必要となるが、これらの機械は比較的安価であり、これによる追加コストは、(空間の大きな節約は別として)蒸気凝縮器で節約された額よりもはるかに小さくなる。
【0044】
蒸気ユニットのコストおよび効率の利点のいずれよりも重要なことは、水蒸気は熱的に安定しており火災の原因とはならない一方で、自動車内を循環する熱いペンタンは重大なリスクを与えることである。
【0045】
固定プラントでのボイラ排気からの熱回収の場合のように、凝縮器のサイズに対する制限がない場合には、はるかに低い凝縮温度が可能である。したがって、湿り蒸気サイクル凝縮器から排出された熱を、さらなる出力を回収するために、低温のORCシステム(26)に供給することができる。この際、水蒸気を低温に膨張するのに必要な大型機械の問題が生じることはない。これに対する提案された構成が図8Aに示されている。図8Aは、蒸気線(S)と有機流体線(F)を示し、対応する図8Bは、給水ポンプ(10)、ボイラ(11)、蒸気膨張機(18)および蒸気凝縮器−ORC給水加熱器−蒸発器(27)、および低温ORCシステム(26)を含む。低温ORCシステムは、ORC給水ポンプ(28)、ORC膨張機(29)および過熱低減器−凝縮器(30)を含む。
【0046】
はじめは412.8°C(775°F)であり、200.5°C(393°F)に冷却される高温ガス流から出力を回収する典型的なケーススタディを実行した。この熱源から回収的な全熱量は673kWである。10°C(50°F)の十分な冷却水が利用できた。
【0047】
確立されたORC製造者が、この熱を水グリコール混合物に伝達するために排ガス熱交換器を設置することを提案した。図10に示すように、水グリコール混合物は、130.5°C(267°F)でORCボイラに進入し、79.4°C(175°F)で排出される。この手段によって、58kWの出力が回収可能であると推定された。図10のサイクルは、内燃機関(23)と、ジャケット冷却回路(25)と、ORCシステム(31)とを備える。ORCシステムは、給水加熱器−蒸発器(11)と、スクリュ式膨張機(21)と、凝縮器(13)と、給水ポンプ(28)とを備える。
【0048】
しかしながら、既知のシステムよりも高い温度、好ましくは約100°Cで水蒸気を凝縮すると、湿り蒸気サイクルから熱を排出し、さらに高い温度で図9に示すようなORCシステム(31)内で蒸気を蒸発させることが可能である。図9のサイクルは、排ガス熱交換器(32)を通過する排ガス(22)と、冷却回路(33)と、ORCシステム(31)とを備える。ORCシステムは、給水加熱器−蒸発器(11)と、膨張機(29)と、過熱低減器−凝縮器(30)と、給水ポンプ(28)とを備える。この手段によって、湿り蒸気およびORC構成要素の両方に現実的に達成可能な効率を考慮し、パイプ内での圧力損失を考慮すると、追加で85kWの出力を得ることが可能である。この結果、組み合わせ湿り蒸気ORCシステムから全体で142kWの出力が得られ、すなわちほぼ2.5倍になる。組み合わせサイクルの全体の熱効率は、約21%になる。
【0049】
この組み合わせサイクルのさらなる特徴は、単位出力当たりのコストが、排ガス熱交換器を含めて、ORCシステムよりも約20%小さいことである。これは以下の理由による。すなわち、追加の膨張機と給水ポンプが比較的安価である、排ガス熱の全体がORCシステムのみに供給される場合よりも熱の排出が小さくなるため組み合わせシステムのORC凝縮器が小さくなる、および、水蒸気の凝縮と有機蒸気の蒸発の両方の熱伝達係数が例外的に高いために、凝縮蒸気からの熱を有機作動流体に伝達する中間熱交換器が非常にコンパクトになるからである。
【0050】
今日、特に埋立地ガスから発電するために固定ガスエンジンが広く使用されている。効率を最大化するために、排ガスおよびジャケット冷却液の両方で排出された熱から出力を回収することができる。この場合に何が可能であるかの研究が典型的なガスエンジンに対してなされた。これは、GE Jenbacher J320GS−L.Lである。このエンジンは、1065kWの定格電気出力を有する。450°Cから150°Cへの冷却において排ガスからの回収可能な熱は543kWである。冷却液から周囲へ排出されなければならない熱は604kWであり、冷却液はジャケットを90°Cで出た後に70°Cで戻る。熱を出力に変換するために有機ランキンサイクル(ORC)システムを使用すると、二つの単純な構成が可能になる。第一の構成は、それぞれ図10および図11に示すように、冷却液および排ガスから熱を回収する別個のユニットを用いることである。
【0051】
図11のサイクルは、内燃機関(23)、ジャケット冷却回路(25)、冷却液熱交換器(34)、排ガス(22)およびORCシステム(31)を備え、ORCシステムは、給水加熱器(35)、蒸発器(36)、過熱機(37)、膨張機(29)、過熱低減器−凝縮器(30)、復熱器(38)および給水ポンプ(28)を備える。サイクル効率を最大化するために復熱過熱(recuperative superheat)サイクルが、示されている。
【0052】
第二の可能性は、図12に示すように、排ガスからの熱をジャケット冷却液に伝達し、その後回収された廃熱全体を単純ORCシステムに伝達することによって、排ガスからの熱を回収することである。図12のサイクルは、内燃機関(23)、ジャケット冷却液回路(25)、排ガス(22)、排ガス熱交換器(32)およびORCシステム(31)を備える。ORCシステムは、給水加熱器−蒸発器(11)、スクリュ式膨張機(21)、凝縮器(13)および給水ポンプ(28)を備える。
【0053】
さらなる可能性は、図13Cに示すように、約100°Cで凝縮し、ジャケット熱をも受け取る低温ORCシステム(40)に廃熱を供給する、排ガス熱を回収する湿り蒸気システム(39)を使用することである。湿り蒸気システムは、ボイラ(11)、蒸気膨張機(18)、蒸気凝縮器−ORC蒸発器(27)、給水ポンプ(10)およびライン(L)を備える。ORCシステムは、蒸気凝縮器−ORC蒸発器(27)、ORC膨張機(29)、過熱低減器−凝縮器(30)、給水ポンプ(28)および給水加熱器−蒸発器(41)を含む。
【0054】
この場合、二つの同様な有機サイクルが存在する。図13Aでは、膨張機に進入する蒸気は乾燥しており、それゆえ膨張された蒸気は、凝縮の開始前に過熱低減される必要がある。
【0055】
図13Bに示すサイクルでは、膨張機に進入する蒸気はわずかに湿っている。これは、スクリュ式膨張機(またはより小出力のスクロール式膨張機)を用いる場合のみ可能であり、過熱低減の必要性がなくなり、これによってORC効率が上昇する。
【0056】
廃熱出力回収システムからの熱が、イギリスの年間平均環境条件に対応する温度で周囲大気に最終的に排出されると仮定して、これらの全てのケースが分析された。
【0057】
4つ全てのケースにおいて、有機作動流体はR245faとした。これは、低凝縮温度の点でより好ましい流体であるので、n−ペンタンに優先して選択された。R245faはより安価であり、よりコンパクトな膨張機および凝縮器で済み、またボトミングサイクル効率が良好である。
【0058】
研究の結果が以下の表に示されている。
【0059】
【表2】

【0060】
水蒸気−有機の組み合わせの優位性は明白かつ圧倒的であり、その使用は、システムの全出力を32%上昇させることができる。
【0061】
スクリュ式膨張機の構成
既に述べたように、スクリュ式膨張機は、タービンよりもはるかに低い先端速度で回転する。したがって、図13に示すように、中間ギアボックスを必要とせずに、50/60Hzの発電機と直接結合するような設計が可能である。しかしながら、本発明の関心対象である応用形態のほとんどが、比較的低い出力に対するものであるため、単純なベルト駆動で膨張機を発電機に結合しベルトプーリのサイズを適切に選択することで、膨張機の動作速度を選択するときの柔軟性をより高めることができる。
【0062】
内燃機関の出力と効率を高めるためにそれらを使用する場合、さらなる可能性は、発電機の必要性をなくし、スクリュ式膨張機を内燃機関のメイン駆動シャフトに結合することである。
【0063】
スクリュ式膨張機は、タービンよりも作動範囲が制限されている。効率的かつ最適の結果であるとすると、膨張の圧力比が4:1を大きく超えないようにすべきである。本発明の場合、水蒸気の膨張のために15:1のオーダーの圧力比が必要であり、したがって二台の直列の膨張機からなる二段階の構成が必要になる。また、二つの段階をメイン内燃機関か、あるいは適切であれば発電機のいずれかに結合することができる。
【0064】
ORCボトミングサイクルに結合された湿り蒸気トッピングサイクルの場合、両方のユニットがスクリュ式膨張機を使用するが、図14Aおよび図14Bに示すように、三つのユニットの全てを共通のドライブに結合することができる。図14Aおよび図14Bでは、低圧の蒸気膨張機23に補給する高圧の2軸式蒸気膨張機22と、ORC膨張機24の全てが、ベルト25、26およびプーリで接続された出力軸を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
200°Cから700°Cの範囲の温度の熱源(A、22)から出力を生成する方法であって、
前記熱源からの熱でボイラ(11)内の水を加熱して乾き度が0.1から0.9(10%から90%)の湿り蒸気を生成するステップと、
前記湿り蒸気を膨張して容積式膨張機(21)内で出力を生成するステップと、
70°Cから120°Cの範囲の温度で膨張した蒸気を水に凝縮するステップと、
凝縮した水を前記ボイラに戻すステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記湿り蒸気の圧力が30barを越えないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蒸気膨張機(21)が2軸式またはスクロール式であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記膨張が少なくとも二つのステージで達成されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
有機ランキンサイクル(31)で作動する加圧有機流体を用いた熱交換によって前記膨張した蒸気が凝縮されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
加熱システム内の流体を用いた熱交換によって前記膨張した蒸気が凝縮され、これによって熱電併給システムを提供することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記熱源が、内燃機関(23)からの排ガス流(22)であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記内燃機関の冷却ジャケット(25)からの熱が、前記膨張した蒸気の凝縮からの熱に加えられることを特徴とする、請求項5または6に従属する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
熱源(A、22)と、
200°Cから700°Cの範囲の温度の前記熱源から熱を受け取り、それによって乾き度が0.1から0.9(10%から90%)の湿り蒸気を生成するように構成された蒸気ボイラ(11)と、
蒸気を膨張し、それによってさらなる機械力を生成する容積式蒸気膨張機(21)と、
70°Cから120°Cの温度で膨張した蒸気を水に凝縮するような大きさの凝縮器(13)と、
水を前記ボイラに戻す給水ポンプ(10)と、
を備える機械力生成装置。
【請求項10】
前記凝縮器(13)が空冷式の熱交換器であることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記凝縮器(13)が有機ランキンサイクル(31)発電機によって形成され追加出力を生成することを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記凝縮器(13)が加熱システムを循環する流体を加熱するヒータによって形成されることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項13】
内燃機関(22)の冷却ジャケット(25)が、有機ランキンサイクル発電機(31)のボイラにさらに熱を運ぶように接続されることを特徴とする請求項11または12に記載の装置。
【請求項14】
水(L)の供給が、ポンプの排出側から蒸気膨張機(18、21、29)のベアリングに導かれることを特徴とする請求項9ないし13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
内燃機関(23)からの排ガス(22)が前記熱源を形成することを特徴とする請求項9ないし14のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
前記熱源を提供する前記内燃機関(23)が車両の内燃機関であり、前記凝縮器(13)が膨張した蒸気を70°Cから120°Cで凝縮するような大きさであることを特徴とする請求項15に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14A】
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【図14B】
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【公表番号】特表2011−511209(P2011−511209A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545551(P2010−545551)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【国際出願番号】PCT/GB2009/000334
【国際公開番号】WO2009/098471
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(507403986)シティ ユニヴァーシティ (2)
【Fターム(参考)】