説明

中空固定軸減速機

【課題】軸方向の長さが短く、潤滑油漏れを防止し、製造コストが低減された、中空固定軸減速機を提供すること。
【解決手段】出力フランジ20は、下部ベアリング24の外周側に取付けられ、上部ベアリング46に回転自在に支持されているため、中空固定軸22は回転せず、ボルトによりハウジング40に固定されている。従って、中空固定軸の回転により発生する潤滑油漏れを根本的に防止することができるため、中空固定軸22の下部のオイルシールは不要となり、その分、中空固定軸22方向の長さが短くなる。出力フランジ20と上部ベアリング46には、旋回物を上部ベアリング46にねじ止めするためのねじ孔48a、48bが設けられている。ねじ孔48a、48bに取付用ボルトが挿入され、ねじ止めすることで旋回物を減速機10Aに取付けることができる。旋回物を外す際もボルトを緩めるだけでよく、旋回物の着脱が容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力軸が垂直に配設された中空出力軸減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車式減速機では、摩擦の低減と冷却のため、ギアボックスには一定量の潤滑油が封入される。従って、その潤滑油が、外部に漏れ出ないことが要請される。
【0003】
図4は、従来の中空出力軸減速機の縦断面図である。
この中空出力軸減速機100は三段式減速機であり、モータ110の出力軸101は入力軸102に連結されて、一段目ベベルピニオン103から一段目ベベルギア104へ、第1中間軸105を介して二段目ヘリカルピニオン106から二段目ヘリカルギア107へ、さらに、第2中間軸108を介して、三段目ピニオン109から出力ギア120へと回転が伝えられる。中空出力軸122は、この出力ギア120に固定され、軸受124に回転自在に支持されている。
【0004】
オイルシール112、126は、それぞれ、入力軸102側と中空出力軸122側に設けられている。入力軸102側のオイルシール112は、モータ110の出力軸101に配置される。オイルシール126は、ハウジング130の下部において、中空出力軸122を取り囲むように配置された、シール支持部材128と中空出力軸122の間に設けられている。
【0005】
中空出力軸減速機100では、オイルシール112、126によって、減速機からの潤滑油漏れを防止しているが、ゴム材の経年劣化や軸回転部を支えることで生じる摩擦による劣化により、オイルシールが液体封止機能を失った場合は、潤滑油漏れが生じてしまう。
また、減速機の取付部材が、ハウジング130の下部に設けられているため、中空出力軸122方向の長さが大きくなり、コンパクトでない、という問題がある。
さらに、中空出力軸122の内部の空洞には、電線やパイプ等の配管を通す場合があるが、中空出力軸122の回転により、軸122と電線等の配管が擦れ合うことで、電線等の配管に傷がつくことがある。
この傷を防止するために、軸と配管の間に低摩擦材のシートを挿入したり、軸の内面を滑らかにする等の加工が要請され、製造コストや工数がかかる、という問題がある。
【0006】
中空出力軸減速機100に、回転搬送機器の円盤状のターンテーブル又は搬送用ロボットの駆動部等の旋回物を取付ける場合は、例えば、特許文献1に示すような締結装置を使用していた。
この装置を使用して中空出力軸122に旋回物を締結する場合、複数の加圧ボルトをねじ込む力の大きさが等しくなければならないが、全ての加圧ボルトを同じ大きさの力で締めることは難しく、一部のボルトのねじ込みが緩いことが原因で、不具合が生じることがあった。
また、旋回物を外した後は、ボルト用のねじ孔にボルトを挿入する手間がある上、長期間使用後に旋回物を外す場合は、ボルトがねじ孔に固着することがあり、外すのに非常に時間がかかるという問題があった。
【0007】
一方、中空出力軸減速機100に、旋回物を取付けるもう一つの方法として、キーを使用するものがある。この方法では、ねじでキーを固定する際、ねじの先端部がキーや旋回物に食い込んだ場合、キーや旋回物に突起ができてしまう。この突起がキー溝等に引っかかると、中空出力軸122から旋回物を取外すのに、時間がかかる。
そこで、特許文献2と3に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実登第2513443号公報
【特許文献2】特開2006−149139号公報
【特許文献3】特開2008−39161号公報
【0009】
特許文献2には、中空部を固定の中空シャフトと、低速動作する出力フランジで構成され、軸受を2個組合わせることにより、高速軸を一箇所で片持ち支持する、中空アクチュエータが開示されている。特許文献2の発明によれば、このような構造とすることで、反負荷側のブラケットが不要になるため、軸方向の長さが短く、コンパクトな中空アクチュエータを提供できる、とされている。
特許文献3には、歯車式減速機の内部に、オイルシールを介して上部と下部の二つの空間を設けた減速機が開示されている。特許文献3の発明によれば、上部空間内に封入される潤滑剤のレベルを下部空間に封入される潤滑剤のレベルよりも高く設定し、下部空間に封入される潤滑剤のレベルを下部空間と減速機の外部を仕切る最下部のオイルシールの位置以下に設定することにより、潤滑剤漏れが発生しないようにできる、とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献2の発明は、潤滑油漏れの防止についての考慮がない。
また、特許文献3の発明は、空間やオイルシールを設けることで、軸方向の長さが長くなり、減速機全体が大きくなる上、オイルシールが相当数必要なため、製造コストがかかる、という問題がある。
さらに、両特許文献ともに、中空出力軸と旋回物を取付ける際の従来技術の課題の解決方法については、開示していない。
【0011】
そこで、本発明は、軸方向の長さが短く、潤滑油漏れを防止し、製造コストが低減された、中空出力軸減速機の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ハウジング内に潤滑油が封入され、中空出力軸が垂直に配設された減速機において、
前記中空出力軸が、前記ハウジングに固定され、該中空出力軸の上部にはシール材が、外周には下部ベアリングがそれぞれ配設され、
前記下部ベアリングの外周側に取付けられた出力フランジが、前記ハウジングに固定された上部ベアリングに回転自在に支持されていることを特徴とする中空出力軸減速機、及び、
ハウジング内に潤滑油が封入され、中空出力軸が垂直に配設された減速機において、
前記中空出力軸が、前記ハウジングに固定され、該中空出力軸の上部にはシール材が、外周には下部ベアリングがそれぞれ配設され、
前記下部ベアリングの外周側に位置する出力ギアに取付けられた出力フランジが、前記ハウジングに固定された上部ベアリングに回転自在に支持されていることを特徴とする中空出力軸減速機により前記課題を解決した。
なお、請求項3のように、中空出力軸とハウジングの間に液状シール剤を塗布すれば、潤滑油漏れ防止効果をより高めることができる。
また、請求項4のように、出力フランジの上部と上部ベアリングの内周側に、旋回物をねじ止めするためのねじ孔を設けるのが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、中空出力軸がハウジングに固定され、回転しないようにされていることにより、下記の効果を奏する。
1.中空出力軸の回転による潤滑油漏れを根本から防止できるため、中空出力軸とハウジングの間にシール剤を塗布するだけで、十分な潤滑油漏れ防止対策となり、中空出力軸の下部にオイルシールを設ける必要がない。
2.中空出力軸の内部の空洞に配管を通しても、配管に傷がつくのを最小限に抑えることができるため、傷を防止するための低摩擦材のシートや軸内面の加工処理が不要となる。
また、出力フランジ上部と上部ベアリングにねじ孔が設けられ、旋回物は出力フランジに、ねじ止めにより連結されるため、減速機の中空出力軸連結部に旋回物を容易に着脱させることができる。そして、摩擦式締結具やキー等の特別な部材が不要であるため、製造コストの削減につながる。
さらに、中空出力軸の下部のオイルシールが不要のため、中空出力軸方向の長さを短くし、減速機のコンパクト化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態である中空出力軸減速機の縦断面図。
【図2】(a)はベースに本発明の減速機を取付けた上面図、(b)は図2(a)を矢印A方向から見た図。
【図3】本発明の具体的実施形態の縦断面図。
【図4】従来の中空出力軸減速機の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。但し、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0016】
まず、図1の中空出力軸減速機10A(以下、「減速機10A」と略称することがある。)について説明する。
この中空出力軸減速機10Aは三段式減速機であり、モータ出力軸11は入力軸12に連結されて、一段目ベベルピニオン13から一段目ベベルギア14へ、第1中間軸15を介して二段目ヘリカルピニオン16から二段目ヘリカルギア17へ、さらに、第2中間軸18を介して、三段目ピニオン19から出力フランジ20へと回転が伝えられる。
オイルシール33は、アダプタ部32の入力軸31に配置されている。
【0017】
出力フランジ20は、下部ベアリング24の外周側に取付けられ、ハウジング40に固定された上部ベアリング46に回転自在に支持されているため、中空出力軸22を回転させる必要がない。従って、中空出力軸22は、ボルト42aと42bにより、ハウジング40に固定すればよい。これにより、中空出力軸の回転により発生する潤滑油漏れを根本的に防止することができるため、中空出力軸22の下部のオイルシールは不要となる。また、潤滑油漏れ防止効果をより高めるために、中空出力軸22とハウジング40の間に、液状シール剤44を塗布するとよい。液状シール剤の具体例としては、液体パッキンや液状ガスケット、シールボンド等がある。
【0018】
このように、本発明の減速機10Aは、下部ベアリング24の外周に出力フランジ20が取付けられ、中空出力軸22の下部のオイルシールがないため、その分、従来の減速機10Aよりも、中空出力軸22方向の長さが短くなる。すなわち、h<h’となり(図1、4参照)、減速機のコンパクト化を実現できる。
【0019】
出力フランジ20と上部ベアリング46には、旋回物を上部ベアリング46にねじ止めするためのねじ孔48a、48bが設けられている。ねじ孔48a、48bに取付用ボルトが挿入されることで、旋回物を減速機10Aに取付けることができる。旋回物を外す際も、ボルトを緩めるだけでよいため、従来のキー連結等に比べ、旋回物の着脱が容易である。
【0020】
旋回物の着脱に用いられるボルトは、一般のボルトよりも強度が高いものを使用するのがよい。高強度のボルトを使用すれば、締付トルクが大きくなり、ボルトの軸力が増す。これにより、旋回物と出力フランジ20の接触面の摩擦力が大きくなる。さらに、出力フランジ20と上部ベアリング46の径の大きさに比例して、ねじ孔48a、48bを大きくすれば、ボルトも高強度で大きいものを使用することができるため、旋回物と出力フランジ20の接触面の摩擦力をより向上させることができる。旋回物へのトルクの容量は、下記の式で求められる。
トルク容量=旋回物と出力フランジ20の接触面の摩擦力×ボルトの半径
従って、ねじ孔48a、48bと螺合されるボルトの大きさを調整することで、各減速機に必要なトルク容量を得られるため、特別な締結装置等は不要である。
【0021】
中空出力軸22の上部には、シール部材50が配設される。減速機10Aの稼働中は、出力フランジ20は回転するが、中空出力軸22自体は固定されている。従って、出力フランジ20と中空出力軸22の接触を避けるため、隙間が設けられているが、その隙間から粉塵が混入したり、減速機10A内部の潤滑油が漏れないようにする必要がある。そこで、出力フランジ20と中空出力軸22の隙間を封じるシール部材50を設け、外部の粉塵の混入や減速機10Aからの潤滑油漏れを防止する。
シール部材としては、Vリングを用いるのが好適である。
【0022】
図2(a)は、本発明の中空出力軸減速機10Aが、ベース60に取付けられた場合の上面図で、(b)は、(a)を矢印方向から見た図である。図2(b)に示すように、減速機10Aのハウジング40の側面は、互いに平行となっているため、ハウジング40の側面をベース60で挟んで、取付部材により固定することで、減速機10Aとベース60を一体化することができる。従って、従来のように、ベースを取付けるために、ハウジングの下部に取付部材を設置することがないため、減速機10Aの軸方向の長さをさらに短くすることができる。
【0023】
次に、図3を参照して、本発明の具体的実施形態を説明する。
本実施形態では、出力フランジ20の上部にボルト70a、70b、上部ベアリング46の内輪側にボルト70cを配設し、ボルト70a、70b、70cにより減速機10Bに旋回物72が連結される。図3の旋回物72は、昇降装置を有する回転搬送機器のフレームである。旋回物72として取付けられるのは、一般的には、回転搬送機器で、例えば、円盤状のターンテーブル、スポット溶接の駆動割出し部等である。
【0024】
また、減速機10Bは、出力フランジ20とは別に出力ギア21を設け、出力フランジ20は、出力ギア21に取付けられ、上部ベアリング46に回転自在に支持されている。この場合でも、出力ギア21に出力フランジ20が取付けられているため、三段目ピニオン19から出力ギア21に伝えられた回転により、出力フランジ20が回転する。
【0025】
中空出力軸22の内部の空洞には、電線やパイプ等の配管74を通すことができる。本発明では、中空出力軸22は回転せずに固定されているため、回転により、中空出力軸22が配管74を擦ることがなく、配管74に傷がつかない。
【0026】
なお、当然のことながら、本発明の減速機は具体的に図示した三段式に限定されない。
【符号の説明】
【0027】
10A、10B、100:中空出力軸減速機
20: 出力フランジ
21: 出力ギア
22: 中空出力軸
24: 下部ベアリング
40: ハウジング
44: 液状シール剤
46: 上部ベアリング
48a、48b: 螺子孔
50: シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に潤滑油が封入され、中空出力軸が垂直に配設された減速機において、
前記中空出力軸が、前記ハウジングに固定され、該中空出力軸の上部にはシール材が、外周には下部ベアリングがそれぞれ配設され、
前記下部ベアリングの外周側に取付けられた出力フランジが、前記ハウジングに固定された上部ベアリングに回転自在に支持されていることを特徴とする、
中空出力軸減速機。
【請求項2】
ハウジング内に潤滑油が封入され、中空出力軸が垂直に配設された減速機において、
前記中空出力軸が、前記ハウジングに固定され、該中空出力軸の上部にはシール材が、外周には下部ベアリングがそれぞれ配設され、
前記下部ベアリングの外周側に位置する出力ギアに取付けられた出力フランジが、前記ハウジングに固定された上部ベアリングに回転自在に支持されていることを特徴とする、
中空出力軸減速機。
【請求項3】
前記中空出力軸とハウジングの間に液状シール剤が塗布されている、請求項1又は2の中空出力軸減速機。
【請求項4】
前記出力フランジの上部と前記上部ベアリングの内周側に、旋回物をねじ止めするためのねじ孔が設けられている、請求項1から3いずれかの中空出力軸減速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−7628(P2012−7628A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141253(P2010−141253)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【特許番号】特許第4615621号(P4615621)
【特許公報発行日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000150800)株式会社ツバキエマソン (102)
【Fターム(参考)】